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(原審・東京地方裁判所平成9年(行ウ)第81号療養補償給付等不支給処分取消請
求事件(原審言渡日平成13年9月25日))
     主      文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が,昭和59年4月3日付けで控訴人に対してした療養補償給付及び
休業補償給付を不支給とする処分を取り消す。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
     事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
主文同旨
2 控訴の趣旨に対する答弁
 (1)本件控訴を棄却する。
 (2)控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1本件は,航空会社の客室乗務員(スチュワーデス,アシスタントパーサー)で
あった控訴人が,控訴人に発症した頸肩腕症候群ないし頸肩腕障害及び腰痛は上記
客室乗務員としての業務に従事したために発症した業務上の疾病であるとして,被
控訴人に対して労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく療
養補償給付及び休業補償給付の請求をしたが,被控訴人が控訴人の同疾病は業務上
のものとは認められないとして不支給とする処分をしたため,その取消を求めてい
る事案である。
第1審判決は,客室乗務員の業務内容・性質が腰部,頸肩腕部に負担や疲労を生じ
させるものであること,控訴人の腰部,頸肩腕部の症状は長年にわたり控訴人が客
室乗務員としての業務に従事した過程において発生したものであること,業務以外
に明らかに控訴人の症状を発生させる原因となった要因は窺えないこと等からする
と,控訴人の疾病は,長年客室乗務員としての業務に従事したことにより蓄積され
た腰部,頸肩腕部の疲労が慢性化し,頸肩腕症候群ないし頸肩腕障害,腰痛症とし
て発症するに至ったものとして,客室乗務員の業務がその有力な原因ではないかと
も考えられるが,一方,控訴人の従事した発症前1年間の業務は過重とはいえず,
控訴人は休日,休暇等も十分に取得していることからすれば,控訴人に生じたよう
な腰部,頸肩腕部の疲労は,通常は休日に休息することや運動をすること等により
回復することができるとも考えられるし,頸肩腕症候群の原因は不明であり,個体
の肉体的・精神的素因に社会的環境要因が働いて発症することが多いこと,腰痛は
日常生活においても頻繁に発生し,労働以外の影響も考えられることを併せ考える
と,控訴人の疾病と控訴人が従事した客室乗務員としての業務の間に,経験則上,
業務に内在する危険が現実化したといえるほどの関係,すなわち労災補償を認める
のを相当するほどの関係があったとまではいえないとして,控訴人の前記請求を棄
却した。
2当事者間に争いのない事実等,関係法令等の概要,争点及びこれについての当
事者の主張は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第二の
一ないし三に記載のとおりであるから,これを引用する。
 (1)原判決4頁4行目の「五月二四日生」を「5月14日生」に,同5頁5行目
の「社団」を「財団」にそれぞれ改める。
 (2)原判決34頁11行目から同35頁1行目にかけての「『就労の明細一一月
まで』の次に「。ただし,原判決別紙(4)-4の昭和55年10月13日欄について
は,乗務時間を11時間,勤務終了時刻を20時55分,勤務時間を10時間,就
業時間終了時刻を21時55分,就業時間を11時間,労働時間終了時刻を21時
55分,労働時間を11時間30分,勤務概要を『903羽田→福岡(待機)→羽
田』と訂正する。当日は,東京から沖縄への往復便に乗務する予定であったが,台風
の関係で福岡空港に着陸し,最終的には東京へ引き返したものであり,機内業務だ
けでも11時間に及んだ。」を加える。
 (3)原判決35頁11行目の「昭和五〇年一一月」を「昭和52年11月」に,
同36頁11行目の「小豆沢医院」を「小豆沢病院」にそれぞれ改める。
 (4)原判決37頁9行目の末尾に「(なお,控訴人は昭和53年12月に国内線
勤務に復帰してからすぐに結婚し,東京都八王子市に居住して炊事・洗濯・掃除等
の家事に従事することになったが,同じ敷地内に住む夫の母がこれらの家事を手伝
ってくれたために特別の負担になることはなかった。また,控訴人には子供はいな
い。)」を加える。
第3 当裁判所の判断
1 労災保険法上の保険給付は労働者の業務上の疾病等について給付されるのであ
るから(同法7条1号),そのためには,当該業務に従事したことと当該疾病等が
発症したこととの間に相当因果関係のあることが必要である。そして,上記相当因
果関係があるといえるためには、当該業務が疾病等の発症に何らかの寄与をしてい
