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裁判例


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平成13年12月28日判決
平成9年(行ウ)第8号 損害賠償等請求事件(①事件)
同年(行ウ)第31号 損害賠償請求事件(②事件)
 主      文
        一 原告の請求をいずれも棄却する。
        二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
  一 ①事件
被告は,宇治市に対し,1億6501万9235円及びこれに対する平成
9年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  二 ②事件
    被告は,宇治市に対し,1億4323万1485円及びこれに対する平成
9年12月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 第二 事案の概要
本件は,京都府宇治市が別紙物件目録記載(1)ないし(5)の各土地(以下「本件土
地」という。)を購入したことに関して,宇治市長である被告が裁量権を濫用若し
くは逸脱して取得の必要性が認められない本件土地を不当に高額で買い受けたとし
て,宇治市の住民である原告が,宇治市に代位して,地方自治法242条の2第1
項4号に基づき,被告に対し,上記買受代金と上記買受当時の適正価格との差額相
当額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた住民訴訟である。
一 争いのない事実,並びに証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる
事実は,以下のとおりである。
1 原告は,宇治市の住民であり,被告は,平成8年12月19日以降,宇
治市長である。
   2 本件土地(合計地積3293.94平方メートル)は,かつてはA株式
会社若しくはその代表者である甲が所有していたものであるが,株式会社B(以下
「B」という。)が,平成7年10月16日,代金9億円で買い受けて条件付所有
権移転仮登記を経由し,平成8年1月24日,所有権移転登記を経由した。Bは,
同日,本件土地につき,株式会社第一勧業銀行を根抵当権者とする極度額14億円
の根抵当権設定契約を締結し,同日その旨の登記を了した。
   3 宇治市は,平成8年4月ころから,東宇治地域の市会議員らにより,本
件土地を東宇治地域福祉センター用地として購入するよう要望を受け,本件土地の
購入を検討するようになった。宇治市は,同年6月にも再度市会議員から要望を受
けたため,所有者であったBとの買い受けの交渉をすすめた。その結果,宇治市土
地開発公社(以下「開発公社」という。)が宇治市のために先行取得することとな
り,平成8年7月17日,開発公社が本件土地を代金9億8600万円(Bが前主
から購入した代金額9億円に,Bが支出した経費等8600万円を加算した金
額。)で買い受け,同月24日,その旨の所有権移転登記を経由した。
   4 原告は,平成8年12月13日,宇治市監査委員に対し,宇治市が開発
公社に本件土地を不当に高額で購入させたことにより損害を被ったことを理由とし
て,宇治市が開発公社から購入する価格が適正価格を上回らないよう十分に調査さ
れたい旨を宇治市長に勧告することを求める監査請求を行った。これに対し,同監
査委員は,平成9年1月31日付けで,請求人の主張は認められないと認定し,そ
の旨原告に通知した。
   5 被告は,平成8年12月19日,前市長である乙を継いで宇治市長に就
任した。
   6 宇治市は,開発公社から,平成9年1月20日,本件土地のうち西側に
位置する別紙物件目録記載(1)ないし(4)の土地(以下「本件土地A」という。地積
合計は1793.94平方メートル。)を代金5億4541万3925円で買い受
ける旨の契約を締結し(以下「本件契約1」という。),同月31日,同代金を開
発公社に支払い,更に,同年7月15日,本件土地のうち東側に位置する別紙物件
