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裁判例


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主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中,300日を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は主任弁護人多田元作成の控訴趣意書3通(第1ないし第3)に,
これに対する答弁は検察官齋智人作成の答弁書にそれぞれ記載されたとおりである
が,論旨は理由不備,訴訟手続の法令違反,事実誤認及び量刑不当の主張である。
1理由不備の論旨について
論旨は,原判決が証拠の標目に責任能力に関する証人Ⓐ及びⒷの各原審公判供述
を原判示第3ないし第6の各事実に関する証拠として挙示しなかったことが刑訴法
335条1項に反し,理由不備の違法がある,というのである。
しかし,証拠の標目に挙示すべき証拠は,罪となるべき事実を認めるのに必要かつ
十分な限度のもので足り,犯罪の成立阻却事由や刑の減免事由の不存在の認定に供し
た証拠を挙示する必要がないから,原判決に所論のような理由不備の違法はない。論
旨は理由がない。
2訴訟手続の法令違反の論旨について
⑴論旨は次のようなものである。すなわち,❶本件の名古屋家庭裁判所による検
察官送致決定が少年法20条の解釈適用を誤った違法なものであり,その決定に基づ
く本件公訴の提起も違法かつ無効であるのに,刑訴法338条4号に基づく公訴棄却
の判決をしなかった原判決は,少年法20条の解釈適用を誤り,最高裁判所平成8年
第838号平成9年9月18日第1小法廷判決(刑集51巻8号571頁)に違反
するものである。また,❷原裁判所は,判決宣告期日に,弁護人が心神喪失による無
罪主張にこだわる余り量刑に関する主張をしなかったから被告人が適切な弁護を受
けていないおそれがあるという裁判員の意見があった旨を伝えたことで明らかにな
ったように,弁護人の役割を全く理解せず公正な裁判を期待できない裁判員が審理に
関与したのに,当該裁判員の誤解を解消せず,かつ,その裁判員について裁判員の参
加する刑事裁判に関する法律(以下「裁判員法」という。)43条3項に基づく解任手
続を執ることなく審理を継続して判決を宣告したことが,憲法37条1項所定の被告
人の公正な裁判を受ける権利を侵害している。さらに,❸弁護人が請求した原審公判
審理の冒頭段階で実施すべきであった被告人の障害特性を理解するための解説的な
Ⓒ鑑定人の証人尋問(原審弁第8号。以下の記述で原審の表記を省略する。)を第13
回公判前整理手続期日に却下し,被告人の障害特性に対する理解に努めなかったこと
により,被告人の公平な裁判を受ける権利(憲法37条1項)を侵害した上,Ⓒ及び
Ⓑ両鑑定人共同作成の鑑定書(弁第10号)を必要性がないとして第18回公判期日
に却下したため,Ⓒ及びⒷ両鑑定人の原審公判証言の内容と被告人の供述特性や発達
障害及び双極性障害について正確に理解せずに認定判断した結果,責任能力に関する
判断を誤ったから,Ⓒ鑑定人の上記証人尋問及び上記鑑定書を採用しなかった原裁判
所の措置は違法である。したがって,以上のような原審の訴訟手続には判決に影響を
及ぼすことが明らかな法令の違反がある,というのである。
そこで,原審記録を調査して検討する。
⑵❶公訴提起の違法に関する主張について
所論は,被告人の抱える精神障害である発達障害及び双極性障害が被告人自身
に帰責できないものであり,その障害特性に照らし,被告人に対し刑罰によって規範
的責任の内面化を期待することができないから,名古屋家庭裁判所による本件検察官
送致決定が違法性を帯びたものであるため,同決定に基づく本件の公訴提起も違法か
つ無効であるという。しかし,少年法が,検察官に対し原則的に公訴提起を義務付け
る効力を備えた家庭裁判所のした中間処分としての性質を持つ検察官送致決定に対
する不服申立制度を法定していないのであるから,その決定自体が手続的な瑕疵を帯
びる場合は格別,家庭裁判所の判断内容の当否に関する不服は,同法55条に基づく
家庭裁判所への移送の当否を論ずる場合を除き,許されないというべきである。した
がって,本件の検察官送致決定の内容的な判断に関する不服を理由として,同決定に
基づく公訴提起の違法や無効をいう所論は,それ自体として失当を免れない。なお,
所論が援用する最高裁判例は,家庭裁判所のした保護処分決定が抗告審で取り消され
た場合に差戻しを受けた家庭裁判所が当該事件を少年法20条により検察官に送致
することが許されず,その検察官送致決定を前提とした公訴提起の手続が違法無効で
あるというものであり,原判決指摘のとおり,差戻しを受けた家庭裁判所として検察
官送致決定を選択することが保護処分より不利益な処分であるから許されないとし
て手続上の違法があることを示したものである。したがって,上記判例は,検察官送
致決定の判断内容の誤りを違法として公訴棄却判決をしたものでないから,所論は上
記判例の趣旨を正解しないものというほかなく,採用の余地がない。
⑶❷公正な裁判を期待できない裁判員を解任する手続を執らなかったことが憲
法37条1項に違反するとの主張について
所論は,裁判員が法令に従い公平誠実に職務を行う義務(裁判員法9条1項)
に違反し,引き続きその職務を行わせることが適当でないとき(同法41条1項4号)
に該当すると疑うに足りる相当な理由があるのに,原裁判所の裁判長がその所属する
地方裁判所に対し同法43条2項に基づく通知をせず,当該裁判員の解任に向けた手
続を執らなかった措置の違法をいうものと解される。しかし,原審記録を精査しても,
本件を担当した裁判員について,所論の義務に違反したと認めるべき事情はうかがえ
ず,原裁判所の措置を含む原審の訴訟手続に法令違反があるとは認められない。なお,
仮に判決宣告期日に所論指摘の説諭が行われたとしても,その一事をもって裁判員が
上記義務に違反したとはいえない。
⑷❸証拠採否の違法に関する主張について
アまず,原審の鑑定請求等に関する経過は以下のとおりであった。すなわち,
原審弁護人は,平成28年2月1日に被告人の精神鑑定(弁第3号)及び処遇に関す
る情状鑑定(弁第4号)を請求し,同年4月15日に,鑑定の採用及び裁判員法50
条1項に基づく鑑定手続の実施が決定されるとともに,Ⓒ及びⒷ両鑑定人が選任され,
両鑑定人共同による鑑定書(弁第10号)が同年9月7日付けで作成されて原裁判所
に提出された。さらに,原審弁護人は,同年11月24日の第10回公判前整理手続
期日に,被告人の犯行時の精神状態等の責任能力に関する事項及び被告人に適した処
遇等を立証趣旨として,主尋問各80分の予定でⒸ鑑定人(弁第6号)及びⒷ鑑定人
(弁第7号)の証人尋問を,被告人の発達障害及び双極性障害の特性を立証趣旨とし
てⒸ鑑定人の証人尋問(弁第8号)を,それぞれ請求したほか,同年12月15日の
第11回公判前整理手続期日に犯行時の責任能力に関する事項及び被告人に適した
処遇等を立証趣旨として上記鑑定書の取調べを請求した。そこで,原裁判所は,同期
日にⒸ鑑定人(弁第6号)及びⒷ鑑定人を証人として採用した上,Ⓒ鑑定人について
主尋問を70分と定めて平成29年2月22日及び同月23日の第16回及び第1
7回公判期日に,Ⓑ鑑定人について主尋問を30分と定めて第17回公判期日に,そ
れぞれ証人尋問を実施し,各証人尋問中で上記鑑定書の要点等の鑑定結果等が記載さ
れた補助資料が公判に顕出された。他方,原裁判所は,Ⓒ鑑定人の証人尋問(弁第8
号)について同年1月10日の第13回公判前整理手続期日に,上記鑑定書について
同年2月24日の第18回公判期日に,いずれも必要性がないとして却下したが,各
却下決定に対し原審弁護人は異議を申し立てなかった。なお,第16回及び第17回
公判期日に,検察官請求に係る被告人の精神鑑定の経緯や結果等を立証趣旨としたⒶ
鑑定人の証人尋問(甲第171号)が実施されたほか,第17回公判期日に,Ⓐ,Ⓒ
及びⒷ3名の鑑定人の対質尋問が実施されたが,Ⓐ鑑定人作成の被告人の精神鑑定結
果に係る鑑定書2通(甲第151号及び第156号)は原審弁護人の不同意意見を受
けて検察官が第18回公判期日に撤回したため,採用されていない。
イ証拠の採否における必要性に関する判断は裁判所の合理的な裁量に委ねら
れているから,原裁判所の判断における裁量逸脱の存否について検討する。
まず,Ⓒ及びⒷ両鑑定人共同作成の鑑定書(弁第10号)について,上記
経過を見ると,原審公判で被告人の責任能力に関する鑑定結果を明らかにしたⒸ鑑定
人(弁第6号)及びⒷ鑑定人(弁第7号)の証人尋問が実施された上,3名の鑑定人
に対する対質による証人尋問も実施された後に,その請求が却下されたことに照らし,
原裁判所としてⒸ及びⒷ両鑑定人の証人尋問により両鑑定人による鑑定の結果が十
分に明らかにされたほか,実施済みのⒶ鑑定人の証人尋問の結果と合わせ,被告人の
責任能力について判断する上で必要な証拠が十分に収集されたと判断した結果,上記
鑑定書を取り調べる必要性がなくなったとしてその請求を却下する決定をしたもの
と解することができる。このような原裁判所の判断は,審理経過に照らして証拠採否
に関する裁量の範囲内のものであり,裁量を逸脱したものとはいえない。
また,Ⓒ鑑定人の証人尋問(弁第8号)について,原審弁護人は,それを
証拠調べ手続の冒頭で行うことにより,被告人の障害特性や公判供述等に関する特異
な傾向を理解し,適切な配慮を尽くした審理を行う必要があるとする意見を述べた。
これに対し,検察官は,立証責任を負う立場として,まず被告人の行為の構成要件該
当性に関する立証を行うことが必要かつ相当な上,本件で検察官と原審弁護人が責任
能力について相異なる鑑定人の鑑定結果に依拠して真っ向から対立する主張を行っ
ており,その鑑定人の精神障害に関する説明は責任阻却事由の有無を検討する段階で
実施される鑑定人の証人尋問の際に行うべきであって,証拠調べの冒頭における鑑定
人の証人尋問実施が不当であるとして,不必要かつ不相当という意見を述べていた。
その上,本件はそもそも公訴事実の一部に関し構成要件該当性や犯意の有無が争われ,
更に被告人の責任能力が大きく争われた事案であるから,まず構成要件該当性や犯意
の有無に関する審理を先行させることに合理性が認められる上,鑑定の内容や結果が
異なる鑑定人のうち一方の鑑定人の証人尋問を証拠調べの冒頭に実施することに相
当性があるとは考えられない。したがって,Ⓒ鑑定人の証人尋問請求(弁第8号)を
却下した原裁判所の判断について,証拠採否に関する裁量の逸脱は認められない。
⑸以上の次第で,所論は全て採用できず,訴訟手続の法令違反をいう論旨は理由
がない。
3事実誤認の論旨について
⑴論旨は次のようなものである。すなわち,原判決は,罪となるべき事実として,
少年であった被告人が,①他人に硫酸タリウムを摂取させてタリウム中毒の症状を観
察したいという興味から,硫酸タリウムを人に摂取させればタリウム中毒により死亡
するかもしれないことを認識しながら,そうなっても構わないと考え,㋐平成24年
5月27日に仙台市所在のカラオケ店で,16歳のⒹに対し,硫酸タリウム0.8グ
ラム分前後の粉末を混入した飲料水を飲ませたが,同女に約2年10か月間にわたり
下肢末梢神経障害が残存するタリウム中毒の傷害を負わせたにとどまり,殺害するに
至らず(原判示第1),ⓐ同月28日及びⓑ同年7月19日の2回にわたり,被告人
が在籍していた同市所在の高校で,16歳で同級のⒺに対し,同人の使用するペット
ボトル入り飲料水にⓐ硫酸タリウム0.8グラム分前後の粉末ないしⓑその0.4グ
ラム分前後を含有する水溶液をそれぞれ混入し,同高校内や同人方等でそれらを同人
に飲ませたが,同人に中毒性視神経症の後遺症を伴い,約3年間にわたり下肢末梢神
経障害が残存するタリウム中毒の傷害を負わせたにとどまり,殺害するに至らず(同
第2。以下①の各事件を「タリウム事件」という。),②焼死体を観察したいという興
味から,㋐平成26年8月29日頃に同市所在の当時の自宅居室で容量が500ミリ
リットルのペットボトル1本に灯油を入れた上,同月30日の未明に同市所在のⒻ方
居宅の敷地内でそのペットボトルの飲み口に新聞紙を差し込んで点火装置を施して,
火炎瓶1本を製造し(同第3),㋑引き続き,同居宅敷地内でその火炎瓶に点火した
上,それを同居宅の掃き出し窓外の縁側に置き,その火の熱で窓をひび割れさせ1万
0800円相当の損害を与えて,他人の物を損壊し(同第4。以下,②の各事件を「火
炎瓶事件」という。),③自分の手で人を殺す体験をし,人が死んでいく様子を観察し
たいという興味から,同年12月7日に名古屋市所在のアパート内にある当時の自室
で,招き入れた77歳の知人であるⒼに対し,殺意をもって,手斧で頭部を少なくと
も6回にわたり殴打した上,マフラーで頸部を4ないし5回にわたり絞めつけ,頸部
圧迫による窒息により同女を死亡させて殺害し(同第5。以下,③の事件を「殺人事
件」という。),④知人方に放火してその住人を殺害し,その焼死体を観察したいとい
う興味から,同月13日の未明に,殺意をもって,知人方居宅と誤信した②㋑の66
歳のⒻほか2名が居住かつ現在する木造2階建家屋の玄関扉の郵便受けから玄関内
にジエチルエーテルを注ぎ入れた上,火をつけたマッチを投入して放火し,その火を
玄関内のカーテンなどに燃え移らせたが,Ⓕが間もなく消火したため家屋の焼損及び
住人の殺害の目的を遂げなかった(同第6。以下,④の事件を「放火殺人未遂事件」
という。),との事実を認定した上,タリウム事件の各犯行について被告人の未必の殺
意を肯認したほか,本件各犯行の際に被告人が完全責任能力を備えていたと判断して
いる。しかし,被告人は,❶タリウム事件の各犯行について未必的にも殺意がなく,
❷本件各犯行の際にいずれも発達障害を抱えて双極性障害を患っていたため心神喪
失の状態にあったから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認が
ある,というのである。
そこで,原審記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。
⑵❶タリウム事件(①)における殺意について
ア原判決は,争点に対する判断の第2の2項で,タリウム事件の各犯行時の被
告人の殺意について,次のような判断を示している。
すなわち,まず,①㋐及び㋑ⓐで投与された0.8グラム分前後の硫酸タ
リウムに含まれるタリウムの分量は0.64グラム前後であるが,死亡例のある0.
