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裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 被告人らの上告趣意および弁護人東城守一、同山本博の上告趣意について。
 上告趣意は、憲法違反、判例違反等、論旨多岐にわたるが、要するに、公共企業
体等労働関係法(以下公労法と略称する。)一七条一項は憲法二八条に違反する旨
の主張と公労法一七条一項に違反する争議行為には労働組合法(以下労組法と略称
する。)一条二項の規定の適用があると解すべきである旨の主張とを骨子とするも
のである。これらの点について、当裁判所は、つぎのとおり判断する。
一 憲法二八条は、いわゆる労働基本権、すなわち、勤労者の団結する権利および
団体交渉その他の団体行動をする権利を保障している。この労働基本権の保障の狙
いは、憲法二五条に定めるいわゆる生存権の保障を基本理念とし、勤労者に対して
人間に値する生存を保障すべきものとする見地に立ち、一方で、憲法二七条の定め
るところによつて、勤労の権利および勤労条件を保障するとともに、他方で、憲法
二八条の定めるところによつて、経済上劣位に立つ勤労者に対して実質的な自由と
平等とを確保するための手段として、その団結権、団体交渉権、争議権等を保障し
ようとするものである。
 このように、憲法自体が労働基本権を保障している趣旨にそくして考えれば、実
定法規によつて労働基本権の制限を定めている場合にも、労働基本権保障の根本精
神にそくしてその制限の意味を考察すべきであり、ことに生存権の保障を基本理念
とし、財産権の保障と並んで勤労者の労働権・団結権・団体交渉権・争議権の保障
をしている法体制のもとでは、これら両者の間の調和と均衡が保たれるように、実
定法規の適切妥当な法解釈をしなければならない。
 右に述べた労働基本権は、たんに私企業の労働者だけについて保障されるのでは
なく、公共企業体の職員はもとよりのこと、国家公務員やを方公務員も、憲法二八
条にいう勤労者にほかならない以上、原則的には、その保障を受けるべきものと解
される。「公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」とする憲法
一五条を根拠として、公務員に対して右の労働基本権をすべて否定するようなこと
は許されない。ただ、公務員またはこれに準ずる者については、後に述べるように、
その担当する職務の内容に応じて、私企業における労働者と異なる制約を内包して
いるにとどまると解すべきである。
 労働基本権のうちで、団体行動の一つである争議をする権利についていえば、勤
労者がする争議行為は、正当な限界をこえないかぎり、憲法の保障する権利の行使
にほかならないから、正当な事由に基づくものとして、債務不履行による解雇、損
害賠償等の問題を生ずる余地がなく、また、違法性を欠くものとして、不法行為責
任を生ずることもない。労組法七条で、労働者が労働組合の正当な行為をしたこと
の故をもつて、使用者がこれを解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをする
ことを禁止し、また、同八条で、同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものに
よつて損害をうけたことの故をもつて、使用者が労働組合またはその組合員に対し
て、損害賠償を請求することができない旨を規定しているのは、右に述べた当然の
ことを明示的にしたものと解される。このような見地からすれば、同盟罷業その他
の争議行為であつて労組法の目的を達成するためにした正当なものが刑事制裁の対
象とならないことは、当然のことである。労組法一条二項で、刑法三五条の規定は、
労働組合の団体交渉その他の行為であつて労組法一条一項に掲げる目的を達成する
ためにした正当なものについて適用があるとしているのは、この当然のことを注意
的に規定したものと解すべきである。また、同条二項但書で、いかなる場合にも、
暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならないと規定しているが、
これは争議行為の正当性の一つの限界を示し、この限界をこえる行為は、もはや刑
事免責を受けないことを明らかにしたものというべきである。
二 右に述べたように、勤労者の団結権・団体交渉権・争議権等の労働基本権は、
すべての勤労者に通じ、その生存権保障の理念に基づいて憲法二八条の保障すると
ころであるが、これらの権利であつて、もとより、何らの制約も許されない絶対的
なものではないのであつて、国民生活全体の利益の保障という見地からの制約を当
然の内在的制約として内包しているものと解釈しなければならない。しかし、具休
的にどのような制約が合憲とされるかについては、諸般の条件、ことに左の諸点を
考慮に入れ、慎重に決定する必要がある。
 (1) 労働基本権の制限は、労働基本権を尊重確保する必要と国民生活全体の
利益を維持増進する必要とを比較衡量して、両者が適正な均衡を保つことを目途と
して決定すべきであるが、労働基本権が勤労者の生存権に直結し、それを保障する
ための重要な手段である点を考慮すれば、その制限は、合理性の認められる必要最
小限度のものにとどめなければならない。
 (2) 労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の性質が公共性
の強いものであり、したがつてその職務または業務の停廃が国民生活全体の利益を
害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避ける
ために必要やむを得ない場合について考慮されるべきである。
 (3) 労働基本権の制限違反に伴う法律効果、すなわち、違反者に対して課せ
られる不利益については、必要な限度をこえないように、十分な配慮がなされなけ
ればならない。とくに、勤労者の争議行為等に対して刑事制裁を科することは、必
要やむを得ない場合に限られるべきであり、同盟罷業、怠業のような単純な不作為
を刑罰の対象とするについては、特別に慎重でなければならない。けだし、現行法
上、契約上の債務の単なる不履行は、債務不履行の問題として、これに契約の解除、
損害賠償責任等の民事的法律効果が伴うにとどまり、刑事上の問題としてこれに刑
罰が科せられないのが原則である。このことは、人権尊重の近代的思想からも、刑
