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裁判例


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平成12年(行ケ)第337号 特許取消決定取消請求事件(平成14年7月3日
口頭弁論終結)
          判         決
       原      告   株式会社ニコン
訴訟代理人弁理士   渡   辺   隆   男
同          大   沢   圭   司
       被      告   特許庁長官 及 川 耕 造
       指定代理人      辻       徹   二
同          高   橋   美   実
同大   野   克   人
同          宮   川   久   成
          主         文
      特許庁が異議2000-70318号事件について平成12年7月1
9日にした決定中、特許第2926325号の請求項1ないし9に係る特許を取り
消した部分を取り消す。
      訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   主文と同旨
 2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、発明の名称を「走査露光方法」とする特許第2926325号(平
成3年3月6日原出願、平成9年1月23日分割出願、平成11年5月14日設定
登録。以下、この発明を「本件発明」という。)の特許権者である。その後、本件
特許につき特許異議の申立てがされ、この申立ては、異議2000-70318号
事件として特許庁に係属した。原告は、平成12年6月13日、本件特許出願の願
書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲等の訂正
(以下「本件訂正」という。)を請求した。特許庁は、上記事件につき審理した結
果、同年7月19日、「訂正を認める。特許第2926325号の請求項1ないし
9に係る特許を取り消す。同請求項10ないし15に係る特許を維持する。」との
決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年8月21日、原告に送
達された。
 2 本件明細書の特許請求の範囲の記載
(1) 本件訂正前の【請求項1】
   マスク上の回路パターンの一部を投影光学系を介して感応性の基板上に投影
しつつ、前記マスクと前記基板とを前記投影光学系の投影倍率に応じた速度比で相
対的に1次元走査させることで前記マスクの回路パターンの全体像を前記基板上に
走査露光する方法において、
   前記基板上に投影される前記回路パターンの一部の像が前記投影光学系の円
形投影視野内のほぼ中央で前記1次元走査の方向と交差した方向に直線的に延びた
矩形又はスリット領域内に制限されるように、矩形状又はスリット状の分布の露光
用照明光によって前記マスクを照射し、
   前記マスクと前記基板との相対的な1次元走査の間は前記投影光学系による
前記矩形又はスリット領域内の結像面と前記基板上の被露光部分の表面とが前記投
影光学系の焦点深度の幅内でほぼ合致し続けるように、前記投影光学系による結像
面と前記基板との相対的な傾きと間隔とを制御することを特徴とする走査露光方
法。
  (2) 本件訂正に係る【請求項1】(訂正部分には下線を付す。)
   マスク上の回路パターンの一部を投影光学系を介して感応性の基板上に投影
しつつ、前記マスクと前記基板とを前記投影光学系の投影倍率に応じた速度比で相
対的に1次元走査させることで前記マスクの回路パターンの全体像を前記基板上に
走査露光する方法において、
   前記基板上に投影される前記回路パターンの一部の像が前記投影光学系の円
形投影視野内のほぼ中央で前記投影光学系の光軸を含み前記1次元走査の方向と交
差した方向に直線的に延びた矩形又はスリット領域内に制限されるように、矩形状
又はスリット状の分布の露光用照明光によって前記マスクを照射し、
   前記マスクと前記基板との相対的な1次元走査の間は前記投影光学系による
前記矩形又はスリット領域内の結像面と前記基板上の被露光部分の表面とが前記投
影光学系の焦点深度の幅内でほぼ合致し続けるように、前記投影光学系による結像
面と前記基板との相対的な傾きと間隔とを制御することを特徴とする走査露光方
法。
  (3) 【請求項2】~【請求項15】は、本件訂正の前後を通じ、別添決定謄本
6頁8行目~8頁16行目記載のとおりである。
 3 本件決定の理由
   本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、本件訂正中、特許請求の範囲
【請求項1】の「投影光学系の円形投影視野内のほぼ中央で前記1次元走査の方向
と交差した方向に直線的に延びた矩形又はスリット領域」を「投影光学系の円形投
影視野内のほぼ中央で前記投影光学系の光軸を含み前記1次元走査の方向と交差し
た方向に直線的に延びた矩形又はスリット領域」とする訂正部分は、特許請求の範
囲の減縮に当たるなど、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116
