弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は、全部被告人らの連帯負担とする。
         理    由
 検察官の本件控訴の趣意は、東京高等検察庁検察官検事岸川敬喜提出にかかる東
京地方検察庁検察官検事河井信太郎作成名義の控訴趣意書記載のとおりであり、被
告人らの本件控訴の趣意は、被告人両名共同作成名義の控訴趣意書および同控訴趣
意補充書ならびに被告人両名の弁護人鈴木勇作成名義の控訴趣意書、同弁護人森長
英三郎等弁護人三二名共同作成名義の控訴趣意書および同弁護人稲本錠之助等弁護
人四名共同作成名義の控訴趣意補充書各記載のとおりであり、被告人らの控訴の趣
意に対する検察官の答弁は、東京高等検察庁検察官検事木村喜和作成名義の答弁書
記載のとおりであるから、いずれもこれを引用し、これに対し次のとおり判断す
る。
 森長弁護人等弁護人三二名の控訴趣意第二点、鈴木弁護人の控訴趣意第三点(法
令適用の誤りの主張)について。
 所論は、要するに、原判決は、原判示各名誉毀損の事実を認定したうえ、刑法第
二三〇条の二にいう真実の証明があつたとするには、公然事実を摘示して人の名誉
を毀損した行為につき、その摘示された事実が真実であることの蓋然性が合理的な
疑いを容れない程度に証明されたことを要するのであり、本件においては、原判示
各摘示された事実について、右の程度の真実の証明がないので、同条を適用する余
地はないものとして、被告人らに対し有罪の言渡しをしたが、右の証明は、原判決
の説示する程度の高度のものである必要はなく、摘示事実の真偽につき疑いを生じ
させる程度の証明で足りるものと解すべきであつて、この点において原判決には、
法令の解釈適用を誤つた違法がある、というのである。
 案ずるのに、刑法第二三〇条が、公然事実を摘示して人の名誉を毀損した行為を
その事実の有無を問わず罰することとしているのに対し、同法第二三〇条の二は、
公共の利益の上からは時に事実を摘示して人を批判する必要があり、かつ、かくす
ることが社会の発展に資する場合が少なくないことにかんがみ、個人の名誉の保護
と表現の自由ないしは批判の自由との調和を図るため、事実を摘示して人の名誉を
毀損した行為があつた場合においても、摘示事実が公共の利害に関する事実であ
り、かつ、目的が専ら公益を図るに出たものであると認められる限りは、裁判所に
おいて、摘示された事実の真否につき審理し、関係証拠を取り調べた結果、摘示さ
れた事実が、実際の出来事と符号する高度の蓋然性を有する意味において、真実で
あるとの積極的な確信を得ることができるものである場合は、行為の違法性が阻却
されることとしたものと解するのを相当とする。所論は、被告人に真実についての
挙証責任があるものとし、このことを前提として、右の証明は、有罪判決を言い渡
すため必要とされる証明よりも程度の軽いもので足りるものと解すべきである、と
主張する。なるほど、同条の規定を解釈するにあたつて、被告人に挙証責任がある
ものとされることがないではないけれども、右は、前述のように、裁判所が、事実
の真相の究明に努力したにもかかわらず、積極的に摘示事実が真実であることの確
信に達することができない限りは、その真実であるか虚偽であるかについて疑いが
あつて、そのいずれとも断定しえない場合においても、被告人は、真実の証明がな
いものとして、不利益な判断を受けなければならないことを意味するものと解すべ
きものであつて、真実の挙証責任が被告人にあるものとされている事例をとらえ
て、直ちに右の証明の程度はいわゆる証拠の優越の程度をもつて足りるものとし、
また、有罪認定に必要<要旨第一>な程度の高度の蓋然性の証明を必要としないもの
と解することはできない。元来、ある犯罪につき、被告人を有罪と認定
するについては、裁判所が、適法な証拠に基づき、合理的な疑いを容れない程度に
被告人がその罪を犯したものであることの心証を得るに至ることを要するのであ
る。しかるに、私人が、本件におけるように、犯罪にあたる事実を摘示して人の名
誉を毀損した場合には、その被害者が右の罪を犯したとの事実について、裁判所
が、真相究明の努力をしたにもかかわらず、有罪の認定をする場合に必要とされ
る、合理的な疑いを容れない程度の心証を得させるだけの証拠を見いだすことがで
