弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役3年6月に処する。
未決勾留日数中240日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)5
第1被告人は,Cの兄になりすました上,AがCに口淫させたことが犯罪である
などと因縁を付けて,Aから現金を脅し取ろうと考え,C及びDらと共謀の上,
令和元年8月13日午前0時40分頃から同日午前1時5分頃までの間,札幌
市(住所省略)G公園において,Aに対し,「こいつ,家出してた俺の妹なんだ
けど。」「未成年に何してるのよ。淫行は犯罪だよ。警察行くか。」「警察行きた10
くないっていうなら,どうするんだ。」「逮捕されたら,最低でも罰金はあるだ
ろう。ニュースに出たら大変なことになるんじゃねえのか。」「罰金なら50万
はいくんじゃねえのか。せめて半分の20万ぐらいは用意するのが筋じゃない
の。」「とりあえず,その1万円はもらえるかい。残りの19万円は後でいいか
ら。」などと言って現金の交付を要求し,もしこの要求に応じなければ,Aの自15
由及び名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示してAを怖がら
せ,よって,その頃,同所において,Aから現金1万円の交付を受けてこれを
脅し取り,引き続き,同日から同月28日までの間,数回にわたり,北海道内
において,Aに対し,電話又は対面で,「金は用意できたのか。」「今週中になん
とかしてくれ。」「19で良いよ。」などと言って,現金の交付を要求し,前記同20
様の気勢を示してAを怖がらせ,Aから現金を脅し取ろうとしたが,Aが警察
に届け出たため,その目的を遂げなかった。
第2被告人は,令和元年8月21日午前1時41分頃から同日午前3時28分頃
までの間,札幌市(住所省略)H公園において,Cの兄になりすまし,C,D
及びEらと共に,BがCと口淫したことに因縁を付けて,Bに示談金を支払う25
よう要求したが,Bがこれに応じなかったことから,Bから現金を強取しよう
と考え,D及びEらと共謀の上,その頃から同日午前3時55分頃までの間,
H公園において,Bに対し,背中を突き飛ばしてBを転倒させ,腹部を多数回
足蹴りし,髪の毛をつかんで顔面を拳骨で1回殴打し,頭部を地面に打ち付け
るなどの暴行を加え,その反抗を抑圧してBに10万円の支払いを約束させ,
その頃から同日午前4時27分頃までの間に,その支払いを履行させるためB5
とともに同市(住所省略)のB方に赴くなどしたが,Bが警察に通報したため,
その目的を遂げず,その際,前記暴行により,Bに全治約1か月間を要する鼻
骨骨折及び加療約1か月間を要する頸椎捻挫,両側胸部打撲及び両手擦過傷の
傷害を負わせた。
(事実認定の補足説明)10
1本件では,判示第2の強盗致傷事件について,①共同正犯か幇助犯か,すなわ
ち,被告人が共犯者らと共に,被害者に暴行を加えて現金を奪うことを自分の犯
罪として行ったといえるか,②被告人が強盗致傷罪の責任を負うか,すなわち,
被害者の怪我は被告人の合流後の暴行により生じたものか,が争点となっている。
2まず,強盗致傷事件の経過については,被告人の公判供述,証人B及びEの各15
証言等によって,以下の事実が概ね争い無く認めることができる。
H公園のトイレからBとCが出てきた際に,被告人がDと共にBに声をかけ,
Cに口淫させたことに因縁を付けて脅し,示談金の支払を要求した。その間,
FはCを車まで送っていった後に被告人らに合流した。被告人は,Bのキャッ
シュカードを取りに行ってもらうために,Eに電話をかけてトイレ前に呼び出20
したが,Bは支払いに応じなかった。被告人らがBを伴って公園のベンチに移
動した後,被告人に美人局の別のターゲットが来ている旨の連絡があり,被告
人は,Eに対し,「ちょっと行ってくる」旨述べて,E及びFを残し,Dと共に
別のターゲットが来る公園へと向かった。
被告人とDがH公園を離れている間,同公園内のベンチにおいて,FはBに25
