弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
原告らの本件各訴を却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
       事   実
第一 申立
 原告らは、「一、被告が、訴外総評全国金属労働組合福井地方本部と原告両名お
よび訴外福井鋳造協業組合との間の福井労委昭和四七年(不)第七号不当労働行為
救済申立事件に付き、昭和四九年一二月一九日付をもつてなした別紙救済命令主文
一、二項を取消す。二、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告
は、本案前の答弁として主文同旨の、本案の答弁として「一、原告らの請求を棄却
する。二、訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。
第二 主張
(原告)
一、請求原因
1 被告は、昭和四九年一二月一九日申立人訴外全国金属労働組合福井地方本部
(以下「訴外組合」という)と被申立人原告両名(以下「原告中防鉄工」「同福井
鋳造」という)および訴外福井鋳造協業組合(以下「訴外福井協業」という)との
間の昭和四七年(不)第七号不当労働行為救済申立事件(以下「原事件」という)
において、別紙記載の救済命令(以下「本件救済命令」という)を発し、右は同月
二六日原告両名に交付された。
2 本件救済命令の理由の骨子は、訴外A(以下「訴外A」という)は、原告中防
鉄工の代表取締役であると同時に原告福井鋳造の実質的経営者であるなど両社の株
主並びに役員構成に照らし、両者は法形式上分離されたものではあつても、実質的
には同一性があるというべきであること、原告福井鋳造における全金福井鋳造労働
組合(以下「新組合」という)の結成、従業員の退職、事業の閉鎖および昭和四七
年一〇月三一日付従業員訴外Bの解雇(以下「本件解雇」という)は、訴外組合を
嫌悪し、その組合員である訴外Bを排除しようとした訴外Aの意図によるもので、
訴外Bの解雇は不当労働行為と認められることというにある。そして右のことか
ら、原告福井鋳造に対し、訴外Bの解雇の取消を、同中防鉄工に対し、同福井鋳造
が既に事業を閉鎖し企業実体がなく、また事業再開の見通しもないとして訴外Bを
復職させると共に同人にバツク・ペイをなすこと(以上主文第一項)と、原告両名
及び訴外福井協業に対し同主文第二項の如き不当労働行為禁止を命じたものであ
る。
3 しかしながら、本件救済命令には以下の通り事実及び法律の解釈を誤つた違法
があるので取消さるべきである。
(1) 原告中防鉄工は、もと株式会社中防鋳造鉄工所なる商号で精密機械及び鋳
造事業を行つていたが、昭和四五年一月五日付で、新たに設立された鋳造専業の原
告福井鋳造に自己の鋳造部門の営業譲渡をなすと共に、現商号に改め精密機械製造
専業となつた。そしてこれ以後本件解雇に至るまで両社は株主構成は類似で、役員
は兼任していたものの、それぞれ事業目的を異にする独立の法人として存続し、生
産販売経理など企業活動全般に亘り別個に運営されていたものである。
(2) ところで、前記昭和四五年一月五日の原告福井鋳造の設立に際しては、原
告中防鉄工(当時の商号は株式会社中防鋳造鉄工所)と訴外組合中防支部との間に
同月一日付で締結された同原告と同原告に従来雇傭されてきた訴外Bを含む全鋳造
工との間の労働契約関係を新に設立される原告福井鋳造に移転する旨の協定(以下
「本件協定」という)に基づき右鋳造工全員の同意を得て右労働契約関係が原告福
井鋳造に引継れたもので、右以後原告中防鉄工との間の労働契約は消滅したもので
ある。
(3) 本件解雇は、原告福井鋳造の累積赤字とその従業員の突然の退職により事
業を閉鎖し廃業を余儀なくされたことによるものである。
(4) 以上のように本件解雇は原告福井鋳造に経営上の正当事由が存し何ら不当
労働行為と目されるべきところがないにも拘らず、右を不当労働行為と断定し、同
原告に本件解雇の取消を命じ、また特定の雇傭関係(原告福井鋳造と訴外B間の労
働契約)の存在を前提にすることなく、原告両名に株主構成の共通性、役員の兼任
関係があることから両者に企業の同一性を認め直ちに全く第三者である原告Aに訴
外Bの復職を命ずると共に、併せて原告両名の不当労働行為の禁止を命じた本件救
済命令は違法である。
(5) 次に本件救済命令は、原事件において申立人が主張せず且つそれに付き何
ら疎明も存しないにも拘らずバツク・ペイを命じている。しかしながら、我国の労
働委員会における審査手続は民事訴訟的構成をとるものであるから、主張も疎明も
存しない事実をもとに労働委員会が救済命令を発する職務権限は存しないから本件
救済命令中バツク・ペイを命じた部分は被告の権限逸脱の違法がある。
よつて、請求の趣旨記載の判決を求める。
二、本案前の答弁の理由に対する認否および反論
本案前の答弁の理由中、原告両名が昭和五〇年一月七日本件救済命令に対し中労委
に再審査の申立(以下「本件申立」という)をなし、右は現に係属中である事実は
認めるが、本件の如く取消訴訟が再審査の申立に先行する場合にも、特段の規定も
根拠も存しない以上、取消訴訟と再審査手続の併存を認めるのが相当である。仮に
本件の如き場合の取消訴訟の帰すうが労組法二七条七項の法意に照らし被告主張の
通りであるとしても、本件に関する中労委の第一回審問期日は同年四月八日と指定
されており、右は行訴法八条二項一号所定の再審査請求があつた日から三ケ月を経
過しても裁決がなされない場合に該当し、中労委の裁決を経ずに取消訴訟を提起し
得る場合であるから、本件訴は適法である。
(被告)
一、本案前の主張
