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裁判例


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       主   文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は、控訴人らの負担とする。
       事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人運輸大臣が、昭和六二年一一月二七日付けでした原判決別紙物件目録
記載一の土地(本件土地)上所在の同目録記載二及び三記載の各建物(それぞれ第
一工作物、第二工作物)並びにその他一切の工作物を含む通称「木の根団結砦」
(総称して本件工作物)に対する除去処分(本件除去処分)を取り消す。
三 被控訴人運輸大臣は、被控訴人新東京国際空港公団(被控訴人公団)に対し
て、本件土地の占有を控訴人らに回復させるための命令、勧告等適切な措置を講ぜ
よ(命令・勧告等措置請求)。
四 被控訴人国、被控訴人千葉県(被控訴人県)及び被控訴人公団は、控訴人三里
塚芝山連合空港反対同盟(控訴人同盟)に対し、連帯して二〇〇万円及びこれに対
する昭和六二年一一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被控訴人国、被控訴人県及び被控訴人公団は、控訴人同盟に対し、連帯して、
昭和六二年一一月二七日から被控訴人公団の本件土地明渡済みまで一か月六三〇〇
円の割合による金員を支払え。
六 被控訴人国、被控訴人県及び被控訴人公団は、控訴人A及び控訴人Bに対し、
各自連帯して五〇万円及びこれに対する昭和六二年一一月二七日から支払済みまで
年五分の割合による金員を支払え。
七 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
八 第四ないし第六項につき仮執行宣言
第二 事案の概要
 被控訴人運輸大臣は、昭和六二年一一月二六日、新東京国際空港の安全確保に関
する緊急措置法(緊急措置法)六条一項に基づき、通称「木の根団結砦」について
同法三条八項の除去措置を講ずる旨を決定し、被控訴人公団に除去措置事務を実施
させることとし、被控訴人公団は、同月二七日、本件工作物に対し本件除去処分を
完了した。また、被控訴人県(千葉県警察)は、同月二四日から二六日にかけて、
本件工作物に対する捜索差押許可状の執行に赴き、捜索のため本件土地内に立ち入
り、捜索に際し合計七名を逮捕した。
 そこで、本件工作物の所有者であると主張する控訴人同盟並びに第一工作物の管
理を控訴人同盟から委託されてこれに居住してきた控訴人A及び控訴人Bは、被控
訴人運輸大臣に対し、本件除去処分の取消し及び被控訴人公団をして本件土地の
占有を控訴人らに回復させるための命令・勧告等適切な措置を講ずるよう求め、さ
らに、本件除去処分及び逮捕活動は違法であり、これらは被控訴人国、被控訴人県
及び被控訴人公団の共同不法行為に当たると主張し、右被控訴人らに対し、第一、
第二工作物の破壊及び本件土地の占有喪失等を理由に損害賠償を控訴人同盟に、本
件除去処分により受けた精神的苦痛の慰謝料を控訴人らに、それぞれ支払うよう求
めた。
 これに対し、原判決は、被控訴人運輸大臣に対する訴えにつき、本件工作物が完
全に除去され本件除去処分が終了した以上、その取消しを求める訴えの利益はな
い、控訴人らが求める命令・勧告等の措置は、直接国民の権利義務を形成し、又は
その範囲を確定する効果を伴うものではないから、抗告訴訟の対象とならず、いわ
ゆる無名抗告訴訟の要件も備えていないと説示し、いずれも不適法であるとして却
下した。また、原判決は、被控訴人国、被控訴人県及び被控訴人公団に対する控訴
人らの損害賠償請求につき、緊急措置法三条八項は、控訴人らが主張する憲法の各
条項に違反しておらず、本件除去処分は、いずれも同条所定の要件を満たしており
適法であること、被控訴人県の逮捕活動等は、本件工作物内からの激しい抵抗が行
われたこと等に基づくやむを得ないものであり適法であること、被控訴人公団は、
