弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
第一、求める裁判
(一)、控訴人
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
(二)、被控訴人
主文と同旨。
第二、当事者双方の陳述、証拠の関係は、次に記載する外、原判決の記載を引用す
る。
(一)、控訴人
(1)、石油コンビナート等災害防止法が、昭和五〇年一二月一七日法律第八四号
として公布され、右に伴い消防法第一一条第二項も改正され、許可要件が従前「技
術上の基準に適合するものであるときは、許可を与えなければならない。」とあつ
たのを、「技術上の基準に適合し、かつ当該製造所、貯蔵所又は取扱所においてす
る危険物の貯蔵又は取扱いが公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼ
すおそれがないときは許可を与えなければならない。」と改正されている。
右改正趣旨に照らして改正前に於ても、環境保全並びに災害防止のため、控訴人が
被控訴人の了承を得て許可処分に特約ないし条件を付したときは、違法とすること
ができない。
本件のような給油取扱所の場合、その施設それ自体は「技術上の基準」に適合して
いても、周囲の住民の生活環境や農業水利等に与える影響は大きい場合があり得る
ので、その意味でなお考慮すべき点があるために、その設置、変更に若干の条件を
付する必要があるときは、設置、変更の許可処分をなすに当り、当然必要な付款を
付することは許されねばならない。
それは、法の明文に反するのではなく、生活環境の保全等社会公共の福祉を尊重
し、配慮しなければならない憲法上の要請であり、又同時に法の目的でもあるか
ら、法自体に内在しているものということができる。
(2)、本件給油取扱所変更許可処分に付された本件付款は、条例に根拠を有し有
効である。
高砂市に於ては、高砂市条例第二一号をもつて、高砂市環境保全条例が昭和四七年
七月一日制定、公布されている(乙二三号証)。そして、同条例では、ガソリンス
タンドは同条例にいう「指定工場等」に該当するとし(一条三項、別表第二、八九
号)、指定工場等の設置には市長の許可を受けねばならないが(二三条一項)、既
に設置した者が市長に一定の届け出をしたときは、同条例の許可を受けた者とみな
される(二五条一項、二項)。
しかし、指定工場等の「種類、場所及び方法」を変更しようとするときは、新たに
市長の許可を受けなければならず(三〇条一項、二三条二項七号)、市長は右の
「許可をするに当つては、公害の防止のため必要な限度に於て、条件を付すること
かできる」ものとされている(三〇条二項、二四条二項)。
しかし、右条例の施行については、付則一項に於て、公布の日から施行することに
なつており、ただし、二三条、二四条、三〇条等は、「公布の日から起算して六月
をこえない範囲内において規則で定める日から施行する」と定められている。そこ
で、右規定に基き、高砂市規則第三一号をもつて、「高砂市環境保全条例の一部の
施行期日を定める規則」が、昭和四七年一二月二七日制定、公布され(乙二四号
証)、条例の前記各条等についての施行期日は、同年一二月二八日とされている
(同規則二条)。
従つて、被控訴人の本件給油取扱所変更については、高砂市条例に基いて、新たに
控訴人の許可を受けることを必要とする。この場合、控訴人は右条例三〇条二項に
より、許可をするに当つて、公害防止のため必要な限度で条件を付することかでき
る。
控訴人は従来、ガソリンスタンドの設置、変更について許可をするに当り、公害防
止のため、付近住民の環境を保護する方法の第一歩として、最小の制限―隣接住民
の同意を条件付けてきた。そして、この条件を付することが、前記環境保全条例で
承認された。
ところが、被控訴人は右条例に基き本件給油取扱所変更の許可を新たに受ける必要
があるのに、未だ許可を受けていない。
控訴人は、消防法の許可を機関委任事務として行う場合でも、その事務の遂行は、
前提として地方自治法、条例等に則り適法性を確認した上で、初めてこれを行うこ
とができると解されるから、右条例に根拠を有する条件は、当然消防法上も付款と
して付することを得るものである。
(二)、被控訴人の陳述
(1)、本件無効の判断の基準時は、本件給油取扱所変更許可処分当時の消防法第
一一条二項の規定により判断されるべきである。裁判所の判断すべきことは、係争
の行政処分が違法に行われたかどうかの点であり、行政処分の行われた後、法律が