るというだけでは足りず,当該業務が当該疾病等の発症に対して唯一ないし最大の
原因である必要はないが,他の原因と比較しても相対的に有力な原因となっている
と認められることが必要であり,かつ,それで足りるものと解される。
そして,上記の判断については,当該労働者の業務の内容・性質,作業環境,業務
に従事した期間等の労働状況,当該労働者の疾病発症前の健康状況,発症の経緯,
発症した症状の推移と業務との対応関係,業務以外の当該疾病を発症させる原因の
有無及びその程度,同種の業務に従事している他の労働者の類似症状の発症の有
無,当該疾病とその発症についての医学的知見等の諸般の事情を総合して判断する
必要があるから,以下においては,まず,このような諸事情について検討する。
2①客室乗務員の業務の性質・内容,作業環境,業務従事期間等の労働状況,②
控訴人の勤務状況,健康状況及び発症した症状の推移,乗務時間等,③同種業務に従
事している他の労働者の類似症状の有無,④控訴人の疾病と業務との因果関係等に
関する医師の意見については,以下に補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄
の第三の一から五に記載のとおりであるから,これを引用する。
 (1)原判決66頁8行目と同9行目の間に以下のとおり挿入する。
「また,控訴人が主として搭乗していたB747SR及びDC10における客室
乗務員の作業空間は,平均的な体格の女子客室乗務員(控訴人の身長は161㎝で
あり,ほぼ平均である。)が無理なく前記1の各業務を行えるかという観点からみ
たときには,ギャレーの収納戸棚の引き手の位置(最上段のものでは床上170㎝
以上のところにあり,かつ43㎝ないし50㎝引っ込んでいる。)やテーブル(1
05㎝)は高過ぎるし,ギャレー内は狭く,出入口も大型のカートを出し入れする
には不自由であり,通路も48ないし50㎝程度と狭く,通路から窓側座席への距
離も96ないし97㎝あって前傾姿勢をとって身体を伸ばさないと窓側座席の乗客
に対して飲食物の提供ができないなど,女子客室乗務員にとって必ずしも作業のし
やすいものとはいえず,A医師の女子客室乗務員107名の身体測定の結果からす
れば,上記航空機の作業空間は多くの女子客室乗務員にとって肩,上肢,腰部等へ
一定の負荷が加わることは避け難い構造となっている。」
 (2)原判決68頁10行目の「一一、一二の各1、2、一四、」を「11ない
し」に改め,同行の末尾に「65,66,」を加え,同69頁1行目の「五月二四
日生」を「5月14日生」に改める。
 (3)原判決71頁9行目の「乗務するようになったが、」の次に「国際線移行訓
練中は規則正しい生活を送ったこともあって体調は好転したものの,」を加える。
 (4)原判決75頁4行目の「全身の」から同5行目末尾までを「全身に鉛が張り
ついたような感じの状態が続いた。」に,同10行目の「後弯性」を「後弯位」に
それぞれ改め,同11行目末尾に「そこで,控訴人は同日から休業し,最初は起き
上がるのもつらく感じられたので通院以外は寝て過ごし,同年12月中ごろからは
徐々に家事を少しづつするようにして休養した。なお,控訴人にはその間の通院治
療及び家庭での休養生活中に特段腰痛を起こすような出来事はなかった。」を加え
る。
 (5)原判決76頁1行目の「小豆沢医院」を「小豆沢病院」に,同2行目の「同
医院」を「同病院」に,同5行目の「両肩の」から9行目の「状態と考える。」ま
でを「両肩の筋硬結,圧痛プラス,背中異常なし,腰椎は前屈は正常だが,過伸展
で疼痛あり,ラセギューマイナス,第一趾背筋力正常,後方そらしで痛みあり,膝
蓋腱,アキレス腱とも腱反射正常,顔,頸,上肢,下肢とも知覚異常マイナス。以
上の所見から,過労性症候群の症状の軽快してきた状態と考える。」にそれぞれ改
め,同9行目の末尾に「なお,控訴人は同年1月末ころから,全身の緊張緩和と軽
度の負荷運動による運動能力回復を目標として,日本航空が提携したスポーツクラ
ブ等で水泳を始め,これとともに小豆沢病院での温熱療法,マッサージ治療,体操
療法を続けることにより徐々に症状が回復してきた。」を加える。
 (6)原判決77頁6行目と7行目の間に以下のとおり挿入する。
「なお,その後の控訴人の症状及び職場復帰の経過はおおむね次のとおりであ
る。
すなわち,控訴人は,休業療養中に次第に症状が回復してきたことから,昭和5
6年5月11日から乗務に復帰し,軽減業務(当初は編成外での月間総乗務時間2
0時間以内乗務,同年9月からは月間総乗務時間30時間以内乗務,同年11月か
らは月間総乗務時間40時間以内乗務,昭和57年3月からは月間総乗務時間50
時間以内乗務)に就いたものの,再び症状は一進一退を繰り返した。
控訴人は,産業医と相談の上,昭和57年6月11日から社内トレーニング制度の
適用を受けることとし,勤務することなく週2日ないし3日のトレーニングを受
け,それ以外の時間は休養に当てることができたため,体力がついたこととあいま
って,疲労の回復が早くなった。
