弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えをいずれも却下する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1上北地域県民局長が平成18年3月9日付けでした株式会社Aに対する同日から平
成19年3月8日までの砂利採取計画の認可を取り消す。
2上北地域県民局長は,青森県a市b番における砂利採取について,株式会社Aその
他の者に対する砂利採取法16条による採取計画の認可をしてはならない。
第2事案の概要
本件は,条例の改正に伴う経過措置により上北地域県民局長が行ったものとみなさ
れる,十和田県土整備事務所長が砂利採取業者である分離前共同被告株式会社A(以下
「A」という)に対して平成18年3月9日付けでした原告所有の別紙物件目録記載の。
土地(以下「本件土地」という)における砂利採取計画の認可(以下「本件認可」とい。
う)について,原告が,本件認可はAにより偽造された採石権設定契約書に基づいてさ。
れた違法なものであるなどと主張して,本件認可の取消しを求める(以下「本件認可取消
しの訴え」という)とともに,本件認可に係る採取期間経過後もなお継続してAに対す。
る砂利採取計画の認可がされるがい然性があるなどと主張して,本件土地におけるAその
他の者に対する砂利採取法16条による採取計画の認可の差止めを求めた(以下「本件差
止めの訴え」という)という事案である。。
その中心的な争点は,()本件認可取消しの訴えが鉱業等に係る土地利用の調整手1
続等に関する法律50条所定の裁決主義に反する不適法なものであるかどうか,()本件2
認可が砂利採取法の諸規定に反する違法なものであるかどうか,()本件差止めの訴えが3
「一定の処分…がされようとしている場合(行政事件訴訟法3条7号)に該当するかど」
うか,()本件差止めの訴えが訴訟要件である「重大な損害を生ずるおそれがある場合」4
,「」に該当しその例外事由とされているその損害を避けるため他に適当な方法があるとき
に該当しない(同法37条の4第1項)といえるかどうか,()本件差止めの訴えが本案5
差止判決の要件である「行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若
しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若
しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められると
き(同条第5項)に該当するかどうかである。」
1前提事実
以下の事実は,括弧内に記載した証拠若しくは弁論の全趣旨により認めることがで
きるか,又は当事者間に争いがない。
()当事者等1
ア原告は,本件土地の所有者である(甲1。)
イAは,昭和49年に設立された盛土整地工事等の業務を目的とする株式会社で
あり,昭和51年12月10日に砂利採取業者として登録されている(甲2,乙1。)
ウ本件認可当時,青森県知事から砂利採取法16条に規定による採取計画の認可
権限の行使を委任されていたのは十和田県土整備事務所長であったが,平成19年4月1
日施行の青森県行政機関等設置条例の一部を改正する条例により,同認可権限の行使は上
北地域県民局長に委任されることとなるとともに,その施行日前においてAが行った十和
田県土整備事務所長に対する本件認可の申請及び同所長が行った本件認可は,それぞれ上
北地域県民局長に対して行い又は同局長が行ったものとみなされることとなった(乙3の
1∼乙4の2。以下,上記条例の施行日前に行われた本件認可に係る部分については,そ
の処分行政庁を「十和田県土整備事務所長」と表記する。。)
()Aによる本件認可の申請2
Aは,十和田県土整備事務所長に対し,本件土地について原告との間で締結した
とする平成17年10月5日付け採石権設定契約書(以下「本件採石権設定契約書」とい
う)の写し等を添付した平成18年2月28日付け採取計画認可申請書を提出し,本件。
認可の申請をした(乙1。)
本件採石権設定契約書の記載によれば,原告がAに対して本件土地について砂利
採取のための採石権を設定し,その存続期間を砂利採取法に基づく最初の認可の日から3
年間としていた(甲3,乙1。)
()十和田県土整備事務所長による本件認可3
十和田県土整備事務所長は平成18年3月9日Aに対し本件認可をした甲,,,(
2,乙1。)
本件認可の概要は,採取期間を平成18年3月9日から平成19年3月8日まで
とし,採取をする砂利の種類及び数量を総数量3万2399立方メートル(砂2万981
