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平成16年(ネ)第2790号損害賠償等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成
14年(ワ)第15926号)
口頭弁論終結日 平成16年11月11日
    判       決
 控訴人(原審原告)         A
同訴訟代理人弁護士     海 渡 雄 一
同             戸 田 綾 美
被控訴人(原審被告)     東燃化学株式会社
被控訴人(原審被告)     東燃ゼネラル石油株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士  山 内 信 俊
同             森   雄一郎
同             小 山 修 司
           主       文
     1 本件控訴を棄却する。
     2 当審で追加された控訴人の予備的請求を棄却する。
     3 当審における訴訟費用は全部控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
  (1) 原判決を取り消す。
 (2) (主位的請求)被控訴人らは、控訴人に対し、各自金1億0170万円及
びこれに対する平成14年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
   (予備的請求)被控訴人らは、控訴人に対し、各自金6508万円を支払
え。
 (3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
  主文同旨
第2 事案の概要
 1 控訴人は、原審において、①本件出願発明(原判決12頁24行目以下)は
本件原告提案(原判決12頁11行目以下)の技術的範囲に属し、控訴人がその共
同発明者の一人であるにもかかわらず、被控訴人東燃化学株式会社(以下「被控訴
人東燃化学」という。)は本件出願発明につき特許の出願をするに当たり共同発明
者から控訴人を除外して出願をしたとし、同被控訴人のこの行為は、控訴人の発明
者としての名誉権等の人格権及び特許を受ける権利の侵害に当たると主張するとと
もに、②被控訴人東燃化学が、控訴人に実施料を支払わずに本件原告提案に係る発
明ないし一連の技術ノウハウ(***********************
*************************************
*************************************
*************************************
*************************************
***************************以下「本件ノウハウ」
という。)を使用していると主張して、共同不法行為に基づく損害賠償請求ないし
不当利得返還請求として、被控訴人らに対し、包括的な損害金として各自金1億5
256万円及びこれに対する平成14年7月30日(原審訴状送達の日)から支払
済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
   原判決は、控訴人が本件出願発明の発明者とはいえないから、被控訴人東燃
化学が本件出願発明につき特許出願をするに当たり、共同発明者から控訴人を除外
して出願したことは、控訴人の発明者としての名誉権等の人格権及び特許を受ける
権利を侵害するものではなく、また、本件出願発明及び本件ノウハウは、被控訴人
東燃化学に帰属するから、同被控訴人が実施料を支払わずに本件出願発明及び本件
ノウハウを実施したとしても、不法行為及び不当利得を構成せず、したがってま
た、被控訴人東燃ゼネラル石油株式会社(以下「被控訴人東燃ゼネラル」とい
う。)についても同様に共同不法行為及び不当利得は成立しないとして、控訴人の
請求を棄却した。
   これに対し、控訴人は、原判決の取消しを求めて本件控訴を提起し、本件出
願発明及び本件ノウハウの全体に対する控訴人の貢献度は3分の2であるとして、
金1億0170万円(本件出願発明に関しては、全体の2割である金2034万
円、本件ノウハウに関しては、全体の8割である金8136万円)及びこれに対す
る前同日以降の遅延損害金の支払を求め(請求を減縮)るとともに、追加的な予備
的請求として、本件ノウハウについて職務発明の対価請求(特許法35条3項)が
認められるべきであるとして、被控訴人らに対し、金6508万円の支払を求め
た。
