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平成15年(行ケ)第250号 審決取消請求事件(平成15年9月17日口頭弁
論終結)
判    決
    原    告       特定非営利活動法人全日本健康自然食品協会
   同訴訟代理人弁理士    三 嶋 景 治
   被    告      特許庁長官 今井康夫
    同指定代理人       金 子 尚 人
    同            伊 藤 三 男
    同            涌 井 幸 一
   主    文
   1 原告の請求を棄却する。
   2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の請求
 1 特許庁が不服2001-15534号事件について平成15年4月22日に
した審決を取り消す。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2前提となる事実(争いのない事実)
1特許庁における手続の経緯
 原告は、平成12年4月13日、「食養士」の文字(標準文字による。)を
書してなり、指定役務を商標法施行規則別表(以下「別表」という。)第41類
「健康自然食品や栄養補助食品についての知識の指導・助言・教授」(以下「本件
役務」という。)とする商標(以下「本願商標」という。)について、商標登録出
願(商願2000-39187号)をしたが、拒絶査定を受けたので、平成13年
9月3日、これに対する不服の審判の請求をした。
 特許庁は、同請求を不服2001-15534号事件として審理した上、平
成15年4月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本
件審決」という。)をし、その謄本は、同年5月19日、原告に送達された。
 2 本件審決の理由 
 本件審決は、別紙審決書の写し(以下「審決書」という。)記載のとおり、
本願商標が、商標法4条1項7号(公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある
商標)に該当するとして、これを登録することはできないとしたものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 本件審決は、本願商標が、「栄養士」と誤認混同されるおそれが認められな
いにもかかわらず、これを肯定した上、本願商標が公序良俗に反するおそれがある
商標に該当すると誤って判断した(取消事由)ものであるから、違法として取り消
されるべきである。
 1 末尾に「士」の付された名称の意義等
(1) 本件審決は、「末尾に「士」の付された語の通常の意味は、・・・「一定
の資格・役割をもった者」、「特別の資格・職業の人」などといったものであり、
その用語例として、「弁護士」、「栄養士」・・・等が挙げられている・・・一般
国民は、末尾に「士」の付された名称に接した場合、一定の国家資格を付与された
者を表していると理解することが多い」(甲1第1頁末行~2頁28行)と認定判
断する。
  しかし、末尾に「士」が付く語は、必ずしも「資格者」だけを意味しな
い。日常会話や生活において「士」の付く語を使用した場合、大多数の国民が、一
定の国家資格を付与された者として理解するという根拠はない。例えば、「武士」
「力士」「紳士」「藩士」「騎士」「同士」「三銃士」等の語を、国家資格者であ
ると認識する者は皆無である。また、「士」自体を末尾に付することが、法律で禁
止され、あるいはその使用が制限されている事実はない。
  実際に、本願商標と同様に末尾に「士」を有してなる商標が、本件役務と
同じ第41類において、「和裁士」(第3132108号)、「保険管理士」(第
3317231号)、「健康管理士」(第4284656号)、「日本綜合医学会
食養指導士」(第4348217号)、「建物鑑定士」(第4568281号)等
多数登録され使用されている。このような事情から判断すると、語尾部の「士」か
らは、単純に「国家資格者」ではなく、「もののふ、さむらい、学徳を修め敬重す
べき地位にある人」等の意味合いが認識されるものとみるのが合理的である。そし
て、このような先行登録例の存在は、本件審決の認定判断を否定するものであり、
本願商標が国家資格制度の秩序を害するおれがあるものと認められない根拠となる
ものである。
(2) また、原告名義で本願商標と同一の商標「食養士」が、第4063471
号(別表第5類)、第4190625号(同第42類)、第4289547号(同
