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平成20年8月28日判決言渡
平成20年行ケ第10018号審決取消請求事件()
平成20年6月24日口頭弁論終結
判決
原告エイディシーテクノロジー株式会社
同訴訟代理人弁護士水野健司
同訴訟代理人弁理士毛利大介
同衛藤寛啓
被告特許庁長官鈴木隆史
同指定代理人江畠博
同山田洋一
同小林和男
同岩崎伸二
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が訂正2005−39066号事件について平成19年12月11日
にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「放送内容受信装置」とする特許第3219751
号(昭和63年6月6日原出願,平成12年9月27日分割出願,平成13
年8月10日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許に対して,特許異議の申立て(異議2002−70966号事
件)がされ,原告は平成16年3月17日に訂正請求をしたが,特許庁は,
平成17年1月20日,「訂正を認める。特許第3219751号の請求項
1に係る特許を取り消す。」との決定をした(甲2)。これに対し,原告
は,平成17年2月25日,同決定の取消しを求めて東京高等裁判所に対し
訴訟を提起するとともに,同年4月20日,訂正審判を請求(甲2。この訂
正を「本件訂正」という。訂正2005−39066号事件)した。特許庁
は,平成18年1月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決
をした(甲5)。
原告は,平成18年2月15日,上記審決の取消しを求めて知的財産高等
裁判所に対し訴訟を提起したところ,同裁判所は,平成19年1月25日,
上記審決を取り消す旨の判決をした。特許庁における再度の審理の過程で,
原告は,平成19年7月19日付け手続補正書(甲7)を提出したが,特許
庁は,平成19年12月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」と
の審決をした。
2本件訂正の内容
平成19年7月19日付け手続補正書(甲7)による補正後の本件訂正に係
る本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(下線部
は,本件訂正に係る箇所である。)。
【請求項1】
受信された,テレビの放映内容から,指定されたチャンネルの映像信号を
抽出するチューナ及び録画再生部を備えた放送内容受信装置において,
少なくともテレビの各番組内容とその開始時刻とその放映チャンネルとを
含む情報を,外部から当該放送内容受信装置のRAMに取り込む入力手段
と,
前記入力手段によりRAMに取り込まれた上記情報から,当該放送内容受
信装置の電源を投入した日の各チャンネルのテレビの番組内容を取り出し
て,チャンネルの違い毎にテレビ受像機に縦もしくは横の内の1方向に並べ
て表示するチャンネル表示手段と,
当該放送内容受信装置の電源を投入した日の,前記入力手段により取り込
まれた上記情報中の同一チャンネルの番組を,その放送順に,上記1方向と
垂直な方向に並べて,上記テレビ受像機に表示する放送順序表示手段と,
該放送順序表示手段及び上記チャンネル表示手段により上記画面に表示さ
れる番組表を上記画面に表示可能な一画面分の番組のみに限定する限定手段
と,
上記放送順序表示手段,上記チャンネル表示手段及び上記限定手段により
上記テレビ受像機に表示された上記番組表の中から任意の番組内容が表示さ
れている位置を,上記チャンネルの方向及び上記放送順の方向それぞれ独立
に移動可能なカーソルにより指定するための位置指定手段と,
該位置指定手段により指定された位置に表示されている番組内容を,指定
されなかった位置の番組内容と識別可能に表示する識別表示手段と,
該識別表示手段にて識別可能に表示された箇所に対応する番組内容を所望
の番組として設定するための設定手段と,
該設定手段にて設定された箇所に対応する番組のチャンネルを上記情報か
ら取り出して,所望の番組のチャンネルとして設定するチャンネル補完手段
と,
上記設定手段にて設定された箇所に対応する番組の開始時刻を上記情報か
ら取り出して,所望の番組の情報として設定する開始時刻補完手段と,
該開始時刻補完手段により設定された開始時刻になると,上記チャンネル
補完手段により設定されたチャンネルを上記チューナに抽出させる放送内容
出力手段と,
上記テレビ受像機に表示された上記番組表を,上記カーソルの移動に伴い
移動後の上記カーソル位置に応じた上記番組表に更新させると共に,上記カ
ーソルの移動に伴い上記カーソルの位置情報をRAMに記憶させてその情報
を更新させる更新手段と,
上記チューナにより復調された映像信号,録画再生部により再生された映
像信号,上記チャンネル表示手段,上記放送順序表示手段及び上記限定手段
によって上記テレビ受像機に表示される番組表の映像信号,のうちの何れか
一つの映像信号を選択して上記テレビ受像機に出力する映像信号出力部と,
を備えたことを特徴とする放送内容受信装置。」(以下この発明を「本件訂
正発明」という。)。
3審決の内容
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件訂正発明は,米国特許第
4706121号(甲9,10。以下「刊行物1」という。)に記載された発
明及び周知技術(甲11ないし24)に基づいて,当業者が容易に発明をする
ことができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独
立して特許を受けることができない,とするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,刊行物1記載の発明(以下「引用発明」
という。)の内容並びに本件訂正発明と引用発明との一致点及び相違点を次の
とおり認定した。
(1)引用発明の内容
テレビ受像器と,VCRと,TV放送信号を受信し,選択された番組の放
送時に選択された番組に関する放送信号を供給することができ,前記テレビ
受像器及び前記VCRに接続されるプログラム可能チューナと,を含み,ス
ケジュール情報から放送番組のユーザ選択を可能にするよう前記テレビ受像
器及び前記VCRを制御するTVスケジュールシステムであって,
CPUと,前記CPUに接続され,前記プログラム可能チューナから供給
されるTV放送信号から分離されてデジタル化された番組スケジュール情報