そこで,控訴人は,昭和57年10月から再び乗務に復帰し,軽減業務(当初は編
成外での月間総乗務時間30時間以内乗務,同年11月からは編成内で月間総乗務
時間40時間以内乗務,昭和58年1月からは月間総乗務時間50時間以内乗務)
に就き,一時的な一進一退はあったものの,次第に回復し,同年3月からは通常乗
務に復帰した。それ以降,控訴人が退職した平成8年9月までの間において,肩の
こりや上肢・背中の痛み,重だるさを感じることはあったものの,それも通常の勤
務体制の中で回復し,休業等に至ったことはない。」
 (7)原判決77頁8行目冒頭から11行目末尾までを削り,同78頁2行目の
「三八、」の次に「64,66,」を加え,同6行目の「ついては、」の次の「、」
を削る。
 (8)原判決80頁の2行目冒頭から同81頁3行目末尾までを以下のとおり改め
る。
「控訴人の昭和54年11月から昭和55年10月までの総乗務時間は,同じ時
期の同僚の平均総乗務時間とほぼ同等である(乙2によれば,年間で同僚よりも約
6時間少ないが,これによっても控訴人の乗務時間は月平均約43時間2分であ
り,甲64(表103)によれば,日本航空国内線のアシスタントパーサーの月別
平均乗務時間は,昭和55年度が41.3時間,同56年度が44.1時間,同4
7年度が44.6とされており,この資料を前提にすれば,控訴人の昭和55年に
おける休業前までの乗務時間は平均を若干上回っていると思われる。)。
 (二) 昭和55年7月から同年11月までの間の控訴人の乗務時間等を示す原判
決別紙(4)-1ないし5の記載は,証拠(控訴人本人)によれば,控訴人本人のメモ
に基づく記載であることが認められ,その記載の正確性を担保するものはないから
全面的に採用することは困難というべきであり,乗務時間,乗務日数及び乗務区間
数については日本航空の資料に基づくと認められる原判決別紙(6)の記載の方が正確
(乗務日数については齟齬はない。)と認められるが,両者の間の相違はそう大きく
はなく,乗務時間についても原判決別紙(4)-1ないし5の記載の方が必ずしも長時
間ともいえないことからすれば,原判決別紙(4)-1ないし5の記載(甲38。ただ
し,昭和55年10月13日欄については,当審において変更した前記主張に沿う
甲66)も控訴人の上記の間の勤務状況を知るうえで十分に参考にし得るものとい
える。
 (三)これらによれば,控訴人は,昭和55年7月は6日から12日まで有給休
暇を取得した後,同月15日から乗務を開始し,その後同月31日までの乗務日数
は9日,乗務区間数は13,待機勤務は3日であり,乗務時間は34ないし35時
間程度と推認される。同年8月の乗務日数は16日,乗務区間数は35,待機勤務
は3日,乗務時間は50時間57分であり,同年9月の乗務日数は13日,乗務区
間数は28,待機勤務は3日,乗務時間は48時間38分と認められ,この7月後
半から8月中の勤務は,前記のとおり昭和55年度のアシスタントパーサーの月別
平均乗務時間が41.3時間であることや,この期間は子供連れの搭乗客等も多い
ことからすると,他の同僚客室乗務員もほぼ同様と推測されるが,年間の平均的な
勤務よりも相当に過密な勤務であったといえる。その後,同年10月の勤務は,乗
務日数10日,乗務区間数19,待機勤務4日,乗務時間は33時間51分であ
り,前記の期間に比べると比較的楽な勤務となっているが,これは控訴人が友人の
結婚式に出席することもあって,3日間の有給休暇を含め同月16日から21日ま
で連続6日の休暇を取得したことによるものと思われる。なお,甲65によれば,
10月13日には台風の関係で福岡空港での機内待機が長時間に及んだことが窺わ
れるが,この時間が上記乗務時間にどのように反映されているのかは必ずしも明ら
かではない。その後,控訴人が勤務を再開した同月22日から休業前の最後の勤務
(自宅待機を除く。)となる11月20日までの約1か月は,乗務日数14日,乗
務区間数27ないし28程度,待機勤務3日,乗務時間は46時間程度であったと
推認され,期間設定の問題点を考慮するにしても,再び年間の平均的な勤務をやや
上回る程度の密度の勤務であったということができる。
 (四)以上のような勤務状況の中で,控訴人は,同年8月ころから肩こりが背中
まで広がり,腕がだるく,ポットからの飲み物の注入,トレイによる飲み物サービ
ス,客室上部収納棚の開閉に一段と苦痛を覚えるようになり,前記10月に取得し
た連続休暇でも疲労や上記の症状は十分には回復せず,勤務を再開した後の同月下
旬ころからは,全身的な疲労感を覚え,乗客へ搭乗・降機時の挨拶をする際に同じ
姿勢で立っていることさえが苦痛となった。そして,同年11月になると,控訴人
の肩,背中,頸のこり,はりは更にひどくなり,腕のだるさも続き,身体中の重だ
るさ,腕のだるさがとれず,全身の硬直もとれない状態が続いた。休業直前の11
月20日には,控訴人は午前4時30分に起床し,5時30分に自宅を出て,東京
-沖縄便の往復乗務に就いたが,勤務を終了するころには疲労困憊の状況であっ
た。」
