弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 本件抗告理由の要旨は、原決定の計算書(1)申立人Aの分の中
 第二項目の金六百九十円   訴状書記料(正副三通分)
 第七項目の金四百五十円   証人訊問申出書書記料
 第一五項目の金八十円    原告本人訊問申出書記料
 第二〇項目の金五百円    昭和二十九年三月三十一日附準備書面書記料(正
副二通分)
 第二二項目の金六百円    昭和二十九年四月二十八日附準備書面書記料(正
副二通分)
 第二四項目の金五十円    本確定決定申請書書記料
 第二六項目の金五百四十円  右計算書書記料(正副三通分)
 の七項目は不当で右金額による計算については不服である。
 右七項目に掲げられた金額はいずれも書類の書記料であるが、一枚五十円、半枚
三十円の割合で計上されている、すなわち、民事訴訟費用法第二条第三項によつて
いるのである、しかしながら、同規定は書類作成能力に乏しい当事者本人が自ら訴
訟を実施する場合にやむを得ず司法書士に嘱託して書類を作成させこれに支払つた
費用を訴訟費用として計上することを許した特例であつて、訴訟行為をなすことを
本職とする弁護士が司法書士に嘱託して訴訟用書類を作成することを許容し且その
費用を訴訟費用として計上し得るとするための規定ではない、前記七項目の書類
は、いずれも、原告たる申立人の代理人弁護士Bの作成に係るものであるから民事
訴訟費用法第二条第一項訴訟費用等臨時措置法第二条に基き半枚五円五十銭の計算
によるべきものである、もつとも、右各書類の末尾欄外には、いずれも「書記料…
…円司法書士C印」という記載があつて、同司法書士が書いたものらしいが、右書
類の作成者はどこまでも弁護士Bである、そもそも、弁護士たるものは訴訟事務の
遂行に必要な書類は自ら作成するのが当然で司法書士に嘱託して書類自体を作成す
る筈はない、勿論、弁護士が書類を作成するについて、筆記、浄書等のため筆生、
謄写人、事務員等の補助者を使い、これらの者に如何なる報酬を与えようとそれは
自由であるけれども、それをそのまま訴訟の相手方に負担させることはできない筈
である、この理由は弁護士が補助者として使つた者が偶々司法書士であつても毫も
変りはない、本件各書類はおそらくB弁護士が自ら起案したものを自分の何等かの
都合で司法書士にその浄書を依頼したものであろうと思われる、そして一枚五十円
半枚三十円の割合での報酬を与えたかも知れないが、それをそのまま訴訟費用額と
して計上することは正当ではない、そうでなければ、弁護士の好みによつて、その
相手方になつた当事者は莫大な費用を負担しなければならないことになつて不都合
である、又仮りに、かような場合において民事訴訟費用法第二条第一項によらず、
同条第三項によることができるとしても、司法書士は単に浄書しただけであるか
ら、司法書士報酬規定に定むる謄写の報酬を請求受領することができるだけで、特
に文案を要する書類の作成についての報酬額である一枚五十円半枚三十円の計算に
よるべきではない、さすれば、原決定が前記七項目の書記料を民事訴訟費用法第二
条第一項訴訟費用等臨時措置法第二条に基かないで、民事訴訟費用法第二条第三項
司法書士報酬規定によつて算出し、その三分の二を抗告人等に負担させたのは不法
であるから、原決定のこの点に関する部分を取消し更に相当の裁判を求めるため本
件抗告に及んだというにある。
 よつて按ずるに、民事訴訟費用法第二条第三項によれば、司法書士法の定めると
ころに従つて、司法書士に支払つた報酬の金額が同条第一項第二項に定めるものと
異なるときはその額に依ることとなつているが、司法書士法第十五条同条の二の規
定に則つて、本件関係の司法書士の属する長崎県司法書士会の定めた司法書士報酬
規定には、書類の書記料について、期日の変更又は指定の申請書、判決送達申立書
……その他「特ニ文案ヲ要セサル書類」と訴状、準備書面、証拠保全申請書、訴訟
費用確定申請書……その他「特ニ文案ヲ要スル書類」とを区別し、前者については
一枚三十円半枚二十円後者については一枚五十円半枚三十円の報酬額が定められて
いる、ところで、本件で問題の訴状等七項目の書類は、その性質上一般的にいつて
右にいわゆる「特ニ文案ヲ要スル書類」といえるし、又本件記録について見るにそ
の内容においても「特ニ文案ヲ要スル書類」であると認められる、而して、これら
の書類は、記録によれば、いずれも、その末尾に書類作成引受番号と書記料の金額
が記載してありその記載下に司法書士の署名捺印があるので、司法書士に嘱託して
作成せられたものと認むべきであるから、その書記料は前記「特ニ文案ヲ要スル書
類」の報酬額に依ることとなる訳である。
 ところが、これら本件七項目の書類が、記録上明らかなようにいずれも、相手方
の訴訟代理人弁護士Bの名を以て提出せられているところから、抗告人において
は、本件訴訟費用確定決定が、その書記料を前記司法書士報酬規定中の「特ニ文案
ヲ要スル書類」の報酬額に依つて算定したことについて、前掲抗告理由のような不
服があるとして本件抗告に及んでいるのである。
 <要旨>しかしながら、民事訴訟費用法第二条第三項の規定を以て、抗告人のいう
ように、単に書類作成能力に乏しい当事者本人が自ら訴訟を実施する場合に
司法書士に嘱託して書類を作成させこれに支払つた費用を訴訟費用として算定すべ
きことを許した特則と解すべき合理的な根拠はなく、同条項の規定は、書類作成の
嘱託者の何人であるを問わない趣旨であつて、弁護士が書類の作成を嘱託するとき
と謂えどもその選を異にするものではないと解すべきである、すなわち、弁護士が