号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる改正前の特許法126
条1項ただし書及び同条2項の規定に適合するとして本件訂正を認め、本件発明の
要旨を本件訂正に係る本件明細書の特許請求の範囲記載のとおりとした上(以下、
本件訂正に係る請求項1ないし15の発明を「本件第1発明」ないし「本件第15
発明」という。)、本件第1発明は、特開昭57-192929号公報(審判甲第
1号証、本訴甲第6号証、以下「甲第6号証」という。)、「PROCEEDINGSOF
SPIE」Volume922(Optical/LaserMicrolithography(1988)256、265
及び266頁、審判甲第2号証、本訴甲第7号証、以下「甲第7号証」とい
う。)、特開平2-6709号公報(審判甲第4号証、本訴甲第9号証、以下「甲
第9号証」という。)及び特開昭62-181430号公報(審判甲第5号証、本
訴甲第10号証、以下「甲第10号証」という。)に記載された発明に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件第2ないし第6発明は、
甲第6、第7、第9、第10号証及び半導体露光装置の技術分野における慣用手段
に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件第7、第8
発明は、本件第6発明に単なる設計上の選択事項を付加したにすぎないものであ
り、本件第9発明は、甲第7号証及び特開平2-229423号公報(審判甲第3
号証、本訴甲第8号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもの
であり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本件第
1ないし第9発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してさ
れたものと認められ、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)
附則14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置
を定める政令(平成7年政令第205号)4条1項、2項の規定により、取り消さ
れるべきものとした。
第3 原告主張の決定取消事由
   本件決定の理由中、「1.手続きの経緯」、「2.訂正の内容について」及
び「3.訂正の適否」は認める。「4.特許異議申立てについての判断」中、本件
第1発明の相違点の判断(10頁3行目~20行目)、「4.3.2 本件第2発
明と甲各号証との対比、判断」~「4.3.9 本件第9発明と甲各号証との対
比、判断」は争い、その余は争わない。「5.むすび」中、本件第1~第9発明に
係る部分は争い、その余は争わない。
   本件決定は、本件第1発明と甲第6号証記載の発明の相違点について、相違
点1の判断を誤り(取消事由1)、かつ、相違点2の判断を誤った(取消事由2)
結果、本件第1発明が甲第6、第7、第9、第10号証記載の発明により当業者が
容易に発明をすることができたとして、特許法29条2項の規定により特許を受け
ることができないとの誤った判断をし、ひいては、本件第2ないし第9発明も特許
を受けることができないとの誤った判断をしたものであるから、違法として取り消
されるべきである。
 1 取消事由1(相違点1の判断の誤り)
  (1) 本件決定は、「甲第1号証(注、本訴甲第6号証)記載の発明は、投影光
学系の円形投影視野内のほぼ中央で前記投影光学系の光軸を含む直線的に延びた矩
形状又はスリット状の分布の露光用照明光によって前記マスクを照射するものでは
ない点で本件第1発明と相違する」(決定謄本9頁34行目~37行目)との点を
「相違点1」とした上、「相違点1について検討すると、甲第2号証(注、本訴甲
第7号証)には、基板上に投影される回路パターンの一部の像が前記投影光学系の
円形投影視野内のほぼ中央で1次元走査の方向と交差した方向に直線的に延びた矩
形又はスリット領域内に制限されるように、矩形状又はスリット状の分布の露光用
照明光によってマスクを照射することが示唆されており、かつ、投影光学系の投影
視野内のどの部分を用いて投影光学系のスリット状の分布の露光用照明光によって
マスクを照射するかは、光学系の収差等を考慮して当業者が容易に選択できる事項
であるから、光第2号証(注、「甲第2号証」の誤記と認める。)のFig17.(以
下、単に「Figure17.」という。)において投影光学系の円形投影視野内のほぼ中央
で前記投影光学系の光軸を含む矩形状又はスリット状の分布の露光用照明光によっ
てマスクを照射する構成とすることに困難性は認められない。また、当該構成にお
いて当業者が予測できない効果を有するとも認められない」(同10頁3行目~1
4行目)と判断する。
    しかしながら、甲第7号証(「PROCEEDINGSOFSPIE」Volume922
(Optical/LaserMicrolithography))には「収差および歪曲の平均化は、対称性が
よくないために、リング領域システムのものほど良くはないが、スキャン方向に像
