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裁判例


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平成27年(ヨ)第22071号仮処分命令申立事件
決定
債権者X
同代理人弁護士前田哲男
債務者株式会社有斐閣
同代理人弁護士松田政行
同齋藤浩貴
同池村聡
主文
債務者は,別紙雑誌目録記載の雑誌の複製,頒布,頒布する目的をもってす
る所持又は頒布する旨の申出をしてはならない。
理由
第1事案の概要等
1申立ての趣旨
主文同旨
2事案の概要
本件は,債権者が,自らが編集著作物たる別紙著作物目録記載の雑誌『著作権判
例百選[第4版]』(以下「本件著作物」という。)の共同著作者の一人であるこ
とを前提に,債務者が発行しようとしている別紙雑誌目録記載の雑誌『著作権判例
百選[第5版]』(以下「本件雑誌」という。)は本件著作物を翻案したものであ
るなどと主張して,本件著作物の①翻案権並びに二次的著作物の利用に関する原著
作物の著作者の権利(著作権法28条)を介して有する複製権,譲渡権及び貸与権
又は②著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)に基づく差止請求権を被保全
権利として,債務者による本件雑誌の複製,頒布,頒布する目的をもってする所持
又は頒布する旨の申出(以下,併せて「本件雑誌の複製・頒布等」という。)を差
し止める旨の仮処分命令を求める事案である。
3主要な争点
(1)債権者が本件著作物の著作者の一人であるか(争点1)
(2)本件雑誌の表現から本件著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することが
できるか(本件雑誌が本件著作物を翻案した二次的著作物に当たり,本件著作物の
同一性保持権を侵害するものとなり得るか)(争点2)
(3)本件著作物は別紙「『著作権判例百選』(第4版)搭載判例リスト(案)」のと
おりの原案(以下「本件原案」という。)を原著作物とする二次的著作物にすぎず,
本件著作物において新たに付加された創作的表現が本件雑誌において再製されては
いないということができるか(争点3)
(4)債権者が債務者に対し,本件雑誌の出版に関して,黙示的に,本件著作物の
利用を許諾し,著作者人格権を行使しない旨同意したか(争点4)
(5)債権者が他の共同著作者との間で本件雑誌の出版に関する合意を拒むことに
ついて,正当な理由(著作権法65条3項)がなく,信義に反する(同法64条2
項)ということができ,かつ,そのことが差止請求に対する抗弁となるか(争点5)
(6)保全の必要性の有無(争点6)
4当事者の主張
本件に関する各当事者の主張は,各主張書面に記載のとおりであるから,これら
を引用する。
第2当裁判所の判断
1事実関係
当事者間に争いのない事実並びに掲記の疎明資料(特に断らない限り書証の枝番
の記載は省略する。)及び審尋の全趣旨によれば,次の事実が一応認められる。
(1)当事者
ア債権者は,昭和34年11月生まれの東京大学大学院法学政治学研究科・法
学部教授である。(甲12,審尋の全趣旨)
イ債務者は,社会科学・人文科学関係の書籍等を出版する株式会社である。(審
尋の全趣旨)
(2)『著作権判例百選』の性格等
ア債務者は,主として大学の法学部生及び法科大学院生向けに,各法分野にお
いて基本的論点を含む重要な判例(下級審の裁判例を含む。以下同じ。)を100
件程度選び,これを原則として見開き2頁で紹介,解説する『判例百選』と銘打っ
た雑誌のシリーズを,雑誌『ジュリスト』の別冊として出版している。
『著作権判例百選』は,『判例百選』シリーズのうち著作権に関する判例を紹介,
解説するものであり,本件著作物はその第4版,本件雑誌はその第5版に当たる。
(以上につき,乙5,101,審尋の全趣旨)
イ『著作権判例百選』を含む多くの『判例百選』においては,事実上の慣行と
して,編者の年齢については原則おおむね70歳まで,判例の解説の執筆者(以下,
単に「執筆者」ともいう。)の年齢については原則おおむね65歳までとする方針
が採られてきた。(甲19,20,審尋の全趣旨)
(3)本件著作物の内容等
本件著作物は,債務者が平成21年12月20日に発行した『著作権判例百選』
の第4版であり,著作権に関する判例を113件収録している。その収録判例及び
各判例の解説の執筆者は,別紙「著作権判例百選判例変遷表」の「4版判例」欄及
び「4版執筆者」欄記載のとおりである。
本件著作物の表紙には,題名の下に続けて「A・X・B・C編」と,債権者を含む
4名の氏名に「編」の字を付した表示がされている。また,本件著作物のはしがき
においては,「第4版においても重要判例については旧版に掲載されている事件も
採録しているが,この間の立法や,著作権をめぐる技術の推移等を考慮し,第4版
では新たな構成を採用し,かつ収録判例を大幅に入れ替え,113件を厳選し,時
代の要求に合致したものに衣替えをした。そして,変化の著しい状況を勘案し,執
筆者には学者以外に,多くの裁判官や弁護士等の実務に精通しておられる方にもお
願いをし,実務家のニーズにも応えうる内容となるように配慮した。」と記載され
た上,はしがきの名義人として上記4名の氏名が連名で表示されている。
なお,債務者のウェブサイトにおいて,本件著作物については,「著者」欄に,
上記4名の氏名が「編」の字を付されて表示されている。(以上につき,甲1の1
ないし1の4,13の1ないし13の3,17,審尋の全趣旨)
(4)本件著作物の発行に至る経緯
ア『著作権判例百選』については,平成13年5月8日に『著作権判例百選[第
