弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人音喜多賢次の上告理由一ないし三について
 一 原審(その引用する第一審判決を含む。)の確定したところによれば、(一)
 本件事故は、昭和五四年一月二九日午後四時一二分ころ、D石産株式会社E工場
の集じんダクト配管工事現場において、クレーン車(以下「本件車両」という。)
で鋼管をつり上げて移動中、鋼管が均衡を失して着地し、ワイヤーロープから抜け
落ちて倒れ、近くで作業中のFの背面に激突して生じたものである、(二) 本件事
故は、本件車両を運転していたG(以下「G」という。)及び本件車両で鋼管をつ
り上げるための玉掛け作業を行っていたH(以下「H」という。)の過失に原因す
るものであるから、G及びHは、それぞれ民法七〇九条による損害賠償責任がある、
(三) 上告人は、D石産株式会社から請け負った前記集じんダクト配管工事を行う
ため、被上告人から本件車両を賃借し、また、これを運転していたGを指揮監督す
るほか、上告人から当該工事を下請けしたI工業株式会社(以下「I工業」という。)
の代表者として前記玉掛け作業を行っていたHを指揮監督していた者であるから、
本件車両の運行供用者として、かつ、G及びHの使用者として、自動車損害賠償保
障法(以下「自賠法」という。)三条及び民法七一五条一項による損害賠償責任が
ある、(四) 被上告人は、上告人に本件車両を賃貸し、また、その運転手として従
業員のGを派遣していた者であるから、本件車両の運行供用者として、かつ、Gの
使用者として、自賠法三条及び民法七一五条一項による損害賠償責任がある、(五)
 I工業は、その代表者であるHが同社の職務を行うについて引き起こした本件事
故につき、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項による損害賠償責任が
ある、というのである。
 二 原審は、本件事故について前記のとおり損害賠償責任を負うG、H、上告人、
被上告人及びI工業のうち、自己の出捐の下にその負担部分を超えて損害賠償義務
を履行した者は、他の損害賠償義務者に求償することができるとした上、この場合
における負担部分は、損害賠償義務者間の求償問題を一挙に解決するため、右の全
員について個別的に定めるのが相当であるとして、各自の負担部分をGにつき一割、
H及びI工業につき連帯して三割、上告人につき三割、被上告人につき三割と定め、
被上告人の上告人に対する本件請求を右の負担部分の限度で一部認容した第一審判
決を正当と判断して、上告人の控訴を棄却している。
 三 しかしながら、被上告人の上告人に対する本件請求は、本件事故の加害者で
あるGの使用者及びGが運転していた本件車両の運行供用者として損害賠償義務を
負う被上告人が、被害者の損害を賠償したことを原因として、同じくGの使用者及
び本件車両の運行供用者として、かつ、Gと共同して本件事故を引き起こしたHの
使用者として損害賠償義務を負う上告人に求償するものであって、このような場合
において、G、H、上告人、被上告人及びI工業の負担部分をその全員について個
別的に定めた上、自己の負担部分を超えて損害を賠償した被上告人は、上告人に対
し、その負担部分の限度で求償し得るものとした原審の前記判断は是認することが
できない。その理由は次のとおりである。
 1 複数の加害者の共同不法行為につき、各加害者を指揮監督する使用者がそれ
ぞれ損害賠償責任を負う場合においては、一方の加害者の使用者と他方の加害者の
使用者との間の責任の内部的な分担の公平を図るため、求償が認められるべきであ
るが、その求償の前提となる各使用者の責任の割合は、それぞれが指揮監督する各
加害者の過失割合に従って定めるべきものであって、一方の加害者の使用者は、当
該加害者の過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したと
きは、その超える部分につき、他方の加害者の使用者に対し、当該加害者の過失割
合に従って定められる負担部分の限度で、右の全額を求償することができるものと
解するのが相当である。けだし、使用者は、その指揮監督する被用者と一体をなす
ものとして、被用者と同じ内容の責任を負うべきところ(最高裁昭和六〇年(オ)
第一一四五号同六三年七月一日第二小法廷判決・民集四二巻六号四五一頁参照)、
この理は、右の使用者相互間の求償についても妥当するからである。
 2 また、一方の加害者を指揮監督する複数の使用者がそれぞれ損害賠償責任を
負う場合においても、各使用者間の責任の内部的な分担の公平を図るため、求償が
認められるべきであるが、その求償の前提となる各使用者の責任の割合は、被用者
である加害者の加害行為の態様及びこれと各使用者の事業の執行との関連性の程度、
加害者に対する各使用者の指揮監督の強弱などを考慮して定めるべきものであって、
使用者の一方は、当該加害者の前記過失割合に従って定められる負担部分のうち、
右の責任の割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、
その超える部分につき、使用者の他方に対して右の責任の割合に従って定められる
負担部分の限度で求償することができるものと解するのが相当である。この場合に
おいて、使用者は、被用者に求償することも可能であるが、その求償し得る部分の
有無・割合は使用者と被用者との間の内部関係によって決せられるべきものである
から(最高裁昭和四九年(オ)第一〇七三号同五一年七月八日第一小法廷判決・民
集三〇巻七号六八九頁参照)、使用者の一方から他方に対する求償に当たって、こ
れを考慮すべきものではない。
 3 また、複数の者が同一の事故車両の運行供用者としてそれぞれ自賠法三条に
よる損害賠償責任を負う場合においても、右と同様に解し得るものであって、当該
事故の態様、各運行供用者の事故車両に対する運行支配、運行利益の程度などを考
慮して、運行供用者相互間における責任の割合を定めるのが相当である。
 4 これを本件についてみるに、被上告人の上告人に対する請求の当否を判断す
るに当たっては、まず、GとHとの過失割合に従って両者の負担部分を定め、Hの
使用者としての上告人の負担部分を確定し、次いで、Gの加害行為の態様及びこれ
と上告人及び被上告人の各事業の執行との関連性の程度、Gに対する上告人及び被
上告人の指揮監督の強弱、本件車両に対する上告人及び被上告人の運行支配、運行
利益の程度などを考慮して、Gの負担部分につき、その使用者及び本件車両の運行
供用者としての上告人及び被上告人の負担部分を確定する必要があったものという
べきである。
 5 以上と異なる原審の前記判断は、損害賠償義務者相互間の求償に関する法令
の解釈適用を誤った違法があるといわなければならず、その違法が原判決の結論に
影響を及ぼすことは明らかである。これと同旨をいう論旨は理由があり、その余の
論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、本件につい
ては、以上説示したところに従い更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原
審に差し戻すのが相当である。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    木   崎   良   平

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