の均一性を考慮すると、スロット領域システムのスキャンされた像は同じレンズを
使って静止領域露光で得られたものよりもまだ良い」(原文265頁右欄38行目
~266頁左欄3行目、訳文2頁6行目~10行目)と記載され、収差及び歪曲の
平均化に関し、スロット領域よりもリング領域の方が良いとされている。
    本件決定は、「投影光学系の投影視野内のどの部分を用いて投影光学系の
スリット状の分布の露光用照明光によってマスクを照射するかは、光学系の収差等
を考慮して当業者が容易に選択できる事項である」(決定謄本10頁7行目~10
行目)と判断するが、一般に当業者が選択するのは、光学系の収差が最も良い、投
影光学系の投影視野内のリング領域である。仮に、当業者にとって、甲第6号証記
載の発明に甲第7号証記載の発明を適用することができたとしても、甲第6号証に
開示されたリング領域に代えて偏心スロット領域を適用するにとどまり、本件第1
発明のような投影光学系の光軸を含む矩形状又はスリット状の分布の露光用照明光
によってマスクを照射する構成に想到することはできない。一方、投影光学系の光
軸を含む矩形又はスリット状の領域は、広い露光範囲を得ることができるという効
果がある。一般に、円形投影視野の直径は、投影光学系の直径に比例するから、投
影光学系の光軸を含む矩形状又はスリット状の分布の露光用照明光を使って露光す
るということは、一番小さな直径の投影光学系で足り、製造コストを低減するとい
う大きな効果を奏する。
    本件決定は、「光学系の収差等を考慮して当業者が容易に選択できる事
項」(決定謄本10頁9行目)として、当業者が考慮するものは光学系の収差だけ
でない旨述べるが、甲第7号証で開示されている事項は、偏心スロット領域がリン
グ領域を使った光学系の光学的複雑さを軽減し得ること、また、偏心スロット領域
が、リング領域より収差の平均化が良くなく、静止領域露光で得られたものより収
差が良いことのみである。したがって、甲第6号証に開示されていない相違点1
を、甲第7号証の記載から当業者が容易に選択し得るとした本件決定の判断は、誤
りである。
    甲第7号証には、Figure17.の右側の図に関し「スロット領域は、円形投影
視野領域システムの望ましくない部分をふさぐ」(原文265頁右欄33行目~3
4行目、訳文2頁1行目~2行目)と記載され、この記載とFigure17.の右側の図に
よれば、円形投影視野の中央付近は、ふさぐべき「望ましくない部分」であること
が記載されている。したがって、甲第7号証の上記の記載に接した当業者は、円形
投影視野の中央付近には露光用照明光分布を配置すべきでないとの、本件第1発明
と逆行する動機付けを得ることになり、本件第1発明の構成を採用することはな
い。
  (3) また、被告は、本件決定が「投影光学系の投影視野内のどの部分を用いて
投影光学系のスリット状の分布の露光用照明光によってマスクを照射するかは、光
学系の収差等を考慮して当業者が容易に選択できる事項である」(決定謄本10頁
7行目~10行目)とした根拠は、甲第7号証ではなく、技術常識であると主張す
る。しかしながら、本件決定は、Figure17.に記載された偏心スロットと本件第1発
明との差異を埋めるために、当業者にとって、上記技術事項が光学系の収差等を考
慮して容易に選択し得る事項であると主張したにすぎず、何らかの公知例の存在か
らこれを技術常識ないし自明の事項と認定しているのではない。Figure17.に示され
たスロット領域がリング領域に比べ露光可能領域が大きくなる利点を有すること
が、当業者にとって自明であるかどうかは、公知技術に基づいて認定されるべきも
のであって、それなしに自明であると判断することは許されない。被告は、この点
を立証するものとして特公昭55-26445号公報(本訴乙第1号証、以下、単
に「乙第1号証」という。)を提出するが、本件決定には、乙第1号証の存在を示
唆するような記載がなく、乙第1号証の提出は、新たな引用例の主張にほかなら
ず、許されない。
    乙第1号証の提出が認められるとしても、当業者は、甲第6号証又は甲第
7号証に乙第1号証を組み合わせることはできない。すなわち、乙第1号証には、
「比較的大きいフィールドの良質の像を作るためには・・・走査の目的のために使
用される系は、系の軸のまわりの小さい区域につき補正されている常用の系であ
る。このような系においては、最良な結像は普通軸上にある。このような系を用い
ると、像質の適当な最大区域を作るためスリットによって規定される像野区域は、
軸から半径方向に外方へ延び、軸から像の悪化もしくは像質のロスの程度が許容で
きなくなる距離を有する区域である。それで、このような軸上結像を用いると、像
質はフィールドにわたり均一ではない。本発明の主目的は、良質結像の狭い環状ゾ
ーンを作るための光学系を得ることである」(2欄7行目~25行目)との記載が
あるが、上記の記載は、乙第1号証の発明を際立たせるための従来技術として記載
されているところ、明細書において、従来技術として、刊行物として刊行されてい
ない技術や、公然実施されていない技術を記載することは、頻繁にある上、乙第1
号証の発明者が米国人であることなどに照らすと、記載された発明が米国内におい
てのみ知られていた可能性も十分にあり得る。
    また、乙第1号証には、上記引用部分中「軸上結像を用いると、像質はフ
