弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
被告人Aを懲役3年及び罰金300万円に処する。
被告B会社を罰金3000万円に処する。
被告人Aにおいて上記罰金を完納することができないときは,金1万円を
1日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
被告人Aに対し,この裁判確定の日から5年間その懲役刑の執行を猶予す
る。
被告人Aから金2億5529万2200円を追徴する。
理由
(罪となるべき事実)
被告B会社は,判示第1及び第2の当時,東京都板橋区ab丁目c番d号に本店
を置き,その発行する株券を株式会社東京証券取引所市場第二部に上場し,光学機
械器具,測定機械器具の製造販売等の事業を営む会社等の株式を保有することによ
る当該会社の事業活動の支配及び管理並びに有価証券の運用等を事業目的とする会
社,被告人Aは,被告B会社の代表取締役として同社の業務全般を統括管理してい
たものであるが
第1被告人Aは,東京都中央区日本橋兜町2番1号所在の株式会社東京証券取引
所が開設する有価証券市場(第二部)に上場されている被告B会社の株券につ
いて,財産上の利益を得る目的で,その株価の高値形成を図ろうと企て,C,
D,E,F,G,H,I及びJらと共謀の上,平成19年4月13日から同月
26日までの間,10取引日にわたり,同市場において
1同株券の売買を誘引する目的をもって,別表1記載のとおり,Dほか4名
義で,K株式会社ほか4社の証券会社を介し,連続した高指値注文を行って
高値で買い上がるなどの方法により,同表「変動操作・買付状況」欄記載の
同株券合計946万0300株を買い付ける一方,Gほか5名義で当時のL
株式会社ほか6社の証券会社を介し,同表「変動操作・売付状況」欄記載の
同株券合計777万2400株を売り付け,さらに,別表2記載のとおり,
Dほか4名義でK株式会社ほか2社を介し,大量の下値買注文を入れて下値
を支えるなどの方法により,同表「変動操作(買付委託状況)」欄記載の同
株券合計148万株の買付の委託を行い,もって同株券の売買取引が繁盛で
あると誤解させ,かつ,同株券の相場を変動させるべき一連の売買及びその
委託をし
2他人をして同株券の売買取引が繁盛に行われていると誤解させる等同株券
の売買取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもって,別表3「仮
装売買」欄記載のとおり,Dほか4名義を用いて,K株式会社ほか6社の証
券会社を介し,同株券合計427万8100株について,自己のする売付と
同時に別途自己において買付をし,もって権利の移転を目的としない仮装の
売買をし
よって,同株券の株価を154円から179円まで上昇させた上,そのz昇
させた株価により,別表4「変動させた相場による売付」欄記載のとおり,G
ほか6名義で当時のL株式会社ほか7社の証券会社を介し,同株券合計109
4万6700株を売り付け,もって当該変動させた相場により有価証券の売買
を行った(平成21年11月25日付け起訴状記載の公訴事実に係る平成22
年2月10日付け訴因変更請求書記載の公訴事実)
第2被告人Aは,D,M及びNらと共謀の上,被告B会社の業務及び財産に関し,
被告B会社が平成20年2月1日に公表した株式会社O等を割当先とする第三
者割当による新株式発行増資(発行株式数1851万株,発行価額1株につき
27円,発行価額の総額4億9977万円)及び第三者割当による第5回新株
予約権の発行増資(新株予約権126個,発行価額1個につき9万6000円,
新株予約権の発行総額1209万6000円)につき,虚偽の事実を公表する
などして偽計を用い,被告会社の株価を上昇維持させた上で,前記第三者割当
による新株式発行増資及び前記新株予約権の行使により発行予定の新株等を売
却しようと企て
1真実は,株式会社Oは被告人Aが前記第三者割当による新株式発行増資等
において名目上の割当先とするために設立した実体のない法人に過ぎず,同