第29類)、第4289548号(同第30類)、第4289549号(同第31
類)、第4289551号(同第32類)、第4507416号(同第16類)と
して登録が認められており、各指定商品及び役務に使用され、一般取引者需要者に
提供されているが、これらの登録商標は、国家資格を認識看取させるものではない
と認定判断されたと推察できる。本件役務において、本願商標が「国家資格」と理
解している者が多いとするなら、前記各商標が何故に登録されたのか、極めて不合
理である。
  そして、特許庁が、このような先行登録例を無視するのであれば、審査基
準に基づき登録された従前の登録例を指針とする一般国民の信頼を、自ら破棄する
こととなり、特許庁自らが資格制度の秩序を乱し、公共の利益を害する結果となる
から、到底、首肯し得ない。
 2 「栄養士」の活動
 本件審決は、「厚生労働省所管の資格制度として上記にも示した「栄養士」
というものがあり・・・その活動範囲の一つである病院において、食餌療法等を行
う「食養科」「食養内科」と称する診療科を設けている実情がある。そうすると、
本願商標である「食養士」に接する需要者、取引者は、公的職業資格である「栄養
士」のほかに、当該医療に関連した公的職業資格があるかの如く誤信される場合が
あることは否定できない」(甲1第2頁30行~3頁2行)と判断している。
 しかし、そもそも「栄養士」の限られたその活動範囲を知る者はそれほど多
くはなく、その活動範囲が一般に宣伝広告され普及している特段の事情は認められ
ない。しかも、一般の病院には、当該診療科が必ずあるかのように実情を指摘され
ているが、その根拠はなく、一般大多数の病院に当該診療科があることは知られて
いない。
 これに対し、本願商標の「食養士」は、「栄養」のみを問題とするのではな
く、食の安全・食材の環境等についての知識、情報等について指導・助言・教授を
行うものである。
 したがって、本願商標が、本件役務である「知識の指導・助言・教授」に使
用されたとしても、「栄養士」、あるいは当該医療に関連した者であるかのように
誤信されるおそれは、全く認められないものである。なお、栄養士法6条1項
は、「栄養士」又はこれに類似する名称の使用を一般的に禁止するものではない。
3 原告による本願商標の使用
  原告は、その名称に示すように、「健康自然食品」を取り扱う業者の集まり
であり、平成14年3月7日に「特定非営利活動法人」の資格を得たものである。
  そして、原告は、その法人の「目的」である、「健全で伝統的な食生活を通
して、健康で豊かな社会を望む者に対して、それら食材の生産される環境の保全を
目的とし、正しい食の思想と実践の普及や情報の提供を行い、それらを通して国民
の健康や環境の保全に寄与する」ための事業として、①情報提供、②講演会、③人
材の育成を行うために、「食養士」の商標を採択して出願し、権利確保を図ったも
のであり、実際に1999年1月より現在まで、「養成講座」を開催し人材育成の
端緒としている。原告は、近い将来、法整備と主務官庁による許認可を得た上、
「食養士」「管理食養士」の名称での運用を予定しているものである。
  そうすると、仮に、本願商標を本件役務を指定役務として商標登録すること
が、社会公共の利益を図る見地から、「穏当ではない」とされると、原告が独自に
創造採択した商標「食養士」について、本件役務における第三者の自由無差別、無
責任な使用を結果的に許すこととなり、公益的な非営利法人である原告の管理が及
ばず、かえって、本件審決が指摘するように「国家資格制度」の秩序を乱し、社会
公共の利益を害する結果を助長することになる。
 4 商標としての誤認のおそれ等
   本願商標の「食養」の文字は、原告が創造し採択した造語であり、特定の意
味合いが認識されるものではなく、必ずしも「食事」と「栄養」の両者を表現する
文字又は言葉でもない。もちろん、一般日常会話で「食事」と「栄養」とを表現す
るものとして多用されている文字又は言葉でもなく、特定商品取引業界において
「食事」と「栄養」とを表現する言葉として、一般取引者需要者において使用され
ている事実も認められない。また、商標の類否判断において、語頭の「食」と
「栄」との相異は、明確に認識看取することができる。
   したがって、「食養士」と「栄養士」とを対比すると、一般取引者需要者
は、その外観、称呼、観念において誤認混同するおそれは認められず、容易に区別
されるものである。
第4 被告の反論の要点
   本件審決の認定・判断は正当であり、本件審決に原告主張の違法はない。
 1 末尾に「士」の付された名称の意義等