 原告らの本件訴は、労組法二七条六項に違反する不適法なものであるから却下さ
れるべきである。即ち、原告らは本訴提起後の昭和五〇年一月七日中労委に対し本
件救済命令の再審査の申立をなし、右は現に係属中である。しかして労組法二七条
六項は同条七項と併せて解釈すれば、使用者に対し地労委の初審命令に付き、取消
訴訟の提起と再審査の申立の二者択一を求めその併存を禁止した趣旨であることが
明らかであるから、本件訴は、本件再審査の申立により不適法となつたものであ
る。また本件では行訴法八条二項を適用する余地はない。
二、請求原因に対する認否および反論
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 同3(1)のうち、原告両名が全く別個の独立した法人である旨の主張は争
い、その余の事実は不知。
3 同3(2)の事実は不知。
4 同3(3)の主張は争う。
5 同3(4)の主張は争う。原告ら主張の如き原告福井鋳造への鋳造工の労働契
約関係の移転に付いては、鋳造工全員の同意は存せず、むしろ、本件協定において
は、将来原告福井鋳造を退職して協業合併により設立される新会社(訴外福井協
業)へ入社する際の労働条件に付いてさえ約束していることからすれば、鋳造工の
みならず、原告中防鉄工も自己と鋳造工の労働契約関係を存続させる意思であつた
ことを示している。そして、原告両名に実質的に企業の同一性が認められ、かつ本
件解雇が不当労働行為である以上、このような場合救済命令(復職)の名宛人とし
て原告両名のうちいずれを選ぶかは労働委員会の裁量の範囲内にあるものというべ
く、原告中防鉄工を救済命令の名宛人として訴外Bの復職を命じた本件救済命令に
違法はない。
6 同3(5)の主張は争う。労働委員会の救済命令は、不当労働行為救済制度の
趣旨に鑑み、民事訴訟におけるごとく当事者の申立に拘束されるものでなく、不当
労働行為の存在が認められれば、当事者の申立、不当労働行為の態様その他諸般の
事情を考慮して、労働者の救済に最も適した措置を具体的に定めうる裁量権を有す
るところ、本件では訴外Bは当庁昭和四七年(ヨ)第一三六号仮処分決定で毎月賃
金を得ているが、未だ本案判決が確定しておらず、かような不安定な生活状態が続
くことは、同訴外人や他の訴外組合員の正常な労働組合活動を阻害しているものと
認められるから、原告中防鉄工に対し、バツク・ペイを命じた本件救済命令には何
らの違法もない。
第三 証拠(省略)
       理   由
一、昭和四九年一二月一九日被告が原告ら主張のとおりの本件救済命令を発したこ
と、原告らは同月二六日右命令の交付を受けたこと、原告らは本訴提起後の昭和五
〇年一月七日中労委に対し右命令の再審査の申立をなし、右は現に係属中であるこ
とは当事者間に争いがない。
二、よつて、本件訴の適否に付き按ずるに、労組法は、二七条五項において使用者
が地労委の初審命令の交付を受けたときは一五日以内に中労委に再審査の申立をす
ることができると規定する反面同条六項において使用者が初審命令に付き中労委に
再審査の申立をしないときは、右命令交付の日から三〇日以内にその取消訴訟を提
起できると規定し、使用者は地労委の初審命令に対し再審査の申立をするか、取消
訴訟を提起するかのいずれかを選択すべき旨を定めている。しかして右六項の法意
は、同条七項に使用者は中労委に初審命令の再審査を申立てた以上、右申立に対す
る中労委の命令に対してのみ取消訴訟を提起できる旨の規定の存することからすれ
ば、取消訴訟と再審査手続の併存を認めず、初審命令に対する再審査手続の不存在
を取消訴訟の適法要件としたものと解されるから、たとえ取消訴訟の提起時に再審
査の申立がなされていなくても、その後所定期間内に再審査の申立がなされれば、
その時点で取消訴訟は不適法となるものと解すべく、再審査の申立が先行する場合
の取消訴訟の帰すうと結論を異にするいわれはない。
 また、行訴法八条二項二号は当該行政処分に対しては訴願前置が必要的とされる
場合の例外規定であつて、前記のように取消訴訟と審査請求(再審査申立)の併存
を認めない労組法二七条六項には、適用の余地はないものと解すべきである。
 思うに、労組法が初審命令の取消訴訟と再審査申立につきこのような選択主義を
採用した所以は、初審命令の適否の判断に対する準司法機関による争訟手続と司法
裁判所による救済手続との重複を避けようとした点にあることは多言を要しない。
三、これを本件に付いてみるに、原告らは地労委の初審命令たる本件救済命令に対
し、取消訴訟たる本訴を提起し、しかる後右命令に対し審査請求たる本件再審査の
申立をなしたというのであるから、前項説示の如く、右申立により本件各訴は不適
法となつたというべきである。
 よつて、原告らの本件各請求はこれを却下し、訴訟費用の負担に付き民訴法八九
条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松本武 川田嗣郎 桜井登美雄)
(別紙)
 命令書
一、被申立人福井鋳造株式会社は、申立人の組合員であるBの昭和四七年一〇月三
一日付けの解雇を取消し、被申立人株式会社中防鉄工所は、同人を福井鋳造株式会
社における解雇当時と同等の労働条件で復職させ、同人が解雇されなければ得たで
あろう諸給与相当額を支払わなければならない。
二、被申立人福井鋳造協業組合、同株式会社中防鉄工所および同福井鋳造株式会社
は、申立人の組合員が福井鋳造協業組合に入社するに際し、申立人からの脱退を強
要するなど、申立人に対し支配介入してはならない。
三、申立人のその余の申立ては棄却する。

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