依頼を受けて訴訟を実施する場合、その訴訟関係書類は全部自らこれを作成しなけ
ればならないものではない、又弁護士だからといつて訴訟関係書類を必らず自ら作
成するものとは限らない、勿論、弁護士は訴訟関係書類の作成には習熟している筈
であるから、自らこれを作成することが多いであろうけれども、事情によつては、
これが作成を司法書士に嘱託することもあろうし又嘱託しても何等差支えないこと
である、そして、その司法書士に嘱託して書類を作成した場合、その報酬は結局訴
訟依頼者たる当事者の負担において司法書士に支払われることとなるのであるか
ら、該報酬金額は民事訴訟費用法第二条第三項の規定に則つて訴訟費用として計上
せられることとなるのは当然のことである。
 ところで、本件七項目の書類は前記の如く司法書士に嘱託して作成せられたもの
であるが、B弁護士の名を以て提出せられているから、反証のない限り同弁護士に
おいてこれが作成を司法書士に嘱託したものと見るべきである。この点について、
抗告人は、これらの書類はB弁護士が自ら起案したものを司法書士に浄書せしめた
ものであるというけれども、そのように断定するに足る疎明資料は存しない、もつ
とも、本件七項目の書類中訴訟費用の確定決定申請関係以外の訴状、準備書面等の
書類は、その性質上訴訟の勝負に重要の関係があり且その作成は弁護士としての専
門的な知識経験を必要とするものであるからこれらの書類の内容については、B弁
護士においても相当の考案をめぐらした上司法書士に嘱託してこれを作成せしめた
であろうことは推認するに難くはないけれども、このことから直ちに同弁護士が自
らこれらの書類を起案して司法書士に浄書せしめたと推断するのは早計に失するも
のといわねばならない、大体、弁護士が司法書士に書類の作成を嘱託するについて
は、単にその要領を示して作成せしめる場合もあろうし、事件の難易、作成すべき
書類の煩簡の程度に従つて或いは大綱を示すに止まり或いは細目に亘つて指示する
こともあろう、又その嘱託の形式に至つても口頭を以てする場合もあれば、時に書
面による場合もあるであろう、更に書面による場合においても要領書を渡し、又は
主要な部分のみの原稿を交付し司法書士をしてこれを補充し整理して文書に作成せ
しめることもあり得べきことであつて、弁護士だからといつて訴訟関係書類の作成
を司法書士に嘱託するにあたつては、常に全部の原稿を示して浄書せしめるものと
認めねばならないものではない、場合により事情によつて異なるものといわねばな
らないが、一般的にいつて、弁護士が司法書士に訴訟関係書類の作成を嘱託するの
は通常これを補充整理して文書として完成して貰うためであると見るのが相当であ
る、それで、B弁護士が司法書士に本件七項目の書類の作成を嘱託するについて原
稿を示して浄書せしめたと認むべき証左のない本件においては、その作成の報酬は
謄写の費用によるべきではなく、むしろ訴訟関係書類の書記料である前記司法書士
報酬規定の書類の書記料の報酬額によることとならざるを得ない、よつて次には、
これを同規定の書類の書記料中「特ニ文案ヲ要スル書類」の報酬額によるべきか、
又は「特に文案ヲ要セサル書類」のそれによるべきかということになる、思うに右
にいわゆる「文案ヲ要スル」ということは、文書を作成するについて考案を要する
ということであると解すべきであるが、司法書士の業務は司法書士法第一条に明ら
かなように、他人に代つてその嘱託の趣旨内容の文書を作成することであるから、
その作成する文書は嘱託の趣旨内容に則つて作成せらるべきものである、従つて、
前記の如くその性質上においても又その内容から見るも「特ニ文案ヲ要スル」書類
と認むべき本件七項目の書類については、嘱託の趣旨内容において、司法書士に原
稿を示してこれを浄書せしめる等司法書士の文書作成について、いわゆる考案を要
しない程度のものであれば、「特ニ文案ヲ要セサル書類」の報酬額によるべきであ
ろうが、そうでない限り「特ニ文案ヲ要スル書類」の報酬額によると解するを相当
とする、このことは弁護士が書類の作成を嘱託する場合にもその適用を異にするも
のではないといわねばならない、なるほど弁護士は、当事者の依頼によつて訴訟事
件に関する行為を行うことを職務とするものであるから、訴訟関係書類の作成を嘱
託するにあたつては、その嘱託の趣旨内容は相当程度の高いものであるのを通常と
するであろう、従つてその嘱託によつて司法書士が書類を作成するについて、その
考案すべき程度はそれに応じて通常低からざるを得ないこととは考えられるけれど
も、前叙の如く弁護士が司法書士に訴訟関係書類の作成を嘱託するのは普通これを
補充整理して文書に完成して貰うためであるのを一般とする事情に鑑みるときは、
司法書士が弁護士の嘱託に応じて書類を作成する場合にもなお、その間考案の余地
の存しないものでもないといわざるを得ない。
 以上の次第にて、本件七項目の書類の書記料を前記司法書士報酬規定中の「特ニ
文案ヲ要スル書類」の報酬額によつて算定した原決定は正当であつてこれを違法不
当であるという抗告理由は到底採用するに由がない。
 その他本件記録を精査するも原決定には何等違法の点を認められないので本件抗
告を理由なきものとして棄却すべく、抗告費用の負担につき民事訴訟法第八十九条
を適用して主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官 野田三夫 裁判官 中村平
四郎 裁判官 天野清治)

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