弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 申立
(原告)
被告が原告に対し昭和五一年五月三一日付でなした別紙物件目録記載の土地につい
ての固定資産評価審査決定を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求めた。
(被告)
主文と同旨の判決を求めた。
第二 主張
(原告)
請求原因
一 原告は別紙物件目録記載の各土地(以下、本件土地という)を所有している。
二 被告は昭和五一年五月三一日付で原告に対し、本件土地についての固定資産評
価審査決定(以下、本件決定という)をなした。
本件決定により、稲沢市長のなした本件土地の評価額は別紙「土地評価額等表」の
評価額欄記載のとおりと確定し、また本件土地に対する固定資産税および都市計画
税の合計額は同別紙の課税額欄記載のとおり金七万九、一一五円となることになつ
た。
三 ところで、本件土地は従前からの賃貸農地であり、小作料金は一〇アール当り
金二、六〇四円以内と法定されているものである。そのため、本件土地についての
原告の収益額は右法定小作料から算定した金二、六二八円を超えることができな
い。
四 従つて、本件土地に対する昭和五一年度の右課税額は土地収益額を大巾に超え
る(約三〇倍)不合理な違法課税となつている。
五 以上のとおり、本件決定は、本件土地が小作料の法定された賃貸農地であるこ
とを全く無視した違法なものであるから、その取消を求める。
(被告)
請求原因に対する認否
一 請求原因第一項の事実は認める。
二 同第二項の事実のうち、本件土地の固定資産税額および都市計画税額が別紙
「土地評価額等表」の右各税額欄記載のとおりであるほか、その余の事実は認め
る。
三 同第三項の事実のうち、本件土地が賃貸農地であること、および農地が昭和四
五年九月三〇日以前より継続して賃貸している場合は小作料が原告主張の金額に制
限されていることは認める。
四 同第四、五項の主張は争う。
被告の主張
一 本件土地の固定資産評価額決定の根拠および算定方法は次のとおりである。
1 本件土地の評価は地方税法三八八条一項により自治大臣の定めた固定資産評価
基準(昭和三八年自治省告示第一五八号、最終改正昭和五〇年一二月二二日同省告
示第二五二号。以下、単に「評価基準」という。)に準拠したものである。
本件土地は地方税法附則一九条の二第一項に規定する市街化区域農地であるから、
前記「評価基準」第一章第二節の二(市街化区域農地)により、その評価について
は、沿接する道路の状況、その他宅地としての利用上の便等からみて、本件土地と
その状況が類似する宅地の価額を基準として求めた価額から、本件土地を宅地に転
用する場合において通常必要と認められる造成費に相当する額を控除した価額によ
つて、その価額を求めることとなる。
2 基準とすべき宅地の価額は、「評価基準」第一章第三節(宅地)により、主と
して市街地的形態を形成する地域における宅地について適用する市街地宅地評価法
(同節二(一))により、次のとおり算定した。
(一) 一六ブロツク四番の土地について
右土地の沿接街路の路線価を一八、〇〇〇点と付設し、団地計算法(同章別表3)
により、奥行価格逓減割合法(同表3)を適用し、右土地が住宅地区に属し、奥行
が二四・五四五メートルであるので、同表附表1による奥行価格逓減率〇・九九を
右路線価に乗じた一七、八二〇を平方メートル当り評点数とし、これに地積六二
四・七九平方メートルを乗じた一一、一三三、七五七点が右土地の基準とすべき宅
地の評点である。
しかるところ、同章第三節三1により、稲沢市長は、愛知県知事の指示した宅地の
指示平均価額一平方メートル当り九、二二九円に総地積九、一〇九、三〇一平方メ
ートルを乗じ、総評点八四、〇六九、四二〇、〇〇〇で除した結果に基づき、評点
一点当りの価額を一円としたので、右土地の基準とすべき宅地の価額は一一、一三
三、七五七円である。
(二) 三六の二ブロツク一〇番
右土地の沿接街路の付設路線価は一七、〇〇〇点であり、画地計算法により右路線
