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平成15年(行ケ)第249号 審決取消請求事件(平成15年9月17日口頭弁
論終結)
判    決
    原    告      特定非営利活動法人全日本健康自然食品協会
   同訴訟代理人弁理士   三 嶋 景 治
   被   告     特許庁長官 今井康夫
    同指定代理人      金 子 尚 人
    同           伊 藤 三 男
    同           涌 井 幸 一
   主    文
   1 原告の請求を棄却する。
   2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の請求
 1 特許庁が不服2001-15069号事件について平成15年4月22日に
した審決を取り消す。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2前提となる事実(争いのない事実)
1特許庁における手続の経緯
 原告は、平成12年4月13日、「管理食養士」の文字(標準文字によ
る。)を書してなり、指定役務を商標法施行規則別表(以下「別表」という。)第
41類「健康自然食品や栄養補助食品についての知識の指導・助言・教授」(以下
「本件役務」という。)とする商標(以下「本願商標」という。)について、商標
登録出願(商願2000-39190号)をしたが、拒絶査定を受けたので、平成
13年9月3日、これに対する不服の審判の請求をした。
 特許庁は、同請求を不服2001-15069号事件として審理した上、平
成15年4月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本
件審決」という。)をし、その謄本は、同年5月19日、原告に送達された。
 2 本件審決の理由 
 本件審決は、別紙審決書の写し(以下「審決書」という。)記載のとおり、
本願商標が、商標法4条1項7号(公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある
商標)に該当するとして、これを登録することはできないとしたものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 本件審決は、本願商標が、「管理栄養士」と誤認混同されるおそれが認めら
れないにもかかわらず、これを肯定した上、本願商標が公序良俗に反するおそれが
ある商標に該当すると誤って判断した(取消事由)ものであるから、違法として取
り消されるべきである。
 1 末尾に「士」の付された名称の意義等
(1) 本件審決は、「末尾に「士」の付された語の通常の意味は、・・・「一定
の資格・役割をもった者」、「特別の資格・職業の人」などといったものであり、
その用語例として、「弁護士」、「栄養士」・・・等が挙げられている・・・一般
国民は、末尾に「士」の付された名称に接した場合、一定の国家資格を付与された
者を表していると理解することが多い」(甲1第1頁末行~2頁28行)と認定判
断する。
  しかし、末尾に「士」が付く語は、必ずしも「資格者」だけを意味しな
い。日常会話や生活において「士」の付く語を使用した場合、大多数の国民が、一
定の国家資格を付与された者として理解するという根拠はない。例えば、「武士」
「力士」「紳士」「藩士」「騎士」「同士」「三銃士」等の語を、国家資格者であ
ると認識する者は皆無である。また、「士」自体を末尾に付することが、法律で禁
止され、あるいはその使用が制限されている事実はない。
  実際に、本願商標と同様に末尾に「士」を有してなる商標が、本件役務と
同じ第41類において、「和裁士」(第3132108号)、「保険管理士」(第
3317231号)、「健康管理士」(第4284656号)、「日本綜合医学会
食養指導士」(第4348217号)、「建物鑑定士」(第4568281号)等
多数登録され使用されている。このような事情から判断すると、語尾部の「士」か
らは、単純に「国家資格者」ではなく、「もののふ、さむらい、学徳を修め敬重す
