弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1 被告Aは,原告に対し,5540万円及びこれに対する平成12年7月4日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,原告に生じた費用の2分の1を被告Aの負担とし,被告Bに生じ
た費用を原告の負担とし,その余を各自の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
 被告らは,原告に対し,連帯して5590万円及びこれに対する平成12年7月
4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 前提事実(争いのない事実並びに証拠(被告A本人,被告B本人)及び弁論の
全趣旨により容易に認定できる事実)
・ 原告は,妻Cとともに,呉服商を営んでいる者である。
・ 被告Bは,NHK紅白歌合戦に出場したことのある歌謡曲の歌手である。
・ 被告Aは,被告Bの妻の母で,被告Bの所属する株式会社Dの株主であり,い
わゆる西武セゾングループ(以下「西武」という。)のオーナーに関係があるとす
る者で,西武鉄道線の駅で飲食店の営業をしていた株式会社Eの代表取締役社長で
あった。
・ 原告及びCは,被告Bのいわゆるファンであったが,平成11年7月ころ,知
人を通じて被告らと知り合い,平成12年5月ころには,被告Bを再度NHK紅白
歌合戦に出場させるための署名運動を行うなどした。
・ 原告及びCは,被告Aの勧誘を受け,西武関連企業の未公開株式取得に関する
ものとして,原告が第一勧業銀行池袋支店の被告A名義の当座預金口座に,平成1
2年5月31日4450万円(以下「第1振込」という。),同年7月4日890
万円(以下「第2振込」という。)を各振込送金し(合計5340万円。以下「本
件振込金」という。),被告Aは,本件振込金を受領した。
2 本件は,原告が,被告らに対し,被告Aは,真実は受領した金員を自分のため
に費消する意図であるのにこれを秘し,原告及びCに架空の未公開株式取得の話を
持ちかけ,その資金名目で原告から本件振込金5340万円を騙し取り,原告及び
Cはこのような大金を騙し取られた心労で体調を崩すまでの精神的苦痛を被った
が,被告Bは,被告Aと詐欺行為を共謀していたか,少なくとも事情を知りながら
被告Aの詐欺行為に加担し,幇助したものであり,原告は,本件振込金5340万
円,慰謝料50万円及び弁護士費用200万円(合計5590万円)の損害を被っ
たとして,その賠償及びこれに対する第2振込の日である平成12年7月4日から
支払済みまで民法所定(年5分の割合)の遅延損害金の連帯支払を求めている事案
である。
 これに対し,被告らは,被告Aは,西武関連企業である株式会社若菜(以下「若
菜」という。)の未公開株式を取得しようと考え,原告からその資金を借用したも
ので,結果的に未公開株式の取得ができず,現在まで本件振込金の返済もできない
ではいるが,未公開株式取得の話は架空のものではなく,これを騙し取ったもので
はないし,被告Bは,被告Aの行為に関与したことはなく,当時は被告Aの行為自
体知らなかったとして争っている。
3 争点
・ 被告Aは,原告から本件振込金を騙し取ったものか。
・ 被告Aの不法行為についての被告Bの共謀又は幇助
・ 原告の損害
第3 当裁判所の判断
1 争点・(被告Aは,原告から本件振込金を騙し取ったものか。)について
・ 前記前提事実に証拠(甲3号証,4号証,6号証,7号証,8号証の1,2,
9号証ないし11号証,14号証の1,2,16号証,証人C,被告A本人。ただ
し,後記採用しないものを除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の各事実
が認められ,これに反する乙1号証(被告Aの陳述書)の記載部分及び被告Aの供
述部分は採用できない。
ア 被告Aは,Cを通じ,原告に対し,平成12年5月末ころ,西武関連企業の未