信号を前記CPUに供給するデータ復調器と,前記データ復調器から受信さ
れたデータが記憶される一時バッファ,及び前記データを,誤り検査・訂正
等の後,番組一覧表示データとして記憶する番組一覧表示バッファの各記憶
手段と,
複数のユーザ選択メニューを前記テレビ受像器上に表示するためビデオ表
示生成器と画面バッファを有し,
手動モードでは,チャンネルが選択される都度,チャンネル番号またはチ
ャンネル名,番組の名称,番組開始後の経過時間,及び番組の残り時間が画
面の一番下の行に表示し,
MG(マスタ・ガイド)モードでは,番組の開始時間,番組名,チャンネ
ル名,その他ステータス等が一覧表示し,
PG(番組ガイド)モードでは,画面を分割して,番組の開始時間,番組
名,チャンネル名を含む予約スケジュールと,MGモードと同様の一覧表示
する表示手段と,
MGモードが設定されると,システム・クロック時間とカレンダをステー
タス行バッファに記憶し,設定一覧表示ポインタを現在の時刻と日付に基づ
いて最も近い0分ちょうどの時刻に調整し,前記画面バッファが一杯になる
まで番組一覧表示の検索をする手段と,
ユーザ番組選択その他のユーザ入力を提供する,線路上の遠隔制御送信機
と遠隔受信機の組み合わせであって,前記遠隔制御送信機には,前記一覧表
示から番組の選択を行うために,
SEL:TV上に表示されるメニューから番組を選択する,
↑/↓:ポインタを一覧表示の一番上/下に向けて動かし,ポインタが一
番上/下の行にある時押すと前/次のページに自動スクロールする,
→/←:次/前のページに移動し,ポインタの位置は変更されないで,最
後/最初のページが表示されている場合1週間の一覧表示の始め/終わりに
戻る,
+:翌日に進み,時間は変更されないで,1週間の曜日毎に移動する,等
の複数のキーが含まれ,
異なる番組の選択に使用する,前記複数のキーのうち,↑↓→←のカーソ
ルキーを使用してカーソルを一行上下,1ページ前後に移動させる手段と,
前記画面バッファは,カーソルの上下に対応して更新され,新しいカーソ
ル位置を反映し,番組一覧表示の次ページ又は前のページを表示する際に
も,前記画面バッファをクリアする手段を有し,
カーソルが一覧表示にあるときにSELキーで選択した番組に対して,P
Gスケジュールモードでは,スケジュール画面バッファを選択し,選択され
た,番組のチャンネルと開始時刻が含まれる一覧表示をスケジュール区分に
コピーする手段と,
スケジュール検索がなされ,前記プログラム可能チューナが予定された番
組に変更される制御手段と,
前記プログラム可能チューナは,選択された番組を前記プログラム可能チ
ューナが前記テレビ受像器に供給するために,選択された放送の時刻に前記
CPUからの制御信号を受信するように接続され,
スケジュールに設定された時刻になると,番組一覧表示で設定された各チ
ャンネルの番組が前記プログラム可能チューナに設定され,前記VCRで当
該番組を録画するように制御する手段を有し,
前記テレビ受像器及び前記VCRへのビデオ信号出力を,前記ビデオ表示
生成器からのスケジュール情報ビデオ信号と前記プログラム可能チューナか
らの番組ビデオ信号との間で切り換えるビデオスイッチャと,
を備えたTVスケジュールシステム。
(2)一致点
受信された,テレビの放映内容から,指定されたチャンネルの映像信号を
抽出するチューナ及び録画再生部を備えた放送内容受信装置において,
少なくともテレビの各番組内容とその開始時刻とその放映チャンネルとを
含む情報を,外部から当該放送内容受信装置の(記憶手段)に取り込む入力
手段と,
前記入力手段により(記憶手段)に取り込まれた上記情報から,各チャン
ネルのテレビの番組内容を取り出して,テレビ受像機に並べて表示するチャ
ンネル表示手段と,
前記入力手段により取り込まれた上記情報中の番組を,その放送順に,上
記テレビ受像機に表示する放送順序表示手段と,
該放送順序表示手段及び上記チャンネル表示手段により上記画面に表示さ
れる番組表を上記画面に表示可能な一画面分の番組のみに限定する限定手段
と,
上記放送順序表示手段,上記チャンネル表示手段及び上記限定手段により
上記テレビ受像機に表示された上記番組表の中から任意の番組内容が表示さ
れている位置を,移動可能なカーソルにより指定するための位置指定手段
と,
該位置指定手段により指定された位置に表示されている番組内容を,指定
されなかった位置の番組内容と識別可能に表示する識別表示手段と,
該識別表示手段にて識別可能に表示された箇所に対応する番組内容を所望
の番組として設定するための設定手段と,
該設定手段にて設定された箇所に対応する番組のチャンネルを上記情報か
ら取り出して,所望の番組のチャンネルとして設定するチャンネル補完手段
と,
上記設定手段にて設定された箇所に対応する番組の開始時刻を上記情報か
ら取り出して,所望の番組の情報として設定する開始時刻補完手段と,
該開始時刻補完手段により設定された開始時刻になると,上記チャンネル
補完手段により設定されたチャンネルを上記チューナに抽出させる放送内容
出力手段と,
上記テレビ受像機に表示された上記番組表を,上記カーソルの移動に伴い
移動後の上記カーソル位置に応じた上記番組表に更新させると共に,上記カ
ーソルの移動に伴い(記憶手段)の情報を更新させる更新手段と,
上記チューナにより復調された映像信号,上記チャンネル表示手段,上記
放送順序表示手段及び上記限定手段によって上記テレビ受像機に表示される
番組表の映像信号,のうちの何れか一つの映像信号を選択して上記テレビ受
像機に出力する映像信号出力部と,
を備えた放送内容受信装置。
(3)相違点
ア相違点1
本件訂正発明の「入力手段」においては,「RAM」に取り込むのに対
し,引用発明においては,「一時バッファ」及び「番組一覧バッファ」に
記憶するものである点。
イ相違点2
画面表示される番組の内容に関し,本件訂正発明においては,「当該放
送内容受信装置の電源を投入した日」の番組を表示するものであるのに対
し,引用発明においては,このことについて特に示されていない点。
ウ相違点3
番組表に関し,本件訂正発明においては,「チャンネルの違い毎に縦も
しくは横の内の1方向に並べて表示するチャンネル表示手段」,「同一チ
ャンネルの番組を放送順に上記1方向と垂直な方向に並べる放送順序表示
手段」により画面に表示される番組表であるのに対し,引用発明における
番組の一覧表示は,少なくともチャンネル(チャンネル表示手段),放送
順,及び番組内容が一覧表示される意味において番組表といえるものであ
り,「チャンネルの違い毎に縦もしくは横の内の1方向に並べて」及び「
同一チャンネルの番組を,その放送順に,上記1方向と垂直な方向に並べ
て」表示するものではない点。
エ相違点4