改正されたからといつて、行政庁は改正法律によつて行政処分をしたのではないか
ら、裁判所は、改正後の法律によつて行政処分の当否を判断することはできない
(最判昭和二七年一月二五日判決、民集六巻一号二二頁)。
本件付款である隣接住民Aの同意書が控訴人方に保存されても、本件給油取扱所に
おける危険物の貯蔵又は取扱いが公共の安全の維持又は災害発生の防止に支障を及
ぼすおそれが無くならないことは明白であるから、この点からも本件付款は無効で
ある。
(2)、消防法第一一条二項の許可は、あくまで消防法上の禁止の解除であつて、
他の法令による制約とは無関係である。例えば、農地法四条一項、都市計画法九条
一四項、建築基準法四九条等に於いては、その用途が制限されているので、如何に
本件により許可を受けても、これら他の法令による制約が所定の手続により解除さ
れない限り、現実の製造所等の建設をすることはできない。ただ、市町村長等とし
ては、こうした他の制約がある場合でも、それを教示することは差支えないが、そ
のことを許可すべきか否かの判断とを関連させて考慮すべきでない。
消防法一一条二項の許可は、消防法上の禁止を解除したにとどまり、消防法以外の
私法又は公法上の禁止制約を解除するものではない。
右の如く、本件変更許可処分に、高砂市環境保全条例を関連させて考慮し、許可す
べきか否かの判断をすべきでない。
また、消防法一一条二項は、国が控訴人に委任した機関委任事務であるから、地方
自治法二条二項及び一四条一項の規定により高砂市条例により右許可を規制するこ
とができない。
高砂市環境保全条例二五条は、経過措置の期限を昭和四八年三月三一日までと規定
している。然るに、右条例二五条による届出に必要な条例施行規則は、昭和四八年
三月三一日に公布され、実際上、高砂市民は、条例二五条の恩恵を受けることがで
きなくなつた。
そこで、条例事務を行つている高砂市公害対策室は、昭和四八年四月二六日条例説
明会(甲一八号証)に於て、条例二五条の届出期日を昭和四八年三月三一日より三
ケ月延期して昭和四八年六月末日頃まで延期し、条例二五条の「指定工場の設置工
事をしている者を含む。」の期限を、最小昭和四八年四月一五日とし、最大昭和四
八年四月二六日の説明会の日までとすると説明された。
従つて、すべての高砂市民は、条例と関係なしに、昭和四八年四月一五日又は同月
二六日まで指定工場(本件ではガソリンスタンド)の設置工事をすることができ
た。
被控訴人も右説明会の説明に従い、条例二五条の届出をし(甲九号証)、受理され
ている。
被控訴人は、昭和四八年三月三一日、本件変更工事の着工式を消防法に違反しない
程度に於て行い、塀の基礎の部分を堀り下げている。
控訴人は、右の如くすべての高砂市民に昭和四八年四月一五日又は同月二六日まで
指定工場の設置工事を許しておきながら、本件に於て被控訴人に対しては昭和四八
年三月三一日に指定工場の設置工事を禁ずる如き処分をすることは、公平の原則に
反する。
また、条例三〇条一項は「二三条一項の規定による許可を受けた者」に適用される
規定であるが、被控訴人が条例二五条二項の規定により条例二三条一項の許可を受
けたのは、甲九号証の受理された昭和四八年六月一九日であつて、本件許可のあつ
た昭和四八年三月三一日には、被控訴人は、条例二三条一項の許可を受けていなか
つた。従つて、本件許可に対して条例三〇条一項は適用され得ない。
(3)、本件変更許可申請は、昭和四八年三月八日に提出したが、設置許可申請に
するようにとのことで、数回受理を拒絶された。漸く、同年三月三〇日に、乙二二
号証の変更許可である戸田石油株式会社が提出している誓約書と同種類の申入書
(乙二号証)を添付して受理された。
本件変更許可申請までに、給油取扱所変更許可につき、隣接住民の同意書を提出し
た者は、未だ一件も存在しなかつた(乙二二号証)。
然るに、昭和四八年三月三一日B消防長に呼出され、強くAの同意書を要求された
ので、被控訴人は、右同意書提出を拒絶した。
本件許可申請について、被控訴人は、何人にも委任していないし、何人をも代理人
に選んでいない。
(4)、被控訴人は、昭和三二年三月三一日給油場許可書(甲一三号証)により、
ガソリン九〇〇立を地上において置場を造り貯蔵し取扱うことを許されていた。
しかし、右許可は、昭衣三四年四月一日法律第八六号により改正された消防法の付
則二項において給油取扱所とみなされた。
右給油取扱所は、その位置、構造及び設備が改正された消防法一〇条四項の技術上
の基準に適合していなかつたので、控訴人より指示書(甲五号証)を渡され、改修
しなければならなかつた。