社には前記第三者割当による新株式発行増資の払込金4億5981万円等を
実際に拠出する資金力もなく,他に同社割当分の払込金全額の出資に応じる
者も確保できていなかったのに,その情を秘し,平成20年2月1日,前記
株式会社東京証券取引所が提供する適時情報開示システムであるTDnet
により,あたかも株式会社Oがマレーシア店頭市場上場会社から紹介された
資金力を有する関連会社であり,株式会社Oが前記第三者割当による新株式
発行増資等の出資者として実際に払込金全額を拠出する旨の虚偽の事実を公
表し,
2真実は,前記第三者割当による新株式発行増資の株式会社O割当分の払込
金4億5981万円のうち2億0481万円は架空の払込みであるのに,そ
の情を秘し,同月18日,前記TDnetにより,あたかも株式会社Oから,
前記第三者割当による新株式発行増資の払込金として4億5981万円全額
の払込みが完了し,被告B会社の資本増強が行われた旨の虚偽の事実を公表
し,
もって有価証券の売買のため,及び有価証券の相場の変動を図る目的をもっ
て,偽計を用いた(平成21年12月25日付け起訴状記載の公訴事実第1)
第3被告人Aは,前記第2の犯行により,被告B会社の資本増強が行われたとし
て虚偽の事実を登記させようと企て,Pらと共謀の上,平成20年4月16日,
東京都板橋区板橋1丁目44番6号所在の東京法務局板橋出張所において,前
記金が,同出張所登記官に対し,被告B会社の資本の額が122億7986万
6418円から125億3900万6418円に増加した事実などないのに,
その旨虚偽を記載した株式会社変更登記申請書等を提出して虚偽の申立てをし,
情を知らない前記登記官をして,そのころ,同出張所において,公正証書の原
本として用いられる電磁的記録である商業登記簿の磁気ディスクにその旨の不
実の記録をさせて,即時,これを同所に備え付けさせ,もって公正証書の原本
としての用に供した(平成21年12月25日付け起訴状記載の公訴事実第
2)
ものである。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
1被告人Aについて
被告人Aの判示第1の所為は包括して刑法60条,平成18年法律第65号
(証券取引法等の一部を改正する法律)附則218条により同法3条による改正
前の証券取引法(以下「証券取引法」という。)197条2項,同条1項5号
(ただし,平成18年法律第65号1条による改正後のもの),159条1項1
号(仮装売買の点),2項1号(変動操作の点)に,判示第2の所為は包括して,
刑法60条,金融商品取引法197条1項5号,158条に,判示第3の所為の
うち電磁的公正証書原本不実記録の点は刑法60条,157条1項に,同供用の
点は同法60条,158条1項にそれぞれ該当するところ,判示第3は1個の行
為が2個の罪名に触れる場合であるから同法54条1項前段,10条により1罪
として犯情の重い不実電磁的公正証書原本供用罪の刑で処断することとし,判示
第2の罪について情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し,判示第3の罪
について所定刑中懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,
懲役刑について同法47条本文,10条により,刑及び犯情の最も重い判示第1
の罪の刑に法定の加重をし,罰金刑については同法48条2項により各罪所定の
罰金の多額を合計した金額の範囲内で被告人Aを懲役3年及び罰金300万円に
処し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金1万円を
1日に換算した期間被告人Aを労役場に留置することとし,情状により同法25
条1項を適用してこの裁判確定の日から5年間その懲役刑の執行を猶予し,証券
取引法198条の2第1項1号,2号,同項ただし書を適用して,被告人Aが判
示第1の犯罪行為により得た財産又はその対価として得た財産のうち,総額金2
