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裁判例


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○ 主文
原判決中被控訴人A及び同Bに関する部分を取り消す。
右被控訴人両名の請求を棄却する。
控訴人のその余の被控訴人らに対する控訴を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人と被控訴人A及び同Bとの間においては右
被控訴人両名の負担とし、控訴人とその余の被控訴人らとの間においては全部控訴
人の負担とする。
○ 事実
第一、当事者双方の申立
一、控訴代理人は、「(一)、原判決を取り消す。(二)、被控訴人らの請求を棄
却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め
た。
二、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。
第二、当事者双方の主張
次の一ないし四のとおり削除、訂正し、五、六のとおり付加するほか原判決事実摘
示の第二と同様であるから、これを引用する。
一、原判決八枚目表(記録五一丁)最初の二行を次のとおり訂正する。
「に職務命令書を持参しこれを机の上に置いていた。被控訴人Aは、担当の三年九
組の教室に行き生徒に向つて、『私は職務命令が出たからやる。』と言つた後黒板
に職務命令書を説明書に重ねて張り付けた。」
二、同一二枚目表(記録五五丁)終りから四行目に「授業」とあるのを、「学力調
査」と訂正する。
三、同一七枚目表(記録六〇丁)八行目ないし同裏最初の行を削除し、同頁二行目
の(3)とあるのを(2)と訂正する。
四、同三一枚目表(記録七四丁)最後の二行及び同裏最初のを削除し、同頁の二行
目の(3)と二か所あるのをいずれも(2)と訂正する。
五、被控訴代理人の主張
(一)、被控訴人Cを除くその余の被控訴人らの服務上の義務違反について
本件学力調査の実施された当時、学力調査の弊害が全国に広がることを防止するた
めに、教師を初めとする教育関係者の良識ある行動が必要とされていたことは否定
し得ない。そして、教師の良識ある行動の一環として教師の学力調査に対する適切
な批判活動が含まれることも多言を要しない。教師あるいはその集団的組織として
の教員組合が学力調査の弊害等を挙げて学力調査の教育的見地からの批判を行うこ
とは、学力調査の悪用とその弊害のまん延を防止するに役立つことは明白だからで
ある。学力調査は、当時、その適法性の有無はもとよりその妥当性についても教育
の本質にかかわる重要問題をかかえていたから、教育界においても十分な論議にか
けられてしかるべきものであつた、この点からも、本件におけるように教員組合が
教育委員会や校長との交渉においてこの問題を取り上げ、あるいは、学校現場で職
員会議の検討事項として熱心に論議することは、極めて当然かつ正当な行為であつ
た。
(二)、被控訴人Dの昭和四〇年一月一四日及び同月一六日の無断欠勤について
厚南中学校長Eは、被控訴大Dの右両日における教育公務員特例法二〇条二項によ
る校外自主研修の申出ないし特別休暇の申請を許容せず、これを年次休暇の申請を
含む趣旨と解し、これを年次休暇の申請として処理したから、これによつて同被控
訴人の右両日における就労義務は免除されたこととなり、同被控訴人の日教組教育
研究集会参加のための職場離脱は、これを違法行為と目することを得ない。
(三)、本件学力調査の結果利用に対する阻害について
昭和三六年以来、学力調査の集約分析結果が資料として各学校へ配付されたうえ、
それが教育上論議の素材となり、あるいは利用されたことは全くない。学力調査報
告書が刊行されているが、それは一学校に一部配付される程度で具体的に利用され
た形跡もない。
(四)、被控訴人F、同Aの昭和三六年学力調査における戒告処分について
右戒告処分についてはかねて山口県人事委員会において不利益処分審査請求事案と
して審理中のところ、昭和四一年六月三〇日控訴人と右被控訴人ら加入の県教組と
の間において、「控訴人は今後右戒告処分の被処分者らに対し同処分を受けたこと
を理由として人事、給与その他の面で不利益な取扱いをしない。」との和解が成立
した。従つて、右処分を受けたことは、右被控訴人らに対する懲戒処分の裁量要素
となり得ない。
(五)、被控訴人Cの処分事由について
被控訴人Cの日記指導は、生徒の動態を正確に知り、当該生徒の成長方向について
指導援助することに主眼があり、永年にわたり実践し成果を挙げて来た同被控訴人
の教育活動の一環である。同被控訴人は、その中で生徒の成長進歩の可能性を全面
的に信じ、教師としての自己の意見を述べながらこれを押しつけることはせず、生
徒の反応につき教育的予見を持ちながら、ときには、反対意見をぶつつけこれとた
たかわせ、悩みごとについてもこれを生徒が成長する教育的契機として位置付け、
又、「テスト主義教育」が生徒に及ぼす歪みには深い注意を払いながら生徒指導を
行つて来た。
控訴人は、同被控訴人が本件学力調査に当り事前指導を怠つた旨主張するが、同被
控訴人は、本件学力調査の前日である六月二二日、学力調査反対のことを親に打ち
明けるべきか否かで悩んでいた担任の生徒のGに対し、自宅訪問して正常受験を説
得している。
又、同被控訴人が一般論としてテスト主義教育の歪みについて話したことが生徒の
日記に登場しているが、これは本件学力調査とは直接の関係がない。
六、控訴代理人の主張
(一)、被控訴人Cを除くその余の被控訴人らの本件学力調査当時における組合役
員としての地位
被控訴人Dは県教組宇部支部執行委員、同Bは同支部厚南中学校分会長、同Aは県
教組本部青年部長兼同分会代議員の地位にあつた。被控訴人Fは、当時は組合役員
ではなかつたが、昭和三六年度は県教組本部執行委員、昭和三七年度は同字部支部
書記長代行という重要な地位にあつた。
(二)、被控訴人Cを除くその余の被控訴人らの処分事由としての服務上の義務違
反行為
(1)、昭和三九年六月一九日の違反行為
厚南中学校H校長が同日午後三時半ころから開かれた同校職員会議の席上教職員ら
に対し、宇部市教育委員会から学力調査を行うべき旨の職務命令を受領したことを
伝えたところ、右被控訴人四名が主となつて、特に被控訴人Bが烈しい発言をし
て、「同校の教諭八名に対して同年五月に発令された訓告処分が撤回されない以上
学力調査に絶対に協力することができない。」旨の分会の主張が繰返してなされ、
結局、同日の職員会議は結論が出ないままで解散となつた。訓告処分とは、上司が
一般的監督権に基づいて部下の違法行為に対して行う注意警告の一種であつて、懲
戒処分ではない。給与、身分上の不利益を伴うものではなく、履歴書にも記入され
ない。右訓告処分を行つたのは宇部市教委であつて同校長ではない。一方、右被控
訴人らの学力調査に関する職務は校長の職務命令に基づくものであつて、教職員と
してはこれを忠実に実施すべき義務を有する。両者は全然関係がないものであるに
もかかわらず、訓告処分撤回と学力調査実施とをからめて要求することはもつての
ほかである。ことに市教委によつて訓告処分が取り消されるべくもないことを熟知
していながら、両者をからめて右の如き要求をすること自体、結局学力調査実施拒
否を意図したものにほかならない。右被控訴人らのこのような言動は、地方公務員
法三五条、三二条に違反するものである。
(2)、同月二〇日の違反行為
同日職員朝礼の席上H校長が学力調査担当者を命ずる旨の職務命令書を各人に配付
するや、被控訴人Dは突然立ち上がりこぶしを震わせて、「校長は偽善者だ。職務
命令書をぼくの責任で全部集めてたたき返してやる。」と叫んだ。更に、職員朝礼
が終るや、被控訴人Dは、「今から組合員は礼法室に集つて下さい。」と発言し
て、授業時間中にもかかわらず二〇分ないし三〇分位職場集会を行い組合員全員を
参加させた。そして、同職場会において被控訴人D、同A主導のもとにH校長に対
して職務命令の撤回を要求することが決定された。この決定に基づいて、遅れて出
勤した被控訴人Bを加えて被控訴人D、同Aは、他の分会員数名と共に校長室に押
しかけ、正午過ぎまでH校長に対し執ように職務命令の撤回を要求し続けた。
右の被控訴人三名の行為は、勤務時間中に職場を放棄して組合活動を行つたもので
あるから、地方公務員法三五条、三七条一項に違反するものである。更に、被控訴
人Dの行為は同法二九条一項三号に該当するとともに同法三〇条に違反するもので
ある。
(3)、同月二二日の違反行為
右被控訴人四名は、同月二二日午前八時三五分から開かれた職員朝礼の席上、率先
して他の組合員らと共にH校長に対して学力調査実施の職務命令の撤回を迫つた
が、H校長はこれを拒否した。このように勤務時間中に校長に対して職務命令の撤
回を要求することは、教職員として許されないことである。又、当日、右職員朝礼
に次いで生徒朝会が終つた後、被控訴人Bが組合員全員を礼法室に集合させて職場
会を開催し、その職場会は一時限目の終了直前まで続き、その席上、校長に職員会
議の開催を要求し、その席で職務命令の撤回を強く要求することが決定された。
(4)、同月二三日の違反行為
被控訴人Bは、同日の職員朝礼において職務命令書を校長にたたきつける暴挙をあ
えてした。
(三)、被控訴人Cの処分事由の追加
(1)、被控訴人Cは、担任学級の生徒全員に毎日日記を書いて提出させ、これに
感想を書いて返した。更に担任の学級の生徒だけでなく、前年に担任した学級の生
徒が学年ごとに行われる学級編成替えによつて他の学級に移つた後も日記指導を行
つてていた。同被控訴人は国語の指導のために日記指導を行つたと主張しているが
そうではなく、同被控訴人は日本共産党員もしくはその同調者であつて、右日記指
導により純真な中学二年の生徒に対して階級闘争的な思想を押し付けたことが明ら
かである。教職員の思想信条は自由であるが、いやしくも生徒に対して偏向した思
想を吹き込むような行動に出ることは許されない。しかも、この日記指導は、集団
教育の手段として永年にわたり行われていた。
(2)、同被控訴人は、担任の生徒が学力調査の受験拒否をすることについて事前
に熟知していながら何らの指導をしなかつたのみか、かえつてこれを是認し協力し
ていた。すなわち、二年一組の生徒Iから授業中に受験拒否についての意見を求め
られたときに、自分はそれに答える立場にないと応答し、もつて同組の生徒に暗に
受験拒否をそそのかしあおつている。又、同被控訴人は担任する二年五組の生徒が
受験拒否を決めこれを外部にもらさない旨の申合せをしていることを知りながら、
これを是認し、しようようしていた。
第三、証拠関係(省略)
○ 理由