目録記載(5)の土地(以下「本件土地B」という。地積は1500平方メートル。)
を代金4億6199万7985円で買い受ける旨の契約を締結し(以下「本件契約
2」という。),同月31日,同代金を支払った。宇治市が開発公社から本件土地
を購入するに際しては,土地買収評価委員会の諮問や不動産鑑定士による鑑定評価
は経ていなかった。
   7 原告は,同年10月31日,改めて宇治市監査委員に対し,宇治市が開
発公社から本件土地を不当に高額で購入したことにより損害を被ったとして監査請
求を行ったが,同監査委員は,同年11月28日付けで,請求人の主張は認められ
ないと判断し,その旨原告に通知した。
  二 争点
    本件契約1及び本件契約2(以下「本件各契約」という。)につき,被告
の宇治市長としての裁量権の逸脱若しくは濫用があったといえるか。
  三 争点に関する当事者の主張
   1 原告の主張
 宇治市が開発公社に本件土地を先行取得させた当時,東宇治地域福祉センター建
設の計画は具体的には進んでおらず,建設立地の調査,物色等は全く行われていな
い状況であり,しかも,宇治市が開発公社から本件土地を購入した時点ですら,同
福祉センター建設用地として予定されていたのは本件土地Bのみであって,本件土
地Aについては取得に当たって具体的な使用目的は何らなく,現在,ようやく使用
目的が決まったのであるから,そもそも宇治市が本件土地を購入する必要性は乏し
かった。
 それにもかかわらず,被告は,宇治市長として,土地買収評価委員会の諮問や不
動産鑑定士による鑑定評価を経ることなく,適正価格を著しく上回る高額で本件土
地を購入した。したがって,被告が本件各契約を締結したことは,裁量権の逸脱な
いし濫用をしたものであって,違法である。
   2 被告の主張
本件土地は,宇治市が,平成3年9月策定した「宇治市長寿社会プラン(シャイ
ニングプラン)」とともに,平成6年3月策定した「宇治市老人保健福祉計画」に
基づき,建設を計画していた東宇治地域福祉センター用地を確保するために必要で
あることから,開発公社にBから先行取得させたうえで,開発公社から購入したも
のである。宇治市は,購入後,本件土地Bを同福祉センター施設用地として,本件
土地Aを同福祉センター来客用の駐車場,センター敷地,市道拡幅地としてそれぞ
れ活用している。本件土地は,もともと一体の土地としてBがパチンコ遊戯場用地
として計画していたものであり,これを中止させて宇治市が購入したという事情が
あるから,本件土地のうちの本件土地Bのみを分割して購入することは困難であっ
たし,また,開発公社が先行取得した当時は,同福祉センター敷地の位置や面積は
具体的に決まっていなかったから,本件土地を一体として購入したことには合理的
理由があった。宇治市は,本件土地を購入する際,土地買収評価委員会の諮問や不
動産鑑定士による鑑定評価を経ていなかったが,宇治市の都市整備部用地課職員が
土地価格算定書(乙22)を作成し,同算定書や周辺土地の取引事例等を参考にし
て本件土地の購入価格を決定したものであり,その購入価格は,適正価格を多少上
回るものの,適正価格と比較して著しく高額とはいえない。
 したがって,被告が本件各契約を締結したことにつき,裁量権の逸脱ないし濫用
があるとはいえない。
 第三 当裁判所の判断
一 前記第二の一の事実に,甲1ないし21(枝番を含む。),乙1ないし59
(枝番を含む。),鑑定人丙の鑑定の結果,A株式会社に対する調査嘱託の結果,
証人丁,同戊,同己,同庚,同丙,同辛の各証言(以下「本件各証拠」という。)
及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
1 Bは,前記のとおり,平成7年10月16日,パチンコ店を開設する目的で本
件土地を購入し,平成8年1月24日,その旨の所有権移転登記を経由した。
2 宇治市は,平成3年9月に「宇治市長寿社会プラン(シャイニングプラン)」
を,平成6年3月に「宇治市老人保険福祉計画」をそれぞれ策定し,デイ・サービ
ス事業や入浴・食事サービス事業などができる地域福祉センターを,平成11年度
