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平成24年9月18日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(行ウ)第6号違法公金支出差止等請求事件(以下「甲事件」という。)
平成22年(行ウ)第8号違法公金支出差止等請求事件(以下「乙事件」という。)
平成22年(行ウ)第10号違法公金支出差止等請求事件(以下「丙事件」という。)
平成23年(行ウ)第3号違法公金支出差止等請求事件(以下「丁事件」という。)
口頭弁論終結日平成24年4月24日
判決
主文
1被告は,A株式会社,B株式会社,株式会社Cに対し,連帯して,8億9775
万円及びうち3億5910万円に対する平成22年3月4日から,1億9848万
円に対する同年11月20日から,3億4017万円に対する平成23年4月1日
から,それぞれ支払済みまで年6分の割合による金員を請求せよ。
2被告は,Dに対し,1116万5008円及びうち別表1の「現金支給額」欄記
載の金員に対する「支払年月日」欄記載の日の翌日から,それぞれ支払済みまで年
5分の割合による金員を請求せよ。
3被告は,本件口頭弁論終結日以降,Eに対する忍野村監査委員としての地位に基
づく,報酬及び費用弁償等の金員を支払ってはならない。
4被告は,Eに対し,53万3500円及びうち別表2の「支払額」欄記載の金員
に対する「支払年月日」欄記載の日の翌日から,それぞれ支払済みまで年5分の割
合による金員を請求せよ。
5被告は,株式会社F,株式会社G,株式会社Hに対し,連帯して,1億4070
万円及びうち5628万円に対する平成22年3月26日から,4155万円に対
する同年10月26日から,4287万円に対する平成23年4月26日から,そ
れぞれ支払済みまで年6分の割合による金員を請求せよ。
6丙事件原告らの請求を棄却する。
7訴訟費用は,これを50分し,その9を丙事件原告らの負担とし,その余を被告
の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1甲事件
主位的請求
主文第1項に同旨
予備的請求
被告は,Iに対し,8億9775万円及びうち3億5910万円に対する平成
22年3月3日から,1億9848万円に対する同年11月19日から,3億4
017万円に対する平成23年3月31日からそれぞれ支払済みまで年5分の
割合による金員を請求せよ。
2乙事件
主位的請求
主文第2ないし第4項に同旨
予備的請求
ア被告は,Iに対し,1116万5008円及びうち別表1の「現金支給額」
欄記載の金員に対する「支払年月日」欄記載の日から,それぞれ支払済みまで
年5分の割合による金員を請求せよ。
イ被告は,Iに対し,53万3500円及びうち別表2の「支払額」欄記載の
金員に対する「支払年月日」欄記載の日から,それぞれ支払済みまで年5分の
割合による金員を請求せよ。
3丙事件
被告は,Iに対し,2億3879万6050円及びうち6170万8350円に
対する平成22年3月25日から,1959万8800円に対する同年4月16日
から,1149万9000円に対する同月23日から,3981万9700円に対
する同年11月16日から,5039万0200円に対する同月25日から,21
49万6100円に対する同年12月25日から,3428万3900円に対する
平成23年1月25日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を請求
せよ。
4丁事件
主位的請求
主文第5項に同旨
予備的請求
被告は,Iに対し,連帯して,1億4070万円及びうち5628万円に対す
る平成22年3月25日から,4155万円に対する同年10月25日から,4
287万円に対する平成23年4月25日から,それぞれ支払済みまで年5分の
割合による金員を請求せよ。
第2事案の概要
原告らはいずれも山梨県南都留郡忍野村(以下「忍野村」という。)の住民であ
り,甲事件原告らは忍野村議会の議員である。
甲事件は,被告が,忍野村とA株式会社・B株式会社・株式会社Cを構成員とす
るJ共同企業体との間において,北富士演習場周辺学習等供用施設の建設工事請負
契約(以下,北富士演習場周辺学習等供用施設を「本件図書館」といい,この請負
契約を「本件図書館請負契約」という。)を締結するに当たり,その前提となる平
成21年度予算及び契約締結に必要な忍野村議会の議決の双方についていずれも
専決処分を行ったことに関して,原告らが,前記専決処分は地方自治法(以下「法」
という。)179条1項の要件を満たさない違法なものであり,本件図書館請負契
約は私法上無効であるから,これに関する公金の支出も違法・無効であると主張し
て,被告に対し,法242条の2第1項4号により,主位的に,A株式会社・B株
式会社・株式会社Cに対して,不当利得に基づき,支出した請負代金8億9775
万円及び各支出額に対する各支出日の翌日からそれぞれ支払済みまで商事法定利
率年6分の割合による法定利息の支払請求をするよう求め,予備的に,Iに対して,
不法行為に基づき,8億9775万円の損害賠償及び各支出額に対する各支出日か
らそれぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求を
するよう求めた事案である。
乙事件は,被告が,Dを忍野村副村長,Eを忍野村監査委員に選任する旨の人事
案件(以下「本件人事案件」という。)に関する忍野村議会の同意の議決につき専
決処分を行ったことについて,原告らが,人事案件は専決処分の対象外であって,
議会の同意のない副村長や監査委員の選任は無効であるから,これらの者に対する
報酬の支払は違法な公金の支出であるなどと主張して,被告に対し,主位的に,法
242条の2第1項1号により,本件口頭弁論終結日以降,Eに対して支払われる
監査委員としての報酬等の支出差止めと,同項4号により,D及びEに対して,不
当利得に基づき,支払った報酬等(Dにつき合計1116万5008円,Eにつき
合計53万3500円)及び各支出額に対する各支出日の翌日からそれぞれ支払済
みまで年5分の割合による法定利息の支払請求をするよう求め,予備的に,同号に
より,Iに対して,不法行為に基づき,前期同額の損害賠償及び各支出額に対する
各支出日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求を
するよう求めた事案である。
丙事件は,被告が,平成21年度及び平成22年度予算に基づいて,住民に対し
住宅防音補助事業に関する補助金(以下「本件補助金」という。)を交付したこと
について,原告らが,本件補助金の交付は法232条の2の公益上の必要性を充足
していないから違法な公金の支出であるなどと主張して,被告に対し,法242条
の2第1項4号により,Iに対して,不法行為に基づき,支出した2億3879万
6050円相当の損害賠償及び各支出額に対する各支出日からそれぞれ支払済み
まで年5分の割合による遅延損害金の支払請求をするよう求めた事案である。
丁事件は,被告が,忍野村と株式会社F・株式会社G・株式会社Hを構成員とす
るK共同企業体との間において,平成21年度村道鐘山新線道路改良工事請負契約
(以下,平成21年度村道鐘山新線道路改良工事を「本件道路工事」といい,この
請負契約を「本件道路工事請負契約」という。)を締結するに当たり,その前提と
なる平成21年度予算及び契約締結に必要な忍野村議会の議決の双方についてい
ずれも専決処分を行ったことに関して,原告が,前記専決処分は法179条1項の
要件を満たさない違法なものであり,本件道路工事請負契約は私法上無効であるか
ら,これに関する公金の支出も違法・無効であると主張して,被告に対し,法24
2条の2第1項4号により,主位的に,株式会社F・株式会社G・株式会社Hに対
して,不当利得に基づき,支出した請負代金1億4070万円及び各支出額に対す
る各支出日の翌日からそれぞれ支払済みまで商事法定利率年6分の割合による法
定利息の支払請求をするよう求め,予備的に,Iに対して,不法行為に基づき,前
記同額の損害賠償及び各支出額に対する各支出日からそれぞれ支払済みまで年5
分の割合による遅延損害金の支払請求をするよう求めた事案である。
1前提となる事実(証拠を記載したもの以外は当事者間に争いがない。)
当事者
原告らはいずれも忍野村の住民である。また,甲事件原告らは平成21年及び
平成22年当時,忍野村議会の議員であった(以下,甲事件原告らを総称して「原
告ら議員」という。)。
被告は,忍野村の執行機関である。
条例等の定め
ア議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分の範囲を定める条例(乙
2)
第2条(議会の議決に付すべき契約)
地方自治法(昭和22年法律第67号)第96条第1項第5号に規定する契
約は,予定価格5000万円以上の工事又は製造の請負とする。
イ忍野村旧部落有統合財産管理条例(以下「本件管理条例」という。)(乙31)
第1条(財産の意義)
この条例で旧部落有統合財産(以下「旧部落有財産」という。)とは,明
治43年12月内野組,忍草組から,無償をもって忍野村に譲渡された土地
をいう。
第5条(特権地区分)
元土地提供部落特権地の区分は,別表のとおりとする。ただし,部落の同
意を得て村議会の特別多数議決があるときは,これを変更することができる。
第6条(処分の禁止)
旧部落有財産で国土保全のため,又は学校その他基本財産造成のため,村
有として存置する必要のあるものは売り払い又は譲与することができない。
ただし,公共用又は公共事業のため必要があるときは,この限りでない。
別表(抜粋)
特権地区分元土地提供部落地域(字名)及面積
永久全部収益権地忍草札合,鳥居峠,笹見山,湯
の平,中尾根,前阿弥陀,
鐘山,平山海沢