価を補正すべき要素はないので、路線価を平方メートル当り評点数とし、地積一七
六・七六を乗じた三、〇〇四、九二〇点を右(一)と同様一点当り一円に換算し、
三、〇〇四、九二〇円が右土地の基準とすべき宅地の価額である。
(三) 二一の一ブロツク二一番
右土地の沿接街路の付設路線価は二〇、〇〇〇点であり、前記(一)と同様画地計
算法により奥行価格逓減割合法を適用し、右土地が商業地区に属し奥行が二二・〇
九八メートルあるので、前記附表1による奥行価格逓減率〇・九八を右路線価に乗
じた一九、六〇〇を平方メートル当り評点数とし、これに地積二〇、八二六平方メ
ートルを乗じた四、〇八一、八九六点を前記(一)同様一点当り一円で換算し、結
局四、〇八一、八九六円が右土地の基準とすべき宅地の価額である。
3 次に、稲沢市において本件土地の如き平垣な畑を宅地に造成するには一平方メ
ートル当り一、二〇〇円の費用を要すると認められるので、右単価に本件各土地の
地積を乗じた金額を前項(一)(二)(三)において求めた各基準宅地価額から、
それぞれ控除した額が別紙「土地評価額等表」の評価額欄記載の本件各土地の評価
額となつたものである。
4 なお、「評価基準」中には、原告が主張するような農地法所定小作料額を参酌
すべき規定はなく、本件土地の評価額決定に当り、この点を考慮しなかつたとして
も何ら違法ではない。
二 本件土地に対する昭和五一年度の課税額は、次のとおり算定される。
1 固定資産税
(一) 前記一の第二項(一)の土地については、前記評価額の二分の一に〇・四
に乗じた額を課税標準とし、税率(百分の一・四)を乗ずる。
(二) 同(二)および同(三)の土地については、前記各評価額の二分の一に
〇・七を乗じた額を課税標準とし、税率(百分の一・四)を乗ずる。
2 都市計画税
(一) 前項(一)の土地については、前記評価額に〇・四を乗じた額を課税標準
とし、税率(百分の〇・二)を乗ずる。
(二) 前項(二)の各土地については、前記各評価額に〇・七を乗じた額を課税
標準とし、税率(百分の〇・二)を乗ずる。
3 但し、前記一の第二項(一)、(二)の土地については、地方税法附則二九条
の五第一項、稲沢市税条例附則一三条の四第一、二項、稲沢市都市計画条例附則五
項が適用され、所有者の申告により引続き三年以上農地として保全することが適当
であると認められて税額が減ぜられている(同(三)の土地は、一団の農地として
の地積が〇・一五ヘクタール未満であるため、地法税法施行令附則一四条の五第一
号により前記各規定の適用を受けない)。
その結果、本件土地の税額は別紙「土地評価額等表」の固定資産税額欄、都市計画
税額欄各記載のとおりである。
(原告)
原告の認否と主張
一 本件土地が市街化区域農地であること、被告主張の「評価基準」による評価方
法によるときは、本件土地の評価額、固定資産税額、都市計画税額が被告主張額ど
おりとなることは争わない。
二 しかしながら、被告主張の本件土地の評価は、以下に述べるように違法であ
る。
1 固定資産の価値は、その資産を社会的にみて最も有効適切な方法により利用す
る場合の価値により定まるものである。ところで、本件土地は、市街化区域内にあ
るため、通常は宅地として使用することができ、また宅地として利用することが適
当な土地である筈ではあるが、現在賃貸耕作地となつているために農地法の適用を
受け、知事の許可が得られない限り宅地として利用することができず、知事の許可
は耕作者の同意がない限り許可されない。しかし、耕作者の同意が得られない現
在、本件土地は宅地として使用することが不可能である。
従つて、本件土地は宅地としての利用不可能な純然たる農地としての価値しか存し
ないことが明白であるのに、本件決定はこの点を無視した誤りがある。
2 仮に、被告主張の「類似宅地の地価マイナス宅地造成費」の原則によつて評価
するとしても、本件土地は賃貸農地であるため、宅地造成費のほかに、本件土地の
価格の六割二分にも相当する価値を有する耕作権を排除するための費用が必要であ