 原告主張のとおり、「武士」、「力士」、「紳士」等のように末尾に「士」
が付く語が、必ずしも国家資格者であると一般の国民が認識しないことを否定する
ものではないが、本件審決で述べた事情(甲1第1頁末行~2頁26行)の下で
は、一般の国民は、末尾に「士」の付された名称に接した場合、一定の国家資格を
付与された者を表していると理解することが多いというべきである。
 2 「栄養士」の活動
(1) 国家資格である「栄養士」が一般の国民の間で知られていることは、栄養
士法1条1項に規定されたその業務内容からみて首肯し得るばかりでなく、例え
ば、栄養士、管理栄養士を毎年多数にわたり育成している専門学校や大学・短期大学
を紹介した書籍においてその内容を紹介している事実、病院の職員募集の新聞折り
込みちらしにおいて、「管理栄養士」とともに「栄養士」の募集が掲載されている
事実、一般新聞記事においても、「栄養士」の職業が紹介されている事実からみて
も、容易に推認することができる。
  また、多数の病院において、「食養科」、「食養内科」を設置しているこ
とが、インターネットの各ホームページで確認できるものであり、このうち幾つか
の病院では、当該「食養科」に「栄養士」を配置していることも確認できる。
  なお、栄養士法では、栄養士・管理栄養士又はこれらに類似する名称を用
いて、同法1条所定の業務を行うことを禁止しており(同法6条)、その罰則につ
いても規定されている(同法8条3項、4項)。
(2) 原告は、語尾に「士」を有してなる商標の登録例及び原告所有の「食養
士」の登録例を挙げ、本件審決の不合理を主張するが、特許庁では、「国家資格等
を表す又は国家資格等と誤認を生ずるおそれのある商標(「××士」「××博士」
等)」の商標登録出願について、平成12年8月に取扱いを定め、これを商標審査
便覧に掲載し、公表しているところである。そして、国家資格等と一見紛らわし
く、一般の国民に誤認を生じさせるおそれのある商標は、国家資格に対する一般の
国民の信頼性を損なうものであり、社会公共の利益に反するものとして、その出願
を拒絶することとする上記特許庁の取扱いは、今日の我が国の取引社会の実情及び
需要者の利益の保護を併せ考えれば、極めて妥当なものである。
  本件審決は、我が国の取引社会の実情等を踏まえ、本願商標を商標法4条
1項7号に該当すると認定判断したものであり、その判断過程において、過去の登
録例に拘束されるものではないから、過去の登録例の存在をもって、本件審決を不
合理とする原告の主張は失当である。
3 原告による本願商標の使用
 原告が「健康自然食品」を取り扱う業者の集まりであって、「特定非営利活
動法人」の資格を得たものであること及びその法人の「目的」、並びにこの目的に
沿って原告主張のような活動を行っていることは認める。しかし、一般の国民にと
って「食養士」の語自体馴染みの薄いものであり、まして、食養士や管理食養士が
どのような活動をしているか、「栄養士」、「管理栄養士」とどのように違うのか
などについての知識を有するものとはいえず、例え一部の者が知っているとして
も、それは国民全体からすればわずかであり、周知度において「栄養士」、「管理
栄養士」と比較にならない相違があるというべきである。
4 商標としての誤認のおそれ等
 「食養」の語は、一般の国民の間で親しまれた語であるとはいい難いが、例
えば、国語辞典において「適切な食物を選んで摂取し、病気を治療すること。食養
生。食餌療法。」(乙22)と記載され、また、食品や健康に関する辞典におい
て、「食餌によって健康を保持増進すること。これが理論を研究して実際に講ずる
学を食養学という。」等(乙23~25)と記載されている。さらに、一般新聞に
おいても、随時、「食養(食事)」、「食養篇」等と記載がなされ、決して原告の
造語とはいえない。
  一方、「栄養」の語は、「生物が外界から物質を摂取し代謝してエネルギー
を得、またこれを同化して生長すること。また、その摂取する物質。」(乙28)
を意味するものであって、前記した「栄養士」、あるいは「栄養価」、「栄養失
調」などのように日常的に使用され、一般の国民の間でよく知られている語であ
る。
  そうすると、「食養」と「栄養」の語は、いずれも「(人間についてみれ
ば)食物を摂取して人体に作用する」という点において極めて近似しているものと
いえる。
  しかも、一般の国民の間において、国家資格である「栄養士」はよく知られ
ているのに対し、「食養士」は馴染みが薄いものであり、加えて、「食養士」と
「栄養士」の文字は、「養士」の文字を共通にし、わずかに語頭の「食」と「栄」