,)(,7立方メートル土・その他2582立方メートルとするなどというものである甲2
乙1。)
()Aによる砂利採取及び搬出4
Aは,平成18年3月9日以降,本件土地において,相当量の砂利を採取し,搬
出した(甲4,7。)
()本件訴訟の提起5
原告は,平成18年9月7日,本件認可について,砂利採取法40条に基づく公
,()。害等調整委員会に対する裁定の申請を経ることなく本件訴訟を提起した弁論の全趣旨
2原告の主張
()本件認可取消しの訴えについて1
ア申請手続の違法性
砂利採取法16条による砂利採取計画の認可を受けるためには,同法18条2
項により要求されている採取区域に係る権原を有することを証する書面を申請書に添付す
る必要があるが,Aは,本件採石権設定契約書を偽造して添付するという不正な手段を用
いているから,本件認可は違法である。原告は,Aとの間で,平成16年夏ころから採石
権設定契約の締結交渉をし,Aから採石権設定代金として200万円の提示を受け,内金
として20万円を受領しているが,その後,原告の三男であるBを介して,600万円以
上を要請しており,権利設定の合意には至っていない。
イ砂利採取法19条違反による違法性
本件認可は,Aに採取権原がないことを看過して行われたことにより,本件土
地の所有者である原告に対して危害を及ぼしているから,砂利採取法19条に違反するも
のであり,違法である。
()本件差止めの訴えについて2
アAに対する認可のがい然性があること
偽造された本件採石権設定契約書においてAが平成21年3月8日まで採石権
を有するとされていること,Aが原告との話合いに応じないばかりか砂利採取の中止を求
める通知を受けた後も砂利採取を強行していること,平成18年3月9日にAに対して本
件認可がされていることからすれば,平成19年3月9日以降もAに対して砂利採取計画
の認可がされるがい然性がある。
イ救済の必要性があること
本件認可に基づくAの砂利採取により本件土地の砂利は相当程度消失してお
り,採取された砂利が搬出されてしまえばこれを取り戻すことは困難である。このままA
による砂利採取を放置すれば,本件土地の砂利が存在しなくなり,何ら金銭的価値の存在
しない土地が残るだけであって,原告に重大な損害が生ずる可能性が極めて高い。
また,本件認可は採取期間を1年間としているため,個々の認可に対して個別
に取消訴訟を提起したとしても,結審までに認可期間が経過して狭義の訴えの利益を喪失
することにより司法救済を受けることができなくなるがい然性が類型的に高く,取消訴訟
制度のみによっては何ら抜本的解決を得ることができないおそれがある。
3被告の主張
()本件認可取消しの訴えについて1
ア本案前の主張(裁決主義違反)
本件認可は砂利採取法16条に基づくものであり,同条の規定による処分に不
服がある者は,公害等調整委員会に対して裁定の申請をすることができるところ(同法4
0条1項,同委員会による裁定の手続について定めた鉱業等に係る土地利用の調整手続)
等に関する法律50条は,原処分の取消しの訴えの提起を許さず裁決取消しの訴えのみの
提起を認める旨規定している(裁決主義。)
本件認可取消しの訴えは,裁決主義に反するものであり,訴訟要件を欠く不適
法なものであるから,却下されるべきである。
イ本案の主張(本件認可が適法であること)
(ア)申請手続の違法性の主張に対して
砂利採取法16条に基づき砂利採取計画の認可を受けようとする砂利採取業
者は,申請書を提出するに際し,砂利の採取計画等に関する規則(以下「認可規則」とい
う)3条2項7号所定の「砂利採取場で砂利の採取を行うことについて申請者が権原を。
有することまたは権原を取得する見込みが十分であることを示す書面」を添付しなければ
ならないが(同法18条,これ以外に,砂利採取法及び認可規則上,認可申請を審査す)
るに当たり,私法上の権利関係である申請者の採取権原の有無を審査する義務を都道府県
知事に負わせる規定はない。また,都道府県知事には採取権原の有無を最終的に判断する
権限はなく,認可処分がされたとしても,砂利採取の禁止に伴う公法上の不作為義務が解
除されるにとどまり,採取権原が新たに設定されたり,その存在が公権的に確定されたり
することはない。以上に照らすと,認可規則3条2項7号が「申請者が権原を有すること
を示す書面」の添付を要求する趣旨は,採取権原がないか又はこれを取得する見込みのな
い者を可能な限り排除して,無用な認可処分のされることを防止しようとすることにある
と解するのが相当であり,同規定は採取権原のない者による違法な採取行為の防止を直接
の目的とするものではないから(採石法に関する東京高裁昭和58年3月28日判決・判
例タイムズ506号145頁参照,都道府県知事としては,申請者に実体上採取権原の)