を目途に,市内に計5館設置する旨の構想を掲げてきた。
 そして,平成6年8月ころから,宇治市内の三室戸学区や南部学区といった東宇
治地域の福祉委員会は,宇治市や宇治市議会に対し,東宇治地域に地域福祉センタ
ーを建設してほしいとの陳情をしてきた。それは,当時,宇治市内にはすでに3館
の地域福祉センターがオープンしていた(敷地面積はいずれも約1500平方メー
トルであった。)が,東宇治地域には未だ地域福祉センターが存在しないことによ
るものであった。
3 こうした中で,平成8年3月15日,宇治市議会副議長己をはじめとする東宇
治地域の市会議員らは,本件土地の所有者であるBに出向き,本件土地が地域福祉
センター用地として適切であることを理由に,本件土地を宇治市に売却するよう申
し入れた。
 そして,同年3月28日,同年4月3日及び同年4月11日には,前記己をはじ
めとする東宇治地域の市会議員らは,乙に対し,東宇治地域にある本件土地上に,
宇治市として4館目の地域福祉センターを建設するよう要望し,更に,同年6月1
3日,地元地域の議員が,同市長に対し,そろって同様の要請をした。
 同市長は,是非とも本件土地に地域福祉センターを建設してほしいとの東宇治地
域の多くの人々の強い要望と熱意を受け,土地所有者と折衝を始めたいと回答し
た。
4 宇治市は,将来本件土地を購入する可能性があることから,都市整備部の前壬
係長が,財政課から依頼を受けて,同年3月19日付けで本件土地に関する土地価
格算定書を作成していた。同算定書によると,同年4月1日の時点における本件土
地の1平方メートル当たりの価格は27万2000円であり,本件土地全体の価格
は約8億9600万円(27万2000円×3293.94)であった。
5 平成8年6月28日,宇治市の都市整備部の職員らが,用地協力のため,Bを
訪問した。そのころ,Bは,すでに本件土地上にパチンコ店を建設する設計に入っ
ており事業計画を持っていたが,協力の方針で検討するとの回答であった。
 平成8年7月8日,Bとの再度の折衝において,Bは,「購入した土地代にそれ
までに要した経費を加算した額であれば協力する」との条件を提示した。
 しかし,実際は,Bは,平成8年5月24日に都市計画法が改正されて「準住居
地域」と「第1種住居地域」に分けられ,後者の地域ではパチンコ店は建築しては
ならないとされ,本件土地のうち約6割の部分が第1種住居地域となったため,そ
もそも本件土地でパチンコ店を開業することは困難な状況になっていた。
6 宇治市職員は,Bから,土地売買契約書及び領収書,諸費用の領収書等の提示
及び内容の説明を受け,Bが購入した土地価格が用地課職員が算定した土地評価額
と近似する9億円であり,本件土地を購入したことによる経費(仲介手数料,司法
書士報酬,売買・担保設定に伴う登録免許税,固定資産税,借入金利息,測量その
他調査費,設計費用,不動産取得税,銀行借入印紙代金及び諸経費の合計額)が8
600万円であるとの報告を受けた。
7 宇治市は,結局,Bから本件土地を取得する方針を固めたが,そのための予算
措置を直ちに講ずることができなかったため,開発公社に本件土地の先行取得を要
請することになった。
8 宇治市では,宇治市附属機関設置条例に基づき,土地買収評価委員会が設置さ
れており,同委員会は,土地買収に関する重要事項について市長の諮問に応じ,意
見を答申する事務を取扱っており,市長は,買収予定地の評価等について適宜諮問
にかける扱いをしてきた。しかし,宇治市においては,平成8年7月10日ころ,
すでに前記の土地価格算定書が作成されていたこと,同委員会の諮問を経ていると
多額の借入金利息分が購入価格に加算される状況にあったことなどから,同委員会
への諮問はしないことを決定した。
9 宇治市は,平成8年7月16日までに,開発公社に対し,本件土地を9億86
00万円で購入することを要請し,開発公社は,この要請を受けて,翌17日,B
から本件土地を代金9億8600万円で購入した。
10 ところで,宇治市と開発公社との間では,昭和49年6月1日,「宇治市と宇
治市土地開発公社との間における基本契約」が締結されており,開発公社と宇治市