ウ忍草区会運営規約(甲16)
第2条(規約制定の目的)
この規約は,実在的総合人たる部落共同体(以下「区会」という)が旧来
から承継してきた部落有財産を保全し,部落住民の生活の向上と地域の発展
を図るため共同して行ってきた忍草区の旧慣を明文化し,以って区会の適正
な運営を図ることを目的とする。
第9条(会議の成立)
区民総会,区会議,組会議の運営は次のとおりとする。
第1号区民総会は区民の過半数の出席をもって成立し,その議決は多数
決とする。ただし,区有財産の処分,権利の消滅に係る事項は区民
全員の同意を必要とする。その他重要事項については区民3分の2
以上が出席し,その3分の2以上の同意を要する。
被告の各専決処分
被告は,平成21年5月29日,平成21年度忍野村一般会計予算等に関する
忍野村議会の議決について,法179条1項による専決処分を行った(以下「本
件専決処分①」という。)。
被告は,同年11月13日,Dを忍野村副村長,Eを忍野村監査委員の候補者
とする本件人事案件に関する忍野村議会の同意の議決について,同項による専決
処分を行った(以下「本件専決処分②」という。)。
被告は,平成22年1月27日,本件図書館請負契約締結にかかる忍野村議会
の議決について,同項による専決処分を行った(以下「本件専決処分③」という。)。
被告は,同年3月11日,本件道路工事請負契約締結にかかる忍野村議会の議
決について,同項による専決処分を行った(以下「本件専決処分④」という。)。
上記各専決処分は,いずれも忍野村議会が開会されず,議決すべき議案が議決
されなかったことを理由とするものであった。
請負契約の締結
被告は,平成22年1月18日,A株式会社・B株式会社・株式会社Cを構成
員とするJ共同企業体との間において,請負代金を8億9775万円とする約定
で,本件図書館請負契約を締結した(乙5)。
被告は,同年2月26日,株式会社F・株式会社G・株式会社Hを構成員とす
るK共同企業体との間で,請負代金を1億4070万円とする約定で,本件道路
工事請負契約を締結した(弁論の全趣旨)。
住民監査請求
甲事件原告らは,平成22年2月9日,忍野村監査委員に対し,本件専決処分
①及び③が違法であり,本件図書館請負契約に関する公金支出は違法であるとし
て,本件図書館請負契約に関する一切の公金の支出差止め及びIに対する損害賠
償請求等を求める住民監査請求をしたが,同監査委員は,同年4月9日,各専決
処分に違法はないなどとして,前記監査請求を却下ないし棄却した(甲1,2)。
乙事件原告らは,同年3月1日,忍野村監査委員に対し,本件専決処分②に重
大かつ明白な瑕疵があるとして,D及びEに対する報酬等の支出差止及びIに対
する損害賠償請求を求める住民監査請求をしたが,同監査委員は,同年4月20
日,措置請求の内容が監査対象外であるとして,前記監査請求を却下した(甲3,
4)。
丙事件原告らは,同年5月25日,忍野村監査委員に対し,忍野村住宅防音補
助金交付事業(以下「本件住宅防音補助事業」という。)は予算の裏付けがなく,
これに関する補助金の交付は違法な公金の支出であるなどとして,本件住宅防音
補助事業に関する一切の公金の支出差止め及びIに対する損害賠償請求等を求
める住民監査請求をしたが,同監査委員は,同年7月23日,本件住宅防音補助
事業には公益性が認められるなどとして,前記監査請求を却下ないし棄却した
(甲5,6)。
丁事件原告は,平成23年2月21日,忍野村監査委員に対し,本件専決処分
①及び④に重大かつ明白な違法性があり,本件道路工事請負契約に関する公金支
出は違法であるなどとして,本件道路工事請負契約に関する公金の支出差止め及
びIに対する損害賠償請求等を求める住民監査請求をしたが,同監査委員は,同
年4月14日,各専決処分に違法性はないなどとして,前記監査請求を却下ない
し棄却した(甲19,20)。
2争点及び争点に関する当事者の主張
本件専決処分①の違法性(甲,丙及び丁事件)
(原告らの主張)
法179条1項の規定に関する要件の認定は長が行うものであるが,その認定
は具体的な事情の下に客観的根拠に基づくものでなければならず,その認定につ
いて裁量があるとしても,その裁量は覊束裁量である。
専決処分についての上記解釈から,被告の本件専決処分①の適法性を判断する
ならば,平成21年度忍野村一般会計予算は,議会において議決すべき事件を議
決しない状態であったということはできず,被告には,専決処分の要件がないに
もかかわらず専決処分を行った権限の著しい踰越・濫用がある。
また,同項は「議決すべき事件を処分することができる。」と規定しているの
みで,「議決すべき事件を処分しなければならない。」とは規定していないところ,
被告は,議会が開会されなかったという外形的な事実の外に専決処分を行うべき
理由について全く主張立証せず,専決処分の目的も明らかにしていない。専決処
分は長と議会との二元代表制の調整を図る制度であり,行政執行の遅延を防止す
ることがその制度趣旨であるから,自己の政策を実現するための阻害要因となる
議会の議決を避けるために専決処分をすることはできないのであって,本件専決
処分は,専決処分制度の目的違反,不当な動機によることが強く推定されるとい
うべきである。
したがって,本件専決処分①は重大かつ明白な違法があって,無効といわなけ
ればならない。
ア議会の否決決議を無視した違法
忍野村議会は,平成21年3月19日の第1回忍野村議会臨時会(以下「臨
時会」という。)において,被告の一般的拒否権による再議の案件に対する採
決とは別に,本件図書館請負契約関連の予算を含む平成21年度忍野村一般会
計予算を否決した。
平成21年度忍野村一般会計予算に関する忍野村議会の修正議決について
被告が再議に付したことにより,当該修正議決は遡って効力を失うが,議案一
体の原則から,修正された部分のみならず,当該予算案全体が成立しないこと
になり,いわば,予算案に対する忍野村議会の態度は白紙ということになる。
再議に付されても,出席議員の3分の2以上の同意が得られない場合には廃案
となるのが原則であるが,新たな提案がなくても,議会が過半数の同意により
再議に付された議決と異なった内容の議決をすることは有効であり,この場合
には原案について新たな議決があったものと解されるから,平成21年3月1
9日にした平成21年度忍野村一般会計予算の否決決議は正当な議決である。
否決も議決の一種である以上,議会が否決の決議をした場合は議決すべき事
件を議決しないということはできず,法179条1項の専決処分はなしえない。
被告は会期不継続の原則を根拠に本件専決処分①の適法性を主張するが,二
元代表制の趣旨からすれば,専決処分制度は議会と長の間の調整のための補助
的な手段にすぎないのであって,前の会期で議会が否決の決議をした議案につ
いては,既に議会による議決があったものとして,後会において,専決処分は
できないというべきである。なぜなら,このように解さないと,長は否決した
議案についてもダミーの後会を介在させて議会の否決決議を容易に覆すこと
ができるようになってしまうところ,会期不継続の原則にこのような事態を容
認する趣旨は全く含まれていないというべきだからである。
イ被告が議会の議決がない状態を作出した違法
同年5月20日の平成21年第3回臨時会が流会になったのは,L議長が原
告ら議員の再三の請求にもかかわらず議会を開会せず,午後4時から開催され
た議員全員協議会の場において一方的に議会を開かない旨を宣言したためで
ある。しかし,その実質は,被告が本件図書館建設の公約を強引に実現するた
めに,同一会派に所属するL議長に指示もしくは同人と意を通じて同臨時会を
開会させずに外形的に法179条1項の「議会において議決すべき事件を議決
しないとき」という要件を作出したものである。
すなわち,忍野村議会の議員の定数を定める条例による忍野村議員の定数は
14名であり,7名の村議員の出席があれば議員の定数の半数以上の出席があ
るものとして会議を開くことができるところ,被告は,原告ら7名の議員が被
告提出の本件図書館請負契約関連の予算に従来から反対の立場を取っている
ことを十分に認識しており,かつ,L議長は法116条2項により議員として
議決に加わる権利を有しないことから,忍野村議会が開会されれば前記予算案
が否決されることが明白であった。そこで,なんとしても前記予算を成立させ
るために,被告が同一会派に所属するL議長に指示もしくは同人と意を通じて
同日の臨時会を開会させずに,後に専決処分をする意図で,外形的に議会にお
いて議決すべき事件を議決しないときという状態を作出したというのが実体
である。被告は,初めから忍野村議会の議決を免れ,専決処分により同一の予
算を成立させることができるとの意図をもって議会を招集したのであり,議会
の招集は,予算の審議を求めるために真摯に行われたものではなく,予算案を
専決処分によって成立させるためのダミーにすぎない。
忍野村議会が平成21年度忍野村一般会計予算の原案を否決した同年3月
19日から被告が同一内容の予算を提出した同年5月20日までの間,被告が
忍野村議会の議員,とりわけ原告ら議員と前記予算の内容について修正や調整
の協議を行ったことは全くなく,忍野村議会の意思がこの間に可決の方向に変
化したこともなかった。それにもかかわらず,被告が同一内容の予算を提出す
るという不合理極まりない行動をしたこと,被告とL議長が政治的意見を共通
にしていること,各専決処分は単発のものではなく,L議長が議長を務める時
期に一連のものとしていわば連続してなされたものであること,その過程の中
で,被告とL議長が議会対策について話合いをする機会が十分にあったことな
どの事実を考慮するならば,被告が単にL議長の違法な議会不開会に乗じた事
実にとどまらず,両者が少なくとも暗々裏に議会の議決を避けて被告の政策実
現のための専決処分を行うために,議会を開会しないことについての共通の認
識があったことが十分に推認されるというべきである。
