弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 特許庁が、昭和五九年審判第九九二一号事件について平成二年一〇月二五日に
した審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
 主文と同旨の判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
 被告は、「Columbia Pictures Industries,In
c.」の欧文字を横書きしてなり、第二六類「印刷物、書画、彫刻、写真、これら
の附属品」を指定商品とする登録第一五一三六一九号商標(昭和五四年八月一〇日
商標登録出願、昭和五七年五月二五日設定登録。以下「本件商標」という。)の商
標権者であるが、原告は、昭和五九年五月二三日、被告を被請求人として本件商標
の登録を無効とすることについて審判を請求し、同年第九九二一号事件として審理
された結果、平成二年一〇月二五日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との
審決があり、その謄本は、同年一二月二七日、原告に送達された。
二 審決の理由の要点
1 本件商標の構成、指定商品及びその設定登録日は、前項記載のとおりである。
2 請求人(原告)の引用する登録第五九七四九一号商標(以下「引用商標1」と
いう。)
は、別記に表示したとおりの構成よりなり、第二六類「印刷物(文房具類に属する
ものを除く)、書画、彫刻、写真、これらの附属品」を指定商品として、昭和三五
年一二月二四日商標登録出願、昭和三七年九月一八日商標権設定登録、昭和四八年
二月七日及び昭和五七年一一月二六日各商標権存続期間の更新登録がされているも
のである。
3 請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とす
る。」との審決を求めたが、その主張は、次のとおりである。
(一) 本件商標の登録は、商標法第四条第一項第一一号の規定に違反してされた
ものである。
 本件商標と引用商標1とを対比すると、本件商標を構成する「Columbia
 Pictures Industries,Inc.」の文字を全体として称呼
するときは、「コロンビア ピクチャ インダストリーズ インク」と冗長にすぎ
るものである。そして、「Columbia」と「Pictures」との間には
一文字間隔があり両文字が一体となって一つの熟語的意味を形成するものではな
く、「Pictures」の文字は第二六類中の「写真」等の商品を意味する語句
であり、更に「Industries,Inc.」の文字は、会社法上において強
制的に「〇〇〇〇株式会社」、「〇〇〇〇産業株式会社」、「〇〇〇〇精器株式会
社」、「〇〇〇〇工業株式会社」等附属的に普通に用いられている日本語の〇〇〇
〇株式会社に相当する語句であり、これを一連に称呼しなければならない格別の事
情も認められない。むしろ、簡易迅速を旨とする取引経験則に照らせば、商標中の
ある部分、すなわち特にその特徴ある部分は「Columbia」にあり、したが
って、本件商標からは単に「コロンビア」の称呼が生ずるものと認められる。
 一方、引用商標1は、円形の図形内に「Columbia」の英文字を横書き
し、二連音符記号を配してなるものであるが、本件商標の出願前より「コロムビ
ア」、「コロンビア」と称呼され著名な商標となっていたものである。
 したがって、両者とも「コロンビア」「COLUMBIA」の称呼及び観念を生
ずるものと認められるので彼此相紛らわしく、類似する商標といわなければならな
いものである。また、指定商品についても両者は全く相抵触するものである。
(二) 本件商標の登録は、商標法第四条第一項第一五号の規定に違反してされた
ものである。
 請求人の所有する著名登録商標である登録第二四三六三五号商標(以下「引用商
標2」という。)は、英文字で「Columbia」と横書きし、下段に二連音符
記号を配してなる社章で、旧第二二類楽器、蓄音器等を指定商品として昭和八年五
月二四日付で登録されたものである。
 引用商標2と同一商標が請求人の製造販売に係る音響製品等に使用されて国内外
に流通し、本件商標の出願前から既にその取引者、需要者間に広く認識されるに至
っているものである。
(1) 請求人は、引用商標2を自己の製造販売する音響製品等の商品に付し、昭
和三年より現在に至るまで使用を継続してきていると共に、新聞、雑誌、テレビ、
ラジオ等の宣伝媒体を十分活用して積極果敢な宣伝活動を行っており、本件商標の
登録査定前には、すでに第二六類に関係する音楽出版物、録画済ビデオテープまで
も同様な商標を使用して営業活動を行っていた。
(2) 引用商標2を付した音響製品、音楽出版物、録画済ビデオテープ等は、日
本国内津々浦々における音響製品販売、レコード店、書店、学校等を含む教育機関
に広く販売拡布されているためあらゆる年代、階層の人々に十分認識されており、
その著名度は極めて高い。
(3) 引用商標2は、広範囲な商標に関してこれを防護すべき登録商標として第
六四条の適用下に第一類ないし第四類、第六類ないし第八類、第一二類ないし第一
九類、第二二類、第二五類、第二七類ないし第三〇類、第三二類ないし第三四類に
わたり防護標章が認められ請求人の業務に係わる指定商品を表示するものとして需
要者間に広く認識されている事実が公に確認されているといえるものである。した
がって単なる周知を越えたいわゆる著名商標となっているものであることは疑問の
余地はないものである。
 これに対して、本件商標は、極めて冗長な構成からなるもので、簡易迅速を尊ぶ
商取引では「コロンビア」と略称されるのが通常であり、現に「コロムビア」「〇
〇〇コロムビア」或いは「Columbia」を抽出した極めて紛らわしい使用形
態を行っている。
 このように、取引の場では、本件商標は「コロンビア」と略称されるので、著名
な引用商標2により一般的に称呼される「コロンビア」と称呼において類似し、相
互に紛らわしく誤認混同を生ずることは全く疑う余地がない。したがって、商標法
第四条第一項第一五号の規定に該当し、その登録は無効とされるべきである。
4 被請求人(被告)は、結論同旨の審決を求め、次のとおり述べた。
(一) 本件商標の登録は、商標法第四条第一項第一一号に違反してされたもので
はない。
(1) 請求人は、本件商標が冗長である旨述べているが、冗長とは「くどくて長