事制裁は反社会性の強いもののみを対象とすべきであるとの刑事政策の理想からも、
当然のことにほかならない。それは債務が雇傭契約ないし労働契約上のものである
場合でも異なるところがなく、労務者がたんに労務を供給せず(罷業)もしくは不
完全にしか供給しない(怠業)ことがあつても、それだけでは、一般的にいつて、
刑事制裁をもつてこれに臨むべき筋合ではない。
 (4) 職務または業務の性質上からして、労働基本権を制限することがやむを
得ない場合には、これに見合う代償措置が講ぜられなければならない。
 以上に述べたところは、労働基本権の制限を目的とする法律を制定する際に留意
されなければならないばかりでなく、すでに制定されている法律を解釈適用するに
際しても、十分に考慮されなければならない。
三 そこで、労働基本権制限の具体的態様についてみるに、法律によつて定めると
ころがまちまちであり、かつ、幾度かの改廃を経て現在に至つている。すなわち、
昭和二三年七月三一日政今第二〇一号が制定施行されるまでは、国家公務員や地方
公務員も、一定の職員を除いて、一般の勤労者と同様に、団結雇・団体交渉権・争
議権等について制限されることなく、争議行為も許されていた。政令第二〇一号の
制定施行によつて、公務員は、国家公務員たると地方公務員たるとを問わず、何人
も同盟罷業、怠業はもちろん、国または地方公共団体の業務の運営・能率を阻害す
る一切の争議行為を禁止され、これに違反した者は、刑罰を科せられることになつ
た。しかし、昭和二三年一二月三日改正施行された国家公務員法では、一切の争議
行為が禁止されたことは右の政令と同様であるが、たんに争議行為に参加したにす
ぎない者は処罰されることがなく、争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、もしく
はあおり、またはこれらの行為を企てた者だけが処罰されることになつた(昭和四
〇年法律第六九号による改正前の国家公務員法九八条五項、一一〇条一項一七号、
なお、地方公務員法三七条一項、六一条四号参照)。ところが、昭和二三年一二月
二〇日に公布され、翌二四年六月一日から施行された公共企業体労働関係法では、
国鉄・専売公社はいわゆる公共企業体と呼ばれ、その職員は、一切の争議行為を禁
止されたけれども、その違反に対しては、刑事制裁に関する規定を欠き、同法に違
反する行為をしたことそのことを理由として同法によつて刑事責任を問われること
はなくなつた。昭和二七年七月三一日の同法の改正では、被告人ら郵政職員を含む
いわゆる五現業の職員の争議行為等について、国家公務員法の規定の適用が排除さ
れ、新らしい公共企業体等労働関係法の関係規定が適用されることになつた。した
がつて、郵政職員の争議行為は、公労法一七条一項によつて禁止されていることが
明らかであるが、その違反に対しては、これを共謀、教唆、煽動、企図したもので
あるといなとを問わず、禁止の違反そのものを理由として同法によつて刑事責任を
問われることはなくなつた。
 以上の関係法令の制定改廃の経過に徴すると、公労法適用の職員については、公
共企業体の職員であると、いわゆる五現業の職員であるとを問わず、憲法の保障す
る労働基本権を尊重し、これに対する制限は必要やむを得ない最小限度にとどめる
べきであるとの見地から、争議行為禁止違反に対する制裁をしだいに緩和し、刑事
制裁は、正当性の限界をこえないかぎり、これを科さない趣旨であると解するのが
相当である。
四 右のような経過をたどつてきた現行の公労法の規定について検討するに、その
一七条一項は、いわゆる五現業および三公社の業務に従事する職員およびその組合
は、公共企業体等に対して同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一
切の行為をすることができないこと、また、右職員ならびに組合の組合員および役
員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、もしくはあおつてはなら
ないことを規定している。この規定は、職員等の行為がたんなる債務不履行または
それをそそのかす等の行為であつても、それが業務の正常な運営を阻害するもので
あるかぎり、これを違法とするものであつて、その意味で憲法二八条の保障する争
議権を制限するものであることは明らかである。
 上告趣意は、公労法一七条一項の規定が憲法二八条および一八条に違反して無効
であるという。しかし、右の規定が憲法の右の法条に違反するものでないことは、
すでに当裁判所の判例とするところであり(前者については、昭和二六年(あ)第
一六八八号同三〇年六月二二日大法廷判決、刑集九巻八号一一八九頁、後者につい
ては、昭和二四年(れ)第六八五号同二八年四月八日大法廷判決、刑集七巻四号七
七五頁)、公労法一七条一項の規定が違憲でないとする結論そのものについては、
今日でも変更の必要を認めない。その理由をすこし詳しく述べると、つぎのとおり
である。
 憲法二八条の保障する労働基本権は、さきに述べたように、何らの制約も許され
ない絶対的なものではなく、国民生活全体の利益の保障という見地からの制約を当
然に内包しているものと解すべきである。いわゆる五現業および三公社の職員の行
なう業務は、多かれ少なかれ、また、直接と間接との相違はあつても、等しく国民
生活全体の利益と密接な関連を有するものであり、その業務の停廃が国民生活全体
の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあることは疑いをいれな
い。他の業務はさておき、本件の郵便業務についていえば、その業務が独占的なも
のであり、かつ、国民生活全体との関連性がきわめて強いから、業務の停廃は国民
生活に重大な障害をもたらすおそれがあるなど、社会公共に及ぼす影響がきわめて
大きいことは多言を要しない。それ故に、その業務に従事する郵政職員に対してそ
の争議行為を禁止する規定を設け、その禁止に違反した者に対して不利益を課する
ことにしても、その不利益が前に述べた基準に照らして必要な限度をこえない合理
的なものであるかぎり、これを違憲無効ということはできない。
 この観点から公労法一七条一項の定める争議行為の禁止の違反に対する制裁をみ
るに、公労法一八条は、同一七条に違反する行為をした職員は解雇されると規定し、
同三条は、公共企業体等の職員に関する労働関係について、労組法の多くの規定を
適用することとしながら、労働組合または組合員の損害賠償責任に関する労組法八
