弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成22年6月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第1134号マンション区分所有者総会決議無効確認等請求事

口頭弁論終結日平成22年6月2日
判決
主文
1原告の総会決議取消の訴えを却下する。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1(主位的請求)
平成21年10月2日開催の被告A管理組合(以下「被告管理組合」とい
う。)の平成20年度定期総会における別紙1記載の第1号ないし第4号議案
の各決議が無効であることを確認する。
(予備的請求)
上記各決議を取り消す。
2平成21年9月19日開催の被告管理組合の平成20年度総会における別紙
2記載の第1号ないし第5号議案の各決議が有効であることを確認する。
3被告株式会社B(以下「被告会社」という。)は原告に対し,金21万59
50円を支払え。
第2事案の概要
本件は,マンション「A」(以下「本件マンション」という。)の区分所有
者である原告が,本件マンションの区分所有者の団体である被告管理組合の総
会決議について,主位的に無効確認を,予備的に決議取消を求め,原告らが招
集した総会の決議有効確認を求めるとともに,被告管理組合の管理委託会社で
ある被告会社に対し,原告らの総会開催要求に応じないとともに,区分所有者
一覧表の開示に応じなかったという不法行為に基づく損害賠償金21万595
0円の支払を求めた事案である。
1前提事実
(1)原告は平成21年5月2日に本件マンションの区分所有者となった者であ
り,被告管理組合は本件マンションの区分所有者の建物の区分所有等に関す
る法律(以下「法」という。)3条に基づく団体であり,被告会社は,被告
管理組合から本件マンションの管理を委託されている会社である(争いのな
い事実,弁論の全趣旨)。
(2)原告は,同月から被告らに対し,また,同年6月17日には,被告管理組
合理事長に対し,総会開催の要求をしたが,同総会が直ちに開催されなかっ
たことから,原告及びC(以下「原告ら」という。)は,自ら総会を招集し,
同年9月19日に,被告管理組合の平成20年度総会(以下「原告招集総
会」という。)を開催した。
原告招集総会を招集するに当たって,原告らは被告会社に対し,区分所有
者一覧表の開示を求めたが,被告会社はこれを開示しなかった。
原告招集総会において,別紙2記載のとおり第1号ないし第5号議案が決
議された(甲1,5,8ないし10,16,弁論の全趣旨)。
(3)被告管理組合D理事長は,平成20年度定期総会(以下「被告管理組合招
集総会」という。)を招集して,同年10月2日にこれを開催したところ,
議決権総数が90個であるのに対し,区分所有者9名(議決権個数は合計1
2個)が出席し,区分所有者33名(議決権個数は合計45個)が委任状を
提出することにより,代理人により出席した。
そこで,議長は,被告管理組合の管理組合規約(以下「管理組合規約」と
いう。)34条1項の定める定足数を充たすと判断して,議事を進行させ,
同総会において別紙1記載のとおり第1号ないし第4号議案の決議がなされ
たものとして扱った(乙イ1ないし35)。
(4)管理組合規約27条1項は「理事は組合員の中から総会で選出する。」と,
同条2項は「理事長は理事の互選により選出する。」と,29条2項は「理
事長は法に定める管理者とする。」と,34条1項は「総会の会議は,議決
権総数の半数以上を有する組合員が出席しなければならない。」と定めてい
る(甲4)。
2争点
(1)被告管理組合招集総会決議無効確認及び取消請求の原告適格性
(被告管理組合の主張)
被告管理組合招集総会は平成20年度定期総会であり,その議題は平成2
0年度の総会活動であるところ,同年度の総会活動に議決権を行使できるの
は,平成20年度において議決権を有していた区分所有者に限定される。
そうすると,原告は,平成20年度において議決権を有していなかったの
であるから,被告管理組合招集総会決議の瑕疵を争う資格を有せず,同決議
無効確認及び取消請求の原告適格を有しない。
(2)被告管理組合招集総会決議の有効性
(原告の主張)
ア定足数の不充足について
管理組合規約34条1項は委任状による出席を認めていないので,被告
管理組合招集総会の出席者は9名で,議決権個数12個であるから,定足
数を充たしていない。
イ決議内容相違について
上記出席者で討議した結果,第2号及び第3号議案は否決され,第1号
及び第4号議案は議決未了となったのであり,別紙1記載のとおりの決議
はなされていない。
ウ招集権限不存在について
被告管理組合においては一度も総会を開催していないので,同被告の理
事長Dは総会で選任されておらず,総会を招集する権限を有していなかっ
た。
エ役員資格不存在について