きず、たかだか、右の事実を認めることのできる証拠の方が、これに反する証拠よ
りもより多く信用できる意味でのいわゆる証拠の優越の程度またはそれより低い程
度の、有罪の認定をするには不十分な証拠があるに過ぎない場合であつても、摘示
された罪を被摘示者が犯した事実の証明があつたものとして、摘示者の罪責を免れ
させるべきものと解することは、刑事事件の被告人とされた場合であれば犯罪者と
認めるだけの証拠のない被摘示者をも、摘示者に対する名誉毀損被告事件の被害者
としては、せいぜい証拠の優越の程度で裁判所が、その判決中に右の被害者が真犯
人である旨を判示して、犯罪者のらく印を押し、刑罰を科することはしないまで
も、これを事実上社会から葬り去る不当な結果を招来することを法律上許容するこ
とになるのであつて、有罪の証明に必要とされる程度の証拠資料が現に存在してい
るものと認めることが困難な場合に、軽軽に公然人を犯人呼ばわりすべからざる当
然の事理をも考慮すれば、とうてい所論のような解釈が許されるものとすることは
できない。したがつて、右法条にいう真実の証明もまた、有罪判決におけるものと
同様、合理的な疑いを容れない程度に、摘示された事実が真実であることの心証を
得させるに足りるものでなければならないものと解するのが相当であつて、右と同
趣旨に出た原判決のこの点についての判断は相当であるから、所論は採用すること
ができない。
 なお、公訴の提起されていない人の犯罪行為に関する事実を公益を図る目的で公
然摘示して人の名誉を毀損した場合においても、行為者において、行為の当時自己
が公然摘示した事実が真実であると信じ、かつ、そのように信じるについて相当な
事由があつたと認められるときは、行為者に故意がないこととなり、名誉毀損罪は
成立しないものと解すべきであるが、本件についてこれを見るに、被告人Aは、B
およびC両名に対する強盗殺人被告事件の控訴審および上告審の弁護人であり、被
告人Dは、その上告審継続中の昭和三五年三月二八日から右両名の弁護人となつた
ものであつて、いずれも、原判示第一の犯行当時においては、右強盗殺人被告事件
の第一、二審において右両名を有罪とする判決の言渡しがあつたことを、また原判
示第二の「告発」発行の当時においては、上告棄却の決定により右事件の有罪判決
がすでに確定していることをそれぞれ知しつしていたものと認められるばかりでな
く、右各犯行当時、本件被害者らを右強盗殺人の犯人と認めるに足りる新たな証拠
資料を入手していたというような特段の事情があつたわけでもないことが記録上明
らかであるから、本件各犯行当時、被告人らにおいて、本件被害者Eら三名を右強
盗殺人事件の真犯人であると信じていたものとは認め難く、また仮に被告人らがそ
う信じていたものとしても、そう信じるにつき相当な事由があつたものとは認めら
れないから、この点においても、被告人らに対し本件各名誉毀損の罪責を認めた原
判決は相当であつて、法令の解釈適用を誤つた違法があるものとはいうことができ
ない。論旨は理由がない。
 森長弁護人等弁護人三二名の控訴趣意第三ないし第八点、稲本弁護人等弁護人四
名の補充控訴趣意、被告人両名の控訴趣意(事実誤認の主張)について。
 所論は、要するに、原判決は、BおよびCに対する強盗殺人被告事件について言
い渡された有罪の確定判決を維持するため、本件において、右事件の真犯人が本件
被害者らであつて、右BおよびCではない事実を認めなかつたが、右は、証拠の取
捨選択を誤り事実を誤認したものである、というのである。
 よつて案ずるのに、BおよびCに対する所論の確定の有罪判決により認定された
事実は、再審の手続によるのほかは、法律上これを動かす手段はないのであるか
ら、本件において右確定判決の事実認定の当、不当を論ずることはとうてい許され
ないところであるばかりでなく、右BおよびCと本件被害者らとの間に、Bらが犯
人でなければ右被害者らが犯人であり、右被害者らが犯人でなければBらが犯人で
あるという二者択一的な関係が存するものとは認めがたいから、仮に本件の証拠に
より右Bらが右強盗殺人被告事件の犯人でないことを証明しえたとしても、そのこ
とから直ちに本件被害者らが右強盗殺人事件の犯人であるとする本件名誉毀損の摘
示事実の証明があつたものとすることはできない筋合いであるので、結局本件に現
われた各証拠により右摘示事実が真実であることを証明しえなかつたものとする原