 2 争いのない事実等、本件の争点は、次のとおり、補正、付加するほか、原判
決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要の1、3」に記載のとおりであるか
ら、これを引用する。
  (1) 原判決2頁11行目から12行目にかけての「所属する社員であり、」を
「所属し、平成15年1月末に退職するまで、」と、同行目から13行目にかけて
の「従事している。」を「従事していた。」と、同14行目から15行目にかけて
の「属していない。」を「属したことがない。」と改める。
(2) 同7頁18行目の「及び」を「並びに」と改める。
  (3) 同8頁7行目の「本件原告提案に係る発明ないし一連の技術ノウハウ」を
「本件ノウハウ」と改め、同11行目末尾の次に改行の上、「(8) 本件ノウハウが
職務発明に該当するとした場合、控訴人は被控訴人らに対し特許法35条に基づく
相当の対価の請求権を有するか。」を加える。
第3 争点に関する当事者の主張
本件の争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正、付加するほか、原判
決の「事実及び理由」中の「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりで
あるから、これを引用する。
1 原判決9頁9行目の「本件原告提案は」を「本件原告提案の内容となってい
る事項は」と改め、同17行目の「提出されるまでは、」の次に「*******
**********************として」を加え、同19行目及び
22行目の各「上記実習生報告書」をいずれも「実習生報告書」と改める。
2 同12頁24行目の「本件原告提案に係る一連の技術」、同25行目の「本
件原告提案に係る発明ないし一連の技術ノウハウ」、同末行から同13頁1行目に
かけての「このような発明ないし技術ノウハウ」、同23行目の「上記一連のノウ
ハウ」、同14頁9行目の「上記一連の技術」、同21行目から22行目にかけて
の「本件原告提案に係るノウハウ」をいずれも「本件ノウハウ」と改める。
3 同15頁16行目の「上記実習生報告書」を「実習生報告書」と改める。
4 同23頁21行目の「本件原告提案に係る一連の技術」、同22行目、同2
4頁18行目、同25頁9行目及び同11行目から12行目にかけての各「「一連
の技術」」」をいずれも「本件ノウハウ」と改める。
5 同28頁2行目及び10行目の各「出願」をいずれも「本件出願」と改め
る。
6 同29頁15行目の「本件原告提案に係る技術ノウハウ」、同18行目の
「一連の技術ノウハウ」、同19行目の「これら一連の技術」、同21行目の「上
記の一連の技術」、同30頁7行目の「本件原告提案に係る技術ノウハウ」をいず
れも「本件ノウハウ」と改める。
7 同33頁14行目の「本件原告提案に係る発明及び技術ノウハウ」を「本件
ノウハウ」と、同34頁2行目の「本件原告提案」から同3行目の「支払うべきで
ある」までを「本件ノウハウの全体に対する控訴人の貢献度は3分の2であるとい
うべきところ、被控訴人らはこれらを実施するに当たり、その実施料相当額の3分
の2に相当する1億0170万円を控訴人に支払うべきである」と、同6行目の
「1億5256万円」を「1億0170万円」と改める。
 8 同34頁11行目の次に改行の上、以下のとおり加える。
「8 争点(8)(本件ノウハウが職務発明に該当するとした場合、控訴人は被控訴人
らに対し特許法35条に基づく相当の対価の請求権を有するか)について
[控訴人の主張]
 (1) 本件ノウハウは、以下に詳述するとおり、*********をもたらし
た画期的ノウハウであり、新規性、進歩性を有する発明に該当するものである。こ
れは、控訴人が直接の職務命令を受けて発明したものではないが、被控訴人東燃化
学の工場の運転管理を務めるオペレーターとしての控訴人の職務内容に含まれるも
のであるから、控訴人の職務発明となる。
   そして、本件ノウハウは、控訴人の着想を主要な内容としているところ、
控訴人は自らの着想を被控訴人東燃化学の設備や人的資源を利用することなく独自
に考案しており、本件ノウハウに対する控訴人の貢献度は80%を下らない。ま
た、控訴人が本件ノウハウを提案した後、担当者らによって検証実験が行われた
が、これは運転の条件などを確認したものにすぎず、その内容に格別の独自性は存
しないので、本件ノウハウの共同発明者の中における控訴人の貢献度は、少なくと
も3分の2は下らない。
   したがって、本件訴訟において請求した本件ノウハウの実施料相当額(全