ィールドにわたり均一ではない。本発明の主目的は、良質結像の狭い環状ゾーンを
作るための光学系を得ることである」(2欄22行目~25行目)との記載から明
らかなように、軸を通るスリット領域は劣っており、環状ゾーン(リング状スリッ
トに相当)が優れている旨明記されており、このように軸を通るスリットの採用を
阻害する記載がある乙第1号証を、リング状のスリット領域のみを開示した甲第6
号証と組み合わせて、本件第1発明の構成に想到することが容易であるとはいえな
いし、また、甲第7号証にも、乙第1号証と同様、軸を通るスリットの採用を阻害
する記載があるから、両証を組み合わせて、本件発明を推考することが容易である
とはいえない。
    さらに、乙第1号証の発明が適用される技術分野として同証中に開示され
たものは、航空写真のために使用される「ストリップカメラ」及び「パノラマカメ
ラ」(2欄34行目~3欄5行目、6欄27行目~31行目)のみであり、本件第
1発明の技術分野と全く異なるものであって、本件第1発明を構成する「マスク上
の回路パターンの一部を投影光学系を介して感応性の基板上に投影しつつ、前記マ
スクと前記基板とを前記投影光学系の投影倍率に応じた速度比で相対的に1次元走
査させることで前記マスクの回路パターンの全体像を前記基板上に走査露光する方
法」を一部たりとも開示していない。したがって、乙第1号証は、本件第1発明の
技術分野との関連性を見いだすことができず、この点でも、乙第1号証の上記記載
を甲第6号証や甲第7号証と組み合わせることはできない。
    加えて、被告は、従来技術として、投影光学系の光軸を含む矩形状又はス
リット状領域が乙第1号証に記載されていると主張するが、乙第1号証には、「ス
リットによつて規定される像野区域は、軸から半径方向に外方へ延び」(2欄18
行目~20行目)としか記載されておらず、ここに記載された「スリット」の形状
がどのようなものか不明である。むしろ、乙第1号証の第3図及び第4図にあるリ
ング状領域が明細書中で「スリット」と呼ばれていることから、乙第1号証におけ
る「スリット」は、細長い開口を意味するのみで、直線的に延びた矩形状又はスリ
ット状を意味するものではない。
 2 取消事由2(相違点2の判断の誤り)
  (1) 本件決定は、「本件第1発明が、『投影光学系による結像面と前記基板と
の相対的な傾きと間隔とを制御する』構成であるのに対し、甲第1号証(注、本訴
甲第6号証)記載の発明は、投影光学系による結像面と前記基板との相対的な間隔
を制御する構成である点で相違する」(決定謄本9頁38行目~10頁2行目)と
の点を「相違点2」とした上、「相違点2について検討すると、甲第4、5号証
(注、本訴甲第9、第10号証)にみられるように、当該技術分野において、基板
の傾きを検出して当該傾きを制御することは慣用手段であり、当該慣用手段をステ
ップアンドスキャン露光に適用することに困難性は認められない」(同10頁15
行目~18行目)と判断する。
    しかしながら、甲第9号証には、基板の傾きを検出して当該傾きを制御す
ることが開示されているものの、甲第10号証にはその開示はなく、結像面と基板
との相対的な間隔を検出することの開示すらないのであって、甲第9、第10号証
から上記事項を慣用手段と認定することは誤りである。そして、甲第9号証には、
マスクと基板との相対的な1次元走査に関して何ら開示されていないのであるか
ら、甲第6号証と甲第9号証とを結び付ける動機付けや示唆がない。したがって、
甲第6号証に開示されていない相違点2について、甲第9、第10号証記載の慣用
手段をステップアンドスキャン露光に適用することに困難性は認められないとした
本件決定の判断は誤りである。
  (2) 確かに、被告の主張するように、本件第1発明は、累進焦点露光方法を実
施しない場合を含んでいるので、投影光学系の結像面と基板上の被露光領域の表面
とを相対的に1次元走査の方向に関して所定量だけ傾けることは、必須ではない。
しかしながら、甲第9号証には、本件第1発明の構成である「1次元走査する間、
矩形又はスリット領域内の結像面と基板との相対的な傾きを制御する」ことに関し
て何ら記載がないし、その示唆もされていない。被告は、上記相対的な傾きの制御
が投影露光の際には当然必要な技術事項であると主張するが、甲第9号証に開示も
示唆もない事項を、当然必要な技術事項と認めることはできない。
  (3) 被告は、乙第2号証(「ReprintedfromOpticalLaser
Microlithography11,Proc.SPIEVol.1088,pp.424-432(1989)」204頁~21
1頁)及び乙第3号証(「solidstatetechnology日本版」6月号1989、21
頁~23頁)を提出するが、取消決定取消訴訟における審理範囲を逸脱するもので
ある。審決又は決定において周知慣用と認定した事項について、取消訴訟において
証拠方法の提出を認める判決もあるが、本件においては、本件決定が甲第9、第1
0号証に基づき慣用技術とした認定自体に誤りがあり、取消訴訟において、新たな
二つの書証を提出してその誤りを補うことは許されるべきでない。
    仮に、乙第2、第3号証が採用されたとしても、乙第2号証の