ないことを知っているなどの特段の事情がない限り,添付された書面により採取権原を一
,。応認定することが可能である以上は更に進んで実体に立ち入って審査をする義務はない
,(),本件認可の申請において青森県知事十和田県土整備事務所長としては
上記のような特段の事情はなく,申請者であるAから本件採石権設定契約書の写しの提出
を受けている以上は,その真偽について立ち入って審査をする義務はなかった。
(イ)砂利採取法19条違反による違法性の主張に対して
砂利採取法19条は,専ら公益的見地から採取計画を規制するところにその
趣旨があるのであり,採取の行われる土地について私人が有する所有権等の私法上の権利
を保護しようとするものではないから(前記東京高裁昭和58年3月28日判決参照,)
仮に原告の所有権が侵害される結果となったとしても,直ちに同条にいう「公共の福祉に
反する」場合に該当することにはならない。
(ウ)以上のとおり,本件認可は適法であるから,本件認可取消しの訴えは棄却さ
れるべきである。
()本件差止めの訴えについて2
ア本案前の主張
(ア)Aに対する認可のがい然性があるとの主張に対して
。,Aに対する認可のがい然性があるとの主張を争う平成19年3月9日以降
本件土地に関する砂利採取計画が申請された場合,これを認可するかどうかは,その申請
内容を検討してその都度青森県知事(上北地域県民局長)が決定することとなる。
なお,申請時点において,申請者が採取権原を有しないことが被告にとって
明らかであるという特段の事情がある場合には,青森県知事(上北地域県民局長)として
はこれを認可しないこととなる。
(イ)救済の必要性があるとの主張に対して
差止めの訴え(行政事件訴訟法37条の4)は,事前救済を求めるのにふさ
わしい救済の必要性があり(同条1項本文,一定の処分又は裁決がされることを差し止)
めることによる救済が最も直接的かつ実効的な救済方法であると考えられる場合に限って
(),,認められると解されるところ同項ただし書原告の主張する損害を防止するためには
所有権を根拠としてAに対し本件土地の所有権侵害の排除を求めることが最も直接的かつ
実効的な救済方法であり,民事上の仮処分等によって比較的容易に救済を受けることがで
きると考えられる。
したがって,本件差止めの訴えは,救済の必要性に関する要件を充足しない
ものであり,訴訟要件を欠く不適法なものであるから,却下されるべきである。
(ウ)本件差止めの訴えの請求の趣旨が無限定で包括的なものであること
本件差止めの訴えの請求の趣旨は「本件土地について,永久に,誰に対し,
ても認可をしてはならない」というものであって,何の限定もない極めて包括的なもので
あるが,原告には,このような無限定な包括的差止めを求める権利はない。
イ本案の主張(差止めの訴えの本案勝訴要件を充足しないこと)
前記3()イ(ア)で主張したとおり,青森県知事(上北地域県民局長)は申請1
者から要件を充たした申請がされればこれを認可しなければならない立場にあるのであっ
て,本件土地について要件を充たした申請がある場合にこれを認可したとしても「行政,
庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令
の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその
裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるとき(行政訴訟法37条の4」
第5項)には該当しないから,本件差止めの訴えは棄却されるべきである。
4原告の再主張
()本件認可取消しの訴えについて1
ア本案前の主張(裁決主義違反)に対して
平成19年3月9日以降の認可処分の差止めについては裁判所が判断をするの
に対し,平成18年3月にされた本件認可処分の取消しについては公害等調整委員会が判
断をするということになれば,同種の事件についての判断を求めているにもかかわらず,
判断が分離されることも考えられるが,それを防止するための併合手続,移送手続は何ら
規定されていない。
原告は,本件差止めの訴えとの統一的な判断を受けるために本件認可取消しの
訴えを裁判所に提起したものであり,このような事態は砂利採取法及び鉱業等に係る土地
利用の調整手続等に関する法律が想定していないものであるから,本件認可取消しの訴え
は,たとえ裁決主義があるとしても,正当な場合として認められるべきである。
したがって,本件認可取消しの訴えは適法である。
イ本案の主張(本件認可が適法であること)に対して
(ア)申請手続の違法性の再主張
砂利採取法における採取計画の認可制度は,災害の防止を直接の目的として