本件土地の共有持分三九分の三七を有するから、本件土地の占有は管理行為(民法
二五二条)に基づくものとして適法であることなどを説示し、請求をいずれも棄却
した。そこで、控訴人らは、本件控訴を提起したものである。
 本件事案の概要は、原判決一六頁三行目の「原告代表C」を「控訴人代表者C」
に訂正し、以下のとおり当事者の当審における主張を付加するほか、原判決「事実
及び理由」の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人らの主張
1 本案前の申立てについて
(一) 本件除去処分取消請求の訴えの利益
(1) 行政処分の取消しによる効果は、処分前の処分がなかった時の地位の自動
的回復ということが第一義であって、そこから行政庁に一定の作為義務が発生する
か否かは二次的問題であり、本件除去処分が建物の除去という事実行為であって
も、右の自動的に回復されるべき地位は、まず先行して確定し得るものである。し
たがって、本件に即しても、一時的課題である原地位の回復ということを観念すべ
きであり
、かつ、それに相応しい法的意義が備わっていることを看過すべきではなく、現
に、行政事件訴訟法三一条の事情判決の場合、一定の現状の変更をなさしめず、裁
判所が処分に対する法的評価(違法の宣言)のみを下すことを許容している。この
ように、処分に対する違法判断によっても、独自に法的な利益の存することが法に
よっても認められているのであるから、本件除去処分においても、訴えの利益を認
めるべきである。
(2) 本件除去処分の取消しによる地位の回復ということは、控訴人らの法的地
位に大きな変動を具体的にもたらす。すなわち、被控訴人公団によれば、控訴人ら
の本件土地の占有権は本件工作物の所有・占有に由来するというのであるが、本件
除去処分が取り消され、処分前の地位がそのまま回復することになるから、被控訴
人公団の見解によっても、控訴人らは本件土地の占有権を回復することになる。処
分者が原状回復すべき根拠規定がないとしても、取消判決の効果として地位回復が
された結果、処分者である被控訴人運輸大臣は控訴人らが本件土地の直接占有を回
復しようとすることを容認しなければならず、一方、取消判決は第三者効を有して
いるから、被控訴人公団もこの判断に覊束され、その結果、被控訴人公団が現在に
至るまで継続している本件土地の直接占有に対し、控訴人らが正当に回復すべき法
律的地位を回復するに至るのであって、これが「法律上の利益」に当たることはい
うまでもない。
(二) 命令・勧告措置請求
 被控訴人運輸大臣は、緊急措置法三条六項を根拠に、被控訴人公団に対し、本件
土地の占有を控訴人らに回復させるための命令、勧告等適切な措置を講ずることが
できる。すなわち、被控訴人運輸大臣の被控訴人公団に対する授権の範囲は、あく
まで本件土地上の工作物の除去であって、その余の行為をなし得る権限は何ら与え
られていなかったのであり、被控訴人公団は、本件工作物を除去するため本件土地
に立ち入る権限を与えられたかもしれないが、本件土地に対し何らかの処分をする
権限までは与えられていない。したがって、被控訴人公団が本件土地に勝手に管理
柵を設置するなどということは絶対に許されないところであり、被控訴人公団のか
かる越権行為・法律上の地位の悪用に対し、本来の処分者である被控訴人運輸大臣
は、何らかの是正の措置を執り得るはずであり、それは、緊急措置法三条六項に基
づく被控訴人運輸大臣の
権限に内在するものというべきである。
2 本件除去処分の違法について
(一) 緊急措置法三条一項、八項が憲法二一条、二二条、二五条、二九条、三一
条に違反するものであることは明らかであるが、仮に右規定の合憲性を前提とする
としても、本件除去処分をすることができるのは、乗客の生命の安全にかかわる空
港施設の破壊を意図するような人物が、まさにそのような行為に出ようとして集合
していることが客観的に明らかな場合に限定されるべきである。さらに重要なの
は、暴力主義的破壊活動者が、かかる活動を実行しようとする蓋然性が真に認定さ
れ得たとしても、だからといって直ちに、運輪省によっても暴力主義的破壊活動者
ではないと言明されているところの控訴人同盟が所有している工作物についてま