したがって,同日の臨時会が開会しないという外形的な状態は,法179条
1項の「議会において議決すべき事件を議決しないとき」には該当せず,本件
専決処分①は専決処分の要件を欠いている。
(被告の主張)
争う。
議員及び長は,それぞれが民主的基盤を有しているが,議会は会議体であり,
地方公共団体の意思決定機関としての機能を十分に果たせない場合があるため,
その円滑な運営を図るために,長が議会に代わって本来議会の権限に属する事項
について権限を行使し,地方公共団体の意思決定を行うとされたのが専決処分で
ある。
被告は,平成21年度忍野村一般会計予算等についての議決を求めるために平
成21年第3回臨時会を招集した。ところが,忍野村議会は,同日午後1時03
分から午後3時57分まで全員協議会を開議したものの,その後の臨時会が開会
されずに流会となった。
「議会において議決すべき事件を議決しないとき」とは,本件のように,長が
臨時会を招集したにもかかわらず,議会がそれを開会せず,機能不全に陥ってい
るときを典型とするものである。
そこで被告は,本件専決処分①をしたのであり,このことに何の違法もない。
ア議会の否決決議を無視した違法
忍野村議会が議決すべき事件を議決しないのは,被告が平成21年度忍野村
一般会計予算の議決を求めた平成21年第3回臨時会であり,平成21年第1
回臨時会ではない。そもそも臨時会ではあらかじめ告示した付議事件以外のも
のを議題とすることはできないから,被告の一般的拒否権による再議の案件と
は別であるところの本件図書館請負契約関連予算を含む平成21年度忍野村
一般会計予算の否決に法律上意味はない。
予算は長のみが発案することができ,議会はそれを審議し,議決することと
されており,予算の発案権は長に専属する。そして,いかなる予算を調整する
のかは,予算の発案権の専属する長の専権事項であり,議会が予算案を否決し
たときは,長は,改めて予算を調整し,別の予算を発案することもあれば,議
会の翻意に期待して同じ予算を発案し,必要に応じて暫定予算を調整すること
もあるのであるから,前の会期で議会が否決した議案と同一内容の議案につい
ては,後会において専決処分をすることができないとする理由は何もない。
原告らは,一度議会で議決した同一の議題については,同一会期中に再び議
決しないという一事不再議の原則と混同しているきらいがある。
イ被告が議会の議決がない状態を作出した違法
原告らは,被告がL議長に指示し,もくしは意を通じていたことから本件専
決処分①は違法であると主張するが,いつのいかなる行為をもって被告がL議
長に指示もしくはL議長と意を通じたというのか不明である。
被告が原告らから促されてもL議長に臨時会の開会を要請しなかったとあ
るが,臨時会の開会は議会の問題であり,L議長が判断すべきことであるから,
これに被告が口出ししなかったとしても不思議はなく,むしろ当然の対応であ
る。議長が長の執務室に入って話をすることはどこの地方公共団体でも日常的
に行われていることであって,これをもって被告とL議長が意を通じていたと
することもできない。
原告らの主張は,長と議会との関係を理解しないものである。すなわち,議
会の開閉に関する事項は議会自ら決定するが,忍野村議会では,議会の開閉は
議長が宣告するものとされており,議長は議事を整理する責任と権限を有して
いる。そして,普通地方公共団体の長と議会との関係については,地方自治法
上,議会における条例の制定等に異議があるときは,長はこれを再議に付する
ことができること,議会の議決が収入または支出に関し執行することができな
いものであると認めるときは,長はこれを再議に付さなければならないこと,
議会が成立しないときなどは,長はその議決すべき事件を処分することができ
ることなどが規定されており,これらの規定によれば,議会と長は独立かつ対
等の機関とされ,村長は,議会に対して,所定の場合に再議に付し,その議決
すべき事件を処分するなどの権限を有するにすぎず,議会の指揮監督等の権限
を有していない。また,議会の会議運営については議会が会議規則を設け,議
会は地方自治法,会議規則等に違反した議員に対し懲罰を科することができる
など,地方公共団体においては,議会が自らその組織,運営に関して自律的に
決定し,処理することになっている。
被告は,臨時会を招集することはできても,その開会を指揮監督することは
できないから,平成21年第3回臨時会が開会されなかったことはL議長の責
任と権限によるものであり,議会側の問題であって,そのことの故に被告の専
決処分が制限されることはない。
被告は,議会が開会されなかった以上,臨時会は流会になったものとして取
り扱わなければならず,その判断について被告が介入する余地はないから,被
告が臨時会を開会させずに外形的に法179条1項の要件を作出したという
ことはあり得ない。
したがって,被告がL議長に対して,同臨時会を開会しないことを指示し,
もしくはL議長と意を通じていたとすることはできず,そのことをもって本件
専決処分①が違法であるということはできない。
本件専決処分②の違法性(乙事件)
(原告らの主張)
ア専決処分の対象外の事項について専決処分をした違法
副村長は,村長のもっとも重要な補助機関であるにもかかわらず,法162
条がその選任を村長単独の権限とせずにあえて議会の同意を必要とした趣旨
は,副村長は,村長のいわば補佐役として議会との交渉に当たるなど議会との
関係が深い上,村長に事故があるとき又は村長が欠けたときは村長の職務を代
理するなどの重要な機能を果たすことから,議会の同意を必要とすることによ
って,村長とは別個の観点からその選任について民主的コントロールを及ぼす
趣旨であると解される。
また,監査委員の職務は,普通地方公共団体の財務に関する事務の執行及び
その経営に係る事業の管理の監査などであり,これらの職務を遂行すべき監査
委員の選任を普通地方公共団体の長の単独の権限で行うときは,長との情実な
どから監査委員の執行機関に対する独立性,公正性が保てなくなるため,法1
96条は,監査委員の選任について議会の同意を要件としたものと解される。
これらの趣旨からすれば,副村長及び監査委員の選任についての同意の有無
は議会のみが判断すべき事柄である。そして,事柄の性質上,議会が専属的に
意思決定すべきであると考えられる事項について専決処分は許されないと解
釈すべきであり,本件人事案件は専決処分の対象とならない。
イ被告が議会の議決がない状態を作出した違法
原告M及び同Nは,平成21年11月4日から同月12日までの間,海外旅
行に出かける予定があり,L議長にその間の不在申告をし,了解されていた。
しかるに,被告は,L議長からこの事実を知るに至り,同月4日,前記原告ら
2名が空港を出発したのを確認するやいなや,忍野村職員に臨時会の招集の告
示を指示した。上記2名の議員が議会に出席しなければ,会議において村長派
の議員が多数を占めることになり,本件人事案件を可決することができるとの
目論見からである。
これは,忍野村議会副議長が同月5日に被告の自宅に赴き,現在忍草村出身
の議員で協議している最中であるため臨時会の開会を待つよう促したにもか
かわらず,被告が首を縦に振らなかったことからも明らかである。
結局,被告の上記行動を聞知した前記原告ら2名が急遽帰国し,同月9日の
臨時会に出席することにしたため,被告の目論見は水泡に帰した。
L議長は,原告らの抗議に対し,「与党の議長だからできることだ。」などと
述べており,被告は,それらのやり取りを聞いて,原告らに対し,「文句があ
るなら堂々と向かってこい。」などと強硬に述べていた。
これらの事実に照らせば,被告が,臨時会が開会されれば本件人事案件が否
決されることが明白であったことから,本件人事案件を成立させるために臨時
会を流会に追い込み,外形的に議会において議決すべき事件を議決しないとき
という状態を作出したことは明らかであって,法179条1項の「議会におい
て議決すべき事件を議決しないとき」に該当しないから,本件専決処分②は権
限行使の著しい踰越・濫用があるものとして違法である。
(被告の主張)
争う。
被告は,本件人事案件について議決を求めるため,平成21年第5回臨時会を
招集した。ところが,忍野村議会は,同年11月9日午後3時から午後3時05
分まで全員協議会を開議したものの,その後の同臨時会は開会されず,流会とな
った。
そこで被告は,本件専決処分②をしたのであり,このことに何の違法もない。
ア専決処分の対象外の事項について専決処分をした違法
専決処分は,議会において議決すべき事件又は決定すべき事件に関して,必
要な議決が得られない場合において,長と議会の調整を図るための手段として
認められたものであり,主として地方行政の渋滞を防止することを目的とした
ものである。これらの趣旨が妥当することは,副村長及び監査委員の選任の同
意であっても変わるところはない。
副村長及び監査委員の選任の同意について,専決処分を禁止する規定もない
以上,人事案件であることをもって,本件専決処分②が違法であるということ
はできない。
なお,普通地方公共団体の議会の議員及び長は選挙人が投票によりこれを選
挙するものとされており,議会及び長はそれぞれ民主的基盤を有しているとこ
ろ,長の専決処分が認められるのは,長も民主的基盤を有しているからにほか
ならず,二元代表制が採用されていることをもって,長の専決処分を否定する
理由とすることはできない。
イ被告が議会の議決がない状態を作出した違法
前記(被告の主張)イと同様,臨時会を開会しないことについて,被告が
L議長に指示し,もしくは被告とL議長が意を通じていたとすることはできず,
平成21年第5回臨時会が開会されなかったのは議会側の問題であるから,そ
のことの故に被告の専決処分が制限されることはない。
なお,忍野村議会において不在申告のルールは存在せず,被告は議会運営委