公開株式取得の話があるので,1株8900円で5000株分のお金を出してもら
えれば,被告A名義で取得し,同年9月に上場(公開)したときに売却して必ず儲
けてもらえる旨持ちかけ,同年5月31日,これを信用した原告から4450万円
の第1振込を受けた。
イ 被告Aは,Cを通じ,原告に対し,平成12年6月から7月にかけて,上記西
武関連企業の未公開株式取得について,もう少し協力してほしいと持ちかけ,平成
12年7月4日,これを信用した原告から1株8900円で1000株分の資金と
して890万円の第2振込を受けた。
ウ 被告Aは,株式会社Eの債務10億円近くを同社の役員として連帯保証してい
たが,株式会社Eは,平成9年ころから資金繰が苦しくなっていたところ,平成1
2年5月ころには西武鉄道との関係が悪化し,同年6月には西武鉄道線の駅での飲
食店営業ができない状態となり,経営が立ち行かなくなっていた。
エ また,被告Aは,原告より前にも,少なくとも10人以上の知り合い等から,
未公開株式の取得資金として,借りないしは預かった金員があり,この関係だけで
も少なくとも約1億円の債務が残っていた。
オ そして,被告Aには,株式会社Eから得ていた月150万円くらいの役員報酬
と株式会社Dでのアルバイト料以外には,見るべき収入源はなく,その内株式会社
Eの経営は上記ウのとおり立ち行かなくなっており,上記エの知り合い等から借り
ないしは預かった金員も,その一部を株式会社Eの資金繰に回してしまっていたの
であって,新たに他から借りたりする以外には,知り合い等から借りないしは預か
った金員を返還することはできず,正常な手段での借入も困難な状況であった。
カ さらに,被告Aが原告及びCに持ちかけた株式公開予定の企業であったとする
若菜についても,平成13年下期を目標にした株式公開の予定はあったものの,被
告Aの話にあった平成12年中の株式公開の予定は,当初から存在しなかった。
・ 以上の認定事実によれば,被告Aが,原告及びCに西武関連企業の未公開株式
取得の話を持ちかけ,原告から第1振込及び第2振込を受けた平成12年当時は,
西武関連企業の年内株式公開予定はなく,被告Aは,本件振込金を,西武関連企業
の未公開株式取得に当てるのではなく,株式会社Eの資金繰や以前に知り合い等か
ら借りないしは預かった金員の返還等に費消する目的であったのであり,被告A
は,このような情を秘し,西武関連企業の未公開株式取得資金として使用されるも
のと原告を誤信させて,原告に第1振込及び第2振込をさせたもので,原告はこの
ような情を知っていれば第1振込及び第2振込をすることはなかったものと認めら
れる。
 そうすると,被告Aは,詐欺により原告から本件振込金5340万円を騙し取っ
たものであり,原告に対し,不法行為による損害賠償責任を負う。
2 争点・(被告Aの不法行為についての被告Bの共謀又は幇助)について
・ 原告は,被告Bは,被告Aと共謀していたか,少なくとも事情を知りながら被
告Aの詐欺行為に加担し,幇助したものであると主張し,前記前提事実及び上記1
・の認定事実に証拠(甲3号証,4号証,6号証,7号証,8号証の1,2,12
号証の1,2,13号証の1ないし3,20号証の1ないし10,21号証の1な
いし5,証人C,被告A本人,被告B本人。ただし,後記採用しないものを除
く。)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の各事実が認められ,これに反する乙
1号証(被告Aの陳述書)及び2号証(被告Bの陳述書)の各記載部分並びに被告
らの各供述部分は採用できない。
ア 被告Aは,原告及びCに対し,第1振込についての平成12年5月31日付け
の預り書(甲3号証,21号証の4。以下「第1預り書」という。)とともに,第
1振込を受けた4450万円の清算について「ToB,F,G,H,I,Jそして
K氏.上記の生存者達に遺言します。」などと記載した同日付けの原告及びC宛書
面(甲4号証,21号証の5。以下「第1遺言メモ」という。)を作成し,第1預