いこと」言い換えれば不必要に長いことをいうわけであって、長くてもそれなりに
必要な意味が存在しているのであれば、それは冗長とはいえないものである。つま
り、長いもの必ずしも冗長というべきではなく、そこに必須要件以外の言葉がある
場合のみ冗長という語が適するものである。
 してみれば、本件商標の場合、各語が全部揃って始めて被請求人の名称すなわち
法人を構成することになるものである。例えば、「Inc.」という語であるが、
本件商標に「Inc.」がないとすれば、もはや、本件商標が法人であることが不
明確になるから、「Inc.」は本件商標にとって必須要件であり、これを冗長と
目すべき根拠は全くないものである。
(2) 次に、請求人は、「Columbia」と「Pictures」との間に
一字分間隔がある故をもって一つの熟語的意味合を形成しない旨述べているが、全
く誤謬に基づくものというほかない。
 すなわち、日本語の場合、一つの句読点内の句又は節は一連に書されるが、英語
上においては、一つの句読点でも、各語は必ず各々分離して書されるものである。
 それ故、「Columbia」と「Pictures」とが一文字分離して書さ
れている事実の故に両語を分離して認識しなければならないことにはならない。
(3) 請求人は、「Columbia」と「Pictures」とが分離してい
るが故に、熟語的意味を形成するものではない旨述べているが、前述のように、英
語上においては、熟語でさえも分離して書されることを考えれば、分離表現が即熟
語的意味合を形成しないと結論づけることが失当であることは明らかである。
(4) 次に、「Pictures」の文字が第二六類の写真などを意味するとの
請求人の見解を必ずしも否定するものではないが、そのことが該語を略称してもよ
いことにはならないものである。
(5) 更に請求人は、「Industries,Inc.」が会社法上強制的に
「〇〇〇〇株式会社」、「〇〇〇〇産業株式会社」など附属的に普通に用いられて
いる日本語の「〇〇〇〇株式会社」に相当する語句である旨述べているが、この言
い方は、一言にして言えば、「Columbia,Inc.」=「〇〇〇〇株式会
社」と主張しているとしか解されず、失当の謗りを免れないものである。すなわ
ち、「Columbia,Inc.」は日本で言うところの株式会社に相当するも
のではない。
 すなわち、「Inc.」すなわち「Incorporated」とか「Limi
ted」などが「株式会社」に相当するもので、この点における請求人の主張は何
かの誤解に基づくものというほかない。
(6) そして、請求人は、結論として、簡易迅速を尊ぶ取引経験則に照らせば、
商標中のある部分、特に特徴のある部分は「Columbia」にあるから、本件
商標から単に「コロンビア」の称呼が生ずるものと認められる旨述べている。
 しかし、(1)ないし(5)で述べたように、請求人の結論に至る理由付けが失
当である以上、それより導き出される結論も当然失当というほかないものである。
(二) 本件商標の登録は、商標法第四条第一項第一五号に違反してなされたもの
ではない。
(1) すなわち、請求人の引用する引用商標2及び登録第三〇〇五六八号商標
は、旧第二二類および旧第六九類所属商品について使用されているにしても、音符
と「Columbia」の結合した標章としてである。
 そして、仮に該商標が世人に著名になっているとしても、それはあくまでもその
ような結合商標ということにおいてである。
 請求人は、前記引用商標1が音響製品、音楽出版物、録画済ビデオテープ(もっ
とも、後半の二品目は、これらの商品について果たして引用商標1が使用されてい
るのか何ら証明されていない。)について盛大に使用している旨述べているが、一
般的に言って、当該商標が使用されればされるほど、「Columbia」と「音
符」の結合という観念で印象づけられるわけであって、請求人の言及するごとく、
「コロンビア」の称呼で著名であるとの主張は正鵠を得た観察とは到底いえないも
のである。
(2) このように、本件商標が非類似である以上、前記(1)記載の各商標がそ
の指定商品について著名であると否とについて言及するまでもなく、両商標が相互
に誤認混同されるおそれはないものというほかないものである。
5 そこで、本件商標の登録が商標法第四条第一項第一一号又は同第一五号に違反
してなされたものであるか否かについて判断する。
(一) 商標法第四条第一項第一一号について
 本件商標の構成は、前記のとおり「Columbia Pictures In
dustries,Inc.」の文字よりなるところ、構成各文字は、同じ書体
で、かつ、同じ大きさ(「C」、「P」、「I」の各頭文字のみ大文字で書されて
いる。)をもって等間隔にあらわされてなるものであって、これを全体としてみる
ときは、法人である被請求人会社の商号を普通の表示態様をもって一連に表したも
のと認識し理解されるところである。
 ところで、一般に商号が商標として使用された場合にあって、簡易迅速を旨とす
る商取引の実際においては、取引上、「株式会社」等の法人格を表示する文字部分
を省略し、これを除いた商号の略称である構成文字より生ずる称呼をもって取引に
資せられる場合が多いというのが実情である。
 そうとすれば、本件商標はその構成文字全体に相応して、「コロンビア ピクチ
ャーズ インダストリーズ インコーポレーテッド」の一連の呼称を生ずる外、前
記実情よりみて「株式会社」に相当する英語の「Incorporated」の略
語と理解される「Inc.」の文字部分を省略し、「Columbia Pict
ures Industries」の文字に相応して「コロンビア ピクチャーズ
 インダストリーズ」の呼称を生ずるとみるのが相当であって、かかる構成からな
る本件商標にあっては、殊更、該構成中の「Columbia」の文字部分のみを
抽出し、もって本件商標が単に「コロンビア」と略称されるとする特段の事情は見
出し難いものである。
 してみれば、本件商標により「コロンビア」の呼称を生ずるとし、そのうえで本
件商標と引用商標1とが呼称上類似するという請求人の主張は理由のないものであ
って、これを認めることができない。
 さらに、外観、観念の点においても、本件商標と引用商標1とは、相紛れるおそ
れはないといい得るものである。
 したがって、本件商標と引用商標1とは、外観、称呼及び観念のいずれの点にお
いても区別される互いに非類似の商標といわなければならない。