条の規定をとくに除外するとしている。争議行為禁止違反が違法であるというのは、
これらの民事責任を免れないとの意味においてである。そうして、このような意味
で争議行為を禁止することについてさえも、その代償として、右の職員については、
公共企業体等との紛争に関して、公共企業体等労働委員会によるあつせん、調停お
よび仲裁の制度を設け、ことに、公益委員をもつて構成される仲裁委員会のした仲
裁裁定は、労働協約と同一の効力を有し、当事者双方を拘束するとしている。そう
してみれば、公労法一七条一項に違反した者に対して、右のような民事責任を伴う
争議行為の禁止をすることは、憲法二八条、一八条に違反するものでないこと疑い
をいれない。
五 つぎに、公労法一七条一項に違反して争議行為をした者に対する刑事制裁につ
いて見るに、さきに法制の沿革について述べたとおり、争議行為禁止の違反に対す
る制裁はしだいに緩和される方向をとり、現行の公労法は特別の罰則を設けていな
い。このことは、公労法そのものとしては、争議行為禁止の違反について、刑事制
裁はこれを科さない趣旨であると解するのが相当である。公労法三条で、刑事免責
に関する労組法一条二項の適用を排除することなく、これを争議行為にも適用する
こととしているのは、この趣旨を裏づけるものということができる。そのことは、
憲法二八条の保障する労働基本権尊重の根本精神にのつとり、争議行為の禁止違反
に対する効果または制裁は必要最小限度にとどめるべきであるとの見地から、違法
な争議行為に関しては、民事責任を負わせるだけで足り、刑事制裁をもつて臨むべ
きではないとの基本的態度を示したものと解することができる。
 この点で参考になるのは、国家公務員法および地方公務員法の適用を受ける非現
業の公務員の争議行為に対する刑事制裁との比較である。この制裁としては、争議
行為を共謀し、そそのかし、もしくはあおり、またはこれらの行為を企てた者だけ
を罰することとしている(昭和四〇年法律第六九号による改正前の国家公務員法九
八条五項、一一〇条一項一七号、地方公務員法三七条一項、六一条四号)。その趣
旨は、一方で、これらの公務員の争議行為は公共の福祉の要請によつて禁止される
けれども、他方で、これらの公務員も勤労者であり、憲法によつて労働基本権を保
障されているから、この要請と保障を適当に調整するために、単純に争議行為を行
なつた者に対しては、民事制裁を課するにとどめ、積極的に争議行為を指導した者
にかぎつて、さらに刑事制裁を科することにしたものと認められる。右の公務員と
公労法の適用を受ける公共企業体等の現業職員とを比較すれば、右の公務員の職務
の方が公共性の強いことは疑いをいれない。その公務員の争議行為に対してさえも、
刑事法上の制裁は積極的に争議行為を指導した者だけに科せられ、単純に争議行為
を行なつた者には科せられない。そうしてみれば、公共企業体等の現業職員の争議
行為には、それより軽い制裁を科するか、制裁を科さないのが当然である。ところ
で、公労法は刑事制裁に関して、なにも規定していないから、これを科さない趣旨
であると解するのが相当である。
 このように見てくると、公労法三条が労組法一条二項の適用があるものとしてい
るのは、争議行為が労組法一条一項の目的を達成するためのものであり、かつ、た
んなる罷業または怠業等の不作為が存在するにとどまり、暴力の行使その他の不当
性を伴わない場合には、刑事制裁の対象とはならないと解するのが相当である。そ
れと同時に、争議行為が刑事制裁の対象とならないのは、右の限度においてであつ
て、もし争議行為が労組法一条一項の目的のためでなくして政治的目的のために行
なわれたような場合であるとか、暴力を伴う場合であるとか、社会の通念に照らし
て不当に長期に及ぶときのように国民生活に重大な障害をもたらす場合には、憲法
二八条に保障された争議行為としての正当性の限界をこえるもので、刑事制裁を免
れないといわなければならない。これと異なり、公共企業体等の職員のする争議行
為について労組法一条二項の適用を否定し、争議行為について正当性の限界のいか
んを論ずる余地がないとした当裁判所の判例(昭和三七年(あ)第一八〇三号同三
八年三月一五日第二小法廷判決、刑集一七巻二号二三頁)は、これを変更すべきも
のと認める。
六 ところで、郵便法の関係について見るに、その七九条一項は、郵便の業務に従
事する者がことさらに郵便の取扱をせずまたはこれを遅延させたときは、一年以下
の懲役または二万円以下の罰金に処すると規定している。このことは、債務不履行
不可罰の原則に対する例外を規定したものとして注目に値することであるが、郵便
業務の強い公共性にかんがみれば、右の程度の罰則をもつて臨むことには、合理的
な理由があるもので、必要の限度をこえたものということはできない(郵便物運送
委託法二一条参照)。この罰則は、もつぱら争議行為を対象としたものでないこと
は明白であるが、その反面で、郵政職員が争議行為として右のような行為をした場
合にその適用を排除すべき理由も見出しがたいので、争議行為にも適用があるもの
と解するほかはない。ただ、争議行為が労組法一条一項の目的のためであり、暴力
の行使その他の不当性を伴わないときは、前に述べたように、正当な争議行為とし
て刑事制裁を科せられないものであり、労組法一条二項が明らかにしているとおり、
郵便法の罰則は適用されないこととなる。これを逆にいえば、争議行為が労組法一
条一項の目的に副わず、または暴力の行使その他の不当性を伴う場合には、右の罰
則が適用される。また、その違法な争議を教唆した者は、刑法の定めるところによ
り、共犯の責を免れない。
七 具体的に本件についてみるに、第一審判決は、公訴事実に基づいて、Aら三八
名の行為を郵便法七九条一項前段違反の構成要件に該当すると認定した。原判決は、
前述の第二小法廷の判決に従つて、公共企業体等の職員は、公労法一七条一項によ
つて争議行為を禁止され、争議権自体を否定されているのであるから、もし右のよ
うな事実関係があるとすれば、その争議行為について正当性の限界いかんを論ずる
余地はなく、労組法一条二項の適用はないとしている。
 しかし、本件被告人らは、本件の行為を争議行為としてしたものであることは、
第一審判決の認定しているとおりであるから、Aらの行為については、さきに述べ
た憲法二八条および公労法一七条一項の合理的解釈に従い、労組法一条二項を適用
して、はたして同条項にいう正当なものであるかいなかを具体的事実関係に照らし