Figure2.(205頁)及び乙第3号証の図4(23頁)から理解されるように、こ
れら書証に開示された技術事項は、リング状のスリット領域が1次元走査されるも
のである。したがって、本件第1発明の構成である「1次元走査する間、直線的に
延びた矩形又はスリット領域内の結像面と基板との相対的な傾きを制御する」こと
は、乙第2、第3号証に開示されていない。
 3 本件第2ないし第9発明は、本件第1発明に従属する発明であるから、取消
事由1又は2が認められれば、本件第2ないし第9発明に関する本件決定の判断
も、誤りとなる。
第4 被告の反論
   本件決定の認定判断に誤りはなく、原告の取消事由の主張は理由がない。
 1 取消事由1(相違点1の判断の誤り)について
  (1) 原告は、Figure17.に基づき、投影光学系の円形投影視野内のほぼ中央で
前記投影光学系の光軸を含む矩形状又はスリット状の分布の露光用照明光によって
マスクを照射する構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得るものではな
いと主張する。
    しかしながら、甲第7号証には、Figure17.に示されたスロット領域の採用
を禁止する記載はなく、当業者が、甲第7号証の記載により、Figure17.に示された
スロット領域の使用を断念する理由はない。また、Figure17.に示されたスロット領
域が、リング領域に比べ、投影される露光範囲として投影光学系の円形投影視野内
のほぼ直径に等しい長さの領域を使用することができ、その露光範囲に対して基板
を走査したときの露光可能領域が大きくなるという利点を有することは、当業者に
おいて自明であるから、この点においても、上記自明の利点を有する、Figure17.に
示されたスロット領域の採用を当業者が試みない理由はない。
    原告は、甲第7号証から当業者が得られる技術的動機付けは、円形投影視
野の中央付近には露光用照明分布を配置すべきでないとの、本件第1発明の特徴と
逆行する動機付けであると主張するが、露光用照明光分布の位置の決定に関し
て、Figure17.の右側の図などから、円形投影視野の中央付近が望ましくない部分で
あるとは認められないから、この点で原告の主張は理由がない。
  (2) 本件決定が、「投影光学系の投影視野内のどの部分を用いて投影光学系の
スリット状の分布の露光用照明光によってマスクを照射するかは光学系の収差等を
考慮して当業者が容易に選択できる事項である」(決定謄本10頁7行目~10行
目)と判断した趣旨は、甲第7号証による公知の技術であるとの認定ではなく、上
記事項が当業者にとって容易に選択し得る技術常識であるとの認定によるものであ
る。このことは、本件決定の上記の記載に先立って、「相違点1について検討する
と、甲第2号証(注、本訴甲第7号証)には、基板上に投影される回路パターンの
一部の像が前記投影光学系の円形投影視野内のほぼ中央で1次元走査の方向と交差
した方向に直線的に延びた矩形又はスリット領域内に制限されるように、矩形状又
はスリット状の分布の露光用照明光によってマスクを照射することが示唆されてお
り、かつ、」(同3行目~7行目)と記載されていることから明らかである。
    そして、乙第1号証には、「像質の適当な最大区域を作るためスリツトに
よって規定される像野区域は、軸から半径方向に外方へ延び」(2欄18行目~2
0行目)と記載され、この記載は、乙第1号証に記載された発明に対する従来技術
として、投影光学系の光軸を含む矩形状又はスリット状領域を開示するものであっ
て、投影光学系光軸を含む矩形状又はスリット状領域を用いることは、走査露光の
技術分野において、リング領域を用いる以前に既に考えられていた周知の手段にす
ぎず、原告の上記主張は根拠がない。
  (3) また、原告が主張するリング領域を採用すると、当該リング領域端部での
露光量が中心部に比べ多くなり、当該リング領域全体として露光ムラが生ずること
は、公知技術を示すまでもなく当業者において自明であり、したがって、リング領
域が偏心スロット領域及びスリット領域に比べ、走査方向に垂直な方向に露光領域
を長くすることができないことも自明である。
    原告は、被告が本件訴訟において乙第1号証を提出することが許されない
と主張するが、被告は、当業者の技術常識の1例として乙第1号証を提出したので
あって、甲第7号証に代えて乙第1号証を提出したのではない。すなわち、本件決
定の「投影光学系の投影視野内のどの部分を用いて投影光学系のスリット状の分布
の露光用照明光によってマスクを照射するかは、光学系の収差等を考慮して当業者
が容易に選択できる事項」(決定謄本10頁7行目~9行目)であるとした根拠
は、本件決定に記載するまでもない初等的技術常識に基づいたものであるから、原
告の上記主張は根拠がない。
    原告は、乙第1号証に記載された(2欄7行目~25行目)技術が同証以
外の刊行物として存在していることや、日本で公然実施されていたことを証明する
ものではないこと、軸を通るスリットの採用を阻害する記載がある乙第1号証を、
リング状のスリット領域のみを開示した甲第6号証と組み合わせて本件第1発明の
構成に想到することは容易でないと主張する。しかしながら、乙第1号証は、本件
特許出願前に日本国内において刊行された刊行物であり、乙第1号証に従来技術と