 (9)原判決81頁6行目の「甲一七、」の次に「19,」を,同行「五二、」の
次に「53,」をそれぞれ加え,同83頁7行目冒頭から同9行目末尾までを「な
お,本報告書の『Ⅴ・結語』には,『いわゆる非災害性腰痛は作業負荷が原因とは認
められ難い。』との結論が示されているが,その前提となる『Ⅳ・考察』における
説明は,乗務中の作業はエネルギー消費量からみると軽度であり,作業負担面から
は疲労の蓄積は認められないものであって,作業そのものが腰痛の主要原因の1つ
であるという結論は得られていないというものである。」に改める。
 (10)原判決84頁11行目と同85頁1行目との間に以下のとおり挿入する。
「また,過去1年間に罹患した疾病についての質問では,女性客室乗務員全体の
7.0%が頸肩腕症候群を挙げており,同じく自覚症状として『よく肩がこる』と
訴えた者は60.2%,『背中が痛い』と訴えた者が30.9%,『腕や手指の痛
み・しびれあり』と訴えた者が12.5%,『腕がいつもだるい』と訴えた者が
9.9%いた(甲17)。」
(11)原判決89頁9行目の「B1」を「B2」に改め,同95頁9行目,10行目
及び11行目の各「パーセント」を削り,同101頁10行目の「圧通点」を「圧
痛点」に,同107頁3行目の「B1」を「B2」に,同4行目の「B1意見」を
「B2意見」にそれぞれ改める。
2 以上認定した事実によれば,以下のようにいうことができる。
 (1)客室乗務員の業務内容・性質,労働環境
客室乗務員の業務のうち,旅客搭乗から旅客降機までの間に航空機内で行われる飲
み物のサービス準備,おしぼりの配布,飲み物の配布,新聞・雑誌,枕・毛布など
の配布,食事サービス,新聞・雑誌の回収,再配布,旅客の手荷物の収納棚への収
納援助,アントレ付け等の作業や旅客搭乗前の点検作業(保安用機材,機内設備,
旅客座席設備,毛布,枕,補助テーブルなどの機内備品,サービス用搭載品,客室
全体の清掃状況等の点検),旅客降機後の忘れ物の点検といった作業及びその繰り
返しは,作業ごとにその態様は異なるものの,狭い通路やギャレー内で,腰部,背
部,腕・肩・手の静的筋収縮をともなう不自然な姿勢による作業であって,限られ
た航行時間内に間断なく行われ,衆人環視の中の作業が多いことや食事・休息の場
所・時間が十分に確保されないことなどの労働環境の特殊性と相まって,精神的緊
張を伴い,肉体的にも疲労度の高いものであるということができるし,これらが複
合的に作用する結果,腰部及び頸肩腕部に相当の負担のかかる状態で行う作業であ
るということができる。
もっとも,これらの作業の繰り返しは,乗務時間中に限られた1動作のみを反覆継
続して行うものではなく,一連の作業の一環として行われるもので,各作業とも作
業時間は航行時間内と自ずと限定されている。
 (2)控訴人の勤務状況
控訴人の国内線乗務は,原則として,3連続勤務日,2休日,3連続勤務日,1休
日の繰り返しで勤務割が固定され,3日間連続勤務の内容は,2泊3日のパターン
便,1泊2日と日帰りの組み合わせ,日帰りパターンのみ3日間の繰り返しがあ
る。
控訴人の発症前1年間の乗務時間は,月別に見た場合,多い場合でも58時間強
で,40時間に足りない月もかなり混在しているが,ほぼ休業1年前である昭和5
4年11月から同55年10月までの間の総乗務時間は,同時期の同僚客室乗務員
(アシスタントパーサー)の平均といえる。
また,1か月の非乗務日数は平均18.3日,乗務日数は平均11.9日で,非乗
務日数の方がかなり多い。また,控訴人には所定の休日も与えられており,そのほ
か,発症前の5か月間については,昭和55年7月に6日,同年10月には4日,
同年11月には2日の年休をそれぞれ取得している。
これらのことからすると,控訴人の発症前1年間の勤務時間は同僚の客室乗務員
(アシスタントパーサー)に比して,ほぼ平均的なものといえる。そして,控訴人
の乗務する路線の飛行時間,その間の業務の内容からすれば,早朝勤務や深夜勤
務,あるいは乗務区間が変更になることがあること,非乗務日においても,デッド
ヘッドや待機勤務があることを考慮するにしても,勤務時間という面からだけみれ
ば,控訴人の勤務形態はそれほど過密なものであったとはいえないが,その中では
控訴人が発症する前の7月後半から11月中旬ころまでの勤務は比較的乗務の多い
時期であったといえる。
 (3)控訴人の健康状況及び発症した症状の推移
控訴人は,昭和28年生まれであり,昭和49年1月(当時20歳)に日本航空の
客室乗務員として採用されたのであるが,学生時代は運動部に所属して活躍するな
ど全くの健康体であり,採用時の身体検査でも何らの異常も発見されていない。
控訴人は,同年4月から国内線スチュワーデスとして乗務を開始したが,そのころ
から徐々に肩のはり,腕のだるさを覚えるようになった(なお,控訴人は昭和50
年4月8日に,タービュランスにより腰を捻り,腰痛症と診断されて3週間休業し
た。)。その後,控訴人は昭和52年9月から10月にかけて機内勤務を離れて国