で、右規定による処分がされることになってよいということには決してならないと
いうことであり、あくまで当該蓋然性とその工作物との関連性が認められることが
必須の要件である。本件は、(二)のとおり、そもそも暴力主義的破壊活動者が暴
力主義的破壊活動を実行しようとする蓋然性が認定できる場合に当たらないし、右
の蓋然性と本件工作物との関連性が認められない場合であることは明らかである。
(二) 本件除去処分の前提となる事実認定及び法的評価に対する原判決の誤りを
個別に摘示すると、以下のとおりである。
(1) 昭和六二年五月一二日の本件使用禁止命令後、控訴人A、控訴人B、D、
E、F及びGの六名が本件工作物に出入りをしていたというが出入りというだけで
暴力主義的破壊活動が実行される蓋然性のある集合があったということはできな
い。Dに検挙歴があったというが、そのことに係る闘争が空港を攻撃し乗客の安全
を脅かすようなものでなかったことは明らかである。また、D、E、F及びGが革
労協所属の者と行動を共にしていた事実は何ら証明されていない。
(2) 革労協は、本件使用禁止命令後も、「解放」において様々なスローガンを
記載しているが、これらは現実の闘争の具体的方針それ自体を表現しているもので
はなく、運動の抽象的方向性が大衆鼓舞的に強調されたものであるにすぎないので
あって、このような大衆宣伝の現象を捉えて革労協の政治方針と認める原判決は粗
雑のそしりを免れない。
(3) 原判決は、本件工作物が要塞化されていたというが、それはあくまで防御
目的であり、本件工作物に対する警察権力による
嫌がらせ・破壊攻撃が激化していたことから、反対運動を防衛するため、一定の防
御措置を講ずることが必須であった。空港本体から数百メートル離れた本件工作物
が、警察の暴力に対して防御を固める態勢を採ったからといって、空港の安全・乗
客の生命の安全が脅かされる具体的危険が生じたなどとは到底いえないであろう。
また、昭和六二年七月五日、同年九月一三日、同月一五日の三日にわたり、暴力主
義的破壊活動者と認められる控訴人A、控訴人B、革労協所属ないしこれらの者と
行動を共にしていると認められる多数の者らが本件工作物内に集合したというが、
革労協所属の事実の証明はないし、単に気勢を上げたというだけであり、暴力主義
的破壊活動が実行される蓋然性は何ら存在していない。
(4) 原判決は、昭和六二年一一月一六日に被控訴人公団が管理柵の設置等の作
業を行うにつき、本件工作物内櫓上から、大型パチンコや素手で、石塊、ボルト、
電池等を投擲したことを挙げるが、このことが空港に対する破壊行為、乗客の生命
を危殆に頻せしめる行為に当たらないことは明らかである。
(5) 昭和六二年一一月二四日から二六日まで、一定の実力闘争が行われた事実
は存在しているが、そのことがいかなる意味・態様において空港の保全・乗客の生
命の安全を脅かすことになるのか。右の実力闘争は、砦を防衛する目的のためのも
のであり、空港に対する攻撃的なものではなかったことは明らかである。さらに、
右の闘争の主体が刑事手続により処罰されることがあったとしても、このことと無
関係の第三者たる控訴人同盟が、行政上の手続保障を何ら受けることなく、その所
有する本件工作物を除去されてしまうことが許されるということはあり得ない。
二 被控訴人国及び被控訴人運輸大臣の主張
1 訴えの利益について
 控訴人らは、抗告訴訟の本質は、処分の違法の宣言にあり、原状回復の作為義務
の有無が訴えの利益の有無を決するわけではないと主張する。しかし、取消訴訟の
原状回復機能は、すべての取消訴訟に共通する最も重要な機能であって、行政行為
により変動した法律関係が判決により原状に復することになるのであり、取消しに
より行政行為がなかった状態になる。本件のような事実行為としての本件除去処分
においては、原状回復は観念的なものにとどまらず、一定の作為を要するところ、
被控訴人運輸大臣にそのような作為義務を認める法律上の規定がな
い以上、原状回復は不可能であるから、結局、本件除去処分を取り消す訴えの利益
がないことに帰する。
また、控訴人らは、本件において、原状回復を義務づける法規定がないとしても、
