弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人小林亀郎上告趣意第一点について。
 刑法第二三六条第一項所定の強盗罪を判示するには、暴行又は脅迫を以て他人の
財物を強取する犯罪を構成する具体的事実を特定し同条項適用の基礎を明らかにす
る程度に判示するを以て足るものである。それ故同罪の既遂たるを判示するには、
その手段たる暴行又は脅迫とその結果たる財物強取との間に因果関係あることを看
取し得る程度に判示するを以て足り、更に、その因果関係の詳細を説示するの要な
きものである。そして原判決の認定判示したところは論旨摘録のように被告人は、
当十九年の女子たる被害者登乗の自転車のハンドルを左手で掴み、右手で押収に依
る鎌を振り廻しながら「停まれ」「騒ぐな静かにしろ」と言つて停車させた上、更
に、「降りろ」と申向けて脅迫し因つて同女から該自転車一輌を強取したと言うの
であるから、その手段たる脅迫と結果たる財物強取との間に因果関依の存すること
判文上明白である。従つてこの程度の判示を以て前記条項を適用するのに毫も妨ぐ
るところはない。それ故右脅迫の結果被害者が現実に畏怖その他反抗意思を抑圧せ
られたか又は反抗不能の程度に達したか、更にその結果被害者が止むなくこれを被
告人に交付したか若しくは被告人が強いて被害者から直接これを奪取したか等因果
関係の詳細を判示するの要なきものと言わねばならぬ。されば原判決には所論のよ
うな理由不備の不法はなく、論旨はその理由なきものである。
 同第二点について。
 しかし刑訴応急措置法第一三条第二項が憲法に違反するものでないことは既に当
裁判所の判例とするところである(昭和二二年(れ)第五六号、同二三年二月六日
大法廷判決参照)。また、憲法第三六条にいわゆる「残虐なる刑罰」とは刑罰が人
道上残酷と認められる場合を意味し、通常の単なる法定刑における選択又は量刑の
不当を言うものではない、(昭和二二年(れ)第三二三号同二三年六月二三日大法
廷判決参照)。しかしながら、人道上残酷と認められる程度の極端な量刑不当が存
する場合には、上告理由となることは言うを待たない。それ故前記措置法の規定を
以てこの憲法規定に違反するものとする論も当らない。そして所論は結局刑の量定
を非難するものに過ぎないから右措置法の規定により上告適法の理由とならない。
 よつて刑訴第四四六条に則り主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二三年九月九日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎

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