弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人吉田孝美、同小堀清直、同鍬田萬喜雄の上告趣意は、憲法違反及び判例違
反をいう点を含めて、その実質は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑
訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 しかしながら、所論にかんがみ職権によつて調査すると、原判決は左記の理由に
より破棄を免れない。
 一 本件公訴事実は、「第一被告人Aは、一 昭和四三年一二月七日午後五時す
ぎころ、鹿児島市a町b番c号国鉄鹿児島機関区更衣室において、他の約三〇名と
ともにB(当四八年)を取り囲み、右手指で同人の右胸を二回、左胸を一回、各強
く突き、さらに右膝で同人の腹部付近を一回蹴りあげ、もつて多衆の威力を示して
暴行を加え、二 昭和四四年二月一四日午後五時すぎころ、右機関区乗務員室にお
いて、他の約一二名とともに右Bを取り囲み、右手で同人の作業服の前襟首を強く
掴んでひねり上げ、もつて多衆の威力を示して暴行を加え、第二被告人A及び被告
人Cは、共謀のうえ、同年一月一八日午前九時二〇分ころ、前記鹿児島機関区旧車
庫前において、こもごもD(当四六年)の背後から同人の襟を掴んで引張り、また
同人の前に立ちふさがつてその胸付近を手、肘、肩で突き、さらに被告人Cにおい
て、右Dの首を左手で巻いて腰を使い、同人を地面に投げ倒し、もつて数人共同し
て同人に暴行を加えたものである。」というのであり、なお、原判決の認定したと
ころによれば、本件当時、被告人Aは国鉄鹿児島機関区の機関士、被告人Cは同機
関助士であつて、いずれもE労働組合(以下、単にE労という。)F地方本部F支
部に所属し、被告人Aはその執行委員長であつたこと、昭和四三年暮、同機関区の
機関士でE労F支部に所属していたB、Dら十数名が、E労の運動方針に疑問をも
つなどして集団で脱退し鉄道労働組合の分会を結成したこと、E労は、当時、国鉄
当局の合理化方策に反対して闘争中であつたこともあつて、脱退者に対して厳しく
対処しその説得活動につとめる方針をとつていたことが認められ、本件公訴事実は
このような状況のもとで発生したとされているのである。
 本件における主要な争点は、右公訴事実記載のような被告人らの暴行の所為が存
在したかどうかにあるところ、第一審は、公訴事実第一の一及び二の関係で唯一の
積極証拠である証人Bの証言には、それ自体不自然で首肯し難い点や関係証拠との
対比上信用し難い点などが含まれていること、また、公訴事実第二の関係では主な
積極証拠として、証人Dの証言及び犯行を目撃したという証人G、同Hの各証言を
あげることができるが、これらの各証言にも重要な部分において、関係証拠との対
比上明らかに信用できない点や相互に矛盾する点などが含まれていること、その他
右各暴行の事実を否認する被告人両名の公判供述及びこれに沿う関係各証人の証言
などを合わせると、右各積極証拠によつては被告人両名の暴行の所為を認めること
はできず、結局、公訴事実については十分な証明がないとして、被告人両名に対し
無罪の判決を言い渡した。これに対し、原審は、供述の信用性判断の基準として「
供述の信用性を考えるについては、その基本的部分に関心をもつことが大事である。
枝葉末節にこだわり、その部分に相違があり、矛盾があり、疑問があり、不自然さ
があり、あいまいさがあるからといつて、ただちに基本的部分の供述を排除するこ
とは問題である。」「被告人や証人はいずれも国鉄職員であり、国鉄職員には地位、
立場のちがいがあり、主義、主張のちがいにもとづく対立抗争があるかもしれない
が、地位や立場のいかんは性質上各供述の真相とは直接の関連がない。刑事犯的出
来事についていえば、特段の事情の存在しないかぎり、事実に反してまである職員
を目しわざわざその名を指摘してまで、犯罪的呼ばわりをすることがあるなどとは
到底考えられない。」とし、さらに証人B、同Dは、いずれも一貫してしかも断定
的に本件各訴因に沿う供述をしていること、証人B、同Dにおいて、事実に反して
まで被告人らの名をあげて犯罪的呼ばわりをすべき事情はなんらうかがわれないこ
と、ことさらに事実に反することをいうべき事情のなんら存在しない証人G、同H
が証人Dの供述の信用性を裏付ける証言をしていることを重くみ、若干の情況証拠
に言及したうえ、それとの対比において、被告人らの暴行の所為を証言する証人B、
同D、同G、同Hの各供述は信用すべきであり、他方、これを否認する被告人両名
の各公判供述やこれに沿う被告人側証人らの各証言は信用することができないとし
て、第一審判決を破棄し、公訴事実とほぼ同旨の事実を認定して、被告人Aを罰金
二万円に一、同Cを罰金一万円に処する旨の判決を言い渡した。
 二 そこで、原判決の右事実認定の理由の当否について検討すると、まず、原判
決は、同じ国鉄職員同士が事実に反し他の職員を名指してまで犯罪的呼ばわりする
ことは、対立抗争があつたとしても、特段の事情のないかぎり到底考えられないと
いう大前提に立つているのであるが、本件当時、被告人らの所属するE労と右B、
DらE労脱退者との間に深刻な対立抗争があり、本件はその過程において発生した
ものであることは、原判決認定のとおりであるところ、そのような事情は、原判決
認定の如き暴力行為が発生し易い情況と解しうるとしても、反面、そのような事情
のもとでは、それらの者の一方が、ことさら事実を誇張し、あるいは誤解するなど
して、相手方同僚を名指し、暴力を振るつたと言い立てることもありえないではな
いのであるから、本件の如く労働紛争や派閥対立に根差す事件における供述証拠の
信用性評価の基準として前記の大前提を用いることは相当でないというべきであり、
原判決としては、少くとも右の点を同判決にいう特段の事情として考慮したうえで、
なお前記各証言が信用すべきものであることについて解明すべきであつたといわな
ければならない。
 また、原判決は、供述の基本的部分に注目すべきで枝葉末節に拘泥してはならな
い旨の一般論を掲げ、本件においてB、D両名の各証言は基本的部分で一貫してい
るとも判示し、前記の基準と併せて、右証言を信用すべき理由としているのである
が、右説示にかかる一般論はそのとおりであるにしても、本件では第一審判決が、
右各証言の信用性に影響を及ぼすと認めたところを詳しく指摘しているのであるか
ら、原判決としては、それらを枝葉末節にこだわるものと解する理由を解明すべき
であつたといわなければならない。
 然るに、原審はこのような措置をとることなく、前記のとおり、ただちに第一審
判決を破棄して被告人らに対して有罪の判決を言い渡しているのである。してみる
と、原判決は採証法則の違背ないし審理不尽の違法があるものといわざるをえず、
これが判決に影響を及ぼすことは明らかであり、かつ原判決を破棄しなければ著し
く正義に反するものと認められる。
 よつて、刑訴法四一一条一号により、原判決を破棄し、同法四一三条本文に従い、
本件を原審である福岡高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、
主文のとおり判決する。
 検察官甲田宗彦 公判出席
  昭和五六年一〇月二九日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    本   山       亨
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    谷   口   正   孝

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