は表裏一体となり各種事業を宇治市の要請に基づいて実施すること,開発公社が取
得した土地等を別途物件引渡価額約定書に基づいて算出した金額をもって他に優先
して宇治市に売却しなければならないことが規定されており,また,両者で同日付
けで締結された約定書においては,開発公社が宇治市の要請に基づいて先行取得し
た公共の用に供する土地の引渡価額について,開発公社が宇治市に引き渡す土地の
価額は,(1)土地の取得価額,(2)土地に関する所有権以外の権利にかかる補償
費,(3)地上物件移転に要した補償費,(4)土地の造成に要した経費,(5)土地改良区
等に対する決済金,(6)その他土地を取得するために要した補償費,(7)土地を取得
したときから引き渡すまでの間に当該土地の管理に要した経費,(8)(1)ないし(7)の
経費支弁に充当した利子を伴う資金の利息,以上の合算額とする旨規定され,更
に,宇治市は,開発公社に対し,上記(1)ないし(7)までに要した経費の100分の
2相当額以内を事務委託料として納付する旨,それぞれ規定されていた。
11 宇治市は,平成8年7月17日の時点では,本件土地に東宇治地域福祉センタ
ーを建設すること自体はすでに計画決定していたものの,同福祉センターを,本件
土地のいかなる位置に,どの程度の規模で建設するかについては,未だ具体的な計
画を立てていなかった。
12 宇治市が,その後,平成8年10月ころ,本件土地Bに,1500平方メート
ルの面積で東宇治地域福祉センターを建設することを計画し,同月3日,宇治市議
会定例会において,議案第56号平成8年度宇治市一般会計補正予算(第2号)に
債務負担行為の補正として「(仮)東宇治地域福祉センター用地購入事業」を計上
し,市議会の議決を得た。
13 宇治市は,平成8年11月27日付けで「(仮称)東宇治地域福祉センター建
設事業基本計画」を策定し,本件土地Bに鉄筋コンクリート造2階建ての福祉セン
ターを建設することを具体的に計画決定した。
14 被告は,平成8年12月19日,宇治市長に就任した。被告は,それ以前は,
宇治市長ではなかったので,開発公社に対する本件土地の先行取得の要請やそれに
関する市長の行為には関与していなかった。
15 被告は,宇治市長として,開発公社との前記の基本契約等に基づき,開発公社
から,平成9年1月20日,本件土地Aを,宇治市土地開発基金(宇治市土地開発
基金設置条例〔昭和44年10月3日条例第24号〕により設置された基金)の代
金5億4541万3925円で買い受ける旨の本件契約1を締結し,同月31日,
同代金を宇治市土地開発基金から支出して開発公社に支払い,現在,宇治市土地開
発基金の財産として保有している。
16 宇治市では,同年3月28日,同年3月宇治市議会定例会において,議案第1
5号平成9年度宇治市一般会計予算に,東宇治地域福祉センターの建設用地購入費
を公有財産購入費として,また,建設工事費を工事請負費として計上し,いずれも
市議会の議決を得た。
17 そこで,被告は,宇治市長として,同様に,開発公社から,同年7月15日,
本件土地Bを代金4億6199万7985円で買い受ける旨の本件契約2を締結
し,同月31日,同代金を一般会計予算から支出して支払った。
18 その後,本件土地Bに東宇治地域福祉センターが建設された。同センターは,
財団法人宇治市福祉サービス公社が宇治市の委託を受けて運営している施設であ
り,平成10年4月1日にオープンし,市が平成6年3月に策定した「宇治市老人
保健福祉計画」に基づき,デイサービス事業,入浴・食事サービス事業等を行って
いる。
 他方,本件土地Aは,宇治市が購入後,暫くの間,福祉センターの来客者用の駐
車場用地やセンター敷地の一部,更にはa(市道)の拡幅地として利用されてきた
が,建物は建築されていない。
19 本件土地は,宇治市が購入した後,利用状況に合わせるべく複数に分筆され,
現在では,①東宇治地域福祉センター用地として2筆1591平方メートルの部分
が,②同センターへの進入道路の拡幅用地として5筆93.32平方メートルの部
分が,③同センターへの利用者並びに同センターの職員の駐車場用地として4筆1