2グラムを優に超え,世界保健機関による文献調査に基づく致死量の下限を超える分
量であるから,それだけの量を投与された人が死に至る可能性は決して低くないと考
えられる。また,㋑ⓑで投与された0.4グラム分前後の硫酸タリウムに含まれるタ
リウムの分量は0.32グラム前後であるが,同様に死亡例のあるタリウムの分量を
超えるほか,㋑ⓐの投与により被害者にタリウム中毒の症状が残存する状況で投与さ
れたことに照らすと,その数量以上の危険性を有するものといえる。したがって,タ
リウム事件の各投与行為はいずれも各被害者を死亡させる客観的危険性の高い行為
であったと認められる。
そして,被告人は,かねてタリウムやその化合物の毒性について強い関心
を持ち,平成24年5月上旬にそれらに関するウェブページを複数回にわたり閲覧し,
タリウム事件の各犯行当時に,硫酸タリウムの量と誤信していたものの,成人が0.
2グラムで死亡した例があることや致死量が約1グラムであることを知識として有
していた。しかも,被告人は,硫酸タリウムの投与量について,①㋐で0.5グラム
分前後,㋑ⓐで0.8グラム分前後,㋑ⓑで0.4グラム分前後であるという認識を
持ちつつ硫酸タリウムを投与したものと認められるから,自己の行為により被害者が
死亡する危険性があることを十分に認識しながらあえてその行為に及んだと推認さ
れる。さらに,被告人が各犯行後に被害者が体調不良を訴えたことを認識しながら,
何らの措置も講じなかった上,そのような場合の備えをした形跡もないことは,上記
推認を強める事情である。
したがって,被告人は,タリウム事件の各犯行時に,結果的に各被害者が
死亡しても仕方がないと考えて各犯行に及んだものと合理的に推認できる。
これに対し,被告人は,各被害者が死亡することがないよう,硫酸タリウ
ムの投与量が1グラム未満となるように体積と密度から重量を計算して計量した上
で投与したから,死んでも構わないと考えてはいなかった,という。しかし,硫酸タ
リウムの密度だけでも目測による体積の若干の誤差がその重量を大きく左右する関
係にあるから,被告人の認識した重量が目分量で計測した大雑把なものであってそも
そも幅を持った概算量にすぎず,被告人もそのように認識していたと合理的に推認で
きる。結局,被告人が硫酸タリウムの重量を計算して投与したという事情をもっても,
被告人が被害者の死亡を意欲する強い殺意があったと認められないにすぎず,被害者
が死亡しても仕方がないと考えたという上記推認は排斥されない,というのである。
イこれに対し,所論は次のようなものである。すなわち,タリウム事件の各
犯行の際の被告人の精神状態は,その発達障害からもたらされる興味の限局と双極性
障害の躁状態からもたらされる万能感に支配され,いわゆる思考が突き抜けた状態に
なって,タリウムを投与せずにいられないというものであり,致死量等のタリウムの
毒性に関する知識について意識することができず,その結果に対する想像力も働かず,
投与する時点で被害者の死亡の危険を想起することがなかったものであり,未必の故
意が意識されないという上記殺意の推認を妨げる特段の事情がある,原判決は被告
人が死亡の危険性を想起せずに行った亜硝酸ナトリウムの摂取行為や水の大量摂取
行為に対する評価を検討せずに誤った判断をした,というのである。
ウしかし,所論を踏まえて検討しても,原判決の上記認定及び判断について,
論理則,経験則等に照らして不合理な点は認められない。若干付言すると,後記⑶
で詳述するが,被告人の各投与行為の際の精神状態は,原判決の説示するとおり軽躁
状態にあったにとどまり,被告人の発達障害の影響を考慮しても,被告人の判断能力
が失われていたとは考えられない。したがって,発達障害の特性に由来するタリウム
中毒症状の観察に興味を限局させていた被告人が,タリウム事件の各犯行の際に双極
性障害の躁状態の高揚期にあり,自己の投与行為が被害者の生命に危険を及ぼすこと
はないと確信していたことを前提とする所論は採用の余地がない。そして,被告人は,
タリウム事件の各犯行当時,大雑把であるが投与量を意識した上で硫酸タリウムを被
害者に投与しており,その際にも被告人のタリウムに関する知識自体が阻害されてい
たことを示す事情はないから,自分のした硫酸タリウムの投与行為によって被害者が
死亡する可能性について未必的にさえ認識し得ない精神状態にあったとはいえない。
について,所論は,被告人が自己の生命の危険を認識せずに,平成24年4月頃
に亜硝酸ナトリウムを摂取した場合の症状を観察する目的で,致死量が0.2グラム
から2グラムである旨の知識を持ちながら亜硝酸ナトリウムを自分でなめた事実や,
被疑者勾留中に水中毒を観察する目的で水中毒が生命に危険を及ぼす旨の知識を持
ちながら,自ら水を大量に飲用した事実からすると,被告人がかねてその危険性に関
する知識を得ていても,興味が中毒症状の観察に限局した場合に自己の生命の危険す
ら認識し得ない状態になることが認められるから,タリウム事件の各犯行時も同様に
タリウムの危険性に関する知識を想起できなかった,という。しかし,亜硝酸ナトリ
ウムの摂取について,摂取方法が湿っていない指に付着させたものをなめた程度で,
摂取した分量を考えていなかったというものである上,被告人がその当時に調査した
限り亜硝酸ナトリウムに関する文献が少なかったためにその毒性に関する詳細な知
識まで得られていなかったと認められる。また,水中毒について,被告人が摂取した
水の分量が明らかでない上,どの程度の量の水を摂取すれば生命に危険を及ぼすかに
関し被告人が詳細な知識を得ていたことをうかがわせる証拠はない。結局,所論指摘
の被告人の行為は,生命に対する危険性に関する詳細な知識の有無や摂取量が不明確
であるから,被告人が致死量等に関して詳細に調査した上,被害者に対する投与量が
明らかになっているタリウム事件の場合と同列に考え得る事柄といえず,それらの事
実を踏まえても,被告人にタリウム事件について殺意を認めた原判断は左右されない。
以上のとおり,タリウム事件の各犯行当時に被告人に未必的な殺意があったと認め
た原判決の認定及び判断について,不合理な点は認められない。
⑶❷責任能力について
ア原判決は,争点に対する判断の第2の4項で,被告人の責任能力について,
次のような判断を示している。
すなわち,精神科医師であるⒶ鑑定人による精神鑑定の結果(検察官の嘱
託を受けて平成27年3月3日から同年4月10日にかけて殺人事件に関する精神
鑑定(以下「Ⓐ第1鑑定」という。)を,平成28年8月29日から同年9月30日に
かけてその余の各事件に関する精神鑑定(以下「Ⓐ第2鑑定」という。)をそれぞれ実
施し,その鑑定結果について原審公判で証人として供述した内容を指す。以下,それ
らを併せて「Ⓐ鑑定」という。)によれば,被告人の精神状態について,次のように判
定している。すなわち,被告人は,他人の内面に対する想像力の欠如から共感性がな
く,相手の表情や空気を読むことが苦手であり,社会的な意思疎通や対人相互関係に
関する持続的障害が見られるとともに,極めて限局された領域に固着した関心を抱く
傾向にあることから,特定不能の広汎性発達障害又はアスペルガー症候群に分類され
る発達障害に当たるが,学校生活で多数の友人との交流に支障がなかったなど,IQ
が120ないし122の高い知的能力及び社交性により社会に対する適応ができて
いたことに照らし,その発達障害の程度が重度でなかった。また,診断基準を完全に
は満たさないが,被告人に注意欠陥多動性障害の疑いがあり,その衝動性に係る部分
が残存していた。さらに,被告人は,中学校1年生時に学校を休みがちになり,大学
1年生時に人としゃべらなくなったなどの抑鬱エピソードに該当する出来事と,気分
の高揚状態が続いて寝なくなる時期があるなどの軽躁病エピソードに該当する出来
事があり,上記抑鬱及び軽躁病エピソードを繰り返している状態であるが,軽躁病エ
ピソードに該当する出来事に身近な家族が気付いておらず,社会生活が破綻している
様子もまとまりのない行動や言動,会話内容や思考の奔逸も存在しないから軽躁状態
にとどまる。そうすると,被告人は,本件各犯行の際に双極性Ⅱ型障害を抱えていた
と認められる。そして,精神症状の本件各犯行に対する影響は,動機が発達障害の本
質的特徴に基づくものの,犯行自体が幻覚や妄想という精神病症状に支配されておら
ず,被告人の自由な意思に基づくといえる。また,軽躁状態は,犯行の実行に弾みを
つけた点で一定の影響はあるが,限定的である,というのである。
このようなⒶ鑑定に十分な信用性が認められるので,それに依拠した上,各犯行の
動機,犯行時やその前後の被告人の行動,当時の被告人の認識や意識等を検討して,
責任能力の有無及び程度を判断することとする。
次に,本件各犯行について各別に検討する。
aタリウム事件(①)の各犯行について
その動機は,硫酸タリウムを他人に投与してタリウム中毒の症状を見て
みたいというものであり,被告人がかねて硫酸タリウム及びその毒性に強い興味を抱
いていたことを踏まえれば,十分に了解可能である。動機形成過程を見ても,自分が
発注した硫酸タリウムが手元に届くとうれしくなって同級生に見せるなど,硫酸タリ
ウムの投与及びその中毒症状の観察が実現に近づく中で徐々にそれらに対する欲求
を膨らませ,気分を高揚させていったようにうかがわれる上,16歳の被告人が,①
㋐及び㋑ⓐの各犯行で手元にあった強い興味の対象の劇物を他人に用いたくなった,
①㋑ⓑの犯行で同ⓐの犯行で予期した症状が見られなかったことから追加投与した,
というものであり,いずれも通常の心理過程の延長として十分に理解が可能である。
もっとも,硫酸タリウムに対する興味を抱いたことから現実に投与に至った過程に被
告人の限局した興味の深まりが見られるとともに,被告人の共感性の欠如により被害
者の苦痛や心情に思いを致すことができず,情緒面で犯行を思いとどまることが通常
人より困難である点で,被告人の発達障害が各犯行に一定の影響を与えていたと認め
られる。また,各犯行に向けて気分が高揚していく過程,取り分け①㋐の犯行の決意
がやや唐突である点に,被告人の衝動性や双極性Ⅱ型障害による軽躁状態が実行に一
定の弾みをつける程度の影響を与えたことは否定できない。各犯行の準備段階で,年
齢を偽って硫酸タリウムを入手し,観察しやすい投与対象者を選定するなど,犯行に
向けて合目的的な行動をしている上,被告人の自宅や学校での生活で特に異常な言動
がなく,おおむね通常の範疇に収まる行動をしていた。①㋐の犯行時には投与量を意
識した行動をしたほか,硫酸タリウムを女友達の飲料に混入するに当たってドリンク
バーを避けて非常階段で実行したり,同女の離席を見計らったりして,状況に応じて
行動している。①㋑の各犯行時に教室に同級生がいない機会を狙ったほか,同ⓐの際
に一人で教室に戻る口実にするため故意にネクタイを遺留した上でもくろみどおり
に教室に戻ったことから,被告人はいずれの犯行時にも冷静に周囲の状況を意識しつ
つ行動していたといえる。加えて,被告人がこのように人目を気にして行動している
ことから,自己の行為が社会的に許されない行為であることを十分に認識していたこ
とが認められる。
以上の事情からすると,タリウム事件の各犯行について,被告人の発達障害や当時
の年齢が各犯行動機の形成に一定程度の影響を及ぼした上,被告人の衝動性や双極性
Ⅱ型障害等も各犯行の実行に一定程度弾みをつける形で影響を及ぼしているものの,
犯行前後の行動が冷静な判断に基づく犯行実現のための適切なものであったから,全
体として上記各精神障害の各犯行に対する影響は限定的であって,被告人は自らの意
思で各犯行に踏み切ったものと認められる。
b火炎瓶事件(②)の各犯行について
被告人が,生活反応のある焼死体を見てみたいという動機に基づいて,
妹の同級生方居宅に対する放火を企図して各犯行に及んだところ,被告人がかねて人
の死や焼死体に強い興味を抱いていたことに照らし,その動機は十分に了解可能なも
のといえる。放火の手段として火炎ペットボトルの製造や設置を選択した点について,
高校2年生時に被告人なりに計画した内容をそのまま実行に移したことを前提にす
れば,稚拙であるが異常とはいえず,火力を利用する点で放火のための合目的的な手
段ともいえる。焼死体の観察が実現するように葬儀に参列できそうな妹の同級生方居
宅を狙った点も被告人なりの合理的な対象の選択であるといえる。もっとも,人の死
や焼死体に対する興味が現実に焼死体を見たいという動機形成につながった点や火
炎ペットボトルというやや特殊な手段を選択した点に,被告人の限局した興味の深ま
りやこだわりが見られるほか,上記同様に通常人に比して情緒面で犯行を思いとどま
ることが困難である点で,被告人の発達障害が犯行に一定の影響を及ぼしたといえる。
また,法医学者の書籍を再読して焼死体に対する興味が高まり,犯行を決意し実行に
移した経過について,やや唐突な面があるから,被告人の衝動性や双極性Ⅱ型障害に
よる軽躁状態が犯行の実行に弾みをつける形で一定程度の影響を及ぼしたことは否
定できない。しかし,夜間に犯行を決意した後,犯行時間帯として人通りの少ない深
夜を選択していることから,冷静な判断ができたものといえる上,そのような深夜に
なるまで待った上で計画を実行に移したことや犯行前後に異常な言動が見られない
ことから,上記判断に基づき自己の行動を適切に制御できていたといえる。
以上の事情から,火炎瓶事件の各犯行について,被告人の発達障害が犯行動機の形
成過程に一定程度の影響を及ぼし,衝動性や双極性Ⅱ型障害等の精神障害がその実行
に一定程度の弾みをつけているものの,各犯行前後の行動が冷静な状況判断の下で適