て認定判断し、郵便法七九条一項の罪責の有無を判断しなければならないところで
ある。したがつて、原判決の右判断は、法令の解釈適用を誤つたもので、その違法
は判決に影響を及ぼすこと明らかであり、これを破棄しなければいちじるしく正義
に反するものといわなければならない。
 以上の判断に照らせば、公労法一七条一項および原判決が憲法一一条、一四条、
一八条、二五条、二八条、三一条、九八条に違反する旨の各論旨は理由なきに帰す
る。よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、原判決を破棄し、さらに審理を
尽させるために、本件を東京高等裁判所に差し戻すものとし、刑訴法四一一条一号、
四一三条本文により、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官松田二郎、同岩田誠の補足意見、裁判官奥野健一、同五鬼上
堅磐、同草鹿浅之介、同石田和外の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見に
よるものである。
 裁判官松田二郎の補足意見は次のとおりである。
 当裁判所昭和三七年(あ)第一八〇三号同三八年三月一五日第二小法廷判決によ
れば、公労法一七条一項が争議行為を禁止し争議権自体を否定している以上、これ
に違反してなされた争議行為については正当性の限界いかんを論ずる余地はなく、
したがつて労組法一条二項の適用はないというのである。これに対し本判決は、こ
の判例を変更するものであるが、私は多数意見を補足して若干意見を述べたい。
 (一) 前記第二小法廷判決の見解は、ある行為かいずれかの法令により違法と
される以上、刑法上も当然違法であり、従つてそのような行為につき刑法上違法性
の阻却されることはありえない、という考えを前提とするものである。なるほど、
行為が違法であるか否かは、法秩序全体の観点からする判断であるから、ある行為
が一つの法規によつて禁ぜられ違法とされた場合には、それは他の法域においても
一応違法なものと考えられよう。しかし、同じ法域、たとえば、同じ民事法の範囲
内においてすら、法規違反の行為とされるものの中にも、その効力が否定されて無
効となるものとしからざるものとがあり、また行為を無効ならしめる場合の違法性
と不法行為の要件としての行為の違法性とは、その反社会性の程度において必ずし
も同一ではありえない。いわんや、法域を異にする場合、それぞれの法域において
問題となる違法性の程度は当該法規の趣旨・目的に照らして決定されるところであ
り、従つて刑法において違法とされるか否かは、他の法域における違法性とは無関
係ではないが、しかし別個独立に考察されるべき問題なのである。この理は、刑法
と労働法との間においても全く同様であり、労働法規が争議行為を禁止してこれを
違法として解雇などの不利益な効果を与えているからといつて、そのことから直ち
にその争議行為が刑罰法規における違法性、すなわちいわゆる可罰的違法性までを
も帯びているということはできない。ことに、刑罰がこれを科せられる者に対し強
烈な苦痛すら伴う最も不利益な法的効果をもたらす性質上、刑罰法規の要求する違
法性は他の法域におけるそれよりも一般に高度の反社会性を帯びたものであるべき
である。しかしてこの見地に立つて前記第二小法廷の判決を見るとき、それは、行
為の違法性を一義的に解して法域によるその反社会性の段階または程度の差を認め
ず、公労法上違法とされた争議行為は、当然に刑法上においても違法だとした前提
において、既に誤つているものというべきである。
 (二) 本件の問題たる公共企業体等の職員の争議行為についていえば、それは
昭和二三年政令第二〇一号の施行以来現行の公労法に至るまで禁止されているが、
多数意見の説示するように、これに対する刑事制裁はしだいに緩和される方向に向
い、現在においては単に争議行為をし、あるいはこれを共謀し、そそのかし、もし
くはあおつたことだけのゆえをもつては、これに対し刑罰を科することなく、解雇
を認めるにとどまつているのである。しかして、多数意見がその一および二におい
て憲法の定める労働基本権の尊重を説示し、これに対する制約に限度あることを強
調することに思をいたし、更に公労法三条が争議行為を含む労働組合の団体交渉そ
の他の行為のいわゆる刑事免責に関する労組法一条二項の適用をあえて排除してい
ないこと(その明文上争議行為の場合を除外していないことは明白である。)に照
らせば、公共企業体等の職員の行なう争議行為は、公労法上違法ではあるとしても、
争議行為として正当な範囲内にとどまるものと認められるかぎり、右の違法性は刑
罰法規一般の予定する違法性、すなわち可罰的違法性の程度には達していないもの
と解すべきである。従つて、その行為が刑罰法規の構成要件に該当する場合におい
ても、それが争議行為の正当な範囲内にとどまるかぎり、刑罰を科するに足る高度
の反社会性を欠くものとしてその違法性は阻却されるものというべきである。この
ように解するときは、本件被告人らの行為が郵便法七九条一項に該当するとしても、
労組法一条二項により改めてその正当性の有無を検討しなければならないことにな
るのである。
 裁判官岩田誠の補足意見は次のとおりである。
 私は、行為の違法性論の見地からする松田裁判官の意見にすべて同調するもので
あるが、なお、やや異なつた視点から、公共企業体等の職員の争議行為に労組法一
条二項の適用を認むべき理由につき、一言意見を述べておきたい。
 公労法は、その一七条一項によつて公共企業体等の職員の争議行為を禁止しなが
ら、その禁止違反に対する罰則を置いていない。しかし、一方において郵便法七九
条一項は「郵便の業務に従事する者がことさらに郵便の取扱をせず、又はこれを遅
延させたときは、これを一年以下の懲役又は二万円以下の罰金に処する。」と規定
している。この郵便法の規定は、争議行為として行われた行為だけを予定したもの
ではないが、郵政職員が争議行為として同盟罷業または怠業をした場合も一応この
構成要件に該当することになるから、もしその行為に労組法一条二項による違法性
阻却の余地が全くないのならば、少なくとも郵政職賃に関するかぎりは、実質にお
いて争議行為そのものを処罰する規定があるのと異ならないことになる(なお、日
本電信電話公社の職員については、公衆電気通信法一一〇条一項参照)。しかし、
このような結論を認めることがはたして法の趣旨に合致した合理的な解釈だといえ
るであろうか。以下、私は、この結論が現行法秩序の精神に反するものであること