本件訂正発明においては,位置指定手段について「チャンネルの方向及
び上記放送順の方向それぞれ独立に移動可能なカーソルにより指定する」
と特定しているのに対し,引用発明のカーソルないしポインタは,上下に
移動するものである点。
オ相違点5
本件訂正発明においては,「カーソルの移動に伴い上記カーソルの位置
情報をRAMに記憶させてその情報を更新させる更新手段」を備えるのに
対し,引用発明では,カーソルの位置情報をRAMに記憶させることにつ
いて特に示されていない点。
カ相違点6
本件訂正発明においては,映像信号出力部は,チューナにより復調され
た映像信号,録画再生部により再生された映像信号,番組表の映像信号の
うちのいずれか一つの映像信号を選択するものであるのに対し,引用発明
では,ビデオスイッチャが,VCRにより再生された映像信号をテレビ受
像機に出力することについて特に示されていない点。
第3取消事由に係る原告の主張
審決は,一致点の認定の誤り及び相違点の看過(取消事由1),相違点につ
いての容易想到性の判断の誤り(取消事由2),手続上の瑕疵があるから(取
消事由3),取り消されるべきである。
1取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)
⑴一致点の認定の誤り(その1)
審決は,「入力手段」につき,「外部から当該放送内容受信装置の(記憶
手段)に取り込む」点で一致すると認定する。しかし,刊行物1には番組の
開始時間,番組名,チャンネル名が含まれる番組スケジュール情報を外部か
ら取り込むことについての記載がないから,上記認定は誤りである。
⑵一致点の認定の誤り(その2)
ア審決は,「チャンネル表示手段」につき,「各チャンネルのテレビの番
組内容を取り出して,テレビ受像機に並べて表示する」点で一致すると認
定するが,誤りである。
本件訂正発明の「チャンネル表示手段」は,放映される番組のすべてに
ついて表示することを前提に,各チャンネルのテレビの番組内容を取り出
して,チャンネルの違いごとに縦もしくは横の内の1方向に並べて表示す
るものである。これに対し,引用発明は,所定の時点よりも未来又は過去
の一方向に存在する番組のみによって構成されるものであり,放映される
番組のすべてについて表示することを前提としたものではなく,チャンネ
ルの番号自体は表示しているとしても,「各」チャンネルのテレビの番組
内容を取り出していないし,それらを「並べて」表示するものでもない。
イ被告は,刊行物1の記載から,デフォルト・チャンネル・モードではす
べてのチャンネルが表示の対象となるから,すべてのチャンネルを表示す
ることも当然想定していると主張するが,失当である。刊行物1の記載に
よれば,一覧表示ポインタ351が現在の時刻と日付から最も近い0分に
設定され,番組一覧表示の検索352がなされ,その検索は「後方」(未
来方向)に進むから,その時刻よりも前方(過去方向)に進むことはあり
得ない。すなわち,引用発明はある1つの操作時点において,特定の時刻
以降に開始する番組の番組内容しか表示せず,そのためすべてのチャンネ
ルの番組が表示の対象となることはない。
⑶一致点の認定の誤り(その3)
審決は,「放送順序表示手段」につき,「その放送順に,上記テレビ受像
機に表示する」点で一致すると認定するが誤りである。引用発明は,複数の
番組について「放送順に」表示するものではない。
⑷一致点の認定の誤り(その4)
ア審決は,「該位置指定手段により指定された位置に表示されている番組
内容を,指定されなかった位置の番組内容と識別可能に表示する識別表示
手段」を備える点で一致すると認定するが誤りである。
引用発明においては,カーソルが番組の位置を示しているにすぎず,本
件訂正発明のように「表示されている番組内容」が「識別可能に表示」さ
れるものではない。
イ被告は,刊行物1の記載によれば,スケジュールに加えられた番組につ
いては,表示の上半分に加えられるから,「指定されなかった位置の番組
内容と識別可能に表示」されるものであると主張するが,失当である。
引用発明において,上半分の画面に表示される番組は,「所望の番組と
して設定」された設定後の番組である。これに対し,本件訂正発明の「識
別表示手段」は,ユーザが設定手段により所望の番組を設定しようとする
際に,位置指定手段により指定ないし選択している番組を視覚的に認識で
きるようにして番組の設定を失敗しないようにするための手段であるか
ら,識別表示手段により表示される番組内容は,設定前の番組である。し
たがって,引用発明において既に所望の番組として設定した番組の表示の
上半分に表示することは,本件訂正発明における「識別表示手段」とは全
く異なる。
⑸相違点の看過
ア引用発明は,本件訂正発明の「チャンネル表示手段」のように,「当該
放送内容受信装置の電源を投入した日の各チャンネルのテレビの番組内容
を取り出して,チャンネルの違いごとにテレビ受像機に縦もしくは横の内
の1方向に並べて表示する」ものではないのに,審決はかかる構成上の相
違点を看過しているので,誤りである。
イ引用発明は,放送順序にしたがって並べるという発想は認められるが,
それは番組のグループを対象としているものであり番組単位ではない。し
たがって,審決には「当該放送内容受信装置の電源を投入した日の,前記
入力手段により取り込まれた上記情報中の同一のチャンネルの番組を,そ
の放送順に,上記1方向と垂直な方向に並べて,上記テレビ受像機に表示
する」との相違点について看過した誤りがある。
ウ以上を前提に,本件訂正発明が「チャンネル表示手段」及び「放送順序
表示手段」という構成を同時に備えていることにより,引用発明をどのよ
うに修正しても得られない顕著な作用効果を得ることができる。
2取消事由2(相違点についての容易想到性の判断の誤り)
⑴相違点3,4についての容易想到性の判断の誤り
審決は,①相違点3について,引用発明においても,新聞,雑誌等のテレ
ビ番組表欄や周知技術(甲19,20)等のようにテレビ番組内容を放映チ
ャンネルごとに時刻情報とともに放送順に並べ表形式で画面上に表示し,番
組設定したい領域を選択指示することによりその領域に対応する番組を選択
することは当業者が容易に想到し得るものであると判断し,②相違点4につ
いて,引用発明において,「チャンネル表示手段」と「放送順序表示手段」
とを一方向と他方向に並べて新聞のテレビ・ラジオ番組欄等にて周知の番組
表のような形式で表示することとした場合には,表示形式の変更に付随し
て,番組を指定するポインタの動かし方を変更することは当然配慮される程
度のことにすぎないと判断したが誤りである。
本件訂正発明の出願時の技術水準に照らせば,番組表を画面表示できたと