して記載された投影光学系の光軸を含む矩形状又はスリット状領域を形成する技術
は、本件特許出願前における当業者の技術常識というべきであるから、原告の主張
は失当である。
 2 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について
  (1) 原告は、甲第9号証には基板の傾きを検出して当該傾きを制御することが
開示されているものの、甲第10号証にはその開示はなく、結像面と基板との相対
的な間隔を検出することの開示すらないのであって、甲第9、第10号証から、相
違点2に係る本件第1発明の構成を慣用手段であると認定することは誤りであると
か、甲第9号証にはマスクと基板との相対的な1次元走査に関して何ら開示されて
いないのであるから、甲第6号証と甲第9号証とを結び付ける動機付けや示唆がな
いと主張する。
    しかしながら、基板の傾きを検出して当該傾きを制御することは、甲第1
0号証に開示されていないが、甲第9号証に示されるように慣用手段であって、ま
た、基板の傾きを検出して当該傾きをなくすように基板を制御することは、マスク
と前記基板との相対的な1次元走査をする場合のみならず、投影露光する際には当
然必要な技術事項であるから、原告の主張は失当である。
    本件明細書(甲第2号証)には、「本発明によれば、マスクと基板とを投
影光学系に対して相対移動させて走査露光する際に、投影光学系により基板上に投
影される回路パターンの一部の像を、投影光学系の円形視野内で1次元走査方向と
交差した方向に延びるとともに、1次元走査方向にほぼ一定の幅を有する直線的な
1つのスリット領域内、又は複数の平行なスリット領域内に制限するように構成し
たため、投影光学系の最良結像面と基板上の被露光領域の表面とを必要に応じて相
対的に1次元走査方向に関して傾けて走査露光することが可能となり、見かけ上の
焦点深度を拡大するような累進焦点露光法が容易に実現できる。・・・また累進焦
点露光法を実施する場合は、投影光学系の円形視野内で制限されたスリット領域内
の像面と基板上の被露光領域の表面との相対的な傾きが投影光学系の焦点深度の幅
内に維持されるように1次元走査時の基板の移動に連動してレベリング状態とフォ
ーカス状態とを制御するだけで、スリット領域の長手方向(非走査方向)に関して
ほぼ均一な焦点深度拡大効果が得られることになる」(4頁左欄23行目~42行
目)、「以上のように本発明によれば、感光性の基板上に投影される回路パターン
の一部の像を投影光学系の円形投影視野内で1次元走査方向と交差した方向に延び
た直線状のスリット領域(矩形領域)内に制限して走査露光するようにしたので、
焦点深度を拡大させる累進焦点露光方法を実施する場合は、単に投影光学系の結像
面と基板上の被露光領域内の表面とを相対的に1次元走査の方向に関して所定量だ
け傾けるといった極めて簡単な操作を加えるだけで、基板上の1つのショット領域
内の全体に対してほぼ均一な焦点深度拡大効果を伴って回路パターンを転写するこ
とが可能となる」(7頁左欄36行目~46行目)と記載され、本件第1発明に
は、累進焦点露光方法を実施する場合と、この方法を実施しない場合が含まれてい
ることは明らかである。
    本件第1発明において、累進焦点露光方法を実施しない場合では、「投影
光学系の結像面と基板上の被露光領域内の表面とを相対的に1次元走査の方向に関
して所定量だけ傾ける」ということは、必須ではなく、本件第1発明における、
「投影光学系による結像面と前記基板との相対的な傾きと間隔を制御する」ことは
基板の傾きを検出して当該傾きを無くすように基板を制御することを意味し、投影
露光する際には当然必要な技術事項であり、当該技術事項は、甲第9号証に示され
るように慣用手段であるから、本件第1発明につき、累進焦点露光方法を実施した
場合の実施例に特定して、その構成、作用効果をいう原告の主張は、根拠がない。
  (2) 乙第2号証には、「先に示したように、上にウエハステージが載った三つ
のエアパッドは、焦点及び傾斜調整機能を提供する電磁アクチュエータを組み込ん
でいる。これらアクチュエータヘの指令は、弓状イメージフィールドの各端部近く
にある静電容量センサから供給される信号から出ている。これらセンサは露光走査
の間は常に有効であり、走査中、焦点/傾斜調整は動的に実行される。この連続的
な“表面形状に沿った”焦点/傾斜調整は微小寸法制御におけるウエハ平坦度誤差
の悪化作用を顕著に低減させる」(原文209頁右欄24行目~31行目、訳文2
行目~12行目)と記載されているとおり、1次元走査する間、矩形又はスリット
領域内の結像面基板との相対的な傾きを制御することは、走査露光技術において周
知の手段にすぎず、原告の主張は根拠がない。また、乙第3号証には、「パーキ
ン・エルマーのステップ&スキャン装置」(21頁右欄4行目)、「チップ毎の焦
点合わせとレベリング」(23頁左欄9行目~10行目)と記載されているとお
り、1次元走査する間、矩形又はスリット領域内の結像面基板との相対的な傾きを
制御することは、走査露光技術において周知の手段にすぎず、原告の主張は、乙第
2、第3号証を参照しても、根拠がない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(相違点1の判断の誤り)について