を明らかにして、公労法違反の争議行為に労組法一条二項を適用する余地なしとす
る見解の誤りであることを指摘してみたいと思う。
 (イ) 第一に、公労法は公共企業体等の職員の労働関係についての基本法とも
いうべきものであつて、その争議行為の禁止も同法中に規定されているのであるか
ら、もしその禁止に反する争議行為そのものを処罰しようとするのであれば、本来
同法中にその罰則が設けられてしかるべきである。かりに公労法以外の法令に設け
るとしても、少なくとも争議行為を予定した労働関係の規定として設けられるべき
ものである(例えば、自衛隊法六四条、一一九条一項三号、二項、一二〇条一項一
号、二項、一二二条一項一号、二項)。また、そればかりでなく、もし郵便法の前
記罰条によつて争議行為が処罰されるのならば、なぜ郵政職員を他の公共企業体等
の職員なかんずく日本国有鉄道の職員と区別してその争議行為に刑事制裁を科する
のか、その合理的な理由を十分説明することができないであろう(国鉄職員につい
ては、郵便法七九条一項に相当する規定は存在しない。また、鉄道営業法二五条の
罰則も、国鉄職員が単なる同盟罷業または怠業をした場合に当然に適用があるもの
でないことは、その構成要件上明らかであり、争議行為としてなされた行為が同条
に該当する場合には、むしろそれは労組法一条二項にいう正当な争議行為とはいえ
ないであろう。)。
 (ロ) 次に立法の沿革からみると、そもそも郵便法の前記罰条は、旧郵便法五
三条の規定を継承して昭和二二年一二月一二日法律第一六五号によつて設けられ昭
和二三年一月一日から施行されたものであるが、この当時は郵政職員を含む一般の
国家公務員の争議行為は禁止されておらず、したがつて争議行為としてした行為が
同条項に該当した場合、当時の労組法(昭和二四年法律第一七四号による改正前の
昭和二〇年法律第五一号)一条二項(現行法一条二項と同旨)の適用があるのは当
然のことと解されていた。その後昭和二三年七月三一日政令第二〇一号によつて公
務員の争議行為が禁止され、かつその違反に対して刑罰が科せられることとなつた
けれども、同令の適用のある間に郵政職員が争議行為として同盟罷業または怠業の
挙に出た場合、はたして同令の罰則のほかに郵便法七九条一項の適用をも受けたで
あろうか。当裁判所昭和二四年(れ)第一九一八号同三〇年一〇月二六日大法廷判
決(刑集九巻一一号二三一三頁)の趣旨からすると、これを消極に解せざるをえな
い。けだし、この判例は、争議行為禁止の違反そのものに対しては右政令の罰則だ
けを適用し処断すべきものであつて、重ねて他の罰条を適用すべきでないという趣
旨のものと解されるからである。そして、その後における国家公務員法の改正によ
る前記政令の適用除外、公労法の制定、郵政職員を含むいわゆる五現業の職員への
同法の適用範囲の拡大という争議権の制限緩和の一連の立法経過に照らすときは、
本来郵政職員の争議行為を処罰する趣旨のものでなかつた郵便法の前記規定が中途
のいずれかの時期にその性格を変じて争議行為を処罰する規定となつたとみるべき
根拠はいずこにも見いだすことができないのである。
 これを要するに、郵政職員が公労法一七条一項に違反し争議行為として同盟罷業
または怠業をした場合に当然郵便法七九条一項を適用してこれに刑事制裁を加えう
るとすることは、明らかに現行法秩序の精神に反する解釈だといわなければならな
い。そして、この誤つた結論は、公共企業体等の職員の争議行為に労組法一条二項
の適用の余地なしとの判断を前提としてはじめて理論的に成立するものである。こ
の点から考えても、右の前提たる判断の不当であることは明白だというべきであろ
う。
 裁判官奥野健一、同草鹿浅之介、同石田和外の反対意見は次のとおりである。
 公共企業体等労働関係法(以下公労法と略称する。)一七条一項は憲法二八条に
違反する旨及び公労法一七条一項に違反する争議行為には労働組合法(以下労組法
と略称する。)一条二項の適用がある旨主張する上告論旨について。
 憲法二八条の保障する労働基本権といえども、絶対無制限なものではなく、公共
の福祉のため、特に、必要があるときは、合理的制限をすることができるものであ
り、このことは既に当裁判所の判例とするところである(昭和二四年(れ)第六八
五号同二八年四月八日大法廷判決、刑集七巻四号七七五頁)。
 公労法一条は、「この法律は……公共企業体及び国の経営する企業の正常な運営
を最大限に確保し、もつて公共の福祉を増進し、擁護することを目的とする。」旨
規定し、その目的を達成するため、同法一七条において、かかる企業に従事する公
共企業体等の職員及びその組合は、同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻
害する一切の行為をすることができない旨を規定して、これら職員につき、業務の
正常な運営を阻害する一切の争議行為を禁止しているのである。これは公共企業体
等の事業が国民経済に重要な関係を有する公共性の強いものであり、その企業の正
常な運営はいささかも阻害されることが許されないものであり、従つてその職員の
職務は、広く国民全体の利益と緊密な関係を有し、一般私企業における勤労者の職
務とその性質を著しく異にすることにかんがみ、その職員を全体の奉仕者である国
家公務員、またはこれに準ずる者として、公共の福祉の要請に基づいて、右の如く
その争議行為を禁止したものであり、他面その代償保障として、公共企業体等とそ
の職員との紛争につき、あつせん、調停及び仲裁を行うため、公平な公共企業体等
労働委員会を設け、殊に同会のなした仲裁裁定は、労働協約と同一の効力を有し、
当事者双方とも、最終的決定として、これに拘束される(同法三五条)ものとして
いるのである。
 すなわち、公共企業体等の企業の公益性にかんがみ、公共の福祉のため、その業
務に従事する職員につき一切の争議行為を禁止するが、他面その代償措置として、
あつせん、調停及び仲裁の制度を設けて、その職員の利益を保障しているのであつ
て、かくの如き労働権の規制は公共の福祉のためにする合理的な制限として是認す
ることができ、憲法二八条に違反するものではない。そして公労法一七条の違憲で
ないことは、夙に当裁判所の判例(昭和二六年(あ)第一六八八号同三〇年六月二
二日大法廷判決、刑集九巻八号一一八九頁)とするところでもある。今これを変更
する必要を認めない。
 右の如く、公共企業体等の職員は、業務の正常な運営を阻害する一切の争議行為