員会には出席していないから,その際のやり取りも見ていない。また,被告は,
新聞紙上で「議員のプライベートなことは知らなかった。必要に応じて議会を
招集しただけ」であることを忍野村住民に向けて公言している。
被告が議会の開会延期に関する要請について首を縦に振らなかったとして
も,それは臨時会の招集告示をした後のことであり,臨時会を開会するかはL
議長の問題であるから当然のことである。
被告が「堂々と向かってこい。」という趣旨の発言をしたことを裏付ける資
料は何もないだけでなく,原告の主張によれば,堂々と向かってきていないの
は被告の方であるから,被告がかかる発言をすること自体あり得ない。
本件専決処分③の違法性(甲事件)
(原告らの主張)
ア議会の否決決議を無視した違法
平成22年1月22日,L議長は,原告ら7名の議員の再三に渡る開会要求
にもかかわらず,平成22年第1回臨時会を開会しなかった。
法106条1項は「普通地方公共団体の議会の議長に事故があるとき,又は
議長が欠けたときは,副議長が議長の職務を行う。」と規定しているところ,「議
長に事故があるとき」は,議長の除斥,病気などのいわば非自発的な事由に限
定されず,L議長のごとく議長の職務を積極的に放棄して議会を開会しないよ
うな場合も含まれると解釈されなければならない。
また,忍野村議会においては,従来,副議長が欠員であった。
このような場合,議長及び副議長ともに事故があるものとして法106条2
項により仮議長を選挙して議長の職務を行わせるものとは解されておらず,法
107条の議長の職務を行う者がないときとして,年長の議員が臨時に議長の
職務を行うものと解されている。
原告ら議員は,同日,法107条に基づき最年長議員の原告Oが臨時議長と
なり,被告の招集にかかる平成22年第1回臨時会を開会し,法103条に基
づき,欠員であった副議長に原告Nを選任し,この副議長のもと,本件図書館
請負契約締結にかかる議案の否決決議をした。
これにより,本件図書館請負契約の締結を認めない忍野村議会の意思は何ら
の瑕疵もなく実体的に確定したのであって,議会が議決すべき事件を議決しな
いときに該当しないから,被告の行った本件専決処分③は権限の著しい踰越・
濫用がある。
なお,議員を辞職することなく議長職のみを辞職することは議会の許可なく
しては認められないところ,L議長は議長職を辞したい旨の意向を示していた
が,これは被告に与するために議員として議決に加わることを意図した個人的
な理由であり,議長として議会を開会しない理由とはならない。
イ被告が議会の議決がない状態を作出した違法
L議長は,原告ら議員の再三の要求にもかかわらず平成22年第1回臨時会
を開会しなかった。L議長のこの態度は,同臨時会を開会すれば被告提出の議
案が否決されることが明らかであったことから,外形的に議会が議決しない状
態を作出し,被告の専決処分を可能にさせる意図によるものである。
議会は開会されなければ活動できないのであって,同臨時会が開会されてい
ない以上,本件図書館請負契約締結にかかる議案は「議会において議決すべき」
状態にあったとはいえない。
したがって,被告の本件専決処分③は,法179条の要件を満たしていない。
(被告の主張)
争う。
被告は,本件図書館請負契約の締結について議決を求めるため,平成22年第
1回臨時会を招集した。ところが,忍野村議会は,平成22年1月22日午後4
時02分から午後4時03分まで全員協議会を開議したものの,その後の同臨時
会は開会されず,流会となった。
そこで被告は,本件専決処分③をしたのであり,このことに何の違法もない。
ア議会の否決決議を無視した違法
法106条は,一時的に議長の職を行う者がいないときに,仮議長をもって
暫定的にその職務を行わせるというものであり,元々副議長が欠員の場合で,
議長に事故があるときというのは,まさに同条が想定している場面である。他
方,法107条は,議長,副議長等の選挙を行う場合の規定であり,元々副議
長が欠員である場合に,議長に事故があったからといって副議長を選挙しなけ
ればならない理由はない。
そうすると,副議長が欠員であり,L議長に事故があるというのであれば,
仮議長を選挙しなければならないのであって,原告らの主張する臨時会は,何
ら権限のない者によって開かれたものとして存在せず,そこでの議決も存在し
ない。
同日は,午後4時02分から全員協議会が開議され,午後4時03分に一旦
休憩としていたにすぎず,全員協議会の休憩中に臨時会が開会されることはあ
り得ない。また,全員協議会の休憩からわずか42分後の午後4時45分の時
点で「議長の職務を行うものがない」とも「議長に事故がある」とも解する余
地はなく,原告らは,自己の要求するとおりにならないことをもってこれらの
要件を具備すると主張するにすぎない。
原告らの主張する臨時会について,忍野村の執行部は開会することすら知ら
されておらず,議事録も,議長が事務局長又は書記に作成させたものではなく,
必要的記載事項である出席議員及び欠席議員の氏名,職務のために議場に出席
した事務職員の職氏名,議事日程等の記載も欠いているから,正式な会議録の
体をなしていない。
イ被告が議会の議決がない状態を作出した違法
前記(被告の主張)イと同様,臨時会を開会しないことについて,被告が
L議長に指示し,もしくは被告とL議長が意を通じていたとすることはできず,
平成22年第1回臨時会が開会されなかったのは議会側の問題であるから,そ
のことの故に被告の専決処分が制限されることはない。
本件専決処分④の違法性(丁事件)
(原告らの主張)
平成22年3月4日の第1回忍野村議会定例会(以下「定例会」という。)が
開会されずに流会となったのは,忍野村議会が平成21年度忍野村一般会計予算
を否決した以上,本件道路工事請負契約の締結を承認しないことが明白であった
ため,被告が,前記定例会を流会に追い込み,外形的に議会において議決すべき
事件を議決しないときという状態を作出したことに基づくのであって,本件専決
処分④は重大かつ明白な違法があり無効といわなければならない。
(被告の主張)
前記(被告の主張)イと同様,定例会を開会しないことについて,被告がL
議長に指示し,もしくは被告とL議長が意を通じていたとすることはできず,平
成22年第1回定例会が開会されなかったのは議会側の問題であるから,そのこ
との故に被告の専決処分が制限されることはない。
本件住宅防音補助事業の公益性の有無(丙事件)
(原告らの主張)
法232条の2は,普通地方公共団体が,公益上必要がある場合に寄付又は補
助をすることができる旨を規定しているが,この要件の認定については,地方公
共団体の長の全くの自由裁量行為ではなく,考慮されるべき諸事情に照らして客
観的合理性が認められなければならない。
地方公共団体の補助金は,地方公共団体が住民全体から公租公課等の形で徴収
した原資を特定の者に無償で交付するものであるから,行政主体の恣意を防止し,
公正性を担保しなければならないことはいうまでもなく,公益性の判断にあたっ
ては,公益目的の内容のみならず,基本原則としての財政民主主義の原則,平等・
公平原則,公正決定原則などの原則が考慮されなければならない。
これを本件補助金の交付についていうならば,以下のような数多くの問題があ
り,公益上の必要性を認めた被告の判断には裁量権の踰越・濫用があって,違法
である。
ア忍野村住宅防音事業補助金交付要綱(以下「本件要綱」という。)の問題
本件要綱1条には,米軍等が使用する北富士演習場の周辺に所在する住宅に
ついて,音響障害を防止等するために必要な工事を行う者に対し,これに要す
る経費の一部を補助して住民の生活環境の保全を図る旨が規定されているが,
「米軍等」及び「北富士演習場の周辺に所在する住宅」の内容が具体化されて
おらず,交付対象が全く特定されていない。
また,本件要綱には,補助金交付の決定に至るまでの判定について,忍野村
住宅防音事業審査委員会の意見を聞き,村長が交付等の判定をする旨が規定さ
れているのみで,その判定基準,審査基準が全く規定されていない。補助金の
交付は限られた予算の中で行われるものであるから,支給対象者やその優先性
の決定に当たって,補助金交付の目的・趣旨を具体化した審査基準を設定し,
これを公正かつ合理的に適用して決定しなければならないにもかかわらず,本
件補助金については,住民間の平等性や優先性を担保するための最も重要な事
実関係となる村内各所の騒音状況の調査及びその結果の公表を行っておらず,
具体的な審査基準も公表しないまま交付決定が行われており,平等・公平原則,
公正決定原則,手続の透明性原則に違反することは明らかである。
そもそも,このような重大な事業決定の行為形式として行政内部の基準であ
る要綱を用いることは民主的基盤を損なうというべきであり,被告が条例の形
式を採らなかったこと自体も裁量権の踰越・濫用というべきである。
なお,忍野村住宅防音事業審査委員会は私的諮問機関にすぎず,その人選も
民主的基盤を有することの保障がないから,同委員会の意見を聴いたからとい
って補助金交付の公正さが担保されるものではない。
イ財政上の問題
本件住宅防音補助事業は国からの補助事業ではなく,忍野村の単独財源で行
うものである。
国の試算によれば,一戸あたりの防音工事費用は推定700万円から100
0万円を要するとされており,忍野村の全ての住戸を対象とするときは,その
額は優に100億円を超えることも予想される。一方,忍野村の平成22年度
一般会計総額中,歳入の内訳は,23.4パーセントが村税で,基金繰入金が
約35パーセントと,基金繰入金が歳入の主となっており,財政状態は余裕が
あるものとはいえない。
それにもかかわらず,被告は,平成21年度一般会計予算より約10億円増
の約51億円の平成22年度忍野村一般会計予算を編成しており,この増額の
主たる原因が本件補助金の財源であることは明らかである。しかし,忍野村の
財政上の余裕の程度との関連において,平成22年度に4億6000万円もの
