弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はこれを棄却する。
     当審の訴訟費用は被告人等の負担とする。
         理    由
 被告人両名の弁護人小田成就の控訴趣意について。
 被告人両名がそれぞれ原判示のとおりAの頭部を手で殴打したことは原判決挙示
の証拠によつて優にこれを認定するに足り、原審の取調にかかる他の証拠及び当審
取調の各証拠によつても、所論のように形式的に軽くノツクしたに止まるという程
度のものであつたとはとうてい認められないのである。もつとも、右殴打はこれに
よつて傷害の結果を生ぜしめるような意思を以てなされたものではなく、またその
ような強度のものではなかつたことは推察できるけれども、しかしそれがために右
殴打行為が刑法第二〇八条にいわゆる暴行に該当しないとする理由にはならない。
つぎに、所論は、右は教員たる各被告人が学校教育上の必要に基ずい<要旨>て生徒
に対してした懲戒行為であるから、刑法の右法条を適用すべきではないと主張する
けれども、学校教育法第一一条は「校長及び教員は教育上必要があると認め
るときは、監督官庁の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えるこ
とができる。但し、体罰を加えることはできない。」と規定しており、これを、基
本的人権尊重を基調とし暴力を否定する日本国憲法の趣旨及び右趣旨に則り刑法暴
行罪の規定を特に改めて刑を加重すると共にこれを非親告罪として被害者の私的処
分に任さないものとしたことなどに鑑みるときは、殴打のような暴行行為は、たと
え教育上必要があるとする懲戒行為としてでも、その理由によつて犯罪の成立上違
法性を阻却せしめるというような法意であるとは、とうてい解されないのである。
学校教育法が、同法第一一条違反行為に対して直接罰則を規定していないこと及び
右違反者に対して監督官庁が監督権の発動その他行政上の措置をとり得ることは所
論のとおりであるけれども、このこととその違反行為が他面において刑罰法規に触
れることとは互に相排斥するものではない。そして、殴打の動機が子女に対する愛
情に基ずくとか、またそれが全国的に現に広く行われている一例にすぎないとかい
うことは、とうてい右の解釈を左右するに足る実質的理由とはならない。さらに、
所論は親の子に対する懲戒権に関する大審院判例及びいわゆる一厘事件に対する同
院判例を援用するけれども、前者の援用は主として親という血縁に基ずいて教育の
ほか監護の権利と義務がある親権の場合と教育の場でつながるにすぎない本件の場
合とには本質的に差異のあること看過してこれを混同するものであり、後者の援用
は具体的事案を抽象的に類型化せんとするに帰着し、ともに適切ではない。論旨は
いずれもその理由がない。
 よつて、刑事訴訟法第三九六条第一八一条に則り主文のように判決をする。
 (裁判長判事 荻野益三郎 判事 梶田幸治 判事 井関照夫)

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