第一、被控訴人らが請求原因として主張する各懲戒処分がされたこと、各被控訴人
の当時の教職員としての地位については、当事者間に争いがない。
第二、本件処分事由の存否について
一、控訴人主張の本件学力調査の実施状況及び同調査に対する被控訴人らの態度に
ついては、当事者間に争いがない。
二、被控訴人Cを除くその余の被控訴人らに対する処分事由の存否について
(一)、控訴人が主張する右被控訴人らの本件学力調査当時における組合役員とし
ての地位を、右被控訴人らは明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべ
きである。
(二)、生徒に対する本件学力調査受験拒否の扇動について
(1)、これについては、原判決の理由第二の二の1をここに引用する。
(2)、そして、当審証人Jの証言のうち、被控訴人Aが本件学力調査後の六月二
七日の分会の代議員会において、「今回の学テ闘争は大成功であつた。」と発言し
たとの供述部分は、原審における同被控訴人本人尋問の結果(第一回)に照らして
にわかに措信し難く、その他当審における証拠調の結果によつても右認定を左右す
るに足りない。
(三)、服務上の義務違反について
(1)、前掲甲第一四号証の一ないし三、第二六号証、乙第五号証の一ないし三、
六、七、第六号証の一、二、第七号証の二、第一二ないし第一五号証、第一七、第
一八、第五八号証、成立に争いのない甲第一六号証の一、二、第三二号証の四八な
いし五〇、乙第五号証の五、被控訴人Fが新聞の切抜きを撮影した写真であること
について争いのない甲第一八号証の二ないし一〇、原審における被控訴人A本人尋
問の結果(第二回)によつて真正に成立したものと認められる甲第一五号証、原審
証人Kの証言(第一回)及び弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められ
る乙第五号証の四、第七号証の四、五、原審(第一、二回)及び当審証人J、原審
証人K(第一、二回)、同L、同M、同N、同O、同P、同Q、同R、同S、同T
の各証言、原審(第一、二回)及び当審における被控訴人F、同A、原審及び当審
における被控訴人D、同B各本人尋問の結果(但し、いずれも後記措信しない部分
を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(イ)、H校長は、昭和三九年三月一六日ころ市教委から本件学力調査の実施に関
する文書通達を受け、その後もこれを学校行事計画に組み入れるように指示を受け
ていたので、同年四月三〇日、校内委員会において本件学力調査の行事計画への組
入れについて協議したが、了解が得られなかつた。そこで、H校長は、同年五月七
日の職員会議において、再度本件学力調査の行事計画組入れを提案し、一応、同年
六月二三、二四日の本件学力調査予定日には他の行事を一切入れないが、行事予定
表には当該予定日の欄外に本件学力調査の実施を記入するにとどめることで承認さ
れた。
(ロ)、H校長は、同年六月一五日付で市教委から本件学力調査を実施すべき旨の
職務命令(通達)を受けたので、同月一六日の職員会議において同校教職員に対し
その円滑実施について協力を要請した。ところで、被控訴人F、同Dを含む厚南中
学校教諭八名は、同年二月のいわゆる定員闘争に参加したことについて同年五月六
日市教委から無断職場離脱を理由に訓告処分を受けたところから、右訓告処分の不
当を主張してその撤回を求めていた。そこで、被控訴人Bは、右H校長の要請に対
し、右訓告処分の撤回があるまで本件学力調査の実施に関する話合いに応じられな
い旨発言した。これに対しH校長は、訓告処分撤回の問題と本件学力調査実施の問
題とは別個に考えて貰いたい旨述べたが、結局、両者の意見が一致しないまま、同
日の職員会議を打ち切つた。
(ハ)、H校長は、同年六月一九日にも本件学力調査の実施に関して検討するため
職員会議を開き、J教頭が実施日程等について説明した。ところが、その説明終了
後再び前記訓告処分撤回の問題が提起され、それが解決しないうちは学力調査実施
の話合いには応じられない旨の発言が多くの教職員からなされ、結局、この日も学
力調査に関する話合いは進展しなかつた。
(二)、そこで、H校長は、県教組も本件学力調査実施の職務命令が出た場合には
これに従う方針をとつていたので、職務命令を出せば教職員らもこれに従わざるを
得ないから事態が落着くであろうとの判断のもとに、同月二〇日の職員朝礼におい
て、前日作成しておいた本件学力調査のテスト担当者を命ずる旨の職務命令書を各
該当教師に配付し、その場にいなかつた被控訴人Bほか数名の教師にはこれを郵送
した。
これに対し、教職員の多くは、前年度の学力調査の場合にはその実施直前に職務命
令が出されたのに、H校長がこの段階で職務命令書を配付したことを意外に感じ
た。ことに、被控訴人Dは、同校長に対し、「職員の気持ちを踏みにじつても良い
のか。今まで校長が言つたすべてのことは偽善であつたのか。今後学校運営に支障
が起つても良いのか。ぼくの責任で職務命令を全部返上する。」と怒鳴つて、右職
務命令書の配付に強く抗議した。そして、被控訴人Dは、組合員に対し、H校長が
職務命令書を配付したことについて検討するため職場会を開くので、生徒に自習を
命じて礼法室に集合するよう呼びかけた(この事実は当事者間に争いがない。)。
これに対し、校長や教頭は、学校運営の円滑を期するため止むを得ないものと考え
て、右職場会の開催を制止しなかつた。右職場会は約三〇分間継続し(この事実は
当事者間に争いがたい。)、そこでは、H校長に対し右職務命令を一応撤回したう
えで本件学力調査について討議するように要求することが申し合わされた。
そこで、遅れて出勤した被控訴人B及び同Dを含む分会代表約七名は、右職場会の
申合わせに基づき、午前一〇時ころから校長室においてH校長に対し、前記職務命
令を撤回し学力調査について討議するよう要求した。これに対し、H校長は、既に
同月一六日及び一九日の両日に討議をする機会があつたのに訓告問題を持ち出して
分会員らが討議を拒否してきたのであるし、本件学力調査の実施当日まで日数もな
いので職務命令は撤回しない旨答えて右要求を拒絶した。しかし右分会代表らは、
その後も他の組合員が職員室で待つているから説明してほしいと要求し、又、一時
は他の一〇数名の組合員とも一諸になつてH校長に対し前記職務命令の撤回を要求
し続けた。この交渉には同校の大多数の教職員が参加し、自然に職員会議のような
形となつた。そのため、H校長は、もう一度教頭と相談して返事をする旨述べ、午
後〇時二〇分ころ右交渉を打ち切つた。そのため、同校の大多数の生徒は、同日
(土曜日)自習を命じられ、正常に授業を受けることができなかつた。
(ホ)、被控訴人Bは、同月二二日の職員朝礼において、H校長に対し、職務命令
書が同被控訴人にだけ郵送されたものと思つてその理由を詰問し、同校長からその
説明を受けた後、同月二〇日の前記交渉事項について教頭との相談結果についての
回答を求めた。これに対し、H校長は、これ以上話合いをしても仕方のないことと
思つたのでそのままにした旨答えた。更に、同被控訴人は、「ちやんと連絡をとつ
てもらわないと困る。当日混乱が起こつても知りませんよ。」と抗議した。
右職員朝礼終了後続いて生徒朝会が開かれ、同朝会において、H校長は、全校生徒
に対し、同月二三日及び二四日に本件学力調査を実施する旨伝達した。ところが、
その時三年生の列の後方にいた被控訴人Bは、「職員会議でまだ決まつていない
ぞ。」と大声で叫んだ。そのため、三年生の半数位が驚いてその方を振り返つた。
右生徒朝会終了後直ちに、同被控訴人は職場会を招集し、授業のある組合員はそれ
ぞれ生徒に自習を命じてこれに参加した。この職場会は約二〇分間続けられ(この
事実は当事者間に争いがない。)、その場において、H校長に対し、職員会議の了
解を経ないうちに本件学力調査の実施を生徒に伝えたことをただし、かつ、あくま
でも前記職務命令を撤回したうえで学力調査に対する論議を進めるために、職員会
議の開催を求めることが決められた。
そこで、被控訴人Bは、H校長に対し職員会議の開催を申し入れ、H校長もやむを
得ずこれに同意して直ちに職員会議を招集開催した。この職員会議は、第二時限の
休み時間ころから昼休みをはさんで午後三時ころまで続けられ、当日生徒はほとん
ど自習を強いられる結果となつた。そして、右職員会議の冒頭、被控訴人Bは、H
校長に対し、職員会議の決定をまたずに生徒朝会で本件学力調査の実施を生徒に伝
えたことについて詰問した。これに続いて午前中は、被控訴人B、同F、同Aや
Q、U、Pその他の教職員がこもごも激しい口調で前記職務命令の撤回を要求し、
現況ではその撤回をすることはできないとする校長との間で押問答が続けられた。
そして、その声は廊下まで響き、自習を命じられたはずの生徒が廊下で騒ぎ、昼休
みには生徒によつて作成されたと思われる「Fガンバレー」と記載されたビラが校
長室にけり込まれ、「学力テスト反対」と記載されたビラが廊下にまかれていた。
午後から再開された職員会議では、昼休み時間中に一部の生徒から生徒会顧問であ
るQ教諭を通じて学力調査に関する討議をするため生徒総会の開催を認めて貰いた
い、もしそれが認められない場合には学力調査に賛成の教師と反対の教師とによつ
てそれぞれの理由を放送で説明してほしい旨の申入れがなされたので、その許否に
ついて協議を重ねた。被控訴人Fら数名の教師が生徒の右申入れを許容すべきであ
るとの意見を述べたが、多数の教師はこれに反対し、結局、右申入れは職員会議で
拒否することに決定した。その後一教師から話合を打ち切り授業を行うべきである
との意見が出されたが、被控訴人B、同Fから反対の発言があつて同提案は承認さ
れず、生徒はますます騒ぎ教師がかわるがわる教室で自習するよう注意しても効果
はなく、混乱のうちに結論の出ないまま職員会議は閉会となつた。当日の同校にお
けるこのような状況は、同月二〇日の状況と相まつて同校生徒に本件学力調査受験
に対する不安、動揺、更に焦燥感を与え、翌日及び翌々日の生徒の受験拒否行動に
大きな原因を与える結果となつた。
(ヘ)、本件学力調査第一日目(六月二三日の朝)、被控訴人Aは、本件学力調査
実施当日における組合員の意思統一をはかるため職場会を開くという分会執行部の
決定に基づいて、登校してくる組合員を礼法室に誘導した。右職場会は、午前八時
四〇分ころ終了し、職員朝礼の時間に約五分間食い込んだ(この事実は当事者間に
争いがない。)。そして、右職場会では、被控訴人Bから、職務命令が出ている以
上これに従わざるを得ないが更にその撤回を求めてすれすれの線までがんばる旨の
提案がなされ、次いで、前年度の学力調査にも白紙答案や無記名答案が出た経験か