切に行われていたことに照らし,全体として上記各精神障害の各犯行に対する影響は
限定的であるといえるから,被告人は自らの意思で各犯行に踏み切ったと認められる。
c殺人事件(③)の犯行について
被告人は,自分の手で人を殺す体験をして,そのときの人が死にゆく様
子を見てみたいという動機で犯行に及んだものであり,19歳の被告人が人の死や少
年犯罪,取り分け殺人の実行に強い関心を抱いていたことに照らし,上記動機は十分
に了解可能なものといえる。また,犯行に至る経緯について,成人に達するまで1年
を切ったことで若干の焦りが生じていた一方,警察に逮捕されれば将来の大学院進学
が困難になることと現実に殺人の実行に踏み切ることとを逡巡した末に犯行を決意
したというのであって,限りある期間内で両立し得ない自己の興味や欲求との間で悩
むという通常人のそれと変わらない葛藤があったことがうかがわれる。他方,人の死
や少年犯罪に対する興味が殺人の実行に結び付いた点に限局した興味の深まりが見
られるほか,上記同様に通常人に比べ情緒面で犯行を思いとどまることが困難であっ
た点で,被告人の発達障害が犯行に一定の影響を及ぼしたことは否定できないものの,
上記のとおり犯行に踏み切って逮捕されれば自分が失うものが大きいという自覚も
あったことなどから,その影響は若干程度に止まっていたといえる。さらに,被告人
に犯行前から犯行時にかけて気分の高揚が見られるものの,犯行直後に書き込んだと
見られる「ついにやった。」という被告人のツイート文の存在に照らすと,憧れていた
犯行を目前にして胸が膨らみ,それを実現して達成感を覚えるという通常の心理過程
で生じる気分の高揚と大差がないようにうかがわれ,被告人の衝動性や双極性Ⅱ型障
害による軽躁状態の影響は余り見られない。犯行の準備段階で,1週間前に犯行を決
意すると,その目的を達成すべく殺害方法を考え巡らせるなどし,自室に誘い入れた
知人女性の背後に回る口実まであらかじめ検討するなど,計画的に犯行に向けて筋の
通った行動をとっている。しかも,上記の口実であった呈茶を断られて計画と異なる
事態が生じても,臨機応変に計画を修正し,別の口実を用いて自然な態度で同女の背
後に回る対応をとり,犯行着手後に気付いてカーテンを閉めるなど,状況を冷静に理
解していたほか,仙台に帰省して事件現場を離れた後に妹にズボンを洗わせるなど,
人目を気にするような行動や証拠を隠滅する行動も見られ,自分が許されない行動を
とっている認識もあったといえる。さらに,犯行の前後に異常な言動が認められず,
状況判断に基づく合理的な行動といえる。
以上の事情からすると,殺人事件の犯行について,被告人の発達障害が犯行動機の
形成過程に若干の影響を及ぼしたものの,被告人の衝動性や双極性Ⅱ型障害による軽
躁状態の影響はそれほど見られないから,犯行時の被告人の判断能力や行動制御能力
に何ら問題はなく,被告人は自らの意思で各犯行に踏み切ったものと認められる。
d放火殺人未遂事件(④)の犯行について
被告人は,生活反応のある焼死体を見てみたいという動機に基づき犯行
に及んだものであり,被告人が人の死や少年犯罪に強い関心を抱いていたことに照ら
すと,その動機は十分に了解可能なものといえる。殺人事件の犯行後から帰省前後の
被告人の言動に照らして放火殺人未遂事件の犯行実行の決意は唐突でない上,自分が
殺人事件の犯行で逮捕される前に被害者方居宅に対する放火を成功させたいという
思いがあったことを踏まえると,犯行の性急さも十分に理解できる。もっとも,人の
死や焼死体に対する興味が現実の焼死体を見るという動機の形成に結び付いた点に
限局した興味の深まりが見られるほか,上記同様に通常人に比して情緒面で犯行を思
いとどまることが困難であった点で,被告人の発達障害が犯行に一定の影響を及ぼし
たものといえる。加えて,被告人は,放火殺人未遂事件の犯行時に相当程度気分が高
揚していたところ,興味の対象の実現に対する通常の期待感や高揚感があったものの,
飲酒や双極性Ⅱ型障害による軽躁状態の影響も犯行の実行をそれなりに後押しした
と認められる。自分の犯行と分からないように,被害者方居宅への移動時に様々な工
夫を凝らしたことや同居宅到着後に周囲を気にした行動をとっていたことから,被告
人が人目や逮捕の可能性を気にしていたといえ,違法行為をしている意識があったと
認められる。揮発性が高く危険性の高いジエチルエーテルを用いつつ,火種となるマ
ッチを郵便受けから玄関内に投げ入れる方法をとったことは,適切な状況判断に基づ
く行為といえる。また,犯行を決意した飲酒時から犯行に出発するまでの間も犯行を
遂げて帰宅した後も,実家で特段異常な言動が見られなかった上,出発前にマッチが
見付からなければ犯行をやめようと考えたことや,危険を伴う手口であるのに火傷を
負わずに放火を遂げており,自己の行動をおおむね適切に制御していたと認められる。
以上の事情からすると,放火殺人未遂事件の犯行について,動機形成過程で被告人
の発達障害の影響が認められる上,飲酒や双極性Ⅱ型障害の精神障害が犯行の実行に
一定程度影響を及ぼしたといえるものの,犯行時に適切な状況判断とそれに基づくお
おむね合理的な行動をとっていたことからすれば,被告人の精神障害がその判断能力
及び行動制御能力に及ぼした影響は限定的であって,全体として被告人自身の意思に
基づき犯行を決意して実行したものと認められる。
以上の点から,被告人は,本件各犯行のいずれの際にも,その発達障害や
双極性Ⅱ型障害等の精神障害の影響を一定程度受けたものの,その範囲と程度は限定
的であり,最終的に被告人自身の意思に基づき各犯行を決意して実行したものといえ
るから,完全責任能力を備えていたと認められる,というのである。
イこれに対し,所論は次のようなものである。すなわち,被告人は,本件各犯
行当時に重篤な発達障害及び双極性Ⅰ型障害を患っており,いずれの犯行もその発達
障害の症状である共感性の欠如と興味の限局に加えて,双極性Ⅰ型障害の症状である
強い躁状態の影響下で実行したものであり,判断能力及び行動制御能力が欠如した心
神喪失状態にあった。原判決が依拠するⒶ鑑定は,被告人の発達障害が軽度で双極性
障害がⅡ型であると診断した点がDSM-Ⅴの診断基準に該当しない上,被告人の精
神症状の犯行に対する影響が限定的であるとした点で誤りであるから信用性がない。
そして,原判決は,信用性に欠けるⒶ鑑定に依拠して被告人の責任能力を判断した上,
原審で裁判員法50条1項に基づきⒸ及びⒷ両鑑定人が実施した精神鑑定及び情状
鑑定の結果(原裁判所から依頼を受けて平成28年5月17日から同年8月16日に
共同して実施した。さらに,Ⓒ鑑定人は,これに先立ち名古屋家庭裁判所から依頼を
受けて平成27年7月頃に被告人の精神鑑定を実施した。これらの鑑定結果につき原
審公判において両鑑定人がそれぞれ証人として供述した内容が鑑定結果である。以下
「Ⓒ・Ⓑ鑑定」という。)によれば,被告人が重篤な発達障害及び双極性Ⅰ型障害の精
神症状に支配されて犯行に及んだものであり,このⒸ・Ⓑ鑑定に高い信用性があるの
に,それを排斥した結果,本件各犯行時の被告人に完全責任能力が備わっていたとす
る事実誤認を犯した,というのである。
ウしかし,所論を踏まえて検討しても,原判決の上記認定及び判断について,
論理則,経験則等に照らして不合理な点は認められない。以下に補足して説明する。
Ⓐ鑑定について
aまず,原判決がⒶ鑑定の信用性を肯定し,同鑑定を基礎として責任能力
に関する認定判断をした点に不合理な点はない。すなわち,原判決の説示のとおり,
Ⓐ鑑定人は精神科医として司法手続における豊富な鑑定経験を有する上,Ⓐ鑑定で国
際的な診断基準であるDSM-Ⅳ-TR,DSM-ⅤやICD-10に基づき被告人
の精神疾患とその症状を診断したほか,鑑定期間中に被告人に対して相当回数の面接
を実施して被告人供述に検討を加えるとともに,その供述以外の証拠から認められる
本件各犯行に関する事実関係について総合的に検討判断して,結論を導いているとこ
ろ,Ⓐ鑑定が前提とした上記事実関係は原判決が認定した事実関係におおむね沿う内
容である。以上のとおり,鑑定人の資質や能力のほか,鑑定の判断手法と基礎とした
資料や前提条件等に問題が見られないとして,Ⓐ鑑定について高い信用性を肯認した
原判断に不合理な点はない。
bこれに対し,所論は次のような指摘をしている。すなわち,Ⓐ鑑定は,
❶被告人の発達障害について,DSM-Ⅴの自閉スペクトラム症の診断基準に従えば
重症と診断すべきであるのに,同基準を誤って適用した結果,診断を誤った。❷被告
人の双極性障害について,Ⓐ鑑定人が第1鑑定で見落としたことに加え,DSM-Ⅴ
の双極性Ⅰ型障害の診断基準に該当するのに該当しないと判断した上,周期的な強い
鬱病相が見られないのに双極性Ⅱ型障害と診断したほか,双極性Ⅱ型障害の軽躁状態
であると診断した根拠として,被告人の日常生活に破綻が見られず,身近な家族も気
付いていない程度の症状である点を挙げているが,被告人が犯行前から家庭内で人を
殺したいという発言をし,劇物を収集して高校に持参し,同級生に見せたりなめさせ
たりしたほか,原審公判でも硫酸タリウムに執着し,人を殺したい気持ちが湧くと述
べたことなどに照らし,双極性Ⅱ型障害という診断は精神医学上の根拠を欠いている。
❸自閉スペクトラム症と双極性障害が併存する障害を有する場合における犯行に対
する影響の重大性を検討していない。❹本件各犯行の動機が自閉スペクトラム症の病
理的症状の影響で形成された異常なものであり,それに併存する双極性障害の躁状態
が影響して行動化した犯罪行為に至る心理過程も共に了解不能であるのに,被告人自
身の意思に基づく動機として心理学的に了解可能であるという誤った判断をした。以
上の点からⒶ鑑定は信用性に乏しい,というのである。
cしかし,❶所論指摘のDSM-Ⅴの自閉スペクトラム症の診断基準は,
所論の強調するA(社会的コミュニケーション及び対人的相互反応における持続的な
欠陥の存在)及びB(行動,興味又は活動の限定された反復的な様式の存在)だけで
なく,C(症状が発達早期に存在すること),D(その症状が社会的などの領域におけ
る現在の機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしていること)及びE(知的能力
障害又は全般的発達遅延で説明できないこと)から成るもので,精神医学上,A及び
Bに該当しそれらが重症である場合に直ちに自閉スペクトラム症が重度と診断され
るものと解することは困難である。これに対し,Ⓐ鑑定人は,Ⓐ鑑定で被告人の特定
不能の広汎性発達障害が軽度であると判定したほか,当審における証人尋問で,上記
診断基準を被告人に当てはめた場合,AとBを満たすものの,Dを満たすような社会
生活上の障害が見られないことに照らし,被告人の自閉スペクトラム症が軽症の水準
にあると証言しているが,その内容は上記診断基準に適合する上,その結論を導く過
程にも不合理な点は見当たらない。したがって,Ⓐ鑑定人がDSM-Ⅴの診断基準を
誤って適用したとは解されない。
dまた,❷双極性障害に関するⒶ鑑定の結果は,次のような内容である。
すなわち,通常の躁状態は,行動そのものにまとまりがなく,一貫性がない,一見多
動に見えたり,余り目的のない行動が多くなったりするほか,多弁になり,話してい
る内容が次々と変わることから,家族や周囲に明らかに普段と違うことに気付かれ,
入院治療が必要なほど社会的機能に一時的な障害が起こる。しかし,被告人がⒶ第2
鑑定の際に申告した内容は,じっとしていられない,そわそわする感じ,ハイテンシ
ョンになるが15分程度で落ち着くことが多い,というもので,躁鬱病の躁状態であ
れば15分程度で落ち着くことが余りなく,気分の揺れにすぎないと見ることもでき
るから,被告人の症状が気分障害の躁状態といえるかは若干の疑問がある上,上記の
ような通常の躁状態に達していないことが明らかである一方,主に事件を起こす前に
気分が高揚した状態が存在したと認められ,そのような状態に被告人の注意欠陥多動
性障害(ADHD)の影響もかなり認められるため,その結果として軽躁状態まで高
まっていた可能性を否定できないと判断した,というのである。
そして,上記鑑定結果に照らせば,被告人がⒶ第1鑑定の際に軽躁病
エピソードについて述べていなかったことや,抑鬱エピソードがそれ単体で生活環境
の変化に伴う気分の浮き沈みと見て不自然でないことから,同鑑定で双極性障害の存
在を診断しなかった点がⒶ鑑定の信用性を左右する事情といえないとした原判断を
是認することができる。すなわち,Ⓐ鑑定は,被告人の気分の高揚について気分障害
の躁状態に至らない気分の揺れにすぎない可能性が高いが,犯行時に見られる気分の
高揚が軽躁状態まで高まっていた可能性を否定できないこと及び抑鬱エピソードが
存在することから,双極性Ⅱ型障害に該当する可能性が否定できない,というものと
解される。このように,Ⓐ鑑定人は,被告人が双極性障害であると積極的に診断した
ものでない上,鑑定入院期間中の被告人の行動に躁状態を積極的に疑わせるものがな
かったこと,鑑定の前提とした資料から認められる事実関係を検討しても,被告人の
生活状況全般に明らかな機能障害がなく,犯行時及びその前後の行動がまとまりのな
い状態にあったと見られず,躁状態に達していたと考え難いことに照らし,軽躁病エ
ピソードに関する被告人の供述が得られなかったⒶ第1鑑定の段階で双極性障害に
該当すると診断しなかったことに合理的な理由があるといえるから,同鑑定で双極性
障害の存在を診断しなかったことがⒶ鑑定の信用性を否定すべき事情にならないと
いうべきである。
⒝しかも,所論がDSM-Ⅴの双極性Ⅰ型障害の診断基準に該当すると