の文字の差異を有するにすぎないから、外観においても、相紛らわしいものであ
る。
第5 当裁判所の判断
 1 末尾に「士」の付された名称の意義等について
(1) 原告は、本件審決が、「末尾に「士」の付された語の通常の意味
は、・・・「一定の資格・役割をもった者」、「特別の資格・職業の人」などとい
ったものであり、その用語例として、「弁護士」、「栄養士」・・・等が挙げられ
ている・・・一般国民は、末尾に「士」の付された名称に接した場合、一定の国家
資格を付与された者を表していると理解することが多い」と認定判断した点につい
て、末尾に「士」が付く語は、必ずしも「資格者」だけを意味せず、日常会話や生
活において「士」の付く語を使用した場合、大多数の国民が、一定の国家資格を付
与された者として理解するという根拠はないと主張する。
  しかしながら、本件審決は、末尾に「士」が付く語が、必ず「資格者」だ
けを意味すると述べるものではないから、この点に関する原告の主張は、本件審決
を曲解するものであって採用の余地はない。
  また、本件審決は、「末尾に「士」の付された名称の中で、一般国民にと
って接する機会が多く、一般国民にとって知られている度合の大きいものの多く
は、上記「弁護士」、「栄養士」、「公認会計士」、「学士」をはじめ、税理士、
建築士、不動産鑑定士、土地家屋調査士、司法書士、行政書士など国家資格に係る
ものであり・・・、しかも、その状態が古くから続いてきていることは、当審おい
て顕著である。また、末尾に「士」が付された名称のうち、国家資格に係るもの
は、国家が、公共の福祉その他政策上の目的のために、国民の職業選択の自由を制
限してでも、一定の能力を有すると判定された者に限って一定の地位ないし権限を
付与する必要があると認めて法令をもってそのように定めたものであり、そのため
に、国家資格を伴う地位ないし権限は、必然的に対世的かつ排他的なものとなる。
これに対して、民間資格は、上記のような必要に基づくものでも、法令に根拠を有
するものでもなく、対世的かつ排他的な地位ないし権限の付与を伴うものでもな
い。このように、国家資格と民間資格とでは、一般国民に対して現実に果たしてい
る役割の重要性において比較にならない相違がある。」(甲1第2頁8~2
6行)と認定判断しているところ、この説示は、末尾に「士」が付された名称に
は、国家資格に係るものと民間資格に係るものがあることを前提とした上で、法令
等に基づいて付与される国家資格は、社会的に重要な役割を果たしているものであ
り、「士」が付された名称のうち一般国民に広く認識されているものの多くが国家
資格であることを示すものであり、正当な指摘と解される。
  したがって、このような事情の下に、「一般国民は、末尾に「士」の付さ
れた名称に接した場合、一定の国家資格を付与された者を表していると理解するこ
とが多いとするのが相当である。」(甲1第2頁27~29行)と判断したことも
正当であり、この点に関する原告の上記主張も採用することはできない。
(2) また、原告は、本願商標と同様に末尾に「士」を有してなる商標が、本件
役務と同一の第41類において多数登録されているから、本願商標が国家資格制度
の秩序を害するおれがあると認められない根拠となると主張する。
  しかしながら、本件審決は、本願商標が、単に末尾に「士」を有している
ことにより、公序良俗に反するおそれがある商標に該当すると判断したものではな
く、重要な国家資格の1つである「栄養士」の存在を前提として、本願商標がこれ
と誤信されることなどを理由に商標法4条1項7号に該当すると認定判断したもの
である(この認定判断が正当であることは、後記説示のとおりである。)から、原
告の上記主張は、その前提において誤解があり、これを採用する余地はない。
(3) さらに、原告は、原告名義で本願商標と同一の商標「食養士」が、別表第
5類、第16類、第29類、第30類、第31類、第32類及び第42類を指定商
品又は指定役務としても登録が認められているにもかかわらず、本願商標が登録を
認められないのは不合理であると主張する。
  ある商標が特定の指定商品又は指定役務で登録される一方で、同一の商標
が、異なる指定商品又は指定役務の分野で公序良俗に反するおそれがある商標に該
当すると判断され、その登録が拒絶されることは、拒絶の理由が当該指定商品又は
指定役務に関連するものでない限り、不統一な取扱いというほかない(なお、本願
商標が本件役務において公序良俗に反するおそれがある商標に該当すると判断され
たことが、他の指定商品又は指定役務において登録が認められた当該各商標に影響