3版]』(以下,単に「第3版」という。)が発行されていたが,平成20年8月頃,
債務者において,その改訂版を出版する企画が決定された。当時,第3版の編者2
名は既に70歳を超えていたため,第4版(本件著作物)においては編者の若返り
を図ることとなり,債務者雑紙編集部所属の担当者E(以下「E」という。)がA
東京大学名誉教授(以下「A教授」という。)に相談したところ,A教授,債権者,
B慶應義塾大学大学院法務研究科教授(以下「B教授」という。)及びC北海道大
学大学院法学研究科教授(以下「C教授」という。)の4名を編者とすることとなっ
た。また,その際,D立教大学准教授(当時。現在は早稲田大学教授。以下「D教
授」という。)が編集協力者として加わり,B教授とD教授が原案作成の作業に当
たることとなった(なお,D教授は,当時,「自分が編者という形で参加するには
早すぎるが,実質的な作業という形で下働きができるのは光栄である。」という認
識で参加した。)。このような方法を採ることについては,債権者も,あらかじめ
告げられ,了承した。(甲2の4,7,12,乙1,4,5)
イD教授は,平成20年10月10日,A教授の教科書『著作権法』で参照さ
れている判例等を基に,本件著作物に収録する判例の案として109件を選び,上
記教科書の構成に従って列挙した「『著作権判例百選』(第4版)搭載判例リスト
(案)」と題するリスト(一覧表)を作成し,このデータを電子メール(以下,単
に「メール」という。)に添付してB教授に送信した。なお,D教授は,「編者の
先生方にご納得いただける原案にしよう」と努めて上記の案を作成し,これを提示
するに当たっては,あくまで編集協力者という立場であったことから「ご参考」と
いう形で提示した。(乙4,10ないし14)
ウB教授は,平成20年10月12日,上記イのリストから判例を1件削除し
た上,個々の判例に執筆者100名を割り当てた案を,上記リストを上書きする形
で作成し,このデータをメールに添付してD教授,A教授及びEに送信した。(乙
2,15,16)
エA教授は,平成20年10月14日,上記ウのリストに関し,執筆者に関す
るC教授及び債権者のコメント並びにA教授自身のコメントをB教授に伝え,翌
15日にも,執筆者の候補に関する自身のコメントをB教授に伝えた。(乙17,
18)
オB教授は,平成20年10月17日,上記エのコメントを受けて,前記ウの
リストについて執筆者を変更した案を作成し,このデータをメールに添付してA教
授及びD教授に送信した。さらに,この案について,翌18日,D教授がコメント
をし,それを受けてB教授は,判例を1件加え(合計109件),執筆者を修正し
た(合計108名)案を作成し,このデータをメールに添付してD教授,A教授及
びEに送信した。(乙19ないし23)
カA教授は,平成20年10月20日,上記オの案について,B教授及びA教
授自身も執筆者に加えることを提案するととともに,「まだ適当な者でノミネート
されていない方が見つかる可能性も高いと思いますので,結果的に,もう少し増え
てもよろしいかと思います。X・C両先生にも見てもらい,なお執筆に適当な方の
推挙をお願いしてみてください。」とコメントしたメールをB教授,D教授及びE
に送信した。B教授は,同日,これに従って,判例を1件加えて110件,執筆者
を2名加えて110名とした本件原案(乙30)を,別紙「『著作権判例百選』(第
4版)搭載判例リスト(案)」のとおり作成した。同日,A教授は,B教授に対し,
本件原案について,「それでは,この案をX・C両教授にも送り,意見を聞いて再
修正をいたしましょう。この案をEまでお送りください。」と記したメールを送信
し,Eは,債権者及びC教授に対し,「D先生のご協力を得てB先生が収載判例リ
スト案を作成されました。A先生のご確認も得ましたので,お送り申し上げます。」,
「採用予定裁判例の選択にあたっては,百選の旧版のほか,A先生の体系書におけ
る採否などにも目配りしてご検討くださっています。しかしそれでもなお,別のお
考えはあろうかと存じます。」「裁判例の追加・削除について,忌憚のないご意見を
賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。」「また執筆候補者につきましても,
新たに加わっていただくべき方,より適切な割り当て,ご遠慮いただいたほうがよ
い方など,ぜひお教えいただきたく存じます。」「ご意見をいただいて,調整のやり
とりをした後,編者会合で決定という段取りを考えております。」と記載するとと
もに本件原案のデータを添付したメールを送信した。(甲7,8の1,乙26ない
し32)
キC教授は,平成20年10月25日,本件原案の判例の取捨選択について,
10項目からなる意見を,B教授,D教授,A教授,債権者及びEに伝え,B教授
は,同月27日,そのうち2つを採用して本件原案の修正案を作成した。(甲7,
8の2,乙33ないし35)
ク債権者は,平成20年10月27日,執筆者について,特定の実務家1名を
削除するとともに別の実務家3名(a判事,b弁護士及びc弁護士)を追加するこ
とを内容とする意見を電話でB教授に伝え,これを受けたB教授が,1名の削除
及び2名の追加について上記意見を反映した案を作成,送信したところ,債権者は,
追加されていない実務家の方が優先順位が高いとして再度追加を要請するメールを
B教授に送信した。そこで,B教授は,同日,結局債権者の上記意見(1名の削除
及び3名の追加)を全て受け容れることとし,これを反映した修正案を作成して,
このデータをメールに添付して債権者,A教授,C教授,D教授及びEに送信した。
なお,この執筆者の修正部分は,その後本件著作物の刊行に至るまで変更されるこ