際線乗務のための移行訓練を受け,その際には一時体調が好転したものの,同年1
1月から国際線のアシスタントパーサーとしての乗務を開始してからは長時間勤務
や時差調整等の難しさ等から強い疲労感を覚えるようになり,昭和53年12月か
ら国内線の勤務に復帰した後も上記疲労感は抜けず,肩のはり,腕のだるさ等の自
覚症状が持続した。控訴人は,昭和54年11月及び同55年6月に行われた社内
の定期健康診断では,いずれも頸肩腕部の痛みの自覚症状が常にある,腰部につい
ては現在はないが過去に自覚症状があったと答えている。
昭和55年8月ころからは,上記の頸肩腕部を中心とした自覚症状は一段と悪化
し,同年11月には全身がこってしまったような硬直のとれない状態となったた
め,同月28日にG医院で受診し,控訴人が自覚症状として最もつらく感じていた
肩こり,左上肢のだるさ,指のしびれ感を訴えたところ「頸肩腕症候群」と診断さ
れ,休業療養を指示された。控訴人は同日から休業し,通院して頸椎の温熱療法及
び牽引療法を受けながら,家事も控えめにして休養していたところ,全身の硬直は
徐々に取れてきた一方で,局所的な痛みを自覚するようになった。控訴人は,その
後症状が改善しないことから,翌昭和56年1月23日に小豆沢病院で受診してこ
れを訴えたところ,「過労性頸肩腕障害・過労性腰痛症」と診断された(控訴人は
当時27歳)。
控訴人は上記休業療養中に水泳やストレッチング等の体操療法も受け,徐々に症状
が改善してきたことから,昭和56年5月から乗務に復帰し,当初の約1年間は一
進一退を繰り返していたが,昭和57年6月からは社内トレーニング制度の適用を
受け,週に2,3回のトレーニングを受けたこともあって徐々に症状も改善されて
いった。その後,控訴人は同年10月から段階的に勤務に復帰し,以後日本航空を
退職した平成8年9月までの間に一時的に肩のこりや上肢・背中の痛み,重だるさ
を覚えるようなことはあっても通常の勤務態勢の中で回復し,休業等に至ったこと
はない。
これらの経緯からすると,控訴人の頸肩腕部を中心とする症状は,控訴人が客室乗
務員としての勤務を開始した時期と重なるようにして出現し,増悪していったもの
で,国際線乗務のための移行訓練を受けたときのように一時的にでも上記業務を離
れると軽快するといった対応関係を見て取れる。
また,休業後の控訴人の症状は,控訴人が十分な休養をとり,運動をすることによ
り改善されていったものと推認され,控訴人が休暇の取り方を工夫したこと,仕事
の要領を覚えたこと,控訴人が休業した後に航空機及び客室乗務員が業務に使用す
るおしぼりの籠,ポット,カート等の用具類が改善されたことも症状の再発防止に
寄与したものと認められる。
なお,控訴人は昭和53年12月に国内線勤務に復帰してからすぐに結婚し,それ
まで住んでいた千葉県船橋市の日本航空の寮から東京都八王子市に転居したため通
勤等の負担は増したが,同じ敷地内に夫の両親が住んでおり,子供もいないことも
あって,家事労働が特別の負担になったような事情は見当たらない。
 (4)同種業務に従事している他の労働者の類似症状発症の有無等
客室乗務員の健康障害(慢性的経過をたどる腰背部の痛み・だるさ等及び頸肩腕部
の痛み・だるさ等)と業務との関係については,客室乗務員には,①作業に当たり
動揺する機内で立位姿勢を保持し,反生理的作業空間に姿勢や肢位を合わせつつ,物
を運搬したり保持することに伴う「筋骨格器系への負担」,②狭く不安定な機内で
ミスのないよう乗客へ迅速にサービスすることや衆人環視に伴う「精神緊張の持
続」,③騒音,気圧低下,湿度低下などの作業環境上のストレスに対する「自律神
経系の反応」の3種類の質の負担がほぼ同時的に存在し,①については,客室乗務
員の労働負担の質と健康障害の質との間には対応関係があり,この対応関係は因果
関係のある対応関係とみなしたほうが合理的であるとの指摘がある(甲8)。この
業務起因性についての人間工学的検討は,なお慎重な検討,吟味が必要というもの
の,客室乗務員の業務が腰背部や頸肩腕部に障害を発生させる可能性があることを
示すものということができる。他方,客室乗務員の腰痛と業務との関係を否定する
かのような報告書(甲43)もないではないが,同報告書が積極的に上記の関係を
否定し得る根拠を示しているとは認められず,そのような関係を認めるべき結論は
得られていないというに止まるものであり,同報告書でも女子客室乗務員に相当高
率で腰痛の訴えがあることは認めている。
客室乗務員に腰痛,慢性的な疲労蓄積等の訴えが高率に見られたという報告は相当
数に上っており(甲17,19,20,29ないし31,35,43,44,証人
K),その多くは業務との関連性を示唆するものとされている。
また,頸肩腕症状についても,前記認定(甲17)のほか,上記甲8では身体測定
を実施した107名の女子客室乗務員から腰痛症で休業治療中の7名を除いた10
0名に翌朝に持ち越す疲労症状を質問したところ,「肩のこり・痛み」を挙げた者
が約80%,「背中や腰の痛み・だるさ」を挙げた者が約90%,「腕のだるさ・