ら本年度もそのような不正常答案の出ることが予想され、かつ、前記職務命令書に
添付された実施説明書には氏名記入等の指導項目が加えられていたうえ、県教組の
指令にもあつたので、教師が職務命令どおり指導してもなおかつ不正常答案が出た
場合の無答責確認をH校長からあらかじめ取付けておくことが申し合わされた。
そこで、被控訴人Fは、職員朝礼の席上H校長に対し、右職場会の申し合わせに基
づいて、生徒が白紙答案や無記名答案を提出した場合の教師の責任について質問
し、かつ、生徒が指導を受けても応じない場合には教師に責任が無い旨の確認書を
作成するように要求した。これに対し、H校長は、教師が責任を負わない場合のあ
ることを認め、又、確認書の作成については、当初は消極的であつたが組合側の要
求が強く時間も経過するのでこれを承諾した。又、被控訴人Bは、「こんなものが
受け取れるか。」と言いながら職務命令書をH校長に投げつけたが、同僚から注意
されて机の下に入つてこれを拾い上げた。その後、被控訴人Fが本件学力調査開始
時刻(午前九時)の到来したことを指摘して職務命令の効力が発効しているかどう
か質問したところ、H校長が少しの時間的ずれはあつても良い旨答え、引き続き本
件学力調査終了後の授業をどのようにするかについて協議し、同校長は学力調査の
開始時刻を午前九時二〇分とする旨指示した。
右職員朝礼を終えて、各担当教師は問題用紙を持つて教室へ赴いた。ところで、被
控訴人Fは、当時、第三学年のアルバム編集責任者となつていたので、本件学力調
査の受験風景についても撮影の機会があるものと考えて、学力調査実施のため担任
の教室へ赴く際カメラも持参した。そして、担任の教室に入つたところ、女子生徒
は全員いたが、男子生徒が四、五名しかいないことに気付き、生徒らにその理由を
問いただしたところ、運動場に出たということだつたので、当該生徒を呼びもどす
ため問題用紙等を抱えたまま運動場へ向つた。その途中、他の組の男子生徒五、六
名が市教委のN主事から教室に入つて受験するよう注意されているのを見て、当該
生徒に対して教室にもどるよう注意し教室に入らせた。それから、同被控訴人は、
運動場に出て、その隅にいた担任の生徒らに対して教室に入るよう呼びかけたとこ
ろ、生徒が移動し始めたので安心して校舎の方へ引き返しかけたところ、生徒は運
動場の中程まで来て立ち止つてしまつた。そのとき、三年の学年長であるV教諭が
説得のため右生徒のところへ行つたが、被控訴人Fは、まだ問題用紙を持つたまま
であつたのでH校長のもとへ行き、学力調査の開始時刻を一〇分遅らせることの許
可を受け、その際、同校長から、問題用紙を配付したら他の教師に担当を交替して
直ちに受験拒否生徒の説得に当るよう指示された。そこで、同被控訴人は、直ちに
担任の教室へもどり、生徒に問題用紙を配付して職務命令書を読み上げ主要注意事
項を説明し、その担当をW教諭と交替して再び運動場に出た。
又、被控訴人Bは、問題用紙を持つて担任の教室へ行つたところ、四、五名の生徒
が運動場に出たということでいなかつた。そこで、教室にいる生徒に問題用紙を配
付し、職務命令書に添付されている実施説明書を読み上げた後これを黒板に掲示し
て、職務命令書は机の上に置いて、運動場に出たという生徒を教室に呼びもどすた
めに運動場へ向つた。同被控訴人が運動場に出たとき、J教頭が受験拒否生徒の説
得に当つているところであつたが、その説得に苦しんでいる様子であつたので、同
被控訴人は、同教頭に対し自分が説得してみると申し出た。同教頭は、同被控訴人
ならうまく説得してくれるものと思つて同被控訴人とその場の説得を交替して校長
室に入つた。そこで、同被控訴人は、生徒らに対し教室に入つて学力調査を受験す
るよう説得したが、生徒は非常に興奮していてこれに応じなかつたので、校長室へ
行つてその旨H校長に報告した。そのとき、H校長は、同被控訴人に対し、学力調
査の担当は他の教師比してもらうので引き続き受験拒否生徒の説得に当るように命
じた。
他方、被控訴人Aは、学力調査実施のため担任の教室へ赴き、生徒に対し、問題用
紙を配付するとともに職務命令が出たので本件学力調査を実施せざるを得ない旨話
し、かつ、主要注意事項を説明したうえ、
職務命令書に添付されている実施説明書を当該職務命令書の上に重ねて黒板に掲示
した。
このようにして、被控訴人F及び同Bは、第一時限の途中からH校長の命令を受け
て、運動場に出て受験を拒否している二〇数名の生徒の説得に当つたが、途中から
H校長も自ら右生徒の説得に乗り出した。ところが、第一時限の終りごろに多数の
報道関係者が生徒の学力調査受験拒否を取材するために来校したので、生徒は、既
に相当興奮していたが、更に一層刺激された。このとき、被控訴人Fは、生徒を報
道陣の直接の取材対象にさせないようにしなければならないと考えて、男子生徒に
対しては、「帽子を深くかぶれ。」と、又、女子生徒に対しては、「下を向け、名
札を付けているものはこれをはずせ。」と指示した。
そのころ、第一時限が終了し、二〇分間の休み時間となつたが、その間に運動場に
出て受験拒否に加わる生徒が増加し、折から直射日光を受けて暑いうえ、報道関係
者の取材も続けられていたので、被控訴人Bの提案によつて受験拒否生徒全員を体
育館に入れ、そこでH校長が中心となつて更に説得を続け、被控訴人F、同Bも説
得に当つたが、結局、生徒はその説得に応じなかつた。そして、当日の学力調査が
第二時限、第三時限と進むに従つて受験拒否生徒は増え続け、最終的には約一五〇
名(いずれも第三学年の生徒)に達した。
当日の学力調査終了後、同校教職員全員は、翌二四日の学力調査受験態勢について
話し合い、結局、校長が調査開始前に第三学年の生徒全員に対し校内放送を通じて
受験拒否をしないよう説得する、その後担任教師が各教室で校長の発言の要旨に沿
つて説得して調査を開始する、ということを決定した。又、同校の組合の代表は、
混乱を避けるという趣旨で翌日の学力調査を中止するよう市教委と交渉したが、そ
の要請は市教委によつて拒否された。
(ト)、本件学力調査第二日目(六月二四日)の朝、被控訴人Aは、前日と同様に
登校してくる組合員を礼法室に誘導し、同室において職場会が開催されたが、右職
場会は前日同様職員朝礼の時間に約五分間食い込んだ(この事実は当事者間に争い
がない。)。そして、右職場会では、前日の市教委との学力調査中止要請交渉の経
過とPTA役員らによる受験拒否生徒の説得がかえつて当該生徒を刺激して担任教
師による説得を困難にしていることが報告された。
右職場会終了後の職員朝礼において、J教頭から、前日の市教委との交渉もあつた
が、結局学力調査を中止するに至らなかつたので、本日の学力調査を実施する旨が
述べられた。次いで、被控訴人Fは、前日来市教委O主事やPTA役員が受験拒否
生徒の家庭を訪問して受験を説得した事実があり、それが生徒の説得には担任教師
が当るという前日の市教委との取決めの趣旨に反して不本意である旨発言した。そ
して、他の二、三の教師から同旨の意見が述べられ、J教頭に対して右部外者説得
の経過報告が求められたので、同教頭がその経過を説明した。更に、被控訴人F
は、当日市教委から連絡員として来校しているO主事をこの場に呼んでその事情を
聞くことを提案し、それはできないとするH校長との間で押問答が重ねられた。そ
のころから生徒が運動場に出初めたので全員議論を打ち切り、被控訴人F、同B
は、運動場に出た生徒を校長の放送がある旨告げて各教室に入らせた。そして、H
校長は、前日の職員間の協議結果に基づいてあらかじめ用意した生徒に学力調査の
正常受験を呼びかける放送の原稿を教職員の面前で読み上げて了解を得たうえ、こ
れに基づいて約一五分間にわたり校長放送を行つた。
右職員朝礼終了後、各学級担任はそれぞれの教室へ赴き、生徒とともに校長の放送
を聞き、更に、本日の学力調査を平穏に受験するように説得を加えた。ところが、
被控訴人Fの学級では校長放送の途中から多数の生徒がすすり泣きを始め、それで
も納得のいかない者は体育館に集まるがよい旨結んだ校長放送が終了すると、ほと
んど全員が立ち上り涙を流しながら教室を出て行つた。同被控訴人は、このような
状態ではどうすることもできないと考えて自分も体育館に行き、H校長から前日同
様受験拒否生徒の説得に当るように命ぜられた。
このような経過で、第一時限の学力調査は結局午前一〇時二〇分から、又、第二時
限は午前一一時三〇分から開始されるに至つたが、受験拒否生徒は次第に数を増し
約一八〇名に達し、H校長が他の教師とともに説得に当つたが効果は見られなかつ
た。
以上のとおり認められ、前掲乙第五号証の一、四、第七号証の二、原審証人J(第
一回)、向Pの各証言並びに原審及び当審における被控訴人F及び同B各本人尋問
の結果のうち右認定に反する部分は措信し難く、
他に右認定を覆すに足る証拠はない。
(2)、昭和三九年六月一九日の違反行為について
被控訴人Bが同月一六日の職員会議において、「訓告処分が撤回されない限り本件
学力調査に協力することができない。」旨の発言をし、同月一九日の職員会議にお
いても、具体的な出席者、発言者の氏名は不明であるが、多数の教職員によつて右
の主張が固執せられたことは、前認定のとおりである。しかしながら、H校長は右
各日時には教職員に対し本件学力調査の実施についての協力を要請したのみであつ
て職務命令を出したものとは解されないし、又、右職員会議は授業終了後のもので
あるから、右被控訴人の主張は校長に極めて難きを強いるものではあるが、同被控
訴人に地方公務員法三五条、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下地方
教育行政法という。)四条二項に違反する行為があるということはできない。
(3)、同月二〇日の違反行為について
(イ)、被控訴人Dが、同日H校張が本件学力調査実施の職務命令書を教職員らに
配付したところ、「ぼくの責任で職務命令を返上する。」旨怒鳴りながら同校長に
抗議したことは、前認定のとおりである。同被控訴人のこのような行為は、右職務
命令が同被控訴人に対するものでなかつたとしても、地方公務員法三〇条に違反
し、同法二九条一項三号に該当するものである。
(ロ)、被控訴人Dが、同日職員朝礼終了後組合員に対して職場会の開催を呼びか
け、右職場会が授業時間中約三〇分間にわたつて持たれ本件学力調査実施の問題に
ついて話合いがなされたこと並びに被控訴人D及び同Bが、右職場会終了後他の分
会員らとともにH校長に対して職務命令の撤回と学力調査についての話合いを要求
上、その交渉が一二時二〇分ころまで続けられたことは前認定のとおりである。
ところで、学力調査に関する問題が教育に関する重要な問題であることは否定でき