べき地位にある人」等の意味合いが認識されるものとみるのが合理的である。そし
て、このような先行登録例の存在は、本件審決の認定判断を否定するものであり、
本願商標が国家資格制度の秩序を害するおれがあるものと認められない根拠となる
ものである。
(2) また、原告名義で商標「食養士」が、第4063471号(別表第5
類)、第4190625号(同第42類)、第4289547号(同第29類)、
第4289548号(同第30類)、第4289549号(同第31類)、第42
89551号(同第32類)、第4507416号(同第16類)として登録が認
められており、各指定商品及び役務に使用され、一般取引者需要者に提供されてい
るが、これらの登録商標は、国家資格を認識看取させるものではないと認定判断さ
れたと推察できる。本件役務において、本願商標が「国家資格」と理解している者
が多いとするなら、前記各商標が何故に登録されたのか、極めて不合理である。
  そして、特許庁が、このような先行登録例を無視するのであれば、審査基
準に基づき登録された従前の登録例を指針とする一般国民の信頼を、自ら破棄する
こととなり、特許庁自らが資格制度の秩序を乱し、公共の利益を害する結果となる
から、到底、首肯し得ない。
 2 「管理栄養士」の活動
 本件審決は、「厚生労働省所管の資格制度として「管理栄養士」というもの
があり・・・その活動範囲の一つである病院において、食餌療法等を行う「食養
科」「食養内科」と称する診療科を設けている実情がある。そうすると、本願商標
である「管理食養士」に接する需要者、取引者は、公的職業資格である「管理栄養
士」のほかに、当該医療に関連した公的職業資格があるかの如く誤信される場合が
あることは否定できない」(甲1第2頁30行~3頁7行)と判断している。
 しかし、そもそも「管理栄養士」の限られたその活動範囲を知る者はそれほ
ど多くはなく、その活動範囲が一般に宣伝広告され普及している特段の事情は認め
られない。しかも、一般の病院には、当該診療科が必ずあるかのように実情を指摘
されているが、その根拠はなく、一般大多数の病院に当該診療科があることは知ら
れていない。
 これに対し、本願商標の「管理食養士」は、「栄養」のみを問題とするので
はなく、食の安全・食材の環境等についての知識、情報等について指導・助言・教
授を行うものである。
 したがって、本願商標が、本件役務である「健康自然食品や栄養補助食品に
ついての知識の指導・助言・教授」に使用されたとしても、「管理栄養士」、ある
いは当該医療に関連した者であるかのように誤信されるおそれは、全く認められな
いものである。なお、栄養士法6条2項は、「管理栄養士」又はこれに類似す
る名称の使用を一般的に禁止するものではない。
3 原告による本願商標の使用
  原告は、その名称に示すように、「健康自然食品」を取り扱う業者の集まり
であり、平成14年3月7日に「特定非営利活動法人」の資格を得たものである。
  そして、原告は、その法人の「目的」である、「健全で伝統的な食生活を通
して、健康で豊かな社会を望む者に対して、それら食材の生産される環境の保全を
目的とし、正しい食の思想と実践の普及や情報の提供を行い、それらを通して国民
の健康や環境の保全に寄与する」ための事業として、①情報提供、②講演会、③人
材の育成を行うために、「管理食養士」の商標を採択して出願し、権利確保を図っ
たものであり、実際に1999年1月より現在まで、「養成講座」を開催し人材育
成の端緒としている。原告は、近い将来、法整備と主務官庁による許認可を得た
上、「食養士」「管理食養士」の名称での運用を予定しているものである。
  そうすると、仮に、本願商標を本件役務を指定役務として商標登録すること
が、社会公共の利益を図る見地から、「穏当ではない」とされると、原告が独自に
創造採択した商標「管理食養士」について、本件役務における第三者の自由無差
別、無責任な使用を結果的に許すこととなり、公益的な非営利法人である原告の管
理が及ばず、かえって、本件審決が指摘するように「国家資格制度」の秩序を乱
し、社会公共の利益を害する結果を助長することになる。
 4 商標としての誤認のおそれ等
