弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人らの控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人高山征治郎、同亀井美智子、同中島章智、同枝野幸男、同高島秀行の
上告理由書(その一)記載の上告理由及び上告理由書(その二)記載の上告理由一
について
一 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
 1(1) 原判決別紙会員権目録記載の旧会員らは、昭和四四年又は四五年に、上
告人との間で上告人経営のゴルフクラブであるAカントリークラブ(以下「本件ク
ラブ」という。)への入会契約を締結し(以下「本件入会契約」という。)、入会
保証金四〇万円及び所定の登録料を支払って、それぞれ右目録記載の本件クラブの
平日会員権を取得した(以下「本件平日会員権」という。)。(2) 被上告人らは、
それぞれ平成三年に、旧会員から本件平日会員権を代金一〇〇〇万円ないし一二〇
〇万円で買い受け、旧会員らは、それぞれ上告人に対し、その旨を通知した。
 2 本件入会契約が締結された当時、本件クラブの規約の定め等は、次のような
ものであった。(1) 規約によれば、本件クラブの会員には、名誉会員、特別会員、
正会員、平日会員及び家族会員の五種があるが、そのうち正会員は、上告人の株主
で所定の手続により入会した者とされている。また、平日会員は所定の手続により
入会した者、家族会員は正会員の妻又は満一五歳以上二〇歳未満の子女で所定の手
続により入会した者とされ、いずれも日曜と祭日を除く平日に限り施設を利用する
ことができるものとされている。(2) 入会申込書、規約、保証金預託証書その他
本件入会契約の関係書類には、本件平日会員権を第三者に譲渡することの可否につ
いて直接触れた文言はない。(3) 規約によれば、平日会員及び家族会員の入会保
証金は、退会の際に返還することとされている。(4) 規約の施行細則は、名義書
換料について、正会員は一名につき三〇万円と定めているが、平日会員については
何も定めていない。(5) 本件クラブの会員募集要項には、「正会員は、株式会社
Aカントリー倶楽部の株式を所有することになり、この株式の譲渡は自由です。な
お平日会員、家族会員の入会保証金は、据置期間が全くありません。従って退会の
際は入会保証金をお返しいたします。」と記載されている。
 3(1) 本件クラブは、昭和五〇年九月の会員総会(特別会員及び正会員によっ
て構成される。)において、規約中の右2の(3)の定めについて、平日会員及び家
族会員の権利は譲渡できないとの文言を付加する旨の決議をした。その趣旨として、
当初より譲渡不能であったものを規約に明記するものであるという説明がされた。
本件平日会員権の旧会員らは、この規約変更に異議を唱えることなく、本件クラブ
の施設利用を継続していた。(2) 本件に至るまで、上告人が平日会員権の譲渡又
は相続を承認した例はなく、また、相当数の平日会員が入会保証金の返還を受けて
退会した。
 4 被上告人らは、上告人に対し、旧会員らから被上告人らへの名義書換えの手
続をするよう求めたが、上告人は、本件平日会員権の譲渡は禁止されているとして、
これを拒否した。
二 原審は、前記事実関係の下において、次のとおり判示して、被上告人らの名義
書換手続の請求を認容すべきものとした。すなわち、(1) 本件平日会員権は、そ
の性質上譲渡が許されないものではないから、譲渡を禁止する特約があると認めら
れない限り、これを譲渡することができる。(2) 本件入会契約の関係書類のどこ
にも平日会員権の譲渡禁止は明記されておらず、上告人と旧会員らとの間で個別に
譲渡禁止の合意をしたことを認めるに足りる証拠もないから、本件平日会員権につ
いて譲渡禁止の明示的な特約の存在は認められない。(3) 平日会員権について名
義書換料が定められていないことや前記一2の(5)の募集要項の記載を根拠として
譲渡禁止の黙示的な特約があったと認めることはできず、当時ゴルフクラブの平日
会員権について譲渡禁止とする旨の取引慣行が成立していたともいい難い。(4) 
したがって、上告人と旧会員らとの間に、本件平日会員権について譲渡禁止の特約
があったということはできない。
三 しかしながら、原審の右認定判断は是認することができない。その理由は、次
のとおりである。
 本件平日会員権は、一定の入会保証金を支払い、平日において施設の利用をする
ことができる権利であって、このようないわゆる預託金制のゴルフクラブ会員権は、
その性質上譲渡が許されないものではなく、これを譲渡禁止とするかどうかは入会
契約の当事者の合意にゆだねられている。本件入会契約の関係書類には、本件平日
会員権の譲渡を禁止する旨は直接明記されていないものの、前記募集要項は、正会
員の株式の譲渡が自由であること(すなわち、正会員権の譲渡が自由であること)
に続けて平日会員の入会保証金の返還について述べながら、平日会員権の譲渡の可
否については触れていない。しかも、家族会員は、正会員の家族であるという資格
によって入会するものであるから、その会員権を独立して他に譲渡することはでき
ないと解されるが、右募集要項は、平日会員と家族会員を全く同列に扱っている。
そして、さらに、平日会員権の譲渡が禁止されていないのであれば、上告人にとっ
て名義書換料が重要な収入源になるはずであるのに、正会員の名義書換料を定めな
がら、平日会員については名義書換料があらかじめ定められていないことや、昭和
五〇年九月の規約変更はそれまでの平日会員にとって極めて不利益なものであるの
に、本件平日会員権の旧会員らは、この規約変更に異議を唱えることなく、本件ク
ラブの施設利用を継続していたことをも併せ考えると、本件入会契約には会員権の
譲渡を禁止する特約が付されていたものというべきである。
 したがって、本件入会契約には会員権の譲渡を禁止する特約が付されていなかっ
たとした原審の認定判断は、経験則の適用を誤ったものといわざるを得ず、右違法
は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、
その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。
四 以上説示したとおり、原審の認定した事実を総合すれば、本件入会契約には会
員権の譲渡を禁止する特約が付されていたものというべきであるから、被上告人ら
の請求を棄却した第一審判決は、正当として是認すべきものであって、被上告人ら
の控訴を棄却すべきである。
 よって、原判決を破棄し、被上告人らの控訴を棄却することとし、民訴法四〇八
条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見
で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    河   合   伸   一

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