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平成22年6月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第577号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日平成22年5月6日
判決
主文
1被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成21年6月19日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用はこれを10分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担
とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,9834万7240円及びこれに対する平成21年6
月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,情を知らないまま被告による脱税行為に加担させられたこ
とにより逮捕・勾留されて損害を被り,また,被告に対して1000万円を期
限の定めなく貸し付けたと主張して,被告に対し,不法行為による損害賠償請
求権及び消費貸借契約による貸金返還請求権に基づき,損害合計8834万7
240円及び貸付金1000万円の合計9834万7240円及びこれに対す
る訴状送達の日の翌日である平成21年6月12日から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。
1争いのない事実等
以下の事実は,当事者間に争いがないか,括弧内に記載の証拠及び弁論の全
趣旨により容易に認定することができる。
(1)原告は,昭和41年から平成16年3月の定年退職までの38年間にわ
たり,a県警察官として警察学校の教官及び柔道師範の立場で同県警の警察
官に対し指導を行い,退職後の平成16年4月からは,かねてより知人の
紹介で知り合っていた被告が経営する警備会社である株式会社Aに入社し,
それ以降,同社において月給30万円で警備員の採用面接及び社員教育等
の職務を行ってきた。
(2)被告による脱税行為(以下「本件脱税行為」という。)の枠組み
被告は,被告が経営する会社(以下「被告の会社」という。)の所得を
除外する等の方法により捻出した現金を,同社からBの経営する会社の銀
行口座宛てに一旦振り込み,その後,Bは,その預金の払戻しを受けて現
金化し,そのうちから手数料として振込金額の10パーセント程度を差し
引き,その余の現金を被告に環流していた。被告は,環流の方法として,
払い戻された現金をB,その関係者及び原告に運搬させた。
(3)ア被告は,原告に対し,bのBの事務所からcまで「荷物」を運搬するこ
とを依頼した(この「荷物」は上記(2)のとおり現金であったところ,原
告は書類と思っていた旨主張しており,「荷物」が現金であること,そ
の現金が被告の会社の所得の一部であること及び現金の運搬の目的が税
金の申告を免れるためのものであることを,原告が当初から認識してい
たか否かについては,後記のとおり当事者間に争いがある。)。
イ平成17年5月ころ,原告は,被告の上記依頼により,bの駅頭でBの
会社の社員であるCから「荷物」の入った旅行用カバンを預かり,被告
から指示されたc駅まで運搬したところ,c駅では被告のグループ会社の
一つである株式会社Dの社員のEが待ち受けていた。そこで,原告は,
上記カバンをEに渡し,その足でaの自宅に戻った。
(4)原告は,被告から,次回はいつころcに行くのかと尋ねられたので,同年
12月ころと答えたところ,再度,bからeの被告の事務所まで「荷物」を
運んで欲しいと依頼され,同月5日,原告は二男宅を訪問した後,bのBの
事務所に赴いて「荷物」の入った布袋を預かり,fの被告の事務所までこれ
を運び,被告の妹の夫であるFに渡すことになった。
(5)(4)と同様の経緯で,同月27日,原告はbのBの事務所でたばこのGの
マークが入った紙袋(ビニールコーティングしたもの)を預かり,これをf
の被告の事務所のFまで届けた。
(6)平成18年2月2日ころ,被告は,原告に対し,「荷物」の入った布製
旅行カバンをfの被告の事務所に運ぶことを依頼した。
(7)原告は,平成18年2月2日の運搬の依頼を受けた際,被告から前回運
んでもらった現金のうち二,三万円ほど足りなかったと言われたのが気に
なり,上記布製旅行カバンを預かる際,bのBの事務所にいたBに対してそ
の旨を伝え,「中身を確認してくれ」と述べて中身を確認させた後に上記
カバンを預かった。
(8)原告は,平成19年12月27日,Bに対して1000万円(以下「本
