弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決中控訴人B・C・Dに関する部分を次のとおり変更する。
被控訴人は,控訴人B・C・Dに対し,それぞれ55万円及びこれに対す
る平成28年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
控訴人B・C・Dのその余の請求を棄却する。
2控訴人Aの控訴を棄却する。
3訴訟費用中,控訴人B・C・Dと被控訴人との間で生じたものは,第1,
2審を通じてこれを10分し,その9を控訴人B・C・Dの負担とし,その
余を被控訴人の負担とする。
控訴人Aの控訴費用は,控訴人Aの負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決中控訴人らに関する部分を次のとおり変更する。
2被控訴人は,控訴人Aに対し,2191万7500円及びこれに対する平成
28年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被控訴人は,控訴人Bに対し,1096万6866円及びこれに対する平成
28年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被控訴人は,控訴人Cに対し,62万1426円及びこれに対する平成28
年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5被控訴人は,控訴人Dに対し,62万1426円及びこれに対する平成28
年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要(以下,略語は,特に断りのない限り,原判決の例による。)
1本件は,控訴人ら及び原審原告E(以下,控訴人Aと原審原告Eを併せて「控
訴人Aら」という。)が,その所有ないし居住する土地の付近で被控訴人が施工
した高速道路建設工事により日照権が侵害されるなどして精神的苦痛を被り,
また,所有地の価格が下落したなどと主張して,被控訴人に対し,不法行為に
基づく損害賠償金及びこれに対する不法行為日後(訴状送達日の翌日)の平成
28年12月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払を求めた事案である。
原審が控訴人ら及び原審原告Eの請求をいずれも棄却したところ,控訴人ら
が控訴の範囲を前記第1のとおり限定して控訴した。
2前提事実
次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概
要」の2に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,当審で争点と
されていない騒音・振動・粉塵等のみに係る同,,,及びは上記引
用から除く。
原判決9頁26行目の「して」を「として」に改める。
原判決10頁19行目及び12頁2行目の各「第一及び第二種」をいずれ
も「第一種及び第二種」に改める。
原判決10頁22行目の「4ないし5時間」及び12頁4行目から5行目
にかけての「3ないし4時間」をいずれも「北海道以外の区域について4な
いし5時間」に改める。
原判決12頁5行目の「建築築基準法」を「建築基準法」に改める。
原判決13頁26行目の「終期」を「臭気」に改める。
3争点
控訴人B・C・Dの日照被害
A所有地及びB所有地の価格下落による不法行為の成否
4争点についての当事者の主張
(控訴人B・C・Dの日照被害が受忍限度を超えているか)につい

原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概要」の4に記載のとおり
であるから,これを引用する。ただし,原判決18頁24行目の「原告ら」
を「控訴人B・C・D」に改める。
(A所有地及びB所有地の価格下落による不法行為の成否)につい

次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2事案の
ア原判決20頁26行目の「棄損」を「下落」に改める。
イ原判決21頁1行目の「原告ら」を「控訴人A及び控訴人B」に改め,
12行目及び14行目の各「90%に相当する」をいずれも削り,17行
目及び22頁3行目の各「残置」をいずれも「残地」に改める。
(損害)について
ア控訴人ら
控訴人B・C・Dの日照被害による損害
控訴人B・C・Dに対しても,控訴人Aらに対して支払われたのと同
様に,日照被害による慰謝料合計169万4800円(1人当たり56
万4933円)が支払われるべきである。
A所有地及びB所有地の価格下落による損害
A所有地は3268万円,B所有地は1543万円,それぞれ価格が
下落したが,控訴人A及び控訴人Bはそれぞれその半額である1634
万円及び771万5000円を損害として請求する。
仮に土地の評価額の下落について,損害額を明確に立証するのは困難
であるとしても,民訴法248条により,相当な損害額が認定されるべ
きである。
弁護士費用
被控訴人の不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用として,控訴
人らの各請求額の1割相当額が認められるべきである。
イ被控訴人
争う。
なお,被控訴人が控訴人Aらに対し,日照侵害に係る解決金として16
