弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人中川利吉の上告理由(昭和三四年四月一八日付)第一点について。
 原審が、本件山林内の杉檜立木約七千肩全部が建具材であると認定しているもの
でないこと及び右山林内の立木中建具用材に適するもの全部が本件売買の目的物と
なつたものと認定しているものでないことは、原判決理由に徴し明白である。従つ
て所論は、原判決を正解しないことに基づき、或いは原審の認定しない事実を前提
として、原判決の違法をいうものであり、採用できない。
 同第二点について。
 昭和二七年末頃までに筑後川の水路が不通となることが一般に予想されていたと
の原審認定事実は、原審が、本件売買契約につき期限の猶予を受けたとの上告人主
張事実を排斥するに当つて認定した間接事実の一つであるにすぎず、右の間接事実
を除外しても、挙示の証拠に照らせば、判示一〇日間の延期承諾を加えても遅くも
昭和二七年一一月末日までには必らず引渡す約旨であつて、それ以上の延期に関す
る合意はなかつたとの趣旨の原審認定は、これを首肯し得ないではないから、所論
の点は判決に影響を与えるものではない。従つて論旨は採用できない。
 同第三点について。
 上告人が本件山林内にある契約外の松材をもあわせて伐採搬出することとしたた
め、本件契約の目的物件についてもその搬出引渡を遅延し、判示の履行期たる一一
月末迄にその引渡をなすことができなかつた旨の原審認定は、挙示の証拠に照らし
て、これを首肯し得られる。所論指摘の一二月中旬後直ちに搬出すれば搬出可能で
あつたとの点の判断の是非は、上告人の履行遅滞の責の有無を決定するについて影
響を来すものでなく、かえつて原判決は、上告人がその責に帰すべからざる何らか
の事由によつて木材の引渡を遅延した事実を認めるに足る確証はないとしているの
である、されば論旨は採用の限りではない。
 同第四点について。
 所論は、本件において被上告人の側に受領遅滞があるとか、種類物の特定があつ
たとかの、原審の認定に副わない事実を主張するか、乃至は原審の専権に属する証
拠の取捨判断、事実の認定を非難するかのものをいでず、採用できない。
 同代理人の上告理由(昭和三四年四月一六日付)について。
 所論は縷述するも、要するに、原審の認定しない乃至は認定に副わない事実を主
張して、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難し、これを前提と
して原判決の違法をいうか、前記上告理由第二点に対する判断で示したように判決
に影響を来さない点につき原判決の違法をいうかのものに帰するのであつて、すべ
て採用できない。
 上告代理人磯村義利の上告理由第一点について。
 所論が判決に影響を与える法令違反の主張に当らないことは、上告代理人中川利
吉の前記上告理由第二点に対する判断で示したとおりである。論旨は採用できない。
 同第二点について。
 原審確定事実のもとでは、本件限定種類債務について、契約の目的物は未だ特定
されていないとした原審判断は、これを是認し得られる。原判決理由に徴すれば、
所論引渡場所変更の合意及び残木材の集積、提供の事実は認容されていないのであ
るから、目的物の特定等をいう所論は理由がないことになるといわなければならな
いのである。所論は、原審の認定に副わない事実を前提として原判決を攻撃するも
のであり、採用できない。
 同第三点について。
 原判決挙示の証拠に照らせば、所論指摘の原判決判示部分は、所論にいう前者の
趣旨によるものであると解し得られ、且つその認定に所論の実験則違反があるもの
とは認められない。論旨は採用できない。
 同第四点について。
 木材の価格が漸騰を続けていた旨の原審認定は、挙示の証拠に照らして首肯し得
ないではない。所論は、原審がその専権に属する範囲でなした右の認定を非難する
とともに、その非難の上に立つて原判決を攻撃するものであり、採用できない。
 同第五点について。
 原判決は、本件売買契約は債務者たる上告人の責に帰すべき事由によつて履行遅
滞の状況にあつたこと、債権者たる上告人は履行期到来後屡々目的物の引渡を督促
(催告)していたこと、上告人はその督促にあつて漸く判示のように一部の引渡を
なしたことを証拠によつて認定しているのであるから、右督促の日から相当期間を
経てなされたこと明らかな被上告人の判示解除の意思表示を有効と認めた原判決は、
正当として是認し得られる。論旨は採用できない。
 同第六点について。
 本件のように、売主が目的物を引き渡さないため売買契約が解除された場合にお
いて、買主の受くべき填補賠償の額は、解除当時における目的物の時価を標準とし
て定むべきであることは、当裁判所の判例とするところである(昭和二五年(オ)
第二七一号、同二八年一二月一八日第二小法廷判決、判例集七巻一二号一四四六頁)。
そして原審は、杉檜混合の家具用材の価格が、昭和二七年六月の本件契約当時より
同二八年一一月の判示契約解除当時にかけて騰貴した事実を判示のように確定した
上、これに基づいて、解除当時の時価を契約当時の価格の一、八倍のものとし、そ
の差額をもつて本件の填補賠償額と認定しているのであるが、このような差額は、
解除当時にも本来の給付を請求し得た筈の買主にとつては、売主の不履行により通
常生ずべき損害であると解するのが相当である。されば、原審の右認定判断は正当
であり、所論にいう大洪水によつて突発した価格暴騰の事実に関し、その予見可能
性の有無等を認定判示するところがなかつたからといつて、原判決に所論の違法が
あるとはいえない。論旨は採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    横   田   正   俊

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