   本願商標の「食養」の文字は、原告が創造し採択した造語であり、特定の意
味合いが認識されるものではなく、必ずしも「食事」と「栄養」の両者を表現する
文字又は言葉でもない。もちろん、一般日常会話で「食事」と「栄養」とを表現す
るものとして多用されている文字又は言葉でもなく、特定商品取引業界において
「食事」と「栄養」とを表現する言葉として、一般取引者需要者において使用され
ている事実も認められない。また、商標の類否判断において、語頭の「食」と
「栄」との相異は、明確に認識看取することができる。
   したがって、「管理食養士」と「管理栄養士」とを対比すると、一般取引者
需要者は、その外観、称呼、観念において誤認混同するおそれは認められず、容易
に区別されるものである。
第4 被告の反論の要点
   本件審決の認定・判断は正当であり、本件審決に原告主張の違法はない。
 1 末尾に「士」の付された名称の意義等
 原告主張のとおり、「武士」、「力士」、「紳士」等のように末尾に「士」
が付く語が、必ずしも国家資格者であると一般の国民が認識しないことを否定する
ものではないが、本件審決で述べた事情(甲1第1頁末行~2頁26行)の下で
は、一般の国民は、末尾に「士」の付された名称に接した場合、一定の国家資格を
付与された者を表していると理解することが多いというべきである。
 2 「管理栄養士」の活動
(1) 国家資格である「管理栄養士」が一般の国民の間で知られていることは、
栄養士法1条2項に規定されたその業務内容からみて首肯し得るばかりでなく、例
えば、栄養士、管理栄養士を毎年多数にわたり育成している専門学校や大学・短期大
学を紹介した書籍・ホームページ等においてその内容を紹介している事実、病院の
職員募集の新聞折り込みちらしにおいて、「栄養士」とともに「管理栄養士」の募
集が掲載されている事実、新聞における通信講座の広告において、「管理栄養士」
を紹介し、国家資格であることも掲載されている事実、一般新聞記事においても、
「管理栄養士」の職業が紹介されている事実、その他、「管理栄養士」のキーワー
ドで、新聞記事を検索すると、朝日新聞919件、読売新聞734件、毎日新聞8
59件(平成15年7月18日検索実行)がヒットし、「管理栄養士」についての
記述が頻繁に掲載されている事実からみても、容易に推認することができる。
  また、多数の病院において、「食養科」、「食養内科」を設置しているこ
とが、インターネットの各ホームページで確認できるものであり、このうち幾つか
の病院では、当該「食養科」に「管理栄養士」を配置していることも確認できる。
  なお、栄養士法では、栄養士・管理栄養士又はこれらに類似する名称を用
いて、同法1条所定の業務を行うことを禁止しており(同法6条)、その罰則につ
いても規定されている(同法8条3項、4項)。
(2) 原告は、語尾に「士」を有してなる商標の登録例及び原告所有の「食養
士」の登録例を挙げ、本件審決の不合理を主張するが、特許庁では、「国家資格等
を表す又は国家資格等と誤認を生ずるおそれのある商標(「××士」「××博士」
等)」の商標登録出願について、平成12年8月に取扱いを定め、これを商標審査
便覧に掲載し、公表しているところである。そして、国家資格等と一見紛らわし
く、一般の国民に誤認を生じさせるおそれのある商標は、国家資格に対する一般の
国民の信頼性を損なうものであり、社会公共の利益に反するものとして、その出願
を拒絶することとする上記特許庁の取扱いは、今日の我が国の取引社会の実情及び
需要者の利益の保護を併せ考えれば、極めて妥当なものである。
  本件審決は、我が国の取引社会の実情等を踏まえ、本願商標を商標法4条
1項7号に該当すると認定判断したものであり、その判断過程において、過去の登
録例に拘束されるものではないから、過去の登録例の存在をもって、本件審決を不
合理とする原告の主張は失当である。
3 原告による本願商標の使用
 原告が「健康自然食品」を取り扱う業者の集まりであって、「特定非営利活
動法人」の資格を得たものであること及びその法人の「目的」、並びにこの目的に
沿って原告主張のような活動を行っていることは認める。しかし、一般の国民にと