いるが,不法な砂利の採取を容認するものではなく,採取計画の認可又は不認可の判断を
するに際しては,適法な法律関係の上に立った砂利の採取であることを当然の前提にして
いるため,認可規則3条2項7号は砂利の採取についての権原関係を示す書面を要求して
いる。このように,適法な法律関係であることを当然の前提とするのであるから,青森県
知事(十和田県土整備事務所長)には,単に権原関係を示す書面の提出の有無を審査する
だけではなく,書面の作成の真正についても確認すべき義務があった。
なお,仮に被告の主張するとおり,青森県知事(十和田県土整備事務所長)
には形式的な審査義務しかなかったとしても,本件の場合,青森県知事(十和田県土整備
事務所長)が判断の資料とすべき唯一の資料ともいえる本件採石権設定契約書には,所有
者である原告の署名もその意思を推測しうる実印等の押印もないのであるから,これだけ
ではAの採取権原を認めることはできない。
したがって,本件認可は違法である。
(イ)砂利採取法19条違反等による違法性の再主張
砂利採取法19条に定める「公共の福祉」の判断については,砂利採取業の
企業活動と公益上の見地の比較考量によって判断すべきであるとされているところ,周辺
土地への影響などの公益上の見地からも原告は保護されるべきであるのに対し,無権原で
あるAには保護される利益がなくその企業活動を保護する必要性もないから,同条に定め
る「公共の福祉に反する」場合に該当する。
また,砂利採取法19条の認可基準には該当しなくとも,本件のように他人
の土地において何の権原も有さずに不法に砂利を採取することが明らかである場合には,
砂利の採取により公共の福祉が著しく害されるから,その採取計画を不認可とすることが
できると解される。
したがって,本件認可は違法である。
()本件差止めの訴えについて2
ア本案前の主張に対して
(ア)Aに対する認可のがい然性があることの再主張
被告によれば,申請者に採取権原のないことを知っているなどの特段の事情
がない限り,添付された書面により採取権原を一応認定できれば実体に立ち入らないで認
可をするというのであり,そうであれば,平成19年3月9日以降も認可がされるがい然
性が高いことに変わりはない。
(イ)救済の必要性があることの再主張
差止めの訴えは,取消訴訟及び執行停止制度によっては国民の権利を救済す
ることができない場合を想定して設けられたものであり,そのような場合にはたとえ民事
救済が可能であっても救済の必要性の要件を充足する。
(ウ)本件差止めの訴えの請求の趣旨についての主張
原告が差止めを求めているのは「所有者の同意なき採取計画の認可をして,
はならない」という趣旨である。
イ本案の主張(差止めの訴えの本案判決要件を充足しないこと)に対して
(ア)申請手続の違法性
被告の主張を前提としても,所有者である原告と申請者であるAとの間で権
原関係が争われている本件の場合,Aには採取権原がないとみるべき特段の事情があるこ
とは明らかであり,青森県知事(上北地域県民局長)には実体に立ち入って審査をする義
務があるから,今後の認可申請に対する審査において,Aから提出される本件採石権設定
契約書だけで採取権原を一応認定し,Aに対して本件土地における砂利採取計画の認可を
することは,違法である。
(イ)砂利採取法19条違反等による違法性
前記4()イ(イ)で主張したとおり,本件は砂利採取法19条に定める「公1
共の福祉に反する」場合に該当するし,同条の認可基準には該当しなくとも,本件のよう
な場合には不認可とすることができると解されるから,原告との合意がされない限り,今
後のAからの認可申請に対して認可をすることは,違法である。
5被告の再主張
()本件認可取消しの訴えについて1
ア本案前の再主張(裁決主義違反)
裁決主義を定める鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律50条に対
する例外が認められる余地はない。原告の主張は独自の見解に基づくものであり,失当で
ある。
イ本案の再主張(本件認可が適法であること)
(ア)砂利採取法の趣旨
前記3()イで主張したとおり,砂利採取法の規制は専ら公益的見地から採1
取計画を規制するところにその趣旨があるのであり,採取の行われる土地について私人が
有する所有権等の私法上の権利を保護しようとするものではなく,申請書に「申請者が権
原を有することを示す書面」の添付を要求する趣旨は,採取権原がないか又はこれを取得
する見込みのない者を可能な限り排除して,無用な認可処分のされることを防止しようと
することにあるにすぎないと解するのが相当であり,これは採取権原のない者による違法
