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平成16年(ネ)第4518号 特許権侵害等差止請求控訴事件(原審・東京地方
裁判所平成16年(ワ)第9208号)(平成17年2月1日口頭弁論終結)
          判           決
      控訴人          株式会社ハネックス・ロード
訴訟代理人弁護士     加藤幸江
同            中光弘
補佐人弁理士       石井良和 
被控訴人         MR2
工法協会
訴訟代理人弁護士     大星賞
同    弁理士     大塚明博
          主           文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
          事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,MR2
AB工法の実施の申出をしてはならない。
3 被控訴人は,原判決別紙1物件目録添付のMR2
AB工法のパンフレットを配
布してはならない。
4 被控訴人は,国土交通省に対し,本判決言渡しの日から1週間以内に,国土
交通省が運営するNETISのホームページに登録しているMR2
工法のうち,MR

AB工法に関する部分を削除する旨の申請をせよ。
5 被控訴人は,本判決言渡しの日から1か月以内に,別紙2謝罪広告目録記載
のとおりの謝罪文を「月刊下水道」,「建通新聞」及び「日本下水道新聞」にそれ
ぞれ同目録記載の要領で1回掲載せよ。
6 被控訴人は,控訴人に対し,150万円及びこれに対する平成16年5月2
1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
8 6項につき仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は,「切削オーバーレイ工法」の発明に係る本件特許権の特許権者であ
る控訴人が,①被控訴人が開発したMR2
AB工法は,本件特許発明の技術的範囲に
属し,②被控訴人が,MR2
AB工法について,宣伝パンフレットを官公庁等の道路
管理者等に配布等する行為は,本件特許権を侵害するなどと主張して,本件特許権
に基づき,MR2
AB工法の実施の申出及びパンフレットの配布の差止め,ホームペ
ージからの削除の申請並びに謝罪広告の掲載を求めるとともに,本件訴訟に係る弁
護士費用相当額の損害の賠償として150万円及び附帯金員の支払を求めた事案で
あり,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決に対し,控訴人がその取消しを求め
て控訴したものである。
 本件の前提となる事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,以下のとお
り訂正し,当審における主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第
2 事案の概要等」及び「第3 当事者の主張」のとおりであるから,これを引用
する。
1 原判決の訂正
(1) 原判決5頁5行目,9行目,下から5行目及び6頁2行目の「切断溝」を
「切削溝」と改める。
(2) 同5頁下から13行目冒頭から,下から10行目の「構成は」までを削る。
(3) 同5頁下から5行目の「MR2
AB工法」の前に,「本件発明の構成要件(a)
と,MR2
AB工法の構成(A)とを比較すると,前者が『切断』であるのに対し,後
者は『切削』であるという文言上の差異があるが,本件発明において重要なのは,
要所においてマンホールフレームや舗装版を撤去することであり,その工程におい
て,マンホールフレーム周囲の舗装面に浅い切削溝を形成してから撤去すること
と,舗装面を切断することは,実質的に何ら差異がない。そして,」を加える。
(4) 同6頁下から7行目の「撤去する。」の後に,「控訴人は,本件発明におけ
る『切断』とMR2
AB工法における『切削』との間に実質的な差異はない旨主張す
る。しかしながら,本件発明の構成要件(a)は,「マンホール枠周囲の舗装が筒状に
切断されると共に切断舗装版及びマンホール枠が撤去される工程」であり,舗装を
筒状に切断することにより,切断された舗装版及びマンホール枠の撤去が可能とな