役員に選任されたEは,本件マンション511号の区分所有者とされて
いるが,511号の区分所有者は株式会社Fであり,その代表者はGであ
るから,役員に選任される資格を有していない。
オしたがって,被告管理組合招集総会の別紙1記載の決議は無効である。
仮に無効でなくとも,取り消すべき瑕疵があるので,取り消されるべきで
ある。
(被告管理組合の主張)
ア定足数の不充足について
合議体において,その構成員の議決権が権利である場合には,当然代理
出席(委任状によるものを含む。)は可能であるところ,区分所有者の議
決権は,各構成員の区分所有権から由来する純然たる権利であるから,委
任状による代理出席及び決議への参加は,各構成員たる区分所有者の当然
の権利である。よって,定足数を充たしている。
イ決議内容相違について
被告管理組合招集総会においては,別紙1記載のとおり決議された。
ウ招集権限不存在について
(ア)被告管理組合においては,定期総会を定期的に開催している。仮に定
期総会が開催されていない場合であっても,D理事長は被告管理組合設
立時に選任されているので,その後の総会の招集権限を有している。
(イ)被告管理組合招集総会においては,招集通知が区分所有者全員に送付
されており,総議決権数90議決権の内,過半数を超える57議決権を
有する区分所有者が出席しているが,同総会の開催に誰一人異議を述べ
ていないのであるから,同総会の開催は追認されている。また,理事長
の選任は総議決権数の過半数で成立することをも考慮すると,同総会に
瑕疵があったとしても,その瑕疵は治癒されている。
(ウ)原告は,被告管理組合理事長に対し定期総会の開催を求め,かつ被告
管理組合招集総会に出席して,自己の主張を述べるとともに,各議案に
つき賛否の議決権を行使したのであるから,原告の主張は禁反言に反し
ている。
エ役員資格不存在について
Eは,本件マンション511号の区分共有者であるし,株式会社Fから
本件マンション511号の区分所有者としての権限行使を委嘱されている
ので,役員資格を有する。
オしたがって,被告管理組合招集総会の別紙1記載の決議は有効であり,
瑕疵もない。
(3)原告招集総会決議の有効性
(原告の主張)
原告らは,法34条3ないし5項に基づき原告招集総会を招集して,開催
したものであるから,原告招集総会決議は有効であるにもかかわらず,被告
管理組合はその有効性を争うので,同決議の有効確認を求める。
(被告管理組合の主張)
原告招集総会は,法34条1項に反して,原告が勝手に開催したものであ
るから,同総会決議は無効である。
(4)被告会社の不法行為の成否
(原告の主張)
被告会社の,原告の総会開催要求に応じず,区分所有者一覧表の開示に応
じなかったという不法行為により,原告は,区分所有者の連絡先を調べ,原
告招集総会を招集・開催するため下記の損害を被ったので,被告会社は,同
合計額21万5950円を損害賠償する義務がある。
ア区分所有者の登記簿謄本謄写の印紙代4万1220円
イ人件費15万円
総会の資料作り等の作業をするため,3人が延べ10日間の作業を要し
た。
1万5000円/日×10日=15万円
ウ各区分所有者に対する総会資料発送の郵便代1万9440円
エ総会会議場,文具代及び駐車場代5290円
(被告会社の主張)
原告の総会開催要求は法34条3項の要件を充たす請求ではないので,そ
れに応じなかったことが不法行為を構成しない。
また,区分所有権者の名簿を公開することについても,そもそも原告にそ
の公開を求める権利は存在しないし,個人情報保護法の観点からして,公開
は原告以外の区分所有者の同意がなければ,その個人データを第三者に提供
することはできないものであるから,その不公開は不法行為となりえない。
第3争点に対する判断
1争点(1)(被告管理組合招集総会決議無効確認及び取消請求の原告適格性)
について
区分所有者の団体は区分所有者全員で構成されており(法3条),各区分所
有者は同団体の集会における議決権を有する(法38条)のであるから,原告
は,本件マンションの区分所有者となった平成21年5月2日から被告管理組
合の構成員となり,同日以降に招集された集会の議決権を有するといえる。そ
して,このことは,同集会の議題によって左右されないから,被告管理組合の
主張を採用することはできない。
2争点(2)(被告管理組合招集総会決議の有効性)について
(1)定足数の不充足について
法39条2項によれば,区分所有者の団体の集会における議決権は,代理
人によって行使することができるのであり,同条項に照らせば,管理組合規
約34条1項にいう「組合員の出席」は代理人による出席を含む趣旨と解す
るべきであるから,原告の主張を採用することはできず,被告管理組合招集
総会は,委任状による代理人の出席を含めて,定足数を充たしているといえ
る。
(2)決議内容相違について
原告主張の内容の決議がなされたことを認めるに足りる証拠はなく,かえ