ないから、教職員がこれについて討議し、又は、その実施方法について校長と話合
いや交渉を行うことは、もとより当然の事柄である。しかしながら、そうであるか
らといつて、その話合いや交渉のために本来の授業をなすべき職務が当然に免除さ
れることにはならず、その義務が免除されるためには、更に校長の承認か必要であ
るものといわなければならない。この点について、H校長が右職場会の開催を制止
せず、又、右被控訴1人らによる交渉を拒否しなかつたことは、前記のとおりであ
る。しかしながら、前認定の当日の経過に照らすと、右事実をもつて同校長が右職
場会の開催を承認し更に教職員らに授業を行う義務を免除したものと見ることはで
きない。それ故、被控訴人D及び同Bが当日授業その他正規の職務を行わなかつた
点は、いずれも地方公務員法三五条の職務専念義務に違反するものである。更に、
被控訴人Dが職場会の開催を主導的立場に立つて行つた行為は、「地方公共団体の
機関の活動能率を低下させる行為」を「そそのかし、あおつた」もので、同法三七
条一項に違反するものである。前掲各証拠によると、当日生徒は大部分教室におい
て自習を命じられていたことが認められるが、自習と正規の授業とではその学習効
果に多大の差異があることは自明の理であるから、右被控訴人らは生徒が自習を行
つたことをもつてその責任を免れることはできない。そして、H校長にも責任があ
るとしても、右被控訴人両名が多数の他の教師まで交渉に引き込み、その結果多数
の生徒に自習を余儀なくさせた責任は、重大であるといわなくてはならない。
右被控訴人両名は、前叙の職務命令は教育の問題に関係すると同時に教職員の勤務
条件にも関係するから、これについて職員団体として校長と協議しあるいは交渉し
得ることは当然である旨主張する。しかしながら、仮に右職務命令の撤回を求める
ことが職員団体と校長との交渉事項に該当するとしても、右被控訴人両名に当時校
長と交渉を行う資格があつたとは認められず、かつ、勤務時間中の交渉が当然には
許容されないことは多言を要しないところであるから、右の事実は右被控訴人両名
の責任の有無に消長を来さない。
なお、控訴人は、同日職場会において被控訴人D及び同Aが主導的立場に立ちH校
長に対して右職務命令の撤回を要求すべき決議がされるに至つたと主張するとこ
ろ、これを肯認するに足る証拠はない。
(4)、同月二二日の違反行為について
(イ)、控訴人は、被控訴人Bが同日の職員朝礼の冒頭H校長に対し職務命令書を
郵送したことをなじるとともに、「当日混乱が起こつても知らないぞ。そういうこ
とで学力テストをやれるものならやつてみい。今後学校運営が麻ひするぞ。」と暴
言を吐いて、前記職務命令の撤回を迫つた旨主張する。しかしながら、右職員朝礼
の状況は前認定のとおりであり、原審証人Jの証言(第一回)のうち控訴人の右主
張に添う部分は、前掲乙第一三号証の記載に照らすと同証人が同月一六日の職員会
議の情況と混同して述べたものと認められるから措信し難く、他に右主張を認める
に足る証拠はない。
又、控訴人は、同日の職員朝礼において被控訴人四名が率先してH校長に前記職務
命令の撤回を迫つた旨主張するが、この点を適確に認めるに足る証拠はない。かえ
つて、当審における被控訴人D本人尋問の結果によると、同被控訴人は同日は組合
業務に従事し学校へは出勤していないことが認められる。
(ロ)、被控訴人Bが、同日H校長が生徒朝会において生徒に対して本件学力調査
の実施について伝達したとき、生徒の後方から「職員会議でまだ決まつていない
ぞ。」と大声で叫んだことは、前認定のとおりである。
被控訴人Bとしては、既にH校長から本件学力調査実施の職務命令を受けその期日
も翌日に迫つていたから、同校長に協力して本件学力調査を可能な限り円滑に実施
すべき職務上の義務を負うにもかかわらず、同被控訴人が生徒朝会という訓育の場
において前記のような行動に出たことは、上司の命令に忠実に従つたものでなく、
かつ、教師としての教育的配慮に欠けるものであつて、その行為は、地方教育行政
法四三条二項、地方公務員法三五条に違反するものである。そして、同被控訴人の
右発言が生徒の本件学力調査受験に対する心理的混乱を与え、その受験拒否に影響
を及ぼしたことは否定できないから、同被控訴人のこの点の責任は重いものと言わ
なくてはならない。
(ハ)、被控訴人Bが、右生徒朝会終了後直ちに職場会を招集し、授業のある組合
員はそれぞれ生徒に自習を命じてこれに参加し、右職場会は約二〇分間継続したこ
とは前記のとおりである。
右被控訴人は、右職場会の開催についてH校長の承認があつた旨主張するが、原審
における同被控訴人本人尋問の結果のうち右主張に添う部分はにわかに措信し難
く、他に右主張を認めるに足る証拠はない。それ故、右職場会の開催は、職務専念
義務に違反するものであると同時に、右職場会を招集した行為は、怠業行為の「そ
そのかし、あおり」に該当するものというべきである。
(二)、その後行われた職員会議の席上、被控訴人B、同F、同Aが、主導的立場
に立つて他の組合員とともにH校長に対し、激しく前記職務命令の撤回を要求し続
けたことは、前認定のとおりである。
右被控訴人三名の行為は、当日の授業その他正規の職務を放てきして他事に従事し
たものであるから、職務専念義務に違反するものである。そして、これによつて生
徒の本件学力調査受験拒否の一原因を与えた同被控訴人らの責任は重大であるとい
わなければならない。右職員会議の開催についてH校長が同意したことは前認定の
とおりであるが、同校長は学校運営の円滑を図るためやむなく同被控訴人らの要求
に応じて右職員会議の開催に同意したものであるから、これによつて同被控訴人ら
の職務専念義務違反が成立しないということはできない。又、生徒に本件学力調査
受験拒否の原因を与えた点については、授業時間中の職員会議の開催につき同意し
たのみならず長時間にわたつて会議を継続したH校長や、右被控訴人らと同調した
他の教職員らにも責任があることはもち論であるが、これらの事実によつて右被控
訴人らの責任が全面的に免除されるものではないというべきである。
(5)、同月二三日の違反行為について
(イ)、被控訴人Aが当日朝登校してくる組合員を職場会開催のために礼法室へ誘
導したこと及び右職場会が職員朝礼の時間に約五分間食込んだことは、前認定のと
おりである。
しかしながら、同被控訴人の右誘導行為は勤務時間外にされたものであり、かつ、
同被控訴人が右職場会が勤務時間に食い込むことをあらかじめ企図又は認識してい
たことを認めるに足る資料はない。又、同被控訴人はその時点では連絡係的立場に
あつたもので右職場会の開催を主導したものではないと認められる。それ故、同被
控訴人の右行為を違法となすことはできない。
(ロ)、又、同日の職場会の状況及び職員朝礼の経過は前認定のとおりである。被
控訴人Cを除く被控訴人四名が共同の意思のもとに、本件学力調査実施にあくまで
抵抗を示す目的で生徒が白紙答案や無記名答案を提出した場合の教師の無答責確認
問題を持ち出し、右職員朝礼を延引させて学力調査開始時刻を二〇分間遅らせたこ
とは、とりもなおさず職務専念義務に違背するものである。たとえ、H校長が学力
調査開始時刻を二〇分間遅らせ九時二〇分からとすると宣言したとしても、それ
は、同校長が右被控訴人らの行為に困惑し何とか右被控訴人らの協力を求めようと
してやむを得ず行つたものと認められるから、右被控訴人らの責任を軽減するもの
ではない。又、被控訴人Bが同職員朝礼において職務命令書をH校長に対し、「こ
んなものが受け取れるか。」と言いながら投げつけた行為は、もとより上司である
同校長の職務上の命令に忠実に従わなかつたものであり、そのこと自体右職務命令
に違反するものである。そして、これらの右被控訴人らの行為によつて学力調査開
始時刻が定刻より遅れ、そのため生徒の受験拒否行為にきつかけを与え、かつ、こ
れを容易にしたことはもとより推認するに難くないから、右被控訴人らの責任は決
して軽しとなし得ない。しかしながら、右被控訴人らが、控訴人主張のように、生
徒の拒否行動を予期していたものとまで認めることはできない。
(ハ)、控訴人は、被控訴人Bが三年六組のテスト担当を命ぜられていたにもかか
わらず、第一時限に無断でその職務を放棄して運動場に出た旨主張する。しかしな
がら、被控訴人Bが第一時限に運動場に出た経過は前認定のとおりであつて、テス
ト担当を命ぜられた同被控訴人が運動場に出た生徒を呼びもどしに行くことも、む
しろ当該職務命令の範囲に含まれると解され、しかも、一応生徒に説得を試みた
が、生徒がこれに応じなかつたので、H校長からテスト担当を他の教師と交替して
引き続き受験拒否生徒の説得に当るべき旨の命令を受け、更に説得に当つたのであ
るから、同被控訴人が無断でテスト担当者の職務を放棄したものということはでき
ない。
(二)、控訴人は、被控訴人Fが、第一時限に、担任の三年七組の残留している生
徒の面前で職務命令書を読み上げたうえ、「男子はいないのか。女子はテストを受
けるのか。先生は応援に行こうか。」と発言した旨主張する。同被控訴人が職務命
令書を読み上げたことは前認定のとおりであり、この行為は、同被控訴人が本件学
力調査の担当を命令により不本意ながら行うものである旨を表明したものと認めら
れるから、同被控訴人のこのようなやり方は当該職務命令の趣旨に反するものであ
る。しかしながら、その他の控訴人の右主張事実を認めるに足る証拠はない。
又、控訴人は、被控訴人Bは職務命令書を机の上に置き、被控訴人Aは生徒に対
し、「職務命令によりやむなく学力調査を行う。」旨を告げ、教室の黒板に職務命
令書を張り付けたと主張する。
被控訴人Bが机の上に職務命令書を置いていた行為は、同被控訴人がこれを生徒に
見せる趣旨で置いたものとも認められないから、必ずしも違法とは言い難い。被控
訴人Aが、前認定のとおり「職務命令によりやむなく学力調査を行わざるを得な
い。」旨を述べたうえ、職務命令書に添付されていた実施説明書を上にし職務命令
書を下にして重ねて黒板に張り付けた行為は、前記被控訴人Fの読上げ行為の場合
と同様に違法である。しかしながら、被控訴人Bはもとより同Aが右行為によつて
生徒に対して受験拒否を扇動したものとは必ずしも見られない。
(ホ)、控訴人は、被控訴人F及び同Bは、第二時限以降本件学力調査の受験を拒
否している生徒を説得するように命令を受けていたのに、その説得をしなかつた旨
主張するが、同被控訴人らが当該生徒の説得に当つたことは、前認定のとおりであ
る。
又、報道関係者が生徒の受験拒否行動の取材に集つた際、被控訴人Fは、生徒に対
し、前認定のとおり、「帽子を深くかぶれ。胸の名札をとれ。」などと言つている
が、その発言のなされた経緯からみて、これが生徒に受験拒否を扇動するものでな
いことは明らかである。