指摘する本件各犯行前後の被告人の覚醒状態や行動等は,DSM-Ⅴの双極性Ⅱ型障
害の診断基準にも当てはまるものであるから,双極性Ⅱ型障害の診断が誤りであると
する根拠にならない。
⒞次いで,所論が双極性Ⅱ型障害の特徴である周期的な強い鬱病相が被
告人に見られないと指摘する点について,まず,所論の前提とするⒽ証人の当審証言
(以下「Ⓗ証言」という。)の信用性について検討する。Ⓗ証人は,多数の臨床経験を
有する発達障害に関する専門医であり,その資質や能力に問題が見られないものの,
本件に関して被告人と面接しておらず,原審までに実施された各鑑定の前提資料を検
討したこともなく,原審で取り調べられなかったⒶ鑑定人作成の鑑定書やⒸ・Ⓑ両鑑
定人共同作成の鑑定書を参照した上,原判決の責任能力判断に関する説示を検討し,
Ⓗ証人の専門的知見に照らした意見を述べたものであり,被告人の精神障害の有無や
程度の診断を行う前提資料として不十分であったと考えられるから,被告人の精神障
害の有無や程度と犯行に対する影響に関する証言内容に必ずしも信を措き難いとい
うべきである。すなわち,Ⓗ証言のうち発達障害等の精神障害に関する専門的知見に
ついて述べられた一般的な説明は別として,被告人の精神障害やその症状に関する判
断を示した証言内容をそのままに採用することは困難であり,その証言内容に依拠し
て被告人が双極性Ⅱ型障害と診断したⒶ鑑定に信用性がないという所論は採用でき
ない。そして,被告人に抑鬱エピソードが存在すること自体は証拠上も肯認すること
ができるから,Ⓐ鑑定が上記のとおりその点を踏まえるなどして双極性Ⅱ型障害と判
断したことが不合理とはいえない。
⒟さらに,被告人の日常生活に破綻が見られず,身近な家族も気付かな
い程度の症状としたⒶ鑑定の判断に根拠がないとする所論について,通常の躁状態の
場合,上記のような行動そのものにまとまりがなく,一貫性や目的のないものとなる
傾向にあり,家族や周囲から明らかに普段と違うと気付かれる程度の症状が見られる
ことに照らし,所論が指摘するように劇物に対する執着や収集した劇物を他人に見せ
る行為,殺意の表明等の特異な言動が見られるものの,家庭生活にも高校ないし大学
での学生生活にも不適応状態が生じておらず,家族や友人との交流でも生活に破綻を
来すようなまとまりのない行動や状況が見られないから,被告人が躁状態でなく,
高々軽躁状態にとどまると判断したⒶ鑑定に合理的根拠があるというべきである。
e次に,❸併存障害の重症度について,Ⓐ鑑定は,被告人に特定不能の広
汎性発達障害又はアスペルガー症候群に分類される発達障害と双極性Ⅱ型障害が併
存する障害があることを前提に,これらの障害の本件各犯行に対する影響の程度を検
討している上,鑑定の基礎とした資料から認められるその当時の被告人の行動等を踏
まえつつ,本件各犯行時やその前後の上記併存障害に起因する精神症状とその犯行に
対する影響の程度を検討して,影響の程度が軽度と判断しているから,検討不十分を
いう所論は当を得たものといえない。
fそして,❹動機の了解可能性について,本件各犯行の動機が一般的に見
て甚だ特異なものである上,そのような動機形成過程に被告人の発達障害が一定の影
響を及ぼしたと認められるものの,自閉スペクトラム症に起因する限局した興味の深
まりという症状がある場合も,興味を抱く対象自体について人によって異なるもので
あって個性が見られるところ,そのことはⒽ証人も肯定している。さらに,被告人の
発達障害の症状は,発達早期から存在して現在まで持続しているものの,被告人が抱
く限局した興味関心の対象が一定でなく,本件各犯行に限ってもタリウム中毒の症状
を観察したい,焼死体を見たい,人を殺してその様子を観察したいなどと時期によっ
て内容が変化している上,そのような対象に興味や関心を抱く過程に精神疾患に起因
する病的な症状としての幻覚や妄想の影響は全く見られない。その上,被告人が上記
のような対象に興味や関心を抱き,インターネットで調べたり書籍を読んだり自分が
犯行を実行する様子を空想したりして,興味や関心を深めるに至った経過に照らし,
そのような対象に強い興味や関心を抱くに至ったのは被告人自身の考えと行動の結
果と見るべきであり,病的な精神症状に起因するものでなく,日頃の被告人自身の嗜
好やこだわりと連続したものである。したがって,動機が自閉スペクトラム症の病的
症状に支配されて形成されたとは解されないから,被告人自身の意思に基づく動機と
して心理学的に了解可能であるというⒶ鑑定の判断に不合理な点は認められない。
gしたがって,Ⓐ鑑定の信用性を論難する所論はいずれも採用できない。
Ⓒ・Ⓑ鑑定について
次に,Ⓒ・Ⓑ鑑定について,原判決は,被告人の発達障害が重症であると
した点及び被告人が重症躁状態を伴う双極性Ⅰ型障害であるとした点について信用
できないと判断し,同鑑定を責任能力の事実認定に供しなかったところ,取り分け鑑
定の手法が不適切であるとした原判決の説示に首肯できない部分があるものの,同鑑
定の信用性を否定した結論を是認することができる。所論に鑑み,若干付言する。
aまず,Ⓒ・Ⓑ鑑定の結果は,被告人が本件各犯行時にいずれも重度の発
達障害(自閉スペクトラム症)と双極性Ⅰ型障害の重度躁状態にあり,これらの精神
症状の影響により,犯罪に対する抑止力が働かない程度に気分の高揚した思考の揺る
ぎない状態にあり,全てが許されるなどと考えが突き抜けてしまう誇大妄想状態に至
ったため,犯罪を実行に移した,というものである。そして,同鑑定で,発達障害の
重症度の診断に「道徳観倫理観検査」と「比ゆ皮肉検査」を,双極性Ⅰ型障害の診断
に「気分障害のグラフィング」(以下「グラフィング」という。)と「気持ちのお天気
表」(以下,グラフィングと併せて「グラフィング等」という。)を用いているが,そ
れらの検査や手法はⒸ鑑定人の開発によるものである。
bこの点,原判決は,Ⓒ・Ⓑ鑑定について,「被告人の説明や供述に基づく
診断ありきの精神鑑定」(31頁10行目)と指摘するが,精神障害の有無及びその程
度を診断するために一定程度は被告人の説明や供述に基づかざるを得ない部分が生
じることが否定できないことからすると,正当な説示といい難い。さらに,上記説示
に関連して,同鑑定の診断結果すなわちⒸ鑑定人が立てた仮説を前提とした場合に,
被告人が高校2年生時の同級女子生徒に対する硫酸タリウム投与未遂や3年生時の
女友達に対する首絞めの際に行為を中止することができた理由を合理的に説明する
ことが著しく困難であるとする原判決の説示も,上記鑑定の結果を前提とした場合で
も上記の各時期に被告人の双極性障害が躁状態になかったためという合理的説明が
可能であるとする所論を否定する根拠として薄弱である。また,原判決は,上記「道
徳観倫理観検査」及び「比ゆ皮肉検査」について,幼児や小学生を主な対象とする検
査内容であり,知的能力の高い大学生である被告人に用いるのは不適切であって,被
告人がⒸ鑑定人の立てた仮説に迎合する虚偽の回答をした可能性がある,グラフィン
グ等について,あくまで被告人の説明や供述に依存する検査結果である上,Ⓒ鑑定人
として質問者の意図が透けて見える質問の仕方をして,その意図を汲み取ることがで
きる被告人の供述をⒸ鑑定人の立てた仮説に沿って誇張させた可能性があるから,供
述の信用性が低く,その供述を前提とするグラフィング等の結果を判断の基礎にでき
ない,と説示するが,適切さを欠くといわざるを得ない。すなわち,それらの説示は
被告人が意図的に自己の精神症状について誇張した供述をしていることを想定した
ものと解されるが,被告人に他人の内面に対する想像力の欠如から共感性がなく,相
手の表情や空気を読むことが苦手で,社会的コミュニケーションや対人相互関係の持
続的障害があるという特性をもつ発達障害があるほか,詐病の可能性がないことは,
原判決が信用性を肯認するⒶ鑑定で前提とされていることに照らすと,被告人が各種
検査に対して意図的に虚偽の回答をしたとする前提に立った上,Ⓒ鑑定人の実施した
検査に信用性がないと評価することは相当でないというべきである。しかも,Ⓗ証言
によれば,双極性障害の診断に当たり患者から睡眠状態等の周期的な変動の経過を聴
き取ることは重要な作業であり,グラフィング等はその聴き取りを補充するものとし
て十分に意味があるというのであり,グラフィング等がそのような聴き取りを補充す
る手法であるとする点は首肯できる上,Ⓐ鑑定のほか,Ⓐ鑑定人の当審証言に照らし
ても,それを否定すべき精神医学上の根拠は見出せない。
以上のとおり,Ⓒ・Ⓑ鑑定の検査手法に関する不適切を指摘する原判決の説示には
首肯できない部分があるといわざるを得ない。
cもっとも,Ⓒ・Ⓑ鑑定は,精神鑑定の前提資料とすべき捜査記録から認
められる本件各犯行時及びその前後の被告人の行動等に関する検討が不十分である
上,被告人が重度の精神障害に起因する症状に支配されて本件各犯行に及んだとする
結論を導いた判断過程に合理的根拠があるといえないから,同鑑定の信用性を否定し
た原判決の判断は結論において正当であって,上記bの検査手法に関する原判断の誤
りがその結論に影響を及ぼすものではない。
すなわち,まず,鑑定の前提資料の検討不十分について,Ⓒ鑑定人は,鑑定資料で
ある捜査記録のうち,殺人事件に関連する記録に目を通したものの,それ以外の事件
に関する捜査関係記録を細かく確認することなく,鑑定によって把握した被告人の気
分変動等の全体的な大きな流れの中における犯行と見たというのである。そして,Ⓒ・
Ⓑ鑑定で,本件各犯行時やその前後における被告人の現実の行動等について,被告人
の精神症状の影響の有無や程度がどうであったかを詳細に検討することなく,上記a
掲記の鑑定結果を導き出していることからすると,結局,その鑑定は,被告人の上記
発達障害及び双極性障害が重症であるから是非弁別能力及び行動制御能力に対する
影響も重大であり,被告人が上記精神障害に起因する精神症状に支配されて本件各犯
行に及んだ,とする判断過程によって,結論を導いたものと解するほかない。しかし,
被告人が犯行当時に重度の精神障害を患っていたとしても,そのことから直ちに被告
人が心神喪失の状態にあったと判断すべきでなく,その責任能力の有無や程度は,被
告人の犯行当時の病状,犯行前の生活状態,犯行の動機や態様等を総合して判定すべ
き(最高裁判所昭和58年第1761号昭和59年7月3日第三小法廷決定・刑集
38巻8号2783頁参照)とされていることに照らし,上記のような判断過程で結
論を導いたⒸ・Ⓑ鑑定を採用することは困難といわなければならない。
その上,発達障害が重度であるとする診断について,上記cのとおり,DSM-
Vの診断基準に照らし,生活全般に破綻の見られない被告人について重度と評価し得
るかについて疑義がある上,双極性Ⅰ型障害の診断についても,その診断基準のうち
気分の障害が社会的機能に著しい障害を引き起こしている,あるいは自己又は他人に
害を及ぼすことを防ぐため入院が必要であるほど重篤であることとされる基準に照
らし,被告人の場合に当てはまるとは考え難い。さらに,双極性Ⅰ型障害とする診断
は,鑑定の際のグラフィングで被告人が本件各犯行当時の気分について躁状態を意味
する2の数字辺りに記入したことと,被告人面接で被告人がした本件各犯行当時の気
分に関する供述を前提としたものであるが,上記のとおりグラフィングの臨床診断上
の有用性は認め得るものの,本件では平成28年5月から8月までに実施された鑑定
期間中に被告人が高校1年生時の平成23年4月から逮捕後の平成27年7月まで
の気分の変化の度合いを被告人の判断で記入させたという方法で作成された記録で
あるから,Ⓒ鑑定人が自認するとおり,正確性に限界のある検査手法といわざるを得
ない。そして,Ⓒ鑑定人が家庭裁判所で実施した鑑定時と併せて2回にわたり実施さ
れたグラフィングの結果がおおむね一致したことなど,検証を加えた点を踏まえても,
Ⓒ鑑定人が述べるように被告人の気分に日内変動があることや,そもそも被告人の本
件各犯行時及びその前後の行動に検討を加えていないことに照らすと,グラフィング
によって本件各犯行当時の被告人の精神状態を正確に把握できたものとは認め難い。
また,Ⓒ鑑定人は,本件各犯行時の被告人について,全てが許されると考える状態で
あったと判定するが,被告人自らハイテンションだったと述べるものの,全てが許さ
れると述べておらず,むしろ被告人の本件各犯行時及びその前後の行動に自己の行為
の違法性や有責性を認識していたことを示す事実が認められるから,鑑定の前提とす
べき事実や経過を見誤っているものというほかない。
以上のとおりであるから,Ⓒ・Ⓑ鑑定に依拠して被告人の責任能力を認定判断する
ことはできないというべきである。
dなお,所論は,被告人の殺人欲求の想念について,被告人の意思によら
ずに湧き上がってくる強迫症状といえる,とするⒷ鑑定人の原審供述(以下「Ⓑ証言」
という。)に依拠し,その症状が被告人の発達障害及び双極性障害による異常な精神
症状が生じていることを証明するものであり,原判決の責任能力の認定に合理的な疑
いを生じさせる,という。しかし,Ⓑ証言は,次のような内容である。すなわち,Ⓒ・
Ⓑ鑑定実施に伴うⒾ病院での鑑定入院中に被告人に対して薬物療法,精神療法及び心
理教育を施し,まず,薬物療法によって気分が安定するようになり,医療関係者によ
る介入に抵抗がなくなり,更に精神療法と心理教育を細やかに行っていく中で,それ
まで自分が病気であるという意識が全くなかったのが,自分にずれがあることに気付
いて悩み始めるという変化が見られた,発達障害はその基盤は変わらないが,被告人
の殺すことに関するかなり奇妙な認知の在り様を変えることができる,ただし薬物療
