弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人天野亮一の上告理由について。
 第一審判決を引用する原判決の確定するところによれば、昭和二八年一月三一日
の更生債権・更生担保権の届出期日に上告人からその主張の各更生担保権の届出が
なされたが、右届出に際しては公正証書謄本の添付がなされていたのみで、右更生
担保権の被担保債権が有名義債権(執行力ある債務名義又は終局判決のある債権)
である旨の届出記載はなく、右公正証書謄本に執行文の付記もなされていなかつた
ところ、管財人Dが同年二月一八日の更生債権・更生担保権の調査期日において右
届出にかかる更生担保権の被担保債権に対し異議を述べたが、上告人において会社
更生法一四七条による更生担保権確定の訴を提起しなかつたので、更生裁判所は、
上告人の前記届出は有名義債権を被担保債権とする更生担保権の届出ではなく同法
による更生担保権確定の手続もなされていないと判断し、原判示の更生担保権者表
の確定額欄にいずれも「0」と記載したというのであり、その後右表の確定額欄の
記載が訂正されて上告人の届出額のとおり「四百二十五万円」、「百三十六万八千
五百円」、「五十七万八千円」とそれぞれ記入訂正されたが、右訂正は前記更生担
保権者表の確定額欄「0」の記載に明白な誤謬が存するとして民訴法一九四条に基
づきなされたものではなく、また右記載が無効であるとしてその旨の確定判決を得
たうえこれに基づいて訂正されたものでもなく、同三〇年一二月二三日以降にいた
り原判示の経緯によりなされたというのである。
 ところで、更生債権・同担保権の届出に際し、更生債権又は更生担保権の被担保
債権について、執行力ある債務名義又は終局判決の存否を明らかにしなければなら
ない旨の明文の規定が存しないことは所論のとおりであるけれども、会社更生法一
三五条、一四四条、一五〇条等が更生債権・更生担保権の確定手続の対象を更生債
権者表・更生担保権者表に記載された事項に限定しており、同法一四七条、一五二
条が執行力ある債務名義又は終局判決のある債権(更生担保権についてはかかる有
名義債権を被担保債権とするもの)と然らざる債権とによつて更生債権・更生担保
権の調査期日における異議の結果必要とされる更生債権・更生担保権確定のための
手続に本質的な差異を規定していること等を考慮して考察すれば、有名義債権又は
これを被担保債権とする更生担保権として同法一五二条の適用をうけるためには、
権利者は、その届出に際しその旨を明記しその証拠資料を提出するか、遅くとも更
生債権・更生担保権の調査期日までにこれを追完すべきであつて、これを怠り更生
債権者表・更生担保権者表にその旨記載されなかつた場合には、有名義債権又はこ
れを被担保債権とする更生担保権の届出としての取扱をうけることができず、異議
を排除して更生債権・更生担保権の確定をはかるためには、債権者から同法一四七
条による更生債権・更生担保権確定の訴を提起するを要すると解するのが相当であ
る。そして、同法一五二条にいう執行力ある債務名義とは、執行力ある正本と同一
の効力をもち直ちに執行をなしうるものであることを要し、執行文を要するものは
既に執行文を受けているものであることを要すると解すべきところ、本件において
は、更生担保権に公正証書謄本の添付がなされていたのみで、右公正証書謄本に執
行文の付記もなされていなかつたことは、原審の認定するところである。したがつ
て、原審が、前記認定の事実に基づき、更生裁判所がその形式内容からみて有名義
債権を被担保債権とする更生担保権の届出とみることはできないとし、右債権額を
0と確定して前記更生担保権者表の債権確定額欄に「0」と記載したのは、なんら
違法でないと判断したのは正当である。
 もつとも、原審の確定するところによれば、右記載はその後前記のように上告人
主張の届出額のとおり訂正記入されたというのであるが、更生担保権者表になされ
た前記「0」なる記載は確定判決と同一の効力を有し、右記載を訂正するためには、
右記載に明白な誤謬が存する場合においては会社更生法八条により民訴法一九四条
を準用して更正決定を得、これに基づいて訂正を加えるべく、また、前記更生担保
権者表に無効な記載事項が存する場合においては(右記載は会社更生法一四五条の
文言に拘らず確認的意味を有するにすぎないのであるから)、右無効を訴をもつて
主張しその旨の確定判決を得た後これに基づいて訂正を加えることが許されると解
するのが相当であるところ、前記訂正が右の手続により適法になされたことについ
ては上告人から主張がなされていないだけでなく、原審の確定した本件における事
実関係のもとにおいては、前記「0」なる記載に明白な誤謬の存しないことは明ら
かであつて、前記訂正が訴の提起に基づき確定判決を得てこれに基づきなされたも
のでないことも明らかであるから、原判示の経緯でなされた更生担保債権者表の前
記訂正は効力を生じないと解するのが相当であり、右と同趣旨の見解のもとに上告
人に本件更生担保権者としての資格がないとした原審の判断は正当である。所論の
実質は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難し、
独自の見解に基づき原判決を非難するものであつて、採用できない。
 なお、上告人主張の本件更生担保権が前記理由により確定したことを認めえない
本件においては、論旨第一点指摘の事由が存するとしても、上告人が本件更生担保
権者としての資格を有しない筋合にあることは明らかであるから、論旨第一点は採
用のかぎりではない。また、論旨第二点末尾の訴外小名木からの譲受債権に関する
原審の認定判断は正当であり、この点に関する所論も、原判決を正解せず独自の見
解に基づき原判決を非難するものであつて、採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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