弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原判決中,第1審判決別紙財産目録記載2の⑩及び
⑪の定額郵便貯金に係る貯金債権がAの遺産に属す
ることの確認を求める部分につき,本件上告を棄却
する。
2その余の本件上告を却下する。
3上告費用は上告人Y1の負担とする。
理由
上告人Y1の代理人神川洋一の上告受理申立て理由について
1本件は,被上告人らが,上告人らに対し,第1審判決別紙財産目録記載2の
⑩及び⑪の定額郵便貯金に係る貯金債権(以下「本件債権」という。)等がAの遺
産に属することの確認を求める訴えを提起した事案である。
2記録によって認められる事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)上記定額郵便貯金の名義人であるAは,平成15年3月31日に死亡し
た。
(2)被上告人ら及び上告人らは,Aの子である。
(3)上告人らは,本件債権がAの遺産であることを争っている。
3所論は,定額郵便貯金債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割
されて各共同相続人の分割単独債権となり,遺産分割の対象とならない以上,定額
郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えについては,
その確認の利益は認められないはずであるのに,これを認めた原審の判断には,法
令解釈の誤りがあるというのである。
4(1)郵便貯金法は,定額郵便貯金につき,一定の据置期間を定め,分割払戻
しをしないとの条件で一定の金額を一時に預入するものと定め(7条1項3号),
預入金額も一定の金額に限定している(同条2項,郵便貯金規則83条の11)。
同法が定額郵便貯金を上記のような制限の下に預け入れられる貯金として定める趣
旨は,多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要
上,預入金額を一定額に限定し,貯金の管理を容易にして,定額郵便貯金に係る事
務の定型化,簡素化を図ることにある。ところが,定額郵便貯金債権が相続により
分割されると解すると,それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態
を生じかねず,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨に反す
る。他方,同債権が相続により分割されると解したとしても,同債権には上記条件
が付されている以上,共同相続人は共同して全額の払戻しを求めざるを得ず,単独
でこれを行使する余地はないのであるから,そのように解する意義は乏しい。これ
らの点にかんがみれば,同法は同債権の分割を許容するものではなく,同債権は,
その預金者が死亡したからといって,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割
されることはないものというべきである。そうであれば,同債権の最終的な帰属
は,遺産分割の手続において決せられるべきことになるのであるから,遺産分割の
前提問題として,民事訴訟の手続において,同債権が遺産に属するか否かを決する
必要性も認められるというべきである。
そうすると,共同相続人間において,定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に
属することの確認を求める訴えについては,その帰属に争いがある限り,確認の利
益があるというべきである。
(2)前記事実関係によれば,本件訴えのうち,本件債権がAの遺産に属するこ
との確認を求める部分については確認の利益があるというべきである。同部分につ
き確認の利益を認めた原審の判断は,結論において是認することができる。所論引
用の判例(最高裁昭和27年(オ)第1119号同29年4月8日第一小法廷判決
・民集8巻4号819頁)は,本件に適切でない。論旨は採用することができな
い。
なお,上告人Y1は,第1審判決別紙財産目録記載1の各不動産がAの遺産に属
することの確認を求める部分についても上告受理の申立てをしたが,その理由を記
載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官古田佑
紀,同千葉勝美の各補足意見がある。
裁判官古田佑紀の補足意見は,次のとおりである。
私は,定額郵便貯金債権について,以下のように考えるので,補足的に意見を述
べておきたい。
定額郵便貯金は,分割払戻しをしないことが法律上条件とされている貯金であ
り,分割払戻しをしないことは,定額郵便貯金契約の内容,あるいはその前提をな
すものであるから,定額郵便貯金債権は,貯金契約において,分割行使をすること
ができず,各預入金額ごとに全体として1個のものとして扱われることとされてい
る債権であるというべきである。相続は,その対象となる権利につき,その性質,
内容をそのまま承継するものであるのが原則であり,上記貯金債権について,相続
が生じたことによって,全体が1個のものとして扱われるという性質が失われると
解すべき理由はないと考える。
裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見が,郵便貯金法は定額郵便貯金債権の分割を許容するものではな
く,同債権は,その預金者が死亡したからといって,相続開始と同時に当然に相続
分に応じて分割されることはないとしている点について,次のとおり意見を補足し
ておきたい。
一般に,債権が複数の者に帰属する場合の法律関係は,準共有(民法264条)
ということになるが,債権の共有的帰属については,民法の債権総則中の「第三節
多数当事者の債権及び債務第一款総則」では,分割債権関係を原則として規定
している(民法427条)。したがって,仮に,定額郵便貯金債権が原則どおり分
割債権であるとすると,相続により各相続人に分割承継されることになり,もはや
遺産分割の対象にはならないことになる。
ところで,分割債権の属性としては,各債権者は,自己に分割された部分につい
て,独立して履行請求ができるという点が基本的なものであり,そうすると,分割
された債権ごとに,相殺,免除,更改等の対象となり,消滅時効の完成の有無も個
々的に判断されるということになろう。そこで,定額郵便貯金債権にこのような属
性を認めることができるかが問題となる。
この点について,法廷意見は,定額郵便貯金には,法令上,分割払戻しをしない
という条件が付されているので,共同相続人が共同して全額の払戻しを求めるしか
なく,各相続人が分割承継した部分があると解したとしてもそれを単独で行使する
余地はないとしている。また,この趣旨からすると,各相続人は,分割承継した部
分を自働債権として相殺をすることもできず,さらに,その消滅時効についても,
据置期間経過後,預入の日から起算して10年が経過するまでは,各預金者がその
部分についての権利行使が可能であったか否かという観点から考えることはできな
いことになろう。このように,定額郵便貯金債権は,法令上,預入の日から起算し
て10年が経過するまでは分割払戻しができないという条件が付された結果,分割
債権としての基本的な属性を欠くに至ったというべきである。
以上によれば,定額郵便貯金債権は,分割債権として扱うことはできず,民法4
27条を適用する余地はない。そうすると,預金者が死亡した場合,共同相続人は
定額郵便貯金債権を準共有する(それぞれ相続分に応じた持分を有する)というこ
とになり,同債権は,共同相続人の全員の合意がなくとも,未だ分割されていない
ものとして遺産分割の対象となると考えるべきである。
なお,定額郵便貯金債権が遺産の重要な部分となっている事案は少なくないもの
と思われるが,遺産分割をするに当たって,これを対象とすることにより遺産分割
の円滑な進行が図られることにもなろう。
(裁判長裁判官千葉勝美裁判官古田佑紀裁判官竹内行夫裁判官
須藤正彦)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