る。しかるに、右耕作権排除の費用を何ら算入しない評価は明らかに失当である。
3 土地所有者の通常収益以上の課税額となる土地評価は、課税の本旨に反し、財
産権の不当な侵奪となるもので違法である。所得の七割五分以上の課税は、所得
税、相続税等に比べて不公平な課税となる。従つて、本件土地の如き賃貸農地は、
その固定資産税、都市計画税合計額が土地収益額(小作料統制額)の七割五分を越
えないように評価しなければならない。しかるに、土地収益を上廻る課税額となる
ように評価額を定めたことは、明らかに違法である。
4 なお、被告は、土地の評価は借地権、小作権その他の制限物権を含めての評価
であると主張する。このような評価の仕方は、土地に対する課税は所有権者、借地
権者、小作権者個々に課税すべきところ、課税手続簡素化の目的で、右各権利者の
代表として所有権者に一括賦課し、これを賃貸料に包含して所有権者以外の権利者
に対する税を課するものである。従つて、右評価方法は、賃貸料に課税額を算入で
きる土地に対しては適法な評価方法でありえても、本件土地のように、小作料統制
額に服さなければならない土地においては、右課税相当額を賃貸料に包含する措置
をとることができず、小作権者に対する課税分も所有権者に賦課される結果とな
り、不当・不公平な課税評価となる。
(被告)
右主張に対する反論
一 地方税法三四一条五号にいう「適正な時価」とは、特殊な条件を捨象し、正常
な条件のもとに成立する取引価格をいうものと解され、従つて、各個の土地につ
き、借地権、小作権その他の制限物権等の設定があり、現実の取引の場合にその存
在が価格に影響を及ぼす(いわゆる借地権引き価格)ことがあつても、それらは一
切顧慮されないのである(「評価基準」第一章第一節三)。
原告は、本件土地が賃貸農地であつて、収益が制限されているのであるから、これ
を考慮しない評価は違法であると主張するが、次に述べるとおり固定資産税等の本
質からみて、右主張は理由がない。
1 土地に対する固定資産税、都市計画税は、その本質において土地の所有という
事実に対して課税される財産課税であつて、土地より生ずる収益に対して課税され
る所得課税ではない。個々の所有者が現実に土地から収益を得ているか否か、収益
の実際の帰属が何人にあるかを問わず、賦課期日における所有者を納税義務者と
し、ただ例外的に質権または長期の地上権が設定された場合に限り、所有権の行使
が完全に排除されたものとみなして物権者を納税義務者としているのみである。
2 固定資産税、都市計画税の右性質からして、その課税標準たる価格(「適正な
時価」)は正常な条件のもとに成立する価格、すなわちその物自体の客観的価格で
あつて、所有者が自ら使用収益するか、あるいは他物権、賃借権等を設定している
か等の主観的事情に左右されるものでないことは当然である。前記の例外的に他物
権者が納税義務者となる場合であつても、課税標準たる価格はやはり右にいう適正
な時価、すなわち更地価格であつて、物権の存在を前提とする取引価格ではない。
3 もし、「適正な時価」が他物権、賃借権等の存在をも考慮すべきものとすれ
ば、評価事務が極めて繁雑化するのみならず、いわゆる借地権割合に相当する部分
については課税がなされないことになり、かえつて納税者間に不公平を生ずる結果
となる。
二 結局、固定資産税、都市計画税は使用収益の実態如何を問わず、土地所有の事
実につき直接賦課されるものと解すべきである。しかるときは、もし原告主張のよ
うに、本件土地が賃貸中であり、小作料統制のため賃貸による収益が税額に満たな
い結果を生ずるとしても、問題とすべきはむしろ小作料統制の適否であつて、課税
またはその前提にすぎない評価を争うのは失当である。
なお、地方税法自体が、右両税額が小作料を超える事態を生ずることを予想してい
ることは、同法附則二九条の四の文理上明白である。
三 ことを実質的にみても、右のような小作料統制の存する一事をもつて、当該農
地の資産価値がゼロであり、所有者に担税力なしと断ずることはできない。統制の