いたみ」を挙げた者が約40%いたことが報告されているし,国際線勤務者の男子
68名,女子365名に日本での休養期間中に経験した自覚症状を調査票を用いて
調査したところ,「首すじのこり」を訴えた者が34.1%,同様に「肩こり」4
5.3%,「背中のだるさ」16.2%といった結果が得られたこと,これらの中
には「こり」,「だるさ」が強いと答えた者も相当割合いたこと等の報告もある
(甲18)。
これらの報告は,いずれもアンケート調査等を主体としたものであることや,総じ
て腰痛や頸肩腕部の症状が疲労感の域を出ないものか,疾病とまで診断できるもの
かの区分が明確でないといった問題点はあるものの,少なくても客室乗務員の業務
が頸肩腕部や腰部に相当の負荷をもたらしていることを裏付けるものといえる。
 (5)控訴人の疾病と業務との因果関係に関する医師の見解
控訴人にみられる頸肩腕症候群(頸肩腕障害)及び過労性腰痛が客室乗務員として
の業務に起因するか否かについては多くの医師の見解が明らかにされているが,結
論は一致していない。
 アC意見及びB2意見について
C意見は,結局のところ,具体的事実と控訴人の症状の経過をみると,業務が原因
としか考えられないとするものであるが,やや抽象的に過ぎる嫌いがある。しか
し,C意見は控訴人を直接診察し,所見をとった医師の意見という点では他の意見
とは異なる特色を有する。
また,B2意見は,「控訴人の疾病がその業務と疫学的に因果関係ありとされた疾
病と同じものであること」という同意見の定立した要件について,災害性腰痛と非
災害性の腰痛との区別,単なる疲労に止まる腰痛と疾病と認められる程度に至った
腰痛との区別が明確にされないで検討されており,この点に問題はあるものの,客
室乗務員に生じた頸肩腕症候群及び腰痛と業務との因果関係を検討する上で参考と
なる資料を提供するものといえる。
上記の各意見は,控訴人に生じた症状の根本的な原因を業務による蓄積疲労にある
とするものであり,その立場から控訴人の症状について日本産業衛生学会の提唱す
る「過労性腰痛・過労性頸肩腕障害」との診断名を付しているが,これは控訴人の
症状を一般の臨床で用いられている頸肩腕症候群及び腰痛と認定することと矛盾す
るものではないと解される。なお,当審において提出されたJ医師の鑑定意見書
(甲68)も同様の立場から,ほぼ同意見を述べており,控訴人が日本航空を退職
した後である平成13年1月28日の診察では,控訴人に生じていた頸肩腕症状や
腰背部の症状が全く消退していると報告している。
 イD意見及びE意見について
D意見及びE意見は,いずれも控訴人の業務量が同僚に比してむしろ少ないことを
根拠に控訴人の症状が業務上のものと認めるのは困難というものであり,積極的に
業務上のものではないとするものではない。しかし,控訴人の発症前1年間の業務
量が同僚とそれに匹敵することは前述のとおりであり,この程度の業務量では業務
上のものと認められないという根拠は格別示されていない。
なお,E意見は,控訴人の国際線乗務時期と発症時期との関係から,控訴人の症状
と国際線勤務との間に相当因果関係があるとは認められないとしているが,控訴人
がその後客室乗務員としての業務に従事していないというのならともかく,その後
も国内線の客室乗務員としての業務を継続しているのであるから,国際線客室乗務
員としての業務のみを切り離して論じることは当を得たものとはいえない。
 ウF意見について
F意見が,控訴人の国際線乗務のみを切り離して論じている点が当を得たものでな
いことは前記のとおりである。そして,F意見は,控訴人の疾病と国内線業務との
因果関係を否定する根拠として,控訴人の症状がG医師の初診時に比してC医師の
初診時における他覚的異常が明確であり,腰痛の所見が新たに認められていること
から,この間に病態が進行したとの前提に立って,控訴人の症状が業務によるもの
と考えるには矛盾があるとしている。
しかしながら,証拠(甲4,5,60,控訴人本人)によれば,控訴人がG医院を
受診した際には,控訴人が耐え難く感じていた頸肩腕部の異常を主として訴えたた
めに,同医師はその点を中心にして診察し,必ずしも控訴人の他覚的所見について
は十分な検査を行っていないことが認めれるから,G医師の診察時における所見が
乏しいからといって,控訴人にその他の症状,所見がなかったとまでいうことはで
きない。また,腰痛については,控訴人がG医院を最初に受診した時点では,控訴
人は全身が硬直したような状態にあり,上記のとおり頸肩腕部の異常を最も耐え難
いものと感じ,これを主としてG医師に訴えたものであるが,全身の硬直状態が徐
々に改善されていくにしたがって局所的な痛みとして自覚するようになったという
ものであって,それ自体理解できないでもない。したがって,G医師で受診したと
きの症状が腰背部のこり,だるさの域を超えて腰痛との所見が得られるものであっ
たか否かは証拠上不明といわざるを得ないが,上記のような経過からすれば,少な
くても小豆沢病院で受診するまでの間に病態が増悪したとまでいえないし,休業中
