弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人守屋勝男、同名波倉四郎の上告理由第一点について。
 控訴審において訴の変更を許すことは違法でなく、かつ憲法に違反しないことは
当裁判所の判例とするところである(昭和二七年(オ)第九七二号第一〇四一号同
二八年九月一一日第二小法廷判決、集七巻九号九一八頁参照)。論旨は採用できな
い。
 同第二点について。
 本件は、土地を買戻したことを理由とする所有権移転登記請求訴訟の係属中、控
訴人(上告人)が当該土地を他に売却しその所有権移転登記を経由したことを理由
に請求を損害賠償請求に変更したものであつて、その請求の基礎に変更がなく、か
つ本件訴訟の経過に照し著しく訴訟手続を遅滞させるともいえないから、原審が右
訴の変更を許容したことは適法である。論旨は採用できない。
 同第三点について。
 所論の点に関する原判決引用の第一審判決の判断は、その所掲の証拠に照し肯認
できるから、所論は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難する
に帰する。論旨は採用できない。
 同第四点について。
 債務の目的物を債務者が不法に処分し債務が履行不能となつたとき債権者の請求
しうる損害賠償の額は、原則としてその処分当時の目的物の時価であるが、目的物
の価格が騰貴しつつあるという特別の事情があり、かつ債務者が、債務を履行不能
とした際その特別の事情を知つていたかまたは知りえた場合は、債権者は、その騰
貴した現在の時価による損害賠償を請求しうる。けだし、債権者は、債務者の債務
不履行がなかつたならば、その騰貴した価格のある目的物を現に保有し得たはずで
あるから、債務者は、その債務不履行によつて債権者につき生じた右価格による損
害を賠償すべき義務あるものと解すべきであるからである。ただし、債権者が右債
格まで騰貴しない前に右目的物を他に処分したであろうと予想された場合はこの限
りでなく、また、目的物の価格が一旦騰貴しさらに下落した場合に、その騰貴した
価格により損害賠償を求めるためにはその騰貴した時に転売その他の方法により騰
貴価格による利益を確実に取得したのであろうと予想されたことが必要であると解
するとしても、目的物の価格が現在なお騰貴している場合においてもなお、恰も現
在において債権者がこれを他に処分するであろうと予想されたことは必ずしも必要
でないと解すべきである。原判決は、本件土地の時価が控訴人(上告人)の処分当
時より現在(原審口頭弁論終結時)まで判示のように騰貴を続け、控訴人が右処分
時において本件土地の時価が、このように騰貴することを知つていたか、少くとも
これを予見しえたものと認定し、控訴人に対し現在の時価の範囲内で控訴人の本件
土地の判示処分により被控訴人(被上告人)の受けた損害の賠償責任を認めたもの
であるから、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は本件に適切でない。論
旨は採用できない。
 よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
 裁判官藤田八郎は、退官につき評議に関与しない。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助

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