請求額1億5256万円の80%)に、共同発明者としての貢献割合の3分の2を
乗じた額のうち、少なくとも80%(被控訴人らの貢献度を20%とみてこれを控
除したもの)である6508万円を、本件ノウハウについて職務発明の対価として
請求する。
(2) 本件ノウハウに新規性があることは、被控訴人らが本件ノウハウの実施前
に行った先行特許の調査(甲23、24)において明らかである。また、本件ノウ
ハウの進歩性も、その効果の顕著性、非予測性、構成の困難性、長年にわたる「発
明の不実施」などから明らかである。
 現代においては、様々な技術を組み合わせ、結合して新たな技術を作り出
し、顕著な効果を生み出す点に発明の進歩性が認められるところ、本件ノウハウ
は、有機的一体的な重要な技術であり、そこに技術の組合せによる発明の進歩性が
認められる。このことは、プロセス設計の専門家であるBが本件出願発明及び本件
ノウハウについて評価をまとめた書面(甲39の1、甲49、以下「B書面」とい
う。)からも明らかである。
 さらに、ノウハウを提案した従業員に対価請求が認められることは、東京
地裁昭和58年12月23日判決(無体集5巻3号844頁、以下「参考判決」と
いう。)が、「特許法35条の職務発明は、特許発明に限定されてはいないから、
発明でありさえすれば特許されたものであろうとなかろうと同条の適用がある。い
わゆるノウ・ハウも、発明の実質を備えるものであれば・・・同条の職務発明とな
りうる。」と判示するとおりである。しかも、本件では、被控訴人らが、他社への
技術漏洩を避けるために、出願の範囲を限定し、出願されたDIBの精製技術は、
控訴人が提案した********全体の一部にすぎず、控訴人が提案した技術の
重要な部分は、ノウハウとして社内に留保されたものである。
[被控訴人らの主張]
 (1) 職務発明とは、「その性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発
明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属
する発明」(特許法35条1項)をいうところ、本件ノウハウとは本件原告提案の
ことであり、そもそも本件原告提案は「発明」ではなく、職務発明の成立要件の1
つである「従業者等のなした発明であること」を満たさないから、控訴人の職務発
明の対価請求に関する予備的主張は、理由のないことが明らかである。
 (2) 控訴人は「本件ノウハウ」も共同発明であるとしているようであるが、本件
ノウハウには控訴人が自らの着想でないと自認している水の添加比に関する数値限
定が含まれていないのであるから、控訴人の主張を前提とすれば共同発明とならな
いということとなり矛盾している。また、控訴人は、本件ノウハウの進歩性及び新
規性などと称し、従来どおりの主張を重複させているが、いずれも理由がない。な
お、被控訴人東燃化学が行った先行特許調査は、特許出願準備作業として企業にお
いて通常行われるものにすぎないのであって、それを行ったという事実は、本件原
告提案の「進歩性ないし新規性」を基礎付けるものではない。
   本件原告提案は、実習生報告書の域を超えるものではない上、「発明」にす
ら該当しない要素を単に寄せ集めたものであり、それに新規性・進歩性が認められ
ないことは明らかである。B書面に依拠した控訴人の主張も、本件紛争の争点の判
断に何ら新たな視点を提供するものではない。
   なお、本件原告人提案は「発明」ではないのであるから、控訴人が参考判決
を挙げて自己の見解の論拠としているのは当を得ないものである。また、控訴人
は、本件原告提案のいかなる部分が本件出願発明に含まれていないと主張するのか
明らかではないし、被控訴人らが当該部分をノウハウとして社内に留保したという
主張は、具体的な主張立証を欠くものである。」
第3 当裁判所の判断
 (主位的請求について)
 当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する主位的請求は、いずれも理由がないもの
と判断する。その理由は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決「事実及び理
由」中の「第4 当裁判所の判断」1ないし6の記載のとおりであるからこれを引
用する。
1 原判決の補正 
  (1) 原判決34頁20行目の「記載されている。」の次に「そして、乙15及
び弁論の全趣旨によれば、下記(ア)の********************