を、法律により、禁止されているのであつて、これに違反してなす争議はすべて違
法なものであり、従つて正当な争議行為とはいい得ないことは極めて明白である。
換言すれば、争議行為の内容が、単に職場放棄の如き消極的な不作為であつても、
前記一七条の同盟罷業または怠業等に該当する限り、その争議行為は違法であり、
従つて正当性を有しないものといわざるを得ないのである。
 苛もある法律によつて一切の争議行為が禁止せられ、違法なものとされている以
上、他の法域において、それが適法であるということは許されない。けだし行為の
違法性はすべての法域を通じて一義的に決せらるべきものであり、公労法上違法と
された行為が刑事法上違法性を欠くというがごときは理論上あり得ないからである。
そして、その禁止に違反する行為につき何ら制裁規定を設けていない場合であると、
自衛隊法六四条二項、一一九条一項三号の如く、刑事上の制裁を科している場合で
あると、将又公労法一七条、一八条の如く民事上の解雇の制裁のみを定めている場
合であるとを問わず、すべての法域において、等しく違法、不当であることには変
りはない。従つて、公労法一七条違反の場合につき、同法が刑事上の制裁を科せず、
民事上の解雇の制裁のみを規定しているからといつて、右一七条は、その禁止に違
反して争議をしても、単に解雇の制裁を科し得るだけで、刑事法上は適法、正当な
ものとして、これを許容しているものとは到底解し得られないのである。すなわち、
公共企業体等の職員に対して一切の争議行為を禁止している所以は、前述の如く、
公共企業体等の業務の正常な運営を阻害することは、国民経済に重大な影響を与え
ることにかんがみ、公共の福祉の要請上、その争議を全面的に禁止しているのであ
つて、単に労使間における労務不提供という債務不履行を禁止しているのではなく、
従つて、刑法その他一般の法律秩序の上において、かかる争議を違法と評価してい
るものというべきである。
 かように、公共企業体等の職員は、その争議行為が禁止され、争議権自体法律上
否定されている以上、これに違反してなす争議行為につき、労組法一条二項の刑事
上の免責規定の適用の余地はないものと解する。けだし、労組法一条二項の刑事上
の免責規定は、争議行為についてみると、本来適法に争議権を認められている労働
組合の争議行為において、その行為が労組法一条一項の目的を達成するためにした
正当なものである場合に限つて、たとえ、その行為が犯罪構成要件に該当していて
も、その違法性が阻却さるべきことを規定したものであつて、当初より争議権を有
しない者の違法、不当な争議行為については、その適用の余地はないものというべ
く、また当初より正当性のない争議行為につき、その正当性の限界如何を論ずる余
地もないからである。すなわち、労組法一条二項の「……団体交渉その他の行為」
という「その他の行為」のうちには、公共企業体等の職員については、そもそも争
議権がないのであるから、争議行為は除外されているものと解すべきであることは、
公労法一七条と対比して明白であるからである(若し公共企業体等の職員の争議に
も、労組法一条二項の適用があるとすれば、結局一般私企業に従事する労働者の争
議と大差のない刑事法的保護を受けることになり、公労法が、同法一七条により争
議を一切禁止した代償保障として公共企業体等の職員のためにあつせん、調停及び
仲裁の制度を、特に設けた立法趣旨に反することになる。)。
 もつとも、公労法三条は、労組法一条二項の適用を除外する旨の明文を設けてい
ないけれども、公共企業体等の職員は、争議権は否定されているものの、なお団結
権及び団体交渉権は有するのであつて、例えば団体交渉に当たり右労組法一条二項
の適用を受ける余地は十分あるのであるから、同条項の全面的適用除外は許されな
いのである。そのうち争議行為の場合を除外する趣旨の規定を特に置かなかつたの
は、元来争議権を有しない者の争議行為について同条項の適用の余地のないことは
理論上自明の理であるため、あえてその点まで規定するほどの必要を認めなかつた
からに外ならない。これに対し、公労法三条が労組法八条の適用除外を明定したの
は、同条が争議行為のみに関する規定であり、公共企業体等の職員の争議行為につ
いては正当なものという観念があり得ないのであるから、その適用の余地が全くな
いためである。それ故、公労法三条が特に労組法八条の適用を除外しながら、同法
一条二項の適用を除外しなかつたことを理由として、公共企業体等の職員の争議に
つき右一条二項の適用があるものと解することは失当だといわなければならない。
 また論旨は、争議行為については憲法二八条自体から当然に刑事上の免責が生ず
るのであつて、労組法一条二項はこれを受けて訓示的に刑事免責を法定したもので
あり、他方公労法は最高規範たる憲法の下位規範で、これに優先することはできな
いから、公労法一七条のあることを理由として労組法一条二項の適用を排斥するこ
とはできない、とも主張する。しかし、例えば、警察職員、消防職員の如き極度に
公共性の強い業務に従事する者につき争議の正当性を認める余地のないことは疑を
容れないところであり、憲法二八条と雖も右の如き職員の争議権まで保障している
ものとは考えられない。そして業務の公共性を如何に評価し、これに従事する者の
争議をどの程度制限するかは立法政策の問題であつて、その立法が不合理でない限
り、違憲ということはできない。すなわち、憲法二八条が当然にすべての争議につ
いて刑事免責を保障しているとはいえないのであるから、このことを前提として公
労法一七条違反の争議行為に労組法一条二項の適用があるとする所論は採るを得な
い。
 なお公労法一七条制定の結果、公共企業体等の職員の争議行為につき、労組法一
条二項の適用の余地がなくなつたことについては、公労法制定当時における国会の
審議において、屡々政府委員より、その旨の説明(昭和二三年一二月八日第四回国
会参議院労働委員会議録第三号、昭和二三年一一月二九日第三回国会衆議院労働委
員会議録一二号)があり、そのうえ、可決されたのであるから、立法当局の意思も、
同様であつたものと推測されるのである。かかる立法者の意思も十分尊重されるべ
きである。
 従つて、公労法一七条が憲法二八条に違反し、右一七条違反の争議に対し労組法
一条二項の適用がある旨を主張し、原判決は憲法二八条に違反するとの論旨は採る
を得ない。
 最後に多数意見について一言する。
 多数意見は要するに、(一)公共企業体等の職員はもとより、国家公務員や地方
公務員も憲法二八条にいう勤労者に外ならない以上、原則的には争議権が保障され