となく,そのまま本件著作物の内容に反映された。(甲1の2,1の3,1の5,
7,8の3,12,乙2,38ないし41,審尋の全趣旨)
ケEは,平成20年11月5日,上記クの修正案について,百選の構成(目次)
の形にした上で「最終決定のための会合」をお願いしたいとのメールをB教授,C
教授,D教授,A教授及び債権者に送信した。その後,「編者会合」の期日が平成
21年1月6日と調整される一方,Eが,D教授の助力を得て上記の案を「著作権
判例百選[第4版]収載判例一覧(案)」と題する目次の形の一覧表に整えた上,B
教授と相談して実務家による関与事件の執筆を回避する観点から執筆者4名を入れ
替えた案を作成した。Eは,平成20年12月16日,「著作権判例百選[第4版]
編者の先生方各位」宛てに上記経緯を説明し,同案(項目リスト案更新版)のデー
タを添付したメールをB教授,債権者,C教授,A教授及びD教授に送信した。(甲
7,8の4,8の5,乙42ないし49)
コ平成21年1月6日,債務者会議室において,編者であるA教授,債権者,
B教授及びC教授の4名並びにD教授が出席し,Eを含む債務者の編集部も交え
て,編者会合ないし編集会議(以下「本件編者会合」という。)が開催された。こ
こでは,上記ケの項目リスト案更新版に基づいて意見交換が行われ,その結果,直
前に出されていた知財高裁平成20年12月24日判決〔北朝鮮事件〕を追加し,
これに伴い1名の執筆者を追加することとなった。このようにして,上記編者4名
は,全員一致で,判例113件の選択・配列と執筆者113名の割当てを項目立て
も含めて決定,確定した(この決定は,その段階では,「最終的な決定」としてさ
れたが,その後一部修正がされる事情が生じたことは後記シないしセのとおり。)。
Eは,この日のうちに,ここで確定された内容に従って,「著作権判例百選[第4
版]項目一覧表」と題する一覧表を作成し,このデータをメールに添付して上記出
席者に送信した。(甲8の6,12,乙1ないし5,50,51,審尋の全趣旨)
サ債務者は,執筆依頼用の項目一覧表を作成した上,平成21年1月23日,
各執筆者に対し,執筆依頼状を発送した。この執筆依頼状には,「A・X・B・Cの
4先生に編者をお願いし,構成・収載判例を再検討していただいて,『著作権判例
百選[第4版]』として刊行する運びとなりました。」との記載がされていた。(甲
8の7,16,乙52,53,審尋の全趣旨)
シ執筆依頼状送付後,執筆の辞退や共同執筆の申出等があったことから,平成
21年2月25日までに,合計7判例分の執筆者の修正が行われた。これらについ
ては,Eから報告があった後,随時,A教授,債権者,B教授及びC教授がメール
を通じてそれぞれ意見を述べることにより,その都度修正が決定された。(甲7,
8の8,乙54ないし84)
スまた,本件編者会合後に知財高裁平成21年1月27日判決(ロクラクⅡ事
件控訴審判決)が出たことを受けて,同年3月12日,Eが「著作権判例百選[第
4版]編者の先生方各位」宛てに,「まねきTV事件東京高裁判決や録画ネット事
件知財高裁決定の解説中でロクラクⅡ事件について言及してもらうか,いずれかの
判決とロクラクⅡ事件知財高裁判決とを差し替えるか」について指示を求める旨の
メールを送信した。これに対し,メール上で,C教授が口火を切って「最終的には
どのような決定であれ先生方のお考えに従う」旨断った上で「まねきTV事件と差
し替えるのが穏当かと思う。もう一つ判例を加えるという選択肢もあるかもしれな
いが,事件数も多く,担当を探すのも大変かもしれない。」旨の意見を述べ,B教
授が「ロクラクⅡ事件を取り上げることに賛成し,自身が解説を執筆してもよい。」
旨の意見を述べると,債権者は,「ロクラクⅡ事件を載せた方がよいが,間接侵害
の判例の数をこれ以上増やすのはやや行き過ぎの感があるので,既存のものを差し
替えるというC教授の案に賛成する。」旨の意見を表明し,A教授も「ロクラクⅡ
事件をまねきTV事件と差し替えるのがよい。」旨の意見を述べた結果,上記ロク
ラクⅡ事件知財高裁判決をまねきTV事件東京高裁判決に代えて取り上げ,同判決
の解説を依頼していた執筆者に引き続き解説を担当してもらうこととなった。(甲
7,8の9,乙85ないし90)
セさらに,平成21年3月25日以降,執筆者からの指摘等を契機として,「S
MAP大研究」事件及び「Asahi」ロゴマーク事件について,いずれの審級の
判決を取り上げるかが問題となり,A教授,債権者,B教授及びC教授がメールを
通じてそれぞれ意見を述べた結果,取り上げる判決の審級を変更することとなった。
(甲7,乙91ないし100)
ソこのようにして本件著作物に搭載する判例及び執筆者が別紙「著作権判例百
選判例変遷表」の「4版判例」欄及び「4版執筆者」欄記載のとおり最終的に確定
し,平成21年12月20日,本件著作物が発行されるに至った。(甲1,審尋の
全趣旨)
(5)本件雑誌の内容,発行予定等
ア本件雑誌は,債務者が現在出版しようとしている『著作権判例百選』の第5
版であり,著作権に関する判例を116件収録することとされている。その収録判
例及び各判例の解説の執筆者は,平成27年4月20日に別紙「著作権判例百選判
例変遷表」の「5版判例」欄及び「5版執筆者」欄記載のとおり確定されている。
本件雑誌については,B教授,C教授,d上智大学教授及びD教授が編者とされて
いる。(以上につき,甲4,5,14,乙5,審尋の全趣旨)
イ債務者は,平成27年11月上旬に,債権者を編者ないし編集著作者として
表示しないで本件雑誌を発行する予定である。
債権者は,この発行について反対する意思を有している。なお,前記(2)イの慣行
を承知していた債権者は,平成26年9月頃にEから知らされるまで,自らが70
