弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人下田三子夫の上告趣意は別紙書面記載の通りであつて、これに対する当裁
判所の判断は次の通りである。
 第一、第二、第五点は、いずれも刑訴第四〇五条所定の上告理由に該当しない。
 第三点について。
 昭和二一年勅令第二七七号関税法の罰則等の特例に関する件第一条第二項に所謂
「輸出しようとした者」とは、目的の物品を、日本領土外に仕向けられた船舶に積
載する行為の実行には達しなくても、輸出のための単なる準備行為の範囲を超えて、
右積載行為に接着近接した手段行為の遂行に入つた者を指称することは当裁判所の
判例の示すところである。(昭和二三年(れ)第四五〇号同年八月五日第一小法廷
判決参照)然るに原判決に右「輸出しようとした者」の意義について、貨物の輸出
のため単なる準備をしたことを以て足ると解せられるような説示をしたことは、そ
の措辞稍妥当を欠くのきらいはあるが、仔細に原判決を検討すると、原判決は「第
一審判決摘示の証拠によると被告人は当日朝鮮向の密航船(海とあるは船の誤記で
ある。)が来ることになつて居ると聞き之を信じて貨物の輸出の準備をしたことが
推認できる」と判示しているのであつて、右第一審判決引用の被告人の同公判廷の
供述に依れば、同人が密輸出の目的を以て判示のa海岸沖において判示の物品を朝
鮮向け船舶に積載すべく同海岸迄運び込んだというのであるから、被告人の所為は
正に輸出のための単なる準備行為の範囲を超えて前記当裁判所判例にいうところの、
目的の物品を日本領土外に仕向けられた船舶に積載する行為に接着近接せる手段行
為の遂行に入つたものというべく、従つて原判決が右被告人の行為を以て前記法条
に該当するものとした判断は結局当裁判所判例の趣旨に反するものではない。
 第四点について。
 第一審判決は被告人の供述の外に判示押収物件を補強証拠として判示事実を認定
したものであるから、被告人の自白のみによつて事実を認定したという非難は当を
得ない。従つて原判決が第一審判決を是認したとしても所論の如き違法はない。
 尚本件について、原判決の適用した昭和二一年勅令第二七七号(昭和二〇年勅令
第五四二号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く関税法の罰則等
の特例に関する件)は昭和二三年七月七日法律第一〇七号所得税法の一部を改正す
る等の法律第三八条第三号に依つて廃止されたこと論旨の通りであつて、原判決が
右勅令廃止後の本件被告人の所為について右勅令を尚有効なものとして適用した第
一審判決を維持したことは法令の違反あるものというべきであるが被告人の判示所
為は結局関税法(昭和二三年七月七日法律第一〇七号に依る改正後のもの)第七六
条を以て処断すべく、而も前記勅令第二七七号と、関税法とは、特例と本則の関係
にあるものであつて、右勅令はその廃止後関税法の本法に改正組み入れられたもの
であり、而も第一審判決の量刑も右関税法第七六条の刑期範囲内においてなされて
いるのであるから、前示の法令違反は未だ以て刑訴法第四一一条第一号に該当する
ものとはいえない。その他本件について同条各号に該当すべき事由は認められない。
 よつて刑訴法第四〇八条により主文の通り判決する。
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
  昭和二五年五月三〇日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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