億5529万2200円を没収すべきところ,既に費消されるなどして没収する
ことができないので,同条2項によりその価額を被告人Aから追徴することとす
る。
2被告B会社について
判示第2の事実は,被告B会社の代表者である被告人Aが,被告B会社の業務
及び財産に関し,金融商品取引法197条1項5号,158条に違反する行為を
したものであるから,同法207条1項1号により,同号所定金額の範囲内で被
告B会社を罰金3000万円に処することとする。
(被告人Aに対する追徴額についての補足説明)
1証券取引法198条の2第1項本文,2項の趣旨
証券取引法198条の2第1項本文,2項の趣旨は,健全な証券市場を確保す
るために,相場操縦等の犯罪行為により得た財産又はその対価として得た財産等
を,犯罪への再投資等を阻止するためにも,当該犯罪に関与した犯人全員から残
らずはく奪し,不公正な取引を厳に規制し,もって証券取引法秩序を確保しよう
とするものであり,いわゆる「やり得」を許すことのないよう,こうした不公正
取引により得た財産を例外なく没収・追徴する趣旨であり,共同正犯者を含む犯
人全体に対し,原則として,各自の責任で確実に国庫にその全額を納付せしめよ
うとするものであり,没収の対象となる「犯罪行為により得た財産」も,共同正
犯者を含む犯人全体が「犯罪行為により得た財産」を意味するものであって,形
式上の第一次的な利益帰属者や最終的利益帰属者,さらには,利益の分配にあず
かった者が誰であったかは問われないと解するのが相当である。
本件においても,相場操縦(変動操作)の手段として行われる個々の売買取引
により得た買付株式及び株式の売却代金並びに変動させた相場により売却した株
式の代金は,いずれも同条項による必要的没収・追徴の対象となる上,被告人A
も,共同正犯者として,当然追徴に応じるべき責任がある。被告人Aの弁護人ら
は,同条項にいう「犯人」には,たとえ共犯者であってもおよそ利得を得てない
者は含まれないとした上で,被告人Aは同条項にいう「犯人」に当たらない旨主
張するが,上記法の趣旨に照らして採用できない。
2証券取引法198条の2第1項ただし書の適用(信用取引分)
次に,同法198条の2第1項ただし書では,「その取得の状況,損害賠償の
履行の状況その他の事情に照らし,当該財産の全部又は一部を没収することが相
当でないときは,これを没収しないことができる。」と定め,没収・追徴が過酷
な結果をもたらさないように配慮している。これからすると,本件においても,
相場操縦の手段として膨大な数の株式買付,同売付が繰り返され,しかも,それ
らが信用取引で行われている場合,それらの合算額は膨大なものになりがちであ
る上,その買付株式,売付代金のいずれも証券会社の担保とされており,犯人で
ある被告人らが実際に取得できる利益は売買差益相当額にすぎないことなどを考
えると,それらの合算額のすべてを必要的没収・追徴の対象とするのは,犯人で
ある被告人Aにとってあまりに過酷となるというべきであるから,同条1項ただ
し書を適用して,原則として,没収・追徴の範囲を売却代金から買付代金相当額
を控除した売買差益相当額に限定するのが相当である。
この点,検察官は,本件が相場操縦の加重類型である証券取引法197条2項
の罪として訴追されたものであることから,財産上の利益を得る目的で,相場操
縦の結果変動した相場により取引をした行為を処罰する同条項の趣旨を強調して,
変動させた相場により売却した株式の代金の全額を没収・追徴の対象とするべき
である旨主張している。しかしながら,本件において同条項の罪を構成するもの
として訴追されているのは,後述の現物取引に係る分を除くと,その大半は,相
場操縦(変動操作)の手段として,信用取引により頻繁に売買された株式の中か
ら,特に売り付けに係る分を抽出して捕捉したものにすぎないものであるが,こ
のように信用取引に係る売買額全額を没収・追徴の対象とすることが過酷となる
ことは,財産上の利益を得る目的である場合であっても変わるところはないとい
うべきであるから,この点についての検察官の主張は採用できない。