法だけで変えることはできず行動療法が必要である,強迫症状と診断した経過は,上
記入院期間の終盤になると,被告人がそれまで自分に対して全く抱いていなかった違
和感を感じ始めたことから,違和感があるのにそれが湧き上がってくることを強迫症
状と呼称するので,それを用いるのが妥当と考えたほか,強迫症状となれば治療の枠
組みに入れやすくなり,強迫神経症の治療方法を用いることができるために有用と考
えた結果である,というものである。このように,Ⓑ鑑定人は,鑑定入院中に薬物療
法,精神療法及び心理教育を施した結果,被告人の心理状態に見られた変化を捉え,
これを強迫症状と診断することで強迫神経症の治療方法を被告人に用いることがで
きるという有用性を踏まえて,上記診断をしたと見られるもので,治療という目的を
優先させた結果の診断であると認められる。しかも,それまで被告人自身が違和感を
全く感じていなかったともいうのであり,原審記録に照らしても,本件各犯行時及び
その前後に,被告人が違和感を抱いているのに自己の意思によらずに殺人欲求が湧き
上がってきていたと見られるような事実関係は全くうかがえないから,本件各犯行当
時の被告人に強迫症状が存在したとは考え難い。さらに,所論は,被告人の人を殺し
たいという考えについて,発達障害により興味が限局して生じた強い執着であり,強
迫症状又は自生思考と捉えることは誤りであるという原審Ⓐ証言とも矛盾するもの
である。したがって,Ⓑ鑑定人による強迫症状とする上記診断は,原判決の責任能力
の認定に合理的な疑いを生じさせる事情ではない。
さらに,所論は,原判決の責任能力判断の前提事実の認定及びその評価に
誤りがあり,それが判決に影響を及ぼすことが明らかであるという。しかし,まず,
所論がⒸ・Ⓑ鑑定に依拠し,本件各犯行当時の被告人の発達障害及び双極性障害の精
神症状が重篤であったことを前提として論じる部分は,既に述べたとおり,その鑑定
結果の信用性を肯認することができないから,採用の余地がない。次いで,所論に鑑
み,各犯行について個別に検討する。
aタリウム事件(①)の各犯行について
所論は,原判決がタリウム事件の前や犯行経過等に被告人の責任能力
を否定すべき特異な言動があるのに,それらの事実を認定せず,都合の良い一部の被
告人の行動だけを拾い出す誤った事実認定をしたとして,被告人が,タリウム事件に
先立つ時期に,皮膚断面を観察する目的で自己の腕を切り,人体の反応を確認する目
的で鎮痛剤等を大量に摂取し,毒性の強い亜硝酸ナトリウムを自らなめたほか,他人
から見てもハイテンションな状態で,妹に硫酸タリウムの入手を楽しそうに話したこ
と,①㋐の犯行後に気分変動が見られたこと,㋐及び㋑の犯行で硫酸タリウムの投与
量を確信し,㋑ⓑの犯行で1回目に被害者に投与した硫酸タリウムがほとんど体外に
排出されたと確信し,分散投与の影響を確かめたい気持ちを抑えられずに2回目の投
与に及んだ事実を認定しなかった,というのである。
しかし,所論が指摘する上記事実は,その評価は別として,原審記録中の被告人の
公判供述等の証拠に現れた事実であるとともに,原審弁護人の弁論で指摘されたもの
であり,その原審弁護人の主張を受けて,原判決が,争点に対する判断の「⑹弁護人
らの主張」の「ウ本件各犯行時の被告人の言動」の項(34頁)で,原審弁護人が本
件各犯行時及びその前後における被告人の行動の異常性を指摘した点について,本件
各犯行時の被告人の判断能力や行動制御能力に問題があるという疑いを差し挟む事
情でない旨の判断を示しているから,上記事実を考慮していないとする所論は当たら
ない。さらに,Ⓐ鑑定を採用した上で原判決が認定した事実に加えて所論指摘の上記
事実を考慮しても,タリウム事件の各犯行当時に被告人に完全責任能力が備わってい
たという判断に至ることは不合理といえないから,原判決も,上記事実を考慮しても
犯行当時の被告人の精神障害の犯行への影響が限定的であり,被告人に完全責任能力
が備わっていたものと判断したと解される。要するに,原判決は,その結論を導いた
推論過程で重視しなかった上記事実を逐一指摘しなかったにすぎないものであり,所
論は採用できない。
さらに,所論は,原判決が被告人の問題行動を通常の範疇に収まる行動である旨の
誤った評価をした,という。この点について,原判決は「被告人の生活状況をみても,
自宅や高校で特に異常な言動はしておらず,おおむね通常の範疇に収まる行動をとっ
ていた。」(23頁末行ないし24頁2行目)と説示している。そして,化学薬品につ
いて,学校に持参して同級生になめさせたり家庭で自分や妹がなめたり父親に見付か
って警察で厳重注意を受けるなどの特異な行動が一部に見られることは,所論のとお
りであるものの,同級生が被告人について変わった言動があるものの常軌を逸してハ
イテンションな状態ではなく,人当たりが良くて周囲とうまく交友していると受け止
めており,学業面や交友関係等の学校生活や家庭生活の継続に支障を来すほどの破綻
した生活態度や言動が見られなかったこと,父親や警察に発覚した際に反省の態度を
見せるなど,常識的な対応をしていることなどを考慮すると,原判決の上記説示が誤
りであるとする評価は当たらない。
なお,被告人が①㋐の犯行時に非常階段で開封した硫酸タリウム瓶にストローを突
き刺したが僅かな量しか付着しなかったため,同所で硫酸タリウムを混入させること
を断念した旨の原判決の説示(7頁23行目ないし8頁3行目)は,非常階段でスト
ローに硫酸タリウムを付着させて混入しようとしたが,ほとんどストローについてい
ない状態で0.1グラムも入っていない感じであったので,カラオケの部屋に戻って
からもう1回混入したという被告人の原審供述に照らし,「断念した」と表現した点
で正確を欠くといわざるを得ない。しかし,この誤りは原判決の結論に結び付くもの
でないから,判決に影響を及ぼさない。
また,所論は,原判決が「各犯行の準備段階において,年齢を偽って硫酸タリウム
を入手した」(23頁24行目)と説示した点について,硫酸タリウムが被告人の限局
した興味の対象となって買い集めた複数の薬品の一つにすぎず,犯行の準備として購
入したものでなく誤りである,というが,硫酸タリウムを含む薬品を購入した理由と
して収集して所持したい気持ちと人に投与したい気持ちの双方があったという被告
人の原審供述に照らし,上記説示が誤りとはいえない。所論は,被告人が硫酸タリウ
ムの購入時点で特定の被害者に対して投与することまでは考えていなかったことを
捉えて,「各犯行の準備段階」との説示の誤りをいうものと解されるが,原判決も硫酸
タリウムの購入がタリウム事件の各犯行の準備行為と認定しているものでないから,
所論は当を得ない。
⒝次に,動機及びその形成過程について,所論は,被告人の発達障害の
特性を理解して初めて説明可能となるものであり,通常人の心理として了解可能なも
のでないのに,原判決が,判断過程で除外すべき被告人の障害特性を踏まえた上で,
硫酸タリウム投与の動機が了解可能であると判断し,動機形成過程が通常の心理過程
の延長として十分に理解が可能である旨説示したほか,タリウム中毒の症状を自分の
目で見ることが次第に現実のものとして近づく中で欲求を膨らませて自身の気分を
高揚させていった,①㋑の1回目の投与で想像したほど症状が出ていないことから2
回目の投与に及んだ,などと被告人の原審供述等の証拠に基づかない認定をしたこと
が誤りである,というのである。
しかし,発達障害の特性に由来する興味の限局について,その興味の対象が人によ
って異なることに加え,被告人が,高校で化学の成績が良かったことから化学に関す
る興味を深めて化学薬品に強い関心を持ち,インターネットで調べるなどする中で毒
性の強い硫酸タリウムに執着するようになったというのであるから,そのような経過
に照らして,興味の対象を選択したのは被告人自身の考えに基づくと見るべきである。
また,被告人が発達障害に起因する興味の限局として化学薬品,取り分け硫酸タリウ
ムに強い興味や関心を偏らせたことを踏まえても,被告人自身の考えに基づいて形成
した動機であり,了解可能と判断することは不合理でない。そして,動機が形成され
た過程を見ても,強い興味の対象を入手してうれしさの余り家族に話したり同級生に
見せびらかしたりする,手元にあったため実際に使用してみたくなる,使用してみた
が想像と異なっていたためもう一度使用して確認してみる,という心情や行動自体は
通常の心理過程として理解することが可能であり,単に興味の対象が特異であったに
すぎないから,被告人が当時16歳で精神発達が未成熟であることを併せ考慮して,
通常の心理過程の延長として十分理解可能と評価した原判断が不合理とはいえない。
所論は,通常人であれば投与された人の苦痛を想定できるから,タリウム化合物を
人に投与すれば中毒症状が出ることを知りながら単に中毒症状を見てみたいという
動機で人に投与しようと考えることはあり得ず,被告人の発達障害の特性を前提とし
なければ動機を了解可能といえない,というが,そもそも発達障害のない者が中毒症
状を観察する目的でタリウム化合物を人に投与する行為に及ぶことがあり得ないと
いう前提自体が根拠を欠くといわざるを得ない。
なお,原判決が証拠に基づかずに動機形成過程を認定したとする所論について,原
判決の認定した動機及びその形成過程は,被告人の原審供述の内容と異なるとしても,
原審で取り調べられた証拠によって認められる事実関係から合理的に推認できるも
のであるから,事実の誤認はない。
⒞さらに,犯行前後の被告人の行動等について,所論は,被告人が各犯
行に向けて筋の通った合目的的な行動をした旨の原判決の評価が誤りであるといい,
具体的に,観察目的に不適切な対象者を選択したことや,硫酸タリウム購入時に身分
証明書が必要と考えていなかったことを指摘する。
しかし,被告人は,他人に対する硫酸タリウムの投与を決意するや,その投与対象
者について,まず,最初に実行を決意した日が日曜日であったため,休日に自然に呼
び出せる小中学時以来親しい友人を選定し,次に,同日の夜か翌月曜日の朝に再度実
行を決意すると,通っている高校で座席が近いため,硫酸タリウムの飲料への混入が
比較的容易で,発現した中毒症状を観察しやすいと考えた同級生を選定したもので,
このように投与の機会が得られるとともに,直接又は間接に中毒症状を知ることが一
定の程度可能と考えられる身近な人物を選定したものであるから,対象者の選定につ
いて筋の通った合目的的な行動と評価した原判断に誤りはない。しかも,被告人が,
後記のとおり各被害者に完全に溶け切らせた硫酸タリウム入りの飲料を飲ませたほ
か,別の同級女子生徒に投与しようとした際に硫酸タリウムが飲料に溶け切らなかっ
たために実行を中止したことから,自己の犯行と気付かれないよう隠密に投与するこ
とを企図していたことがうかがえるところ,観察する目的に最も適した家族を対象に
しなかったことも併せ考えると,硫酸タリウム投与の実行及び中毒症状の観察の実現
に加えて自己による犯行発覚を免れる目的のいずれをも満たす対象者として,各被害
者を選定したことは合目的的と評価することができる。
そして,各犯行時の行動を見ても,被告人は,各被害者のほか,カラオケ店の客や
従業員,あるいは学校の同級生が誰もいない状況になった機会を捉えて,あらかじめ
用意した硫酸タリウムを各被害者の飲料に混入したのであるから,硫酸タリウムの混
入について,他人に隠して実行すべき行為と認識していた上,そのような犯行の実行
に適した機会がどのような状況であるか分かっており,その機会が訪れるまで待つこ
とのできる精神状態であったものと認められる。しかも,被告人がカラオケ店で,1
回目の混入量が少なかったと思ったことから,被害者が席を立つ機会を待った上で2
回目の混入に及んだことからも,状況を理解した冷静な判断をしたものといえる。さ
らに,混入後の飲料をかき混ぜたり回し振ったりして,硫酸タリウムを完全に溶解さ
せて各被害者に投与した行動から,各被害者に知られることなく確実に投与しようと
したものと認められる。このように,各犯行時の被告人の行動は,各犯行の実現に向
けた合目的的な行動といえる上,その際の被告人の判断能力や行動制御能力が著しく
障害されていなかったことを示している。
その他,所論の指摘する事情を検討しても,被告人が各犯行に向けて筋の通った合
目的的な行動をしたと評価した原判断に誤りがあるとは認められない。なお,被告人
が硫酸タリウム購入時に身分証明書を要求されると考えていなかったとしても,当時
16歳という年齢に照らして不自然とも不合理ともいえないから,被告人の責任能力
に疑いを差し挟む事情ではない。
⒟以上のような被告人の行動等に照らし,犯行動機が発達障害に起因す
る興味の限局に基づくタリウム中毒の症状の観察という欲求に影響されているもの
の,その欲求を満たすために硫酸タリウムを他人に投与することは被告人自身が決意
した上,各犯行の実現に向けて合目的的に行動し,上記欲求により気分が高揚してい
る状態であっても,犯行の機会が訪れるのを冷静に待つことのできる精神状態にあり,
違法性の認識もあったものと認められるから,発達障害及び軽躁状態の影響が限定的
であり,判断能力及び行動制御能力が著しい減弱状態になかったことについて,合理
的な疑いを差し挟む余地はない。
b火炎瓶事件(②)の各犯行について
所論は,原判決が,犯行の前や直前直後における被告人の睡眠時間の
減少,深夜の無目的な自転車による徘徊,犯行時に火炎ペットボトルを衝動的に縁側
に置いたこと,確実に焼死体ができると確信したことなど,被告人が躁状態であった
ことを示す事実を認定しなかったことが事実の誤認である,というが,被告人が火炎