しても,その画面表示の中から一定の番組を選択するという発想に至ること
は必ずしも当業者が容易であったとはいえない。また,引用発明はアメリカ
合衆国におけるチャンネルが膨大であることを前提に選択を容易にしたもの
であり,前記周知技術のような番組表を組み合わせることは不可能である。
審決の上記判断は誤りである。
⑵顕著な作用効果の看過
本件訂正発明によれば,番組内容が表形式で視覚的に表示されるため,異
なるチャンネルや隣接する時刻の類似番組と誤っていないかといった注意事
項が直感的に喚起され,また,表形式で表示された番組内容を見て,所望の
番組内容を指定し,設定されるとともに,指定した番組内容が他の番組内容
と識別可能に表示されるため,視覚的に分かりやすく誤って他の番組を選択
してしまう心配がない等の顕著な作用効果を奏する。審決は,相違点につい
ての容易想到性の判断においてかかる顕著な作用効果を看過している点で誤
りである。
3取消事由3(手続上の瑕疵)
平成19年6月14日付け訂正拒絶理由通知書(甲6。以下「本件訂正拒絶
理由通知書」という。)では,引用発明の画面表示について「番組表」である
との前提はなかったにもかかわらず,審決は「番組表」であることを前提とし
ている。そうすると,引用発明の画面表示の解釈について反論の機会が与えら
れていないから,審決には手続上の瑕疵がある。
第4被告の反論
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)に対し
⑴一致点の認定の誤り(その1)に対し
刊行物1には,MG(マスターガイドモード)における一覧表示及びスケ
ジュールモードにおけるスケジュール及び番組の一覧表示に,番組の開始時
間,番組名,チャンネル名が含まれ,放送形式に,各番組の表示に含まれる
情報がまとめて記載されており,番組名で特定される各番組に対して開始時
間とチャンネル名が含まれる情報が放送されているから,「システム及び方
法の概略」で,図1ないし図4を参照して説明される送受信システム/方法
における「TVスケジュール情報」に番組の開始時間,番組名,及びチャン
ネル名が含まれると解することができる。審決の一致点の認定に誤りはな
い。
⑵一致点の認定の誤り(その2)に対し
ア本件訂正に係る明細書には,「各チャンネル」の明確な定義はなく,「
全チャンネル」を意味するとはいえない。引用発明においても「各」チャ
ンネルの番組内容を取り出しているといえるし,刊行物1の記載から,デ
フォルト・チャンネル・モードではすべてのチャンネルが表示の対象とな
るから,すべてのチャンネルを表示することも当然想定しているといえ
る。また,「並べて表示」することは,どのように「並べる」かまでを特
定するものでもない。
イチャンネルの制限の有無に対応して,それぞれの状態で「各」チャンネ
ルが表示されることとなるのは当然のことであり,この点において引用発
明と本件訂正発明とは何ら相違しない。
⑶一致点の認定の誤り(その3)に対し
刊行物1の記載によれば,引用発明の番組表は,明らかに「放送順に」表
示されていると解することができる。前記番組表において,必ずしも「同一
のチャンネル」の番組ではない点,及びチャンネルの違いごとに並べた方向
と垂直な方向に並べた点については,相違点3と認定した上で容易想到性を
判断しているから,審決の一致点の認定に誤りはない。
⑷一致点の認定の誤り(その4)に対し
本件訂正発明は,どのように表示することにより「識別可能に表示する」
かつについて特定がなく,選択した番組に位置するポインタ自体が識別可能
な表示を兼ねることも当然含まれる。また,「識別表示手段」を位置指定手
段であるポインタとは別の手段であると解したとしても,刊行物1の記載に
よれば,スケジュールに加えられた番組については,表示の上半分に加えら
れるから,「指定されなかった位置の番組内容と識別可能に表示」されるも
のである。審決の一致点の認定に誤りはない。
⑸相違点の看過の原告の主張は争う。
2取消事由2(相違点についての容易想到性の判断の誤り)に対し
⑴相違点3,4についての容易想到性の判断の誤りに対し
ア引用発明において「画面表示の中から一定の番組を選択する発想」はす
でに含まれており,「チャンネルの違い毎に縦もしくは横の内の1方向に
並べて」「同一チャンネルの番組を,その放送順に,上記1方向と垂直な
方向に並べて」表示した番組表が周知事項にすぎないものであるから,引
用発明の番組表に代えて,周知の番組表を採用する程度のこと,及び表示
の仕方に変更があった場合には,当該変更に対応して指定の仕方に変更を
加える程度のことは,当業者が容易に想到するとした審決の判断は,本件
訂正発明の出願当時の技術水準に基づくものであることが明らかである。
審決の判断に誤りはない。
イ原告は,引用発明はアメリカ合衆国におけるチャンネルが膨大であるこ
とを前提に選択を容易にしたものであり,前記周知技術のような番組表を
組み合わせることは不可能であると主張する。しかし,チャンネル数がど
の程度のものかについて,本件訂正発明及び引用発明ともに特段の限定は
ないから,原告の上記主張は失当である。
⑵顕著な作用効果の看過に対し
新聞の番組欄等にて周知の番組表は,横にチャンネルを並べ,縦に時刻順
に番組内容を記したものであって,当然,表形式にて視覚的に表示されるも
のであるから,異なるチャンネルや隣接する時刻の類似番組と誤っていない
か,といった注意事項が直感的に喚起される。そうすると,引用発明に,周
知の番組表の表示形式を採用した場合には,指定した番組内容が,他の番組
内容と識別可能に表示されるため,視覚的に分かりやすく誤って他の番組を
選択してしまう心配がない等の効果が予想されるのは,当然のことにすぎな
い。したがって,審決が,本件訂正発明につき,各相違点を総合しても格別
な作用効果を奏するものでないとした判断に誤りはない。
3取消事由3(手続上の瑕疵)に対し
本件訂正拒絶理由通知書においても「一致点」に「番組表」である点を含め
ているので,審決に手続上の瑕疵はない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,原告の主張には理由がなく,原告の請求を棄却すべきものと判
断する。以下理由を述べる。
1本件訂正発明の内容
本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,第2の2のとおりである。
平成19年7月19日付け手続補正書による補正後の本件訂正に係る本件特
許の明細書(甲1,2,7。以下「本件訂正明細書」という。)には,以下の
記載がある。
「ROM32には,制御プログラムと共に,1週間から4週間分程度の放映
番組の簡単な内容と放映開始・終了時刻が記憶されている。・・・」段落【0