って「管理食養士」の語自体馴染みの薄いものであり、まして、食養士や管理食養
士がどのような活動をしているか、「管理栄養士」、「栄養士」とどのように違う
のかなどについての知識を有するものとはいえず、例え一部の者が知っているとし
ても、それは国民全体からすればわずかであり、周知度において「管理栄養士」、
「栄養士」と比較にならない相違があるというべきである。
4 商標としての誤認のおそれ等
 「食養」の語は、一般の国民の間で親しまれた語であるとはいい難いが、例
えば、国語辞典において「適切な食物を選んで摂取し、病気を治療すること。食養
生。食餌療法。」(乙22)と記載され、また、食品や健康に関する辞典におい
て、「食餌によって健康を保持増進すること。これが理論を研究して実際に講ずる
学を食養学という。」等(乙23~25)と記載されている。さらに、一般新聞に
おいても、随時、「食養(食事)」、「食養篇」等と記載がなされ、決して原告の
造語とはいえない。
  一方、「栄養」の語は、「生物が外界から物質を摂取し代謝してエネルギー
を得、またこれを同化して生長すること。また、その摂取する物質。」(乙28)
を意味するものであって、前記した「栄養士」、あるいは「栄養価」、「栄養失
調」などのように日常的に使用され、一般の国民の間でよく知られている語であ
る。
  そうすると、「食養」と「栄養」の語は、いずれも「(人間についてみれ
ば)食物を摂取して人体に作用する」という点において極めて近似しているものと
いえる。
  しかも、一般の国民の間において、国家資格である「管理栄養士」はよく知
られているのに対し、「管理食養士」は馴染みが薄いものであり、加えて、「管理
食養士」と「管理栄養士」の文字は、いずれも5文字よりなるばかりでなく、語頭
部分及び語尾部分の「管理」、「養士」の各文字を共通にし、わずかに看者の注意
を惹きにくい中間において、「食」と「栄」の文字の差異を有するにすぎないか
ら、外観においても、相紛らわしいものである。
第5 当裁判所の判断
 1 末尾に「士」の付された名称の意義等について
(1) 原告は、本件審決が、「末尾に「士」の付された語の通常の意味
は、・・・「一定の資格・役割をもった者」、「特別の資格・職業の人」などとい
ったものであり、その用語例として、「弁護士」、「栄養士」・・・等が挙げられ
ている・・・一般国民は、末尾に「士」の付された名称に接した場合、一定の国家
資格を付与された者を表していると理解することが多い」と認定判断した点につい
て、末尾に「士」が付く語は、必ずしも「資格者」だけを意味せず、日常会話や生
活において「士」の付く語を使用した場合、大多数の国民が、一定の国家資格を付
与された者として理解するという根拠はないと主張する。
  しかしながら、本件審決は、末尾に「士」が付く語が、必ず「資格者」だ
けを意味すると述べるものではないから、この点に関する原告の主張は、本件審決
を曲解するものであって採用の余地はない。
  また、本件審決は、「末尾に「士」の付された名称の中で、一般国民にと
って接する機会が多く、一般国民にとって知られている度合の大きいものの多く
は、上記「弁護士」、「栄養士」、「公認会計士」、「学士」をはじめ、税理士、
建築士、不動産鑑定士、土地家屋調査士、司法書士、行政書士など国家資格に係る
ものであり・・・、しかも、その状態が古くから続いてきていることは、当審おい
て顕著である。また、末尾に「士」が付された名称のうち、国家資格に係るもの
は、国家が、公共の福祉その他政策上の目的のために、国民の職業選択の自由を制
限してでも、一定の能力を有すると判定された者に限って一定の地位ないし権限を
付与する必要があると認めて法令をもってそのように定めたものであり、そのため
に、国家資格を伴う地位ないし権限は、必然的に対世的かつ排他的なものとなる。
これに対して、民間資格は、上記のような必要に基づくものでも、法令に根拠を有
するものでもなく、対世的かつ排他的な地位ないし権限の付与を伴うものでもな
い。このように、国家資格と民間資格とでは、一般国民に対して現実に果たしてい
る役割の重要性において比較にならない相違がある。」(甲1第2頁8~26行)