*************************************
*********************************」を加
え、同35頁9行目冒頭から同11行目末尾までを削除する。
  (2) 同35頁13行目及び14行目の各「報告書」をいずれも「実習生報告
書」と改め、同15行目の「上昇時、」の次に「************を保つ
ためには」を加える。
(3) 同36頁14行目の「上記実習生報告書」を「実習生報告書」と改める。
 (4) 同37頁12行目の「によれば、」を「には、製造技術課においては、」
と、同18行目の「判明した。」を「判明したこと、」と、同21行目から22行
目にかけての「運転指針が立てられた。」を「運転指針が立てられたことが記載さ
れている。」と改める。
 (5) 同40頁1行目の「3000円であったが、」を「3000円であった
(乙9)が、」と改める。
 (6) 同41頁5行目の「によれば、」を「には、」と、同6行目の「検討して
いた。」を「検討していたこと、」と、同8行目の「配布されていた。」を「配布
されていたこと、」と、同10行目の「検討していたものである。」を「検討して
いたことが記載されている。」と、同末行の「によれば、」を「には、」と、同4
2頁2行目の「考えられた。」を「する検討結果が出されたことが記載されてい
る。」と改める。
 (7) 同43頁25行目の「内容から、******には」を「内容には、**
*****に、」と、同末行の「存在していた。」を「存在することを前提とする
ものが含まれている。」と改める。
 (8) 同45頁7行目から8行目にかけての「被告東燃化学がその再提案という
形で提出した」を「被控訴人東燃化学は、控訴人に94年提案書に係る提案を再提
案という形で提出させた」と、同14行目の「甲19」を「甲19、乙9」と、同
16行目の「平成8年7月8日、被告東燃化学、」は、「被控訴人東燃化学におい
ては、平成8年6月20日付けの技開センターからの依頼により、技術情報関連グ
ループが、」と、同19行目の「調査を行った。」を「調査を行い、同年7月8
日、その内容を報告した。」と、同20行目の「同被告は、同年9月18日に
は、」を「技術情報関連グループは、同年7月16日付けの技開センター・化成品
開発グループの依頼により、」と、同21行目の「調査を行った」を「調査を行
い、同年9月18日にその内容を報告した」と改める。
(9) 同49頁21行目の「意義を有する。」を「意義を有するにとどまるもの
である。」と改める。
(10) 同53頁25行目の「また、」を「したがって、本件原告提案のうちで
は、」と、同54頁1行目から2行目にかけての「貢献したものである。もっと
も、本件原告提案③は、」を「貢献したものといえるが、同提案が」と、同3行目
の「該当しないものである。」を「該当しないことは既に説示したとおりであ
る。」と改める。
2 控訴理由について、以下付言する。
 (1) 控訴人は、94年提案書において、*****************
****************を提案するとともに、***********
****を水洗塔にて洗浄しDIBを精製する方法を指摘し、これを受けて被控訴
人東燃化学の製造1課と化成品開発グループが協同開発業務を開始し、さらに、9
5年補足説明書において、WATERWASHMIXERSETTLERシステムを活用するDIB精
製方法を提案し、その直後から検証実験が行われて本件出願発明及び本件ノウハウ
が完成しており、控訴人が着想の提供を行い、化成品開発グループ等のメンバーが
検証実験を行ったのであるから、控訴人と上記メンバーは共同発明者に該当すると
主張する。
   しかしながら、*********における*******としてDIB
を活用することと、***************を水洗浄しDIBを精製する
方法とは、既に実習生報告書に記載されていた事項であり、94年提案書における
新たな提案が、水を添加してTBAを除去する方法として水洗塔を利用する点にす
ぎないこと、また、95年補足説明書は、TBAを除去する方法として、水を添加
して撹拌した後これを静置する液-液平衡に基づく抽出操作を前提としてWATER
WASHMIXERSETTLERシステム活用を提案するものであるところ、被控訴人東燃化学
は95年補足説明書が提出されるまでに既に同システムと同様の水抽出方法による
TBAの除去の実験を行ってたものであり、95年補足説明書は、上記除去方法を
実用化できる既存設備を指摘したにとどまることは、原判決説示(47頁5行目な
いし53頁6行目)のとおりであり、本件原告提案が、本件出願発明の着想を提供
したものと認められないことは明らかであるから、控訴人の上記主張を採用するこ