の控訴人の生活行動やG医院における物理療法等の不適合が原因となって新たに腰
痛が発症したと疑うに足る証拠もない。
したがって,F意見は前提において問題があるといわざるを得ない。
なお,F意見も控訴人の症状が業務に起因したものではないと判断できるとまでい
うものではない(証人F)。
 エH意見について
H意見は,控訴人の頸肩腕部の症状については,控訴人の業務が頸肩腕症候群を発
症させるほどの業務量ではなく,控訴人には愁訴に比して他覚的所見が乏しく,
3・4・5頸椎の後弯は加齢による退行性変性を起こしたものと考えられることや
タービュランスに遭遇したことの心理的な影響といった個体要因が影響している可
能性があるとし,また,腰痛についても,過大な作業量の業務に従事していたとは
認められず,前記3・4・5頸椎の後弯の影響,C医師による「前屈は正常」との
所見からして疲労性腰痛とは考えにくいこと,タービュランスに遭遇したことの心
理的な影響を挙げて,控訴人の症状は業務に起因するものとは認められないとする
ものである。
しかし,客室乗務員としての業務が腰部,頸肩腕部に負担をもたらすものであるこ
とは前記認定のとおりである。そして,H意見でも控訴人が従事していた程度の業
務量では頸肩腕症候群や腰痛が生じることはないという根拠は何ら示されていな
い。そして,控訴人の3・4・5頸椎の後弯については,F医師は,「控訴人の
3・4・5頸椎の後弯は若い人にはよくあることで生理的な範囲であり,この後弯
が控訴人の訴える痛みに大いに影響していると考える根拠はない。」としているこ
と(証人F),C医師も,「頸・背部の脊椎・肩甲帯及び上肢の退行変性による疾
病はない。」としていること(甲5)からすれば,控訴人の訴える痛みがH意見に
いう頸椎の退行性変性によるものであるとすることはできないし,H意見のよう
に,「頸椎の後弯の影響で腰椎が前弯する場合があり,これは腰痛予備軍を示すも
のである。」ことを裏付けるに足りる的確な証拠もない。また,乗務開始後間もな
くタービュランスに遭遇したことの心理的な影響については,関与の可能性は否定
できないにしても,このことで控訴人に生じた症状がすべて説明できるとするだけ
の根拠もない。
これらのことからすれば,控訴人の症状が頸椎の退行性変性やタービュランスに遭
遇したことの心理的な影響によるものと認めることは困難であり,H意見は直ちに
採用し難い。
 オI意見について
I意見は,控訴人の症状は,自覚症状に比べて他覚的所見に乏しく,整形外科的に
は説明困難であり,控訴人が述べる自覚症状の発現の経緯からすれば,控訴人の症
状は「疼痛性障害」と診断されるとする。
しかし,同医師は直接に控訴人を診断したわけでもなく,他覚症状に乏しく整形外
科的に説明困難であるからといって頸肩腕症候群等が発症していないとはいえず,
整形外科的に説明できないとするだけの根拠もない。同医師の見解は,一つの仮説
の域を出ないものというべきであって,にわかに採用できない。
以上のことからすれば,前記の各医師の意見は,少なくても,控訴人に生じた頸
肩腕症候群及び腰痛の原因について,それが控訴人が従事していた業務以外の他の
具体的な原因に起因すると認めることの根拠となり得るものではなく,また,業務
に起因することを否定する根拠となり得るものでもないということができる。
なお,D意見,E意見,F意見及びH意見は,腰痛通達及び上肢通達に定める認定
基準を勘案してその意見を述べたものと考えられるところ,控訴人の疾病は必ずし
も腰痛通達及び上肢通達の定める認定基準には該当しない。しかし,上記の各認定
基準は現在の医学的知見を集約し,全国斉一的に迅速・公平な認定業務の処理を図
る観点から定められたもので,業務起因性の判断基準として十分な合理性を有する
ものであるが,上記各認定基準も,認定基準に合致しない作業態様からの頸肩腕症
候群や腰痛の発症を否定しているものとは解されず,そのような事例が発生した場
合には,個々の事案ごとに業務起因性を判断していくべきものとしているものと解
される(この点は,控訴人の審査請求について長期間をかけて,同様の検討が行わ
れたものと認められることからも裏付けられる。乙2)。
 (6)以上検討したところを総合すると,控訴人に発症した頸肩腕症候群は,少な
くても何らの異常も自覚されていなかった20歳の若年者において,客室乗務員と
しての勤務と対応するようにして,その前段階の症状といえる頸肩腕部の異常が自
覚されるようになり,徐々に増悪していって,比較的繁忙期を経て発症に至ったも
のであり,客室乗務員としての勤務と症状発現に至る経過に明確な対応関係がある
と認められること,客室乗務員としての業務のほかに控訴人の日常生活において頸
肩腕症候群を発症させるような要因は見当たらないこと,客室乗務員の業務内容は
その一般的な性質として頸肩腕症候群を発症させ得るものであるとの研究報告もあ
り,これに沿うかのようなアンケート調査の結果等も少なくないこと,控訴人の症
状を業務に起因するとする医師の意見もあり,この点に消極的な医師の見解も他の