しかし、昭和四六年六月一日法律第九七号により消防法が改正され、その付則四項
により、昭和四八年一月一日から右技術上の基準に適合するよう改造しなくてはな
らなくなつた。
消防法の右基準を規定した「危険物の規制に関する政令」の一七条一項五号によれ
ば、右許可のような置場を造り、ガソリン九〇〇立も貯蔵し取扱うことは危険であ
るから、容量一万立以下の専用タンクを地盤面下に埋没して設けるよう規定してい
るし、又、右許可のような六〇〇立の簡易タンクは都市計画法八条一項五号の防火
地域及び準防火地域以外の危険性の少い地域に限り許されている。
又右六〇〇立ポータブル(簡易タンク)は暫定的で、地下タンクに改造する条件で
許可を受けていた(甲一三号証)。
故に、被控訴人は、消防法により安全でしかも給油取扱所としては日本一小さい三
〇〇〇立の地下タンクに改造するよう変更許可申請をした。
現在では殆んど危険であるので、六〇〇立簡易タンク給油取扱所は許可されていな
いときいている。被控訴人は安全な基準に変更した。
六 〇〇立ポータブルは、改造中の営業用であり、改造後廃棄し、右三〇〇〇立の
みとなる。
(5)、本件念書(乙一号証)は、本件可搬式給油所を固定式給油所に変更するこ
とに関し、記されたものである。
従つて、本件念書は、本件灯油専用の一般取扱所設置申請の許可処分とは無関係で
ある。
原審証人Cは、本件灯油専門の一般取扱所は、消防法一一条二項の技術上の基準に
適合していると証言している。故に、控訴人は、消防法一一条二項の規定により許
可を与えなければならないのであつて、付款を付することは許されない。
灯油専用の一般取扱所は、消防庁通達(昭和三九年三月四日一六号)の給油取扱所
内に設置する灯油専用の一般取扱所の設置基準により、消防法一一条二項の規定に
より許可されるもので、本件給油取扱所変更許可が無くても、本件給油取扱所は昭
和三二年に許可され、現在営業中であるから、右基準に適合している本件の場合、
当然許可を与えねばならない。
本件可搬式給油所の仮使用は、昭和四八年七月三日に承認番号四〇二号として承認
されているのである(乙一九号証と滝本証言)。本件給油取扱所変更許可があり完
成検査を受ける前に於ても、仮に右承認を受けた乙一九号証の配置図の赤く書かれ
た部分を、消防法一一条五項の規定により使用することができる。
右の如く、右仮使用及び灯油専用の一般取扱所は、営業することが可能である。
控訴人は、灯油専用の一般取扱所の設置許可を与えなければならないのに拘らず、
高砂市<地名略>に約百五十キロリツトルの灯油タンクを二基設置して高砂市の最
大級の薪炭商として大々的に灯油を販売しているマツバ商事株式会社の有力な灯油
販売者であり、又、マツバガスの曽根支店として大量にプロパンガスを販売してい
る薪炭商(滝本証言)のAの同意書を提出するまでは許可を留保していることは、
不可解なことである。
(三)、証拠(省略)
○ 理由
次に記載する外、原判決の理由を引用する。
原判決一〇枚目表二行目に「給湯場」とあるのを、「給油場」と訂正する。
控訴人は、消防法がその後改正されたから、改正前に於ても右改正の趣旨に照し、
控訴人の処分は違法でない旨主張するが、処分の当否は、処分時の法及び事実状態
に基いて判断すべきものと解するのが相当であり、原審の控訴人の右主張に関する
判断は正当であり、控訴人主張の憲法上の要請に反するものではないから、控訴人
の右に関する主張は採用しない。
控訴人は、本件給油取扱所変更処分に付された本件付款は条例に根拠を有し有効で
ある旨主張するが、本件はもつぱら消防法上の許可であり、控訴人主張の法的解釈
が許されないこと、原判決の示すとおりである。
よつて、控訴人主張のうち、消防法以外の条例を根拠として、本件給油所変更が行
政上の許可を受くるに必要な要件を欠いているから、右欠缺を補充させるために付
したものとして本件附款は適法有効である旨の控訴人の原、当審における各種主張
は、すべて本件許可の要件とすべきでない事項をその要件と主張するに帰し、すべ
て採用しない。
以上の認定、判断に反する当事者双方の主張は採用せず、右認定を左右する証拠は
ない。
よつて、被控訴人の主位的各請求はいずれも正当であり、これを認容した原判決は
相当で、本件控訴はその理由がないから、これを棄却し、民法第九五条、第八九条
に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 長瀬清澄 岡部重信 藤井正雄)

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