更に、控訴人は、被控訴人Fが第二時限以降生徒に対し、「自分の意思どおりや
れ。」と申し向けた旨主張するが、これを認めるに足る証拠はない。
(6)、同月二四日の違反行為について
(イ)、被控訴人Aの職場会開催の主張については、前記(5)の(イ)と同様で
あつて、同被控訴人が誘導を行つた事実は認められるけれども、これをもつて違法
となすことはできない。
(ロ)、又、控訴人は、被控訴人Fが、同日の職員朝礼において、H校長に対し、
市教委O主事らが受験拒否生徒の家庭を訪問して正常に受験するように説得した行
為を執ように非難し、同主事を同朝礼の場に呼んで事情を聴くことを要求して譲ら
なかつた旨主張するが、右職員朝礼の情況は前認定のとおりである。
従つて、右職員朝礼での同被控訴人の行為は、前記(5)の(ロ)の場合と同様に
職務専念義務に違反するものである。
(ハ)、更に、控訴人は、被控訴人Fが、第一時限に担任の三年七組の教室におい
て生徒に対し、「学力調査を受けるかどうかは生徒が自分で判断すべきことであ
る。」と発言して受験拒否をそそのかした旨主張する。
前掲乙第七号証の五によると、同日同被控訴人が、「こうなつたら仕様がない。
自分の意思どおりやつてくれ。」と言つた事実が認められる。しかしながら、これ
は、同被控訴人が生徒に対し説得の意思は持ちながらも既に説得不可能と見てあき
らめの言葉を出したものと認められ、前掲各証拠によると、客観的に見ても尋常一
様の説得では生徒の受験拒否をやめさせることは困難であつたと認められるから、
受験拒否をそそのかしたものとは言えない。その他、原審証人Kの証言(第一回)
のうち右控訴人の主張に添う供述はにわかに措信し難く、他に右主張を認めるに足
る証拠はない。
三、被控訴人Cに対する処分事由の存否について
(一)、生徒に対する本件学力調査受験拒否の扇動について
(1)、成立に争いのない乙第二一号証、第二二号証の一、二、原審(第一、二
回)及び当審証人Xの証言によつて真正に成立したものと認められる乙第八、第一
〇号証、第一九、第二〇号証の各一及び第五九号証の一ないし四、原審証人Yの証
言によつて真正に成立したものと認められる乙第二三号証、右証人X、同Y、原審
証人Z及び同P1の各証言、原審及び当審における被控訴人C本人尋問の結果(但
し、いずれも後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次
の事実が認められる。
(イ)、本件学力調査の実施された昭和三九年六月二三、二四日の両日、橘町立安
下庄中学校では、三年生は本件学力調査を異常なく受験したのに、二年生の中には
教室外に出てその受験を拒否したり、白紙答案や無記名答案を提出したりした者が
あつた。その各学級における受験状況の概要は原判決添付別表第二記載のとおりで
ある。
(ロ)、被控訴人Cは、昭和三六年以来学力調査の実施に強く反対していたことは
前記のとおりであり、殊に、県教組大島支部書記長としてその態度を公然と表明
し、保護者らとの懇談会をもつたり、ビラ配付やステツカー張りをするなどして積
極的に学力調査反対の活動をして来た。なお、本件学力調査実施当時、安下庄中学
校における県教組組合員の教師は、病気休職中の一名を除いて、被控訴人Cだけで
あつた。
(ハ)、同被控訴人は、昭和三九年四月から二年五組の学級担任をし、かつ、第二
学年の国語の授業を担当していたものであるが、本件学力調査実施前のホームルー
ムや授業時間等において、生徒から学力調査に関する質問を受け、次のとおり答え
た。
(a)、どういう形式の問題なのかという問に対し、「四つか五つ答が用意されて
いて、その中の正しいものに丸をつけるんですよ。すべてと言つていいくらいそれ
ですよ。」と、「それじやまぐれで四つか五つに一つ当るではないか。」との間に
対し、「それはそのとおりです。」と、更に、「知らんでもどこかへ丸をつけた方
が得ですね。」との間に対し、「テストの点数から言えばそういうことになるでし
ようね。」と答えた。
(b)、学力調査について違法判決が出ているのではないかとの間に対し、「違法
の判決も出ているし合法の判決も出ている。しかも、これは最終審ではないので、
それでもつて違法だということはできないと思います。しかし、学校というところ
はみんなのように選挙権のない人達にこつちの思うことを押しつけるところなの
で、合法の判決も出ているし違法の判決も出てるようなことについては、私はみん
なに押しつけるのはどうかと思う。」と答えた。
(c)、成績と関係があるかとの間に対し、「みんなの成績とは関係はありませ
ん。ただ、みんなの勉強の結果なんかを書きとめておく指導要録というのがあつ
て、それに書き込ませるということが未定なんだ。もし書き込ませるということに
なれば、出てる数字だからすぐ書き込める。」と、次いで、「それは何にするの
か。」との間に対し、「それは例えば君達が高校を受ける場合には、その写しが高
校に行くんですよ。」と答えた。
(d)、学力調査の目的は何かという問に対し、文部省のいう教育課程に関する方
策の樹立と学習指導の改善に役立てる資料とし、教育条件の整備にも利用するとい
う目的について話をし、そのあとで、自分としては文部省のいうようなことは無理
に学力調査をやらないでも分かるように思う旨の意見も話した。
(e)、「このテストに対してどうすれば良いか。」とか、「白紙で出したらどう
なるのか。」という質問に対し、「私はそれに答える立場にはありません。」と述
べた。
(二)、同被控訴人は、教師となつて以来、生徒から提出される日記を通して生徒
と教師との対話等をはかるといういわゆる日記指導を採用して来たものであるが、
本件学力調査に関して書かれた生徒の日記についても同様に日記指導を行つた。
(ホ)、本件学力調査第一日目第三時限に受験を拒否して運動場に出ていた女子生
徒一五名を教員室に集めてX校長及びP2教頭が運動場に出た理由を尋ねたとこ
ろ、その生徒の中には、「学力テストは文部省が無理矢理やらすから。」、「進学
や就職に影響するから。」、「テストをやると順番をつけるから。」、「答案を返
してもらえないから無意味だ。」、「学力テストではマルバツ式だから学力がよく
分からない。」と主張する者があつた。
(ヘ)、同被控訴人は、本件学力調査実施の数日前、担任生徒のGの家庭を訪問
し、同人に対し、本件学力調査を受験するように言つた。
以上のとおり認められる。そして、以上の事実を総合すると、同被控訴人は、本件
学力調査反対の一方法として、生徒に対し、学力調査の非合理的側面をことさら強
調して、暗に本件学力調査の受験を拒否するように働きかけをしたのではないかと
いう疑問も起きないではない。
(2)、しかしながら、昭和三六年以来、学力調査に関する問題が書籍や全国紙の
論説、記事等として取り上げられて来ており、殊に、本件学力調査の実施が近付い
たころに学力調査を違法とする下級審の判決のあつたことや学力調査の幣害を指摘
する学力調査学術調査団の調査報告が報道機関によつて報道されたこと、白紙答案
等は他の学校でも見られたこと及び日教組、県教組が学力調査反対闘争によつて処
分を受けないようにするため、最終的には職務命令に従つて学力調査を実施する、
学力調査反対闘争に生徒を巻き込まないとの方針を昭和三七年からとつて来たこと
は、前認定のとおりである。
更に、前掲甲第一一号証、乙第八、第一〇、第二三号証、原審(第一、二回)及び
当審証人X、原審証人Y、同Z及び同P1の各証言、原審及び当審における被控訴
人C本人尋問の各結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(イ)、被控訴人Cは、昭和三六年の学力調査発足以来、学力調査に反対していた
ためにそのテスト担当者を命ぜられておらず、本件学力調査についても昭和三九年
六月一七日ごろP2教頭からテスト担当者にしない意向を伝えられ、同被控訴人の
了解を求められたので、これを承諾した。しかしながら、同被控訴人は、二年五組
の学級担任であるから、X校長が全校生徒に本件学力調査の実施を告げてその際の
注意事項を訓示した同月二二日には、ホームルームにおいて生徒にその趣旨を伝達
し、又、本件学力調査実施第一日目の朝のホームルームにおいても、机の配置をこ
れまでの班ごとの並べ方から試験のときの配列である名簿順の並べ方になおさせ、
かつ、担当者の指示に従つて学力調査を受けるように指示した。
(ロ)、本件学力調査の受験を拒否したり、白紙答案を提出したりした二年五組の
生徒の中には、学力調査の問題について家族の者から話を聞いたり、前記学力調査
違法判決や学力調査学術調査団の調査報告の各新聞報道を読んだりして、学力調査
を受験することに抵抗感を持ち、同級生あるいは他学級の友人と話合いをしたりし
た者があつた。殊に被控訴人Cのクラスでは、本件学力調査の数日前同被控訴人が
他学級の授業参観に行つたため自習となつたとき、生徒が学力調査の功罪をめぐつ
て討議し、これを受験するか否かは各人が決めるべきことであつて、この場でどつ
ちらかに意思統一なすべき問題ではないとの結論を出していた。又、本件学力調査
実施直前には、他の学級でも生徒から学力調査について担任教師に質問があつた。
(ハ)、本件学力調査第一日目の第三時限に女子生徒が一五名も教室外に出て受験
を拒否したが、当該拒否生徒は、第三時限開始前の休み時間に受験状況について話
をしていたとき、ある生徒が答案用紙に氏名を書かなかつたために担当の教師から
殴られたといううわさを聞いて憤りを感じ、もともと学力調査に抵抗感ないし反感
を持つていたので、そのまま教室に入らず、第三時限の学力調査の受験を拒否し
た。
以上のとおり認められる。そして、以上の(1)、(2)の各事実と中学二、三年
生の持つ不安定性や感受性の強い特性を併せ考えると、被控訴人Cの言動が生徒の
本件学力調査拒否行動に影響を及ぼした面のあることは否定できないけれども、そ
れ以外にも多くの要因が考えられるのであつて、同被控訴人が、生徒に対し、本件
学力調査の違法性を強調し、もしくはその他の方法でその受験拒否を故意に教唆扇
動したものと認めることはできないものというべきである。
前掲乙第一〇号証、第一九号証の二、第二〇号証の一及び第二三号証並びに原審
(第一、二回)及び当審証人Xの各証言のうち、被控訴人Cが生徒に対して本件学
力調査の受験拒否を教唆扇動したものとする趣旨の部分は、にわかに措信し難く、
他にこれを認めるに足る証拠はない。
(二)、事後指導の職務命令違反について
当審証人Xの証言によつて真正に成立したものと認められる乙第九号証、原審(第
一、二回)及び当審証人Xの各証言並びに原審及び当審における被控訴人C本人尋
問の各結果(但し、後記措信しない部分を除く。)によると、次の事実が認められ
る。
