弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人高木定義の上告理由第一点について。
 被上告人Bまたは他の被上告会社の代理人が、上告人に対し上告人主張の債務を
引受ける意思表示をしたことを認めるに足る確証はなんら存しない旨の原審の認定
は、原判決(その引用する第一審判決を含む、以下同じ)挙示の証拠及び記録に徴
して首肯できる。論旨は、原審の認定しない免責的債務引受契約成立の事実を前提
として、被上告人Bの不法行為をいい、被上告会社の民法七一五条による責任を云
々するものであり、所論引用の判例も本件に適切でないから、いずれも採用できな
い。
 同第二点について。
 所論は、すべて原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するにすぎ
ず、採用できない。
 同第三点について。
 被上告会社のD鉱業所労務係員である被上告人Bは、同鉱業所鉱員であつた訴外
Eが上告人その他の者に対し金銭債務を負担しその支払をしないでいることを知つ
ており、Eが退職を申し出で右鉱業所から大阪に転居するに際し、同人から「みじ
めな姿で出発するのを人に見られたくないから、人目につかぬよう家財道具をその
ままにして出発するから、荷物はあとから荷造りして送つてもらいたい」と依頼さ
れて承諾し、そのとおり荷造りしたということがあつたからといつて、右Eの退職
が自発的な希望によるものであり、Eの右行動も被上告人Bが積極的にEを動かせ
てそうさせたものではない等の原判示の事情の下では、右によつて被上告人Bが違
法に第三者たる上告人の債権を侵害したことにはならないとした原審の判断は、正
当である。被上告人Bの労務係員としての善良なる管理者の注意義務違背や職務上
の義務違背をもつて上告人の権利を侵害したとする所論は、独自の見解として採り
得ないし、右Bの違法行為を前提として被上告会社の民法七一五条による責任を主
張する所論も前提を欠き、採るを得ない。
 同第四点について。
 論旨は、原判決が甲二号証の一、二の証拠力につきなんら判断を与えていないと
いうが、原判決は右書証についてその真正に成立したことを認め、これと他の証拠
とを綜合した上その結果によつて事実の認定をしていることが判文上明らかである
から、右所論は採用できない。また、確定日附ある文書は、その文書に記載された
事実が存在したものと一応推測されるとの所論は、独自の見解であつて、この所論
を前提とする論旨もまた採用できない。
 同第五点について。
 原判決は大鉱業権者の労務係員を保護するが如きものであつて正義の観念に反す
るとの所論は、原判決を正解しないで独自の推断を述べるにすぎず、採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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