補助金を支出せざるを得ないほど本件住宅防音補助事業の緊急性があるとは
いえない。
ウ他事考慮の問題
国は,国の指定する住宅防音指定区域内の所定の基準を満たす住戸について,
住宅防音工事を行う所有者等に対し,補助金を交付してきた。
歴代の忍野村長は,忍野村内の住宅防音指定区域の拡大について国と折衝し,
漸次その範囲が拡大され,平成12年に現在の住宅防音指定区域が定められた。
しかし,その指定区域は不整形であり,かねてから区域外の隣接住民との間に
不公平感が生じていた。
被告は,平成19年の村長選挙で,住宅防音工事対象区域の忍野村忍草地区
から同内野地区への拡大を国に要望することを公約の一つとして当選し,国に
要請した結果,国の補助金により,被告の要請に添った解決がなされることに
なった。しかし,その後,一向に防音工事が行われることがないまま,国は,
同年11月,不整形地の解消を反故にし,忍野村に対し,騒音状況再調査の結
果,騒音等の減少が認められるとして,住宅防音指定区域を縮小する旨を伝え
た。国が方針を変更した理由は明らかではないが,いずれにしても被告の失政
というほかない。
国の補助金による場合と忍野村の単独財源で実施する場合とでは,考慮され
るべき事項は当然異なるはずであるにもかかわらず,被告は,公正さを担保す
るための各地区の音量調査,区域の決定手続の透明性の確保等の要考慮要素に
全く意を用いておらず,所得格差や住宅防音工事後の住宅の管理・処分につい
ても考慮した様子がうかがわれない。
本件住宅防音事業の実態は,国の住宅防音指定区域が不整形であることから
生じている不公平感の除去そのものを目的として防音事業設定エリアを設定
し,そのエリア内の住戸に対してのみ補助金を交付するというものであって,
本件要綱1条の音響障害を防止し,住民の生活環境の保全を図る旨の目的とは
明確に異なるものである。
被告は,自らの失政を糊塗し,選挙公約である不整形による不公平感の解消
を何とか実現するために忍野村の単独財源による本件住宅防音補助事業を強
行したのであって,本件住宅防音補助事業には,住宅防音指定区域外の隣接住
民の間に生じている不公平感の解消そのものを直接目的として行われた他事
考慮の違法があるというべきである。
エ判断主体の問題
補助金を支出するためには議会の議決が必要であるから,公益上の必要の判
断主体は首長の独占ではなく,首長及び議会にあるというべきであり,首長が
議会の議決を無視することはそれだけで公益上の必要の判断について裁量権
の踰越・濫用があるというべきである。
平成21年度の住宅防音補助事業関連の予算は忍野村議会により明確に否
決され,被告の専決処分は無効であるから,平成21年度の住宅防音補助事業
にかかる補助金の支出は,それだけで公益性の判断に裁量権の踰越・濫用があ
る。
(被告の主張)
争う。
忍野村を含む1市2村に存する北富士演習場では,もともと自衛隊による軍事
訓練が実施されていたところ,平成9年から米軍による実弾射撃訓練が実施され
るようになった。軍事訓練による爆撃音,地響きの被害は深刻な問題であり,そ
の解消,軽減は忍野村住民の悲願であるとともに,自衛隊及び米軍による軍事訓
練を受け入れ,国から交付金,助成金の交付を受けてきた忍野村の責務でもあっ
た。そこで,忍野村は本件要綱を定め,住宅防音工事に対する補助金を交付する
こととした。
ところで,住宅防音事業における補助といっても,現実には財源の問題もあり,
一度に全てをすることは不可能であるし,およそ米軍等の砲撃を主とする射撃の
実施等により生じる音響障害のない場合にまで補助することはできない。
そこで,本件要綱は,補助金交付の対象が適正か否かを審査するため,工事希
望者に交付申込書とともに添付書類を提出させることとし,村長は,忍野村住宅
防音事業審査委員会の意見を聴いて補助金の交付について判定することとした
のであって,本件住宅防音補助事業に基づく補助金の交付に公益上の必要性があ
ることは明らかである。
原告らは,本件要綱や他事考慮等の問題を主張するが,そのことによって公益
性を欠くことにはならず,それ自体失当というほかない。
すなわち,単に要綱の文言如何によって当該補助金が公益性を欠くことになる
わけではないし,財政が潤沢な地方公共団体はむしろ少数にとどまるのであって,
単に財政状況の如何によって当該補助が公益性を欠くことになるわけでもない。
また,本件住宅防音補助事業が,その歴史的経緯から,一面において国の防音指
定区域の不整形による不公平感を除去しようとするものであることは否定しな
いが,そのことの故に住宅防音工事が住民の生活環境の保全を図るものではない
ということにはならない。両者は矛盾抵触するものではなく,原告らの主張する
不公平感の除去というのは,米軍の砲弾の轟音が響き,忍草住民を苦しめ続けて
いる状況にあって,同じ被害を蒙りながら救助の対象とならない者が存在してい
る状況を改善するということである。
決定過程に至る被告の判断の過程に裁量権の踰越・濫用があるというのは,名
宛人等の保護が問題となる処分の違法に関する議論であり,そのことの故に補助
金交付という財務会計行為が違法となることはないし,要綱の形式をとったこと
自体が裁量権の踰越・濫用であるというのは,補助に関する基本を理解していな
いというほかない。
なお,本件要綱において,内野地区が住宅防音工事の対象から除外されている
わけではなく,財源の問題を考慮して内野地区も順次検討することになっている
のであって,一部の住民にのみ補助金を交付しようとするものではない。
本件道路工事に関する手続の瑕疵(丁事件)
(原告らの主張)
忍野村は,県令の布達により明治8年に忍草村と内野村が合併して誕生した。
忍野村誌には,明治14年に旧内野村及び旧忍草村所有地が官有地に強制編入
されたこと,明治20年に官有地に強制編入された旧部落有地が有償で払い下げ
られたことなどが記載されている。
そして,忍野村議会は,昭和38年,忍野村有財産のうち,旧忍草村及び旧内
野村提供の林野は当時の部落有財産を信託的に村有としたものであり,管理処分
の権能が事実上部落に存したことを確認すること,それらの土地の実質的な管理
処分に関する権限は部落において行使するものとし,忍野村はこれに関する部落
の決定を尊重することなどを内容とする覚書を議決した。
これらの経緯に照らせば,本件道路工事の対象となっている道路用地のうち,
忍野村忍草字鐘山2805番1,同2805番4,同2805番5の土地(以下,
これらを併せて「本件土地」という。)が旧部落有財産に該当することは明らか
である。
また,本件管理条例中の「元土地提供部落特権地」とは「特別な権利がある土
地」を意味し,「特別な権利」とは,明治40年代以前から使用収益していた忍
草組及び内野組部落の旧慣上の入会権と考えることが相当であるから,本件土地
が,この元土地提供部落特権地に含まれることも明らかである。本件土地は不動
産登記上忍野村の所有として登記されているものの,忍草区の旧慣上の総有的入
会権が存在することは否定できない事実である。
本件管理条例には,忍草組が提供した土地は全て永久全部収益権地と位置付け
られ,区分を変更するときは部落の同意を得なければできないこと,関係部落の
同意がなければ特権地を貸し付けることはできないことなどが規定されている
ところ,特権地とは正に入会地であるから,この特権地は忍草区会運営規約9条
1号に基づき,忍草区民全員の同意を得なければ財産の処分等できないことは明
白な事実である。そして,本件道路工事による道路整備は,本件土地を道路の区
域決定とすることと一体をなすものであり,本件道路工事は,模範林を道路敷地
とし,道路の区域決定することによって,物理的はもとより,法律上も旧慣の変
更又は廃止にあたるというべきである。
本件土地は,忍野村内の行政区である忍草区の旧慣上の総有的入会権が存在す
る模範林が所在する土地であり,忍草区民全員の同意を得て,かつ,忍野村議会
の特別多数決がなければ処分できないことになっているにもかかわらず,被告は,
上記の手続を全く行うことなく,本件土地の所有名義が忍野村となっていること
から,忍野村の自由な管理処分権があると称してほしいままに道路用地として本
件道路工事を行ったのであり,その違法たることは明らかである。
(被告の主張)
争う。
入会権は収益の事実を前提とするものであるところ,本件土地は山の急斜面に位
置しており,現在はもちろん,歴史的にも,そこで忍草組が収益していた事実はな
いから,忍草組の入会権は存在しない。
また,たとえ忍草組の入会権が存在し,本件道路工事がその入会権を侵害するも
のであったとしても,それは入会権者との問題であり,そのことによって本件道路
工事請負契約にかかる財務会計行為が違法となるわけではない。
本件土地が本件管理条例1条にいう旧部落有財産に含まれることは原告の主張
のとおりであるが,同4条にいう元土地提供部落特権地に含まれるかについては疑
問がある。本件管理条例では,元土地提供部落特権地について,特権地区分の変更,
売り払い及び譲与等は規制されているが,道路の整備は規制されていないし,本件
道路工事は,既存の村道を改良して急カーブを緩和等するものであるから,旧慣を
変更し又は廃止するものでもない。
なお,忍草区会運営規約は,任意団体である忍草区会の内部規定であり,区有財
産の処分等について区民全員の同意が必要とされるのは忍草区会がその財産を処
分する場合であるから,これに忍野村が拘束されることはない。
第3当裁判所の判断
1前記前提となる事実に下記証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認
められる。
忍野村議会会議規則の定め
忍野村議会会議規則には以下の規定が設けられている(乙1)。
ア第8条(議会の開閉)
議会の開閉は,議長が宣告する。
イ第11条第1項(会議の開閉)
開議,散会,延会,中止又は休憩は,議長が宣告する。
ウ第111条(会議録の記載事項)