り書及び第1遺言メモを小封筒(甲21号証の3)に入れ,それを株式会社Dの封
筒(甲21号証の2)に入れ,平成12年6月7日,名古屋観光ホテルのロビー
で,被告BからCに手渡し,Cは,被告Bに対し,預けた金が大きく育ってくれる
とよいなどと述べた。
イ 被告Aは,原告及びCに対し,第2振込についての平成12年7月4日付けの
預り書(甲6号証)とともに,第2振込を受けた890万円の清算について「To
B・F・G・H・I・JそしてK氏 上記の生存者達に遺言します。」などと記載
した同日付けの原告及びC宛書面(甲7号証)を作成し,そのころ郵送した。
ウ 原告及びCは,被告Aに対する平成12年10月13日付けの本件振込金に関
する手紙(甲8号証の1)及び振込先の原告の預金口座を記載したメモ(甲8号証
の2)を作成し,同日名古屋市付近を走行中のタクシーの中で,Cが,被告Bに見
せた上,被告Bに手渡した。
エ 被告Bは,平成12年12月2日放送のラジオ番組で,被告Aのことを,真実
は義母であるのに「お袋は僕を産んですぐねえ,勘当させられて」などと実の母親
であるかのように述べたり,「弁護士の資格を持ってたりねえ,医者の免許も持っ
てるんですよ」などと虚偽の事実を述べた。
オ 原告及びCは,弁護士に依頼して,被告Aに対し,平成12年11月16日到
達の内容証明郵便(甲12号証の1。以下「本件内容証明郵便」という。)で,本
件振込金4450万円を返還するよう請求した。
カ 被告Aは,幼少のころから親交のあったLに対し,原告及びCに対するものと
同様の未公開株式取得のための資金の拠出を持ちかけ,平成12年9月5日178
0万円の交付を受けるなどしており,この1780万円の返還を求められていた
が,被告Bは,被告AのLに対する,返済期限を同月とし,利息を年12パーセン
トとする,1780万円の平成13年3月9日付け金銭借用証書(甲20号証の
8)に連帯保証人として署名押印し,Lに対し,被告Aの同債務を連帯保証した
(以下「別件連帯保証」という。)。
・ 以上の認定事実によれば,被告Bは,原告ないしCに対しても,被告Aを持ち
上げるような虚偽の部分を含む発言をしており,原告ないしCと被告Aとの間で株
式等に関する何らかの金銭的なやりとりがなされていることを平成12年6月ころ
にも知っていたものと認められるが,被告Aや被告Aの経営する株式会社Eの資金
繰等の状況や,被告Aが架空の未公開株式取得の話を作って多額の金員を騙取しな
いしは騙取しようとしていたことまで知っていたと認めるに足りる証拠はないし,
平成13年3月9日ころ,原告と同様の事案について,Lに対し1780万円の別
件連帯保証をしていることからすると,むしろこのようなAの詐欺行為を伺わせる
事情までは知らなかったのではないかとも考えられ,被告Bが,被告Aと詐欺行為
を共謀したり,被告
Aの詐欺行為を幇助したものと認めることはできない。
3 争点・(原告の損害)について
 以上によれば,原告は,被告Aの詐欺行為により,被告Aに騙取された本件振込
金5340万円の損害を被ったものと認められる。
 なお,原告は,慰謝料50万円を請求しているが,本件で原告に生じた精神的苦
痛は,本件振込金分の損害が賠償されれば慰謝される性質のものというべきであ
り,原告の慰謝料の請求は理由がない。
 本件弁護士費用としては,200万円が相当である。
 そうすると,原告が,被告Aに対し,被告Aの詐欺行為について賠償を求めるこ
とのできる損害は,本件振込金分5340万円及び弁護士費用200万円の合計5
540万円となる。
4 よって,原告の請求は,被告Aに対し,上記3の5540万円及びこれに対す
る第2振込の日である平成12年7月4日から支払済みまで民法所定(年5分の割
合)の遅延損害金を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,主文のとおり
判決する。
名古屋地方裁判所民事第7部
裁判官 長谷川恭弘

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