  (1) 本件決定は、「本件第1発明が、『基板上に投影される前記回路パターン
の一部の像が前記投影光学系の円形投影視野内のほぼ中央で前記投影光学系の光軸
を含み前記1次元走査の方向と交差した方向に直線的に延びたスリット領域内に制
限されるように、スリット状の分布の露光用照明光によって前記マスクを照射』す
る構成を有するのに対し・・・甲第1号証(注、本訴甲第6号証)記載の発明は、
投影光学系の円形投影視野内のほぼ中央で前記投影光学系の光軸を含む直線的に延
びた矩形状又はスリット状の分布の露光用照明光によって前記マスクを照射するも
のではない点で本件第1発明と相違する(以下、「相違点1」という。)。」(決
定謄本9頁26行目~37行目)とした上、「相違点1について検討すると、甲第
2号証(注、本訴甲第7号証)には、基板上に投影される回路パターンの一部の像
が前記投影光学系の円形投影視野内のほぼ中央で1次元走査の方向と交差した方向
に直線的に延びた矩形又はスリット領域内に制限されるように、矩形状又はスリッ
ト状の分布の露光用照明光によってマスクを照射することが示唆されており、か
つ、投影光学系の投影視野内のどの部分を用いて投影光学系のスリット状の分布の
露光用照明光によってマスクを照射するかは、光学系の収差等を考慮して当業者が
容易に選択できる事項であるから、光第2号証(注、「甲第2号証」の誤記と認め
る。)Fig17.において投影光学系の円形投影視野内のほぼ中央で前記投影光学系の
光軸を含む矩形状又はスリット状の分布の露光用照明光によってマスクを照射する
構成とすることに困難性は認められない。また、当該構成において当業者が予測で
きない効果を有するとも認められない」(決定謄本10頁3行目~14行目)と判
断する。これに対し、原告は、甲第7号証記載の発明について、一般に当業者が選
択するのは、投影光学系の投影視野内において光学系の収差が最も良いリング領域
であり、仮に、当業者にとって、甲第6号証記載の発明に甲第7号証記載の発明を
適用することができたとしても、甲第6号証に開示されたリング領域に代えて偏心
スロット領域を適用するにとどまり、本件第1発明のような投影光学系の光軸を含
む矩形状又はスリット状の分布の露光用照明光によってマスクを照射する構成に想
到することはできず、また、本件第1発明が投影光学系の光軸を含む矩形状又はス
リット状の分布の露光用照明光を使って露光するということは、一番小さな直径の
投影光学系で足り、製造コストを低減するという大きな効果を奏すると主張する。
  (2) しかしながら、甲第7号証には、「4.3 固定領域対スキャン領域シス
テム・・・図17のようなスロット領域によるスキャンによって高NAリング領域シ
ステムにおける光学の複雑さを緩和することができる。・・・収差および歪曲の平
均化は、対称性がよくないために、リング領域システムのものほど良くはないが、
スキャン方向に像の均一性を考慮すると、スロット領域システムのスキャンされた
像は同じレンズを使って静止領域露光で得られたものよりもまだ良い」(原文26
5頁右欄4行目~266頁左欄3行目、訳文全文)との記載があり、この記載によ
れば、スロット領域システムは、リング領域システムにおける光学の複雑さを緩和
することができ、同じレンズを使って静止領域露光で得られたものよりも良いが、
収差等の平均化に関しては、リング領域システムのものほど良くないということが
できる。また、甲第7号証には、本件第1発明のような、投影光学系の光軸を含む
矩形状又はスリット状の分布の露光用照明光によってマスクを照射する構成も示さ
れていない。
    そうすると、上記のとおり、収差に関しては、スロット領域のものがリン
グ領域のものほど良いということはできないのであるから、甲第7号証の上記記載
に接した当業者は、少なくとも収差を考慮するならば、スロット領域のものよりも
リング領域のものを選択する動機付けを得るというべきである。したがって、本件
決定の「投影光学系の投影視野内のどの部分を用いて投影光学系のスリット状の分
布の露光用照明光によってマスクを照射するかは、光学系の収差等を考慮して当業
者が容易に選択できる事項である」(決定謄本10頁7行目~10行目)とする認
定は、誤りといわなければならない。
    被告は、甲第7号証から当業者が得られる技術的動機付けが、円形投影視
野の中央付近には露光用照明光分布を配置すべきでないとの、本件第1発明の特徴
と逆行する動機付けであるとする原告の主張に対し、露光用照明光分布の位置の決
定に関して、円形投影視野の中央付近が望ましくない部分であるとは認められない
から、この点で原告の主張は理由がないと主張する。しかしながら、甲第7号証に
は、Figure17.の右側の図に関し「スロット領域は円領域システムの望ましくない部
分をふさぐ」(原文265頁右欄33行目~34行目、訳文2頁1行目~2行目)
と記載されているから、Figure17.の右側の図と本文の上記の記載を併せ理解するな
らば、甲第7号証には、円形投影視野の中央付近は、ふさぐべき「望ましくない部
分」であることが記載されているというべきであって、甲第7号証の上記の記載に
接した当業者は、円形投影視野の中央付近には露光用照明光分布を配置すべきでな
いという動機付けを得ることになるから、本件第1発明の構成に想到することが容