3証券取引法198条の2第1項ただし書の適用(現物取引分)
もっとも,検察官は,売り付けに係る株券のうち,少なくとも証券口座の信用
取引によるものではなく現物取引によるもの,すなわち,被告人Aらにおいてか
つて安値で購入してあった株券(以下「現物株」という。)を出庫して本件相場
操縦期間中に売り抜けたものについては,売り付け後の売却代金相当額の全額を
追徴すべきであるとも主張している。確かに,現物株取引の場合は,信用取引の
場合と異なり,それを売り付けた者が,当該現物株の売付代金の全額を取得する
ことになるから,これを全額没収・追徴の対象としても,犯人に過酷な結果をも
たらすことにはならず,犯罪に対する再投資等を阻止しようとする証券取引法1
98条の2の趣旨からすれば,これらを全額没収・追徴の対象とするのが相当と
いうべきである。
4本件における没収・追徴すべき金額の算定
以上検討してきたところからすれば,証券取引法198条の2第1項本文,同
ただし書,同条2項により被告人Aから没収・追徴すべき金額は,判示第1の犯
行における被告B会社の株式(以下「B株」ということがある。)の取引のうち
信用取引分を含めたすべての取引(ただし,仮装売買分を除く。)による売買利
益の合計額1億5808万2160円(甲92・別紙1)から,D名義の口座
(Q証券,R証券)で売り付けられたとされる14万0300株(甲92・別紙
2・1丁(1)の「売付株数」合計15万6000株から,「仮装売買」に係る
「株数」1万5700株を控除したもの。以下「D現物株」という。)による売
買利益額193万8200円(甲92・別紙2・1丁(1)「除く仮装売買」欄の
「売買損益」額),及びJ名義の口座(S証券)で売り付けられたとされる合計
67万4300株(甲92・別紙2・2丁(2)。以下「J現物株」という。なお,
J現物株取引においては,仮装売買はない。)による売買利益額4097万77
60円(甲92・別紙2・2丁(2)「除く仮装売買」欄の「売買損益」額)を控
除した1億1516万6200円に,D現物株の売付金額2354万4400円
(甲92・別紙2・1丁(1)の売付金額合計2626万0500円から,仮装売
買分に係る売付金額271万6100円(平成19年4月25日取引分1万57
00株に取引価額173円を乗じた額。甲5・158ページ,甲41・7ページ
以下,乙40・10ページ以下)を控除した金額)及びJ現物株の売付金額1億
1658万1600円(甲92・別紙2・2丁(2)の売付金額)の合計額を加え
た2億5529万2200円とするのが相当である。
(量刑の理由)
1本件は,被告会社の代表取締役である被告人Aが,①いわゆる仕手師であるC,
投資グループを率いてCと連携するなどしていたDほか数名の判示共犯者らと共
謀の上,財産上の利益を得る目的で,東京証券取引所二部上場企業である被告B
会社の株式(B株)について相場操縦を行い,これによって上昇させた株価によ
り被告B会社の株式を売り付けたという証券取引法違反(判示第1),②Dほか
数名の判示共犯者らと共謀の上,被告B会社の代表者としてその業務及び財産に
関し,被告B会社による第三者割当による新株発行・株式予約権発行増資につき,
虚偽の事実を公表して偽計を用いたという金融商品取引法違反(判示第2),判
示共犯者らと共謀の上,同増資に関し虚偽の事実を登記させたという電磁的公正
証書原本不実記録・同供用(判示第3)から成る事案である。
2判示第1の犯行について
(1)犯行に至る経緯・動機
被告人Aは,被告B会社及びそのグループ会社数社をその支配下に置き,映画
の製作等の経済活動に従事しながら,増資や企業買収等により積極的な事業規模
の拡大を図っていたものであるが,平成18年11月グループ会社の粉飾決算発
覚を契機として被告B会社の株価が暴落し,被告B会社やそのグループ会社の増
資による資金調達に苦しむようになったことから,資金調達が容易になるよう,
被告B会社の株価の維持・上昇に強い利害関心を抱くようになっていたところ,
かねてより被告B会社の株式を取得してその短期的な売買等によって利益を得な
