弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人等の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人等は控訴人等に対し京都市a区b町c
番地所在家屋番号同町d番木造瓦葺二階建店舗建坪二六坪八合、外二階坪二五坪二
合を明渡すことを命ずる。被控訴人Aは控訴人等に対し昭和二八年七月一日以降右
明渡済迄一ケ月金二九〇〇円の割合の金員を支払うことを命ずる。訴訟費用は第
一、二審共被控訴人等の負担とする」との判決を求め、被控訴人等は主文同旨の判
決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において「控訴人等は昭和二八年一一
月二九日到達の催告書により被控訴人Aに対し三日内に延滞賃料一万一千六百円の
支払を求めたところ、右期間経過後に被控訴人の代理人と称する者が控訴人等の代
理人であるB方に右延滞賃料の一部の受領を求めて来たことがあるが、右Bは期間
経過後であることと、延滞賃料の一部の提供であつて、債務の本旨に従つたもので
ないことを理由に受領を拒絶すると共に、即時口頭で本件賃貸借契約解除の意思表
示をなしたから、同日限り解除の効力を生じたが、尚控訴人等は念のため書面を以
て契約解除の意思表示をなしたものである。次に無断転貸の点については、法人の
代表者個人と法人とは法律上あくまで別個の人格者であり、すでに会社として適式
に設立せられた以上、その構成員、資格、設立の動機如何に拘らず、民法第六一二
条にいわゆる第三者に該当するものである。株式会社は将来新株の発行等によつ
て、その規模を大にし、又執行機関の更迭株式の譲渡等によつて人的物的構成の変
更せられることも容易に考えられるのであるが、もし原判決のごとき理由で本訴請
求を棄却されるならば、右のような人的物的構成の変更せられた場合においても尚
且判決の既判力によつて、新訴の提起が認められないこととなり、かかる不合理は
到底是認できないところである。」と述べ、被控訴人等において右主張を否認した
ほか、いずれも原判決事実摘示と同一であるから、之を引用する。
 立証として控訴代理人は甲第一乃至第三号証第四号証の一、二を提出し原審及び
当審における証人Bの証言控訴人C本人の供述を援用し、乙号各証の成立を認め、
被控訴代理人は乙第一号証の一乃至三を提出し、原審証人D、E当審証人Dの各証
言、当審における被控訴人A本人の供述を援用し、甲号各証の成立を認めた。
         理    由
 被控訴人Aが控訴人両名からその所有にかかる本件家屋を期間の定めなく、賃料
一ケ月金二九〇〇円毎月末持参払の約で賃借し、昭和二八年七月一日より同年一〇
月三一日迄の賃料合計金一万一六〇〇円の支払を怠つたこと、控訴人等が同被控訴
人に対し同年一一月二八日到達の書面を以て右延滞賃料を三日内に支払うことを催
告したことはいずれも当事者間に争がない。
 そこで先ず延滞賃料の不払による賃貸借契約解除の主張について考察する。原審
証人D、E、当審証人Dの各証言及び当審における被控訴人本人Aの供述を綜合す
ると、訴外Dは被控訴人Aの代理人として前記催告期間内である同年一一月三〇日
催告による指定場所なる訴外B方に延滞賃料の内金六〇〇〇円を持参したが全額で
ないからとて受頃を拒絶されたので、更に翌月二日金一万二〇〇〇円を同所に持参
して提供したが期間経過後であるとの理由で受領を拒絶された事実が認められる。
控訴人等は右金六〇〇〇円の提供のあつたのが同年一二月二日であつて、延滞賃料
全額提供の事実はなく、又右一部提供のあつた際即時にBは右Dに対し賃貸借契約
解除の意思表示をなしたと主張するが、この主張に副う原審及び当審における証人
Bの証言及び控訴人C本人の供述は前記各証拠に比べると信用できず、他には何等
の証拠もないから右主張は採用しない。
 而して控訴人等が最初三日の期間を定めてなした催告には条件附契約解除の意思
表示を含んでいないから、被控訴人Aに対し契約解除の意思表示をなしたのは同年
一二且四日到達の書面によるものが最初であり、一方被控訴人Aはこれに先だち支
払の催告による指定期間の満了した翌日に延滞賃料の全額を提供して受領を拒絶さ
れたわけである。かように延滞賃料の催告があつて賃借人がその催告期間を徒過し