歳という年齢に達するにはまだ相当の年月があるにもかかわらず,意に反して『著
作権判例百選』の編者から除外され本件雑誌のような改訂版が作成・発行されると
は考えていなかった。(以上につき,甲12,21,乙5,審尋の全趣旨)
(6)本件著作物と本件雑誌との対比等
ア判例の選択について
本件著作物に収録されていた判例113件のうち97件は同一事件の判例が本件
雑誌にも収録されることとなっている(この97件のうち,94件は審級も含めて
同一判例がそのまま収録されることとなっており,その余の3件については,平成
21年10月以降に最高裁判決が出された事件であり,知財高裁判決から最高裁判
決に審級を変更して収録されることとなっている。)。そして,本件雑誌において
は,本件著作物には収録されていなかった19件の判例が新たに加えられ,合計1
16件の判例が収録されることとなっている。この19件のうち,平成17年7月
14日言渡しの最高裁判決,平成20年9月24日言渡しの那覇地裁判決及び平成
21年3月26日言渡しの大阪地裁判決を除いた16件は,全て本件著作物が刊行
された同年12月20日より後に言い渡された判決である。(甲1の3,1の5,
4,審尋の全趣旨)
イ執筆者の選定及び判例と執筆者の組み合わせについて
本件著作物において判例の解説を執筆した執筆者113名(ただし共同執筆者は
併せて1名と数える。以下同じ。)のうち93名が本件雑誌においても執筆者となっ
ている。残り20名のうち,10名は,前記(2)イの原則的な上限年齢である65歳
に達しており,他の6名は,前記アのとおり収録されなくなった判例の解説執筆者
であった者である。
さらに,本件著作物と本件雑誌とでは,判例と執筆者の組み合わせが83件につ
いて一致している。なお,第3版と本件著作物とでは,判例と執筆者の組み合わせ
が一致しているものは1件もない。(甲1の3,1の5,2の3,4,審尋の全趣
旨)
ウ判例の収載順序と項目立てについて
判例の収載順序については,別紙「著作権判例百選判例変遷表」のとおり,①本
件著作物の項目2,3,5,7,8,9,10,11,12,13,14,15,
16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,2
9,30,31,32,33,34,35,36,37,38,40の配列は,本
件雑誌の項目2,3,4,5,7,8,9,10,11,12,13,14,15,
16,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,2
9,30,31,33,34,35,36,37,38,40の配列において,②
本件著作物の項目50,51,52,53の配列は,本件雑誌の項目56,57,
58,59の配列において,③本件著作物の項目58,59,60,62,63,
64,65,66,67,68,69,70,72,73,74,75,76,7
7,78,79の配列は,本件雑誌の項目71,72,73,75,76,77,
78,79,80,81,82,83,85,86,87,88,89,90,9
1,92の配列において,④本件著作物の項目80,81,82,84,85,8
6,88の配列は,本件雑誌の項目41,42,43,45,46,47,49の
配列において,⑤本件著作物の項目92,93の配列は,本件雑誌の項目100,
101の配列において,⑥本件著作物の項目94,95,96,98,100の配
列は,本件雑誌の項目93,94,95,97,99の配列において,⑦本件著作
物の項目102,103,104,105,106,108の配列は,本件雑誌の
項目103,105,106,107,108,110の配列において,⑧本件著
作物の項目110,111,112,113の配列は,本件雑誌の項目111,1
15,116,117の配列において,それぞれ再現されている(①は35件,②
は4件,③は20件,④は7件,⑤は2件,⑥は5件,⑦は6件,⑧は4件,合計
83件)。
本件著作物及び本件雑誌における分類項目の立て方は,別紙「項目対比表」のと
おりである。すなわち,本件著作物の項目立てと本件雑誌の項目立てとは,大項目
については,①「著作物」,②「著作権の主体」,③「著作権の内容」,④「著作
権の制限」,⑤「権利の取引」,⑥「保護期間」,⑦「侵害と救済」,⑧「国際関
係」という項目名及びその順序において共通し,①「著作者人格権」の位置,②「パ
ブリシティ権」という項目の有無及び③「一般不法行為」という項目の有無におい
て相違している。また,小項目については,①大項目「著作物」の中における「総
論」,「著作物の例示」,「応用美術等」,「編集著作物・データベース」,「二次的著作
物」という項目名及びその順序,②大項目「著作権の主体」の中における「著作者」,
「職務著作」,「映画の著作物」という項目名及びその順序,③大項目「権利の取引」
の中における「権利譲渡」,「利用許諾」,「共有著作権の行使等」という項目名及び
その順序,④大項目「侵害と救済」の中における「損害賠償」,「刑事罰」という項
目名及びその順序において共通し,①大項目「著作権の内容」の中における項目立
て(本件著作物では「総論」,「各論」とされていたのに対し,本件雑誌では「依拠
性」,「類似性」,「支分権」,「みなし侵害」とされている。),②大項目「侵害と救済」
の中における上記④以外の項目立て(本件著作物では「差止め等」とされていたの
に対し,本件雑誌では「侵害主体」,「差止め」とされ,更に「名誉回復等措置」と
いう項目が加わっている。),③大項目「著作物」の中における「著作物性のない情
報の保護」という項目の有無において相違している。(以上につき,甲1の2,1
