弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決を取り消す。
2本件訴えを却下する。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
1本件は,被控訴人ら及び控訴人らの父である被相続人が有していた預貯金債
権につき,被控訴人らが,控訴人らに対し,遺産分割の対象とならないことの確認
を求めるものである。
2当事者の主張
(1)本件訴えの適法性に関する被控訴人らの主張
被相続人から相続した預貯金債権が遺産分割の対象外であることの確認を求め
る訴えは,当該財産が現に共同相続人による遺産共有の状態にないことの確認を求
めるものであって,その原告勝訴の確定判決は,当該財産が遺産分割の対象たる財
産でないことを既判力をもって確定することとなり,これによって,判決確定後に
行われる遺産分割審判の手続において,当該財産が遺産分割の対象となるか否かに
ついての争いが生じるのを防ごうとするものであって,適法である。
(2)請求原因
ア被控訴人ら,控訴人Y1及び控訴人Y2は,いずれも平成7年1月1日に死亡
した亡Aの子(法定相続人)であり,その法定相続分は各6分の1である(相続関
係は原判決別紙相続関係説明図のとおり。)
,(「」。)イ亡Aは原判決別紙預貯金目録記載の預貯金以下本件預貯金という
を有していた。
ウ被控訴人らは,金銭債権その他の可分債権は相続開始とともに法律上当然
に分割されて各相続人に承継されると主張して,各金融機関を被告として,本件預
貯金につき,法定相続分各6分の1の割合による金額の払戻請求をし,これを取得
した。
エ被控訴人ら及び控訴人らの間においては,亡Aを被相続人とする遺産分割
((),,)審判事件高知家庭裁判所平成12年家第108号第109号第110号
が係属している。同事件において,被控訴人らは,本件預貯金が遺産分割の対象と
ならない旨の主張をしており,控訴人らはこれに反し,遺産分割の対象となる旨を
主張している。
オよって,被控訴人らは,本件預貯金が遺産分割の対象とならないことの確
認を求める。
(3)請求原因に対する控訴人らの認否
ア控訴人Y1
(ア)請求原因アないしウは認める。
(イ)同エのうち,控訴人らが現在高知家庭裁判所に係属中の事件において,
本件預貯金が遺産分割の対象となる旨を主張していることは認めるが,その余は否
認する。被控訴人らも本件預貯金を遺産分割の対象とすることに合意していた。
,,被控訴人らは本件預貯金の支払を求める訴訟を各金融機関に対し提起し
控訴人Y1もこれに訴訟参加していたが,遺産分割として家庭裁判所で解決するのが
本筋ではないかとの金融機関の代理人からの意見があり,被控訴人らと控訴人Y1と
の間で亡Aの預貯金を遺産分割の対象とすることに合意し,訴訟を取り下げ,平成
8年10月30日高知家庭裁判所に亡Aの遺産分割を申し立てた。平成11年1月
28日に第1次の審判がなされたが,この間,被控訴人らからは遺産分割の対象と
することに何の異議も出されていない。ところが,被控訴人らは,その後代理人弁
護士が変わったのを機会に,合意を乱暴に破った。
(ウ)本件預貯金は亡Aが独力で作ったものではなく,控訴人らの協力と犠牲
のうえに形成されたものである。控訴人らの寄与貢献の程度について,高知家庭裁
判所の審判では,控訴人Y1は3割,控訴人Y2は2割と定められた。預貯金といえど
も亡Aの遺産であり,相続人間の実質的公平を図るのが寄与分の定めであるが,預
貯金は可分債権であるから相続開始とともに当然分割され遺産分割の対象とならな
いとの最高裁判決は寄与分の制度の趣旨を没却しており,現実に家庭裁判所でなさ
れている遺産分割の実情にも反している。各金融機関と個別の相続人との間では最
高裁判決が妥当するとしても,相続人間での具体的遺産分割に関しては寄与貢献を
配慮した分割がなされるべきである。亡Aの遺産のほとんどは預貯金であり,預貯
金の形成に協力しなかった被控訴人らが遺産分割の対象としないという主張をすれ
ば法定相続分割合で取得しうるというのは,遺産分配における実質的公平を著しく
欠くことになる。本件相続人間での調整は遺産分割でするほかない。
イ控訴人Y2
(ア)請求原因ア,イ及びエは認める。
(イ)同ウのうち,被控訴人らが本件預貯金につき,法定相続分による各6分
の1を取得したことは認めるが,判決の内容は知らない。本件預貯金が可分債権で
あることは否認する。