存続自体、昭和四五年農地法改正施行後一〇年間の期限を付され(なおその間、改
正前の農地法二一条一項の基準については、毎年農林大臣が検討のうえ、必要あれ
ば変更すべきものとされる。新農地法附則九項)、いずれ終了することが予定され
ている一方、都市計画法により、市街化区域は既成市街地であるか、または概ね一
〇年以内に優先的計画的に市街化が図られるのであるから、所在の農地も早晩耕作
の目的に供することが不適切、不可能となり、農地法二〇条二項二号あるいは五号
に該当するとして賃貸借の解消ないしは使用目的の変更が実現し、所有者の使用収
益または交換価値把握の検能が顕在化する可能性が極めて高い。従つて、この可能
性を経済的に評価すれば、現状でも所有者は農地の「適正な時価」の相当部分を保
有しているのであり、賃料収益を超過する課税は、右可能性が現実化するまでの
間、所有者たる地位を保持するための費用と考えることができよう。
もし、右にいう所有権能顕在化の公算が経済的にそれほど高く評価できず、収益超
過税が実質的にも所有者の負担に耐え得ないならば、所有者は農地法一六条によ
り、国に買収を申出、正当な対価を得て課税の負担を免れることができる。それな
のに、所有者が現に買収を申出ることなく小作地所有を継続していること自体、そ
の低収益にもかかわらず所有者が農地に資産価値を認めている証左といえよう。
四 因みに、市街化区域農地の宅地並み課税とはいうものの、実際には、納税者の
急激な負担増を回避するため、緩和措置が講じられており、いわゆるA・B農地に
対する固定資産税については価格の二分の一に対し、同じく都市計画税については
価格に対し、それぞれ昭和四八年度は〇・二、昭和四九年度は〇・四、昭和五〇年
度はA農地〇・七、B農地〇・四、昭和五一年度は〇・七を乗じた額を課税標準と
して税額を算定している(地方税法附則一九条の三、二七条の二)。また、前記被
告の主張二、3記載のような減税措置も施されている。従つて、むしろ、市街化区
域農地の地価高騰の実勢に比較すれば、所有者は極めて優遇されているというべき
である。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 原告が本件土地を所有していること、本件土地について稲沢市長がなした昭和
五一年度の固定資産評価額が別紙「土地評価額等表」の評価額欄記載のとおりであ
ること、原告のなした審査請求に対して、被告が昭和五一年五月三一日付で請求棄
却の本件決定をなしたことは、当事者間に争いがない。
そして、本件土地が市街化区域内にある賃貸農地であること、昭和四五年九月三〇
日以前より継続して賃貸している農地については、その小作料の最高額が原告主張
のように統制されていることおよび本件土地の昭和五一年度の固定資産税、都市計
画税の合計額が右小作料を超え、少くとも前記別紙の固定資産税額欄、都市計画税
額欄各記載の額となることも、当事者間に争いがない。
二 原告は、本件決定は、本件土地の評価につき、本件土地が右の如き賃貸農地で
あつて、その小作料が低額に統制されていることを考慮せず、その結果固定資産税
額、都市計画税額が右小作料を超える結果となるように決定した違法があると主張
する。
そこで、以下この点について判断する。
1 地方税法によれば、固定資産の「価格」とは「適正な時価」を意味し、賦課期
日における右の価格で固定資産課税台帳等に登録されたものをもつて固定資産税の
課税標準とし(同法三四一条、三四九条)、都市計画税においても固定資産税にお
ける右の課税標準となるべき価格を課税標準とする(同法七〇二条)のであるが、
市街化区域農地に対して課する昭和四七年度以降の各年度分の固定資産税の課税標
準となるべき価格については、当該市街化区域農地とその状況が類似する宅地(類
似宅地)の固定資産税の課税標準とされる価格に比準する価格によつて定めるべき
ものとされている(同法附則一九条の二)。
そして固定資産課税台帳等に登録される価格は、知事又は自治大臣が評価する場合
を除いて、市町村長の決定した固定資産の価格が登録されるのであり(同法四〇三