の3,1の5,4,審尋の全趣旨)
エ本件雑誌の作成方法等について
本件雑誌は,本件著作物の改訂版として作成が進められた。
債務者は,平成27年4月10日頃,本件雑誌における解説の執筆を依頼した執
筆者で本件著作物において同一の判例の解説を担当していた者に対し,同解説のP
DFファイル及びテキストファイルを送信し,PDFファイルを印刷して朱字を入
れる方法やテキストファイルを修正する方法で本件雑誌の原稿を作成してもらえれ
ば幸いである旨告げた。(甲13,乙3,審尋の全趣旨)
2被保全権利について
(1)著作者性(争点1)について
ア本件著作物が創作性を有する編集著作物であることは当事者間に争いがない
が,この著作物について,債権者は,自らとA教授,B教授及びC教授の4名を著作
者とする共同著作物である旨主張し,債務者は,B教授及びD教授の2名を著作者
とする共同著作物である旨主張しており,債権者が著作者の一人であるか否かが争
点となっているため,以下,この点について検討する。
イまず,前記1(3)で認定したとおり,本件著作物では,①表紙において,「A・
X・B・C編」と表示され,②はしがきにおいて,これら4名が,「この間の立法や,
著作権をめぐる技術の推移等を考慮し,第4版では新たな構成を採用し,かつ収録
判例を大幅に入れ替え,113件を厳選し,時代の要求に合致したものに衣替えを
した」主体として表示されている。上記①のような,氏名に「編」を付する表示(編
者の表示)は,その者が編集著作物の著作者であることを示す通常の方法であると
みられる(この点は,氏名に「著」を付する表示すなわち著者の表示が言語の著作
物の著作者を示す通常の方法であるのと同様と解される。)ところ,本件著作物に
おける上記②の表示をも併せ考慮すると,本件著作物には,その公衆への提供の際
に,債権者を含む上記4名が編集著作者名として通常の方法により表示されている
ものであることは明らかというべきである。したがって,著作権法14条により,
債権者は,編集著作物たる本件著作物の著作者(編集著作者)と推定される。
なお,債務者は,前記1(3),(4)のとおり,これまで債権者を本件著作物の「編者」
として扱ってきたものであるが,「編」と表示されている者(「編」者)が著作権
法上の編集著作者とは異なる場合も少なくないなどと主張する。しかしながら,そ
のような場合も存するとしても,だからといって,編者の表示が上記のとおり編集
著作者名を示す通常の方法であることを直ちに否定することはできず,これを否定
するに足りるほどの社会的事実を示す的確な疎明資料はない。
ウそこで,上記イの判断を前提に,本件において,債権者が本件著作物の編集
著作者であるとの推定を覆す事情が疎明されているか否かについて検討する。
前記1(4)で認定した事実によると,①債権者は,執筆者について,特定の実務家
1名を削除するとともに新たに別の特定の実務家3名を選択することを独自に発案
してその旨の意見を述べ,これがそのまま採用されて,本件著作物に具現されてい
ること,②本件著作物については,当初から債権者ら4名を編者として『判例百選
[第4版]』を創作するとの共同の意思の下に編集作業が進められ,編集協力者と
して関わったD教授の原案作成作業も,編者の納得を得られるものとするように行
われ,本件原案については,債権者による修正があり得るという前提でその意見が
聴取,確認されたこと,③このような経緯の下で,債権者は,編者としての立場に
基づき,本件原案やその修正案の内容について検討した上,最終的に,本件編者会
合に出席し,他の編者と共に,判例113件の選択・配列と執筆者113名の割当
てを項目立ても含めて決定,確定する行為をし,その後の修正についても,メール
で具体的な意見を述べ,編者が意見を出し合って判例及び執筆者を修正決定,再確
定していくやりとりに参画したことを指摘することができる。そして,執筆者の執
筆する解説は,本件著作物の素材をなしているところ,その執筆者の選定について
は,とりわけ実務家を含めると選択の幅が小さくないこと,債権者が推挙した当該
3名の人選がありふれているなどともいえないことに照らせば,債権者による上記
①の素材の選択には創作性があるというべきである。その上,上記③の確定行為の
対象となった判例,執筆者及び両者の組み合わせの選択並びにこれらの配列には,
もとより創作性のあるものが多く含まれているところ,債権者が編者としての確定
行為によりこれに関与したとみられるのである。そうすると,上記①ないし③を総
合しただけでも(その余の債権者主張事実の有無について認定・判断するまでもな
く),他の共同著作者の範囲はともかくとして,債権者が本件著作物の編集著作者
の一人であるとの評価を導き得るところ,本件において,前記イの推定を覆す事情
が疎明されているということはできない。
したがって,債権者は,編集著作物たる本件著作物の著作者の一人であるという
べきである。
(2)翻案該当性ないし直接感得性(争点2)について
ア前記1(5),(6)で認定した事実によると,①判例の選択については,本件著作
物の収録判例と本件雑誌の収録判例とで97件が一致しており(そのうち94件は
審級も含めて全く同一であり,3件は審級のみ異なり対象事件が同一である。),
割合的には,本件著作物の収録判例113件のうち約86%が本件雑誌にも維持さ
れ,かつ,当該一致部分が本件雑誌の収録判例116件のうち約84%を占めてい
ること,②執筆者(執筆者の執筆する解説)の選択については,本件著作物におけ
る執筆者と本件雑誌における執筆者とで93名が一致しており,割合的には,本件
著作物の執筆者113名のうち約82%が本件雑誌にも維持され,かつ,当該一致