607.64平方メートルの部分が,それぞれ区分利用されている。
 上記駐車場用地には,自動車約40台分の駐車スペースが確保されており,その
うち12,3台分は同福祉センターの職員が1か月5000円の利用代を支払って
駐車場として使用しており,残りの部分については同福祉センターを利用する住民
が1日平均7,8台分の駐車スペースを使用している。ただし,同福祉センターに
おいて月に数回開催される集会の日や,リハビリ事業が実施される日には,上記駐
車場用地は,同福祉センターを訪れる住民の自動車でほぼ満杯になる。
20 なお,宇治市議会は,平成13年3月29日,上記駐車場用地を青少年センタ
ー用地として利用する第4次総合計画基本構想を承認可決し,将来,同地には宇治
市が3館目の青少年センターを建設する予定となった。
二 前記の事実関係の下で,争点について判断する。
1 地方公共団体の経費は,その目的を達成するための必要かつ最小の限度を超え
て支出してはならないとされており(地方財政法4条1項),これに反して,地方
公共団体が全く不必要な財産を取得したり,高額過ぎる対価を支払って財産を取得
することが,違法な財務会計行為となることがあるのは明らかである。特に,地方
公共団体が土地を取得する場合には,地価は上昇したり,或いは下落したりするの
が現状である以上,地方公共団体としては,取得価格がその当時の適正価格をでき
るだけ上回ることのないよう,必要性の程度も考慮して,できるだけ安価に取得で
きるように最善の努力をすべきものというべきである。ただし,他方,地方公共団
体が,様々の行政目的をもって,その必要上土地を取得しようとする場合,法律上
強制買収をすることができないときは,そもそも買取ることができるかどうか,ど
れだけの代金額で買取ることができるかは,相手方,すなわち売主の意向が大きく
反映されるものであることも否定できず,場合によっては,当該土地の取得を断念
せざるを得ない場合,買取ることは可能ではあってもその価格が適正価格を上回る
こととなる場合も容易に想定される。
 したがって,地方公共団体が土地を取得するかどうか,いくらの代金で取得する
かは,原則として,それを決定する権限を有する長の政策的ないし合目的な裁量判
断に属する事項であり,それらが地方財政法4条の観点から違法となるのは,単に
取得した代金額が経済的な適正価格を上回ったり,必要性については疑問があると
いうだけでは足りず,当該土地を取得する具体的な行政目的,取得の必要性,相手
方との交渉の経緯,その時の経済情勢等に照らして,上記の決定権限を有する長が
その裁量の範囲を逸脱し,権限を濫用した場合に限られると解するのが相当であ
る。
 そして,地方公共団体がその土地開発公社に不動産の先行取得を要請し,これに
応じて土地開発公社が先行取得した不動産をその地方公共団体が購入する場合にお
いては,前記の判断の対象となるのは,同公社から地方公共団体が購入する行為だ
けでなく,同公社との基本的な約定等によっては,地方公共団体が同公社に先行取
得を要請する行為自体も併せてその対象とすべき場合があるものと解するのが相当
である。なぜなら,そのような場合の地方公共団体と同公社との購入契約は,すで
に同公社に先行取得を要請したことにより,後に地方公共団体がそれを購入するか
どうかの決定,代金をいくらにするかの決定が法律上も制約を受ける関係になる場
合があるからである。
2 また,前記第二の一及び第三の一の事実関係によると,確かに,宇治市が開発
公社に本件土地の先行取得を要請した当時において,宇治市として,本件土地を購
入する必要性がどれほどあったのか,特に,Bは本件土地を使用してパチンコ店を
開店することは困難な状況になっていたのであり,そのような土地を果たしてBの
取得価格を前提とした代金で取得する必要性があったのかどうか(本件各証拠によ
れば,同社は,前主から本件土地を購入する際,極度額14億円の根抵当権を設定
しており,本件土地でパチンコ店を開業できない以上,利息の増加により本件土地
を早期に売却処分せざるを得ない状況に追い込まれていたことも推測できる。),
しかも,周辺土地も含めて地価の下落傾向が継続する状況の下で,その当時に購入