納得できる原因を指摘しているとは認められないことからすれば,控訴人に生じた
頸肩腕症候群については,客室乗務員としての業務に従事したことにより蓄積され
た頸肩腕部,腰部の疲労が慢性化し,発症に至ったものであって,頸肩腕症候群の
原因は不明であり,個々人の肉体的・精神的な素因に社会的環境的要因が働いて発
症することが多いとされていることを考慮するとしても,少なくても上記客室乗務
員としての業務が相対的に有力な原因となっているもの,すなわち控訴人の頸肩腕
症候群は業務に起因するものと認めるのが相当である。
控訴人について生じた,G医院での診察から小豆沢病院での診察までの間に自覚さ
れるようになった腰痛については,休業する当初の全身症状が腰部において特に増
悪したものか,G医院における物理療法の不適合等によって腰部筋肉痛等が発症し
たものか,控訴人の休業中の何らかの生活行動や控訴人個人の心因的要因,身体的
要因が原因となって新たに腰部筋肉痛等が発症したものか,G医院での診察時に控
訴人の自覚症状の訴えが頸肩腕部についてのそれに比べて乏しかったために,その
旨の診断名が下されなかったものかのいずれかであると推察されるところである
が,小豆沢病院での診察で単なる「だるさ」等といったような主観的な愁訴の域を
超えたものとして一定の所見が得られていること,当該症状がG医院での初診時か
ら小豆沢病院での診察時までの間に病態が増悪したとか,新たに発症したと認める
だけの根拠もないこと,また,その間に控訴人に腰痛を発症させるような出来事が
あったとの事情も何ら窺えないことからすれば,控訴人に生じた上記の腰痛も,疾
病としては比較的軽度のものではあるが,G医院における診断時に既に発症してい
たものと推認するのが相当であり,そうするとやはり客室乗務員としての業務が相
対的に有力な原因となっているものと認められるというべきである。なお,控訴人
に生じた腰痛については,昭和50年に遭遇したタービュランスの際の腰部負傷の
心理的な影響(タービュランスに遭遇し,負傷したこと自体は業務によるものであ
る。)も否定はできないが,この点も控訴人のその後の客室乗務員としての業務が
前記腰痛の相対的に有力な原因となっているとの上記認定を左右し得るものとまで
は認められない。
なお,被控訴人は,控訴人の業務は他の同僚と比べて過重なものではないこと,ま
た,控訴人は休暇等も十分に取得しており,勤務時間も決して多いものではないこ
とを強調する。
控訴人の業務内容が,その乗務時間において他の同僚よりも過重とはいえず,ほぼ
平均的なものであることは前記認定のとおりである。しかし,平均的な乗務に従事
した程度では頸肩腕症候群や腰痛が発症しないとの根拠はないし,頸肩腕症候群や
腰痛については同様の負荷があっても発症に至る者とそうでない者がいるという個
体差,感受性の差違があることは否定できないのであり,他の同僚には同様の症状
が生じていないというのであれば,控訴人の生じた症状をもって,その身体的ない
し心的素因その他の個人的な要因によるところが大きいと判断するのが相当である
場合もあろうが,既に認定したとおり,客室乗務員に対する過去1年間に罹患した
疾病を質問したところ頸肩腕症候群を挙げたものが相当数おり,また,その前段階
の症状と認められる肩のこり,痛み,腕のだるさ,手指のしびれ等を訴える者は相
当割合に及んでいるのであって,この点は腰痛についても同様の事情が認められる
ところである。これらの調査はアンケート調査によるものであり,症状の把握も正
確でないといった問題点があり,その評価については慎重である必要があるとはい
え,このような背景事情の存することは一概に否定できないところと認められる。
したがって,控訴人に発現した頸肩腕症候群や腰痛については,単にその乗務時間
その他の勤務状況が同僚と同程度であるとのことだけで,それが業務に起因すると
の前記認定を左右し得るものとは認められない。
勤務日数や勤務時間が少ないとの指摘についても同様である。もともと,客室乗務
員としての勤務は,早朝から,あるいは深夜に及ぶこともあるうえに不規則であっ
て,精神的,身体的な疲労を伴うこと等のことから,3連続勤務,2休日,3連続
勤務,1休日の繰り返しという勤務割とされているものと推認されるから,5ない
し6日の連続勤務が前提とされている通常の労働者と同様の前提で勤務日数や勤務
時間の多寡や疲労の回復等を議論することは相当ではなく,控訴人が他の同僚客室
乗務員よりも多くの休暇を取得していたと認めるべき証拠もない。
3以上の次第であるから,控訴人の本件請求は理由がある。
よって,これと異なる原判決を取り消し,控訴人の請求を認容することとして,主
文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第16民事部
     裁判長裁判官  鬼 頭 季 郎
          裁判官  慶 田 康 男
          裁判官  河 村 吉 晃

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