ており、その争議行為が正当な範囲をこえない限り、刑事制裁の対象とならないの
であり、労組法一条二項はこの当然のことを注意的に規定したものである。(二)
公労法一七条は公共企業体等の職員の争議行為を禁止しているが、その違反行為に
ついて刑罰規定を設けることなく、同法一八条がこれに対して解雇の制裁のみを規
定し、かつ、同法三条は損害賠償責任に関する労組法八条を除外しているに過ぎな
いのであるから、争議行為禁止違反が違法であるというのは、民事責任を免れない
との意味においてである。(三)公労法は、労組法一条二項の規定の適用を排除し
ていないのであるから、当然その適用があるものというべく、公共企業体等の職員
の争議行為が正当な範囲をこえない限り、同条により刑事免責される、というので
ある。
 しかし、
 (一) 憲法二八条は勤労者に給与その他の勤労条件の改善、向上を得せしめる
手段として、いわゆる労働基本権を保障しているのであるが、争議行為により、国
民大衆の利益を著しく害し、国民経済に重大な障害を与えるような場合には、彼我
の法益の均衡を考慮し、公共の福祉の要請に基づき、これが争議権を制限、禁止す
ることも、やむを得ないのてあつて、憲法一三条の趣旨に徴しても肯認できるとこ
ろであり、これをもつて違憲ということはできない(他面、適当な代償措置を講ず
べきてある。)。公労法一七条は、正にかくの如き公共の福祉の要請に基づき設け
られた争議行為禁止の規定である(他面、代償措置として公共企業体等労働委員会
を設けて、職員のために、あつせん、調停、仲裁を行わしめることとしている。)。
従つて、公共企業体等の職員は一切の争議行為が禁止され、争議権は法律上否定さ
れているものというべきであるから、争議権あることを前提とする議論はすべて前
提を欠く。
 (二) 右の如く、公共企業体等の職員は、公労法一七条により一切の争議行為
が禁止されているのであつて、その違反行為について同法が直接刑罰を科していな
いことや、また、その違反行為について解雇の制裁のみを規定していることは、右
争議行為禁止の絶対的効力に何ら消長を来たすものではない。それ故、右争議行為
禁止の法規違反は、単なる民事法的違法に過ぎないというのは正当ではない。
 (三) 右の如く、法律上争議権を否定された公共企業体等の職員は、当然「正
当な争議行為」をすることができないのであるから、争議行為として「正当なもの」
について、刑事免責を規定した労組法一条二項の規定は、公共企業体等の職員の争
議行為に適用の余地のないことは明白である。
 裁判官草鹿浅之介は、右の反対意見に次の意見を附加する。
 労組法一条二項本文が「刑法第三十五条の規定は、労働組合の団体交渉その他の
行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があ
るものとする。」と規定しているのは、いわば当然の事理を注意的に規定したもの
であつて、憲法二八条に基礎を有するこれらの行為がもし正当な範囲内のものであ
れば、本来は労組法の右の規定をまつまでもなく刑法三五条によつて犯罪としての
違法性が阻却されるのである。その意味て、争議行為の犯罪としての違法性(もと
より、それはその行為がなんらかの刑罰法令に触れる場合であること、すなわちそ
の行為を罰する刑罰法令が存在することを前提とする。本件でいえば、郵便法七九
条一項がこれに当たる。)が阻却されるかどうかは、ひつきようその行為が刑法三
五条の正当行為に該当するかどうかによつて決せられるといわなければならない。
 ところで、刑法三五条の正当行為といえるかどうかは、刑法だけでなく、すべて
の法体系を総合した法秩序全体の見地から決せらるべきものであることは当然であ
る。ここで問題となつている争議行為についていえば、それが正当行為であるため
には、労働法関係においても正当行為すなわち違法でない行為でなければならない。
しかるに、本件におけるがごとき公共企業体等の職員の争議行為は公労法一七条一
項の禁止するところであり、多数意見もまたこの規定の合憲性を認めた上で本件争
議行為が違法であることを明らかに認めている。いいかえれば、労働法関係におい
てそれが正当行為でないことは、多数意見の承認するところだといわざるをえない。
しかし、労働法関係において違法行為であることを肯定しながら、刑事法関係にお
いてそれが正当行為になる余地があるとするのは、いかなる理由によるものである
のか。公労法一七条一項の合憲性を否定するか、あるいはなんらかの合理的な理由
によつて本件の争議行為が労働法上も適法な行為だとするのであれば格別、同一の
行為が労働法上は違法であるが刑事法上は正当行為ないし適法行為になるというご
とくその評価を異にすることは、少なくとも刑法三五条の正当行為の解釈としては
到底首肯しえないところである。それにもかかわらず本件行為が刑法三五条の適用
上正当行為と見られる余地があるとする多数意見は全く理解し難い(もつとも、本
件の所為がなんらかの理由で可罰価値を欠くというのならば、それは別論である。)。
 ことに、本件では、次の点に注意すべきである。そもそも公労法一七条一項が公
共企業体等の職員の争議行為を禁止している理由がその業務の高度の公共性にある
ことは明らかで、他方郵便法七九条一項の罰則もまた郵便事業の高度の公共性に由
来するものであることは、同一条が公共の福祉の増進を同法の目的として掲げてい
ることに徴しても疑いがない。すなわち、公労法一七条一項が争議行為を禁止した
趣旨と郵便法七九条一項所定の行為を違法とした理由とは全く同一なのであつて、
この点から考えても、公労法が禁止し違法とした行為が郵便法七九条一項の適用上
違法性を阻却するというがごときことはありえないといわざるをえないのである。
 多数意見は、公労法が争議行為禁止違反に対し罰則を設けていないことをもつて
その争議行為の違法性阻却を認める論拠の一つとしているように見える。しかし、
公労法が争議行為そのものを処罰する規定を有していないということと、その行為
が他の刑罰法令に触れた場合にこれを処罰するかどうかということとは全く別の問
題であつて、公労法における罰則の欠如が他の刑罰法令における違法性阻却の論拠
に直ちになりうるものとは考えられない。のみならず本件の場合についていえば、
郵便法七九条一項が争議行為としてした行為をその構成要件上あえて除外していな
いことは明白であるし、前述したようにこの罰則が公共の利益を保護するためのも
のであり、かつ他方同じ目的のために郵政職員の争議行為が公労法によつて禁止さ