判決の判断の当否が問題となるが、所論に基づき記録を精査し、さらに、当審にお
ける事実取調べの結果を参酌しても、本件被害者らが前記強盗殺人事件の犯人であ
ることの合理的な疑いを容れない程度の証明はもとより、いわゆる証拠の優越によ
る証明があるものとも認められない。すなわち、所論の各点について検討するの
に、
 (1) 犯行の動機について。
 記録ならびに当審における事実取調べの結果によれば、この点について原判決
が、前記強盗殺人事件の被害者Fと本件各名誉毀損事件の被害者E、GおよびHの
各関係、生活状況等について認定したうえ、これらの事情からは、EおよびG夫婦
にFを排して同女の経営する運送業を自己らの手に収めようとする意図があつたこ
とも、Fの所有に属する不動産の奪取を企図していたことも認めることができず、
さらにHについても、あえてFを殺害して同女の所持金ないしは営業権の奪取を企
図する必要があつたものとは認められないとし、結局右Eら三名にFを殺害する動
機があづたとする所論は臆測の域を出ない旨説示しているところは正当であつて、
原判決の認定に誤りがあるものとは認められない。
 (2) 定期予金証書の発見について。
 この点についても、原判決が、証拠に基づき、三和銀行発行のF名義の額面八万
円の定期預金証書おまびI名義の額面七万円と五万円の各定期預金証書について、
警察署への紛失の届出がなされ、それらが、前記強盗殺人被告事件の被害物件とし
て取り扱われたこと、その後昭和三〇年九月二二日右各定期預金証書が、母親Jの
自宅から発見されてその届出がなされたため、右被告事件の被害物件から除外され
た経緯等について認定しているところは相当である。所論は、右の事情は、内部犯
行の証左であるというけれども、右のような事実があり、また、定期預金証書が発
見された際母親Jが、「Fが死んでからあとあとまでこんな思いをするなんて生き
ているのが厭になつた。どこか遠い所へ行つて死んでしまいたい。」と言つたこと
があるからといつて、直ちに前記強盗殺人事件の犯人が内部の者、すなわち本件被
害者らであるとすることはできない。捜査官Kに関する弁護人の主張を考慮に入れ
ても、原判決の判断は正当であつて、誤りがあるものとは認められない。 (3)
 藤枝営業所の手拭と本件被害者らとの関係について。
 所論は、前記強盗殺人事件の際死体となつて発見されたFの口部を縛るために用
いられていた手拭は、E等本件被害者三名のうちだれかが入手したものである、と
いうのであるけれども、原判決も正当に認定しているように、記録を精査しても、
右三名のうちのだれかが右手拭を入手したものであることを認めるに足りる証拠は
存しない。所論は、単なる臆断にすぎず、原判決の認定を左右するに足りる根拠が
あるものとはいうことができない。
 (4) 死体発見後、E、GおよびHに不審な行動があつたとする点について。
 原判決は、この点に関する被告人らの原審における(1)ないし(8)の主張に
ついて、それぞれ証拠に基づき事実を認定したうえ、本件被害者らの行動には異常
と考えられる点がないではないけれども、それらは、一応説明のつくものであり、
これをもつて右Eらが前記強盗殺人事件の犯人であることを窺うに足りる不審な言
動と認めることはできない旨説示している。そして、右証拠を精査しても、右事実
の認定は相当であり、また、いずれの点についても原判決の説示するような説明が
なしえられないではないのであつて、これをもつて右Eら三名に右強盗殺人事件の
犯人であると疑うに足りる不審な行動があつたものとは認定できず、この点に関す
る原判決の判断に誤りがあるものとは認めることができない。
 なお、所論は、L鑑定によれば、共犯者は三名以上であると見るのが相当である
とし、また死体発見時におけるE、H等の供述には矛盾があると主張するが、原判
決も証拠に基づき詳細説示しているとおり、これらいずれの点においても、右Eら
三名が前記強盗殺人事件の犯人であると疑うに足りる事由があるものとは認められ
ず、さらに、以上のすべての点を総合して考察しても、本件被害者ら三名が右事件
の犯人であるとの本件摘示事実の証明があつたものとはいうことができず、当審に
おける事実取調べの結果によつても右認定を左右することができないから、これと
同趣旨に出た原判決には、以上(1)ないし(4)のいずれの点よりするも、事実