複数回往復びんたをし,EはBの右肩付近を前蹴りした。また,被告人のスマ
ートフォンからEのスマートフォンに対して連絡があり,被告人及びDは,E
に対し,Bに対する美人局の状況を確認したところ,Eが変わりがない旨述べ
たことから,同公園に向かう旨述べた。
被告人及びDがH公園に戻ってEらと合流した際には,被告人は,Eから「ボ
コっていいですか」旨言われ,「好きにすれば」という趣旨の返事をしている。5
その後,EがBと共にH公園の茂み付近に移動し,被告人らもついていった。
そして,Eらは,背後からBの背中を突き飛ばして四つん這いになる形で転倒
させ,両脇腹を多数回足蹴りし,髪の毛をつかんで体を引き起こした後に顔面
を拳骨で1回殴打し,髪の毛をつかんで頭部を地面に打ちつけるといった暴行
を加えた。その際,被告人は,その付近におり,EらがBに対して暴行を加え10
ていることを認識していながらこれを止めるような行動をとらなかった。
⑷その後,Bが金の入った口座のキャッシュカードが家にある旨述べて支払う
意思を示したため,Bの車に被告人及びEらが同乗してキャッシュカードをB
の家に取りに行った。その際,被告人は,Eに対し,分け前を要求する旨の発
言をした。15
3共同正犯の成否について(争点①)
⑴この点,確かに,被告人が自ら暴行を加えたとは認められない(なお,Dの
供述調書には被告人の暴行についての記載があるが,暴行に関するDの供述は
B,E及び被告人の供述と整合せず,信用できない。)。
しかし,本件に至るまでの経緯をみると,被告人が暴力団組員に誘われて美20
人局を始め,Cを誘い入れたこと,その後にE,D及びFが加わったこと,報
酬の不満から暴力団組員とは別に被告人らだけで美人局を始めるようになっ
た後,被告人とDが主として脅し役を担い,Fが運転手役を担うことが多かっ
たこと,被告人はE及びDよりも年上であることが認められるところ,被告人
がリーダー格とまではいえないとしても,やや上の立場であったとはいえる。25
このことは,本件においても,被告人がEを電話で呼び出したことや,Eが被
告人に対してBに暴力を加えても良いか尋ねたことからもうかがわれる。
⑵そして,本件において,被告人は,もともとBに示談金を要求していた際に
は脅し役をしており,Eを電話で呼び出すなど主導的な役割を担っていたもの
である。その後に被告人はDとともにH公園を離れてはいるが,これは弁護人
が主張するように,Bに対する美人局をあきらめたものとは認められない。5
すなわち,被告人がEに対して「頼むわ」などと発言したかは判然としない
が,Eに対し「ちょっと行ってくる」旨発言してH公園を離れたのは,その発
言の趣旨やE及びFをH公園に残したことからして,緊急性を要する別の美人
局を実行するために被告人及びDは移動し,その後のBの対応をEらに任せた
ものとみるべきである。さらに,その後に被告人のスマートフォンから発信し10
て,Eのスマートフォンとの間で通話がされ,被告人及びDがBに対する美人
局の状況を確認するなどし,状況が変わらないと認識しても美人局をやめて戻
ってくるように述べず,H公園まで戻っていることは,被告人がBに対する美
人局をあきらめておらず,未だ関与し続けていることを示している。なお,H
公園の状況を確認したり,H公園に向かう旨の発言をしたのが被告人なのかD15
なのかは判然としないが,仮にDの発言だったとしても,被告人もそのやりと
りを共有してDと共に行動をしているのであり,この評価に変わりはない。
⑶また,合流した後の被告人の行動を見ても,被告人は,Eから「ボコってい
いですか」と聞かれた際,「好きにすれば」という趣旨の返事をし,Eが暴行す
ることを容認する発言をしている。この点,検察官は,Bの証言に基づき,被20
告人がEに対して「殴ってもいいから,丘の方へ行け」や「人気のないところ
へ行け」という趣旨の発言をし,暴行に関して指示を与えたと主張する。しか
し,Eは,被告人の発言は「殴っちゃえばいいじゃない」という趣旨のものに