とはできない。
   なお、控訴人は、原判決が、実習生報告書と上記の協同開発業務との関係
について、被控訴人らから何らの主張立証もないのに、上記業務が実習生報告書に
基づくものであると認定しており、審理不尽であると主張する。
   しかしながら、原判決は、その説示において、被控訴人東燃化学において
は、遅くとも平成3年から、*****のためのアプローチの仕方として、a *
****************で多く生成させる方法と、b *******
************から導入する方法の両方が検討課題とされ、実習生報告
書も、******の導入の可能性について言及し、今後の検討課題として上記の
両方のアプローチを掲げていたとの認定を前提とし、同社は、当初は、TBA除去
の具体策を欠いたため、bのアプローチよりaのアプローチが優先して進められて
いたとした上、実習生報告書の研修課題とされていた上記のbのアプローチについ
て、これに関する実験を復活させる契機となったのは、控訴人の94年提案書であ
ると認定しており、控訴人主張の協同開発業務の開始が実習生報告書自体に基づく
ものであると認定しているわけではないから、控訴人の上記主張は、原判決を正解
しないで非難するものであり、失当といわなければならない。
 (2) 控訴人は、実習生報告書の提出時から本件原告提案がなされるまでの間、
被控訴人東燃化学において、******導入の研究開発は全く行われておらず、
*****に必要な*******は、***********で生成させるとい
う方向での対策が行われており、このことは、******を生成増加する対策を
採用していた被控訴人東燃化学の製造技術課が、本件原告提案の検討を拒否し、当
初、上記の協同開発業務に参加していなかったことからも明らかであると主張す
る。
   しかしながら、被控訴人東燃化学において、94年提案書の提出に至るま
で上記bのアプローチが無視されていたわけではないことは、原判決説示(47頁
6行目ないし48頁13行目)のとおりであり、また、被控訴人東燃化学の製造技
術課が、本件原告提案の検討を拒否したことを認めるに足りる客観的証拠はない
(この点に関する控訴人の陳述書(甲25)は措信できない。)。控訴人の上記主
張は、採用することができない。
 (3) 控訴人は、94年提案書の原案(乙12)における上司所見には、記入し
た日付けの記載がなく、同原案提出時には、******導入の可能性は確認され
ておらず、しかも、上記所見を記載した製造1課のC課長は、上記の導入の可能性
を協同開発業務の開始により平成7年1月に初めて知ったのであるから、上記所見
は、その時点で記載されたものであると主張する。
   しかしながら、94年提案書の原案の記載に不合理な点は認められず、ま
た、被控訴人東燃化学において、遅くとも平成3年から、上記aのアプローチとと
もにbのアプローチも検討課題とされており、実習生報告書も******導入の
可能性について言及し、今後の検討課題として両方のアプローチを掲げていたこと
は既に説示したとおりであり、前記引用に係る原判決第4の1(1)ウの認定事実をも
考え併せれば、***製造の関係部署である製造1課のC課長はかかる経緯を認識
していたと認めるのが相当である。同原案の上司所見が平成7年1月に記載された
ものであるとする控訴人の主張は、独自の憶測に基づくものであって、到底、採用
することができない。
   さらに、原告は、本当に実習生報告書により協同開発業務が開始されてい
たのなら、94年提案書(甲1)の上司所見欄に実習生報告書についてのコメント
がないことはあり得ないと主張するが、94年提案書の原案に上司所見として指摘
した事項を94年提案書に改めて記載しなかったとしても、不合理であるとは認め
られず、控訴人のこの点の主張も採用することができない。
 (4) 控訴人は、原判決が、94年提案書の提出に至るまで実習生報告書が無視
されていなかったことの根拠として、「94年提案書の上司所見で「******
****************の一部に使用可能か検討を進めているところで
ある」との記載があり、委員会審査においても、化成品開発グループと共同でラボ
テストを含めて検討を進めている旨の記載もある」と判示したことについて、上記
の上司所見及び提案小委員会所見は、94年提案書の6か月ないし10か月後の平
成6年11月ころ化成品開発グループと製造第1課によって開始された協同開発業
務の結果を反映してなされたものであり、しかも、上記両所見は、控訴人の提案を
被控訴人東燃化学が再評価した再提案書(乙7)によって否定されていると主張す