部分が本件雑誌の執筆者117名のうち約79%を占めていること,③判例と執筆
者(執筆者の執筆する解説)の組み合わせの選択については,本件著作物における
組み合わせと本件雑誌における組み合わせとで83件が一致しており,割合的には,
本件著作物における判例と執筆者の組み合わせ113件のうち約73%が本件雑誌
にも維持され,かつ,当該一致部分が本件雑誌における判例と執筆者の組み合わせ
117件のうち約71%を占めていること,④判例及びその解説(以下,併せて「判
例等」という。)の配列については,本件著作物の判例等と本件雑誌の判例等とで
合計83件の配列(順序)が一致しており,割合的には,本件著作物の判例等11
3件のうち約73%の判例等の配列(順序)が本件雑誌にも維持され,かつ,当該
一致部分が本件雑誌の判例等117件のうち約71%を占めていること,⑤判例等
の配列を位置付ける項目立てについても,本件著作物の大項目及び小項目の立て方
と本件雑誌の大項目及び小項目の立て方とでその大半が一致していることを指摘す
ることができる。そうすると,本件著作物と本件雑誌とで判例等の選択及び配列が
全体として類似していることは明らかであって,本件著作物の判例等の選択・配列
の大部分が本件雑誌にも維持されていることが確認できるとともに,本件雑誌の判
例等の選択・配列を見たときに本件著作物のそれに由来する上記各一致部分の全部
又は一部を優に感得することができる。
そして,本件著作物及び本件雑誌に掲載される判例と執筆者の執筆する解説が編
集著作物たる本件著作物及び本件雑誌の素材であるところ,その表現(素材の選択
又は配列)の選択の幅(個性を発揮する余地)を考えると,『判例百選』の性格上,
判例の選択や判例等の配列に係る選択の幅はある程度限られるものの,執筆者の選
択すなわち誰が執筆する解説を載せるかという選択の幅は決して小さくない上,ど
の判例の解説の執筆者として誰を選ぶかに係る選択の幅は極めて広いというべきで
ある。そうすると,上記①ないし⑤で指摘した,本件著作物と本件雑誌とで表現(素
材の選択又は配列)上共通する部分には,創作性を有する表現部分が相当程度ある
ものということができる(なお,編集著作物における素材の選択及び配列に係る上
記各一致部分の組み合わせ全体に創作性を認めることもできると考えられる。)。
以上の事情を総合すれば,本件著作物と本件雑誌とで創作的表現が共通し同一性
がある部分が相当程度認められる一方,本件雑誌が,新たに付加された創作的な表
現部分により,本件著作物とは別個独立の著作物になっているとはいい難い。
このように検討したところによると,本件雑誌の表現からは,本件著作物の表現
上の本質的特徴を直接感得することができるというべきである。
イそして,前記1で認定したとおり,本件雑誌が本件著作物の改訂版として作
成されているものであることなどに照らすと,編集著作物たる本件雑誌が本件著作
物に依拠して編集されたことは明らかである。
ウ以上によれば,編集著作物たる本件雑誌を創作する行為は,本件著作物に依
拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,
増減,変更等を加えて,新たに思想を創作的に表現することにより,これに接する
者が本件著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を
創作する行為,すなわち本件著作物の翻案に該当し,本件雑誌は本件著作物を原著
作物とする二次的著作物に該当する。
また,他人の著作物を素材として利用しても,その表現上の本質的な特徴を感得
させないような態様においてこれを利用する行為は,原著作物の同一性保持権を侵
害しないと解すべきであるが(最高裁平成6年(オ)第1028号同10年7月1
7日第二小法廷判決・判時1651号56頁等参照),本件雑誌における本件著作
物の利用は,このような同一性保持権侵害の要件をも満たすということができる。
(3)本件著作物を本件原案の二次的著作物とする主張の当否(争点3)について
債務者は,本件著作物は本件原案を原著作物とする二次的著作物にすぎないと
した上で,二次的著作物の著作権者が権利を主張できるのは新たに付加された創
作的部分に限られるところ,本件著作物において本件原案に新たに付加された創
作的表現が本件雑誌において再製されているとは認められない旨主張する。
しかしながら,前記1で認定した事実に前記(2)で説示したところを総合すると,
本件原案は,最終的な編集著作物たる雑誌『著作権判例百選[第4版]』の完成
に向けた一連の編集過程の途中段階において準備的に作成された一覧表の一つで
あり,まさしく原案にすぎないものであって,その後編者により修正,確定等が
されることを当然に予定していたものであったことは明らかであり,実際,本件
原案作成後,その予定どおり,債権者を含む編者によりその修正等がされ,最終
的に編集著作物の素材の選択・配列が確定されて本件著作物として完成されるに
至ったものである。そうすると,本件においては,その完成の段階で,債権者を
共同著作者の一人に含む共同著作物が成立したとみるのが相当である一方,途中
の段階で本件原案が独立の編集著作物として成立したとみた上で本件著作物につ
いて本件原案を原著作物とする二次的著作物にすぎないとすることは相当ではな
い。
したがって,債務者の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。
(4)黙示の許諾ないし同意の有無(争点4)について
債務者は,『判例百選』が改版と編者の変動を所与の前提とする性質の出版物で
あることを根拠として,債権者が,編者への就任の際,債務者に対し,本件雑誌の