件1000万円」という。)を交付した。
(9)平成21年1月23日,Hにおいて,少なくとも原告,被告及びBが参
加した会合があった。
(10)同年2月10日,被告の甥であるIから原告に対し,2000万円(以
下「本件2000万円」という。)の交付があった。
(11)被告は,同日,逮捕された。
(12)ア原告は,同月17日,Jに要旨以下の内容のKの被疑事実(以下「本
件被疑事実」という。)で逮捕された。
「被疑者は,被告らと共謀の上,株式会社Lの業務に関し,売上の一
部を除外するとともに架空の業務委託費等を計上するなどの方法により,
平成17年5月期及び平成18年5月期の2事業年度の所得合計9億7
600万円を秘匿し,法人税合計約2億9200万円を免れたものであ
る(いずれも期限内過少申告ほ税犯)。」
イ原告は,逮捕された後,平成21年3月10日に釈放されるまで,g拘
置所に勾留された。
2争点及びこれに関する当事者の主張
(1)被告による不法行為の成否(「荷物」が現金であること,その現金が被
告の会社の所得の一部であること及び現金の運搬の目的が税金の申告を免
れるためのものであることを,原告が当初から認識していたか。)
(原告の主張)
ア被告は,Aの経営者として,同社に勤務する従業員の職務遂行行為が
法律違反に問われることのないよう常日頃から職務を適法かつ妥当なも
のとして保持するとともに,正常な社会の一員として,自らは当然のこ
ととして,第三者に対し,自らの故意又は過失により違法な行為をさせ,
もしくは,犯罪に巻き込むことのないよう自らを律する注意義務を負っ
ていたものというべきところ,被告は,情を知らない原告をして,適法
かつ妥当な職務の遂行と誤信させて違法な現金の運搬をさせ,その結果,
原告はKの共犯として逮捕・勾留されるに至り,甚大かつ多大な損害を
被ったのであるから,被告は,原告の被った損害を賠償する責任を負う。
イ(ア)原告は,平成18年2月2日の4回目の運搬の依頼を受けた際,被
告から前回運んでもらった現金のうち二,三万円ほど足りなかったと
言われ,前回運搬させられた「荷物」が実は書類ではなく現金である
ことを初めて知った。原告は,極めて腹立たしく許し難いことと考え,
被告に対し「何だ,わしに現金を運ばせたのか。」と詰問するととも
に,「今後現金を運搬することなど一切断る。」と言ったところ,被
告は,現金であることを黙って原告に運搬させたことについて陳謝し,
「他に適当な者がいないので何とかお願いしたい。」と必死な形相で
懇願した。原告としては,現金を運ぶなど全く意にそまず,断固拒否
したいと思ったのであるが,被告の余りにも真剣な依頼に対し,Aよ
り給与として月額30万円の支給を受けていることから断り難かった
こと及び被告が原告に依頼した動機は原告が柔道家であり少々の暴漢
に遭遇してもその襲撃をかわすことができると考えたからであろうと
推測し得たことから,意に反することではあったがやむなくこれを引
き受けた。原告は,不承不承ではあったが,その後四,五回にわたり,
現金入りカバンをbから主としてgまで運ぶ結果となった。
(イ)しかし,原告は,被告が原告をしてbからg等に運ばせていた現金が
どのような性質のものであるか及びどのように使われるものであるか
については被告から何の説明も受けておらず,また,原告もこれを知
ろうとも思わなかったので,被告に対し一切の質問をすることなく,
ただ黙ってこれを運搬した。原告は,本件被疑事実で逮捕された際,
身に覚えがなかった。また,平成20年2月8日午前9時ころに国税
局の係官2名が原告宅に来るまでは,事実として本件脱税行為が被告
により行われていたことすら知らなかった。
(被告の主張)
ア被告が運搬を依頼した「荷物」の中身が現金であること,その現金が被
告の会社の所得のうちの一部であること及び現金の運搬の目的が税金の申
告を免れるためのものであることを原告は十分承知していた。
イ(ア)現金運びの仕事は原告が当初から納得した上での作業であった。す
なわち,そもそも,Bを被告に対して紹介したのは原告であって,そ
の紹介の理由も,脱税の手段としての偽の領収書を作成してくれる協
力者としてであったのだから,被告の依頼によりBの元から運ぶ「荷
物」が所得隠しの現金であることは原告は十分承知していた。
(イ)Bは,被告との約束で,被告の脱税行為に協力する(協力の内容は
偽の領収証の作成など)の見返りとして,隠蔽した所得の10パーセ
ントを取得していたところ,原告がBから現金の運搬を頼まれる度ご
とに,Bが金額の精算書(金額及びそのうちからBが手数料として受
け取る金額等の明細を記載した書面)を原告に交付していたのである
から,原告は運搬している「荷物」が現金であること,その金額及び
その性格が被告の所得隠しで得た現金であることは明確に認識してい