X校長は、昭和三九年八月二七日、被控訴人Cに対し、担任の二年五組の生徒が本
件学力調査の受験を拒否したことに関し、当該生徒に対して学力調査に反対してと
つた行動が誤つていたことを同年九月一日から事後指導するように話した。これに
対し、同被控訴人は、生徒の行動が誤りであると決めつけることはできないし、自
分自身学力調査を正しくないものと考えるので、同校長の言うことが要望であれば
それに従わない旨答えた。そこで、同校長は、同被控訴人に対し、同校長の言うよ
うに指導すべき旨の職務命令を出すと告げたところ、同被控訴人は、職務命令であ
れば従うが、生徒には校長から右命令を受けたことを伝えたうえでこれを実行する
旨述べた。しかし、同校長は、そのような前置きをつけるのはかえつて生徒を混乱
させるし、教師がその内容を正しいものとして指導するのでなければ真の指導とは
言えないから、その前置きを除いて無条件で指導する
うに命じたところ、同被控訴人は、そのような事後指導はできないとしてこれを拒
否した。その結果、X校長は、同年九月一日付をもつて同被控訴人を二年五組の学
級担任からはずすという年度途中の異例な措置を採つた。
以上のとおり認定することができ、右認定事実によると、同被控訴人は、生徒の本
件学力調査反対の行動が誤りであつたことを昭和三九年九月一日以降生徒に指導す
べき旨の職務命令をX校長から受け、かつ、その実行に際しては、校長から命令を
受けたのでその命令に従つて指導を行う旨の前置きをつけないで実行するように命
ぜられたが、これを拒否して同校長の命じた内容の事後指導を行わなかつたものと
いうべきである。同被控訴人本人尋問の結果のうち、同校長の職務命令は結局出さ
れなかつた旨の部分は、採用することができない。
同被控訴人は、生徒指導については、校長は教師に行政的指揮命令はなし得ない旨
主張する。しかしながら、教師に教授方法の自由が一定の範囲であることは認めら
れるとしても、その自由は、普通教育の水準を保持し、かつ、学校の秩序を維持す
るために当然ある程度の制約を受けるものと解すべきである。そして、本件学力調
査が適法なものである以上、本件学力調査の受験を拒否した生徒に対し、その点の
事後指導を行うべき旨を命じたX校長の職務命令も、もとより適法有効なものとい
うべきである。
(三)、日記指導について
成立に争いのない乙第二一号証、第二二号証の一、二、原審証人Xの証言(第一
回)、原審における被控訴人C本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除
く。)によると、次の事実が認められる。
被控訴人Cは、昭和三八年ころから、担任の組の生徒を数班に分け、生徒自身が班
目標を設定し、その目標達成のために班内で相互に助け合い、批判し合つてその全
体的向上を図り、教師はこれに指導助言をし、集団を高めることで自分も高まると
いう内容の集団主義教育を取り入れ、これを実践して来た。又、同被控訴人は、そ
れ以前から、担任の生徒又は以前担任であつた生徒に毎日、日記を書いて提出さ
せ、これに批評又は感想を書いて返す方法を採用し、その目的を国語指導と称して
いたが、その実質は国語の正確な記述や叙述の指導にあるのではなく、生徒との心
の触合いを求め、人生、社会の一般的事象に対する感じ方、考え方そのものを指導
することを目的とするもののようである。そして、同被控訴人自身控訴人指摘の極
端な革新思想の持主であるか否か断じ難いが、何らかの社会的変革を希求してお
り、その日記指導においてそのような自分の思考を生徒に顕示したところがあり、
特定の政党の支持や階級闘争的思想を植え付けようとしたところまではいえない
が、その日記指導は、学校教育法三六条三号の「公正な判断力を養うこと」という
中学校教育の目標に反するところがある。
原審及び当審における同被控訴人本人尋問の結果のうち右認定に反する供述は採用
できない。
それ故、同被控訴人の日記指導の行為は、教育基本法六条二項(地方公務員法三〇
条との関係は、一般法と特別法の関係にあるものと解する。)に違反し、全体の奉
仕者としての教員の指導方法として適切を欠くものというべきである。
(四)、事前指導の欠如について
原審における被控訴人C本人尋問の結果によると、同被控訴人は、二年一組の生徒
から授業時間中に本件学力調査の受験拒否についての意見を求められたときに、
「自分はそれに答える立場にない。
」旨応答したことが認められ、この事実に、弁論の全趣旨により真正に成立したも
のと認められる乙第一九号証の一、二、前記乙第二一号証の六月二一日及び同月二
三日の記載部分を総合すると、同被控訴人は、生徒の間に本件学力調査受験拒否の
動きのあることを事前に知りながら、これに協力したとまではいえないにしても、
前認定のとおりわずか一名の女生徒(G)の自宅を訪問して受験するようにすすめ
たのみで、しかも、右Gは保守系の橘町長の子で、その母は同被控訴人の立場から
警戒を要する人物であつたのであり、他にこれを阻止すべき何らの適切な処置を講
じなかつたことが認められ、原審証人Z及び同P1の証言もこの認定を覆すに足ら
ず、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。そして、橘町教育委員会の本件学
力調査を行うべき旨の命令はもとより同被控訴人にも及ぶものであるから、同被控
訴人の右事前指導を怠つた行為は、地方教育行政法四三条二項に違反するものであ
る。
四、被控訴人Dに対するその他の処分事由の存否について
(一) 同被控訴人が、昭和三八年度に担任した三年六組の生徒の指導要録を昭和
三九年三月二六日までに校長に提出しなければならないのに、昭和四〇年三月三日
になつてこれを提出したこと及びその指導要録のうち山口県立高等学校進学者一九
名中一二名のものの記載内容と、同被控訴人が昭和三九年四月に作成して当該各高
等学校に送付した指導要録の抄本と称するものの記載内容との間に、原判決添付別
表第三記載のとおり不一致がある事実は、当事者間に争いがない。右事実による
と、同被控訴人は、指導要録の作成に関し職務上の義務に違反し、職務を怠つたも
のというべきである。
(二)、無断欠勤について
(1)、同被控訴人が、昭和三九年七月七日午後、沖縄解放国民大行進に参加する
ため職場を離れたことについては、当事者間に争いがない。そして、成立に争いの
ない甲第一七号証、原審証人Jの証言(第一回)並びに原審及び当審における同被
控訴人本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く。)によると、次の事実
が認められる。
J教頭は、同日午前中、同被控訴人から同日午後組合の執行業務で外出する旨の申
出を受け、当時厚南中学校では県教組宇部支部執行委員の教員が組合の執行業務に
従事するときは、午後の勤務時間に限り休暇の手続によらないで勤務を離れること
を認める取扱いにしていたので、その申出を承認した。しかしながら、同教頭は、
同日沖縄解放国民大行進が同校地区を通過することを思い出して、同被控訴人に同
行進参加のための外出であることを確かめたうえ、それが後日問題となることを配
慮して、右承認を撤回して、休暇願を提出したうえで参加するように要求した。こ
れに対し、同被控訴人は、同行進には県教組宇部支部執行委員として参加するので
あるから、休暇願を出す必要はない旨主張して同教頭の要求を拒否し、休暇願を提
出せずに右行進に参加し、もつて同教頭の承認のないまま職場を離れた。
以上のとおり認められ、甲第一七号証の記載並びに原審及び当審における同被控訴
人本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足
る証拠はない。
ところで、厚南中学校において認められていた右の取扱いの対象となる組合の執行
業務とは、それに従事しても休暇の取扱いをしないというものであるから、特段の
事情がない限り、組合員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し当該地方公共団
体の当局と交渉することに関連のある業務でなければならないものと解するのが相
当である。従つて、前記沖縄解放国民大行進に参加することは右にいう組合の執行
業務でないことが明らかであるから、結局、同被控訴人は、J教頭の承認もなく又
休暇の手続もとらないで職場を離れたものというべきである。
(2)、同被控訴人は、昭和四〇年一月一三日、E校長に対し、同月一四日から同
月一七日まで開催された日教組教育研究集会に出席するため、同月一四日及び同月
一六日について特別休暇の申請をした。これに対し、同校長は、市教委の方針及び
校長会の申合せを理由に右申請を承認せず、年次有給休暇であれば差支えないとし
てその手続をとるように求めた。しかるに、同被控訴人は、「あくまでも特別休暇
で行く。後の交渉は組合に任せる。」と言つて、同校長の要求する手続をとらない
で右集会に参加し、右両日学校に出勤しなかつた。以上の事実については、当事者
間に争いがない。
ところで、右事実によると、同被控訴人の申請は、特別休暇承認申請であつて、予
備的にせよ年次有給休暇届出の趣旨をも含むものとは解されないところ、E校長
は、同被控訴人の右申請を拒否したものであり、同被控訴人が前記研究集会参加の
ため職場を離れたことは違法であるといわなければならない。
同被控訴人は、日教組による教育研究集会参加が出張扱いにされること又は特別休
暇によることが慣行となつていた旨主張する。しかしながら、成立に争いのない甲
第一七号証、当審証大P3、原審証人J(第一、二回)、同K(第一、二回)の各
証言及び原審における被控訴人B本人尋問の結果を総合すると、過去において右被
控訴人Dの主張するような取扱いのなされたことがあるが、それが慣行として公務
員たる教職員の勤務関係を規律するまでに至つていたものではないことが認められ
る。又、同被控訴人は、E校長が同被控訴人につき右両日を年次有給休暇扱いとし
た旨主張するが、右主張に添う甲第二〇号証の記載は、原審証人Eの証言に照らし
て措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
(3)、同被控訴人が、E校長に事前の届出をしないで、昭和四〇年二月三日佐世
保市で行われた原子力潜水艦入港反対デモに参加し、同日勤務場所を離れたこと
は、当事者間に争いがない。
ところで、同被控訴人は、右デモ参加に際しては事前に年次有給休暇の届出をする
時間的余裕がなかつたので、P4講師にその旨校長への連絡をしておいてくれるよ
う依頼しておいたし、事後にその届出をして承認を受けているから無断欠勤ではな
い旨主張する。しかしながら、原審証人Eの証言によつて真正に成立したものと認