012】
「次に,第4図に示す番組表の説明図,第5図,第6図に示すフローチャー
トに従って,録画予約カード1およびVTR3の各CPU31,51が実行す
る処理について説明する。録画予約カード1は,VTR3に装着されて電源が
投入されると,第5図に示すカード側処理ルーチンを開始し,まず,カーソル
位置の初期化等の処理を行なう(ステップ100)。カーソルの初期位置は,
予め定めた原点であり,第4図に示す番組表では,最も小さな番号のチャンネ
ルでかつ最も早い時間帯の番組(本実施例では番組A1)に対応した位置であ
る。その後,ROM32から番組表を読み出し(ステップ110),このうち
カーソル位置に応じた領域の番組データおよびカーソル位置のデータを入出力
ポート38を介してVTR3に出力する処理を行なう(ステップ120)。即
ち,テレビ受像機5には,番組表の全てを一度に表示することができないの
で,カーソルの位置を中心に一画面分の番組データを出力するのである。な
お,このステップ120の処理における「カーソルの位置を中心に一画面分の
番組データを出力する」という部分が本発明の限定手段としての処理に相当す
る。出力された番組データは,コネクタ30を介して一旦RAM53に記憶さ
れ,後でCPU51の制御により映像信号出力部70に送られ,ここで映像信
号に変換された後,テレビ受像機5に出力される。つまり,接続部10,及び
接続部10から番組データを取り込む処理を行なうCPU51は,これらの外
部にあるROM32からコネクタ30等を介して放送内容に関する情報を取り
込むので,本発明の入力手段に相当する。また,ステップ150からステップ
120に至る処理が,本発明の更新手段としての処理に相当する。続いて,録
画予約カード1の表面に設けられたキーが操作されるのを待ち(ステップ13
0),その入力キーに応じてステップ140以下の処理に移行する。」段落【
0014】
「入力されたキーがカーソルキーの場合には,操作されたキー21ないし2
4のいずれかに応じたカーソルデータを出力し(ステップ140),RAM3
3に記憶されるカーソル位置情報を番組表の構成に応じて更新する処理を行な
う(ステップ150)。例えば,カーソルが第4図に示す番組C3の位置にあ
る場合に,上向き矢印のカーソルキー21が操作されたときには,そのデータ
をVTR3の映像信号出力部70に出力すると共に,録画予約カード1内のカ
ーソル位置情報を番組C3から番組C2の位置に更新するのである。また,右
向き矢印のカーソルキー24が操作された場合には,カーソル位置情報は,番
組C3から番組D3の位置に更新される。以上の処理の後,ステップ120に
戻り再びステップ120以下の処理を実行する。従って,カーソルが現在表示
している領域の外に移動された場合には,ステップ120の処理により,表示
される番組の領域も更新される。」段落【0015】
「ステップ130の判断において入力キーが「設定」キー11であると判別
された場合には,現在のカーソル位置情報に応じた番組の開始時刻とそのチャ
ンネル番号とをROM32から読み出す(ステップ160)。ここで番組の開
始時刻を読み出す処理が本発明の開始時刻補完手段に相当し,チャンネルを読
み出す処理が本発明のチャンネル補完手段に相当する。続けて録画開始時刻を
VTR3のCPU51に出力する処理を行なう(ステップ170)。例えば,
カーソルが番組C3にある場合には,この番組の開始時刻8時45分とチャン
ネルCH5とが読み出され出力される。つまり設定キー11は本発明の設定手
段に相当する。続いて,その番組の終了時刻を読み出して(ステップ18
0),その時刻を出力する処理を行なう(ステップ190)。上述した例で
は,終了時刻9時30分が読み出され出力されることになる。」段落【001
6】
「一方,「毎週」キー12が入力された場合には,ROM3内に記憶された
翌週以降の番組をサーチし(ステップ200),現在カーソルが存在する番組
と同一の番組が翌週以降に存在するか否かの判断を行なう(ステップ21
0)。翌週以降に同一番組が存在すれば,既述した「設定」キーの操作時と同
様に,その番組の日付を含む開始時刻・チャンネルの読出と出力,更に終了時
刻の読出と出力とを行なう(ステップ160ないし190)。同一番組がなけ
れば,そのままステップ120に戻って,キー入力から処理を繰り返す。この
処理により,翌週以降に同一番組が異なる時間帯に放映される場合でも,容易
にこれを予約することができる。尚,VTR3側の処理については後述す
る。」段落【0017】
「ステップ130において入力キーが「連続」キー13であった場合には,
それまでに設定した複数の番組のうち連続する番組についてその終了時刻を取
り消す処理を行なう(ステップ220)。この結果,連続する複数の番組(チ
ャンネルが異なる場合も同一の場合も含む)の録画が設定された場合,ひとつ
の番組の放映時間が終了する度にVTR3の電源を落とすことがない。」段落
【0018】
「以上,録画予約カード1側の処理について説明したが,この処理に応じ
て,VTR3側では次の処理が行なわれる。第6図に示すように,まず,録画
予約カード1からデータの出力があるまで待ち(ステップ300),データ出
力があった場合には,その内容を判別する(ステップ310)。出力の内容が
カーソルデータ(第5図ステップ140に対応)の場合には,CPU51は,
映像信号出力部70にデータを出力し,表示している番組の反転位置を更新す
る(ステップ350)。例えば,第4図に斜線を施した番組C3が反転表示さ
れている場合,録画予約カード1から下向き矢印のカーソルキー22が操作さ
れたとの情報が送られたときには,番組C4を反転表示し番組C3を正常表示
した映像信号の出力に切り換えるのである。つまりカーソルキー21ないし2
4が本発明の位置指定手段に相当し,指定された番組を反転表示させる処理が
本発明の識別表示手段に相当する。」段落【0019】
「一方,録画予約カード1からの出力の内容が番組表のデータである場合に
は,第5図ステップ120で出力されるデータに対応して,これを一旦RAM
53に蓄えた後,テレビ受像機5に表示するデータとして映像信号出力部70
にセットする処理(ステップ320)と,録画予約カード1が出力するカーソ
ル位置データを入力する処理とを行なう(ステップ330)。続いて,入力し
たカーソル位置のデータに基づいて反転表示する番組の位置を映像信号出力部
70に設定する処理を行なう(ステップ340)。」段落【0020】
「以上説明したように,本実施例の録画予約カード1は,予め1週間ないし
数週間分の番組の内容とその開始終了時刻を記憶しており,これをテレビ受像