と認定判断しているところ、この説示は、末尾に「士」が付された名称には、国家
資格に係るものと民間資格に係るものがあることを前提とした上で、法令等に基づ
いて付与される国家資格は、社会的に重要な役割を果たしているものであり、
「士」が付された名称のうち一般国民に広く認識されているものの多くが国家資格
であることを示すものであり、正当な指摘と解される。
  したがって、このような事情の下に、「一般国民は、末尾に「士」の付さ
れた名称に接した場合、一定の国家資格を付与された者を表していると理解するこ
とが多いとするのが相当である。」(甲1第2頁27~29行)と判断したことも
正当であり、この点に関する原告の上記主張も採用することはできない。
(2) また、原告は、本願商標と同様に末尾に「士」を有してなる商標が、本件
役務と同一の第41類において多数登録されているから、本願商標が国家資格制度
の秩序を害するおれがあると認められない根拠となると主張する。
  しかしながら、本件審決は、本願商標が、単に末尾に「士」を有している
ことにより、公序良俗に反するおそれがある商標に該当すると判断したものではな
く、重要な国家資格の1つである「管理栄養士」の存在を前提として、本願商標が
これと誤信されることなどを理由に商標法4条1項7号に該当すると認定判断した
ものである(この認定判断が正当であることは、後記説示のとおりである。)か
ら、原告の上記主張は、その前提において誤解があり、これを採用する余地はな
い。
(3) さらに、原告は、原告名義で商標「食養士」が、別表第5類、第16類、
第29類、第30類、第31類、第32類及び第42類を指定商品又は指定役務と
しても登録が認められているにもかかわらず、本願商標が登録を認められないのは
不合理であると主張する。
  本願商標は、「管理食養士」であるから、これと相違する「食養士」が、
本件役務と異なる指定商品又は指定役務において商標登録されたことが、本願商標
を本件役務を指定役務として登録することの可否に直ちに影響するものではない。
したがって、原告の上記主張は、本件役務を指定役務とする本願商標の登録が許さ
れないことへの適切な反論とはいい難いが、本願商標と「食養士」とは類似する点
も認められることから、念のため同主張について検討する。
  ある商標が特定の指定商品又は指定役務で登録される一方で、同一の商標
が、異なる指定商品又は指定役務の分野で公序良俗に反するおそれがある商標に該
当すると判断され、その登録が拒絶されることは、拒絶の理由が当該指定商品又は
指定役務に関連するものでない限り、不統一な取扱いというほかない(なお、原告
の指摘する「食養士」が、特定の指定商品又は指定役務の分野で公序良俗に反する
おそれがある商標に該当すると判断されたことが、登録が認められた他の指定商品
又は指定役務と関連する理由であるか否かは明らかでない。)。しかしながら、商
標の登録に当たってより一層重要なことは、当該商標が、実際に公序良俗に反する
おそれがあるか否かであり、仮に、同一の商標が他の指定商品又は指定役務におい
て既に登録されているとしても、そのことを理由に、当該商標が有する反社会性・
反公益性を無視して、公序良俗に反するおそれがないと判断することは、到底、許
されることではない。
  したがって、原告の上記主張は、採用することができず、本願商標が公序
良俗に反するおそれがあるか否かを進んで判断することとする。
 2 「管理栄養士」の活動について
   原告は、「管理栄養士」の活動範囲を知る者はそれほど多くはなく、その活
動範囲が一般に宣伝広告され普及している特段の事情は認められず、一般の大多数
の病院に当該診療科があることは知られていないと主張する。
   しかしながら、「管理栄養士」の社会的役割やその職務の内容等について
は、毎年多くの入学者を募集する大学・短期大学・専門学校を紹介した多数の書籍や
ホームページにおいて、将来取得できる国家資格の1つとして掲載されており(乙
1ないし4)、また、病院職員の求人募集の広告や資格取得のための通信講座の広
告でも、「管理栄養士」の資格が頻繁に掲載されている(乙5ないし9)。そのほ
か、一般の新聞記事においても、「管理栄養士」やその職務の内容が頻繁に紹介さ