 なお、請求人は、請求の理由において審決例を挙げ本件商標と引用商標1とが類
似すると主張するところあるも、それらの事例は具体的な商標の構成並びに指定商
品等において、本件とは事案を異にするものであるから、該事例をもって本件商標
の登録の適否を論ずるのは適切ではない。
(二) 商標法第四条第一項第一五号について
 請求人が所有する引用商標2の構成は、引用商標1と同一の構成態様よりなるも
のであり(別紙参照)、かつ、これが請求人会社の社章(社標)として用いられ、
また、請求人の取扱いに係る商品「音響製品」について永年使用され、その構成の
特異性をもって我が国一般の世人に広く認識せられた商標であるとしても、これと
本件商標とは、商標において類似しない別異の商標であること前記(一)で判断し
たとおりであって、本件商標は被請求人会社の商号を普通に用いられる方法をもっ
て表示したものとして、他方、引用商標2は請求人会社の商品に使用する商標或い
は社章(社標)として理解し把握されるとみるのが相当であるから、本件商標をそ
の指定商品について使用したとしても、需要者をして該商品が請求人の取扱いに係
る商品であるかのごとく誤認し、商品の出所について混同せしめるおそれはないも
のといわなければならない。
 してみれば、この点についていう請求人の主張は理由のないものであって、これ
を認めることはできない。
 なお、請求人は、本件商標が「Columbia(コロンビア)」を抽出した極
めて紛らわしい使用形態で使用されているとして雑誌広告を提出しているけれど
も、該使用に係る商標が本件商標の使用にあたるか否か等の点については別途検討
されるべきものであって、かかる事由は、本件の前記判断を左右するものではな
い。
(三) 以上のとおり、請求人の主張はいずれも理由がなく採用することができな
いから、本件商標は商標法第四条第一項第一一号又は同第一五号に違反して登録さ
れたものでなく、したがって、この登録を商標法第四六条第一項第一号の規定によ
り無効とすることはできない。
三 審決の取消事由
 本件商標、引用商標1及び2の構成についての審決の認定は認めるが、審決は以
下のとおり、本件商標は引用商標1と類似せず、また、本件商標の使用によっては
原告の業務に係る商品と混同するおそれもないと誤って判断したものであり、違法
であるから、取消しを免れない。
1 商標法第四条第一項第一一号該当について
(一) 原告は、審判手続において、商号が商標として使用されている場合は、そ
の商標は商品を識別するという商標本来の目的で使用されることは希であり、商人
を識別するという商号的に使用されることが一般的であるとして、本件商標が商号
的に使用された場合の商品の出所の混同のおそれについて主張したにもかかわら
ず、審決は、この点については何ら判断をせず、単に商標としてのみ使用される場
合に限って商品の出所の混同のおそれの有無を判断し、もって、本件商標は引用商
標1に類似しないと判断したものであり、審理不尽の違法がある。
 すなわち、原告は、本件商標のような商号が一般取引におかれた場合は、商号全
体で取引に資されることはまずなく、「株式会社」の文字部分を省略するのは当然
のこと、それだけにとどまらず、「地名、行政区画名」や、「〇〇〇電気」、「〇
〇〇薬品」、「〇〇〇音楽」、「〇〇〇金属」等の業種名、あるいは「〇〇〇工
業」、「〇〇〇興業」、「〇〇〇商事」、「〇〇〇製作所」、「〇〇〇産業」等の
よく採択される用語についても一般需要者の注意を惹くことはなく、取引等におい
て省略されて使用されることが多いとして、ここから本件商標の特徴のある部分は
「Columbia」であり「コロンビア」の称呼が生ずるので引用商標1と類似
する旨を主張したものである。それにもかかわらず、審決は、この原告の主張する
点については何ら判断することなく、本件商標と引用商標1とは類似しないと判断
したものである。
 ちなみに、平成元年に被告がソニー株式会社に買収されたことを報じた各新聞の
記事においても「コロンビア」の略称が使用され、審決が本件商標の称呼になると
認定した「コロビア ピクチャーズ インダストリーズ」なる長文のものは皆無で
あり、また、そのことにより、原告がソニー株式会社の傘下になったと勘違いした
人がいて原告も困惑したことがあった。
 また、被告の関係会社が本件商標を「コロンビア」と略称してビデオカセットの
広告物に使用したりしている。
 このように、本件商標は、取引上、省略されて「コロンビア」と呼称されるもの
であることは明らかである。
(二) 審決は、本件商標から「コロンビア ピクチャーズ インダストリーズ 
インコーポレーテッド」の一連の称呼を生ずる外、「コロンビア ピクチャーズ 
インダストリーズ」の称呼を生ずるとし、「コロンビア」の称呼を生ずるものでは
ないと判断しているが、右判断は誤りである。
 本件商標から「コロンビア ピクチャーズ インダストリーズ」の呼称を生ずる
ことをあえて否定するものではないが、これではまだ長すぎるので、簡易迅速を尊
ぶ実際の商取引にあっては、その商標の最も特徴ある部分に注目して短絡し使用す
ることが通常であるところ、本件商標では、会社法上で使用強制の「インク(株式
会社)」の省略は当然のこと、それ以外に「ピクチャーズ」は「〇〇〇電気」、
「〇〇〇化学」、「〇〇〇薬品」、「〇〇〇金属」等と同様に業種である「写
真」、「映画」、「絵」を意味し、「インダストリーズ」についても〇〇〇工業、
〇〇〇興業、〇〇〇商事、〇〇〇製作所、〇〇〇産業等と同様に製作的な意味合い
を付加する場合において「〇〇〇工業株式会社」として商号中によく採択される語
句に属するものであり、いずれも取引上省略されるものである。したがって、本件
商標は「Columbia」がその要部となり、「コロンビア」、「コロムビア」
の称呼が生ずるのである。
 したがって、審決が、本件商標から「コロンビア ピクチャーズ インダストリ
ーズ インコーポレーテッド」の一連の称呼を生ずる外、「コロンビア ピクチャ
ーズ インダストリーズ」の称呼を生じ、「コロンビア」の称呼は生じないとして
引用商標1と非類似であると判断したのは誤りである。
 この点について、被告は、本件商標の要部は「Columbia Pictur
es Industries」であり、そうでないとしても「Columbia 
Pictures」が要部となる旨主張する。
 しかし、本件商標の要部は「Columbia」にあることは明らかであり、ま
た、「Pictures」は普通名称であって、このことは別件の商標登録異議申