た。
(2)原告の被った損害及びその数額
(原告の主張)
ア積極損害合計934万7240円
原告のJへの出頭,弁護人との打合せ及び原告の拘置所からの出所時の
出迎えのために要した費用であり,その内訳は以下のとおりである。
(ア)平成21年2月17日分
原告の飛行機代(a・g間片道)
3万5700円
(イ)平成21年2月18日及び同月19日分
a原告の妻及び長女の飛行機代(a・g間往復)
合計14万2800円
b原告の妻及び長女のリムジンバス代(h空港・g駅間往復)
合計3600円
c原告の妻及び長女のタクシー代(g・拘置所間往復)
合計5690円
d原告の妻及び長女の宿泊費
合計1万4000円
e原告の妻及び長女の食事代
合計2800円
fコーヒー店における会議費
合計4050円
(ウ)平成21年3月10日及び同月11日分
a原告の長男の飛行機代(g・a間往復)
合計7万1400円
b原告の飛行機代(g・a間片道)
3万5700円
c原告の長男の電車代(h空港・i間片道)
890円
d原告及び長男の電車代(i・j間片道)
合計900円
e原告及び長男の宿泊費
合計1万4000円
f食事代
合計1万5710円
(エ)弁護士費用(刑事弁護・損害賠償請求着手金)
合計900万円
イ逸失利益900万円
原告が逮捕・勾留されたことを受けて,a医学技術専門学校柔道整復師
科との顧問契約が解除されたため,原告は月額15万円で70歳までとし
て,900万円(15万円/月×12か月×5年)の損害を被った。
ウ名誉毀損による損害及び慰謝料7000万円
(ア)原告が逮捕された当初,被告側が被告の脱税行為に関しあたかも原
告が主導的役割を果たしていたかのごときデマを意図的に各マスメデ
ィアに対して流したために,各マスメディアはそのような論調の記事
を書き,あるいは放映し,事情を知らない世間一般の人たちに対し,
原告が極めて重大かつ悪質な犯罪の主犯であるかのごとき印象を植え
つけた。その結果,原告本人のみならず,その家族にとっても筆舌に
尽くし難く,かつ堪え難い屈辱と精神的苦痛を与えた。
(イ)原告は,被告の不法行為により,22日間にわたりg拘置所に拘置さ
れ,身体の自由を奪われたばかりでなく,極めて重大な精神的苦痛を
与えられるとともに,取り返すことのできない程に名誉の毀損を受け
た。これらは原告にとって算定不能なほど甚大な損害であるが,あえ
て金銭に換算すると少なく見積もっても7000万円を下らない。
(被告の主張)
アすべて否認し,争う。
イ被告が脱税行為で逮捕されたのは平成21年2月10日であり,被告は
その逮捕前も逮捕後も,マスコミとの接触は一切していない。
ウ逮捕・勾留の必要性については捜査機関が判断することであって被告の
関与することではないものの,原告は本件被疑事実に関しては幇助的立場
にあり,少なくとも所得隠しに協力した立場にあったことは明らかである
から,逮捕・勾留されるだけの嫌疑を有していたことは明らかである。
(3)被告に対する貸金返還請求権の存否
(原告の主張)
平成19年12月25日,被告より電話があり,「Bに年末のモチ代を要
求されたが,自分の銀行口座は国税に押さえられて手持ちがないので100
0万円を貸して欲しい。」と頼まれ,原告は,自らの預金及び妻女の預貯金
をかき集めて1000万円(本件1000万円)を工面し,同月27日,B
に交付してこれを被告に貸し付けた。なお,弁済期についてはその時特に定
めることはしなかったが,原告としては,被告の状態が一段落したところで
速やかに返してもらえるものと考えていた。被告は,2億円の保釈保証金を
支払って保釈されたことからも明らかなように,上記借入金の返済能力は十
分にあるものと認められるから,原告は本訴においてその返済を求めるもの
である。
(被告の主張)
ア被告の脱税行為が捜査機関の捜査の対象になってきたことを知ったBは,
従前被告が脱税への協力の見返りとしてBに支払っていた金銭のほかに,
さらに1000万円の金銭を要求してきた。被告としては,Bはそもそも
原告が紹介してきた人物であって,毎回の脱税への協力に対する報酬を支
払っていたので,さらにそのほかに1000万円もの多額の金銭を支払う
必要はないし,少なくともそのような問題は原告とBで話し合って解決す
べき事柄と考えて,原告にBから1000万円を要求されている旨を電話
で話したのである。
イ被告としては,原告がいつBに本件1000万円を用立てたかは知らな
いが,この問題を解決するために,平成21年1月23日,原告,被告及
びBの3人はk県l市mにあるHで会合をもった。そこでは,Bの求めた1
000万円の問題のほか,原告からも,弁護士費用がかかるなど,被告に
対して経済的負担を求める発言があり,最終的に誰がどのような負担をす
るかはともかく,その1月23日の時点で金銭的に余裕があり,金のやり