取消し自体によって地位の回復が観念でき、これにより本件工作物の敷地に対する
占有の回復という利益がある旨を主張する。しかし、そもそも占有とは、排他的に
物を支配している外形的事実を前提として観念し得るものであるところ、その外形
的事実は、本件除去処分によって消滅しており、処分を取り消しただけで右事実が
回復するわけではないことに鑑みれば、占有が回復することをもって取消しによる
法的利益があるとする控訴人らの主張は、その前提を誤っているといわなければな
らない。
2 本件除去処分の適法性について
 被控訴人運輸大臣は、当該工作物が多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供
されているか否かを判断するに当たって、緊急措置法の立法目的を十分に考慮し、
単に同法三条一項一号が定める要件を充足しているか否かにとどまらず、当該集合
と暴力主義的破壊活動等との関連性などについても検討した上、慎重に同号を適用
してきたところである。その判断に際しては、具体的に、①当該工作物の建設経
緯、構造、外形が日常生活を行うためのものとは通常認められず、暴力主義的破壊
活動等を行う闘争の拠点としての性格を有するものであるか否か、実際に多数の暴
力主義的破壊活動者が常駐ないし出入りし、暴力主義的破壊活動を主張する集会へ
の出発拠点や機関誌の発行拠点等として使用されているか否か、②常駐ないし出入
りしている者の所属する過激派集団が、これまで暴力主義的破壊活動等を実施する
ことを数多く主張し、実際に暴力主義的破壊活動等を実施しているか否か、③右過
激派集団が機関誌等において、当該工作物を暴力主義的破壊活動等の拠点(要塞
化、砦化など)とする、使用禁止命令に反発して当該工作物を死守する等の挑戦的
な意思を表明し、その具体化として工作物を要塞化したり、当該工作物への緊急措
置法適用に反発して暴力主義的破壊活動等を行ったか否か等の事情を総合衡量し
て、当該集合が暴力主義的破壊活動等に関連して行われたか否かを判断したもので
ある。したがって、本件除去処分は適法である。
三 被控訴人公団の主張
 仮に、被控訴人公団の行為が占有侵奪に当たるとしても、①控訴人らは本件土地
の所有権を有しないこと、②仮に
控訴人同盟が共有者から黙示的に本件土地の使用を認められていたとしても、本件
除去処分により本件建物等が除去された時点で、承認された使用目的による使用収
益を終了し、使用借権は消滅していること、③本件土地に三九分の三七の共有持分
権を有する被控訴人公団は、控訴人らの土地使用を認めていないし、残る三九分の
二は控訴人らと敵対関係にある反対同盟熱田派に所属する者が所有しており、控訴
人らに使用を認める可能性はないこと、④したがって、控訴人らは、本件土地に何
らの占有権原を有しておらず、むしろ被控訴人公団に対し本件土地を返還すべき立
場にあること、⑤本件土地は、その周囲がすべて被控訴人公団の所有地に囲まれて
おり、適法な占有権原を有しない限り控訴人らは囲繞地通行権を有せず、被控訴人
公団が通行を認めない限り、建築基準法上、本件土地上に再び建物を建築すること
はできないことなどからすると、占有喪失によって控訴人らに何ら損害は発生して
いないというべきである。
第三 当裁判所の判断
 当裁判所は、本件全資料を検討した結果、控訴人らの被控訴人運輸大臣に対する
本件除去処分の取消請求及び命令・勧告等措置請求は、いずれも不適法であるから
却下を免れず、被控訴人国、被控訴人公団及び被控訴人県に対する各損害賠償請求
はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、一のとおり原
判決を補正し、二のとおり控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほ
か、原判決「第三当裁判所の判断」に説示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決の補正
1 原判決一五〇頁九行目の「なお、」から同一五一頁一行目の「認められる。」
までを「なお、丁五及び弁論の全趣旨によれば、控訴人らは、被控訴人公団を被告