たため賃貸人において契約解除権を取得した場合においても、之を行使する以前に
賃借人から延滞賃料全額の提供があつた以上、他に特段の事情がない限り賃貸人は
その受領を拒絶することはできないものと解するのが相当であり、本件においては
何等特段の事情を認めることはできないから、控訴人等は右受領を拒絶したことに
より債権者の受領遅滞を生じたわけであり、従つて被控訴人Aの債務不履行を理由
に賃貸借契約を解除することは許されないのであつて、控訴人等の主張は採用でき
ない。
 次に無断転貸の点に関する控訴人等の主張につき判断する。
 被控訴会社が昭和二八年九月一〇日頃より本件建物を使用している事実は当事者
間に争がなく、成立に争のない甲第一号証、原審証人D、E、当審証人Dの各証言
当審における被控訴人A本人の供述を綜合すれば、右Aは従前本件家屋において個
人として看板装飾、塗装などの業を営んでいたが経営上及び経理面の考慮から之を
会社組織とすることをはかり、昭和二八年九月一〇日頃自ら代表取締役となつて被
控訴会社を設立したが、株主役員は親戚知人従業員の中より之に充て、依然実権は
被控訴人Aにあり、右設立の前後を通じ営業内容は同一であり、家屋の使用状況も
表のドアに会社名を記した程度の変更があつたにすぎない事実を認定するに十分で
あり、他に右認定を左右するに足る証拠はない。而してかような場合には被控訴会
社は法律上被控訴人Aと別個の人格を有すること勿論であるから、本件家屋に対し
明渡の強制執行をしようとすれば、単に被控訴人Aに対する債務名義ばかりでな
く、被控訴会社に対する債務名義をも得なければならないのであつてこの意味にお
いて、被控訴会社も亦この家屋に対し独立の占有を有するものと認むべ<要旨>きで
ある。しかし、被控訴会社における被控訴人Aの地位が右に認定したような状態で
ある以上、この建物の占有関係は実質上は被控訴人Aが賃借人として依然本
件家屋の使用収益を続けていることには終始何等の変動がなく、被控訴会社は被控
訴人Aの賃借権の範囲内での使用を許されているにすぎないものと認めるのが相当
である。従つて本件においては、いまだ被控訴人Aが賃貸人との間の信頼関係に背
いて第三者に之を使用収益せしめたものと謂うに足りないから民法第六一二条にい
わゆる転貸があつたものと見ることはできない。控訴人等はかような解釈をとると
きは将来株式会社が新株の発行株式の譲渡若くは経営者の更迭等により人的若くは
物的構成に変更を生じた場合においても本件判決の既判力の及ぶ結果として、新訴
の提起をなし得ない不合理を生ずると主張するのであるが、将来右のような人的物
的組織の変動を生じ之がため家屋占有状況に著しい変更があつたような場合にはこ
のときに始めて民法第六一二条にいわゆる無断転貸若くは賃借権の無断譲渡があつ
たものとして新しく賃貸借契約の解除権を発生することは勿論であつて、本件判決
の既判力はもとよりこの場合に及ぶべきでないこと多言を要しないところであるか
ら、この場合を考慮して本件につきすでに無断転貸があつたものと見ることもでき
ない。要するに無断転貸を理由とする控訴人等の主張も失当である。
 最後に控訴人等の賃料並に損害金の請求については、成立に争のない乙第一号証
の一乃至三によれば被控訴人Aは昭和二八年七月一日以降同年一〇月末日迄の賃料
一万一六〇〇円を同年一二月二一日に、同年一一月一日以降一二月末日迄の賃料五
八〇〇円を昭和二九年一月七日に、同年一月一日以降同月末日迄の賃料二五〇〇円
を同年二月一日に夫々弁済のため供託したこと明であり控訴人等が、被控訴人Aの
提供した延滞賃料全額の受領を拒んだことは先に認定したとおりであるから、右各
供託はいずれも適法であつて、之により右期間の賃料債権は消滅したものと見るべ
きである。又損害金の請求については右認定のごとく、賃貸借契約が未だ存続中で
ある以上失当なこと明かである。
 従つて控訴人等より被控訴人等に対する本訴請求はすべて失当であるから、之を
棄却した原判決は相当で本件控訴は理由がない。仍つて之を棄却すべきものとし、
民事訴訟法第三八四条第八九条第九三条を適用し主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 朝山二郎 判事 大西和夫 判事 沢井種雄)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