(ウ)遺産の金銭は自分達が作り上げたもので預金名義は借名に等しい。預金
。,債権は家事審判で遺産分割の対象とされてきた被控訴人らは金融機関のみと争い
全相続人と裁判をしていない。
第3当裁判所の判断
1前提事実
被控訴人ら及び控訴人らがいずれも亡Aの子であること,及びAは平成7年1
月1日死亡したことについては当事者間に争いがなく,この事実によれば,被控訴
人ら及び控訴人らがそれぞれ6分の1の割合で亡Aを相続したことが認められる。
また,亡Aが,原判決別紙預貯金目録記載の預貯金を有していたことも当事者間に
争いがない。
被控訴人らは,本件預貯金につき,各金融機関を被告として,法定相続分各6
分の1の割合による金額の支払請求をし,その支払を受けた(この事実は控訴人Y1
の関係で争いがなく,控訴人Y2の関係では証拠(甲1ないし9)により認めること
ができる。。)
2本件訴えの適法性
本件訴えは,被相続人である亡Aが有していた本件預貯金が遺産分割の対象で
ないことの確認を求めるものであるところ,以下,本件訴えの適法性について検討
する。
相続人が複数ある場合において,相続財産中に可分債権があるときには,当該
債権は法律上当然に分割され,各共同相続人がその相続分に応じて権利をそれぞれ
,,単独で承継するのであって共同相続人による遺産共有関係に立つものではないが
共同相続人全員の合意がある場合には,当該債権を遺産分割の対象とすることもで
きると解される。
遺産分割審判手続において,被相続人が有していた預貯金債権等の可分債権を
遺産分割の対象とすることができるのは,共同相続人全員の明示又は黙示の合意が
ある場合に限られるところ,その合意の存在は,当該可分債権を当該審判手続にお
いて遺産分割の対象とするための要件であり,その要件が充足されているか否かの
判断は,共同相続人間での合意の成否ないし有無という事実認定の問題である。そ
うすると,これについては,家庭裁判所が当該審判手続中において遺産の分割のた
めの前提問題として審理判断すべきであり,かつ,それをもって足りるというべき
である。遺産分割手続を離れてこれとは別に独立の事項として可分債権の遺産分割
対象性の消極的確認を求めることは,共同相続人間での上記合意が存在しない(成
立していない)という事実の確認を求めるものに帰着し,実体的な権利関係の確認
を求めるものとはいえないし,そのような事実の確認が遺産分割をめぐる紛争の抜
本的解決に資するものということもできない。
なお,被控訴人らは,本件訴えにつき,本件預貯金が遺産分割の対象財産とな
っていないという現在の法律関係の確認を求めるものであるから,適法であると主
張する。しかしながら,相続財産中の可分債権は法律上当然に分割され共同相続人
に相続分に応じて承継されるのであるから,当該可分債権が遺産分割の対象でない
ことの確認を求めることは,とりもなおさず,当該共同相続人が単独で相続分に応
じた分割債権を有していることという現在の権利関係の確認を求めることにほかな
らないところ,共同相続人は,各自が単独で承継した分割債権に基づいて,金融機
関に対し,個別かつ独立にその払戻しを請求することができるのであって,相続人
の範囲及びその相続分の割合について争いのない共同相続人間において,既に各共
同相続人が分割承継した被相続人名義の預貯金に関する帰属の確認を求める訴え
は,その預金をめぐる紛争の解決にとって有効適切なものとはいえない上,遺産分
割審判手続との関係では,前記のとおり,共同相続人間で当該預貯金を遺産分割の
対象とすることの合意の不存在ないし不成立という事実の確認を求めるものに帰着
し,その確認の利益を肯認することはできないというべきである。
以上の次第で,共同相続人間において可分債権につき遺産分割の対象でないこ
との確認を求める訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法であると解するのが
相当である。
そうすると,本件預貯金債権が遺産分割の対象でないことの確認を求める被控
訴人らの本件訴えは不適法として却下を免れないところ,これを適法として確認請
求を認容した原判決は不当であるから,これを取り消して被控訴人らの本件訴えを
却下することとする。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官馬渕勉裁判官豊澤佳弘裁判官齋藤聡)

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