立理由補充書(甲第五一号証)において被告自ら認めているところであるから、被
告の主張は理由がない。
2 商標法第四条第一項第一五号該当について
(一) 審決は、引用商標2が原告の取扱いに係る商品である「音響製品」につい
て永年使用され、その構成の特異性をもって我が国一般の世人に広く認識された商
標であるとのみ認定している。
 しかし、引用商標2は円中に「Columbia」と一六分音符記号の組合わせ
の図形商標であるが、原告は、明治四三年一〇月一日に我が国のコレード事業の草
分けとして発足して以来、レコードはもとより音響機器、テレビ、ビデオソフトな
どに「コロムビア」、「Columbia」あるいは「COLUMBIA」の文字
を永年にわたって使用し、近時は、レーザーディスク、フロッピーディスク、OA
機器、各種サービス部門にも進出して総合メーカーとして現在にいたっており、そ
の間に新聞、雑誌、テレビなどの宣伝媒体を通じて盛大に宣伝活動を行ってきた関
係で、「コロムビア」のみで全国津々浦々にいたるまで、また、あらゆる年代、階
層の人々に十分認識されて著名度の高いものとなっているものであり、この点を看
過し、単に引用商標2の構成のみから商品の出所の混同の有無について判断したも
ので、誤りである。
 更に、円中に「Columbia」と一六分音符記号を組み合わせた引用商標2
の構成でも、「コロムビア」が商標の要部となるものであり、この点も看過して商
品の出所の混同の有無について判断したもので、誤りである。
(二) 審決は、本件商標は、被告の商号を普通に用いられる方法をもって表示し
たものであることを理由に、本件商標の使用によって商品の出所の混同を生ずるお
それがないとする。しかし、前述のとおり引用商標2は全国的に周知、著名となっ
ており、また、本件商標の登録前には引用商標1(「コロムビア」として使用する
ものも含む。)と指定商品を同じくする第二六類中の音楽出版物、録画済ビデオテ
ープにも使用して営業活動を行っていたものである。
 これに加え、昨今の企業の多角経営化が進んでいる経済界の実情にあって、原告
は「コロムビア マグネプロダクツ株式会社」、「コロムビア音響工業株式会
社」、「コロムビア興産株式会社」等「コロムビア」を冠した関係会社を有し、今
後も多角経営化をめざしてその拡大化をはかっている最中にある。
 それらのことを考えると、本件商標が使用されれば、「コロムビア」に注目した
一般世人をして原告と何等かの関係(親子関係あるいは資本関係)を有する商品を
取り扱う会社のものと思われ、出所の混同を生ずることは必須である。
(三) 審決は、本件商標が「Columbia(コロムビア)」を抽出した極め
て紛らわしい使用形態で使用されていることにつき、これが本件商標の使用にあた
るか否かの点については別途検討されるべきことであり、本件商標の使用によって
は商品の出所について混同させるものではないとの結論を左右するものではないと
する。
 しかし、前述のとおり、商号をもって商標とした場合は、取引上、特徴ある部分
を抽出して簡略化して使用されるものであるところ、原告の提出した甲第一二号証
によって、本件商標における被告の商号を「コロムビア」と簡略使用されているこ
とを認めることができ、そのような形態による本件商標の使用により商品の出所に
混同が生ずるにもかかわらず、この点について判断を示さず、本件商標の使用によ
り商品の出所に混同が生ずることはないとした審決の判断は誤りである。
第三 請求の原因に対する認否および被告の主張
一 請求の原因一、二は認める。
二 同三の審決の取消事由は争う。審決の認定、判断は相当であり、審決に原告主
張の違法は存しない。
1 商標法第四条第一項第一一号該当について
(一) 原告は、本件商標が商号的に使用された場合の出所の混同の点から本件商
標と引用商標1の類似性について主張したにもかかわらず、審決がその点について
判断しなかったとして、審決に審理不尽の違法がある旨主張する。
 しかし、審決は、原告の右主張を整理して理解した上で(審決第三頁)、それに
ついて検討し、もって「本件商標にあっては、殊更、該構成中の「Columbi
a」の文字部分のみを抽出し、以って本件商標が単に「コロンビア」と略称される
とする特段の事情は見出し難いものである。」(同第一四頁)と判断したものであ
り、原告の主張は理由がない。
 なお、原告は、被告の関連会社であるアール・シー・エー・コロンビア・ピクチ
ャーズ・ビデオ株式会社がビデオカセットの広告物(甲第一二号証)に「RCAコ
ロンビア」という記載をしたことをいうが、これを見るものは被告の関連会社の広
告であると認識するのであって、原告と関連づけて考える者はいない。
 また、原告は、ソニーによる買収に関する新聞記事(甲第一三号証)についてい
うが、まず、買収されたのは、被告ではなく、被告の親会社であるコロンビア・ピ
クチャーズ・エンターテイメント・インクである。そして、「コロムビア」という
略称が使われたのではなく、「米コロムビア」あるいは「米映画コロムビア」とい
う略称が使われたにすぎない。すくないスペースで事案の概要を読者に紹介する目
的を有する新聞記事の見出しにおいては、通常の取引において需要者が使用する以
上に、極めて簡略に会社名が記載されることは当然である。これらの記事の本文に
おいては、必ず、「コロンビア・ピクチャーズ・エンターテインメント」という被
買収会社の正式名称が記載されているのである。
(二) また、原告は、審決が本件商標から「コロムビア ピクチャーズ インダ
ストリーズ インコーポレイテッド」又は「コロムビア ピクチャーズ インダス
トリーズ」の称呼が生じ、「コロムビア」の称呼が生じないとしたことの誤りをい
う。
 まず、「ピクチャーズ」は日本語として定着した言葉ではなく、業種を意味する
言葉とは理解されていない。また、後に詳述するとおり、被告は、世界的に極めて
著名な映画会社であって、この点が本件商標の要部判断においても影響し、要部は
「Columbia Pictures Industries」となるのであ
る。このような事実を考慮することなしに、単に表面的な文言のみにとらわれた原
告の見解は、極めて皮相なものであるといわざるをえない。
 また、原告は、「ピクチャーズ」が「〇〇〇電気」、「〇〇〇化学」、「〇〇〇
薬品」及び「〇〇〇金属」と同様であると主張しているが、「電気」、「化学」及
び「金属」といった部分が必ず要部から除外されるということではなく、その商号
の著名度、語調等を勘案して総合判断すべき問題である。