として占有回収の訴えを提起したが(千葉地方裁判所昭和六三年(ワ)第四八号、
差戻後平成二年(ワ)第一七二八号)、一審において請求棄却判決を受け、その控
訴審においても控訴棄却の判決を受け(東京高等裁判所平成五年(ネ)第四五八四
号)、平成一二年三月一七日、上告審における上告棄却の判決により確定した(最
高裁判所平成九年(オ)第一〇六五号)ことが認められる。)に訂正する。
2 原判決二三〇頁二行目の「被告公団の本件土地占有の適法性」を「本件土地の
占有侵害の有無」に訂正し、同二三二頁九行目冒頭から同二三四頁一一行目末尾ま
でを以下のとおり訂正する

「2 以上の認定に対し、控訴人らは、本件土地は、高橋から控訴人同盟に贈与さ
れたものであり、その所有権は控訴人同盟が有すると主張する。しかしながら、高
橋は、本件土地に係る自己の持分を被控訴人公団に譲渡しているものであり、右の
贈与の事実を認めるに足る証拠はない。なお、仮に、高橋から控訴人同盟に対する
贈与があったとしても、控訴人同盟は、昭和六一年に高橋から譲り受けた持分を含
め本件土地の三九分の三七の持分につき登記を経由している被控訴人公団に対し、
その所有権取得を対抗することはできない。したがって、右の控訴人らの主張を採
用することはできない。
3 ところで、緊急措置法三条八項は、そこで示される異常な事態に対処するた
め、厳格な要件の下に、使用禁止命令違反の状態が生じた場合の直接強制として当
該工作物を除去することができることを認めたものであるから、これによる本件工
作物の除去は適法であり、よって、控訴人同盟の第一、第二工作物の破壊を理由と
する損害賠償請求及び本件除去処分による慰謝料請求並びに控訴人A及び控訴人B
の本件除去処分の実施等により被った精神的苦痛に対する慰謝料請求は、いずれも
理由がないというべきである。もっとも、緊急措置法三条八項は、被控訴人運輸大
臣に対し、本件工作物を除去することができることを認めているが、本件工作物の
所在する土地の占有を解く権限まで与えたということはできないから、本件工作物
を除去した後、被控訴人公団が本件土地を占有していることにつき、本件工作物を
所有していた控訴人同盟の本件土地の占有喪失(侵奪)を理由とする損害賠償請求
(本件除去処分のあった日である昭和六二年一一月二七日から被控訴人公団の本件
土地明渡済みまで月額六三〇〇円の損害金)の可否が問題になるといわざるを得な
い(なお、控訴人らは、控訴人A及び控訴人Bも本件土地を占有しているかのよう
に主張しているが、同人らは、控訴人同盟から第一工作物の管理を委ねられていた
にすぎないから、本件土地を独立して占有していたと認めることはできず、占有権
侵害という問題が起こり得ないことは明らかである。)
 しかしながら、前記1で認定した事実によれば、控訴人らは、本件土地の共有者
ではなく、控訴人同盟が被控訴人公団又は他の共有者の承諾を得て本件土地上に本
件工作物を所有していたと認めるに足る証拠もないから、控訴人同盟は、本件土地
を占
有する権原を全く有していないことになる。そうすると、控訴人同盟が侵害された
と主張する本件土地の占有は、控訴人同盟が本件土地上に本件工作物を所有し事実
上その敷地部分を支配することにより成立していたにすぎないものであるから、本
件除去処分により本件工作物が本件土地から適法に除去されて消滅したことによ
り、本件建物の所有を介して控訴人同盟が有していた本件土地の占有も消滅したと
解するのが相当である。したがって、控訴人同盟が有していた本件土地の占有を消
滅させた被控訴人国(運輸大臣)ないし被控訴人公団の行為は適法であるから、同
被控訴人らが控訴人同盟に不法行為責任を負うことはあり得ないというべきであ
る。
 なお、仮に、本件工作物の除去により控訴人同盟の本件土地の占有は直ちに消滅
しないと解するならば、その後の被控訴人公団による本件土地の占有は、控訴人同
盟の占有を侵害するものと認める余地がある。しかし、前記のとおり、控訴人同盟
は、本件土地を占有する権原を全く有していないから、本件土地の不法占有者とし
て、本件土地につき三九分の三七の共有持分権を有する被控訴人公団から管理権に
基づき本件土地の返還を求められれば、当然に本件土地を被控訴人公団に対して返