を及ぼすものであるか否かは、本件訴訟の判断の対象外のことといえる。)。しか
しながら、商標の登録に当たってより一層重要なことは、当該商標が、実際に公序
良俗に反するおそれがある商標に該当するか否かであり、同一の商標が他の指定商
品又は指定役務において既に登録されているとしても、そのことを理由に、当該商
標が有する反社会性・反公益性を無視して、公序良俗に反するおそれがないと判断
することは、到底、許されることではない。
  したがって、原告の上記主張は、採用することができず、本願商標が公序
良俗に反するおそれがあるか否かを進んで判断することとする。
 2 「栄養士」の活動について
   原告は、「栄養士」の活動範囲を知る者はそれほど多くはなく、その活動範
囲が一般に宣伝広告され普及している特段の事情は認められず、一般の大多数の病
院に当該診療科があることは知られていないと主張する。
   しかしながら、「栄養士」の社会的役割やその職務の内容等については、毎
年多くの入学者を募集する大学・短期大学・専門学校を紹介した書籍において、将来
取得できる国家資格の1つとして掲載されており(乙1、2)、また、病院職員の
求人募集の広告でも、「栄養士」の資格が頻繁に掲載されている(乙5ないし7)。
そのほか、一般の新聞記事においても、「栄養士」やその職務の内容が紹介されて
いる(乙10)。これらの事実からみて、「栄養士」の存在及びその活動内容は、
一般に宣伝広告され広く普及しているものと認められ、また、「栄養士」が栄養の
指導に係わる国家資格として、国民にとって周知であることは、裁判所にとっても
顕著な事実であるといえる。
   さらに、ホームページを介して検索すると、千葉市立海浜病院、東京都済生
会中央病院、市立宇和島病院(愛媛県宇和島市)、中電病院(広島市)、社会福祉
法人多摩済生病院(東京都)及び有隣病院(東京都)において「食養科」を、松井
病院(東京都)及び小野木医院(千葉県市原市)において「食養内科」を、それぞ
れ設置しており、このうち千葉市立海浜病院及び中電病院においては、当該「食養
科」に「栄養士」を配置していることが認められる(乙15~21)。このことか
らみて、一般の病院において、通常の内科・外科というほど周知ではないとして
も、「食養科」及び「食養内科」がある程度普及しているものと解するのが相当で
ある。
 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
 3 原告による本願商標の使用について
 原告が、「健康自然食品」を取り扱う業者の集まりであって、「特定非営利
活動法人」の資格を得たものであること、その法人の「目的」である、「健全で伝
統的な食生活を通して、健康で豊かな社会を望む者に対して、それら食材の生産さ
れる環境の保全を目的とし、正しい食の思想と実践の普及や情報の提供を行い、そ
れらを通して国民の健康や環境の保全に寄与すること」に沿って事業を遂行するた
め、「食養士」を採択して商標出願し、権利確保を図ったものであることは、いず
れも当事者間に争いがない。
 しかしながら、原告及びその活動内容において、上記のように私的な利益の
追求を目的としない面があるとしても、出願しようとする商標自体が公序良俗に反
するおそれがある場合に、その登録が許されないことはいうまでもない。
 原告は、本願商標の登録が許されないと、第三者の自由無差別、無責任な使
用を結果的に許すこととなり、公益的な非営利法人である原告の管理が及ばず、か
えって、本件審決が指摘するように国家資格制度の秩序を乱し、社会公共の利益を
害する結果を助長すると主張する。
 しかしながら、栄養士法においては、「栄養士とは都道府県知事の免許を受
けて、栄養士の名称を用いて栄養の指導に従事することを業とする者をいう。」
(同法1条1項)、「栄養士でなければ、栄養士又はこれに類似する名称を用いて第
1条第1項に規定する業務を行ってはならない。」(同法6条1項)と規定される
と同時に、その罰則についても規定(同法8条3項)されている。したがって、後
記説示のとおり「栄養士」に類似する「食養士」の名称を使用することが、上記の
規定に抵触するような場合には、原告であれ第三者であれ上記規定により規制され
ることになるから、原告に対し本願商標の登録を認めないとしても、原告が主張す
るような、国家資格制度の秩序を乱し社会公共の利益を害する結果を招来するもの
ではないというべきである。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
4 商標としての誤認のおそれ等について