って,証拠(乙イ35)によれば,同総会において,別紙1記載のとおりに
決議されたことが認められる。
(3)招集権限不存在について
証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば,原告の主張するとおり,被告
管理組合においては総会が開催されていなかったことが認められる。
しかしながら,証拠(甲4,15)によれば,被告管理組合は昭和60年
3月1日に設立されたが,その際,Dが被告管理組合の理事長に選任された
こと及び管理組合規約28条1項は「役員の任期は毎年4月1日から翌年3
月31日までの1年間とする。」と,同条3項は「任期の満了によって退任
する役員は,後任の役員が就任するまでの間,引き続きその職務を行う。」
と定めていることが認められ,これによれば,Dは,昭和61年3月31日
には任期満了により理事長を退任しているが,その後総会が開催されず,後
任の役員が就任しなかったので,引き続き理事長の職務を行う権限を有して
いたといえる。
そうすると,管理組合規約29条2項,法34条1項に基づき,Dは被告
管理組合招集総会の招集権限を有していたと認められる。
(4)役員資格不存在について
証拠(甲4,15,17,18)によれば,Eは,本件マンション511
号の区分所有権に基づく組合員として役員に選任されたが,本件マンション
511号の区分所有権者は株式会社Fであり,その代表者はGであって,E
は取締役であることが認められる。
しかしながら,区分所有権者である法人は,その役職員の中からその区分
所有権を行使する者を選任することができるところ,証拠(乙イ36)によ
れば,株式会社Fは,区分所有権を行使する者としてEを選任したことが認
められるので,Eは役員資格を有するといえる。
(5)以上によれば,原告の主張は認められず,被告管理組合招集総会決議は無
効とはいえないから,総会決議無効確認の主位的請求は理由がない。
また,原告は,予備的に同決議の取消を求めているが,決議取消の訴えの
ような形成の訴えは法が特に認めた場合に限り認められるものであるところ,
区分所有者の団体の総会決議取消の訴えを認めた規定は存在しないので,原
告の総会決議取消の訴えは不適法な訴えである。
3争点(3)(原告招集総会決議の有効性)について
法34条3項ないし5項によれば,区分所有者の5分の1以上で議決権の5
分の1以上を有するものが,管理者に対して集会の招集を請求することができ,
あるいは集会の招集をすることができるところ,証拠(乙イ35)によれば,
本件マンションの区分所有者は71名であり,議決権は90個であることが認
められるから,管理者に対して集会の招集を請求することができ,あるいは集
会の招集をすることができるものは,15名以上の区分所有者で18個以上の
議決権を有するものとなる。
しかしながら,15名以上の区分所有者で18個以上の議決権を有するもの
が管理者に対して集会の招集を請求し,あるいは集会の招集をしたことを認め
るに足りる証拠はなく,かえって,前提事実のとおり,原告のみが集会の招集
を請求し,原告ら2名が集会の招集をしたのであるから,原告らは総会招集権
限を有しておらず,原告招集総会決議は無効である。
したがって,原告の総会決議有効確認請求は理由がない。
4争点(4)(被告会社の不法行為の成否)について
上記判示のとおり,原告らは総会招集権限を有していないのであるから,原
告招集総会を招集・開催したり,そのための区分所有者の連絡先を調べる必要
はない。したがって,原告主張の被告会社の行為に違法性はなく,また,損害
発生との間に相当因果関係もないので,被告会社に不法行為は成立せず,原告
の被告会社に対する損害賠償請求は理由がない。
5結論
よって,原告の総会決議取消の訴えは不適法であるからこれを却下し,その
余の本訴請求はいずれも理由がないからこれらを棄却し,訴訟費用の負担につ
き民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
大分地方裁判所民事第2部
裁判官一志泰滋
(別紙1)
1第1号議案(平成20年度事業報告及び決算報告)の決議
承認
2第2号議案(管理会社の委託先変更について)の決議
従来通り被告会社に委託
3第3号議案(平成21年度役員改選について)の決議
平成21年度の役員に,E,H,Iを選任
4第4号議案(平成21年度事業計画案,予算案について)の決議
可決
(別紙2)
1第1号議案(平成20年度の活動,決算報告)の決議
否決
2第2号議案(平成21年度役員改選)の決議
平成21年度の理事にJ,C,Kを,監事にLを選任
3第3号議案(管理規約の改訂)の決議
別紙3のBないしF記載のとおり可決
4第4号議案(管理運営の見直し)の決議
別紙3のGないしI記載のとおり可決
5第5号議案(平成21年度事業計画と予算案)の決議
可決

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