会議録に記載する事項は,次のとおりとする。
開会及び閉会に関する事項並びにその年月日時
開議,散会,中止及び休憩の日時
出席及び欠席議員の氏名
職務のため議場に出席した事務局職員の職氏名
説明のため出席した者の職氏名
議事日程
議長の諸報告
議員の異動並びに議席の指定及び変更
委員会報告書及び少数意見報告書
会議に付した事件
議案の提出,撤回及び訂正に関する事項
選挙の経過
議事の経過
記名投票における賛否の氏名
その他議長又は議会において必要と認めた事項
忍野村議会の状況
平成21年当時,忍野村議会は,被告を支持する会派の議員7名とその反対の
立場の原告ら議員7名によって構成されており,L議長は被告を支持する会派に
所属していた(甲10,21,原告P,弁論の全趣旨)。
本件専決処分①に至る経緯
ア平成21年2月26日から同年3月17日までを会期とする平成21年第
1回定例会が開会し,被告は,総額を40億4889万4000円とする平成
21年度忍野村一般会計予算を提出した。なお,本件道路工事は継続事業であ
るため,前記予算案において,本件道路工事関連予算は継続費として計上され
ていた。
同年3月17日,忍野村議会は,法115条の2に基づき,前記当初予算の
うち,本件住宅防音補助事業関連及び本件図書館請負契約関連等3件の予算に
ついて,総額5億4000万円の予算削除の修正動議を提案し,賛成多数で可
決した。
その後,忍野村議会は,平成21年度忍野村一般会計予算のうち,前記修正
議決を除く原案を採決し,質疑討論なく全会一致で可決して,平成21年第1
回定例会を閉会した。
同月19日,被告は,前記修正議決に対し,法176条1項の一般的拒否権
に基づく再議を求めて平成21年第1回臨時会を招集した。その際,被告から
再議を求める理由について説明されたことはなかった。
忍野村議会が平成21年第1回臨時会を開会して採決した結果,前記修正議
決は,法176条2項及び3項の規定による出席議員の3分の2以上の同意が
なかったことから確定しなかった。その際,忍野村議会は,平成21年度一般
会計予算の原案を審議し,これを否決する決議をした。
イ同月30日,被告は,平成21年第2回臨時会を招集し,歳入総額6億53
37万7000円,歳出総額11億8874万1000円の暫定予算を提出し,
忍野村議会はこれを可決した。なお,この暫定予算には,本件図書館請負契約
及び本件住宅防音補助事業を含む予算は計上されなかった。
ウ同年5月20日,被告は平成21年第3回臨時会を招集し,平成21年度一
般会計予算と同一内容の総額40億4889万4000円の予算案等の議案
を提出した。同年3月から同年5月20日までの間に,被告と原告ら議員との
間で,平成21年度忍野村一般会計予算について協議が行われたことはなく,
同一内容の予算案を再度提出する理由について,被告が説明したこともなかっ
た。
同日午後1時03分から議員控室において,忍野村議員全員及び被告ら忍野
村執行部出席の下,忍野村議会全員協議会が開会された。全員協議会において
は,平成21年度忍野村一般会計予算等の議案について議論がなされたが,原
告ら議員の意見は同年3月の議会におけるやり取りと同様であり,議論は平行
線をたどった。
原告ら議員は,全員協議会の休憩中などに,L議長に対し,再三に渡り同日
の臨時会の開会を要求したが,L議長は,同日午後3時57分に「本日の会議
はそういう意味合いから,まだまだ議論すべきであると,そんなふうに思いま
す。したがって皆様方には大変恐縮に思うわけでありますけれども,本日の臨
時会,その前に行われている全員協議会は以上をもちまして閉じます。」と述
べて全員協議会を閉会した。
原告Pは,L議長が議員控室から退室した後,被告に対し,L議長に対して
臨時会を開会するよう説得すべき旨を要請したが,被告がL議長に対して臨時
会の開会を促すことはなく,同日の臨時会は開会されないまま流会となった。
同日午後4時過ぎころ,被告は,全員協議会に出席していた忍野村職員に対
し,臨時会は開会されないため部署に戻るよう指示した。
エ同月29日,被告は本件専決処分①を行った。同専決処分までの間に,被告
と原告ら議員との間で平成21年度忍野村一般会計予算に関して協議が行わ
れたことはなく,被告から同専決処分を行う理由について説明がなされたこと
もなかった。
同年6月16日,平成21年第2回定例会が開会し,被告は,法179条3
項に基づいて,忍野村議会に対し,本件専決処分①の承認を求めたが,忍野村
議会はこれを否決して承認しなかった。(以上甲11,21,原告P,弁論の
全趣旨)
本件専決処分②に至る経緯
ア原告M及び同Nは,平成21年10月23日開催の議会運営委員会において,
同年11月4日から同月12日までの間,ドイツ及びフランスへ海外旅行に出
かけるため不在である旨を発言し,L議長に対して不在申告をして,その了解
を得た。前記原告ら2名は,同月4日に出国した。
イ被告は,同月4日,L議長同席の下で,忍野村議会事務局長に対し,同月9
日の臨時会の招集を指示し,Dを忍野村副村長,Eを忍野村監査委員の候補者
とする本件人事案件に関する忍野村議会の同意を議案とする平成21年第5
回臨時会の招集がなされた。
この招集通知は,同月4日の午後3時以降に原告ら議員に通知された。原告
M及び同Nは,他の議員らから臨時会招集の電話連絡を受けて急遽帰国した。
なお,忍野村議会においては,本件人事案件について反対の立場の議員が過半
数を占めていた。
ウ同月5日,忍野村議会副議長が被告宅に赴き,忍草村出身の議員で協議して
いる最中であるため臨時会の開会を待つよう促したが,被告は了承しなかった。
エ同月9日午後3時から,帰国した原告M及び同Nを含む全員協議会が開会さ
れた。
原告ら議員は,当該全員協議会において,L議長に対し,同日の臨時会の開
会を度々要求したが,L議長は臨時会を開会しない旨の発言をし,同日午後3
時05分に全員協議会を閉会させた。その後,L議長は臨時会を開会せず,同
日の臨時会は流会となった。
原告ら議員はL議長に対して抗議したが,L議長は,「与党の議長だからで
きることだ。」と述べ,原告M及び同Nが帰国して情勢が変わったために同日
の臨時会を開会しなかった旨の発言をした。その際,被告は,原告ら議員とL
議長とのやり取りを見ており,原告Nに対し,文句があるなら堂々と向かって
来いという趣旨の発言をした。
オ被告は,同月13日,本件専決処分②を行った。同専決処分までの間に,被
告と原告ら議員との間で本件人事案件について協議が行われたことはなく,被
告が同専決処分を行う理由について説明したこともなかった。
被告は,同月30日,本件専決処分②の承認を求めて平成21年第6回臨時
会を招集したが,忍野村議会はこれを不承認とする議決を行った。(以上甲1
2,21,22,原告P,原告N,弁論の全趣旨)
本件専決処分③に至る経緯
ア平成21年11月25日,本件図書館の建設工事について,予定価格を8億
6812万円とする入札告示がなされた。
平成22年1月18日,前記入札が実施され,A株式会社・B株式会社・株
式会社Cを構成員とするJ共同企業体が落札価格8億5500万円で本件図
書館の建設工事を落札した。
イ同月22日,被告は,法96条1項5号,議会の議決に付すべき契約及び財
産の取得又は処分の範囲を定める条例2条により忍野村議会の議決を要する
案件である本件図書館請負契約の締結についての議決を求めて平成22年第
1回臨時会を招集した。
ウ同日午後4時02分,全員協議会が開会された。
L議長は,平成21年12月4日に議長を辞することを表明したが,いまだ
後任が決まっていない状況のため議長の選出について議論してもらいたい旨
の発言をして,平成22年1月22日午後4時03分に全員協議会を休憩とし
た。
その後,原告ら議員がL議長に対して同日の臨時会の開会を再三要求したが,
L議長は臨時会を開会しなかった。
エ原告ら7名の議員が,同日の全員協議会の席上において,最年長議員の原告
Oによって平成22年第1回臨時会を開会する意向を示したところ,L議長ら
は議場から退場した。
原告らは,同日午後4時45分,法107条に基づき最年長議員である原告
Oが臨時議長となり,前記臨時会を開会した上,法103条に基づき,副議長
に原告Nを選任して,本件図書館請負契約についての議案を否決する旨の決議
をした。
オ被告は,同月27日,本件専決処分③を行った。同専決処分までの間に,原
告ら議員と被告との間で本件図書館請負契約締結についての協議が行われた
ことはなく,被告が同専決処分を行う理由について説明したこともなかった。
忍野村議会は,同月29日,被告に対し,前記否決決議の結果を「忍野村議
会臨時議会会議録」及び「議案審議の結果の送付について」と題する書面によ
り報告送付した。
被告は,同年3月29日開会の平成22年第2回臨時会において,法179
条3項に基づいて本件専決処分③の承認を求めたが,忍野村議会はこれを否決
して承認しなかった。(以上甲21,乙3,4,原告P,弁論の全趣旨)
本件専決処分④に至る経緯
ア平成22年2月26日,本件道路工事の入札が実施され,株式会社F・株式
会社G・株式会社Hを構成員とするK共同企業体が落札価格1億3400万円
(消費税抜き)で本件道路工事を落札した。
イ被告は,同年3月4日招集の平成22年第1回定例会において,法96条1
項5号,議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分の範囲を定める条
例2条により忍野村議会の議決を要する案件である本件道路工事請負契約の
締結について議決を求める議案の提出をした。
同日,原告ら議員は,L議長に対して再三に渡り定例会の開会を要求したが,
L議長は定刻の午後4時を過ぎても議会を開会せず。同定例会は流会となった。
ウ被告は,同月11日,本件専決処分④を行った。同専決処分までの間に,被
告と原告ら議員との間で本件道路工事請負契約締結についての協議が行われ