(三) 被告の最も古い前身は一九一八年(大正七年)に設立され、その後さらに
一九二〇年(大正九年)に、別の前身であるシー・ビー・シー・フィルム・セール
ス・コーポレーションが設立され、同社は一九二二年(大正一一年)に最初の映画
を製作した。「コロムビア・ピクチャーズ」の文字を始めて商号中に取り入れた
「コロムビア・ピクチャーズ・コーポレーション」は一九二四年(大正一三年)に
ニューヨーク州法により設立され、右各社を吸収することになった。被告の最初の
有声映画は一九二八年(昭和三年)に製作された。
 被告は、急速に業績を拡大し、早くも一九二九年(昭和四年)には株式を公開
し、証券取引所にその株式が上場されることになった。また、一九三三年(昭和八
年)にはその作品がアカデミー賞にノミネートされ、一九三四年(昭和九年)には
その作品がアカデミー作品賞を獲得するなど、時と共に数々の名作を発表し、次第
にハリウッドのみならず米国においてその地位は揺るぎないものとなっていき、今
日にいたっている。
 そして、被告の映画の冒頭部分においては、必ず被告の商号と光を発する松明を
右手に持った自由の女神像とを組み合わせた被告の商標が十数秒間にわたって大写
しになる。この被告の標章を知らない人はいないといってよいだろう。
 被告は、日本においても戦前からの歴史を有している。すなわち、昭和八年一一
月二二日、被告の映画の輸入・配給業務を担当するために訴外コロムビア・フヰル
ムズ・リミテッドが設立された。昭和一〇年一二月一九日には、出願人コロムビ
ア・ピクチャーズ・コーポレーション(後にコロンビア・ピクチャーズ・インダス
トリーズ・インコーポレーションへと名義人の表示が変更されている。)によっ
て、右手に松明を掲げる自由の女神とともに、その松明の上部に「COLUMBI
A PICTURES」と英文字の入った商標(商標登録第二七一九一七号、指定
商品 旧一八類発声及無声活動写真映画(フイルム)、存続期間の更新登録昭和四
一年七月二九日及び昭和五〇年五月二六日)が登録され、被告は、それから半世紀
の長きにわたって同商標を登録商標として使用して映画を公開してきた。このよう
に被告は、戦前においても「コロムビア・ピクチャーズ」又は「コロムビア映画」
として、発声及び無声映画の分野において著名であったのである。
 戦後においても被告の作品は全国津々浦々に存在する映画館において数限りなく
上映され、これらの映画の冒頭に映写される被告の商号及び自由の女神像は観客に
強い印象を与え、被告の著名性はいよいよ揺るぎないものとなっている。
 また、映画館における上映のみならず、被告は、その作品を、新聞、雑誌及びテ
レビ等において宣伝し、さらにテレビが映画を放映するようになってからは、テレ
ビという媒体を通じて放映することにより、被告は日本において極めて高い著名性
を有することとなった。
 以上述べた被告の著名性のゆえ、被告は、日本の各種の辞書において取り上げら
れている。
(四) 本件商標と引用商標1とは非類似である。
 右に詳述したとおり、被告は、日本において、戦前より数多くの著名な映画を公
開し、「Columbia Pictures」の文字と自由の女神像とを結合し
た登録第二七一九一七号商標を半世紀の長きにわたり使用してきた。そして、被告
が映像分野及び周辺分野において、一般消費者に対する右商標を使用した宣伝活動
を繰広げてきた結果、被告は、「コロムビア・ピクチャーズ・インダストリーズ」
又は「コロムビア・ピクチャーズ」として極めて周知となり、「コロムビア・ピク
チャーズ・インダストリーズ」及び「コロムビア・ピクチャーズ」の商標は被告を
表象する商標として顕著な識別力を有するに至っている。
 したがって、被告が本件商標をその商品に使用しても取引者及び需要者は当該商
品を被告の製造販売にかかるものであると認識し、原告の引用商標1と取り違え
て、商品の出所を誤認混同するおそれはまったく存在しない。したがって、外観、
称呼及び観念の個別的分析をするまでもなく、本件商標と引用商標1とは類似しな
い。
(五) 商標の要部観察の方法によっても、本件商標と引用商標1とは類似しな
い。
 本件商標のうち「Columbia Pictures Industrie
s」とある部分は、映像分野における世界的先駆者であり、永年にわたって日本に
映画フィルムを配給してきた被告の極めて著名な商標であるため、不可分に結合し
たものとして本件商標の要部となる。そして、「Columbia Pictur
es」とある部分は、前述した自由の女神像と結合した被告の商標によって極めて
著名である結果、取引の実際において、取引者及び需要者は「Columbia 
Pictures」とある部分の全体に注意を惹かれる。つまり「Columbi
a」と「Pictures」とは観念上密接な関連性を持ち、取引者及び需要者に
よって、一体不可分なものとして把握されているのである。したがって、両者は分
離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合していると
評価され、百歩譲って「Columbia Pictures Industri
es」が要部とならないとしても、「Columbia Pictures」が要
部となるものである。
 なお、「Pictures」は普通名詞ではない。「Pictures」という
語は英和辞典には掲載されているものの、日本語としては、未だ「映画」という意
味において認識されるにはいたっていない。また、辞典に記載されている説明によ
っても「Pictures」という語は画像、絵画、肖像、写真、映画といった多
義性を有する言葉であるので、「Pictures」が第二六類のどの商品の普通
名称を示すのかは一義的には決まらず、よって、「Pictures」を指定商品
の普通名称とすることはできないのである。
 そして、そもそも、指定商品の普通名称が要部から除外されるのは、それらに出
所識別機能がないからであるが、「Pictures」は「Columbia」等
と相俟って、著名な「Columbia Pictures Industrie
s」又は「Columbia Pictures」全体として識別機能を有するの
であり、「Pictures」を要部から除外することはできないのである。
2 商標法第四条第一項第一五号該当について
 1で述べたとおり、被告は、極めて著名であり、本件商標を被告の商品に付した
としても、取引者、需要者が原告の商品と混同するおそれはない。したがって、原