易であるということはできない。
    そして、本件第1発明は、上記相違点1の構成を備えることにより、本件
明細書(甲第2号証)記載の「本発明によれば、マスクと基板とを投影光学系に対
して相対移動させて走査露光する際に、投影光学系により基板上に投影される回路
パターンの一部の像を、投影光学系の円形視野内で1次元走査方向と交差した方向
に延びるとともに、1次元走査方向にほぼ一定の幅を有する直線的な1つのスリッ
ト領域内、又は複数の平行なスリット領域内に制限するように構成したため、投影
光学系の最良結像面と基板上の被露光領域の表面とを必要に応じて相対的に1次元
走査方向に関して傾けて走査露光することが可能となり、見かけ上の焦点深度を拡
大するような累進焦点露光法が容易に実現できる」(4頁左欄23行目~34行
目)との作用効果を達成することができるものと認められる。
  (3) 被告は、投影光学系光軸を含む矩形状又はスリット状領域を用いること
は、走査露光の技術分野において、リング領域を用いる以前に既に考えられていた
周知の手段にすぎないと主張し、乙第1号証には、「像質の適当な最大区域を作る
ためスリットによって規定される像野区域は、軸から半径方向に外方へ延び」(1
頁右欄18行目~20行目)との記載があるので、この点について判断する。
    乙第1号証には、「像質の適当な最大区域を作るためスリットによって規
定される像野区域は、軸から半径方向に外方へ延び、軸から像の悪化もしくは像質
のロスの程度が許容できなくなる距離を有する区域である。それで、このような軸
上結像を用いると、像質はフィールドにわたり均一ではない。本発明の主目的は、
良質結像の狭い環状ゾーンを作るための光学系を得ることである。・・・例えば実
体鏡結像は、航空写真において使用されるようなストリツプカメラにおいて、2つ
のスリツトを飛行機のフライト線上で環状ゾーンの半径方向に相対する部分を隣接
して配置することによって作ることができる。航空写真のために使用されるパノラ
マカメラにおいて、実体鏡結像は2つのスリツトをそれぞれ、フライト方向に対し
て直角である走査路の相対する側に配置することによって得られる」(2欄18行
目~3欄5行目)との記載があり、この記載によれば、乙第1号証中に示された技
術分野は、航空写真のために使用されるストリップカメラ及びパノラマカメラに関
するものであって、本件第1発明の技術分野である回路パターンの全体像を基板上
に走査露光する方法と技術分野を大きく異にするから、乙第1号証が本件特許出願
前に日本国内において刊行されたからといって、そこに記載された技術事項が、本
件第1発明の属する技術分野である、回路パターンの全体像を基板上に走査露光す
る技術分野においてまで周知の技術事項であったと認めることはできない。
    被告は、また、リング領域を採用すると、当該リング領域端部での露光量
が中心部に比べて多くなり、当該リング領域全体として露光ムラが生ずることは、
公知技術を示すまでもなく当業者において自明であり、したがって、リング領域が
偏心スロット領域及びスリット領域に比べ、走査方向に垂直な方向に露光領域を長
くすることができないことも自明であると主張する。
    しかしながら、本件全証拠によっても、「リング領域が偏心スロット領域
及びスリット領域に比べ、走査方向に垂直な方向に露光領域を長くすることができ
ないこと」が周知又は自明であることを認めることはできないから、上記認定のと
おり、甲第6号証記載の発明において「投影光学系の円形投影視野内のほぼ中央で
前記投影光学系の光軸を含み1次元走査の方向と交差した方向に直線的に延びた矩
形又はスリット領域内に制限されるように、矩形状又はスリット状の分布の露光用
照明光によってマスクを照射」することの動機付けを与えるものということはでき
ない。
  (4) したがって、本件決定の「投影光学系の投影視野内のどの部分を用いて投
影光学系のスリット状の分布の露光用照明光によってマスクを照射するかは、光学
系の収差等を考慮して当業者が容易に選択できる事項である」(決定謄本10頁7
行目~10行目)とする判断は誤りであり、取消事由2について判断するまでもな
く、本件第1発明について当業者が容易に発明をすることができたものとする本件
決定の判断は誤りである。
 2 本件第1発明に係る本件決定の上記判断が誤りである以上、本件第1発明に
従属する本件第2ないし第9発明に関する本件決定の判断も、同様に誤りであると
いわざるを得ない。
 3 以上のとおりであるから、原告主張の決定取消事由は理由があり、この誤り
が本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件決定は取消しを免
れない。
   よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき
行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠   原   勝   美
            裁判官   岡   本       岳
            裁判官   長   沢   幸   男

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