められる乙第四〇号証、同証人及び原審証人J(第一回)の各証言並びに原審及び
当審における被控訴人D本人尋問の結果(但し、いずれも後記措信しない部分を除
く。)によると、次の事実が認められる。
被控訴人Dは、昭和四〇年二月二日午前中、数学の問題のプリントを作成していた
とき、同僚のP4講師からその問題を使用させて欲しい旨依頼されたので、これを
承諾したが、その際同講師に対し、翌三日は佐世保に行くかも知れないから、その
ときは生徒に右問題をやらしておいて欲しい旨依頼した。それに対し、P4講師
は、補教を付けてもらわないとできない旨答えた。そして、同被控訴人は、同日午
後一一時ころ佐世保に向けて出発した。翌三日、E校長は、職員朝礼に同被控訴人
の姿が見えなかつたので不出勤の連絡の有無を調べたが、その届けを受けた者はい
なかつた。そのため、同校長は、同日の同被控訴人の担当教料について補教を割り
当てる手当てをした。そして、第二時限になつて、J教頭は、P4講師から同被控
訴人が佐世保に行つたらしいとの報告を受けた。そこで、J教頭は、翌四日、同被
控訴人に対し前日欠勤した理由を尋ねたところ、同被控訴人は、佐世保に行つたこ
と及び他の教師に話していたから校長や教頭に分かつているものと思つた旨答え、
かつ、年次有給休暇願を出すことを約した。しかしながら、右願出の書面は同月一
三日になつて提出された。このような経緯から、E校長は、年次有給休暇につき従
来いわゆる事後承認をする例はあつたが、同被控訴人の場合については事後承認を
しなかつた。
以上のとおり認められ、甲第一七号証並びに原審及び当審における被控訴人D本人
尋問の結果のうち右認定に反する部分は措信し難く、甲第二〇号証も右認定を妨げ
るものではなく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
そして、右認定事実によれば、同被控訴人は、事前に年次有給休暇の届出をする時
間的会裕があつたのにその手続をしないで佐世保に行つたものであり、又、これに
ついて事後の承認もないし、かつ、事後承認の認められるやむをえない場合にも該
当しないというべきであるから、結局、無断で勤務場所を離れたものというべきで
ある。
第三、控訴人が本件処分の決定に当つて考慮した事情について
一、被控訴人らに共通する事情
前認定の生徒の本件学力調査拒否の事実関係によれば、控訴人主張の(1)の「教
育効果の破壊」の事実を認めることができる。又、成立に争いのない乙第五三、第
五四号証の一、二、第五五ないし第五七号証、当審証人Jの証言に前認定の本件学
力調査受験拒否の事実を総合すれば、(2)の「本件学力調査の結果利用に対する
阻害」の事実を認めることができる。更に、当審証人Xの証言によつて真正に成立
したものと認められる乙第一〇号証、成立に争いのない乙第一七、第四六、第四七
号証によれば、(3)の「世論の動向」が控訴人主張のとおりであることが認めら
れる。
二、被控訴人Cを除くその余の被控訴人らに共通する事情
(一)、H校長の自殺
厚南中学校長Hが昭和三九年九月一七日自殺したことは当事者間に争いがない。そ
して、原審証人Kの証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第五
号証の二、第六号証の三、同証人並びに原審(第一回)及び当審証人Jの各証言に
よると、同校長が同校生徒による本件学力調査拒否事件について責任を感じ、か
つ、控訴人と被控訴人Cを除くその余の被控訴人らを含む同校教職員らとの間にあ
つて板ばさみの状態となり、事態を苦慮する余り自殺するに至つたことが推認され
る。しかしながら、同校長の死亡の事実は、まことに同情を禁じ得ないことではあ
るが、それ自体誰しも予想し得ない異常な出来事であり、それを右被控訴人らの行
動と結びつけて考慮するのは早計で、それについて被控訴人らを問責すべきものと
は考えられないので右自殺の事実をもつて右被控訴人らの懲戒処分決定に当りしん
しやくすべき事情となすことは相当でない。
(二)、控訴人は、被控訴人Cを除くその余の被控訴人らが一連の服務上の義務違
反行為をなすに当つて、常に主導的立場に立ち他の組合員を指導した旨主張する。
しかしながら、この点は、本件においては、同被控訴人らがどのような義務違反行
為を行つたかという問題に還元され、むしろ、同被控訴人らの個々の義務違反行為
の態様として認定すべき事柄であるから、このような概括的なやり方で独立の事情
として取り上げるのは相当でない。
(三)、控訴人は、被控訴人Cを除くその余の被控訴人らが、本件学力調査第一日
目が終つた後宇部市教委において本件学力調査の中止を求めるのみで、拒否生徒の
家庭訪問をするなどして正常に受験させるように適切な手段を講じなかつた旨主張
する。
原審証人Kの証言(第一回)によると、成程右被控訴人らが本件学力調査の第一日
目が終了した後、同日午後四時半ころから午度一一時ころまで市教委の当局者らと
翌日の学力調査の中止を要求して交渉をした事実が認められる。しかしながら、当
日学力調査担当者でなかつた被控訴人Dはもとより、被控訴人F、同B及び同Aに
しても、同日の学力調査終了後のホームルームの時間において生徒に対し翌日の学
力調査を正常に受験するよう命ずべき義務があるのは格別、更に、拒否生徒の家庭
訪問までして正常に受験させる手段を講ずベき職務上の義務があるものと解するの
は相当でない。従つて、この点も本件懲戒処分に当つて特に考慮すべき事情とはい
い難い。
三、被控訴人D、同A及び同Bに共通する事情
成立に争いのない甲第二〇号証、原審証人Jの証言(第一回)、原審における被控
訴人D及び同A本人尋問の各結果によると、厚南中学校においては、教職員は毎日
出勤簿に押印すべき制度になつていたのにかかわらず、被控訴人Dは昭和三九年五
月中旬以降、同Aは同年一〇月ころ以降いずれも出勤簿に押印せず、又、被控訴人
Bも出勤簿の押印状況が不充分であつたことが認められる。
四、被控訴人F及び同Dに共通する事情
原審証人Kの証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第四四号証
の一ないし三、同証人及び原審証人Jの各証言(いずれも第一回)並びに弁論の全
趣旨によると、右被控訴人両名は、昭和三九年五月六日、宇部市教委から同年二月
二七日の定員闘争の統一行動に参加するため無断で職場を離れたことを理由に訓告
処分を受けたことが認められる。しかしながら、右J証人の証言及び原審における
被控訴人F本人尋問の結果によると、この問題については、H校長と右被控訴人両
名を含む被処分者一同との間に意思の疎通を欠きき、右被控訴人らは同校長が同日
の有給休暇を了承したものと誤解して定員闘争の統一行動に参加したものであつ
て、違法であることの認識を欠いていたことが認められる。それ故、この事実も同
被控訴人らの懲戒処分を決定するに当つて考慮するのは相当でない。
五、被控訴人F及び同Aに共通する事情
成立に争いのない乙第四二号証の一ないし三によると、被控訴人F及び同Aが、昭
和三七年一月一二日付で昭和三六年度全国中学校学力調査のテスト担当の職務命令
を拒否し、戒告処分を受けたことが認められる。
右被控訴人らは、その後昭和四一年六月三〇日控訴人との間で、同被控訴人らが右
戒告処分を受けたことをもつて同被控訴人らを人事面で不利益に取り扱わない旨の
和解が成立した旨主張する。しかしながら、成立に争いのない甲第三八号証による
と、右被控訴人ら主張の和解が成立しているが、右和解の効力はもつぱらその時点
以後に生ずるものであつて、既往にさかのぼるものではないと認められるから、右
和解の合意は、右被控訴人らの本件懲戒処分の適法性、妥当性を考慮するに当つて
何ら影響を及ぼさないものである。従つて、控訴人が、右被控訴人らに対する本件
懲戒処分の決定に当つて前記戒告処分の存在を考慮したとしても、不当とはいえな
い。
六、被控訴人Fに関する事情
(一)、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められから真正
な公文書と推定すべき乙第四三号証の一、二によると、被控訴人Fは、昭和三四年
一月二四日、昭和三三年九月一五日及び同年一〇月二八日の両日勤務評定反対闘争
に参加するため無断で職場を離れたことを理由に訓告処分を受けたことが認められ
る。
(二)、控訴人の、被控訴人Fが昭和三六年一一月下旬の生徒朝会において京都市
旭ケ丘中学校における学力調査拒否行動を称賛したとの主張については、これを認
めるに足る証拠は存しない。
(三)、前認定事実によると、被控訴人Fの本件学力調査第二日目の職員朝礼にお
ける服務上の義務違反行為のため職員朝礼が長びき、生徒が運動場に出るきつかけ
を与えたことが認められる。
(四)、原審証人Kの証言(第一回)によつて真正に成立したものと認められる乙
第七号証の三、四及び弁論の全趣旨によると、被控訴人Fが本件学力調査実施後担
任の三年七組の生徒に対し、他の中学校の生徒から送られて来た学力調査反対行動
を称賛する手紙を読んで聞かせた事実が認められる。
七、被控訴人Dに関する事情
(一)、原審証人Jの証言(第一回)及び当審における被控訴人D本人尋問の結果
(後記措信しない部分を除く。)によると、同被控訴人は、昭和三八年度全国中学
校学力調査において、担任の三年六組の生徒の答案に白紙が非常に多かつたのに、
これに対して何ら適切な指導をしなかつた事実が認められ、同本人尋問の結果のう
ち右認定に反する部分は措信し難い。
(二)、成立に争いのない乙第四五号証、原審証人Kの証言(第一回)によると、
同被控訴人が、昭和三九年四月四日市教委と県教組宇部支部との団体交渉にかなり
の酒気を帯びて参加し、当局者に対して非礼なことを怒鳴りちらし退場を命ぜられ
た事実が認められる。
(三)、控訴人は、同被控訴人が昭和三九年六月二〇日の職員朝礼においてH校長
が職務命令書を配付した行為に抗議した事実を、同被控訴人に関する事情として取
り上げているが、同被控訴人の右行為は、既に前記第二の二の(三)の(3)の
(イ)において、同被控訴人の服務上の義務違反行為として説示したところである
から、重ねて問責するのは相当でない。
八、被控訴人Aに関する事情
控訴人は、被控訴人Aが本件学力調査実施直後の昭和三九年六月二七日県教組宇部
支部代議員会において、厚南中学校における生徒の受験拒否を学力調査反対闘争の
成果として報告した旨主張するが、右主張に添う乙第一三号証の記載及び当審証人
Jの証言はにわかに措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。
九、被控訴人Bに関する事情
(一)、原審証人Mの証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一四号証