る。
   しかしながら、上記の上司所見及び提案小委員会所見が、被控訴人東燃化
学において*****のため上記aのアプローチだけでなくbのアプローチも検討
課題とされてきた前記説示の経緯を踏まえたものであることは明らかであって、9
4年提案書提出の6か月ないし10か月後の平成6年11月ころ開始された協同開
発業務の結果を反映したものであるとする控訴人の主張は、独自の憶測に基づくも
のというほかなく、また、再提案書は、控訴人の94年提案書を協同開発業務の契
機となった点から再評価されたものであり、その再評価により、上記両所見自体が
否定されたというものではないから、控訴人の上記主張を採用する余地はない。
 (5) 控訴人は、その他、******、水の添加比、ミキサー・セトラー等の
技術的争点について縷々主張するが、これらはいずれも原判決を正解せずに論難す
るか、又は独自の見解に基づいてこれを非難するものであって、採用の限りではな
い。
(当審において追加された予備的請求について)
1 控訴人は、被控訴人ら各自に対し、本件ノウハウについて職務発明の対価請
求(金6508万円)が認められるべきであると主張する(なお、控訴人の上記主
張は、本件ノウハウが、被控訴人東燃化学に単独で帰属することを前提としている
のか、同被控訴人と被控訴人東燃ゼネラルの双方に帰属することを前提としている
のか明らかではないが、主位的請求と同様に、被控訴人両名各自に対し上記金員を
請求するものと善解することとする。)。
2 そこで検討するに、控訴人主張の本件ノウハウとは、本件原告提案(原判決
4頁11行目以下)と同旨であるところ、本件原告提案①及び②の「******
*************************************
*************************************
***********************粗DIBに水を添加してTBA
を除去し生成する方法」が、既に実習生報告書において報告された技術事項である
ことは、原判決認定(35頁12行目ないし36頁19行目、47頁6行目ないし
49頁21行目)のとおりである。そうすると、上記①及び②のノウハウが特許要
件を具備するものか否か、特許発明に至らない程度の一定の技術的ノウハウに関し
て、特許法35条所定の職務発明の対価請求の規定の(類推)適用があるか否かの
議論はさておき、上記①及び②のノウハウを控訴人が新規に提案したものでないこ
とは明らかであるから、その対価請求が認められないことは当然といえる。
  また、本件原告提案③の「WATERWASHMIXERSETTLERシステムを使用して精
製する方法」は、控訴人の提案に係るものと認められるが、これは、原判決認定
(50頁6行目ないし同頁26行目、52頁1行目ないし同頁23行目、53頁8
行目ないし同頁14行目)のとおり、既存の遊休設備「WATERWASHMIXER
SETTLERシステム」(*********************)の利用の可能
性を指摘したものにすぎない(本件ノウハウに、******の使用や2段工程の
水洗浄によるTBAの除去方法が含まれていないことは、控訴人も自認してい
る。)。同提案は、このように技術的思想の創作と関わりのない業務改善的な指摘
事項であって、特許出願をしても特許を受ける余地のないものであり、同提案につ
いて職務発明の対価請求の規定の(類推)適用がないことは明らかである。
  したがって、控訴人の予備的請求に関する主張は、採用することができな
い。
(結論)
 以上のとおり、控訴人の主位的請求にはいずれも理由がないと判断した原判決は
相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、また、当審で追加された
控訴人の予備的請求も理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判
決する。
 
  東京高等裁判所知的財産第1部
    裁判長裁判官   青  柳     馨
  
裁判官   清  水     節
           
           裁判官   沖  中  康  人
(注意 判決中***部分は閲覧制限部分である。)

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なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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