ような改訂版の出版に関して,黙示的に,本件著作物の利用を許諾し,著作者人格
権を行使しない旨同意したものと主張する。
しかしながら(債務者が,その主張に係る債権者の黙示的な許諾ないし同意につ
き,他の共同著作者との合意(著作権法65条2項,64条1項)に基づくもので
ある旨主張しているのか否かは,必ずしも明確でないが,この点はひとまず措くと
して),前記1で認定した事実によると,『著作権判例百選』においては,事実上
の慣行として,編者の年齢については原則おおむね70歳までとする方針が採られ
てきたところ,債権者は,これを前提に,自らが70歳という年齢に達するにはま
だ相当の年月があるにもかかわらず,意に反して『著作権判例百選』の編者から除
外され本件雑誌のような改訂版が作成・発行されるとは考えていなかったというの
である。そうすると,『判例百選』が債務者の上記主張のとおりの性質を有するか
らといって,債権者がその改訂版の出版に対する許諾ないし同意をしたと推認する
ことは困難である。そして,本件においては,債務者は,債権者から,そうした許
諾ないし同意に関する合意書面を何ら徴していないことがうかがわれるところ,他
に,債権者の上記許諾ないし同意の事実を示す的確な疎明資料は見当たらない。
したがって,本件において,債権者が債務者の主張するような黙示的な許諾ない
し同意をしたとは一応にせよ認めることができない。
(5)著作権法64条2項,65条3項に基づく主張の当否(争点5)について
債務者は,仮に前記(4)で債権者の許諾等が認められなかったとしても,また,仮
に前記(1)で債権者が主張するとおり本件著作物の編集著作権者がA教授,債権者,
B教授及びC教授の4名であったとしても,①これら4名のうち債権者を除く3名は,
本件雑誌の出版に関して,債務者に対し,本件著作物の利用を許諾し,著作者人格
権を行使しない旨同意しており,債権者のみが,他の共同著作者との間で本件雑誌
の出版の許諾等に関する合意を拒んでいるものとみられるところ,②債権者が他の
著作者との間でこのような合意を拒むことについては,正当な理由(著作権法65
条3項)がなく,かつ,信義に反する(同法64条2項)ものであり,③このこと
は,本件差止請求に対する抗弁となる旨主張する。
しかしながら,債務者は,債権者が拒んでいる(成立を妨げている)という合意
につき,「本件雑誌の出版の許諾等に関する合意」とするのみで,本件著作物の他
の共同著作者が債権者に対して具体的にいかなる内容及び条件の合意を求めている
というのか明らかにしていないし,他の共同著作者が債権者に対して合意(意思表
示)を求める裁判を提起しているなどの事情があるともうかがわれないところであ
るから,現時点において,「本件雑誌の出版の許諾等に関する合意」が成立してい
ないことに関して,債権者がその「合意の成立を妨げている」と直ちに認めること
は,困難というべきである。
また,著作権法65条2項は「共有著作権は,その共有者全員の合意によらなけ
れば,行使することができない。」と規定しているところ,同条3項は,その「合
意」の成立を妨げることができるかについて,「各共有者は,正当な理由がない限
り,同条2項の合意の成立を妨げることができない。」旨定めているにすぎないの
であるから,仮に上記「正当な理由」がなかったとしても,直ちに同条2項所定の
「合意」の成立が擬制されることになるものではないし,同法64条1項は「共同
著作物の著作者人格権は,著作者全員の合意によらなければ,行使することができ
ない。」と規定しているところ,同条2項は,その「合意」の成立を妨げることが
できるかについて,「共同著作物の各著作者は,信義に反して同条1項の合意の成
立を妨げることができない。」旨定めているにすぎないのであるから,仮に上記「信
義に反」すると認められたとしても,直ちに同条1項所定の「合意」の成立が擬制
されることになるものではない。
そうすると,債権者以外の本件著作物の共同著作者が債務者に許諾等をしたとし
ても,それは,著作権法64条1項,65条2項所定の「全員の合意」によらない
でしたものというほかはないから,有効な許諾等ということはできないし,上記合
意の成立がされたものと擬制したり有効な許諾等がされたものと同視することもで
きず,他に,同法64条2項,65条3項の規定に基づく債務者の上記①・②の主
張内容のみをもって,債権者の債務者に対する本件差止請求に対する抗弁たり得る
(上記③)とする法的根拠は見当たらない。
したがって,債務者の上記主張は,採用することができない。
(6)小括
以上によれば,債務者が本件雑誌を作成してこれを複製又は頒布する行為は,債
権者の翻案権(著作権法27条)並びに二次的著作物の利用に関する原著作物の権
利(同法28条)を介して有する複製権(同法21条),譲渡権(同法26条の2)
及び貸与権(同法26条の3)を侵害するものというべきであり,作成された本件
雑誌を債務者が頒布の目的をもって所持し,又は頒布する旨の申出をする行為は,
著作権法113条1項2号により著作権を侵害する行為とみなされる。
また,前記1(5)イのとおり,本件雑誌については債権者の氏名を表示せずに出版
することが予定されているところ,債務者が本件雑誌を頒布して公衆に提供するに
当たり,編者ないし編集著作者として債権者の氏名を表示しないことは,債権者の
氏名表示権(著作権法19条1項後段)を侵害するものである。さらに,既に認定,
説示した債権者の意思や本件雑誌による本件著作物の変更の程度等に照らすと,本
件雑誌は,債権者の意に反して本件著作物を改変したものといわざるを得ないから,
債務者が本件雑誌を作成してこれを複製することは,債権者の同一性保持権(同法
20条1項)を侵害するものというべきであり,作成された本件雑誌を債務者が頒