告の主張は失当である。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
第一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(審決の理由の要点)は
当事者間に争いがない。
第二 そこで、原告の主張する審決の取消事由の当否について判断する。
一 本件商標等の構成
 本件商標が「Columbia Pictures Industries,I
nc.」の英文字を横書きしてなり、第二六類「印刷物、書画、彫刻、写真、これ
らの附属品」を指定商品とするものであること、引用商標1が別紙の構成よりな
り、第二六類「印刷物(文房具類に属するものを除く)、書画、彫刻、写真、これ
らの付属品」を指定商品とするものであること、及び引用商標2が引用商標1と同
一の構成からなり、旧第二二類楽器、蓄音機等を指定商品とするものであることは
当事者間に争いがない。
二 商標法第四条第一項第一一号該当について
1 まず、原告は、審判手続において、本件商標のように商号が商標として使用さ
れている場合は、商人を識別するという商号的に使用されることが一般的であると
して、その場合における商品の出所の混同のおそれについて主張したにもかかわら
ず、審決は本件商標と引用商標1の類否の判断に当たり、この点について判断しな
かったとして、審理不尽の違法があるとする。
 しかし、そもそも、原告の主張するところは、本件商標と引用商標1との類否を
判断するに当たっての、本件商標の取引上の使用のされ方についての単なる見解で
あって、特許庁は、審決において、必ずその見解の当否を判断したり、その見解に
従って判断を示さなければならないものではなく、審理の不尽をいう原告の主張
は、既にこの点において理由がない。
 のみならず、成立に争いのない甲第一号証及び甲第三号証によれば、審決は、審
判請求書における原告の主張のうち、原告の右見解に相当すると認められる部分
(第三頁第三行から第四頁第一九行)をそのまま審決において原告の主張として摘
示し(第三頁第四行ないし第四頁第一七行)、これに対する判断として、「ところ
で、一般に商号が商標として使用された場合にあって、簡易迅速を旨とする商取引
の実際においては、取引上、「株式会社」等の法人格を表示する文字部分を省略
し、これを除いた商号の略称である構成文字より生ずる称呼をもって取引に資せら
れる場合が多いというのが実情である。」(第一三頁第六行ないし第一一行)とし
て、商号が商標として使用された場合における商標の称呼のされ方について論じた
うえで、「本件商標は構成文字全体に相応して「コロンビア ピクチャーズ イン
ダストリーズ インコーポレイテッド」の一連の称呼を生ずる外、前記実情よりみ
て「株式会社」に相当する英語の「Incorporated」の略語と理解され
る「Inc.」の文字部分を省略し、「Columbia Pictures I
ndustries」の文字に相応して「コロンビア ピクチャーズ インダスト
リーズ」の称呼を生ずるとみるのが相当であって、かかる構成からなる本件商標に
あっては、殊更、該構成中の「Columbia」の文字部分のみを抽出し、以っ
て本件商標が単に「コロビア」と略称されるとする特段の事情は見出だし難いもの
である。」(同頁第一二行ないし第一四頁第五行)と判断を示していることを認め
ることができ、審決は、原告の主張するところと同じく、商号が商標として使用さ
れた場合の取引上の実情を考慮して本件商標と引用商標1との類否を判断している
ものであり、その判断過程に何ら審理不尽と評価すべき点はない。
 よって、審決の審理不尽の違法をいう原告の主張は理由がない。
2 次に、原告は、審決が、本件商標から「コロンビア ピクチャーズ インダス
トリーズ インコーポレイテッド」の一連の称呼を生ずる外、「コロンビア ピク
チャーズ インダストリーズ」の称呼を生じ、「コロンビア」の称呼は生じないと
して、本件商標と引用商標とが類似しないと判断したことの違法をいうので、これ
について判断する。
(一) 商号が商標として商品に使用された場合、簡易迅速を尊ぶ取引社会におい
ては、商標をそのままの形で称呼するのではなく、商品の出所の識別力がないか又
はそれが弱い部分を省略して称呼することがよく行われることは当裁判所に顕著な
事実であり、その場合、どの部分が識別力があるとして称呼の対象となり、どの部
分が識別力がない等として省略されるかは、その商標の構成自体のほか、商品の出
所である商人の周知度、商品の種類等によって異なるものである。
 原告は、商号商標のうち、「株式会社」等会社の種類を現す語句のほか、「〇〇
〇電気」とか「〇〇〇製作所」などの業種や業態を表す語句は当然に省略されるも
ののごとく主張するが、そのように一概にいえるものではなく、個々の商標ごとに
具体的に判断していくべきことである。
(二) 以下、本件商標についてこれを検討する。
 本件商標のうち、「Iuc.」の部分は、我が国の「株式会社」に相当する語句
であり、我が国においては、会社の種類を表すため、株式会社の商号中に必ず使用
される語句であって(商法第一七条)、一般の注意を惹くものでないから、取引上
は省略されて称呼されるというべきである。
 次に「Industries」の部分であるが、これは、平易な英語であって、
「産業」、「工業」を意味する語句であることは我が国における英語教育及びその
普及度に照らし、本件指定商品の取引者、需要者の誰しもが理解しうるものであ
る。
 かかる広い意味での業態を表し、慣用的に使用されている語句も、通常は一般の
注意を惹く部分ではなく、実際の取引においては省略されて称呼されることが多い
ことは当裁判所に顕著な事実である。そして、本件商標においても「Indust
ries」の語句を特に含めて称呼しなければ商品の識別機能を果たせないという
事情を認めるに足りる証拠は存しないので、この部分も、取引上は省略されて称呼
されるものと認めるべきである。
 次に、「Pictures」の語句であるが、原告は、これは「〇〇〇電気」、
「〇〇〇化学」、「〇〇〇薬品」、「〇〇〇金属」等と同様に業種である「写
真」、「映画」、「絵」を意味するもので、取引上省略されるものであると主張す
る。
 しかし、かかる業種を表す語句が取引上省略されるものとは必ずしもいうことが
できず、かえって、「〇〇〇」の部分と一体となって称呼される例も多いことは社
会常識に属することである(例えば「三井不動産」、「三井建設」、「三井造船」