9万4800円の補償を支払ったのは,本件通達()に基づ
く行政上の損失補償をしたものであって,不法行為の存在を自認したもの
ではない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,控訴人Aの請求は理由がないが,控訴人B・C・Dの請求はそ
れぞれ55万円及びこれに対する遅延損害金の限度で理由があると判断する。
その理由は,以下のとおりである。
2(控訴人B・C・Dの日照被害が受忍限度を超えているか)について
居宅の日照は,快適で健康な生活に必要な生活利益であって,法的保護の
対象となるが,他方,一切の日照阻害が許されないとするのも非現実的であ
るから,加害者と被害者の利益を衡量し,被害者の日照被害が社会生活上一
般に受忍すべき限度を超えた場合に違法となるものと解すべきである。そし
地域性を中心に,具
建物の用途,
交渉経過等の諸般の事情を総合
的に考慮して判断するのが相当である。
被害の程度について
アF日影図によれば,BCD宅建物の,冬至及び夏至の日の日影時間は1
時間程度,春分及び秋分の日の日影時間は7時間程度(午前8時30分頃
から午後4時頃まで)で,年間平均日影時間は5時間であり,日照時間が
5時間以上の日は冬至と夏至のそれぞれ前後2か月程度しかなく,それ以
外の8か月程度は5時間以下である(前提事実)。
イ本件通達は,冬至日の真太陽時(太陽が南中する時刻
を正午とした時刻)による午前8時から午後4時までの間において,居室
の開口部の中央が日影となる時間を日陰時間と定義し(以下,この定義に
よる被控訴人主張の時間を「日陰時間」といい,それ以外のものは「日影
時間」という。),これがその地域等の状況に応じ定められた日陰時間(北
海道以外の区域について4ないし5時間)を超える場合に限り,社会生活
上受忍すべき範囲を超える損害等が生ずると認め,当該損害等をてん補す
るために必要な最小限度の費用を負担することができるものとする旨定
めているところ(甲45),被控訴人は,BCD宅建物における日陰時間は
各居室につき30分ないし2時間にとどまっているので,控訴人B・C・
Dの日照被害に基づく損害賠償請求は理由がない旨主張する。
しかしながら,本件通達は法令ではないから,裁判所の判断を拘束する
ものではなく,本件通達による基準を満たさない場合であっても,受忍限
度を超える日照被害が認められることはあり得るものである。
そして,上記基準が冬至日における日陰時間に基づいているのは,一般
的には,太陽が最も低い位置にある冬至日において日影の影響が最も大き
くなるからであると考えられるから,このような大前提が当てはまらない
場合には,冬至日のみを基準とすることは必ずしも合理性がなく,他の季
節,例えば春分及び秋分の日や夏至日を含む年間を通じての日照被害状況
も考慮して,受忍限度を超えるものかどうかを判断すべきである。
ウこの観点に立って検討すると,F日影図によるBCD宅建物における春
分及び秋分の日における日影時間は7時間程度(午前8時30分頃から午
後4時頃まで)であって,A宅建物における日影時間(5時間30分程度)
を上回り,午前8時から午後4時までの8時間の大部分を占めている。ま
た,BCD宅建物は,夏至日における日影時間は1時間程度であるものの,
殆ど日影に入らないA宅建物を上回っており,年間平均日影時間(5時間)
も,A宅建物の年間平均日影時間(3.6時間)を上回っている(前提事
。このような現象は,A宅建物及びBCD宅建物と本件高速道路と
の位置関係(原判決別紙住宅地図及び写真)において,BCD宅建物がA
宅建物よりも本件高速道路に近いため,特に高架部分による日影時間が春
分及び秋分の日において長くなる一方,太陽が最も低い冬至日においては
高架の下を通る日照により,春分及び秋分の日よりも日影時間が大幅に短
くなるためであると認められる(甲44の1~3)。
エ被控訴人は,F日影図は,BCD宅建物の敷地地盤面における日影であ
るが,本件通達に従い冬至日を基準として窓面における日影状況を検討す
べきであるから,地上4mにおける日影を計測した費用負担対象時間計算
表(乙3)及び日陰図(乙5の1・2)の方が適しており,本件高速道路
建設後の冬至日の午前8時から午後4時の間におけるBCD宅建物の日
陰時間は,和室1が1時間50分,和室2が2時間,居間3が30分,洋
室4が1時間50分,洋室5が40分にすぎないと主張する。
確かに,費用負担対象時間計算表(乙3)によれば,冬至日におけるB
CD宅建物の各室の日陰時間(正確には当該施設(本件高速道路)の設置
前後で増加した日陰時間)は,上記主張のとおりであると認められ,単純
平均すると1時間22分(合計6時間50分(410分)÷5)となる。
しかしながら,これは冬至日における日影時間を1時間程度とするF日影
図の時間数を少し上回るものであるところ,被控訴人は,冬至日以外の日
における日陰時間は検討する必要がない旨の見解の下で,これを計測し,
証拠として提出することを全くしていない。そうすると,被控訴人の上記
主張は,上記ア及びウのF日影図による日影時間の認定及び評価を左右す
るものではない。
オ以上によれば,春分及び秋分の日における日影時間が7時間程度に上り,
年間平均日影時間も5時間に及ぶなどの状況にあるBCD宅建物におけ
る日照被害は相当に大きく,A宅建物に勝るとも劣らないものということ
ができる。そして,昼間の時間が冬至日は年間で最も短いのに対し,春分