瓶事件の各犯行時に躁状態であったという前提自体が誤りである。そして,上記a
と同様,所論指摘の事実のうち原審記録中の証拠に現れた事実であって,原審弁護人
の弁論で指摘された点に関し,原判決が個別の説示をしていないものの,検討を加え
た上で各犯行時の被告人の判断能力及び行動制御能力に著しい影響を及ぼさなかっ
たと判断したものと解されるから,その点に事実の誤認はない。
なお,所論は,上記事実を発達障害の特性と捉えた原判断が誤りであるというが,
この点に関する原判決の説示は次のようなものである。すなわち,原審弁護人が,被
告人がⓐ重篤な発達障害かつⓑ重度の躁状態を伴う双極性Ⅰ型障害であるとする主
張を前提とし,本件各犯行時及びその前後の被告人の行動にずさんな点や場当たり的
な点があることを挙げてその異常性を指摘したことに対し,被告人が興味の限局する
特性のある発達障害を抱えていることに照らし,本件各犯行時に意識が当該犯行ばか
りに向き,周辺的な状況や事後のことに関心が向かずにずさんな点や場当たり的な点
が生じても不自然でなく,そのような被告人の発達障害に対する適切な理解を基礎と
すれば上記指摘の点はいずれも十分に説明が付くものであり,そもそもⓐⓑの主張が
採用できないことも併せ考えれば本件各犯行時の判断能力や行動制御能力に疑問を
差し挟む事情でない(34頁ウの項),というものである。この説示から見ると,原判
決は,被告人の関心が当該犯行に集中してその余のことに向かなかったことが発達障
害の特性に基づくことを説明したにすぎず,所論指摘の事実を発達障害の特性そのも
のと捉えたものでないから,原判決の上記判断に不合理な点は認められない。また,
原判決は,被告人が上記ⓑの重度の躁状態を伴う双極性Ⅰ型障害とする主張を採用し
なかったから,所論が躁状態を示すとする事実について,躁状態を示すものでないと
判断したと認められ,所論は前提を欠く。
さらに,所論は,その指摘する躁状態を示す上記事実に加え,原判決の指摘する法
医学者の書籍を再読するや直ちに犯行を実行に移した,高校の制服を着用して深夜徘
徊をした,被害者方居宅を妹の同級生の居宅と思い込んだ,不合理な放火方法を選択
した,という犯行時及びその前後の事実関係を併せ考慮すれば,被告人の責任能力に
合理的な疑いが生じるのに,原判決は考慮すべき事実を無視して完全責任能力を備え
ていたという誤った評価をした,という。しかし,放火方法の選択が不合理なものと
いえないことは,後記⒟のとおりであり,被告人がその当時に高校の制服を好んで日
頃からよく着用していたと述べていることに照らし,制服を着用して深夜徘徊したこ
とが所論のように行動の異常性を示すとは考えられない。所論の指摘するその他の点
を考慮しても,火炎瓶事件の各犯行当時の被告人の判断能力及び行動制御能力が著し
く障害されていたといえないとした原判断について,不合理な点は認められない。
⒝もっとも,被告人が放火を実行する目的で実家から外出した日時につ
いて,原判決が被告人の検察官調書(乙第9号)に依拠して平成26年8月30日午
前2時から午前2時30分頃と認定した点は誤りであり,所論のとおり被告人が原審
公判で述べた同年8月29日午後9時頃と認定すべきであった。すなわち,原判決は,
被告人の上記原審供述の信用性を否定した理由について,実家に居住する母親や妹が
被告人の行動に気付いた形跡がないことと,被告人が上記検察官調書から供述内容を
変更したことに関し合理的な説明がないことを挙げているが,まず,家族が気付いた
形跡がない点について,当時の被告人が両親と余り接していなかったことや,火炎瓶
事件の各犯行時から母親や妹が捜査機関による事情聴取を受けるまでに数か月以上
が経過していたことに照らし,同月29日午後9時頃に被告人が外出したとしても,
家族が気付かなかったか記憶していなかった可能性を否定できない。その上,被告人
が供述内容を変更した理由について,原審公判で,その当時は夜中に外出することが
多く,別の日の午前2時ないし2時30分頃に外出した記憶と混ざってしまった,火
炎瓶事件のときは外出後に深夜営業をしていない店に立ち寄った記憶がある,実家で
居ても立ってもいられなくなって外出した,といい,思い出した経過について,弁護
人との接見で放火殺人未遂事件(④)前後の話を聞かれて自転車で徘徊していたこと
を思い出し,次いで火炎瓶事件のときも同様であったことを思い出した,と述べてい
るところ,そのような理由や経過で犯行前の外出日時に関する供述を変更しても必ず
しも不合理とはいえない。その上,被告人が発達障害の特性により質問者の意図を理
解することが困難で,余り重要と考えずに明確な記憶がなくても理論的に整合する回
答をする場合があるという供述傾向がうかがわれることからも,上記供述の変更が被
告人の原審供述の信用性を否定すべき事情とは認め難い。
ただし,被告人が②㋑の点火に及ぶ数時間前に実家から外出した上,同犯行に及ぶ
まで長時間にわたり自転車で徘徊していた事実を考慮しても,原判決が認定した火炎
瓶事件の各犯行時及びその前後の被告人の行動全体を見ると,被告人の発達障害と双
極性障害の精神症状が火炎瓶事件の各犯行時の被告人の判断能力及び行動制御能力
に著しい影響を及ぼしたものとは認められないから,原判決の上記外出日時に関する
誤認は判決に影響を及ぼすものではない。なお付言すると,被告人の各犯行時頃の睡
眠時間の減少や深夜徘徊に関するエピソードは,気分の高揚ないし軽躁状態であった
と見ることができるから,そのようなエピソードの存在から直ちに被告人が各犯行時
に躁状態にあったと認めることはできない。そして,後記⒟のとおり,各犯行時及び
その前後の被告人の行動を見れば,躁状態になかったことが優に認められる。
⒞動機の了解可能性について,所論は,人の死や焼死体に強い興味を持
つこと自体が健常な精神状態における動機として理解できないものであり,被告人の
精神障害の特性を前提にしなければあり得ない,というようであるが,所論の前提自
体に根拠がなく,採用の限りでない。
そして,被告人は,発達障害に起因する興味の限局として人の死や焼死体に強い興
味や関心を抱いていたところ,火炎瓶事件の各犯行前に焼死体について記述された法
医学者の書籍を読んで生活反応のある焼死体を見たくなり,自ら放火してそのような
焼死体を作ろうと考えて犯行を決意したものと認められる。そして,そのように被告
人が人の死や焼死体に興味や関心を偏らせたのは,上記a⒝と同様に,被告人自身の
考えから出たものというべきである上,焼死体を観察したいという欲求を満たすため
に自ら焼死体を作る目的で放火を決意したこと自体も,被告人自身の意思であるから,
原判決がその動機が了解可能と判断したことについて,不合理な点は認められない。
⒟犯行の合目的性について,所論は,被告人が,家屋に放火するに当た
り,火炎ペットボトルを用いたことが延焼の危険性のないものを選択した突飛で稚拙
な方法とする前提の下で,その方法を考え付いてから約2年が経過した後に変更を加
えないまま実行に移したことをもって,犯行時に被告人が重篤な躁状態に支配されて
行動抑制が効かなかったことを示す,という。
しかし,火気を燃料と共に使用する方法であるから,家屋に放火する手段として合
目的的と評価することができ,所論のように異常な行動とは見られない。若干付言す
ると,被告人が製作した火炎ペットボトルは空の500ミリリットル容量のペットボ
トルに約350ミリリットルの灯油を入れ,その口に新聞紙を挿し込んで芯としたも
のであり,被告人は,実際の放火時に家屋の縁側にそのボトルを置き,それに被せる
ように着火剤をまいた後,新聞紙の芯にマッチで点火しており,単純に火気を用いる
だけでなく,燃料と着火剤を用いるなど,火力を増すように工夫を凝らしている上,
被告人はインターネットで調べて火炎瓶による放火の方法を知り,ペットボトルを用
いれば中の芯に着火すると燃えて中に入れた灯油に引火した後にペットボトルが溶
けて中の灯油が外に流れ広がり引火して対象物を燃やすことができるという発想の
下で,本件で使用した火炎ペットボトルを製作したものであるから,そのような被告
人の認識に照らしても,火炎ペットボトルによる放火が手段の選択として合目的的で
あるという原判決の評価が経験則に反して不合理であるとする所論は採用できない。
そして,上記のような火炎ペットボトルの構造やそれを家屋の掃き出し窓に接着する
木製の縁側に置いたこと,現にその窓のガラスをひび割れさせた結果からして,延焼
の危険性がなかったとはいえない。
また,約2年前の計画をそのまま実行することがあり得ないとする所論の前提自体
が根拠を欠くものというほかない。そして,被告人が火炎瓶事件の各犯行時に重篤な
躁状態に支配されていなかったことは,その犯行時及びその前後の被告人の行動等か
ら明らかである。すなわち,被告人は,放火を決意するや,その対象とする住居につ
いて,放火の実行が比較的容易で,葬儀に参列して焼死体を見ることのできる対象者
が居住すると考えていた家屋を選定して被害者方居宅を狙い,家人の寝静まった深夜
の時間帯まで待ってから放火を実行したものであり,被告人が焼死体を見たいという
欲求を抱きながら,実行に適した機会を待つことのできる精神状態であったことや,
自己の行為が違法であることを認識していたことが明らかである。さらに,被告人は,
火炎ペットボトルを準備,持参して被害者方居宅に赴き,上記のとおり合目的的な手
段によって放火の犯行を実行した後,直ちにその場から退去したものであり,被告人
が重篤な躁状態に支配されて行動抑制が効かない状況にあったとは考えられない。
以上のような被告人の行動等に照らし,犯行動機について発達障害に
起因する興味の限局に基づく焼死体の観察という欲求に影響されているものの,犯行
を決意したのは被告人自身の判断に基づく上,犯行実現に向けて合目的的に行動し,
かつ,冷静な精神状態にあって,違法性の認識もあったといえるから,発達障害及び
軽躁状態の影響は限定的であって,被告人の判断能力及び行動制御能力は著しく減弱
した状態になかったことが明らかである。
c殺人事件(③)の犯行について
所論は,原判決が被告人の犯行時及びその前後の行動等のうち被告人
の責任能力を疑わせるような事実をあえて認定せずに,犯行時の判断能力や行動制御
能力に問題がないと評価したこと(27頁19行目及び20行目)が事実誤認である
といい,具体的に次のような事実を指摘する。すなわち,被告人が犯行前の数日間に
わたって眠れないまま数時間も自転車で徘徊する状態にあったことや,犯行の最中に
カーテンが開いた状態で実行に及ぶなど,人目を気にすることと矛盾する行動が認め
られること,殺す気なのかと尋ねた知人である被害女性に対し,「はい,人を殺してみ
たかった。」と返答して殺害行為に及ぶという異常な言動があったこと,犯行後に遺
体の断面を見たくなってのこぎりを買いに行き,ついでに菓子を購入したほか,試験
勉強をするなど,状況を冷静に理解していると思われない行動をとっていたこと,遺
体を自室に放置して帰省したことなどをあえて認定しなかった,というのである。
しかし,被告人が殺人事件の犯行時に躁状態にあったとする前提が誤りである上,
上記aと同様に,所論指摘の事実のうち原審記録中の証拠に現れた事実であって原
審弁護人の弁論で指摘された点に関しては,原判決で個別の説示までしなかったもの
の検討を加えた上で犯行時の被告人の判断能力及び行動制御能力に著しい影響を及
ぼしていないと判断したものと解されるから,その点に事実の誤認はない。そして,
犯行前の被告人の睡眠時間の減少や深夜徘徊の事実から犯行時に被告人が躁状態で
あったといえないことは,上記b⒝で説示したところと同様である。なお,犯行時の
カーテンの状態や遺体の放置に関する所論の指摘が当を得ないものであることは後
記⒟のとおりである。さらに,犯行時の知人女性に対する応答のほか,犯行後にのこ
ぎりと菓子を購入したことや試験勉強をしたことは,被告人の発達障害の特性である
共感性の欠如や興味の限局に由来する言動と見られるが,それらの行動を踏まえても,
後記のような犯行時及びその前後の被告人の行動に照らし,犯行時の被告人の判断
能力及び行動制御能力に著しい影響を与えるような病的な精神症状は認められない。
⒝次に,動機の了解可能性について,当時19歳であった被告人が人の
死や少年犯罪に強い関心を抱いていたことに照らし,成年に達する前に自分の手で人
を殺す体験をしてその際の人が死にゆく様子を見てみたいという動機が十分了解可
能なものとした原判決の判断に不合理な点は認められない。これに対し,所論は被告
人の精神障害がなければ上記のような関心を抱くことがなく,上記のような動機から
犯行に及ぶことがあり得ないとの前提に立つものであり,採用の限りでない。そして,
被告人は,発達障害に起因する興味の限局により人の死や人を殺すことに強い興味や
関心を抱いていたものであり,本件で自分の手で人を殺す体験をして人の死亡する過
程を見たいという欲求から犯行に及んだものであるが,前記f及びdで述べたと
おり,人の死や人を殺すことに興味や関心を抱いてそれを深めたのは被告人自身の意
思によるものであって,精神病症状に影響されたものでないから,動機が了解可能と
した原判断は不合理なものでない。
また,所論は,動機形成過程に関する「憧れていた犯行を目前にして胸が膨らみ,
それを実現した達成感を覚えるという通常の心理過程」(26頁22行目及び23行
目)である旨の原判決の説示について,快楽殺人である可能性を否定した鑑定人3名
の一致した専門的意見を無視したものであり,躁状態による気分の高揚という双極性
