弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     上告人A1および同A2の各上告を却下し、その余の上告人らの各上告
を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告人A3の上告理由について。
 記録によれば、第一審被告Dおよびその引受参加人である上告人A3が被上告人
主張の第一審判決別紙第一物件目録(二三)記載の建物を所有し、よつてその表示の
現況床面積に相当する敷地部分一〇一・六五平方米(三〇坪七合五勺)の土地を占
有する事実については、原審において当事者間に争いがなかつたものと認められ、
したがつて、右事実を認定して右地積に基づき算定した損害金の支払を命じた原判
決に所論の違法はない。論旨は、右認定事実と異なる事実を主張して原判決を非難
するものであつて、採用することができない。
 上告代理人浅沢直人、同瀬沼忠夫の上告理由第一点および第二点について。
 原判決(その訂正・引用する第一審判決を含む。以下同じ。)が確定したところ
によれば、被上告人は、関東大震災後に被上告人所有土地にバラックを建設して居
住するに至つた五九名の者らに対し、交渉の結果、期限付で建物を収去し敷地の明
渡を受けるべき裁判上の和解を成立させ、その期限到来後には、右土地の換地であ
る本件土地の占有を継続する右五九名の者らに対し建物収去土地明渡請求の訴を提
起し勝訴の確定判決を得ていたが、強制執行に伴う身辺の危険を慮り、警察署長の
勧めにより、右判決の執行を強行しないで再び示談交渉をした結果、昭和一二年七
月一五日、本件土地占有者らとの間において、占有者らは収去すべかりし各建物を
被上告人に譲渡し、被上告人はこれを右の者らに昭和一七年六月末日まで賃貸し、
賃借人らは右期間満了のとき各建物を明け渡す旨の裁判上の和解を成立させたこと、
さらに、昭和一七年九月一日に成立した和解において、右建物賃貸借が右約定の期
限の経過をもつて終了したことを確認するとともに、その明渡を昭和二〇年六月三
〇日まで猶予していたが、右猶予期間中の同年五月二九日、右建物が空襲により全
焼し、終戦後間もなく、右罹災建物の前賃借人であつた者を一部含む上告人A4ほ
か三四名の者が、本件土地上に急造建物を築造して特殊飲食業を開始するに至つた
こと、被上告人は、罹災者たる立場に同情して右三五名の者の本件土地使用を承認
することとしたが、上述のような過去の紛争の経過に鑑み、再び将来長期にわたり
本件土地を占有されることを危惧し、当時、戦時中の応急的措置として立法された
戦時罹災土地物件令に対する立法による善後措置が早晩講ぜられることが予測され
ていたことから、右三五名の者に対し、これと立場の類似する同令四条による罹災
建物の居住者の有する敷地利用権の存続期間と同一の期間内だけ本件土地の使用を
許諾することとし、右三五名の代理人を兼ねるEもその趣旨を諒承して、昭和二一
年四月一九日、被上告人と右Eとの間において、右三五名およびEを貸借人とし、
本建築にあらざる仮建築物の所有を目的とし、存続期間を同月一日以降同令三条一
項所定の停止期間に限る旨を約して、本件賃貸借契約を締結したこと、以上の事実
が認められるというのであつて、この事実認定は、原判決挙示の証拠に照らして、
是認できないものではない。そして、このような事実関係のもとにおいては、被上
告人には、戦災後の緊急状態に即応した暫定的なものとして、短期間に限つて本件
土地を賃貸する合理的理由があつたものということができ、賃借人側もその事情を
諒承し、当時その時日は確定していなかつたにせよ遠からず終了することの予想さ
れていた前記停止期間内に限つて賃貸借をする旨の明示の合意をしたものであるか
ら、本件賃貸借が借地法九条所定の一時使用のための賃貸借にあたると認めた原判
決の判断は正当ということができる。右事実認定および判断に所論の違法はなく、
論旨は採用することができない。
 同第三点について。
 本件賃貸借契約当時、右三五名の者が占有していた土地がその各自の居住してい
た罹災建物の敷地部分にあたるか否かが明らかでなく、また、右賃貸借契約に基づ
く賃料支払の事実をもつて罹災都市借地借家臨時処理法二条一項に基づく賃借の申
出があつたものとも解しがたいから、右規定に基づく優先賃借権取得の事実は認め
られないとした原判決の判断は、記録に照らして肯認することができる。右判断の
過程に所論の違法は認められず、論旨は採用することができない。
 なお、上告人A1および同A2に対する被上告人の請求は第一審において全部棄
却され、その部分に対する被上告人の控訴も棄却されていることが記録上明らかで
あるから、全部勝訴した右上告人両名の上告は、不適法なものであつて、却下を免
れないものというべきである。
 よつて、民訴法三九九条の三、三九九条一項一号、四〇一条、九五条、八九条、
九三条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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