たことはなく,被告が同専決処分を行う理由について説明したこともなかった。
被告は,同月29日開会の平成22年第2回臨時会において,忍野村議会に
対し,本件専決処分④の承認を求めたが,忍野村議会はこれを否決して承認し
なかった。(以上甲21,原告P,弁論の全趣旨)
平成22年度忍野村一般会計予算の成立
被告は,平成22年3月4日,平成22年第1回定例会を招集して,総額を5
1億1092万7000円とする平成22年度忍野村一般会計予算を提出した
が,L議長が同定例会を開会せず,流会となったため,前記予算案は廃案となっ
た。この予算には,本件住宅防音補助事業関連である4億6000万円の予算が
含まれていた。
同月29日,被告は,平成22年第3回臨時会を招集して,前記同様の総額5
1億1092万7000円の平成22年度忍野村一般会計予算を提出した。
忍野村議会は,同臨時会を開会した上,前記予算案を採決し,賛成多数で原案
どおり可決した(弁論の全趣旨)。
本件住宅防音補助事業実施の経緯等
ア北富士演習場の使用の経緯等
昭和11年1月から昭和13年1月にかけて,旧日本陸軍は,梨ケ原,大和
ケ原等の民公有地約2000町歩を買収して北富士演習場を開設した。
昭和20年10月,米軍の進駐とともに北富士演習場は米軍に接収され,昭
和28年9月24日,日米安全保障条約3条による行政協定に基づき,日米合
同委員会が北富士演習場の使用を承認し,同年10月16日の閣議決定をもっ
て北富士演習場は正式に米駐留軍の使用のために提供されることとなった。
昭和31年3月15日に北富士演習場に駐留していた米軍部隊の大部分が
沖縄に引き揚げたのを受け,同演習場の一部が返還された。昭和33年7月1
5日以降は,北富士演習場に駐留する米軍部隊はなくなり,沖縄から米軍が随
時来麓,演習を実施し,米軍が演習場を使用しないときは自衛隊が常時演習を
行うようになった。
その後,国と山梨県との間で数次に渡る北富士演習場の使用協定が締結され,
同演習場の使用が継続されているが,その間,周辺自治体や地元協議会等から
は,住宅防音補助事業の積極的推進及び補助事業対象区域の拡大等の要望が提
出された。(乙17)
イ本件住宅防音補助事業の経緯
平成9年8月,北富士演習場に関して,国は住宅防音工事区域の暫定エリア
を設定し,助成を開始した。これに対し,忍草入会組合は,平成14年5月1
4日,国の防音工事の実施対象区域に忍草区の一部の区域が含まれておらず,
同じ騒音被害を蒙りながら救助の対象とならない戸数が100戸程度生じて
不平等であるとして,忍草区全域を対象区域として指定することを国に申し入
れるよう忍野村に対して陳情した。
国は,平成15年3月27日,忍野村に対し,「現在の指定区域が不整形な
ことから不公平感については重く受け止め検討してまいりたい。」と回答し,
平成18年5月30日には,住宅防音指定区域の拡大はできないものの,住宅
防音指定区域に隣接する住民が感じている不公平感の解消について,「忍野村
における住宅防音工事の実施戸数は100戸程度を上限とし,実施する住宅に
ついては,住宅防音指定区域に隣接する地域から貴村が責任を持って選定する。
一部工事に着手すべく,平成19年度概算要求に計上する。」ことを回答した。
しかし,平成19年11月30日,国は,住宅防音指定区域を縮減し,隣接
住民については住宅防音工事を実施しない方針を明らかにした。これを受け,
忍草区入会組合は,同年12月5日,北富士演習場第8次使用協定の協議の席
に着かないことを決定し,忍野村に対して,村費を充当してでも不公平感を解
決すべきことを要望した。
忍野村は,平成20年3月27日,村が事業主体となって本件住宅防音補助
事業を実施することを決定した。(乙18~27)
本件要綱の定め等
被告は,平成21年6月15日,忍野村告示第38号をもって本件要綱を定め
た。
本件要綱には,以下の規定が設けられている。(乙10)
ア第1条(目的)
この告示は,米軍等が使用する北富士演習場の周辺に所在する住宅について,
米軍等の砲撃を主とする射撃,爆撃その他火薬類の使用の頻繁な実施により生
じる,音響障害を防止又は軽減するため必要な工事(以下「住宅防音工事」と
いう。)を行う者に対し,これに要する経費の一部を補助することにより,も
って住民の生活環境の保全を図るとともに,住宅防音工事実施による村内建築
産業の活性化及び雇用対策を促進することを目的とする。
イ第2条(補助金の交付)
村長は,平成12年11月22日において現に村内に所在する住宅の防音工
事を行う所有者等(当該住宅の所有者又は当該住宅に関する所有権以外の権利
を有する者をいう。)に対し,予算の範囲内において,住宅防音事業補助金(以
下「補助金」という。)を交付する。ただし,次の各号のいずれかに該当する
者は,この告示による補助金の交付を受けることができない。
村税,使用料,手数料その他本村に対する債務の履行を怠っている者
この告示による補助金の交付を受けている者
演習場周辺住宅防音事業補助金交付要綱(平成19年防衛省訓令第109
号)の規定による住宅防音工事の助成を受けたもの又は受けることができる

ウ第6条第1項(交付申込書の配布及び提出)
村長は,住宅防音事業補助金の交付の対象として適正かどうかを審査するた
め,工事希望者に対し,別記第1号様式による交付申込書を配布し,次の各号
に掲げる添付書類とともにこれを提出させるものとする。この場合,添付書類
は,交付申込書の提出前3月以内に作成されたものとし,交付申込書及び添付
書類の記載事項に変更があったときには,変更事項が確認できる書類を添えて
速やかに報告させるものとする。
エ第7条(補助金の内定)
村長は,前条第1項の規定による申込があったときは,忍野村住宅防音事業
審査委員会の意見を聴き,補助金の交付等について判定し,その結果を別記第
2号様式により当該申込をした者に通知するものとする。
オ第8条(委員会の設置等)
第1項住宅防音事業の実施に関し審査するため,忍野村住宅防音事業審査
委員会(以下「委員会」という。)を設置する。
第2項委員会は,有識者及び住民等をもって組織する。
第3項委員会について,必要な事項は別に定める。
カ第9条第1項(補助金等の交付申請)
交付対象者は,補助金等交付申請書により村長に申請しなければならない。
キ第10条(補助金の交付決定)
村長は,前条第1項の規定による申請があったときは,補助金の交付につい
て判定し,その結果について当該申請をした者に通知するものとする。
ク第13条(補助金の請求及び支払等)
村長は,交付対象者からの請求に基づき,補助金を交付するものとする。
忍野村住宅防音事業審査委員会の実施状況等
本件要綱8条1項に基づき,忍野村住宅防音事業審査委員会が設置され,平成
21年6月18日から同年9月15日にかけて,5回に渡りその委員会が開催さ
れた。なお,忍野村住宅防音事業審査委員会は,忍草入会組合長,忍草区長,内
野区長及び山梨県立大学国際政策学部准教授等によって構成されていた。
同委員会においては,平成21年度住宅防音事業対象区域の設定について,不
整形の解消を出発点とすべきことが確認され,区域内の住宅防音事業の優先順位
については,騒音のデータを採取してその大小によって決定すべきこと,着弾地
から近い順に工事を進めるべきこと,高齢者や病人のいる世帯を優先すべきこと
などの意見が交わされた。
忍野村住宅防音事業審査委員会は,同年8月6日,住宅防音補助事業について,
国による住宅防音工事実施区域の不整形解消を目的とすること,限られた財源で
多くの世帯を事業実施するため,アパート等営業に供する住宅を対象外とするこ
と,補助対象者は村内建築関連事業者に住宅防音工事を実施させることなどを決
定し,対象区域については,着弾地に隣接し,砲撃音の発生により最も音響障害
を被っている地区から当該年度のエリア設定を行い順次実施するものとして,忍
野村住宅防音工事第1期エリアを設定した。また,補助金交付の優先順位につい
ては,住宅防音事業実施の均等,平等性を保つため,設定エリア内の希望世帯に
おいて抽選により施工順位を決定すること,当該年度の予算の範囲内で抽選順位
により事業実施を行い,残りの世帯については翌年度以降に順次実施することを
決定し,これらの決定事項を被告に報告した。(乙29の1~29の5,33)
各事件の支出の内容
ア甲事件
忍野村は,J共同企業体に対し,本件図書館請負契約の代金として,平成2
2年3月3日に3億5910万円,同年11月19日に1億9848万円,平
成23年3月31日に3億4017万円をそれぞれ支払った(乙6,13,弁
論の全趣旨)。
イ乙事件
忍野村は,Dに対し,副村長の給与等として,別表1「支払年月日」欄記
載の日に「現金支給額」欄記載の金員を支払った(弁論の全趣旨)。
忍野村は,Eに対し,監査委員の報酬として,別表2「支払年月日」欄記
載の日に「支払額」欄記載の金員を支払った(乙14の2,36,弁論の全
趣旨)。
ウ丙事件
忍野村は,平成21年度忍野村一般会計予算に基づき,本件住宅防音補助
事業の補助金として,合計10名の申請者に対し,平成22年3月25日に
6170万8350円,同年4月16日に1959万8800円及び同月2
3日に1149万9000円の合計9280万6150円を支払った。また,
山梨県立大学国際政策学部准教授に対し,報償費として6万円,設計審査・
完了確認等を行った業者に対し,業務委託料として156万8390円をそ
れぞれ支払った。
忍野村は,平成22年度忍野村一般会計予算に基づき,本件住宅防音補助
事業の補助金として,合計16名の申請者に対し,同年11月16日に39
81万9700円,同月25日に5039万0200円,同年12月25日
に2149万6100円及び平成23年1月25日に3428万3900
円の合計1億4598万9900円を支払った。(以上乙11,15,弁論
の全趣旨)
エ丁事件
忍野村は,K共同企業体に対し,本件道路工事請負契約の代金として,平成