機5に表示して,番組の録画予約に供するので,録画予約を極めて簡単に行な
うことができる。番組を選択するだけでよいので,時間の設定やバーコードの
読取等の手間を要せず,機械の操作になれていない者にもその操作は容易であ
る。更に,本実施例では,同一内容の番組をサーチすることができるので,連
続番組が異なる時間帯に放映される場合でも,その録画予約を簡略に行なうこ
とができる。」段落【0027】
「以上詳述したように,本発明の放送内容受信装置によれば,番組内容がテ
レビ受像機に表形式にて視覚的に表示される。これにより,チャンネルや開始
時刻といった,抽象的で誤り易い情報を操作者に認識させることなく,異なる
チャンネルの番組内容や同じチャンネルの前後に放映される番組内容と対比さ
せることにより操作者に認識させることができる。従って,異なるチャンネル
や隣接する時刻の類似番組と誤っていないか,といった注意事項が直観的に喚
起されることとなる。そして番組の内容の予約は,表形式で表示された番組内
容の中から所望の番組内容が表示されている位置を位置指定手段にて指定し,
設定手段を操作すれば完了する。この間,チャンネルや開始時刻といった抽象
的な情報を取り扱う必要がない。開始時刻は,開始時刻補完手段によって補わ
れ,チャンネルはチャンネル補完手段によって補われる。つまり,当該放送内
容受信装置の操作者は,新聞などの番組欄を見て所望の番組を選ぶのと同じ感
覚で予約を行なうことができる。すなわち,テレビ受像機に表形式で表示され
た番組内容を見て,所望の番組内容を位置指定手段で指定し,設定手段で設定
すればよい。しかも位置指定手段にて指定した位置は,識別表示手段により他
の位置と識別可能に表示される。このため,非常に視覚的で判り易いだけでな
く,誤って隣の番組内容を予約してしまう心配がない。・・・」段落【002
9】【発明の効果】
2刊行物1の記載
刊行物1(甲9,10)には,以下の記載がある。
⑴「本発明は,ユーザがスケジュールからあらかじめ選択した番組を呈示す
るよう,テレビ受像機を制御するための電子システムと方法に関する。特
に,本発明は様々な形で組み合わされる選択基準をユーザが使用して,放送
番組の選択を行うことができるようにする電子システムと方法に関する。さ
らに詳しくは,本発明は放送形態のスケジュール情報を受信し,次にそのス
ケジュール情報を処理して選択を行う電子システムと方法に関する。本発明
はさらに,ユーザがメニューから簡単な選択を行うことにより,ビデオ・カ
セット・レコーダ(VCR)を無人操作でプログラムできるようにするシス
テムに関する。」(甲10,1頁7∼17行)
⑵「従って,本発明の目的はユーザが供給する選択基準によるスケジュール
情報から視聴する放送番組を選択することで,ユーザがテレビ受像機を制御
できるようにするシステム及び方法を提供することである。
本発明の別の目的は,放送としてスケジュール情報を受信するシステムと
方法を提供することである。
本発明の別の目的は,直前のスケジュール変更及び追加に対応できる該シ
ステム及び方法を提供することである。
本発明のさらに別の目的は,番組選択を行うために,ユーザが供給する選
択基準をシステムによって組み合わせることができる該システムを提供する
ことである。
本発明のまたさらに別の目的は,選択基準が包含または除外のいずれかの
基準として使用される該システム及び方法を提供することである。
本発明の別の目的は,手動チャンネル選択を行う必要が除去され,全ての
番組がメニュー項目をポイントすることで選択される該システム及び方法を
提供することである。
本発明のまたさらに別の目的は,選択された放送番組の時刻にテレビ受像
機がオンになっているかを判定し,テレビ受像機がオンになっていない場
合,選択された番組をVCRまたは他の番組録画装置に自動的に供給する該
システム及び方法を提供することである。・・・(中略)・・・
本発明のまたさらに別の目的は,多数の番組シリーズ中の単一の番組を選
択し,シリーズ中の残りの番組を自動的に含めることのできる該システム及
び方法を提供することである。」(5頁下から7行∼6頁下から5行)
⑶「記憶手段はデータ・プロセッサによって選択された番組に関するスケジ
ュール情報を受信するよう接続される。プログラム可能なチューナが提供さ
れ,テレビ受信機へ接続される。プログラム可能チューナはデータ・プロセ
ッサから制御信号を受信するよう接続されるので,選択された番組の放送時
に,選択された番組に関する放送信号をテレビ受信機に供給することができ
る。
本発明の方法には以下のステップが含まれる。番組スケジュール情報がデ
ータ・プロセッサに供給される。ユーザ番組選択基準がデータ・プロセッサ
に供給される。ユーザ選択基準が使用され,データ・プロセッサ中の番組ス
ケジュール情報から視聴する番組を選択する。記憶された情報が使用され,
テレビ受信機を選択された番組に同調する。」(9頁5∼17行)
⑷「本システムは多量のスケジュール情報を検索して視聴者の選択基準を満
たす番組を発見するので,番組選択は手動選択よりはるかに容易かつ高速に
なる。」(10頁14∼16行)
⑸「キーボード操作の概要
図5は,図3及び図4の遠隔制御送信機116及び188で使用されるキ
ーボード220の配置を示す。キー222∼244は以下の意味を有する。
MG222:番組の直接一覧表示及び即時選択のためのマスタ・ガイド。
PG224:記憶された機能を設定し,ヘルプ情報にアクセスするための
番組ガイド。
TV226:従来のチャンネル選択を選ぶ。
SEL228:TV上に表示されるメニューから番組を選択する。
C230:PGモードで記憶された番組を取り消す。MGモードのチャン
ネル制限のオン,オフを行う。
↑232:ポインタを一覧表示の一番上に移動する。ポインタが一番上の
行にある時押すと前のページに自動スクロールする。
↓234:ポインタを一覧表示の一番下に移動する。ポインタが一番下の
行にある時押すと次のページに自動スクロールする。
→236:次のページに移動する。ポインタの位置は変更されない。最後
のページが表示されている場合1週間の一覧表示の始めに戻る。
←238:前のページに移動する。ポインタは変更されない。一覧表示が
すでに始めにある場合,1週間の一覧表示の終わりに戻る。
P240:前に数字キーを押さない場合,Pは一覧表示をゴールデンアワ
ーだけに制限する。数字キーの後に入力した場合,Pは午後を示す。
A242:前に数字キーを押さない場合,Aは一覧表示を選択されたテー
マだけに制限する。数字キーの後に入力した場合,Aは午前を示す。
244:翌日に進み,時間は変更されない。1週間の曜日毎に移動す
る。」(19頁下から5行∼21頁2行)
⑹「MGマスタ・ガイド・モード