がら,上記暴落により巨額の損失を被ったC及びDが,被告B会社株式(B株)
に関する本格的かつ長期的な相場操縦行為によって上記損失の挽回と利得を企て
たのに同調し,同人ら及びその協力者らと共謀の上,判示第1の犯行に及んだも
のである。これからすれば,自己の支配する会社の資金調達を図り,ひいては,
自己の支配権をより強固なものにすることによって,自己の利益を図るために,
法令違反をいとわないその自己中心的な動機に酌むべき点はない。
(2)犯行態様・結果,被告人Aの役割
被告人A及びその共犯者らは,訴追対象期間を通じて,緻密な計画の下,多数
の協力者を通じ多様な手法を駆使して,証券等取引監視委員会の監視の目をかす
めながら,継続的かつ大規模な相場操縦行為を行ったものであって,その態様は
巧妙かつ計画的であって,悪質である。
判示第1の犯行の結果,少なからざる相場の変動を生じさせ,一般投資家に影
響を与えたばかりか,証券市場の公正さに対する信頼をゆがめており,その結果
も軽視できない。
もっとも,相場操縦行為そのものは,C及びDが主体となって行ったものであ
るが,被告人Aもまた,かねて親しく付き合っていたC・Dに同調し,相場操縦
のための多額の資金提供(平成19年2月及び4月の2度にわたり合計1億05
00万円)のみならず,市場外取引による大量の買建玉の引き取り(平成19年
3月8日から4月25日までの間に合計575万株)をするなど,犯罪遂行の上
での重要な役割を行っている。
なお,被告人Aは,公判廷において,Cらが相場操縦をしていることを明確に
知ったのは,本件で逮捕された後のことであり,同被告人において,Dらに具体
的な株価の目標値を示したこともなく,また,上記のような役割を果たすことに
なったのも,Cから電話で同人の依頼に応じないとB株が暴落するなどとして威
圧的に市場外取引を迫られた結果である旨弁解している。しかしながら,被告人
Aの上記公判供述の内容は,CやDの捜査段階における一致した供述に反してい
るところ,Cらの供述内容は詳細かつ自然であり,その信用性は高い。これに対
し,被告人Aは,捜査段階において,上記公判供述に沿うかのような供述をして
はいるものの,一方で市場外取引を以前から依頼されたかもしれない旨の供述も
し(乙3・19ページ),あるいは,自らは具体的な株価の目標値を言わなかっ
たものの,Dから告げられた株価の目標値につき,「いいですよ。」と答えたと
も述べているのであって(乙3・8ページ),これからすれば,被告人Aの上記
公判供述は信用できず,このことから,同被告人の有利に斟酌すべき事情は見い
だせない。
(3)被告人Aに有利な犯情
被告人Aが,判示第1の犯行につき,前後の重要な経緯も含め,その大筋を認
めていること,相場操縦により被告人A自身には直接の個人的利得はなかったこ
と,変動させた相場による株券売却のうち,とりわけJによる売り抜け行為の点
については,被告人Aとしては,C・Dらの相場操縦行為に対する大口の出資協
力者が,相場操縦行為を無駄にしない範囲で適宜保有する株券を売り抜けて利益
を図ることは容認するという限度で関わっていたものにすぎないことは,被告人
Aのために有利に斟酌すべきものである。
3判示第2,第3の犯行について
(1)犯行に至る経緯・動機
被告人Aは,C及びDらによるB株の相場操縦が平成19年12月の大暴落に
よって終焉を迎えたことから,そのころ予定していた第三者割当による新株及び
新株予約権発行の一部失権手続を余儀なくされ,そのため,改めて第三者割当に
よる新株及び新株予約権を発行,増資して資金調達を図ることにしたが,直ちに
十分な出資者を確保することができなかったため,取りあえず実体のないダミー
会社を設立した上で,これを新株の引受予定者として虚偽の事実を公表し(判示
第2の1),さらに,引き続き実質的な出資者を探したものの,増資額に見合う
だけの出資者を確保できなかったため,当時の状況下で,既に公表した増資の一
部を消却するのは被告B会社の致命的な信用不安につながるなどと考えて,架空