な採取行為の防止を直接の目的とするものとは解されないから,青森県知事(十和田県土
整備事務所長)としては,申請者に実体上採取権原のないことを知っているなどの特段の
,,事情がない限り添付された書面により採取権原を一応認定することが可能である以上は
更に進んで実体に立ち入って審査する義務はなかった。これは,前記東京高裁昭和58年
3月28日判決のほか,公害等調整委員会の裁決においても既に確立した見解であり,こ
れに異を唱える学説も見受けられない。原告は,独自の見解に基づいて主張を繰り返して
いるにすぎない。
(イ)本件採石権設定契約書による採取権原の認定に違法性がないこと
一般的に記名押印により作成される契約書類は多数存在すること,そもそも
認可規則においても印鑑証明書の添付が要求されていないこと,申請書に添付すべき「申
請者が権原を有することを示す書面」としては「契約書の写し」で足りるとされているこ
とからすれば,本件採石権設定契約書によりAに採取権原が存在することを一応認めたこ
とについて,違法性はない。
(ウ)本件認可時には実体審査をすべき特段の事情がなかったこと
本件認可時には,青森県知事(十和田県土整備事務所長)にとってAに実体
上採取権原がないことをうかがわせる特段の事情は全くなかったのであるから,本件認可
に違法性はない。
()本件差止めの訴えについて(本案前の再主張)2
アAに対する認可のがい然性があることの再主張に対して
都道府県知事としては,申請者に実体上採取権原のないことを知っているなど
の特段の事情がある場合には,形式的には「採取権原を有することを示す書面」が提出さ
れたからといって,認可をすることはない。
本件においては,原告から本件採石権設定契約書が偽造文書であることを理由
として本件訴訟が提起されており,原告の主張にも相応の根拠のあることが,現時点では
青森県知事(上北地域県民局長)にも明らかとなっている。したがって,現時点では,青
森県知事(上北地域県民局長)にとっても,Aには実体上採取権原がないことをうかがわ
せる特段の事情があるから,Aが今後も継続的に本件土地について砂利採取計画の認可申
請をしたとしても,直ちに認可を得られるということはない。
イ救済の必要性があることの再主張に対して
申請者が契約書を偽造して砂利採取計画の認可を得たという場合には,青森県
知事(上北地域県民局長)にその旨を申し述べれば,青森県知事(上北地域県民局長)に
おいて申請者に対して行政指導や行政処分を行うことにより,違法状態を解消することが
可能であるし,原告の主張する損害は,民事上の仮処分等によって比較的容易に救済を受
けることが可能なものであるから,本件における損害の回復の困難の程度,損害の性質及
び程度並びに処分の内容及び性質(行政事件訴訟法37条の4第2項)からして,本件で
は事前救済を求めなければならないほどの必要性はない。
第3当裁判所の判断
1本件認可取消しの訴えについて
()裁決主義との関係1
本件認可は砂利採取法16条の規定による処分であり,これに不服がある者は,
「公害等調整委員会に対して裁定の申請をすることができる」とされている(同法40。
条1項前段。そして,公害等調整委員会による上記裁定の手続について定めた鉱業等に)
係る土地利用の調整手続等に関する法律50条は「裁定を申請することができる事項に,
関する訴は,裁定に対してのみ提起することができる」旨規定している。このように裁。
決主義が採用されているにもかかわらず,原告は,本件認可について,公害等調整委員会
の裁定を経ることなく,当裁判所に本件認可取消しの訴えを提起している。
そうすると,本件認可取消しの訴えは,裁決主義を定めた上記規定に反するもの
として,不適法である。
これに対し,原告は,本件差止めの訴えとの統一的な判断を受ける必要性がある
ことなどを理由として,公害等調整委員会の裁定を経ることなく本件認可取消しの訴えを
提起することは正当な場合として認められるべきである旨主張するが,そのように解すべ
き法律上の根拠はないから,原告の主張を採用することはできない。
()訴えの利益との関係2
なお,本件認可に係る採取期間は平成19年3月8日までであり,既にその期間
が経過しているから,訴えの利益が消滅しており,この点からも本件認可取消しの訴えは
不適法である。
2本件差止めの訴えについて
()行政庁が一定の処分又は裁決をするがい然性1
差止めの訴え(行政事件訴訟法37条の4)は,行政庁が一定の処分又は裁決を
(),,することを差し止めるよう求めるものであるから同法3条7項その訴訟要件として
行政庁が一定の処分又は裁決をするがい然性が認められることが必要である。
()Aに対する認可の差止めについて2