すべきであったのか,更には,本件土地を一体として取得するのではなく,粘り強
い交渉により,本件土地の一部を分割して購入することもできなかったのか等,不
可解な点も窺われるものといわざるを得ない。また,本件土地Aについての利用状
況は,前記のとおりであって,青少年センター用地としての利用は,ようやく平成
13年3月に至って決定されたものである。
3 しかしながら,上記の事実関係の下では,宇治市では,かねてから,地域福祉
センターを平成11年度を目途に市内に計5館建設する旨の構想を掲げてきたもの
で,また,平成6年8月ころからは,未だ地域福祉センターがなかった東宇治地域
に同センターを建設してほしいとの陳情があったもので,更にその後の経過等をも
考慮すると,上記のような不可解な点や当不当の問題は窺われるものの,当時,宇
治市において,東宇治地域福祉センター用地として本件土地を購入する必要性も一
応はあったものということができる。
4 そして,次に,本件土地の価格についてみると,本件土地の価格について,被
告が援用する不動産鑑定士丁作成の評価書(乙30の2,本件不動産の価格を,平
成8年7月17日時点で9億1077万4000円,平成9年1月20日時点で8
億9219万4000円,同年7月15日時点で8億7343万2000円として
いる。)によらずに,鑑定人丙の鑑定の結果によるとしても,平成8年7月17日
当時の本件土地の適正な時価は7億6850万円,平成9年1月20日当時の本件
土地の適正な時価は7億3780万円,平成9年7月15日当時の本件土地の適正
な時価は7億1570万円であるというのであり(なお,同鑑定には,対象不動産
の評価額の算定の基礎とすべき数値や事情の取捨選択,評価の手法及びその判断の
過程に,特に不合理な点や不相当な点は見られない。),この価格を基準にして
も,開発公社が本件土地を先行取得した代金は,この価格の約1.283倍であ
り,更に,宇治市が本件土地Aを購入したときの売買価格は約1.36倍,宇治市
が本件土地Bを購入したときの売買価格は約1.42倍となる。
5 そうすると,上記のとおり,本件土地の購入の必要性に関しては不可解な点が
窺われるのではあるが,その購入の必要性も一応はあったもので,その購入価格
は,開発公社が取得した時点でも,本件各契約の時点でも,やや高額であるとはい
えても,いずれも,著しく高額に過ぎるものとまではいえないことは明らかであ
る。そして,他に,宇治市に対して何らかの不正な働きかけがあったこと等の特段
の事情についての立証もない。
 そうすると,市長には広範な裁量権があるとの前記1のとおりの判断によれば,
結局,本件土地の開発公社への先行取得の要請も,本件各契約の締結行為もいずれ
も,宇治市の市長の裁量の範囲内の行為であって,権限を濫用したとまでの立証は
ないといわざるを得ず,違法であるとまではいえないというべきである。
6 のみならず,前記第二の一及び第三の一の事実関係によれば,被告が市長にな
ったのは,平成8年12月19日であって,その時点では,すでに,宇治市から開
発公社への本件土地の先行取得の要請がされ,開発公社の取得も完了していたもの
で,宇治市と開発公社の前記の約定によれば,被告としては,その後は,同約定に
従って本件各契約を締結することが義務付けられていたのではないかとみる余地も
あり,そうであるとすると,原告が主張するような違法事由を理由に被告に責任を
問うことはそもそもできないことになる。
三 結論
 以上によれば,原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴
訟費用の負担につき行訴法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決す
る。
    京都地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官  八  木  良  一
裁判官  飯  野  里  朗
裁判官  秋  吉  信  彦

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