れていることをあわせ考えれば、郵政職員が争議行為としてした行為についても郵
便法の右の罰則の適用があると解すべきは当然である。いいかえるならば、少なく
とも郵政職員の同盟罷業または怠業に関する限り、その争議行為に対する罰則は存
在するといわなければならない。もつとも、その罰則は公労法以外の他の法規中に
存するものではあるが、すでに説明したところから明らかなように、その処罰の趣
旨は国家公務員法が争議行為について罰則(同一一〇条一項一七号)を設けた理由
と同一であつて、この種の罰則が公労法中に規定されたのと実質においてなんら区
別すべき合理的な理由はないのである。もしそれ当該罰則の実質に目を覆い、それ
が労働法規中に規定されているか他の法規中に規定されているかという形式の差の
みによつて解釈を異にするというのであれば、その理由のないことはほとんど言を
待たないてあろう。
 以上の次第で、わたくしは多数意見には到底賛成することができない。
 裁判官五鬼上堅磐の反対意見は次のとおりである。
 公共企業体等労働関係法(以下公労法と略称する。)一七条一項は、職員および
その組合は同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をする
ことができない旨を規定して、凡ての争議行為を禁止しているのであるから、これ
に違反してなされる争議行為は違法なものであつて、たとえ消極的に職場放棄をな
すようないわゆる不作為の行為であつても、その正当性は認められない。そうして、
正当性のない違法な争議行為に労働組合法(以下労組法と略称する。)一条二項の
適用ありとすることはできないものといわねばならない。昭和三八年三月一五日当
裁判所第二小法廷判決の、争議行為について正当性の限界いかんを論ずる余地がな
いという判断は、今日においても何等変更の必要がない。この点について多数意見
は、公共企業体の職員およびその組合が前記公労法一七条一項に違反し争議行為を
したからといつて、その一事をもつて労組法一条二項をこれに適用する余地なしと
することはできないのであつて、労組法および公労法の目的に照らし、公労法一七
条一項違反の争議行為についても労組法一条二項の適用の余地ありとする見解をと
るのであるが、この意見に私は賛成することはできない。
 すなわち、公労法一七条は、同法所定の国営ないしこれに準ずる公有企業に属す
る職員については、団体行動としての争議行為を一般に違法として禁止し、反社会
的行為として評価しているのである。これら違法行為に対して刑事的制裁を科する
こともありうるのであり、したがつて、郵便法七九条の適用に関して労働争議によ
る場合とそうでない場合を区別して解釈を異にすることはできない。
 また、公労法自体に罰則規定が設けられていないことを理由にして、労組法一条
二項の刑事免責の規定の適用があると解することはできない。このことは公労法の
制定されるに至つた歴史的事実ならびにその立法の趣旨から見ても上記のように解
しうることである。すなわち、昭和二三年政令第二〇一号が制定され、一切の公務
員について争議行為が禁止され、かつこれに刑罰を科したのであるが、その後国家
公務員法の一部が改正されて国家公務員の争議行為の禁止は同法によることとなり、
さらに昭和二四年六月一日施行の公共企業体労働関係法によつて、一般公務員のな
かから、国鉄職員と専売職員とを抽出して、これを公共企業体の職員とし、さらに
昭和二七年八月一日施行の公労法の改正を経て、順次五現業、三公社の職員が公労
法の適用を受けることとなつたのである。すなわち、政令第二〇一号の廃止ととも
に、国鉄等の職員がその他の国家公務員と区別されて、公労法の適用を受けること
となつたのではなく、一旦すべての現業、非現業の国家公務員は、現行のような国
家公務員法の規制を受けた後、順次、公労法の規制を受けることとされたものであ
る。このような立法の変遷を支えた立法政策が、国営五現業および三公社の職員の
争議行為を、刑事罰から解放することにあつたものでないことは、政令第二〇一号
の罰則に関する経過規定をみても明らかである。昭和二三年法律第二二二号によつ
て国家公務員法が改正された際、その附則八条一項において、政令第二〇一号は「
国家公務員に関して、その効力を失う。」とされつつも、同条二項においては、こ
の「政令がその効力を失う前になした同令第二条第一項の規定に違反する行為に関
する罰則の適用については、なお従前の例による。」と規定し、同令の適用が排除
された後も、排除前に違反した行為の可罰性はなお失わせないとしているのである。
この国家公務員法の改正にひき続いて制定された公労法およびその関係法令には、
右のような経過規定は存在しないが、これは前記国家公務員法第一次改正附則八条
二項によつて政令第二〇一号が一旦限時法としての効力を認められた以上、あらた
めて同旨の規定をおく必要を認めなかつたからにすぎないのであつて、もし、公労
法がその職員の争議行為を刑事罰から解放する趣旨で制定されたものとすれば、制
定前の行為について経過規定を設けることは首尾一貫しないこととなる。したがつ
て、前記のような経過規定をあえて設けたことは、一切の刑事罰から解放するとの
立法意思ではない。この経過から見ても、公労法一七条違反の行為について、労組
法一条二項の適用があるという見解は、誤りであるといわなければならない。なお、
昭和二三年一二月八日第四回国会参議院労働委員会議事録によれば、提案者たる政
府の答弁として、公労法一七条違反行為には、労組法一条二項の適用がない云々と
あり、立法に際してもその適用を排除することが考慮されていたものと解すること
ができる。
 したがつて、原判決の判断に何等法令の解釈、適用を誤つた違法はなく、況んや
公労法一七条が憲法二八条に違反するものでないことは、多数意見に述べられたと
ころにより明らかであり、結局本件上告は棄却さるべきものである。
 裁判官石坂修一、同山田作之助は、退官のため評議に関与しない。
 検察官平出 禾、同川井英良公判出席
  昭和四一年一〇月二六日
     最高裁判所大法廷
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
 裁判長裁判官横田喜三郎は、退官のため署名押印することができない。
            裁判官    入   江   俊   郎

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