還すべき立場にあるといわざるを得ない。また、本件土地は、その周囲がすべて被
控訴人公団の所有地に囲まれているところ(丁三の1~3)、控訴人同盟は、本件
土地に通じる通路につき囲繞地通行権を有していないから、被控訴人公団が通行を
認めない限り、控訴人同盟が本件土地の占有を実質的に回復しこれを利用すること
は不可能であることはいうまでもない。これらの事情を考慮すると、仮に、被控訴
人公団による本件土地の占有が控訴人同盟の占有を侵害するものであったとして
も、本件土地の占有の喪失によって、控訴人同盟が本件土地の占有を現実に回復す
るまでの間、その主張のように月額六三〇〇円の損害を被ったと認めることはでき
ない。
4 以上のように、控訴人同盟の占有喪失(侵奪)を理由とする損害賠償請求は理
由がないというべきである。なお、本件土地につき三九分の三七の持分を有する被
控訴人公団が、本件除去処分の後も本件土地を占有し、有刺鉄線により本件土地を
囲むなどして控訴人らの立入りを拒むことは、本件土地に対する管理行為(民法二
五二条)として許容されるものであることはいうまでもない。」
3 原判決二三
五頁一行目の「さらに、」の前に「これまで説示してきたとおり、被控訴人国、被
控訴人公団及び被控訴人県の行為はいずれも適法なものであるが、」を加える。
ニ 当審における控訴人の主張に対する判断
1 本案前の申立てについて
(一) 本件除去処分取消しの訴えの利益
(1) 控訴人らは、行政処分の取消しによる効果は、処分がなかった時の地位の
自動的回復ということが第一義であって、そこから行政庁に一定の作為義務が発生
するか否かは二次的問題であり、本件除去処分が建物の除去という事実行為であっ
ても、処分に対する違法判断により、右の自動的に回復されるべき地位を先行して
確定し得ると主張し、その例として、行政事件訴訟法三一条の事情判決を挙げ、処
分に対する違法判断による法的な利益が存することは法により認められているか
ら、本件除去処分においても訴えの利益を認めるべきであると主張する。
 しかしながら、行政処分の取消訴訟の目的は、その取消判決の効力によって、処
分の法的効果を遡及的に失わしめ、個人の権利ないし法律上保護されている利益に
対する侵害状態を解消させ、その法益の全部又は一部を回復させることにあるから
(最高裁昭和四七年一二月一二日第三小法廷判決民集二六巻一〇号一八五〇頁、最
高裁昭和五七年四月八日第一小法廷判決民集三六巻四号五九四頁参照)、国民の権
利利益を侵害する処分の法的効果が存続しており、これが取り消されることによっ
て処分により侵害された国民の権利利益が回復される場合に限り、訴えの利益を肯
定することができると解すべきである。
 そこで、本件除去処分についてみるに、緊急措置法三条八項に基づく本件除去処
分は、目的となる本件工作物を物理的に除去すれば目的を達し終了する事実行為で
あるから、除去処分が行われて工作物が除去された後に、本件除去処分が取り消さ
れたとしても、実定法上緊急措置法三条八項の除去処分が取り消された場合行政庁
(運輸大臣)に本件工作物を建築するなどの原状回復を義務づける規定は存しない
から、現段階においては、もはや本件除去処分の取消しを求める訴えの利益はなく
なったものといわざるを得ない。
(2) また、控訴人らは、本件除去処分が取り消されると、処分前の地位がその
まま回復することになるから、控訴人らは本件土地の占有権を回復することにな
り、その結果、処分者である被控訴人運輸大臣は控訴人らが本件土地の直接
占有を回復しようとすることを容認しなければならず、一方、取消判決は第三者効
を有しているから、被控訴人公団もこの判断に覊束され、その結果、被控訴人公団
が現在に至るまで継続している本件土地の直接占有に対し、控訴人らが正当に回復
すべき法律的地位を回復するに至るとし、これは「法律上の利益」に当たると主張
する。
 しかし、本件除去処分は、本件工作物の所在する土地の占有を解く効果まで有し
ているものではないから、これを取り消すことにより控訴人らが本件土地の占有権
を回復するという効果をもたらすものではない。また、前記一2のとおり、本件工
作物が適法に除去されて消滅したことにより、本件工作物を所有することによって