の誤認があるものとは認められないので、所論は採用することができない。論旨は
理由がない。
 森長弁護人等弁護人三二名の控訴趣意第九点(法令適用の誤りの主張)につい
て。
 所論は、被告人らの本件各所為は、その動機、目的において正当であり、その手
段方法において相当であり、法益の比較衡量においてもその当を失していない行為
であり、また前記BおよびCを救うために他にとるべき有効な方法がなく、やむを
得ざるに出た行為であるから、実質的に違法性を阻却されるものであつて、原判決
が被告人らに対し有罪の言渡しをしたのは、違法性に関する法の解釈適用を誤つた
ものである、というのである。
 <要旨第二>案ずるのに、刑事事件において弁護人は、被告人の利益を擁護する訴
訟上の権限を有するものであるから、その権限に基づいて行なう訴訟上
の行為は、たまたま人の名誉を毀損することがあつても、正当行為としてその違法
性を阻却されるものと解すべきであるが、たとえ被告人のためであつても、弁護人
が訴訟手続の場以外の場においてなす行為は、その訴訟手続の場における弁護人の
行為とは区別して評価すべきものであつて、前者の行為がなんらかの刑罰法令に触
れる場合は、訴訟手続の場におけるものとは異なり、弁護人において被告人の利益
擁護のためなしたものであるからといつて、その罪責を免れうるものと解すること
はできない。刑事訴訟法において一定の訴訟手続が定められている以上、弁護人
は、その手続内において被告人の利益の保護を図るべきであつて、その手続を離れ
てなした行為は、それが禁止されていない場合は格別、本件のように他人の名誉を
毀損するような場合は、所論のように上告審において十分な審理を受け、検察庁の
捜査を促し、または再審の請求をするについて必要な新証拠の発見が困難であつ
て、これが収集に一般社会の協力を得るため必要であるというような理由があつた
としても、正当行為としてその違法性を阻却されるものとはいうことができず、こ
れと同旨の判断に出た原判決は正当であり、所論は、独自の見解に立つて原判決を
非難するものであつて、採用することができない。論旨は理由がない。
 森長弁護人等弁護人三二名の控訴趣意第一〇点(法令適用の誤りの主張)につい
て。
 (一) まず所論は、原判示第一の被告人らの所為は、被告人らが弁護人として
委任を受けた前記BおよびCが、同人らに対する強盗殺人被告事件の第一、二審に
おいて言い渡された判決の結果、えん罪によりそれぞれ無期懲役および懲役一五年
の各刑を執行されるおそれが発生するに至つた現在の危難を避けるため、やむこと
を得ずしてなされたものであつて、右避けんとした害の程度は、右の行為が本件被
害者に与える害の程度を甚しく越えるものであるから、被告人らの本件所為は、刑
法第三七条第一項に該当するものであつて、これを認めなかつた原判決には、法令
の適用を誤つた違法がある、というのである。
 しかし、被告人は、法の定める訴訟手続により審判を受ける権利を有するととも
に、右訴訟手続において確定の有罪判決により刑の言渡しを受けたときは、右の刑
に服すべき法律上の義務をも有するものであつて、本件において、前記BおよびC
が、原判示第一の日時当時、それぞれ前記強盗殺人被告事件の被告人として所論指
摘の各刑の言渡しを受けて上告中であつたことは証拠上明らかであるが、その間刑
法第三七条第一項にいう現在の危難があつたものとは認められず、仮にしからずと
しても、なお訴訟手続上の救済手段が残されていたわけであるから、被告人らの本
件所為をもつて同条項にいうやむことを得ざるに出たものとも認められないので、
所論は採用することができない。
 (二) 次に所論は、原判示第二の所為について、Bらに対する強盗殺人被告事
件の上告が昭和三五年七月一九日棄却され、同人らの有罪が確定したため、そのえ
ん罪を晴らすには、再審の請求以外に方法がなくなり、しかも、再審の請求をする
について必要な新証拠を集めるためには、一般社会の協力と検察官による本件名誉
毀損の被害者らに対する再捜査を必要とするが、本件所為は、他に右の必要に応ず
べき適当な方法がないため、やむを得ずしてなされた緊急避難行為であるにもかか
わらず、原判決がこれを認めなかつたのは、法令の適用を誤つたものである、とい
うのである。
 しかし、正当な訴訟手続を経て有罪の確定判決を受けた者は、再審の結果右確定