障害の精神症状であるのに,証拠上の根拠なく誤った認定をした,というが,被告人
が犯行前及び犯行時に躁状態にあったとする前提が誤りである上,原判決の上記説示
は,原審で取り調べられた証拠により認められる事実から推認し得るものであるから,
不合理といえず,被告人がそれに沿う供述をしていないことが上記認定を妨げるもの
ではない。もとより原判決が快楽殺人であるとする動機を認定したものでないことは,
その説示に照らして明らかである。
⒞さらに,所論は,被告人が犯行の約1か月前に殺人に及ぶか否かを逡
巡していた事実について,被告人に殺意が浮かんだ場合でも躁状態に至っていなけれ
ば犯行を抑制できたから,犯行の約1か月前に逡巡していた事実が犯行時の責任能力
の判断に当たり意味のないものであり,原判決が犯行時に被告人が逡巡しなかった事
実を考慮せず,犯行時や直前の気分の高揚を無視して誤った判断をした,というもの
と解される。しかし,犯行の約1か月前に被告人が警察に捕まることで大学院への進
学が困難になることに思い至り,殺人に及ぶことを逡巡した事実は,被告人が自分の
実行しようとしている殺人行為について警察に逮捕される違法行為であることを明
確に認識していたことを示す事情であるから,殺人事件の犯行について違法性を認識
しており,被告人に判断能力があったことを示す一事情として責任能力を判断する上
で十分に意味のある事実である。そして,犯行時及びその前後の行動等に照らしても,
殺人事件の犯行時に被告人に上記のような違法性の認識が欠如した精神状態にあっ
たとは認められないから,犯行時に被告人に逡巡が見られなかったとしても直ちに原
判決の責任能力に関する判断を左右するものでなく,原判決が犯行時や直前の被告人
の気分の高揚を考慮せずに誤った判断をしたとはいえない。
⒟また,所論は,被告人の犯行時や犯行後の行動について,原判決の評価
に誤りがあるといい,閲覧者の制限されていないアカウントから犯行に関するツイー
トを書き込む,多数の集会参加者と会話をする,カーテンを閉めずに犯行に及ぶなど,
人目を気にしていないことを示す事実を認定しながら,人目を気にするような行動も
うかがわれるとする矛盾した認定をしたことや,仙台帰省後に妹に血の付いたズボン
を洗わせた行為を証拠隠滅行為と評価したことが誤りである,というのである。
しかし,まず,「人目を気にするような行動」(27頁7行目)という原判決の説示
は,被告人が犯行着手後に自室のカーテンを閉めたことや,犯行後に仙台に帰省する
ことで現場を離れた上で,妹にズボンを洗わせたことを指すものと理解できるから,
その判断に誤りはない。すなわち,犯行着手時にカーテンが開いていたものの,被告
人が知人女性を手斧で殴打している最中にカーテンが開いていて向かいのアパート
から自室内が丸見えになっていることに気付いたことから,急いでカーテンを閉めた
ことに照らし,人目を気にしていたことは明らかである。次いで,所論は,Ⓗ証人の
論文及び被告人の原審供述を根拠に,妹にズボンを洗わせた行為が証拠隠滅行為でな
いというが,Ⓗ証人が被告人との面接等に基づいて事件当時の被告人の行動等を検討
したものでない以上,同証人の見解は根拠に乏しいものといわざるを得ない。また,
被告人の原審供述は,妹がよく家の洗濯をしていたから血の付いたズボンを洗うよう
頼んだ,というものであるが,上記ズボンをあえて持参して仙台に帰省した後,妹に
洗濯させた行為自体に照らし,証拠隠滅の意図があったと評価した原判断が不合理と
はいえない。さらに,所論は,被告人が遺体を自室に放置していたことや,知人女性
の靴を玄関に置いたままにしたこと,同女の所持品を入れたごみ袋を自宅アパート前
のごみ捨て場に捨てたことについて,証拠隠滅と程遠い行為であり,それらの行為に
表れた障害特性に鑑みれば,上記の洗濯をさせた行為が証拠隠滅行為とはいえないと
いうが,遺体が被告人の限局した興味や関心の対象から外れていたと見ることができ
るほか,被告人が犯行後に二度にわたり来訪した母親に対して理由を付けて自室への
入室を頑強に拒んだことは,放置していた自室内の遺体を見られたくなかったからと
しか考えられないこと,知人女性の所持品をごみ袋に入れて捨てる行為自体が証拠隠
滅を企図した行為と見るほかないことから,所論は前提において失当である。なお,
被告人が靴について玄関に置くのが自然と考えていたことから,この点も被告人に証
拠隠滅の意図があったことと必ずしも矛盾する行動とはいえない。
そして,所論指摘のツイートは犯行の具体的内容を記述したものでない上,被告人
が殺人事件の犯行を実行した事実を伝えた相手が妹と親しい女友達1名だけであり,
同女に対する伝え方も証拠を残さないことを企図して手段を選択した上で行ってい
ることに照らし,人目を気にしたことと矛盾しない。また,犯行前の集会参加時に多
数の宗教関係者と会話したことは,その場で不自然に思われない行動をとったと見ら
れるもので,犯行後に被告人方を訪れた同じ関係者に知人女性が既に帰宅したなどと
話して,犯行発覚を免れるためのうそをついたことからも,被告人が人目を気にしな
い行動をとったものとは見られない。
さらに付言すると,殺人事件の犯行時及びその前後の被告人の行動に
照らし,犯行時に被告人に完全責任能力が備わっていたものと判断した原判決に誤り
はない。すなわち,被告人は,自分の手で人を殺してその死亡する過程を見たいとい
う欲求から殺人の実行を考え,観察しやすさから自室内で殺人を実行することとし,
自室内に招き入れやすい対象者として,宗教勧誘のため一度被告人方を訪問したこと
があり,再訪する予定のあった知人女性を選定した上,再訪日までの1週間のうちに
最も抵抗されにくい殺害方法を考えている。また,被告人は,当日に知人女性が自室
を訪問すると,事前にその機会に殺害することを想定していたものの,同女とすぐに
宗教の集会に参加する話になったことから同道して集会に参加した後,宗教に興味を
持ったので解説してほしいといううそをついて同女を自室に招き入れている。さらに,
被告人は,自室内で事前に計画したように呈茶を装って同女の背後に回る目的で茶を
勧めたが,同女から断られて背後に回る口実を失うと,少し動揺したものの,聖書の
解説を依頼してその間に背後に回る別の口実を考えた上,それを実行して同女の背後
に回り,用意しておいた手斧を用いて同女を殴打したものである。このように,被告
人は,観察する目的で殺害することの可能な被害者の選定や,抵抗されにくい殺害方
法等を合目的的に考えて殺人計画を練った上,実行に適した機会を待って殺人を実行
し,予定外の状況が生じても,その場で目的達成に適う臨機の対応ができたものであ
り,冷静な精神状態で合目的的な行動をしたものといえる。しかも,犯行の態様は,
事前に計画したとおりに頭部を手斧で複数回にわたり殴打した後,その場で思い付い
たとはいえ知人女性のマフラーで頸部を複数回にわたり強く絞めつけたというもの
であり,殺害及び観察の目的に適う行動として不自然な点がない。そして,上記⒟の
とおり犯行の最中に自室のカーテンを閉めたことや,殺害後に知人女性の携帯電話機
のGPS機能の作動が気になって電源を確認し,同女の所在確認のために自室を訪ね
た宗教関係者に対し,知人女性が帰った旨のうそをついたことから,被告人に違法性
の認識があったものといえる。
以上のとおり,所論指摘の事実を考慮しても,犯行時及びその前後の被告人の行動
等に照らし,被告人が犯行時に発達障害に起因する殺人欲求に支配されて行動抑制が
効かなかったとはおよそ認められない上,被告人の衝動性や双極性Ⅱ型障害による軽
躁状態の影響がそれほど見られず,犯行時の被告人の判断能力及び行動制御能力に問
題がないものと評価した原判断に不合理な点は認められない。
d放火殺人未遂事件(④)の犯行について
所論は,被告人が犯行前に睡眠時間が極端に減少したのに眠気を感じ
ず,12月の仙台で夜中に数時間にわたり自転車で徘徊しながら疲れや寒さを感じな
かったという明らかな躁状態にあった事実に加え,犯行時にハイテンション状態にな
って妹が止める間もなく実家を出発して犯行現場に向かい,センサーライトや防犯カ
メラを気に留めず,放火したことも忘れていたという躁状態を示す事実をあえて認定
しないまま,実家を出発するまでの間に特段の異常な言動が見られず,犯行時に適切
な状況判断をし,おおむね合理的な行動をとっていると評価した点で事実誤認がある,
という。しかし,まず,放火殺人未遂事件の犯行時に被告人が双極性Ⅰ型障害の精神
症状である躁状態にあったとする前提に立つ所論は,前提を誤っている。そして,被
告人の犯行時及びその前後の行動や経過のうち,被告人の責任能力の存否に影響する
躁状態を示す事実をあえて認定しなかったという所論について,その指摘する事実関
係は原審記録中の証拠に現れているから,原判決もそれらの事実を考慮した上で責任
能力に関する判断を示したと解される上,上記事実関係を考慮しても,犯行時及びそ
の前後の被告人の行動等に照らし,被告人の発達障害のほか飲酒や双極性Ⅱ型障害に
よって説明が可能であり,それらの障害が犯行時の被告人の判断能力及び行動制御能
力に与えた影響が限定的であると評価した原判断が必ずしも不合理とはいえない。
⒝また,動機について,所論は,原判決が,被告人の抱いていた少年犯
罪に対する強い興味を前提にしているが,そのことと焼死体を見たいという動機に関
連性がない上,人の死や焼死体に強い興味を持つこと自体が健常な精神状態における
動機として理解できないから,評価を誤っている,という。
この点,原判決は,被告人が人の死や少年犯罪に強い関心を抱いていたことからす
れば,生活反応のある焼死体を見てみたいという犯行動機が十分に了解可能なものと
説示するが,その説示だけから少年犯罪に対する強い関心と焼死体を見たいという動
機との関連性が必ずしも明らかとはいえない。しかし,原判決は,その説示(14頁
エの項)のように,被告人が殺人事件の犯行後である平成26年12月8日に帰省し
て以降,知人女性が入信する宗教の集会が開催される同月14日頃に自分が同女を殺
害したことが発覚して警察に逮捕されるのではないかと考えており,その前にかつて
失敗した放火を成功させて生活反応のある焼死体を見てみたいと考え,同月12日夜
から翌13日未明までの間に放火殺人未遂事件の犯行を決意したこと,放火の犯行に
出掛ける際に佐世保市同級生殺害事件を起こした少女が犯行の際に着用した衣服を
模して自分が製作したパーカーを着用していたことから,被告人の少年犯罪に対する
強い興味や関心が放火殺人未遂事件に影響したものと判断したと解され,そのような
判断自体が不合理なものとはいえない。
なお,動機が了解可能と評価した点が誤りであるとする所論が採用できないことは,
上記b⒞で説示したとおりである。しかも,放火殺人未遂事件で,被告人は,近いう
ちに殺人事件が発覚して逮捕されると考え,その前に生活反応のある焼死体を見たい
と思ったことから,放火によりそのような焼死体を作ろうと考えて犯行を決意したも
のと認められ,そのような興味や関心を偏らせて放火を決意したこと自体は被告人自
身の意思に基づく判断であるから,原判決の評価に不合理な点はない。
⒞さらに,所論は,原判決が,犯行当時の被告人が720ミリリットル
のウィスキー1本のほぼ全部を飲んで泥酔状態になった影響から犯行時及びその前
後の記憶が曖昧であったのに,理詰めの質問をされると論理的思考により推測して答
えてしまうという供述特性があることから,被告人に明確な記憶のないⒻ方敷地への
移動時に自分の犯行と分からないように様々な工夫をした旨の事実を認定した点に
事実誤認がある,という。
まず,所論が原判決の上記認定について被告人の検察官調書(乙第29号)の供述
内容の信用性を肯認してそれに依拠したことを前提とするのであれば,原判決が証拠
の標目にその供述調書を挙示していないことなどに照らし,同調書の供述内容に依拠
したものでなく,被告人の原審公判供述を前提にして事実認定をしたものと考えられ
るから,所論は前提を欠くといわざるを得ない。また,被告人の原審供述を見ると,
所論のとおり被告人が放火殺人未遂事件の犯行直前の多量の飲酒の影響により犯行
前後や犯行時の行動に関する記憶に曖昧な部分のあることがうかがわれるものの,記
憶にある事柄について率直に供述していると認められる上,弁護人の質問に答えて,
Ⓕ方敷地に移動した際の出来事で覚えていることとして,酔ってふらふらになりなが
ら自転車を運転していたこと,道に迷ったこと,夢か現実かはっきりしないものの,
防犯カメラを意識して,普段通らない道を通ったり,パーカーのフードをかぶったり
脱いだり,自転車の前照灯を付けたり消したりしたことを挙げる一方,防犯カメラや
目撃者を意識したことがあるかよく覚えていない,自転車の前照灯を消したことやフ
ードの着脱をした目的について,実家から犯行現場までにある防犯カメラに映った人
物が別人であるように装って自分に嫌疑が及ばないようにするためであると説明し
た上記供述調書の内容が推測して述べたものである,と供述している。そうすると,
被告人が推測で供述した内容は捜査段階の取調べにおけるものにとどまり,原審供述
に推測による内容がなかったと認められるから,原判決が,被告人の上記原審供述に
基づき,「防犯カメラを避けて通常と異なる小道を走ったり,途中から自転車のライ
トを消したりフードをかぶったりした」(14頁末行ないし15頁2行目)と認定し
た点に不合理なところはなく,そのような行動をとったこと自体から,自分が犯人と
特定できないようにする目的があったことを推認することができるから,原判決の上
記認定に事実の誤認はない。なお,所論は,被告人が夢か現実かはっきりしないと述
