弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人に関する部分を破棄する。
     被告人を懲役一年に処する。
     但し三年間右刑の執行を猶予する。
     原審における訴訟費用中国選弁護人篠田嘉一郎に支給した分は被告人の
負担とし、その余の訴訟費用は国選弁護人原良男に支給した分を除き原審相被告人
Aとの連帯負担とする。
         理    由
 本件控訴趣意は別紙控訴趣意書記載の通りであるからその主張するところに対し
当裁判所は次の通り判断する。
 第一の一について。所論は要するに被告人の本件所為を職業安定法で処罰するは
同法の目的より逸脱したものであると主張するもののようであるが婦女を接客婦等
(売淫を主とする)として就業のあつ旋をすることは同法第一条の趣旨に照らし同
法の目的に違反する所為でおることは明らかであるから同法の目的達成のため同法
を以て処罰することは何等同法の目的より逸脱するものではない。論旨はとるを得
ない。
 第一の二について。職業安定法第六三条第二号は同号所定の目的で職業紹介を行
つた者を処罰する旨規定しその職業紹介とは同法第五条の定義に従うべきは明らか
である。而して右第五条の職業紹介の重要なる一要素は求人者と求職者との間にお
ける雇用関係の成立でありこれを本件について考えてみるに各業者と婦女との間に
雇用関係の成立ありと目せられること原判決説示の通り(弁護人の主張に対する判
断一、雇用関係の有無に<要旨第一>ついて)であるから、こゝにこれを引用する。
更に右第六三条第二号にいわゆる職業紹介―即ちその一要素をなす雇用
関係は同条の立法の精神に照し私法上有効なる雇用関係たると民法第九〇条に違反
するがために無効と目せられる雇用関係たるとを問わないものと解するを相当とす
る。されば被告人の本件所為を職業安定法第六三条第二号に問擬した原判決には何
等違法のかどはなくこの点に関する弁護人の論旨はとるを得ない。
 第一の三について。業者と接客婦等との間に雇用関係の成立ありと目されること
前段説示の通りであり、被告人において婦女を接客婦等として雇用関係の成立をあ
つ旋した以上労働基準法第六条に該当することは明ら<要旨第二>かであり、又同条
は単に労働者からの搾取を禁じたにとどまらず広く一般に中間搾取を禁じたもので
あつて雇主からの利益取得をも禁止する趣旨なること同条の文理上疑を
はさむ余地なく、労働基準法第六条にいわゆる業として他人の就業に介入して利益
を得ることも職業安定法第六三条第二号にいわゆる職業紹介を行うことも他人の就
業に介入すると言う基本的事実関係は両者共通であるからたとい労働基準法第六条
には右の外にこれによつて利益を得ると言う別個の構成要件が加わつておるとして
も両所為を目して一所為数法の関係なしと言うを得ない。論旨はとるを得ない。
 第二について。被告人の本件所為を職業安定法第六三条第二号に問擬し得ること
前叙の通りである。所論は被告人の本件所為が同条に該当しないことを前提とする
ものであつて採用の限りでない。
 第三について。所論にかんがみ本件訴訟記録及び原裁判所の取り調べた証拠を精
査し弁護人所論の点その他一切の事情を考量するときは原審が被告人に対し懲役一
年の実刑を以てのぞんだことは量刑酷に失するものと言わねばならぬ。弁護人の論
旨はこの点において理由あり原判決は破棄を免れない。
 よつて刑事訴訟法第三九七条を適用し原判決中被告人に関する部分を破棄し同法
第四〇〇条但し書に従い被告事件について更に判決をする。
 原審において認定した事実に対し法律を適用すれば被告人の判示所為中公衆衛生
又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介を行つた点は(判示第一の
(一)(二)、第二の全部に関係)職業安定法第六三条第二号に(第二の部分につ
いてはこの外刑法第六〇条を適用)、業として他人の就業に介入して利益を得た点
は(判示第一(二)、第二に関係)労働基準法第六条第一一八条に(第二の部分に
ついてはこの外刑法第六〇条を適用)各該当するところ右職業安定法違反と労働基
準法違反とは一所為数法の関係にあるから刑法第五四条第一項前段第一〇条を適用
し重い職業安定法違反の罪の刑を以て処断することとし所定刑中懲役刑を選択しそ
の刑期範囲内で主文掲記の刑を量定処断し情状により刑法第二五条を適用し三年間
右刑の執行を猶予し原審訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項第一八二条を適用
し主文掲記の通り負担せしめることとする。
 よつて主文の通り判決する。
 (裁判長裁判官 平井林 裁判官 藤間忠顕 裁判官 山崎林)

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