判決が改められない限り、これによつて言い渡された刑の執行を受けるべき法律上
の義務を負うものであつて、本件において、前記BおよびCは、同人らに対する強
盗殺人被告事件の上告棄却決定により有罪判決が確定して、これにより言い渡され
た各刑の執行を受けるべき義務を法律上免れえないこととなつたのであるから、右
の事実をもつて刑法第三七条第一項にいう現在の危難にあたるものとすることので
きないのはもとより、再審の請求をするための新証拠の収集が必要であるからとい
つて、本件所為をやむを得ざるに出た行為であるとすることもできない。したがつ
て、本件についても、同条項の適用はないものというべきであるから、これと同趣
旨に出た原判決は正当てあつて、なんら法令の解釈適用を誤つた違法は認められな
いので、所論は採用することができない。論旨は理由かない。
 鈴木弁護人の控訴趣意第一点(法令適用の誤り、事実誤認の主張)について。
 所論は、名誉毀損罪が成立するには、摘示者がその摘示した事実を単に不実だと
信じまたは事実だとは確信していなかつたというだけでは足りず、さらに、その摘
示が、そねみ、ねたみ、憎悪、敵意等からなされたことを必要とするのであつて、
この点を看過した原判決には、法令の解釈を誤り事実を誤認した不当がある、とい
うのである。
 しかし、刑法第二三〇条所定の名誉毀損罪の成立には、その構成要件に該当する
事実とその故意があれば足り、それ以外において所論のような主観的要素の存在を
要しないものと解するのを相当とする。所論は、同法第二三〇条の二が、名誉毀損
の行為を罰しない場合の要件の一つとして、公益を図る目的に出たことを必要とし
ていることを根拠として、名誉毀損罪そのものについても所論のような主観的要素
の存在を必要とする、というのであるけれども、同条の規程は、その定める要件を
満たす場合は、たとえ同法第二三〇条の構成要件に該当する行為であつてもこれを
罰しない旨を定めたものであつて、同法二三〇条の二の規定があるからといつて、
名誉毀損罪そのものについても所論の主観的要素を要するものとすべきいわれはな
く、所論は前提において誤つているので採用することができない。論旨は理由がな
い。
 鈴木弁護人の控訴趣意第二点(法令適用の誤りの主張)について。
 所論は、原判決は、刑法第二三〇条の二にいう真実の証明について、被告人に挙
証責任があるものと解しているが、これをかように解したければならないものとす
れば、同条は、憲法第九八条によりその効力を有する人権に関する世界宣言第一一
条の無罪の推定の規定に違反する無効なものであるから、刑法第二三〇条の二を右
のように解釈適用して、被告人らにおいて摘示事実が真実であることの証明をなし
えなかつたものとして有罪の言渡しをした原判決には、法令の適用の誤りがある、
というのである。
 しかし、刑法第二三〇条の二にいう事実の証明について挙証責任が被告人にある
といわれているのは、前に述べたように、同条の規定に基づき裁判所が摘示事実の
真否につき職権によりその究明に努力したにもかかわらず、その真実であることを
確認することができない場合は、真否いずれとも断定できない場合であつても、被
告人において罪責を免れえない不利益を甘受しなければならないことを意味するに
過ぎず、被告人の摘示事実の真実であることの主張立証も、あくまで裁判所の職権
によるその真否についての証拠調べを促すにとどまるものと解すべきである。
 そして、刑事訴訟法は、無罪の推定を建て前とはしているが、元来右の建て前
は、必ずしも完全な当事者主義を要請しているわけのものではなく、裁判所が必要
に応じて職権をもつて証拠の取調べをし、事案の真相を明らかにすることを妨げる
ものとは解されないから、刑法第二三〇条の名誉毀損の事実についての心証を得た
後、裁判所が、同法第二三〇条の二の要件事実につき職権をもつて審究すべきもの
と解しても、無罪の推定の建て前ないしは当事者主義の原則に反するいわれはな
く、所論は独自の見解に立つて原判決の正当な判断を非難するものであつて、とう
てい採用することができない。
 論旨は理由がない。
 (その余の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 石井文治 判事 山田鷹之助 判事 山崎茂)

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