布し,頒布の目的をもって所持し,又は頒布する旨の申出をする行為は,著作権法
113条1項2号により著作者人格権を侵害する行為とみなされる。
そして,前記1(5)で認定した事実によると,債務者は,本件雑誌の複製・頒布等
をするおそれがあると一応認められるから,これにより,債権者の上記著作権又は
著作者人格権を侵害するおそれがあるというべきである。
したがって,著作権法112条1項,117条1項により,債権者は,債務者に
対し,上記著作権又は著作者人格権に基づき,本件雑誌の複製・頒布等の差止めを
請求することができると解されるところ,本件申立てに対する仮処分命令の被保全
権利としては,著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)に基づく差止請求権
の存在を認める。
3保全の必要性(争点6)について
前記1(5)で認定した事実によると,債務者は,間もなく平成27年11月上旬に
は本件雑誌を発行しようとしているというのである。そして,前記2で説示したと
おり,本件雑誌の複製・頒布等により債権者の著作者人格権が侵害される関係にあ
ることからすれば,本件については,民事保全法23条2項所定の「争いがある権
利関係について債権者に生ずる急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」に
該当する(保全の必要性がある)というべきである。
これに対し,債務者は,仮に本件雑誌の出版の事前差止めが認められた場合,債
務者の表現の自由という観点のみならず,本件雑誌のために原稿を執筆した100
名を超える執筆者の表現の自由という観点からも深刻な問題が生じる旨主張し,E
の陳述書(乙5)等には,『著作権判例百選』の改訂を待つ学生を中心とした多く
の読者への影響に関する懸念も記載されている。しかしながら,我が国の著作権法
においては,著作者人格権の侵害又は侵害のおそれがあればその差止めを請求する
ことができるという法制が採られている(同法112条1項)以上,上記の観点か
ら保全の必要性を否定することは困難であるといわざるを得ないし,一件記録に現
れた諸事情を総合してみても,上記判断を覆すことはできない。
4結論
以上の次第で,本件申立ては理由があるから,債権者に代わり第三者弁護士前田
哲男に債務者のため300万円の担保を立てさせて,主文のとおり決定する。
平成27年10月26日
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官嶋末和秀
裁判官笹本哲朗
裁判官天野研司
(別紙)
雑誌目録
雑誌名著作権判例百選[第5版](別冊ジュリスト226号)
発行所債務者
(別紙)
著作物目録
雑誌名著作権判例百選[第4版](別冊ジュリスト198号)
発行所債務者
発行年平成21年
(別紙)
項目対比表
本件著作物本件雑誌
Ⅰ著作物
(1)総論(6判例)
(2)著作物の例示(8判例)
(3)応用美術等(6判例)
(4)編集著作物・データベース(5判例)
(5)二次的著作物(2判例)
(6)著作物性のない情報の保護(1判例)
Ⅱ著作権の主体
(1)著作者(4判例)
(2)職務著作(4判例)
(3)映画の著作物(4判例)
Ⅲ著作権の内容
(1)総論(2判例)
(2)各論(14判例)
Ⅳ著作権の制限(12判例)
Ⅴ権利の取引
(1)権利譲渡(4判例)
(2)利用許諾(2判例)
Ⅰ著作物
(1)総論(4判例)
(2)著作物の例示(9判例)
(3)応用美術等(7判例)
(4)編集著作物・データベース(5判例)
(5)二次的著作物(2判例)
Ⅱ著作権の主体
(1)著作者(4判例)
(2)職務著作(5判例)
(3)映画の著作物(4判例)
Ⅲ著作者人格権(11判例)
Ⅳ著作権の内容
(1)依拠性(1判例)
(2)類似性(10判例)
(3)支分権(4判例)
(4)みなし侵害(1判例)
Ⅴ著作権の制限(14判例)
Ⅵ権利の取引
(1)権利譲渡(4判例)
(2)利用許諾(2判例)
(3)共有著作権の行使等(2判例)
Ⅵ保護期間(3判例)
Ⅶ著作者人格権(9判例)
Ⅷパブリシティ権(3判例)
Ⅸ侵害と救済
(1)差止め等(10判例)
(2)損害賠償(7判例)
(3)みなし侵害(1判例)
(4)刑事罰(1判例)
Ⅹ国際関係(3判例)
(3)共有著作権の行使等(2判例)
Ⅶ保護期間(3判例)
Ⅷ侵害と救済
(1)侵害主体(7判例)
(2)差止め(3判例)
(3)損害賠償(6判例)
(4)名誉回復等措置(2判例)
(5)刑事罰(1判例)
Ⅸ一般不法行為(2判例)
Ⅹ国際関係(3判例)

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激動の時代に
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応募資格
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なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
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従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

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◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
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