条、四一一条)、市町村長が右の価格を決定するには、固定資産評価員の作成した
評価調書に基づき、自治大臣の定めた固定資産評価基準によつて、固定資産の価格
を決定しなければならない(同法四〇三条一項、四〇九条、四一〇条)。而して、
自治大臣の定めた「評価基準」(昭和三八年自治省告示第一五八号、最終改正昭和
五〇年一二月二二日同省告示第二五二号)によれば、市街化区域農地の評価につい
ては、「沿接する道路の状況、公共施設等の接近の状況その他宅地としての利用上
の便等からみて、当該市街化区域農地とその状況が類似する宅地の価額を基準とし
て求めた価額から当該市街化区域農地を宅地に転用する場合において通常必要と認
められる造成費に相当する額を控除した価額によつてその価額を求める方法による
ものとする」(第一章第一節の2)と定められており、地上権、借地権等が設定さ
れている土地の評価については、「これらの権利が設定されていない土地として評
価するものとする」(第一章第一節三)とされている。
ところで、固定資産税、都市計画税は、固定資産課税台帳等に登録された土地、家
屋、(および固定資産税についてはさらに償却資産)の価格を課税標準とするので
あつて、これらの資産の所有者に課するものであり(同法三四三条一項、七〇二条
一項)、従つて、その性質は資産の所有という事実に着目して課税される財産税で
あつて、資産より生ずる収益に着目して課税される収得税とは異るものと解され
る。すなわち、資産が土地の場合には、土地の所有という事実に着目して課税する
のであり、個々の所有者が現実に土地から収益を得ているか否か、収益の帰属が何
人にあるかを問わず、法定の賦課期日における土地所有者が納税義務者となるので
ある。
右のような固定資産税、都市計画税の性質からして、その課税標準たる土地の価
格、すなわち「適正な時価」とは、正常な条件のもとに成立する当該土地全体の取
引価格、すなわちその土地自体の客観的価格(従つて、当該土地に賃借権が設定さ
れていて、そのために所有権の取引価格が借地権価格の分だけ減少している場合に
は、右借地権価格と所有権価格を合せた当該土地全体としての客観的価格)をいう
ものと解せられるのであつて、それを所有者が自ら使用収益するか、あるいは他物
権、賃借権等を設定しているか等の主観的事情によつて左右されることはない。た
だ、例外的に、質権または百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である
土地に限り、所有権の行使が完全に排除されたものとみなして、物権者を納税義務
者としているのである(地方税法三四三条一項)が、この場合にも、課税標準たる
価格は土地の更地価格であつて、物権の存在を前提とする取引価格ではない。
2 右のように、財産税である固定資産税、都市計画税は収益と無関係に課するも
のであり、このように、収益と直接結びつかない資産の価格をもつて課税標準とす
ることの当否は立法政策の範疇に属する事項というべく、右両税が市町村税として
住民の応益負担の側面を有することおよび現行の右両税におけるその低い税率を考
えれば、これが個人の財産権を不当に侵害するものとはいえないものである。
従つて、その収益を限度とした税額となるよう土地を評価すべきであるとか、その
性質の異なる他税と比較して不公平を課税となる旨の原告の主張は、とりえないも
のである。
3 以上のように、地方税法にいう土地の価格とは当該土地自体の客観的価格を意
味するものである。そして都市計画法による市街化区域とは、すでに市街化を形成
している区域およびおおむね一〇年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区
域である(同法七条二項)。而して、農地が市街化区域にあるときは、その区域に
属しない農地とは異つて単に都道府県知事に届出ることによつて容易に宅地に転用
することができ、また、現実に市街地の宅地に準じた価格で取引がなされている状
況にあるのであるから、これらのことに鑑みれば、固定資産税の課税標準となるべ