くりができるのは被告しかいなかったため,ひとまず被告が原告に対して
2000万円を預けるという話となり,平成21年2月10日(被告が逮
捕された日),被告は原告に対し2000万円(本件2000万円)を交
付した。
ウしたがって,仮に被告がBの要求した1000万円について負担するこ
とになっても,それは原告が被告から預託された本件2000万円から精
算すればすむことであって,原告が被告に貸付金債権を有しているとの原
告の主張には理由がない。逆に,被告としては,本件2000万円から本
件1000万円を差し引いた残余の1000万円を原告から返還してもら
える立場にある。
第3当裁判所の判断
1争点(3)(被告に対する貸金返還請求権の存否)について
(1)前記争いのない事実等((8)),証拠(甲5,原告本人尋問の結果(以下
「原告本人」という。)及び被告本人尋問の結果(以下「被告本人」とい
う。)によれば,平成19年の末ころにBから被告に対して1000万円の
支払を要求する電話があったこと,被告は1000万円を用意することがで
きなかったことから原告に立替えを依頼したこと,被告の依頼を受けた原告
は妻女の預貯金をかき集めて1000万円を工面したこと,原告は同年12
月27日に本件1000万円をBに支払ったこと,原告と被告との間では本
件1000万円の精算については何らの取り決めもなされなかったことがそ
れぞれ認められ,これらの事実からすれば,そのころ,原告が被告に対して
1000万円を期限の定めなく貸し付けたと認めるのが相当である。
(2)そして,期限の定めのない消費貸借契約の借主は,催告後相当期間が経
過してから遅滞に陥るところ(民法412条3項,591条1項参照),
原告が被告に対して上記貸金の返還を求める内容の本件訴訟の訴状が被告
に送達されたのは,平成21年6月11日であるから,被告は同日から1
週間経過後である同月19日から遅滞に陥るというべきである。したがっ
て,原告は,被告に対し,上記貸金に対する同月19日から支払済みまで
の遅延損害金を請求することができる。
(3)以上のことから,原告の被告に対する貸金返還請求は,1000万円及
びこれに対する平成21年6月19日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
2争点(1)(被告による不法行為の成否(「荷物」が現金であること,その現
金が被告の会社の所得の一部であること及び現金の運搬の目的が税金の申告を
免れるためのものであることを,原告が当初から認識していたか。))につい

(1)ア原告は,「荷物」が現金であることを知った時期については,平成1
8年2月2日の4回目の運搬の依頼を受けた際に,被告からその前に運
んだ現金が足りなかったことの指摘を受けた時であると主張し,その現
金がどのような性質のものであるかを知った時期については,平成21
年7月15日付け準備書面(原告(二))において,平成20年2月8
日に国税局の係官が原告宅に来た時であると主張し,原告提出に係る平
成21年10月26日付けの陳述書(甲5)にもこれらの主張に沿う記
載がある。
イしかしながら,原告は,本件訴訟の主尋問では,平成18年11月に国
税局の係官が来たときに本件脱税行為のことを初めて知ったと供述し(原
告本人39項ないし46項),本件訴訟の反対尋問では,平成18年2月
に現金を運んだ次の回くらい,具体的には平成18年2月中旬ころに被告
を問いつめたところ,被告が脱税のことを漏らしたと供述し(原告本人1
30項ないし133項,253項ないし256項),さらに,原告が平成
21年3月8日に本件被疑事実により検察官の取調べを受けた際に,検察
官の面前における供述を録取した書面(以下「検察官面前調書」という。
乙6)によれば,原告が検察官に対し,平成16年11月ころ,被告から,
被告の会社の儲けを公表上少なくするために,架空の取引を装って金を裏
に回し,その金を被告に戻してくれる人を紹介してくれるように依頼され
たことから,知人のBを被告に紹介したところ,本件脱税行為の枠組みが
できあがり,その後,平成17年に,被告が原告に対し,上記枠組みによ
りBが裏に回した現金を,Bから受け取って運搬することを依頼してきた
旨供述していることが認められる。このように,「荷物」である現金の性
質を原告が知った時期に関する原告の主張及び供述は,本件被疑事実によ
る取調べの時点,本件訴訟において準備書面を作成した時点,本件訴訟の
主尋問の時点,同訴訟の反対尋問の時点で変遷を繰り返しているところ,
その理由について原告は,本件被疑事実による取調べの時点での供述につ
いては,勾留を延長されたくなかったことや,老眼鏡がなくて調書を読む
ことができず,気持ちが動転していたことから,真実ではないにもかかわ