べていることを捉えて,被告人が防犯カメラを意識した行動をとった事実を認定する
ことができない,というようである。しかし,被告人自身が,記憶が曖昧であるにせ
よ,放火殺人未遂事件の犯行に向かう際の自己の行動として,普段通らない道を通っ
てフードの着脱や自転車の前照灯の操作をしたという日常的に体験しない事実を公
判供述で具体的に明らかにしていることに基づき,その供述の信用性を肯認してその
とおりの事実があったと認定した原判断が不合理とはいえない。
⒟そして,放火殺人未遂事件の犯行が合目的的なものといえることは,
上記b⒟とおおむね同様である。すなわち,対象とする住居や実行の時間帯について,
放火の実行が比較的容易であることや,焼死体の観察が可能であると考えた上で選定
している。しかも,犯行の態様について,被害者方の家人が寝静まっている深夜に,
助燃剤としてジエチルエーテルという高い引火性と揮発性を有する物質を用い,被害
者方居宅の玄関扉の郵便受けから家屋内にそれを注ぎ込んだ後に火をつけたマッチ
を投入することにより,火炎瓶事件の態様より燃焼させやすい方法をとっており,家
屋を焼損して焼死体を作るための合目的的な手段であると認められる。実際に,被告
人自身が火傷を負う危険性のある態様をとりながら全く被害を受けなかったことは,
犯行時に被告人がその危険を避けつつ上記の態様で放火を実行することができたこ
とを示しており,犯行時の放火行為を合目的的かつ冷静に実行したものと認められる。
以上のとおり,被告人が放火殺人未遂事件の犯行時に躁状態に支配されて行動抑制
が効かなかったとは認められず,被告人の発達障害及び双極性Ⅱ型障害が及ぼした影
響が限定的であり,判断能力も行動制御能力も著しい減弱状態になかったと判断した
原判決が不合理なものとは認められない。
eなお,所論は,捜査段階で被告人に対してその障害特性に対する配慮を
欠いた取調べを実施して作成された検察官調書(乙第9号及び第29号)の信用性評
価に当たり,原判決が上記配慮の欠如を考慮しなかった上,原裁判所が被告人の障害
特性を理解する目的で証拠調べ手続の冒頭段階で実施すべきであったⒸ鑑定人に対
する証人尋問(弁第8号)を却下した結果,障害特性を踏まえた適切な被告人質問が
行われずに被告人の公判供述の評価を誤り,その誤った評価に基づき責任能力に関す
る事実誤認を犯した,という。しかし,原判決が乙第9号に基づき火炎瓶事件の犯行
に際して被告人が実家から外出した時刻について事実を誤認した廉はあるものの,そ
の誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかといえないことは,上記b⒝で説示したと
おりである。また,上記d⒞で判断したとおり,乙第29号は原判決の証拠の標目に
挙示されておらず,その供述内容に基づいて事実認定が行われたと見られないから,
所論は前提を欠いている。
エ以上のほか,所論が指摘するその他の点を検討しても,いずれも被告人の発
達障害や双極性障害に起因する精神症状の影響がうかがわれない事情か,その影響は
あるものの,影響の程度が限定的なものにとどまるにすぎない事情であるから,原判
決に所論のような事実の誤認はない。
⑷以上の次第で,事実誤認をいう論旨は理由がない。
4量刑不当の論旨について
⑴論旨は,被告人を無期懲役に処した原判決の量刑が,量刑事情に関する事実の
誤認に基づくもので,重過ぎて不当である,というのである。
そこで,原審記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。
⑵本件は,前記3に掲記したとおり,被告人が,16歳時の平成24年5月から
7月にかけて同年齢の被害者2名に硫酸タリウムを摂取させて中毒症状を生じさせ
た2回の殺人未遂(タリウム事件),18歳時の平成26年8月に火炎瓶1本を製造
した上,それに点火した熱で民家の窓を損壊した火炎瓶事件,19歳時の同年12月
に自室で77歳の女性を殺害した殺人事件と,家人在住の上記民家に放火した殺人未
遂及び現住建造物等放火未遂(放火殺人未遂事件)から成る事案である。
⑶そして,原判決が説示する量刑事情及び評価はおおむね是認することができる。
すなわち,まず,人を殺す体験をしたい,焼死体を観察したい,タリウム摂取による
中毒症状を観察したいなどという理不尽な動機から,2年半ほどの間に殺人や3回の
殺人未遂を始めとする人の生命を奪い又は危険にさらす重大犯罪を複数回にわたっ
て敢行したという罪質や内容を考慮しただけでも,本件はまれに見る重大かつ悪質な
事犯というほかない。
アしかも,本件の量刑上最も重視すべき殺人事件で,被告人は,口実を設けて
自室に招き入れた被害者に対し,備え置いた手斧を用いて背後から突然に頭部を多数
回にわたり殴打したほか,脈拍の停止等を確認しながら複数回の絞頸行為を繰り返し
た末,被害者を絶命させたものであり,犯行の具体的な態様が強固な殺意に基づく残
忍かつ執拗で凶悪な上,計画性も認められる。一方,被害者は,訪問先で予期せぬ凶
行に遭い,人を殺してみたかったなどという理不尽な理由を告げられて生命を奪われ
たものであり,その被った身体的な苦痛や無念さが計り知れない上,被害結果がもと
より重大で,遺族が厳しい処罰感情を抱くのも当然の心情である。そして,被告人は,
人の死や少年犯罪に強い興味を抱くようになり,成年に達する前に自分の手で人を殺
して死亡の過程を観察したいという動機に基づき,殺人事件に及んだものであるが,
そのような経緯や動機が発達障害の影響によるものであるとしても,前記3⑶のとお
り,精神病症状でなく,被告人の意思によるところが大きいと解される上,被告人自
身が犯行の違法性を十分に認識していたことに照らし,身勝手かつ理不尽という評価
を免れない。また,双極性Ⅱ型障害による軽躁状態の影響も大きくないから,結局,
殺人事件について,被告人の精神障害の影響がその責任非難を減ずる程度も限定的な
ものと考えざるを得ない。以上のような事情のほか,犯行当時19歳2か月の被告人
の未熟さの影響を考慮しても,殺人事件が,被害者1名に対する殺人事犯の中で相当
に重い部類に属するとした原判決の評価を是認することができる。
イ次に,タリウム事件について,被害者2名に対し,死亡例が確認された最少
の摂取量を超える硫酸タリウムを摂取させたほか,そのうち1名に2回にわたる投与
行為に及んだものであり,弱い殺意に基づくとはいえ,生命に対する危険性が相当に
高い悪質な犯行というべきである。また,投与及び観察の目的を達成しやすい対象者
を選定した上,発覚することなく被害者の飲料に劇物を混入するための工夫を凝らし
たことに照らし,かなりの計画性も認められる。一方,被害者両名は,上記目的に適
う対象者として選定され,硫酸タリウムを投与されて中毒症状の観察をされるなど,
実験動物同然の扱いを受けるとともに,長期間にわたり様々な中毒症状に苦しめられ
た挙げ句,希望していた進路の変更を余儀なくされ,1名においては視力をほとんど
失うに至るなど,被害者両名の心身両面にわたる苦痛は深刻で,その処罰感情が厳し
いのも当然の心情である。そして,被告人は,化学や化学薬品に対する関心を深める
中で,タリウムとその毒性に強い興味を抱くようになり,人に硫酸タリウムを投与し
てその中毒症状を観察したいという動機に基づき,タリウム事件を敢行したものであ
るが,そのような経緯や動機が発達障害の影響によるものであるとしても,上記アと
同様,身勝手かつ理不尽という評価を免れない。もっとも,発達障害のほか衝動性や
双極性Ⅱ型障害に加えて,その当時16歳であった被告人の未熟さも犯行に影響を及
ぼした点を考慮すると,被告人の責任非難の程度は一定の限度で減ずるべきである。
以上のような事情を考慮して,タリウム事件が,被害者2名に対する殺人未遂事案の
中で最も重い部類に至らず,相当程度に重い部類に属するものと評価した原判断を支
持することができる。
ウさらに,火炎瓶事件及び放火殺人未遂事件について,焼死体を作って観察す
る目的で,深夜に住人3名が現在する民家に狙いを付けて3か月半ほどのうちに2回
にわたる放火行為を繰り返したものであり,事案自体として重大かつ悪質である。取
り分け放火殺人未遂事件について,犯行の具体的な態様が,住人が就寝中の木造家屋
の玄関内に,あらかじめ準備した引火性の高い薬品を注ぎ込んだ上,点火したマッチ
を投入したというものであり,家屋や住人の生命に対する危険性が高く,結果の実現
に向けた強い意欲の認められる悪質なものである。幸い火事に気付いた住人の消火活
動によって放火が未遂にとどまり,死傷者も生じなかったとはいえ,住人3名の生命
と財産が現実に危険にさらされるなどした被害結果はもとより軽視できない。また,
火炎瓶事件は,火炎瓶という危険物を製造して社会の平穏を危険にさらしたばかりか,
実際にそれを用いて上記家屋の窓を損壊し,財産的損害を生じさせたものであり,こ
れまた軽視することができない。そして,被告人は,生活反応のある焼死体に強い興
味を抱くようになり,人の居る家屋を燃やして作った焼死体を観察したいという動機
に基づき,それらの犯行に及んだものであるが,そのような経緯や動機が発達障害の
影響によるものであるとしても,上記アと同様に身勝手かつ理不尽という評価を免れ
ない。さらに,放火殺人未遂事件は,殺人事件という重大犯罪に及んだ6日後に放火
殺人を企図して敢行したという経緯に照らしても,一層厳しい非難に値するというべ
きである。もっとも,発達障害や衝動性,双極性Ⅱ型障害等がそれらの犯行に一定程
度の影響を及ぼしており,当時18歳10か月ないし19歳2か月であった被告人の
未熟さも考慮すると,被告人の責任非難の程度は限定的に減じられるべきである。以
上のような事情を考慮して,取り分け放火殺人未遂事件が,上記の責任減少の点を考
慮しても,放火未遂及び被害者3名の殺人未遂事案の中で相当に重い部類に属すると
評価した原判断も支持することができる。
エ以上のような本件の罪質や犯情等に照らし,被告人の刑事責任は甚だ重いと
いわなければならない。
所論は,原判決の量刑理由の説示について,❶2項で,被告人の反省能力の
欠如が発達障害の特性であるため責任非難の対象にできないのに,それを責任非難の
対象にすることを前提とする判断を示したほか,被告人が検察官による最終論告を受
けて事件の重大性を理解し始めたとする被告人の障害特性に照らしてあり得ない事
実誤認を犯した,❷2項で,被告人の社会適応に向けた療育や双極性障害に対する治
療が医療刑務所を含む刑事施設内処遇によっても対処可能であると証拠に基づかな
い説示をした,❸3項及び被告人の処遇に対する意見の項で,無期懲役刑を量定した
理由として,有期懲役刑の上限の30年に近い最も軽い部類に属する旨の説示をした
が,法的効力がない上,刑の執行及び仮釈放の運用上尊重される実務慣行も確立され
ていないのに,上記量刑理由が刑の執行に反映される保障がないと明記しなかった点
で誤りがある,という。しかし,❶前記3⑶のとおり,被告人に完全責任能力が備わ
っていたものと認められるから,被告人に責任非難を問えないことを前提とする所論
は採用の余地がない。そして,原判決に,弁護活動方針や論告に係る説示に適切を欠
く部分があるものの,被告人に共感性の欠如等の障害特性があり,通常人と同様の心
からの反省を期待できないことを斟酌した上,反省の深まりのなさを殊更に非難すべ
きでないと説示するとともに,軽重のいずれにも量刑を大きく左右する一般情状がな
いとも説示していることに照らし,被告人の反省の欠如を考慮して重い刑を量定した
ものでないことが明らかであるから,結論的に不当とすべき廉はない。また,❷原判
決は,医療刑務所を含む刑事施設内処遇の枠組みの中で一定の治療や対応が可能であ
ることに言及したにすぎず,所論が想定するような療育及び治療が刑事施設内処遇で
実施できることを論じたものでないことは明らかであるから,所論は前提を欠く。そ
して,❸量刑理由における説示が刑の執行に反映される保障がない旨を明記しなかっ
たことが,原判決の量刑不当をもたらすものでないことは明らかであり,所論は採用
の余地がない。
そうすると,上記のとおり被告人が各犯行時に16歳7か月ないし19歳2か
月の少年であったほか,本件各犯行に至った背景に被告人の発達障害や双極性Ⅱ型障
害が影響を及ぼしたものと認められ,それらの障害について社会適応に向けた療育と
治療が必要であること,本件各犯行に関する基本的な事実関係を認めて被告人なりに
反省の態度を示し,原審及び当審を通じて人を殺さない自分になりたいとする決意を
表明していること,母親が原審公判に出廷して被害弁償に努めるとともに更生を支え
る意向を示したことなど,原判決や所論の指摘する酌むべき事情を考慮しても,上記
のような罪質や犯情等に照らし,検察官による求刑と同様に被告人を無期懲役に処し
た原判決の量刑が,重過ぎて不当であるとはいえない。
⑹以上の次第で,量刑不当をいう論旨も理由がない。
5結論
よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,当審における未決勾留日数の
算入について刑法21条を,当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつ
いて刑訴法181条1項ただし書を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
平成30年3月23日
名古屋高等裁判所刑事第2部
裁判長裁判官髙橋徹
裁判官大村泰平
裁判官入江恭子

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