本件土地に成立していた控訴人同盟の占有も消滅したところ、占有とは、所持、す
なわち、物が社会通念上その人の事実的支配に属すると認められる客観的な関係を
要素とするものであるから、このことを離れ、本件除去処分の取消しにより既に消
滅した占有が観念的に回復すると解することはできないというべきである。したが
って、本件除去処分により控訴人らが本件土地の占有権を回復することになること
を前提とする控訴人らの主張も採用することはできない。
(二) 命令・勧告措置請求
 被控訴人運輸大臣は、緊急措置法三条六項を根拠に、被控訴人公団に対し、本件
土地の占有を控訴人らに回復させるための命令、勧告等適切な措置を講ずることが
できるとし、被控訴人公団は、本件土地上の工作物を除去する権限は与えられてい
たものの、本件土地に対し何らかの処分をする権限を与えられておらず、本件土地
に勝手に管理柵を設置するなどは許されないのであるから、かかる被控訴人公団の
越権行為・法律上の地位の悪用に対し、本来の処分者である被控訴人運輸大臣は何
らかの是正の措置を執り得るはずであり、それは緊急措置法三条六項に基づく被控
訴人運輸大臣の権限に内在するものであると主張する。
 しかしながら、被控訴人公団は、被控訴人運輸大臣の授権に基づき適法に本件工
作物を除去したものであるし、前記一2のとおり、その後被控訴人公団が本件土地
に管理柵を設置するなどして本件土地を占有していることは、本件土地の三九分の
三七の持分に基づく管理行為として許容されるものであるから、管理柵の設置は被
控訴人公団が越権行為・法律上の地位を悪用したものであるとの控訴人らの非難が
当を得たものでな
いことは明らかである。したがって、控訴人らの主張は理由がない。
2 本件除去処分の違法について
 控訴人らは、被控訴人運輸大臣が本件除去処分をすることができるのは、乗客の
生命の安全にかかわる空港施設の破壊を意図するような人物が、まさにそのような
行為に出ようとして集合していることが客観的に明らかな場合に限定されるべきで
あり、暴力主義的破壊活動者が、かかる活動を実行しようとする蓋然性が真に認定
され得たことから直ちに、控訴人同盟が所有している本件工作物についてまで、緊
急措置法三条八項に基づく本件除去処分がされてよいということにはならず、あく
まで当該蓋然性とその本件工作物との関連性が認められることが必須の要件である
と主張する。
 しかしながら、控訴人らの主張は、暴力主義的破壊活動の意義、対象、人物、集
合の動機、蓋然性の程度、右蓋然性と本件工作物との関連などを過度に限定するも
のであるから、採用することはできない。原判決第三、三、1及び2のとおり、本
件工作物は、新空港から三〇〇メートル以内の近距離にあり、本件使用禁止命令以
前から新空港及びその周辺の施設に向けて火炎弾を発射する等の暴力主義的破壊活
動等を繰り返し行っていた革労協が、暴力主義的破壊活動等の拠点ないし要塞とし
て使用しており、革労協を支援する関係者が多数出入り、集合して暴力主義的破壊
活動を行うおそれがあり、今後も本件使用禁止命令に従わないことが明らかな状況
にあったことなどに照らすと、緊急措置法三条八項の要件を充足していたと解する
ことができるから、本件除去処分は適法というべきである。
三 結論
 以上のように、控訴人らの被控訴人運輸大臣に対する本件除去処分の取消請求及
び命令・勧告等措置請求は、いずれも不適法であるから却下を免れず、被控訴人
国、被控訴人公団及び被控訴人県に対する各損害賠償請求はいずれも理由がないか
ら棄却すべきである。よって、同旨の原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理
由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事
訴訟法六七条一項、六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第九民事部
裁判長裁判官 塩崎勤
裁判官 小林正
裁判官 萩原秀紀

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