 (1) 国家資格である「栄養士」と本願商標の「食養士」とが類似するものであ
るか否かを検討する。
   まず、「栄養」の語は、「広辞苑第5版」(株式会社岩波書店1998年
11月11日発行、乙28)に、「生物が外界から物質を摂取し代謝してエネルギ
ーを得、またこれを同化して生長すること。また、その摂取する物質。」と記載さ
れており、人間に関してみれば、外界から食物などを介してエネルギーや成長のた
めの物質を人体に摂取することを意味するものとして、日常的に使用され、一般の
国民の間でよく知られているものと認められる。
   これに対し、「食養」の語は、「日本語大辞典第二版」(株式会社講談社
1995年7月3日発行、乙22)に、「食養 適切な食物を選んで摂取し、病気
を治療すること。食養生。食餌療法。」と、「飲食事典」(株式会社平凡社、昭和
53年12月1日発行、乙23)に、「食餌によって健康を保持・増進すること。
これが理論を研究して実際に講ずる学を食養学という。(以下、その内容が詳細に
説明されている。)」と、「食品大事典」(株式会社真珠書院昭和45年10月1
5日発行、乙24)に、「食養 食餌で疾病を養生する、つまり治療することをい
う。現在いう食餌療法のことである。」と、「エスカ 食品・栄養・健康用語辞
典」(同文書院昭和63年4月2日発行、乙25)に、「食養 日常の食物でから
だを養うことをいう.栄養の意味に近いが,栄養は栄養素を中心とした,近代栄養
学がその論理的基盤となるが,食養は食物自体の人体への影響を経験的に整理した
東洋医学で用いることが多い.」と、それぞれ記載されている。
   したがって、「食養」の語は、「栄養」ほど親しまれた語であるとはいい
難いが、適切な食物を選んで摂取することにより、健康を保持し、病気を治療する
ことを意味しており、食養生と同義であって、食物などから有用な物質等を摂取し
て人体に有効に作用するという点で、上記認定の栄養の意味とも近似するものと認
められる。
   原告は、「食養」の文字が、原告が創造し採択した造語であり、特定の意
味合いが認識されるものではなく、「食事」と「栄養」の両者を表現する文字又は
言葉でもないと主張するが、この主張が誤りであることは、前記認定に照らして明
らかである。
(2) 次に、「栄養士」と「食養士」の語を対比してみるに、両者はいずれも、
漢字3文字より構成されており、語後半部分の「養士」の2文字を共通にし、語頭
の「食」と「栄」の1文字が相違するにすぎないから、外観において、相紛らわし
いものといわざるを得ない。
  また、称呼については、「エイヨウシ」と「ショクヨウシ」であり、語末
部分の「ヨウシ」が共通であり、ある程度類似するものといえる。
  さらに、「栄養士」から、栄養に係わる国家資格という観念が生じるのに
対し、「食養士」からは、食養に係わる一定の資格との観念を生じ、栄養と食養
が、前示のとおり、近似する意味合いを有することを考慮すると、両者は、観念に
おいても類似するものといわなければならない。
(3) 以上のとおり、「栄養士」と「食養士」とは、その外観、観念において類
似し、称呼においてもある程度紛らわしく、他方、「栄養士」が、前記認定のとお
り、一般に宣伝広告され広く普及した国家資格として、その存在及び活動内容が国
民に非常によく知られていることを考慮すると、本願商標である「食養士」に接す
る需要者、取引者が、これを著名な国家資格である「栄養士」に関連した新たな公
的職業資格であるかのように誤信する場合があることは否定できないから、このよ
うな商標は、国家資格に対する一般国民の信頼性を損なうものであり、社会公共の
利益に反するものとして、その出願を拒絶すべきことは明らかといわなければなら
ない。
  したがって、本願商標が、商標法4条1項7号(公の秩序又は善良の風俗
を害するおそれがある商標)に該当するとした本件審決の判断に誤りはない。
 5 結論
   以上のとおり、原告主張の取消事由には理由がなく、その他本件審決にこれ
を取り消すべき瑕疵は認められない。
   よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のと
おり判決する。
東京高等裁判所第3民事部
    裁判長裁判官  北  山  元  章
裁判官  清  水     節
           
 
        裁判官  沖中  康  人

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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