るのに対し,MR2
AB工法の構成(A)においては,切削溝のみでは舗装版及びマン
ホールフレームの撤去はできず,上記のとおり,マンホールリムーバのリング状の
押さえ枠で押し当てた状態からマンホールフレームを引き上げることによって撤去
するものであるから,両者は実質的に異なるものである。」を加える。
2 控訴人の主張(争点(3)関係)
(1) 本件発明の種類
 本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1が,その冒頭において,「マン
ホールを含む舗装の切削オーバーレイ工法において」と規定するとおり,本件発明
は,切削オーバーレイ工法に関するものである。そして,本件特許に係る願書に添
付した明細書(甲2,以下「本件明細書」という。)には,「このような場合は,
舗装表面の切削後,マンホール枠の高さが調節されると共に切削面に所要厚さの新
たな表層,即ちオーバーレイが施工され」(段落【0002】)と記載され,「オ
ーバーレイ」とは,「舗装体として作られる表層」という物体であることが明記さ
れている。
 すなわち,本件発明は,その実施により,「オーバーレイ」すなわち「表
層」という「物」が生産されるものであって,特許法2条3項3号にいう「物を生
産する方法の発明」に該当することは明らかというべきである。
(2) 被控訴人の侵害行為
ア 本件発明は,上記(1)のとおり,物を生産する方法の発明に該当するか
ら,特許権者である控訴人は,その方法を使用する行為,その方法により生産した
物の使用,譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為を独占する権利を有す
る。
 そして,MR2
AB工法は,本件発明の技術的範囲に属するものであるか
ら,控訴人以外の者が,MR2
AB工法を使用する行為,その方法により生産した物
の使用,譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為をすることは,本件特許
権を侵害するものとして許されない。
イ 被控訴人は,①MR2
AB工法のパンフレット(甲3)を作成して,官公
庁等の道路管理者及びマンホールを道路に設置している道路占有企業者等に配布
し,②国土交通省が運営するデータベースであるNETIS(新技術情報提供シス
テム)にMR2
AB工法を登録申請し,同工法は同データベースに登録され,インタ
ーネットにより流布されている(甲4),③「月刊下水道」の2004年3月号
に,MR2
AB工法を紹介する記事を寄稿し,同記事が掲載された(甲6)。これら
の被控訴人の行為(以下「被控訴人の本件行為」という。)は,MR2
AB工法の実
施の申出として,本件特許権の侵害行為に該当する。
ウ なお,実際にMR2
AB工法を施工する主体は,被控訴人の会員である
が,被控訴人とその会員とは,MR2
AB工法に関する特許やノウハウを有する被控
訴人が,自らの会員に当該技術を実施させること,すなわち,会員でなければ当該
技術を使用することはできない旨の宣伝広告を行う結果,当該技術による工事を希
望する官公庁等は,被控訴人の会員に対し発注をし,それにより,被控訴人の会員
のみが受注を受けることができるという関係にある。すなわち,被控訴人とその会
員とは,MR2
AB工法の実施に関して強い運命共同体的な不可分一体の関係にある
から,被控訴人の行為と会員の行為とは相互に双方の行為と同視されるべきもので
ある。
 仮に,被控訴人が宣伝する工法が第三者の特許権を侵害する場合であっ
ても,被控訴人自体は工事を施工するものではないとの理由で,当該第三者は,被
控訴人の行為を差し止めることができないものとすれば,建設業界における被控訴
人とその会員との上記のような特殊な関係から,特許権者の権利は全く保護されな
いことになり,不当である。
エ さらに,仮に,本件発明が,物の生産を伴わない方法の発明に該当する
としても,物の生産を伴わない方法の発明に係る特許権者は,当該方法を使用する
権利を専有するから,第三者は,特許権者の許諾がない限り,当該方法を使用する
ことができない。本件において,実際にMR2
AB工法を施工する主体は被控訴人の
会員であるが,上記ウのとおり,被控訴人とその会員とは,MR2
AB工法の実施に