ア砂利採取法16条に基づき砂利採取計画の認可を受けようとする砂利採取業者
は,申請書を提出するに際し,その添付書類(同法18条2項)として認可規則3条2項
7号所定の「砂利採取場で砂利の採取を行うことについて申請者が権原を有することまた
は権原を取得する見込みが十分であることを示す書面」を添付しなければならないとされ
ているが,砂利採取法には,砂利採取業者からの砂利採取計画の認可申請を審査するに当
たり,都道府県知事に私法上の権利関係である申請者の採取権原の有無を審査する義務が
ある旨を定めた規定がない。また,都道府県知事には申請者の採取権原の有無を最終的に
判断する権限がなく,申請に対し認可処分がされたからといって,砂利の採取が禁止され
ていることに伴う公法上の不作為義務が解除されるにとどまり,私法上の採取権原が新た
に設定されるものではないことはもちろん,その存在が公権的に確定されることになるも
のでもない。これらの点に照らすと,申請者に対して採取権原を有することなどを示す書
面の添付を上記規定が要求している趣旨は,採取権原がない者又はこれを取得する見込み
のない者を可能な限り排除して,無用な認可処分のされることを防止しようとすることに
あるにすぎないものと解するのが相当であり,上記規定が採取権原のない者による違法な
採取行為の防止を直接の目的とする趣旨であるとは解することができない。そして,上記
の趣旨からすれば,都道府県知事としては,添付された書面が偽造書面であることは極め
て稀であって,通常は添付された書面により採取権原又はその取得の見込みを一応認定す
ることが可能である以上は,認可処分当時何らかの事由により申請者に実体上採取権原の
ないことを知っているなどの特段の事情がない限り,更に進んで実体に立ち入って審査す
る義務はないと解されるとともに,他面において,上記特段事情がある場合等には,単に
書面の記載のみによることなく,当該土地の現実の利用状況や申請者の操業をめぐる紛争
の有無等従前の経緯を考慮に入れることも何ら妨げられるものではないものと解される
(採石法に関する東京高裁昭和58年3月28日判決・判例タイムズ506号145頁参
照。)
イ本件においては,被告も本件採石権設定契約書が偽造であるという原告の上記
主張には相応の根拠のあることを認めており,青森県知事から権限を委任されている上北
地域県民局長においても,現時点においては,Aに実体上採取権原がないことをうかがわ
せる特段の事情があることを認識しているものと推認されるところ,Aが今後も継続的に
本件土地について砂利採取計画の認可申請をしたとしても直ちに認可を得られるというこ
とはない旨を被告が明言しているのであるから,上北地域県民局長においても上記認可を
するがい然性があるとはいえないものと認めるのが相当である。
ウそうすると,本件差止めの訴えのうち,Aに対する認可の差止めを求める部分
については,処分のがい然性を欠くものとして,不適法である。
,,,これに対し原告はAに対する認可のがい然性があるなどとるる主張するが
採用することができない。
()「その他の者」に対する認可の差止めについて3
ア原告は,本件差止めの訴えとして,Aに対する認可の差止めのほか「その他,
の者(すなわち,Aを除く全ての者)に対する認可の差止めも求めているが,A以外の」
者に対する認可がされるがい然性についてはこれを認めるに足りる証拠がないばかりか,
そもそも「その他の者」に対する認可の差止めはAを除く全ての者に対する全ての認可と
いう無限定かつ包括的な処分を前提とするものであり「一定の処分」の差止めを求める,
差止めの訴えの請求の特定として,最低限度の特定すらされていない不特定なものである
といわざるをえない。
イそうすると,本件差止めの訴えのうち「その他の者(Aを除く全ての者),」
に対する認可の差止めを求める部分については,処分のがい然性を欠くものであるほか,
そもそも請求の特定を欠くものとして,不適法である。
()以上の検討によれば,本件差止めの訴えは,不適法である。4
3結論
以上のとおり,原告の請求は,いずれも不適法であるからこれらを却下することと
し,主文のとおり判決する。
青森地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官齊木教朗
裁判官澤田久文
裁判官西山渉

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「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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