とどまり,場所については,Fが「移動するべ」などと発言したと証言してい
る。Bは,初対面の被告人らから被害を受けたのであり,被告人らから言われ25
た内容自体は記憶していたとしても,その発言を被告人らのうち誰が言ったの
かについて明確に記憶していたのか疑問がある。Bは,場所を移動することに
関するFの発言内容についても被告人が発言したと記憶した可能性がある。し
たがって,被告人が「殴ってもいい」旨の発言にとどまらず,「丘の方へ行け」
や「人気のないところへ行け」という趣旨の発言をしたとは認められず,検察
官が主張するように,被告人がEに対して暴行に関する指示をしたとは評価で5
きない。他方で,弁護人は,被告人はEが脅すために言っているのであり,本
当に暴行を振るうつもりだとは思っていなかったから,被告人がEの暴行を容
認していたわけではないなどと主張する。しかしながら,被告人は,Eらが暴
行を加え始めてもそれを止めることもなかったのである。しかも,「好きにす
れば」という趣旨の発言は,EもBも,EがBに暴行を加えても良いという趣10
旨のものとして受け止めたのであるから,被告人においても,Eがそのように
認識することを分かって発言したものと認められる。そうすると,Eが暴行を
加えるつもりとは思わなかったという被告人の供述は信用できず,被告人の発
言は,暴行を加えることを容認する内容のものとみるべきである。
そして,Eは,ベンチにおいてBの右肩付近を前蹴りしたが,勝手に暴行を15
加えていいものではないと思い直して1回で止め,被告人らと合流した後に被
告人に対して「ボコっていいですか」などと聞いていることや,被告人がこれ
まで共犯者間でやや上位の立場にあったことからすれば,既に始まっていた暴
行を被告人が止められなかったとはいえず,被告人の上記発言をきっかけとし
て,Eらの暴行が始まったといえる。20
⑷さらに,被告人は,Bの家にキャッシュカードを取りに行く際にもBの車に
Eらと乗って行動を共にし,報酬を求める発言をしている。なお,報酬につい
て,弁護人は,脅し取った人が分配方法を全て決めるルールであったなどと主
張するが,被告人の供述によっても,過去に行った美人局の中では脅し役以外
の者が分け前を得ることも多々あったことや,被告人がBの家の前で分け前を25
要求する旨の発言をしていることからすれば,被告人においても,本件で報酬
を全く得られないという認識でいたとは認められず,むしろ報酬をもらえるも
のとして行動していたというべきである。
⑸そうすると,被告人は,自らBに対して暴行を加えたわけではないものの,
もともと共犯者間でやや上位の立場にある上,本件美人局においても当初は脅
し役として主導していたのであり,その後にH公園を離れたとしても,Bに対5
する美人局をいったんEらに任せたにすぎず,関与しなくなったわけではない
こと,合流後にEの暴行を容認する発言をし,これをきっかけとしてEらの暴
行が開始され,この暴行についても認識していながら何ら制止するなどの行動
をとらなかったこと,暴行後にBから脅し取った金の分け前を求める行動をと
っていることからすると,被告人は,被害者に暴行を加えて現金を奪うことを10
自分の犯罪として行ったと認められる。
4因果関係について(争点②)
⑴上記の事実認定からすると,合流後の暴行は,それぞれ突き飛ばされた際に
手の甲をついたことによる両手擦過傷,両脇腹を蹴られたことによる両側胸部
打撲,鼻を殴られたことによる鼻骨骨折,髪の毛をつかんで地面に頭部を打ち15
つけられたことによる頸椎捻挫という傷害結果とそれぞれ対応している。他方
で,ベンチ前での暴行には,これらの傷害結果と対応する暴行が存在しないこ
とから,いずれの傷害結果も被告人が合流した後に加えられた暴行により生じ
たと認められる。
⑵なお,弁護人は,ベンチ前でFから往復びんたを受けた際又はEから前蹴り20
を受けた際に頸椎捻挫が生じた可能性もあると主張する。
しかし,Bは,ベンチ前での暴行の際には首の痛みは感じていなかったが,
茂みの裏で髪の毛をつかんで地面に頭を打ちつける暴行を加えられた際に首