によると、被控訴人Bは、本件学力調査第一日目のテスト開始前の職場会におい
て、「職務命令が出た以上やらないわけにはいかないが、すれすれの線までがんば
り、できるだけ開始の時刻を延ばそう。」と提案した事実が認められる。
(二)、又、右職場会終了後の職員朝礼における前記服務上の義務違反行為のため
職員朝礼を長びかせ、生徒に対し拒否行動に出るきつかけを与えるに至つたこと
は、前認定のとおりである。
一〇、被控訴人Cに関する事情
(一)、原審証人Xの証言(第一回)によると、被控訴人Cは、安下庄中学校長X
が各教師の指導の進度を知るために必要であると考えて、昭和三九年度において教
案の提出を命じたのにかかわらず、教育の国家統制につながるとして命令を拒否し
て教案を提出しなかつた事実が認められる。同被控訴人は、教案の提出は義務付け
られていない旨主張するが、校長がその教育課程管理上の権限に基づき、教師に対
して教案の提出を命ずることは相当であり、教師はこれに従うべきものである。
(二) 当審証人Xの証言により真正に成立したものと認められる乙第八号証、原
審証人X(第一回)及び同Pの各証言によると、被控訴人Cには、その性格よりは
むしろ思想信条に由来するものであろうが、上司や同僚に対して反抗的態度をとつ
たり協調性を欠く言動があつたことが認められる。もとより、思想信条の自由は教
職員にも保障されているけれども無制約とは解されないから、思想信条のためとは
いえ上司に反抗的態度をとつたり、同僚と協調性を欠いたりしたのでは職場の秩序
の保持は困難であるから、この点を同被控訴人の懲戒処分の決定に当つて考慮する
ことは正当である。
第四、本件学力調査の適法性について
被控訴人らは、全国中学校学力調査は、教育基本法一〇条一項の禁ずる「不当な支
配」に該当する違法なものであつて、生徒には本件学力調査を受験しなければなら
ない義務はないから、本件懲戒処分のうち生徒の学力調査受験拒否を理由とするも
のは、その基礎を失う旨並びに仮に全国中学校学力調査が適法であるとしても、生
徒に不参加の自由が保障されるべきものであるから結局右と同一の結論となる旨主
張するので、この点について検討する。
成立に争いのない乙第一ないし第四号証によると、本件学力調査は、「義務教育の
最終段階である中学校第二学年及び第三学年の全生徒の国語、社会、数学、理科及
び英語についての学力の実態をとらえ、教育課程に関する方策の樹立、学習指導の
改善に役立てる資料とする。なお、調査の結果は、教育条件の整備にも利用するも
のとする。」との目的のもとに前記のような方法で行われたものであることが認め
られる。そして、学校教育行政機関がその職務を行うために生徒の学力の実態をと
らえる一手段として学力調査を行うことが有益であり、かつ、必要でもあること
は、もとより当然の事柄である。そして、その調査が全国一せいに同一の問題で行
われたとしても、それは調査技術上の問題であつて、そのことから直ちに教育統制
を企図するものであるということはできない。成程、教育は単なる知識や技術の伝
達ではなく、教師と生徒との人格的な触合いを通じて個別的にかつ創造的に行われ
なければならないものであるから、ある程度の自主性を持つべきものではあるが、
その反面、特に公教育においてはは、その内容において全国的に共通の地盤に立つ
た画一性を持つものでなくてはならない。又、本件学力調査は教育活動そのものと
は言えない。ただ、本件学力調査が授業計画の変更を伴うことは必然的であり、そ
れに関連して、本件学力調査は調査としての性質上通常の試験の場合と異なり生徒
の学習効果を全く意図しないものであるから、このような学力調査が一年のうち二
日間にわたつて平常の授業を犠牲として行われることは、生徒の学習する権利に影
響を与えるものである。更に、成立に争いのない甲第一ないし第三号号証、第五、
第六号証によると、学力調査が、一部地域で学校間、地域間の成績競争をもたら
し、ある程度の弊害を招いている事実も認められる。しかしながら、前記学力調査
の有益性及び必要性をもつてすれば、右の諸点を正当化することができないものと
は言えない。結論として、本件学力調査は、妥当性の問題は残るとしても、被控訴
人主張のように教育基本法一〇条一項にいう教育に対する「不当な支配」に該当す
る違法なものとは言えない。
又、これまで認定したところによれば、本件学力調査は通常中学校で行われる学期
試験と比較して生徒に通常予測されない異常な肉体的精神的負担を課するものとも
認められないから、生徒に不参加の自由を保障すべきものとも解されない。
第五、本件懲戒処分の適法性について
地方公務員に対する懲戒処分としては、戒告、減給、停職及び免職が規定されてお
り、その種類、程度の決定は処分権者の裁量に任されているが、懲戒処分が、被処
分者の当該処分事由たる行為の内容、程度その他諸般の事情を考慮して社会通念上
著しく妥当性を欠く場合には、裁量権の範囲を超えたものとして違法となるものと
言わなければならない。以下、本件各被控訴人の懲戒処分について検討する。
一、被控訴人Cを除くその余の被控訴人に対する本件懲戒処分について
(一)、右被控訴人らが、生徒の本件学力調査の受験拒否を教唆扇動したものでな
いことは前認定のとおりである。しかしながら、同被控訴人らの一連の職務上の義
務違反行為が、かねて本件学力調査に疑問を抱いていた一部の生徒に受験拒否の直
接行動に踏み切る原因を与えたこともまた前認定のとおりである。そして、その結
果は、学園に異常な混乱を招き、学校及び教育委員会の関係者に多大の心痛を与
え、かつ、生徒の父兄を始め地域住民にも甚大な衝撃を与え、その社会に及ぼした
影響は重大であつたといわなければならない。
(二) しかしながら、このような事態を招いた責任がすべて右被控訴人らにある
と速断するのも相当でない。まず、昭和三九年六月二〇日及び同月二二日の両日、
漫然右被控訴人らを中心とする組合員らとの団体交渉に応じ、あるいは、さしたる
結論の得られそうにもない職員会議を長時間にわたつて継続し、本件学力調査前の
二日間にわたつて多数の生徒に終日自習することを余儀なくさせ、更に、本件学力
調査当日である同月二三日及び二四日の両日職員朝礼を長びかして学力調査開始時
刻を遅延させるに至つたH校長にも管理者としての決断に欠け、混乱の責任がある
ことを否定し得ない。又、控訴代理人が指摘するように厚南中学校を「組合管理」
ともいうべき状態(昭和四八年九月二七日付準備書面三の(二))に置いてなす術
のなかつた宇部市教委及び控訴人には責任が果して無かつたであろうか。次に、昭
和三六年の闘争以来被控訴人らに同調し協力した厚南中学校の多数教職員(主とし
て組合員)にも相当の責任のあることを指摘してよいであろう。
(三)、被控訴人Fについては、前記認定諸事実に徴し次のとおり認められる。同
被控訴人は、厚南中学校組合員中の先輩として重きをなしていたが、本件学力調査
当時、同中学校組合幹部の主流は既に同被控訴人より若い年代に属する被控訴人
D、同A及び同Bらに移り、被控訴人Fは必ずしもこれら三名の者よりも主導的立
場で行動したものではなく、又、同月二〇日には欠勤して当日の行動には参加して
いない。
(四)、被控訴人Dは、同月二二日には欠勤して当日の行動には参加していない
が、そのほかの日における義務違反の行動に際してはかなり主導的に行動してい
る。そして、同被控訴人のその余の処分事由と併せ考えると、同被控訴人が組合運
動に熱中する余り規則を無視し奔放な行動をとつていたことが看取される。しかし
ながら、同被控訴人の当時の年令(昭和三九年当時二六才位)に徴すれは、しやく
量の余地が全然無い訳ではなく、更に、同被控訴人には、前記昭和三九年五月六日
付の訓告処分を除き、これまで処分歴もない。
(五)、以上(一)ないし(四)の諸事実を総合し、かつ、免職処分が被処分者に
重大な結果を与えるものであることにかんがみると、被控訴人F及び同Dに対する
本件免職処分は、控訴人主張の諸事情(当裁判所が考慮するのを相当と認めたもの
に限る。)を考慮しても余りに過酷に失し、社会通念上著しく妥当性を欠くものと
認められ、むしろ相当長期の停職処分をもつて臨むべきものと思料されるから、裁
量の範囲を超えたものとして違法というべきである。
(六)、しかしながら、被控訴人A及び同Bに対する本件停職処分は、同被控訴人
らの違法行為の内容、程度及びその他の諸事情を考慮するときは、裁量の範囲を超
え取り消さねばならぬ程に重いとはいえない。
二、被控訴人Cに対する本件懲戒処分について
(一)、同被控訴人は、生徒に対し本件学力調査受験拒否を意図的に教唆扇動した
ものではないが、同被控訴人が生徒に対する事後指導の職務命令を拒否したこと、
その日記指導の内容が誤つていたこと及び本件学力調査受験の事前指導を怠つたこ
とは、いずれも前説示のとおりである。それ故、右各事由に、同被控訴人の言動が
生徒の受験拒否の一原因をなしたこと、その他前認定の諸事情を考慮すれば、同被
控訴人の責任は決して軽しとなし得ない。
(二) しかしながら、他方、(イ)、安下庄中学校の場合、生徒の受験拒否によ
る混乱も厚南中学校の場合に比較して軽度のものであつたこと、(ロ)、日記指導
にしても逆に生徒から同被控訴人に対する批判もかなりなされており、実害として
見るべきものも表われていないこと、(ハ)、同被控訴人にこれまで懲戒処分歴の
ないこと、(ニ)、免職処分が被処分者に重大な結果を与えるものであること、の
諸点を考慮すれば、同被控訴人に対しても相当長期の停職処分をもつて相当とし、
免職処分をもつて臨むことは極めて過酷であつて、裁量の範囲を超えた違法がある
と言うべきである。
三、結局、被控訴人らに対する本件懲戒処分のうち、被控訴人A及び同Bに対する
各停職処分は相当として維持さるべきであるが、被控訴人F、同D及び同Cに対す
る各免職処分は違法として取消しを免れない。
第六、結論
そうすると、原判決のうち被控訴人F、同D及び同Cに関する部分は、事実誤認の
違法はあるけれども結論において相当であつて、この部分に対する控訴人の控訴は
理由がないから棄却すべきである。又、原判決のうち被控訴人A及び同Bに関する
部分は不当であり、この部分に対する控訴人の控訴は理由があるので、原判決のう
ちこの部分を取り消し、右被控訴人両名の本訴請求をいずれも理由がないものとし
て棄却すべきである。
よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して、
主文のとおり判決する。
(裁判官 熊佐義里 武波保男 白石嘉孝)

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