弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,362万1462円及びこれに対する平成20
年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3旧社会保険庁長官が,控訴人に対して平成20年3月31日付けでした厚生
年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律(平
成19年法律第111号により改正された平成19年法律第109号の附則6
9条による改正前のもの。以下「年金時効特例法」という。)2条に基づく時
効特例給付不支給決定(以下「本件不支給決定」という。)を取り消す。
4被控訴人は,控訴人に対し,550万円及びこれに対する平成▲年▲月▲日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
6仮執行の宣言
第2事案の概要
1事案の要旨
控訴人は,昭和55年3月に昭和60年法律第34号による改正前の国民年
金法29条の3(以下「旧国年法29条の3」という。)第1号に基づく国民
通算老齢年金(以下「本件国民通老年金」という。)の受給権を取得していた
A(以下「亡A」という。)の唯一の相続人であり,亡Aの死亡後である平成
19年9月に本件国民通老年金の支給裁定を求めるとともに年金時効特例法に
基づくいわゆる時効特例給付の申請をしたところ,旧社会保険庁長官から,本
件国民通老年金の年金給付を行う旨の裁定(以下「本件裁定」という。)を受
けるも,一部期間(昭和55年4月から平成14年7月まで)に係る年金給付
が時効により消滅しているとされ,また,上記期間に係る年金給付について,
年金時効特例法の要件を満たさないとして時効特例給付を支給しない旨の決定
(本件不支給決定)を受けた(以下,この不支給とされた年金給付部分を「本
件不支給部分」という。)。
本件は,これらを不服とした控訴人が,①被控訴人に対し,本件不支給部
分に係る本件国民通老年金の支給請求権(以下「本件未支給年金支給請求権」
という。)に基づき,本件不支給部分の合計額362万1462円及びこれに
対する平成20年3月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求めるとともに,②旧社会保険庁長官がした本件不支給
決定の取消しを求め,また,③旧社会保険庁職員等が亡Aに対し通算老齢年
金の裁定請求を促す義務を違法に怠ったことによって亡Aが精神的損害を被っ
たことを理由とする亡Aの被控訴人に対する慰謝料請求権を相続したとして,
被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づいて慰謝料500万円及び弁護士
費用50万円の合計550万円及びこれに対する亡Aの死亡時(平成▲年▲月
▲日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求
めた事案である。
原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したところ,控訴人が請求の認容を求
めて控訴した。
2当事者の主張等
関係法令の定め,前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張の要旨は,(1)
のとおり補正し,(2)のとおり控訴人の当審における付加的主張を加えるほか
は,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の1ないし4に記載
のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決の補正
ア10頁26行目の「(イ)すなわち」を次のとおり改める。
「また,消滅時効の起算点である「権利を行使することを得る」とは,
「単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけではな
く,さらに権利の性質上,その権利行使が現実に期待できるものであ
ることをも必要」と解するのが判例の立場である(最高裁判所昭和4
5年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁)。高齢であり,
一般的な法律的知識しか持たない亡Aが裁定請求を行うことは現実に
は期待できなかったのであるから,本件未支給年金支給請求権の消滅
時効の起算点は,いくら早くても亡Aの死亡後,控訴人が受給権の存
在を知った時であり,同請求権は時効消滅していない。
(イ)そして」
イ15頁16行目の次に,改行して次のとおり加える。
「控訴人の「高齢であり,また,一般的な法律的知識しか持たない亡A
が裁定請求を行うことは現実には期待できなかったのであるから,消滅
時効は進行しない」旨の主張は,亡Aの法の不知をいうものに他ならな
いところ,そのような権利者の不知が時効の進行を妨げないことは,も
はや異論のないところである(注釈民法(5)281頁)し,そのことを理
由に裁定の請求がされなかったとしても,それをもって「権利の性質上,
その権利行使が現実に期待」できなかったといえるものでもない。」
(2)控訴人の当審における付加的主張
本件未支給年金支給請求権について被控訴人が消滅時効を主張することは
信義則に違反し許されない。
ア一般的注意義務
保険者は,受給権者に対し,受給権発生又はその可能性を告知する一般