このモードでは,一覧表示から番組を直接選択できる。平均的なユーザに
とって,マスタ・ガイド(MG)モードが使用する唯一のモードである。M
Gモードにアクセスするには,MGキー222を一度押す。MGモードを出
るにはMGキー222をもう一度押すか,ポインタが所望の番組の位置にあ
る場合SELキー228を押す。(中略)
以下はMGキー222が押された時の画面の一例である。一覧表示は常に
直前30分から開始される。ポインタは常に最後になされた選択(この例で
はウオール・ストリート・ウイーク)に置かれることに注意されたい。
9:00ホテル・シリーズチャンネル7
ニュースチャンネル2
ウオール・ストリート・ウイークチャンネル17
映画F2,チャンネル20
9:15映画HBO
9:30SF通りチャンネル2
水曜日,6月30日,ゴールデンアワー:午後6時∼午後11時,テー
マ2,時刻:午後9時23分,チャンネル・グループ2,残り時間:7
分,ウオール・ストリート・ウイーク
画面一番下の3行のステータス行以外に,画面は16行の番組情報を一覧
表示することに注意されたい。」(22頁8行∼22頁末行)
⑺「カーソル・キー232∼236を使用して異なる番組を選択することが
できる。UP/DOWNカーソル・キー232∼234はカーソルを一度に
1行上または1行下に移動させる。一覧表示の一番上又は一番下に到達する
と,UPキー234は1つ前のページを自動的に画面に表示し,DOWNキ
ーは次のページを画面に表示させる。
一覧の表示を速めるため,左及び右矢印ページ・キー228及び236が
使用され,それぞれ一度に1ページずつ前及び後ろに移動する。ページ・キ
ー236・238が使用される際は,カーソル位置は変更されない。」(2
5頁下から4行∼26頁6行)
⑻「異なったテーマに関心を有する何人かの視聴者に対応するため,番組マ
スタは4つまでのテーマ一覧表示を作成する機能を有する。(中略)なお,
ユーザが番号付き一覧表示を作成する時,番組マスタはまだ全ての番組が一
覧表示されるデフオルト・モード(テーマ・オフ・モード)を提供している。
番号付きリストが作成されない場合,番組マスタはテーマ・オフとテーマ・
オンの2つのモードだけを提供する。」(29頁下から8行∼30頁2行)
⑼「常に全てのチャンネルが一覧表示されるデフォルト・チャンネル・モー
ドが存在する。MGモードでは,Cキーが押される度に,チャンネル・グル
ープ番号が変更される。それ以上グループ番号がない場合,デフォルト・チ
ャンネル・モードが表示される。」(34頁12∼16行)
⑽「PG+スケジュール設定
このモードでは,ユーザは,通常毎週のシリーズとシリーズものでない番
組の特別イベントについて,週毎の覚え書きカレンダを作成することができ
る。覚え書き処理は,番組が開始される前のある時間以前にTVがオンにな
っていない場合アラームを設定する。番組が開始される時TVがオンになっ
ていない場合,覚え書き処理はVCRをオンにし,番組の録画を開始する。
スケジュールはシリーズの1つの番組またはシリーズの全ての番組に応答
するようプログラムできる。例えば,毎日または毎週のショーを,特定の日
付または番組一覧表示中の番組がある日全てについてスケジュールに入れる
ことができる。
番組マスタは,放送局によってシリーズの全ての番組に割り当てられたリ
ンク・コードを使用してシリーズの全ての番組をリンクし,スケジュールに
入れることができる。例えば,不規則な時刻と間隔で放送されるNBAプレ
ーオフ・シリーズは,NBA一覧表示を選択し,「全番組」という接尾辞を
一覧表示に割り当てることで完全にスケジュールに入れられる。シリーズの
終了時,一覧表示は自動的に「放送済」という接尾辞が付くように変更され
る。1週間後,ユーザがそれを削除していなければ,一覧表示は自動的に削
除される。番組選択の後にAキー242を入力しない場合,番組は1回のも
のだけだと想定される。いつでもAキー242を押して「全番組」応答を適
用することができる。
スケジュール・モードに入ると,分割画面によって,上の8行に予定され
た番組,下の8行に番組一覧が表示される。この一覧表示はMG一覧表示と
同一であるが,16番組ではなく短縮した一覧が表示される。ゴールデンア
ワー,チャンネル,及びテーマといった他のMGパラメータは全て有効であ
る。ユーザはスケジュールを設定する前にMGステータスを見直すべきであ
る。2ページの表示を使用してスケジュール一覧表示に16までの番組を入
力することができる。2ページ目にアクセスするにはページ・キー232及
び234を使用する。UPまたはDOWNキー232,234によってスケ
ジュール一覧表示を切り換えられる。」(34頁下から7行∼36頁1行)
⑾「MGキー222が入力されると,MGモードが選択される,図8。この
モードに入る際,システム・クロック時間とカレンダがステータス行バッフ
ァ350に記憶される。設定一覧表示ポインタ351が現在の時刻と日付に
基づいて最も近い0分ちょうどの時刻に調整される。
番組一覧表示の検索352がなされる。検索はチャンネル・バッファ,テ
ーマ・バッファ,ゴールデンアワー・バッファ,及び検索の方向の状態に依
存する。ページ356が「上へ」の場合,検索は一覧表示ポインタから始ま
り前方に進む。ページが「下へ」の場合357,検索方向は現在の一覧表示
ポインタから後方358に進む。検索が上記の基準を満足すると,番組一覧
表示が画面バッファ353に配置される。検索は画面バッファが一杯になる
354まで続き,一杯の場合検索は終了する。ステータス行情報は画面バッ
ファに送られTVによって表示355される。」(40頁1行∼14行)
⑿「373でP,CまたはAキー240,230または242の閉鎖が検出
された場合,377でゴールデンアワー・バッファ,チャンネル・バッファ
及びテーマ・バッファがオフまたはオンになる。364で画面バッファは消
去され,新しい検索が開始され検索基準の1つが変更される。
374でカーソル・キー232または234の閉鎖が検出された場合,画
面カーソルは378でカーソルの上下に対応して上下する。353で画面バ
ッファは更新され,新しいカーソル位置を反映する。」(41頁下から8行
∼42頁1行)
(13)「放送形式
各番組一覧表示は以下の情報によって構成される。
開始時刻時間,分
番組の長さ時間,分
チャンネル番号2桁の数字
テーマ分類番号2桁の数字
テーマ下位分類番号2桁の数字
リンク番号(シリーズ番組の場合のみ)3桁の数字
オプシション拡張一覧表示300文字までのテキス

番組の終了1つの文字
衛星記号2つの文字
衛星名5つの文字
暗号化及び特殊放送標識1つの文字

(48頁下から2行∼49頁下から6行)