等)。この部分を省略して称呼されるのは、冒頭の「〇〇〇」の部分のみで商品の
出所の識別が可能であるような場合であって、「〇〇〇」の部分に特殊性がなく、
それのみでは商品の出所の識別ができないような場合は、それに続く業種等を表す
語句とともに称呼されることは、本来商人識別のための商人の名称である商号を商
標として商品に使用することからすれば当然のことである。この点について、原告
は「Pictures」は普通名称であって、そのことは別件の商標登録異議申立
書において被告自ら認めているところである旨主張するが、原告摘示の点は右判断
に何ら影響するものではない。
 そこで、本件商標の冒頭の「Columbia」の語句についてみる。
 成立に争いのない乙第七号証によれば、「広辞苑」(株式会社岩波書店平成二年
一月八日発行)には、「コロンビア〔Columbia〕」の項に「①アメリカ合
衆国東部の特別区。(中略)②アメリカ合衆国西北部の川。(中略)③(詩など
で)アメリカまたはアメリカ合衆国の女性擬人名。④アメリカ、サウス・カロライ
ナ州の州都」と記載されていることが認められる。これによれば、「Columb
ia」の語句は、固有名詞として使用されているが一般の日本人が通常想起するよ
うな特別の意味は有していないということができる。
 以上のことからすると、商号商標に商品の出所識別の機能を果たさせようとする
限り、本件商標となっている被告の商号のうち「Pictures」の語句をも省
略して「Columbia」のみを取り出して「コロンビア」と称呼するというこ
とはなく、「Columbia」と「Pictures」との両語句を一体にとら
え、「コロンビア ピクチャーズ」と称呼するものと認めるのが相当である。
(三) このことは、次の事実からも裏付けられる。
 成立について争いのない乙第一号証ないし第五号証、第八号証、第三五号証、第
三六号証、第四二号証、第四三号証、第四八号証、第四九号証、第五四号証ないし
第五六号証、第五七号証の一、二及び第六二号証並びに弁論の全趣旨によれば、次
の事実を認めることができる。
 被告は、堀内克明他編「最新英語情報辞典(第二版)」二四八頁にも「Colu
mbia Pictures Industries,Inc.」として「コロン
ビア映画;劇場用映画、テレビ用映画、番組などの製作・配給をする大手映画会
社」と紹介されているように、一九二四年(大正一三年)に設立された世界的に有
名な映画会社であるが、アメリカにおいて、その前身たる会社によって早くも一九
二八年(大正一一年)に映画を制作したのを始めとし、以来、アカデミー賞受賞作
品を含め、数多くの映画を制作し、公開してきて、アメリカにおける有数の映画会
社としてその地位を揺るぎないものとしていった。
 日本においても、昭和八年に被告の映画の輸入・配給業務を担当する会社が設立
され、戦前より、数多くの被告の映画が全国津々浦々にある映画館によって上映さ
れていった。
 なお、昭和一〇年一二月一九日、出願人コロムビア・ピクチャーズ・コーポレー
ション(後に、コロムビア・ピクチャーズ・インダストリーズ・インコーポレーシ
ョンへと名義人の表示が変更されている。)により、右手に光を発する松明を掲げ
る自由の女神像とともに、その松明の上部に「Columbia Picture
s」と英文字の入った商標(商標登録第二七一九一七号、指定商品旧第一八類 発
声及無声活動写真映画(フィルム))が登録され、昭和四一年七月二九日及び昭和
五〇年五月二六日に存続期間更新の登録がされ、昭和六〇年三月一九日の存続期間
満了により抹消の登録がされている。
 そして、被告の映画の冒頭には、必ず右の商標が十数秒間にわたって大写しされ
てきており、また、被告の映画のパンフレット、宣伝用のちらしやビデオテープな
どに右商標が使用されてきており、右商標は、映画に関心のある人々の多くの目に
触れてきている。
 右認定事実によれば、我が国において、被告が映画会社として著名であるという
だけでなく、右登録第二七一九一七号商標、ひいてはそれに含まれる「Colum
bia Pictures」の語句も著名であり、それが、被告を指し示す不可分
一体の語句としてその指定商品や指定商品に関する広告に使用されてきたものと認
めることができる。
 したがって、この点からも、本件商標の付された商品の取引に当たり、これを省
略して称呼する場合であっても、「コロンビア ピクチャーズ」と一体に称呼さ
れ、「コロンビア」とのみ称呼されるものではないということができる。
(四) なお、原告は、被告(正確には、被告の親会社たるコロムビア・ピクチャ
ーズ・エンターテイメント・インコーポレーション)がソニー株式会社から買収さ
れたことを報じた各新聞記事において、「コロムビア」の語句が使用されたことを
もって、被告の商号(ひいては本件商標)は「コロンビア」と称呼される旨主張す
る。
 確かに、弁論の全趣旨により原告訴訟代理人が作成した新聞記事の切抜きである
ことを認めることができる甲第一三号証によれば、被告の親会社で、「コロムビア
 ピクチャーズ」との共通の語句を商号に持つコロムビア・ピクチャーズ・エンタ
ーテイメント・インコーポレーションがソニー株式会社から買収されたことを報じ
た日本経済新聞の各新聞記事において、「コロムビア」の語句が使用された箇所の
あることを認めることができる。
 しかし、同号証によれば、その場合でも、見出しには「米映画・コロンビア」
(平成元年九月二六日付け)「米コロンビア」(平成元年九月二八日付け及び同月
二九日付け)のように、右会社であることを明らかにするために「コロンビア」の
上に「米映画」、「米」という語句を付していることが認められ、また、単に見出
しに「コロンビア」とのみ記載した記事(平成元年九月二七日付け)にあっても、
記事本文においては「米国映画会社コロンビア・ピクチャーズ・エンターテイメン
ト」と正式に商号が記載されていることが認められる(なお、同月二八日付けの記
事の一部には、見出し、本文とも「コロンビア」とのみ記載されているものがある
が、これは見出しでは「米コロンビア」とし、本文では「米国の映画会社コロンビ
ア・ピクチャーズ・エンターテイメント」と正式に商号を記載した記事に隣接した
記事で、読者が続いて読むことを想定してのことと認める。)。
 そして、限られたスペースに読者の注意を惹くように見出しを記載する場合は、
通常の取引における場合以上に商号を簡略化して記載することはありうるものであ