の痛みを感じた旨具体的に証言しており,このような証言内容は,誰からどの
暴行を加えられたかという点についてはともかく,暴行の内容や加えられた時25
期については信用性が認められる。また,Bの頸椎捻挫が加療約1か月と診断
されていることからすると,ベンチ前での暴行のみによって生じたものとは考
えられない。したがって,弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)
罰条
判示第1の行為5
恐喝の点刑法60条,249条1項
恐喝未遂の点刑法60条,250条,249条1項
包括一罪の処理一罪として恐喝罪の刑で処断
判示第2の行為刑法60条,240条前段
刑種の選択判示第2の罪について,有期懲役刑を選択10
併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(重い判
示第2の罪の刑に法定加重)
酌量減軽刑法66条,71条,68条3号
未決勾留日数の算入刑法21条
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書15
(量刑の理由)
本件各犯行は,被告人が,共犯者らと共にいわゆる美人局をした判示第1の恐喝,
恐喝未遂事件と,同じように美人局をした被害者に対して暴行まで加えた判示第2の
強盗致傷事件である。
本件で量刑の中心となるのは,法定刑の重い判示第2の強盗致傷事件である。まず,20
被告人らが被害者に対する暴行を加えたことについて計画性があったとは認められ
ない。また,証拠上認められる傷害結果は重大なものとはいえないし,暴行態様は,
凶器等を使用して共犯者全員で長時間にわたって暴行を加えたなどといった悪質な
ものであるとは認められず,強盗致傷罪の暴行のなかでは軽いものであるといえる。
そして,現金を奪い取ることは未遂に終わっている。したがって,本件は強盗致傷罪25
が想定する種々の類型の中では軽い犯情といえる。
そして,一連の美人局を行う中で被告人が共犯者間で相対的に上位の立場にいたこ
とや,Eの暴行を容認する発言をして暴行のきっかけを作ったこと,Eらによる暴行
を認識していて止める機会があったにも関わらず,一切止めることがなかったなどの
事情に照らせば,被告人の責任を軽く見ることはできないが,被告人は,直接暴行を
加えていない上に,検察官が主張するようにリーダー格としてEらに暴行を指示した5
ということも認められないことから,共犯者の中では主に暴行を加えたEの次に重い
責任を負うにとどまる。
そうすると,被告人の犯情は,強盗致傷事件の中ではかなり軽いものといえ,酌量
減軽をした処断刑の範囲の中でも最下限の懲役3年程度の刑事責任を負うというべ
きである。10
他方,判示第1の恐喝,恐喝未遂においては,被告人は主導的,積極的に脅し役と
して中心的役割を果たしていることが認められ,また,本件犯行は,被告人が未成年
者をグループに加えるなどした上で,計画的,常習的に美人局を行っていたなかで行
われたものであり,この点は,被告人の責任を重くするものとして考慮する。
その他の情状を見ると,被告人が客観的な事実関係を認めていること,被告人の母15
親が公判廷で被告人の指導監督を誓約し,就労先を含む更生環境を用意する意向を示
していることや,被告人には罰金前科1件以外に前科がないことなどの事情が認めら
れる。もっとも,更生環境についてはこれまでの経緯からみると十分に整っていると
までは評価できない。また,いずれの事件についても全く被害弁償をしていない。
以上のとおり,犯情を前提にして,その他の情状も考慮すると,被告人に対して,20
弁護人が主張するように最下限の懲役刑としてさらに執行猶予を付するのは相当で
はないが,その刑期については主文のとおりとすることとした。
(求刑懲役7年)
令和2年9月9日
札幌地方裁判所刑事第2部25
裁判長裁判官中川正隆
裁判官宇野遥子
裁判官田中大地

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