れている(乙10ないし14)。これらの事実からみて、「管理栄養士」の存在及
びその活動内容は、一般に宣伝広告され広く普及しているものと認められる。
   さらに、ホームページを介して検索すると、千葉市立海浜病院、東京都済生
会中央病院、市立宇和島病院(愛媛県宇和島市)、中電病院(広島市)、社会福祉
法人多摩済生病院(東京都)及び有隣病院(東京都)において「食養科」を、松井
病院(東京都)及び小野木医院(千葉県市原市)において「食養内科」を、それぞ
れ設置しており、このうち千葉市立海浜病院及び中電病院においては、当該「食養
科」に「管理栄養士」を配置していることが認められる(乙15~21)。このこ
とからみて、一般の病院において、通常の内科・外科というほど周知ではないとし
ても、「食養科」及び「食養内科」がある程度普及しているものと解するのが相当
である。
 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
 3 原告による本願商標の使用について
 原告が、「健康自然食品」を取り扱う業者の集まりであって、「特定非営利
活動法人」の資格を得たものであること、その法人の「目的」である、「健全で伝
統的な食生活を通して、健康で豊かな社会を望む者に対して、それら食材の生産さ
れる環境の保全を目的とし、正しい食の思想と実践の普及や情報の提供を行い、そ
れらを通して国民の健康や環境の保全に寄与すること」に沿って事業を遂行するた
め、「管理食養士」を採択して商標出願し、権利確保を図ったものであることは、
いずれも当事者間に争いがない。
 しかしながら、原告及びその活動内容において、上記のように私的な利益の
追求を目的としない面があるとしても、出願しようとする商標自体が公序良俗に反
するおそれがある場合に、その登録が許されないことはいうまでもない。
 原告は、本願商標の登録が許されないと、第三者の自由無差別、無責任な使
用を結果的に許すこととなり、公益的な非営利法人である原告の管理が及ばず、か
えって、本件審決が指摘するように国家資格制度の秩序を乱し、社会公共の利益を
害する結果を助長すると主張する。
 しかしながら、栄養士法においては、「管理栄養士とは、厚生労働大臣の免
許を受けて、管理栄養士の名称を用いて、傷病者に対する療養のため必要な栄養の
指導、個人の身体の状況、栄養状態等に応じた高度の専門的知識及び技術を要する
健康の保持増進のための栄養の指導並びに特定多数人に対して継続的に食事を供給
する施設における利用者の身体の状況、栄養状態、利用の状況等に応じた特別の配
慮を必要とする給食管理及びこれらの施設に対する栄養改善上必要な指導等を行う
ことを業とする者をいう。」(同法1条2項)、「管理栄養士でなければ、管理栄
養士又はこれに類似する名称を用いて第1条第2項に規定する業務を行ってはなら
ない。」(同法6条2項)と規定されると同時に、その罰則についても規定(同法
8条4項)されている。したがって、後記説示のとおり「管理栄養士」に類似する
「管理食養士」の名称を使用することが、上記の規定に抵触するような場合には、
原告であれ第三者であれ上記規定により規制されることになるから、原告に対し本
願商標の登録を認めないとしても、原告が主張するような、国家資格制度の秩序を
乱し社会公共の利益を害する結果を招来するものではないというべきである。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
4 商標としての誤認のおそれ等について
 (1) 国家資格である「管理栄養士」と本願商標の「管理食養士」とが類似する
ものであるか否かを検討する。
   まず、「栄養」の語は、「広辞苑第5版」(株式会社岩波書店1998年
11月11日発行、乙28)に、「生物が外界から物質を摂取し代謝してエネルギ
ーを得、またこれを同化して生長すること。また、その摂取する物質。」と記載さ
れており、人間に関してみれば、外界から食物などを介してエネルギーや成長のた
めの物質を人体に摂取することを意味するものとして、日常的に使用され、一般の
国民の間でよく知られているものと認められる。