き価格の決定に際し、自治大臣の定めた前記「評価基準」が市街化区域農地の評価
を「類似宅地価額マイナス宅地造成費」の方法によつて評価すべきものとしている
ことは妥当であり、違法のかどは存しない。
4 原告は、本件土地は賃借耕作者の同意が得られないから、容易に宅地に転用す
ることができず、純然たる農地としての価値しか存しない旨主張しているが、固定
資産の評価における「適正な時価」とは、前記のとおり、それに付着した主観的事
情を一切捨象した客観的価値として把握すべきものであるから、それが客観的にみ
て宅地として利用されることが適当である土地であれば、宅地に準じたものとして
評価するのが相当である。
5 また原告は、本件農地を宅地として使用するためには、宅地造成費のほかに、
耕作権排除のための費用が必要である旨主張する。しかし、この点についても右と
同様に、固定資産税の課税標準となるべき土地の価格の評価は土地の客観的価格の
問題としてとらえるべきものであるから、宅地転用のための費用は宅地造成費のみ
を考慮すれば足りるのである。
6 また原告は、固定資産税の納付義務を所有者に課すのは、課税手続簡素化の目
的であつて、課税相当額を賃貸料に算入出来る土地については妥当であつても、本
件土地の如く小作料が極めて低く統制されている土地についてはそれは妥当しない
から、この点を考慮して評価すべきであると主張する。しかしながら、前述のよう
に、固定資産税はその収益に関係のない財産税であるから、個々の資産について、
課税分を他に転嫁することかができるか否かは問うところでないというべきであ
り、小作料の統制された賃貸農地であることを土地評価に際して考慮しないことを
もつて違法であるということはできない。
7 結局、固定資産税、都市計画税は、使用収益の実態如何を問わず、土地所有の
事実につきその客観的価格を課税標準として直接所有者に賦課されるものである。
そうすれば、原告主張の本件土地のように、それが賃貸農地であつて小作料が統制
されているため、賃貸による収益が税額に満たない結果となるとしても、このこと
をもつて、右税の賦課が違法であるとしたり、土地の評価が適正を欠くということ
はできない。
なお、法律(地方税法附則二九条の四)は、市街化区域農地に対して課する固定資
産税および都市計画税の合計額が小作料の額をこえる場合において必要があると認
められるときその徴収を猶予することができる旨規定しているのであつて、同法自
体、右両税額が小作料を超える事態態を生ずることを予想している。(このことが
個人の財産権を不当に奪うものといえないことは前述のとおりである。)
8 また、市街化区域内にある農地については、いわゆる宅地並み課税になすとは
いうものの、現実の課税においては、納税者の急激な負担増を回避するため、税額
およびその徴収について被告主張のような種々の緩和措置が講ぜられており、賃貸
農地についての小作料統制も昭和四五年の改正農地法施行後一〇年の期限を付され
ており(その間、基準の変更もなされる)、いずれ終了することが予定されている
ものである。このような諸点を考慮すれば、市街化区域内の賃貸農地についていわ
ゆる宅地並み課税をなすことが農地所有者に酷であるとか、その財産権を不当に侵
するものであるとは到底いえないものである。従つて、右課税の前提にすぎない土
地の評価の不当をいう原告の主張は理由がない。
以上のとおり、原告が違法と主張するところはいずれも採用し難い。
三 被告主張の評価方法による本件土地の評価額がその主張額どおりとなることは
原告も争わないところである。
そうすれば、被告のなした本件決定は相当であり、違法は存しないものである。
四 よつて、原告の本訴請求は理由がないから失当として棄却することとし、訴訟
費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決した。
(裁判官 藤井俊彦 窪田季夫 山川悦男)
別紙物件目録省略

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