的な法的義務(以下「一般的注意義務」という。)を負い,また,亡Aが
昭和58年5月20日に国民年金の加入期間の届出をした際に,旧社会保
険庁職員が通算老齢年金が併合支給される点について注意喚起し,裁定請
求を促すべき注意義務(以下「個別的注意義務」という。)を有する。
一般国民を対象とした一般的注意義務は,平均的な受給権者を想定した
法的義務であり,窓口における助言などの個別的注意義務は,実際に窓口
等で接触した個別具体的な受給権者を想定した法的義務である。
裁定主義を機能させる前提として保険者が受給権者にできる限りの情報
を提供することが法律上予定されている。この一般的注意義務は,憲法2
5条の理念に則し,国民年金法1条が,国民年金制度の趣旨を「日本国憲
法第25条第2項に規定する理念に基づき,老齢,障害又は死亡によって
国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止し,もっ
て健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする」と規定し
ていること,裁定主義,強制加入を定める各条文の解釈及び拠出性の国民
年金は単なる慈善や施しではなく,保険料納付の対価であり,憲法25条
を実質的に保障するものであることから導かれるものであり,行政の便宜
的・恩恵的なサービスではなく,法的な義務である。
なお,仮に基本権について裁定を経ていなくても支分権について消滅時
効が起算されるという立場に立てば,その前提として,保険者には一般的
注意義務が課せられているとより解せられる。
イ個別的注意義務
亡Aが厚生老齢年金の申告の際に国民年金の加入期間を申告した意図
は,それに応じた年金が受給できるのならば,その年金の受給を受けたい
ということである。上記申告を受けた旧社会保険庁職員は,窓口を訪れる
受給権者とは比較にならないほどの豊富な国民年金の支給要件などに関す
る情報を保有していること,旧社会保険庁の職員は通算老齢年金の取扱い
に注意するよう指導されていたことに鑑みれば,亡Aに対し,法令の定め
る手続に従って裁定請求を行う機会を失わせないよう注意すべき義務を負
う。
そして,この注意義務は,憲法25条の理念及び家族制度が崩壊し,高
齢者の生活の維持及び向上を「家族」ではなく「国」が確保するという国
民年金法の理念からすれば,窓口担当者が亡Aに負う上記義務はやっても
やらなくてもよい単なるサービスではなく,国民年金の加入期間を届出た
亡Aに対して職務上負う法的義務であるというべきである。
ウ亡Aの国民通老年金の受給機会の喪失
したがって,亡Aから国民年金の加入期間の申告を受けた旧社会保険庁
の窓口担当者は,亡Aに対し,国民通老年金の内容を説明し,裁定請求の
意思を確認し,仮に何らかの書面がなければ裁定請求と取り扱うことがで
きないというのであれば,適切な裁定請求書を作成させる必要があった。
それにもかかわらず,かかる個別的注意義務を怠ったために,亡Aは,国
民通老年金を受給する機会を失った。
エ以上のとおり,被控訴人は,非常に複雑な制度である国民通老年金につ
いて,一般的注意義務及び個別的注意義務のいずれも尽くしていないこと
及びそもそも年金は消滅時効制度になじまず,その適用は謙抑的になされ
るべきことを考慮すれば,本件未支給年金支給請求権について被控訴人が
消滅時効を主張することは信義則に違反し許されない。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の請求は,いずれも理由がないと判断する。その理由は,
1のとおり補正し,2のとおり控訴理由に対する判断を示すほかは,原判決の
「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」に説示するとおりであるから,
これを引用する。
1原判決の補正
(1)25頁14行目の「(仮に」から16行目の「否定できない。)」までを
削る。
(2)27頁4行目の「同法の」を「同法は」に改める。
(3)同9行目の「理由」の次に「及び亡Aが裁定請求を行うことが現実には期
待できなかったのであるから消滅時効は進行しないとの主張は,亡Aの法の
不知をいうものにほかならず,そのような権利者の不知が時効の進行を妨げ
ないことは明らかである」を加える。
2控訴理由に対する判断
なお,控訴人は,当審における付加的主張として,保険者は,受給権者に対
し,受給権発生又はその可能性を告知すべき一般的及び個別的注意義務がある
とし,そのことを前提に,本件未支給年金支給請求権について被控訴人が消滅
時効を主張することは信義則に違反し許されない,控訴人の国家賠償請求権が
認められる等と主張するが,このような注意義務を認めることができないこと
は,上記引用に係る原判決が説示するとおりであり,上記主張は,いずれも理
由がなく,採用することができない。
そして,他に原判決の認定,判断を覆すに足りる主張,証拠はない。
第4結論
以上によれば,控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり,
これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却
することとする。
東京高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官梅津和宏
裁判官大工強
裁判官岩坪朗彦

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