弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴は之を棄却する。
     当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人発地清の控訴趣意は本判決末尾添附の控訴趣意書に記載のとおりであるか
ら、これについて判断する。
 一、 第一点について、
 所論に基いて記録を査閲するに、
 被告人が、原判示日時場所において医師A方の診療所および其の東南方に隣接す
るA所有の建物の各正面出入口附近に鉄条柵を張り廻らしたが、右隣接建物は当時
A方の居宅に使用すると同時に一部を医師たる同人方の病室に使用すべく用意され
ており従つて同建物は居宅兼病棟というを妨げざる状態にあつたのに右鉄条柵は同
建物の正面出入口から一尺余、右診療所正面出入口から三尺余の近辺に、地上約五
尺以下五段の施設を以て張り廻らされたため右二棟殊に診療所に対する出入には多
大の不便を来し、之によりA方に診療を求めに来る患者数に激減を来したことは原
判決引用の証拠を綜合することにより孰れも証明十分である。而して当審証拠調の
結果に鑑みるも原判決には此の点につき所論の如き事実誤認ありとは認められな
い。論旨は理由がない。
 一、 第二点について、
 およそ建物の賃借権又は建物所有を目的とする宅地賃借権を所有する者は、その
賃借建物又は賃借地使用の目的実現に必要な限度において、同借家の出入口又は借
地上に自ら所有する建物の出入口の各直前および之に連接して各建物の敷地所有者
と同一地主の所有する空地を使用するが如きことは、右賃借権に附随する当然の権
利と解するを相当とする。
 而して、本件においては、さきに、B株式会社が前記建物二棟の敷地並びに同建
物中診療所を右敷地および二棟の各正面出入口前からその南方の表公道に通ずる空
地等一帯の所有者たるCから賃借して同地上に右居宅兼病棟に該当する建物を所有
し、その後同会社が解散してからAが右診療所を右Cから賃借し、更に前記居宅兼
病棟を買取り且つ其の敷地たる宅地一〇〇坪をD(Cから同地所有権を承継した
者)から賃借した上右二棟を使用して医業を経営して来たところ昭和二五年一一月
中被告人が右宅地と診療所の建物とを買受け取得したこと而して右二棟の各正面出
入口から表公道に通ずる空地については、あらためて賃借契約はなされたが、前記
B株式会社においても、同地の所有者たる前記Cから右二棟の建物使用のための出
入に通行することを実際上認められ、その後Aが同二棟を所有又は借用するに至つ
たときも、その出入に必要なる限りは同様に同空地を使用することを同地所有者か
ら認められて来たもの<要旨>なることは、原判決引用の証拠によつて明らかであ
る。故に、斯る実状にありし土地建物の所有権の承継者たる被告人として
は、前記の如き賃借権に伴うAとの権利関係をも承継して右診療所竝びに居宅兼病
棟としての普通の使用方法に必要なる限度においては同人の右空地使用を承認すべ
きは当然なるに、右診療所の建物明渡しを請求してAと紛議中同人の承諾なく両建
物殊に被告人が直接賃貸中なる診療所の表出入口直前に鉄条柵を張り廻して同所か
ら右空地を通過して両建物に出入することを実際上至難に陥らしめるが如き措置に
出た被告人の所為を以てAの医業に対する威力妨害罪の成立あるものとした原判決
は正当であり、別段所論の如く借家法その他の法令適用上の誤りがあるものではな
い。論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 久礼田益喜 判事 武田軍治 判事 下関忠義)

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