関して不可分一体の関係にあるから,会員の実施行為は被控訴人の行為と評価すべ
きものであり,被控訴人の本件行為は,本件特許権の侵害行為に該当する。
3 被控訴人の主張(争点(3)関係)
 控訴人の上記2の主張は,いずれも否認ないし争う。
 本件発明は物を生産する方法の発明ではないし,被控訴人の行為は本件特許
権を侵害するものではない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(3)(被控訴人の行為は侵害行為に当たるか)について
(1) 控訴人は,本件発明は,物を生産する方法の発明(特許法2条3項3号)に
該当する旨主張する。
 しかしながら,発明が物を生産する方法の発明に該当するか否かは,ま
ず,願書に添付した明細書の特許請求の範囲に基づいて判定すべきものである(最
高裁平成11年7月16日第二小法廷判決・民集53巻6号957頁)。本件明細
書(甲2)の特許請求の範囲の請求項1に,「マンホール枠を含む舗装の切削オー
バーレイ工法において,(a)マンホール枠周囲の舗装が筒状に切断されると共に切断
舗装版及びマンホール枠が撤去される工程,(b)マンホール基壁上に支持蓋が仮設さ
れると共に支持蓋周囲の空洞部に舗装材が打設される工程,(c)舗装表面がマンホー
ル基壁上の舗装材表面も含めて切削されると共に切削面にオーバーレイが施工され
る工程,(d)マンホール枠の設置予定域周囲の舗装がオーバーレイ上から筒状に切断
されると共に切断舗装版及び支持蓋が撤去される工程,(e)マンホール基壁上にマン
ホール枠の据え付け基礎が構築されると共に据え付け基礎上にマンホール枠がその
上面をオーバーレイ表面の高さに合わせて設置される工程,及び(f)マンホール枠周
囲の空洞部に舗装材がオーバーレイ表面の高さまで打設される工程からなる切削オ
ーバーレイ工法」と記載されているとおり,本件発明は,「マンホール枠を含む舗
装の切削オーバーレイ工法」という「工法」の発明であって,経時的に工程を表
し,生産物を伴わず,目的物に変化を生じさせることを目的とするものではないと
認められるから,物を生産する方法の発明には該当しないというべきである。
 これに対し,控訴人は,本件発明は,切削オーバーレイ工法に関するもの
であるところ,本件明細書には,「オーバーレイ」とは,「舗装体として作られる
表層」という物体であることが明記されている(段落【0002】)から,本件発
明は,その実施により,「オーバーレイ」すなわち「表層」という「物」が生産さ
れるものであって,「物を生産する方法の発明」に該当する旨主張する。しかしな
がら,本件発明が,マンホール枠を含む舗装の「工法」に関する発明であることは
上記のとおりであり,その際,「オーバーレイ」を「施工」した後,「切断」する
等の工程が含まれるというにすぎないことも上記請求項1の記載から明らかである
から,本件発明をもって「オーバーレイ」を「生産」する方法の発明ということは
できず,控訴人の上記主張は採用の限りではない。
(2) 上記(1)のとおり,本件発明は,物を生産する方法の発明でない,単純な方
法の発明というべきであるから,本件特許権の侵害に当たるのは,本件発明に係る
方法の使用をする行為(特許法2条3項2号)並びに同法101条3号及び4号に
規定する行為に限られる。
ア 生産した物の譲渡等の申出に該当するとの主張について
 控訴人は,本件発明が物を生産する方法の発明に該当することを前提
に,被控訴人の本件行為は,MR2
AB工法により生産した物の譲渡等の申出(特許
法2条3項3号)として,本件特許権の侵害行為に該当する旨主張するが,上記(1)
のとおり,本件発明は物を生産する方法の発明ではないから,前提において失当で
ある。
イ 被控訴人の会員との共同行為を理由とする主張について
 控訴人は,被控訴人とその会員とは,MR2
AB工法の実施に関して不可
分一体の関係にあるから,被控訴人による実施の申出行為は,被控訴人の会員の施
工行為と不可分一体の共同行為である旨主張する。
 しかしながら,控訴人が本件差止請求権の根拠として主張する被控訴人
の本件行為は,①MR2
AB工法のパンフレットの配布,②国土交通省が運営するデ
ータベースであるNETIS(新技術情報提供システム)への登録,③「月刊下水
道」2004年3月号へのMR2
AB工法を紹介する記事の寄稿,であるところ,こ