らず言われるままに調書に署名・押印したと供述し(原告本人55項,5
6項,172項,173項),本件訴訟の反対尋問の時点での供述につい
ては,動揺しており,誘導されたためにそのような供述をしてしまった旨
供述する(原告本人298項ないし302項)。しかしながら,原告本人
(220項ないし226項)によれば,原告が本件被疑事実による取調べ
を受けていた際,原告には弁護人が選任されており,原告がその弁護人に
対して取調べの状況を詳細に報告していたことが認められるから,原告が,
真実に反する内容の検察官面前調書について,その内容に間違いがないと
して署名・押印せざるを得ない状況にあったと認めることは困難であるし,
また,本件訴訟の反対尋問の際に,原告に対して誘導がなされたり,原告
が特に動揺していたなどということを認めることもできないから,結局,
上記の主張及び供述の変遷については,原告から何ら合理的な説明がなさ
れていないというほかない。そうすると,原告の主張及びこれに沿う内容
の陳述書の記載を容易に信用することはできないというべきである。
(2)原告は,本件訴訟の反対尋問において,「荷物」である現金の性質を知
ったのは,平成18年2月中旬ころに被告を問いつめた際に,被告が脱税
のことを漏らしたからであると供述し(上記(1)イ参照),さらに,その後
も断ることができずに,悪いことと分かりながらも現金の運搬を続けてい
たと供述する(原告本人135項ないし138項)。しかしながら,通常
の規範意識を有する者であれば,犯罪行為に加担させられていることに気
付いたのであれば,脅迫されたなどの特段の事情のない限り,気付いた時
点で犯罪行為への加担をやめるのが通常である。この点について,原告は,
会社の顧問をしていたので断ることができなかったと説明するところ(原
告本人137項),この説明が被告の会社から顧問料をもらっていたから
被告の依頼を断ることができなかったという趣旨であれば(原告本人37
項参照),原告は当時被告の会社以外に少なくとも4社の顧問を務めて月
額70万円の顧問料をもらっており(原告本人230項),特に金銭的に
困窮していたという事情も認められないから,説得的でないと言わざるを
得ない。結局,原告は,上記特段の事情について何ら合理的な説明をする
ことができていないのであって,このような原告の供述内容からすれば,
当初は脱税に加担させられているとは知らなかったが途中から気付いた旨
の原告の供述は信用することができないというべきである。
(3)そして,前記争いのない事実等((1))記載のとおり,原告が38年間に
わたり警察官であったことからすれば,例えその職務の大半が警察学校の
教官や柔道師範であったとしても,検察官面前調書が刑事裁判において重
要な意味をもつことは十分に理解できていたはずであるから,原告が,検
察官面前調書に真実に反する内容が記載されているにもかかわらず,その
内容に間違いがないとして署名・押印するなどということはおよそ考えら
れず(なお,原告が署名・押印せざるを得ない状況にあったとは認められ
ないことは上記(1)イ記載のとおりである。),これに反する内容の原告の
供述を信用することはできない。したがって,原告の検察官面前調書の信
用性は高いというべきである。
(4)また,前記認定事実(第3の1(1))のとおり,原告が被告のために妻女
の預貯金をかき集めてまでBに支払う1000万円を用立てて立替払をし
たことが認められるが,原告と被告とBとの間の本件脱税行為に関する共
犯関係を抜きにして,原告が被告のためにそこまでして1000万円を用
立てる理由は考えられないというべきである。したがって,原告が被告の
ためにBに支払う1000万円を用立てて立替払したことからも,原告と
被告とBとの共犯関係を推認することができるというべきである。
(5)以上のことから,原告の主張を採用することはできず,逆に,検察官面
前調書記載のとおり,原告は当初から被告の脱税行為を十分に認識し,こ
れに加担していたと認めるのが相当である。
そうすると,原告の被告に対する不法行為による損害賠償請求は,その
前提を欠くから理由がないというべきである。
3結論
以上によれば,原告の請求は,被告に対し,貸付金1000万円及びこれに
対する平成21年6月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度でこれを認容し,
その余の請求は理由がないからこれをいずれも棄却することとし,訴訟費用の
負担につき民事訴訟法64条本文,61条を,仮執行の宣言につき同法259
条1項を適用して,主文のとおり判決する。
大分地方裁判所民事第2部
裁判官児玉禎治

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