り、かつ、その場合においても、記事の本文で正式な商号を記載すること等により
他の会社との混同を防ぐよう配慮されているのであるから、原告の指摘する右の事
実をもって、被告の商号ひいては本件商標が一般の商品取引上も「コロムビア」と
称呼されるものと認めることはできない。
 また、原告は、本件商標が「Columbia(コロムビア)」を抽出した極め
て紛らわしい形態で使用されているとして、成立について争いのない甲第一二号証
を提出する。
 同号証によれば、被告の映画のビデオテープの販売やレンタルの加盟店募集の広
告ビラに「RCAコロムビア」という表示があることが認められる。
 しかし、この「RCAコロムビア」は被告の映画フィルムを日本においてビデオ
化し販売する「RCAコロムビア・ピクチャーズ・ビデオ株式会社」の商号を簡略
化したものであることはこの広告ビラ自体からして明らかであり、被告の商号に関
するものではないのみならず、その商号も「RCAコロムビア」と簡略化されてい
るのであるから、このことにより、被告の商号ひいては本件商標が、商品取引上
「コロンビア」と簡略化されて称呼されるものと認めるべきことにはならない。
(五) 以上のとおり、本件商標は、取引上簡略化して称呼される場合は「コロン
ビア ピクチャーズ」と称呼されるものであり、原告の主張するように「コロンビ
ア」と称呼されるものではない。
 そして、引用商標1は「Columbia」の英文字と一六分音符記号とからな
る結合商標であるが、この商標から「コロンビア」という称呼が生ずるとしても、
本件商標の称呼とは異なるものであって、相紛れるところはなく、また、本件商標
と引用商標1とはその外観及び観念について相紛れるところのないことは明らかで
あるから、本件商標と引用商標1とは類似しないとした審決の判断に誤りはない。
 なお、審決は、本件商標を略称する場合には「コロンビア ピクチャーズ イン
ダストリーズ」と呼称が生ずると認定したもので、この点で当裁判所の認定と異な
るが、審決も、結局、本件商標から原告の主張するような「コロンビア」の呼称が
生ずるものではないと認定して、本件商標と引用商標1とは類似しないと判断した
ものであるから、右認定の相違は、何ら審決を違法ならしめるものではない。
3 以上のとおり、本件商標と引用商標1とは類似しないとした審決の判断は正当
であって、審決に原告主張の違法はない。
三 商標法第四条第一項第一五号該当について
1 まず、原告は、「Columbia」の文字と一六分音符記号の組合せからな
る引用商標2はそれ自体著名であるのみならず、音響機器やテレビ、ビデオソフト
にその構成の一部である「Columbia」に基づき、「コロムビア」、「Co
lumbia」「COLUMBIA」の文字を使用してきて、「コロムビア」のみ
でそれが原告の商号を表すものと認められるほど著名度が高いにもかかわらず、審
決がこの点について考慮を払わずに、本件商標の使用によっては商品の出所混同の
おそれがないと判断したことの誤りをいう。
 確かに、原告も日本におけるレコード事業の草分けとして古い歴史を有する著名
な会社であることは公知の事実であり、引用商標2のみならず「コロムビア」の語
句も、原告あるいは原告の商品を指し示すものとして多くの日本人が見聞きしてき
たもので極めて著名なものであることはいうまでもなく、また、成立に争いのない
甲第三号証によれば、原告は、レーザーディスク、OA機器等各種分野にも進出し
ていることが認められる。
 しかし、前述のとおり、被告も世界的に著名な映画会社であって、その作品には
「Columbia Pictures」という英文字を含む前記商標が必ず使用
され、これが被告あるいは被告の商品を指し示すものであることは我が国において
も知れわたっており、また、本件商標の要部は「Columbia Pictur
es」であり、「コロムビア ピクチャーズ」の称呼が生じ、「コロムビア」の称
呼が生ずるものではなく、本件商標と引用商標1(したがってまた、これと構成を
同じくする引用商標2)とは非類似のものであるから、原告主張のように「コロム
ビア」が原告あるいは原告商品を指し示すものとして著名であったとしても、被告
がその商品に本件商標を使用することにより商品の出所混同のおそれはないものと
いうべきである。
 よって、原告のこの点に関する主張は理由がない。
2 次に、原告は、本件商標の登録前、既に指定商品を同じくする第二六類中の音
楽出版物や録画済ビデオテープにも引用商標2を使用していたこと、及び原告が
「コロムビア」を冠した関係会社を設立して多角経営化をはかっていることを理由
に、本件商標を使用することにより、商品の出所混同のおそれが生ずる旨主張する
が、これも、その主張する事実の存否について判断を加えるまでもなく、前記1で
説示したところから理由のないことは明らかである。
3 次に、原告は、甲第一二号証を提出して、本件商標が「Columbia(コ
ロムビア)を抽出した極めて紛らわしい形態で使用されていることを主張したにも
かかわらず、審決が、これが本件商標の試用にあたるか否かの点については別途検
討されるべきことであるとして、これについて判断をせず、本件商標の使用によっ
ては原告の商品と混同させるものではないと判断したことの誤りをいう。
 しかし、前述のとおり、同号証の広告ビラに記載されている「RCAコロムビ
ア」は、被告の映画フィルムを日本においてビデオ化し販売する「RCAコロムビ
ア・ピクチャーズ・ビデオ株式会社」の商号を簡略化したものであることは明らか
であり、本件商標の使用とは何ら関係がないものであるから、審決が、これが本件
商標の使用にあたるか否かの点については別途検討されるべきことであるとして直
接の判断を示さず、本件商標の使用によっては商品の出所について混同させるもの
ではないと判断したことに誤りはない。
4 以上のとおり、審決が本件商標の使用によっては商品の出所混同を生ずるおそ
れがないと判断したことは正当であり、審決に、原告主張の違法はない。
第三 よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟
費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用し
て、主文のとおり判決する。
(裁判官 竹田稔 春日民雄 佐藤修市)
別紙 引用商標1<3352ー001>

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