れらの行為が,本件発明に係る方法の使用をする行為並びに同法101条3号及び
4号に規定する行為に該当しないことは明らかである。控訴人は,上記のとおり,
被控訴人とその会員との不可分一体性を強調するが,仮に,その主張を前提にする
としても,本件特許権の侵害行為となるのは,被控訴人の会員又はそれと不可分一
体の被控訴人による本件発明に係る方法の使用行為等であって,被控訴人の本件行
為ではないから,被控訴人の主張は失当というほかはない。
 さらに,控訴人は,実際にMR2
AB工法を施工する主体は被控訴人の会
員であるが,被控訴人とその会員とは,MR2
AB工法の実施に関して強い運命共同
体的な不可分一体の関係にあるから,会員の実施行為は被控訴人の行為と評価すべ
きものであり,被控訴人の本件行為は,本件特許権の侵害行為に該当する旨主張す
る。その趣旨とするところは必ずしも明らかではないが,被控訴人の本件行為のみ
を見れば,本件特許権の侵害行為に当たらないとされる場合であっても,被控訴人
の会員による本件特許権の侵害行為の存在を前提にすれば,当該侵害行為と不可分
一体の行為として,被控訴人の行為も差止請求等の対象となると解すべきである旨
の主張であるとも解される。しかしながら,本件においては,実際にMR2
AB工法
を施工して,本件発明に係る方法を使用したとされる被控訴人の会員の具体的な実
施行為については何ら主張立証がされていない上,仮に,本件発明に係る方法を現
実に実施する会員自身が,被控訴人の本件行為に相当する行為を行ったとしても,
控訴人において,会員の上記実施行為を差し止め得ることは格別,本件行為に相当
する行為を差止請求の対象とすることができるものとは考え難いから,控訴人の主
張は採用の限りではない。
 なお,控訴人は,仮に,被控訴人が宣伝する工法が第三者の特許権を侵
害する場合であっても,被控訴人自体は工事を施工するものではないとの理由で,
当該第三者は,被控訴人の行為を差し止めることができないものとすれば,建設業
界における被控訴人とその会員との上記のような特殊な関係から,特許権者の権利
は全く保護されないことになり,不当であるなどとも主張する。しかしながら,上
記のとおり,本件で現実に行われた被控訴人の本件行為は本件特許権を侵害するも
のではないと認められるから,そうした行為を差し止めることができないことは,
むしろ当然というべきであるし,また,もとより,特許権者は,当該特許発明に係
る実施行為自体を差し止めることができるのであるから,それによって特許権者の
権利が保護されていることはいうまでもなく,控訴人の上記主張は失当である。
 以上のとおり,被控訴人の会員との共同行為を理由とする控訴人の主張
は,いずれも採用の限りではないというべきである。
ウ 会員の実施行為の教唆,幇助を理由とする主張について
 この点に関する当裁判所の判断は,原判決「事実及び理由」欄の「第4
 当裁判所の判断」の1の(3)のとおりであるから,これを引用する。
(3) 以上によれば,控訴人の本件差止め請求等(上記第1の2~4)は,いずれ
も理由がない。
2 争点(4)(謝罪広告の必要性)及び争点(5)(損害賠償請求)について
 本争点に関する当裁判所の判断は,原判決「事実及び理由」欄の「第4 当
裁判所の判断」の2及び3のとおりである(ただし,原判決13頁下から5行目の
「本件特許権についての信用」を「本件特許権の特許権者である控訴人の業務上の
信用」に,同頁下から3行目の「原告の請求4」を「上記第1の5」に,14頁2
行目の「原告の請求5」を「上記第1の6」にそれぞれ改める。)から,これを引
用する。
3 結論
 以上によれば,控訴人の被控訴人に対する請求は,その余の点について判断
するまでもなく,いずれも理由がないから棄却すべきである。
 よって,以上と同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,
これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所知的財産第2部
           裁判長裁判官    篠  原  勝  美
      裁判官    古  城  春  実
      裁判官    早  田  尚  貴

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