の水増し増資を企て,資金の流れを仮装した上で,新株引受に係る全額の払込み
があったと虚偽の事実を公表し(判示第2の2),その後,その旨の虚偽の商業
登記をした(判示第3)。
このような経緯からすると,被告人Aは,判示第2及び第3の各犯行において
も,判示第1の犯行と同様,自己の支配する会社の資金調達を図り,ひいては,
自己の支配権をより強固なものにすることによって自己の利益を図るために,法
令違反をいとわない自己中心的な動機によるものであって,酌むべき点はない。
なお,被告人Aの弁護人らは,同被告人が判示第2及び第3の各犯行を引き起
こしたのは,ひとつには,B株等をめぐって被告B会社や関連会社として関連証
券会社を通じて信用取引をしていた証券会社から,株価暴落後,巨額の追加保証
金の支払をきびしく追及されるようになり,関連証券会社のみならず被告B会社
等に対しても破産申立てを示唆され,追い詰められたからであり,また,同被告
人に対し現実に多額の出資を約束する者がいたことなどを挙げて,同被告人に同
情の余地がある旨主張する。
しかしながら,被告B会社が破綻に瀕したのは,被告人Aの,相場操縦への関
与を含めた経営判断の失敗によるものであって,自業自得というべきであるし,
出資を約束する者の言動についても,同被告人においては,当初から実際に出資
されない可能性も高いことを考慮に入れていたことが認められるのであって,上
記弁護人らの主張を採ることはできない。
(2)犯行態様等
判示第2及び第3の各犯行は,被告人Aが,被告B会社の多数の部下に指示し
て多様な役割分担の下,敢行した被告B会社ぐるみの組織的な犯行であり,被告
人Aは,判示第2及び第3の各犯行を通じてその首謀者としての地位にあった。
また,被告人Aは,判示第2及び第3の各犯行以前から,ダミー法人を割当先と
するなどして新株発行等による増資を大々的に公表し,その効果の下で実質的な
出資者を集めるなどして被告会社の資金調達を行っており,これからすれば,同
被告人のこの種事犯に対する規範意識は鈍麻していたというほかない。
(3)被告人Aに有利な犯情
被告人Aが判示第2及び第3の各犯行についても,事実をすべて認めて,その
詳細を供述しているほか,判示第2の犯行については,公表した出資額相当の払
込がされていることなどが認められるが,これらの事情は,被告人Aのために有
利に斟酌すべきである。
4被告人Aの一般情状
被告人Aには,前科前歴がなく,これまでに映画業界などで相応の成果を上げ
ていたほか,判示各犯行を行い,そのため一般投資家のほか,被告B会社従業員
ら関係者にも多大な迷惑をかけたことを反省する旨述べており,被告人Aの妻や
同被告人の知人も,情状証人として出廷した上,同被告人の更生に協力していき
たい旨述べていること,被告人Aは,本件により被告B会社の代表取締役を解任
され,その後,同社の取締役を辞任するなど,一定の社会的制裁を受けたことな
どが認められるが,これらの諸事情は,被告人Aのために有利に斟酌すべきであ
る。
5被告B会社の情状
被告B会社については,判示第2の犯行に係る会社としての責任を認めている
ほか,既に上場廃止となり,また,事業活動の継続に重大な支障が生じるなど,
社会的制裁を受けていること,被告人Aとの決別,経営陣の刷新等により再発防
止を期していることなど,有利に斟酌すべき事情が認められる。
6結論
そこで,以上諸般の事情をそれぞれ総合考慮の上,被告人Aについては,同種
事犯に関する量刑の一般的傾向も踏まえると,主文掲記の懲役刑及び罰金刑に処
した上で,その懲役刑の執行は猶予し,なお,上記のとおりの額を追徴すること
とし,また,被告B会社については,主文掲記の罰金刑に処することとした。
(求刑)
被告人Aについて懲役3年6月及び罰金300万円並びに追徴11億3804万
1500円,被告B会社について罰金3000万円
平成22年8月18日
大阪地方裁判所第11刑事部
裁判長裁判官岩倉広修
裁判官木山暢郎
裁判官佐藤敬弘

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