   これに対し、「食養」の語は、「日本語大辞典第二版」(株式会社講談社
1995年7月3日発行、乙22)に、「食養 適切な食物を選んで摂取し、病気
を治療すること。食養生。食餌療法。」と、「飲食事典」(株式会社平凡社、昭和
53年12月1日発行、乙23)に、「食餌によって健康を保持・増進すること。
これが理論を研究して実際に講ずる学を食養学という。(以下、その内容が詳細に
説明されている。)」と、「食品大事典」(株式会社真珠書院昭和45年10月1
5日発行、乙24)に、「食養 食餌で疾病を養生する、つまり治療することをい
う。現在いう食餌療法のことである。」と、「エスカ 食品・栄養・健康用語辞
典」(同文書院昭和63年4月2日発行、乙25)に、「食養 日常の食物でから
だを養うことをいう.栄養の意味に近いが,栄養は栄養素を中心とした,近代栄養
学がその論理的基盤となるが,食養は食物自体の人体への影響を経験的に整理した
東洋医学で用いることが多い.」と、それぞれ記載されている。
   したがって、「食養」の語は、「栄養」ほど親しまれた語であるとはいい
難いが、適切な食物を選んで摂取することにより、健康を保持し、病気を治療する
ことを意味しており、食養生と同義であって、食物などから有用な物質等を摂取し
て人体に有効に作用するという点で、上記認定の栄養の意味とも近似するものと認
められる。
   原告は、「食養」の文字が、原告が創造し採択した造語であり、特定の意
味合いが認識されるものではなく、「食事」と「栄養」の両者を表現する文字又は
言葉でもないと主張するが、この主張が誤りであることは、前記認定に照らして明
らかである。
(2) 次に、「管理栄養士」と「管理食養士」の語を対比してみるに、両者はい
ずれも、漢字5文字より構成されており、語頭部分の「管理」及び語末尾部分の
「士」の各文字を共通にし、比較的看者の注意を惹きにくい中間部分の「栄養」と
「食養」においても、「養」の文字を共通にし、わずかに「食」と「栄」の文字が
相違するにすぎないから、外観において、相紛らわしいものといわざるを得ない。
  また、称呼についても、「カンリエイヨウシ」と「カンリショクヨウシ」
であって、同じく、語頭部分の「カンリ」及び語末部分の「ヨウシ」が共通であ
り、注意を惹きにくい中間部分の「エイ」と「ショク」が相違するにすぎないか
ら、類似するものといえる。
  さらに、「管理栄養士」から、栄養を管理する国家資格という観念が生じ
るのに対し、「管理食養士」からは、食養を管理する一定の資格との観念を生じ、
栄養と食養が、前示のとおり、近似する意味合いを有することを考慮すると、両者
は、観念においても類似するものといわなければならない。
(3) 以上のとおり、「管理栄養士」と「管理食養士」とは、その外観、称呼、
観念において類似するものであって、相紛らわしく、他方、「管理栄養士」が、前
記認定のとおり、一般に宣伝広告され広く普及した国家資格として、その存在及び
活動内容が国民によく知られていることを考慮すると、本願商標である「管理食養
士」に接する需要者、取引者が、これを国家資格である「管理栄養士」に関連した
新たな公的職業資格であるかのように誤信する場合があることは否定できないか
ら、このような商標は、国家資格に対する一般国民の信頼性を損なうものであり、
社会公共の利益に反するものとして、その出願を拒絶すべきことは明らかといわな
ければならない。
  したがって、本願商標が、商標法4条1項7号(公の秩序又は善良の風俗
を害するおそれがある商標)に該当するとした本件審決の判断に誤りはない。
 5 結論
   以上のとおり、原告主張の取消事由には理由がなく、その他本件審決にこれ
を取り消すべき瑕疵は認められない。
   よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のと
おり判決する。
  東京高等裁判所第3民事部
    裁判長裁判官  北  山  元  章
裁判官  清  水     節
           
          裁判官  沖中  康  人

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