及び秋分の日は12時間程度あることや,冬至日に比べて春分及び秋分の
日の頃は気候が穏やかであることなどを考慮に入れても,上記のような日
照被害が受忍限度を超えていないものと直ちにいうことはできず,むしろ
特段の事情がない限り受忍限度を超えているものというべきである。
地域性について
BCD宅建物がある地域は,都市計画法上の市街化調整区域内にあり,用
途指定は定められておらず(前提事実),土地利用状況が第一種及び第二種
低層住居専用地域,第一種及び第二種中高層住居専用地域,第一種及び第二
種住居地域等のそれと類似しているとは認められないところ,周囲に高層建
築物等のない郊外である一方,本件高速道路のような幹線道路は郊外に敷設
されることが一般的であるから,地域性から直ちに受忍限度が左右されると
はいえない。
加害回避可能性,被害回避可能性,建物の用途及び先住関係について
本件高速道路には高い公共性が認められるものの,BCD宅建物を自宅と
して先住していた周辺住民である控訴人B・C・Dにおいて,本件高速道路
の存在によって得る利益とこれによって被る損害との間に,後者の増大に必
然的に前者の増大が伴うというような彼此相補の関係はうかがわれない(国
道四三号及び阪神高速道路に関する最高裁判所平成7年7月7日第二小法廷
判決・民集49巻7号1870頁参照)。また,被控訴人においては,本件高
速道路の設計等を含む対策いかんによって,控訴人B・C・Dの日照被害を
緩和することがおよそ不可能とはいえない一方,先住していた控訴人B・C・
Dにおいては,転居する以外に現実的な被害回避の手段がない。したがって,
以上の点において,受忍限度を高める特段の事情は認められない。
交渉経過等について
本件高速道路の建設工事及び被害補償等に関する交渉経過等(前提事実
及びアないしウ)において,控訴人B・C・Dの受忍限度を高める方向で
考慮すべき事実は見当たらず,むしろ,被控訴人が,上記オのとおり被害
の程度において控訴人B・C・Dと同等と認められる控訴人Aらに対しては,
日照侵害に係る解決金として169万4800円を支払っていること(前提
事実ウ)を,受忍限度の判断においても考慮すべきものである。
なお,被控訴人は,上記解決金は本件通達に基づく行政上の損失補償をし
たものであると主張するが,被控訴人は飽くまで株式会社であって行政機関
ではないのであるから,行政上の損失補償を支払う立場にあるとはいえず,
上記解決金は実質において日照被害に対する損害賠償の性質を有するものと
いうべきである。また,本件通達(甲45)は,日照阻害により増加する暖
房費,照明費,乾燥費及びその他経費を合計して費用負担額を算出するとい
う体裁を取っているところ,列挙する費用の内容に照らし,本件通達に基づ
いて支払われる金員は,実質的には損害賠償の性質を有することを否定する
ことはできない。
以上を総合的に考慮すれば,本件高速道路による控訴人B・C・DのBC
D宅建物における日照被害は,受忍限度を超え,不法行為としての違法性を
有するものと判断される。また,本件高速道路を建設した被控訴人には,上
記日照被害を緩和する
認められるところ,何ら有効な措置を執っていないことなどからして,過失
があったものと認めるのが相当である(控訴人B・C・Dの主張は同旨の主
張を含むものと解される。)。したがって,控訴人B・C・Dは,不法行為に
基づき,上記日照被害により生じた損害の賠償を被控訴人に対して請求する
ことができる。
3A所有地及びB所有地の価格下落による不法行為の成否)について
控訴人A及び控訴人Bの主張は,本件高速道路の建設によるA所有地及び
B所有地の価格下落があったというのみであり,その価格下落との関係で本
件高速道路建設に関する被控訴人のいかなる行為が不法行為に該当するのか
を具体的に特定していない(本件高速道路の建設自体が不法行為に当たると
はいえないところ,前記日照被害については,本件高速道路を建設するとし
てもその設計等いかんにより低減させることができるのとは異なり,上記価
格下落の有無及び程度については,本件高速道路を建設する以上,その設計
等いかんにより直ちに左右されるものと認め難い。)。したがって,上記主張
はそれ自体失当といわざるを得ない。
よって,その余の点について判断するまでもなく,A所有地及びB所有地
の価格下落による損害賠償請求は理由がない。

慰謝料
前記2の日照被害により控訴人B・C・Dに生じた精神的損害は,被害の
程度及び交渉経過等を含む前記認定の一切の事情に鑑みると,各人につき慰
謝料50万円に相当するものと判断される。
弁護士費用
本件と相当因果関係のある弁護士費用は,控訴人B・C・Dそれぞれにつ
き5万円と認められる。
合計
以上によれば,控訴人B・C・Dの請求は,それぞれ55万円及びこれに
対する遅延損害金の限度で理由がある。
第4結論
よって,原判決中控訴人B・C・Dに関する部分を上記のとおり変更し,控訴
人Aの控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。なお,控訴人B・C・
Dの請求認容部分につき仮執行宣言を付することとするが,被控訴人が申し立て
た仮執行免脱宣言は相当でないから付さないこととする。
名古屋高等裁判所民事第3部
裁判長裁判官始関正光
裁判官竹内浩史
裁判官西野光子

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