3取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)について
⑴一致点の認定の誤り(その1)について
前記2で認定した刊行物1の記載によれば,引用発明においても,番組の
開始時刻,番組名,チャンネル名を含む番組スケジュール情報を外部から取
り込んでいることは明らかである。原告の主張は理由がない。
⑵一致点の認定の誤り(その2)について
ア前記2で認定した刊行物1の記載によれば,引用発明は番組スケジュー
ル情報に基づいてチャンネルごとの内容を一覧表示しているということが
できる。そして,キーボード220のカーソルキー232∼236を操作
することによって,表示されている一覧表のポインタの位置よりも前方(
過去方向)や,後方(未来方向)に存在する番組を表示できるから,放送
順に表示するものといえる。引用発明にはチャンネルの制限がなくすべて
の番組が一覧表示されるデフォルト・モードがあり,このモードでは,画
面上でカーソルキーを操作し,画面を更新することによって,すべてのチ
ャンネルを表示できるものである。原告の主張は理由がない。
イ原告は,引用発明は,ある1つの操作時点において特定の時刻以降に開
始する番組の番組内容しか表示しないのですべてのチャンネルを表示でき
ないと主張する。しかし,前記のとおり引用発明はすべてのチャンネルを
表示できるものであり,その表示時点をある1つの操作時点に限定する理
由はない。原告の主張は採用できない。
⑶一致点の認定の誤り(その3)について
上記⑵のとおり,引用発明も番組を放送順に表示するものである。そし
て,「放送順序表示手段」の具体的な構成の相違については,審決は相違点
3として認定しており,相違点3について容易に想到し得ることは後記のと
おりである。原告の主張は理由がない。
⑷一致点の認定の誤り(その4)について
原告は,引用発明は本件訂正発明のように「表示されている番組内容」
が「識別可能に表示」されるものではなく,「識別表示手段」は存在しない
と主張する。
この点,前記1で認定した本件訂正明細書には,「指定された番組を反転
表示させる処理が本発明の識別表示手段に相当する。」段落【0019】と
の記載がある。しかし,前記第2,2記載の本件訂正発明に係る特許請求の
範囲によれば,「識別表示手段」は,「位置指定手段により指定された位置
に表示されている番組内容を,指定されなかった位置の番組内容と識別可能
に表示する」ものであれば足り,上記のように番組の表示自体に変更を加え
るものに限るものではない。そして,前記2で認定した刊行物1の記載によ
れば,引用発明では,キーボードのカーソル・キーを使用してポインタを移
動させ,ポインタが所望の位置にある場合にSELキー228を押すことに
より番組が選択されることから,ユーザはポインタの置かれた位置により指
定する番組を識別できることは明らかである。したがって,引用発明も本件
訂正発明の「識別表示手段」を有するといえる。原告の主張は理由がない。
⑸相違点の看過について
前記⑴,⑵のとおり,引用発明は受信した番組スケジュール情報に基づい
て番組を一覧表示するものであるところ,「当該放送内容受信装置も電源を
投入した日の各チャンネルのテレビ番組の内容を取り出す」ことについて
は,審決は相違点2として認定し判断しているし,その余の「チャンネル表
示手段」と「放送順序表示手段」についての相違点に対して,審決は,相違
点3として認定し判断している(相違点2についての容易想到性の判断に争
いがなく,相違点3についての容易想到性の判断に誤りがないことは後記の
とおりである。)。原告の主張は理由がない。
4取消事由2(相違点についての容易想到性の判断の誤り)について
⑴相違点3についての容易想到性の判断の誤りについて
前記1で認定した本件訂正明細書の記載によれば,本件訂正発明は,放映
番組の簡単な内容と放映開始・終了時刻の情報に基づいて,カーソル位置に
応じた番組データをVTRへ出力させると,図4のような表示画面が得られ
るものといえる。そして,テレビ番組内容を,放映チャンネルごとに時間情
報とともに並べて表形式で表示することは,甲19の外,新聞,雑誌等のテ
レビ番組欄において採用されており,周知のものといえる。前記2で認定し
た刊行物1の記載によれば,引用発明においても,受信した番組スケジュー
ル情報には,各番組のチャンネル名,番組名,番組の開示時刻,番組の長さ
等が含まれ,これらの情報に基づいて番組一覧表の画面を表示しているので
あるから,画面上への番組の表示形式を「チャンネルの違い毎に縦もしくは
横の内の1方向に並べて」,「同一チャンネルの番組を,その放送順に,上
記1方向と垂直な方向に並べて」構成することは,当業者が容易に想到し得
ることである。したがって,相違点3について容易想到とした審決の判断に
誤りはない。
⑵相違点4についての容易想到性の判断の誤りについて
前記3⑷で判断したとおり,引用発明は,カーソル・キーを操作してポイ
ンタを移動させることによって所望の番組を指定するものである。そして,
甲11,16によれば,本件訂正発明に係る出願時において,番組表の画面
上でカーソルを上下左右に移動させることにより番組を選択する技術は,周
知の技術であったといえる。そうすると,相違点3の構成が当業者にとって
容易に想到し得る以上,番組の指定を「チャンネルの方向及び放送順の方向
それぞれ独立に移動可能なカーソルによって指定する」ようにすることは当
業者が容易に想到し得るものである。したがって,相違点4について容易想
到とした審決の判断に誤りはない。
⑶顕著な作用効果の看過について
原告主張の作用効果は,相違点3,4に係る構成が当業者において容易に
想到し得るものである以上,格別の効果ということはできない。原告の主張
は理由がない。
5取消事由3(手続上の瑕疵)について
本件訂正拒絶理由通知書(甲6)の記載によれば,そこで示された理由は審
決の理由と異なるものではない。原告の主張は理由がない。
6結論
以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がない。原告はその他縷々
主張するが,審決を取り消すべき誤りは認められない。したがって,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官中平健
裁判官上田洋幸

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◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
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