22年3月25日に5628万円,同年10月25日に4155万円,平成2
3年4月25日に4287万円をそれぞれ支払った(弁論の全趣旨)。
なお,前記各事件の支払はいずれも被告が支出命令を発して行ったものであ
った(弁論の全趣旨)。
2争点に対する判断
争点(本件専決処分①の違法性)について
ア法179条1項は,議会において議決すべき事件を議決しないときは,普通
地方公共団体の長は,その議決すべき事件を処分することができる旨を規定す
るところ,その趣旨は,議決を要する事件に関して必要な議決が得られない場
合に地方公共団体の行政事務の停滞を防止する補充的な手段として,地方公共
団体の長に専決処分の権限を付与し,もって,執行機関と議決機関との間の適
切な調整を図ることを目的としたものである。
専決処分は,このように行政事務の停滞を防止することにあるから,地方公
共団体の長が同条所定の要件がないのにこれがあるものと誤認して専決処分
を行った場合などを除いては違法,無効の問題は原則として生じないものとい
える。
しかしながら,専決処分は,本来議会に属する権限を長が代わって行使する
ことを例外的に許容した制度であり,その対象範囲が広範であることや事後的
な抑制手段が欠如していること(専決処分が行われた後に議会の承認が得られ
ない場合でも専決処分の効力に影響はないものとされている),さらには議会
制民主主義をできる限り尊重すべきであることなどにかんがみるときは,あく
まで補充的・抑制的な制度として運用すべきであって,地方公共団体の長が,
専決処分権が与えられた趣旨を殊更潜脱する目的でこれを行使した場合には,
当該専決処分は違法となると解するのが相当である。
イ議会の否決決議を無視した違法について
前記1ウのとおり,被告は,平成21年5月20日,平成21年第3回臨
時会を招集し,平成21年度忍野村一般会計予算と同一内容の総額40億48
89万4000円の予算案を提出したものの,当該臨時会は開会されずに流会
となった。
忍野村議会は,これに先立ち,被告の再議の求めに応じて招集された平成2
1年第1回臨時会において,平成21年度忍野村一般会計予算を否決する決議
をしており,原告らは,ダミーの後会を介在させて議会の否決決議を容易に覆
すのを防止するために,前の会期で議会が否決の決議をした議案については,
既に議会による議決があったものとして,後会において専決処分はできないと
解すべきである旨を主張する。
しかしながら,地方公共団体における予算案の編成権は長に属しており,前
の会期において一度否決決議がなされた予算案であっても,長が議会の再考を
促すために異なる会期にこれを再度提出すること自体は,その当否は別として
何ら妨げられていないところ,当該会期における議会が流会となった場合には,
議会において議決すべき事件を議決しないという専決処分の要件を充足する
から,前の会期における否決決議の存在それ自体は長の専決処分を制限する根
拠にはなり得ない。
また,議会が否決した予算案と同一の予算案が異なる会期に再度提出された
ときは,議会は,事情変更等を考慮して再度提出された予算案を審議すればよ
いのであるから,これに対する専決処分によって議会の否決決議が形骸化され
るとまではいえず,この面からも,異なる会期における否決決議の存在が長の
専決処分を否定する理由にはならないというべきである。
したがって,忍野村議会が既に平成21年第1回臨時会で予算案を否決して
いたことをもって,本件専決処分①が違法であるということはできない。
ウ被告が議会の議決がない状態を作出した違法について
原告らは,被告が平成21年度忍野村一般会計予算を成立させるために,
後に専決処分をする意図で,同一会派に所属するL議長に指示もしくは同人
と意を通じて同日の臨時会を流会に追い込み,外形的に議会において議決す
べき事件を議決しないときという状態を作出した旨を主張する。
確かに,前記1及びのとおり,L議長は被告を支持する会派に属して
おり,平成21年第3回臨時会の前に開催された全員協議会において,原告
ら議員の再三の要求にもかかわらず臨時会を開会しないL議長に対して,被
告は,原告Pから臨時会を開会するよう説得すべき旨を要請されたにもかか
わらず,臨時会の開会を促さず,臨時会の開会,議決に向けた積極的な行動
も採らずに,これを静観する態度を示している。
しかしながら,被告とL議長が同一の会派に属しているとしても,それだ
けをもって直ちに両者が議会を開会しないことについて意思を通じ合って
いたということはできないし,前記1のとおり,忍野村議会における議会
の開会は専ら議長の権限と責任に属することであって,長は議会の開閉につ
いて意見すべき立場にはないから,被告がL議長に臨時会の開会を促さなか
ったからといって,臨時会開会に関する被告とL議長との意思の連絡が推認
されるともいえない。
また,前記1のとおり,被告は,平成21年度忍野村一般会計予算が平
成21年第1回臨時会において否決されてから,平成21年第3回臨時会で
同一内容の予算案を提出するまでの間に,原告ら議員との間で前記予算案に
ついての協議を何ら行っておらず,議会に対して同一内容の予算案を再度提
出する理由についても何ら具体的な説明をしていないなど,議会との調整を
図った様子を認めることができないものの,被告が議会の翻意を一応期待し
て同一の予算案を再度提出したとも考えられ,これらの行動をもって,被告
とL議長が同臨時会を流会にさせる旨の意思を通じていたということもで
きない。
原告P及び同Nは,本人尋問において,L議長が頻繁に村長室に出入りし,
1時間ほど滞在しているのを目撃した旨を供述するが,前記原告らは同室内
での被告とL議長とのやり取りについては何ら見聞しておらず,地方公共団
体の長と議長が議会運営や議案等に関して議会の前に協議することもまた
十分にあり得ることであって,必ずしも不自然な行動とはいえないから,こ
れもまた,議会を流会とする旨の両者の意思連絡を推認させる事実としては
不十分というべきである。
したがって,被告が,L議長と意を通じ又はこれに指示して,平成21年
度第3回臨時会を流会にさせたものとは認められない。また,被告において,
これまでのL議長の対応や議会の状況から,同議長が臨時会を流会とするこ
とも一つの可能性としてあり得ると予測することができたとは認められる
ものの,これを確実なものとして予測することができたとまでは認められな
い。
前記1のとおり,忍野村議会会議規則8条において議会の開閉は議長が
宣告するとされており,地方自治法上も,長は議会を指揮監督する関係には
ないから,制度上,被告が忍野村議会の開閉を支配できる立場にあったとは
認められない。
また,前記のとおり,被告とL議長が議会を流会にすることについて意
思を通じ合っていたということもできないから,平成21年第3回臨時会を
流会としたのはL議長自身の意思に基づく判断といえる。
被告が,平成21年第1回臨時会で否決された予算案と同一内容の予算案
を提出しても,平成21年第3回臨時会が流会となって審議未了となるか否
かは被告によって操作できることではなく,前記のように臨時会を招集した
時点において,被告が同臨時会の流会を確実に予測していたということもで
きないため,ダミーの後会を介在させて,外形的に議会において議決すべき
事件を議決しないという状態を意図的に作出したと評価することはできな
い。
なお,原告Pの本人尋問の結果によれば,平成20年度及び平成21年度
の忍野村議会において,議会が開会されずに流会となり,被告が議会の議決
に代えて専決処分を行うことが複数回あった事実がうかがえるが,その頻度,
議案の内容,決議の動向,流会となった経緯等が何ら具体的に主張,立証さ
れておらず,これをもって被告において平成21年第3回臨時会が流会とな
るであろうことを確実なものとして予測できたと認めることはできない。
以上から,本件専決処分①が専決処分の制度趣旨を潜脱する目的で行使さ
れたものであるとまでは認められず,本件専決処分①は適法である。
争点(本件専決処分②の違法性)について
前記1のとおり,被告は,本件人事案件について,忍野村議会の同意を求め
て平成21年11月9日を開会日とする平成21年第5回臨時会を招集したも
のの,同臨時会は開会せずに流会となったため,当該議案について,「議会にお
いて議決すべき事件を議決しない」という要件を一応充足しているように見える。
しかしながら,本件専決処分②については,以下の各事実を認めることができ
る。
同臨時会が招集されたのは同月4日であるところ,原告M及び同N(以下「両
議員」ということがある。)は,同年10月23日の議会運営委員会において,
同年11月4日から同月12日までの間,海外旅行のため不在である旨を発言し,
同月4日に出国している。前記両議員が前記期間中海外旅行のため不在であると
発言してから出国するまでは約2週間の期間があり,その間に,議会の招集権を
有する被告が,同一会派に属するL議長からその報告を受けていなかったとはお
よそ考え難いから,被告はこの事実を知悉していたものと推認することができる。
被告が前記臨時会の招集を指示した日と両議員が出国した日が同じ同月4日
であること,被告の指定した同臨時会の期日も両議員が既に海外に出国し,忍野
村に不在中である同月9日であって,仮に4日に通知を受けたとしても,両議員
が速やかに旅行を取りやめ帰国の途につかなければ,9日の招集に応じることは
困難であったこと,同月9日に臨時会を開会して処理しなければならない案件が
あったとも特段見受けられないこと,平成21年の忍野村議会においては,被告
を支持する会派の議員とこれに反対する立場の原告ら議員数がいずれも7名と
拮抗しており,前者に属するL議長には議決権がないことから,通常であれば原
告ら議員が人数において優位に立っていて(以下,原告ら議員を「多数派議員」
という。),これが被告提案の議決が否決される主要な要因になっていたこと,同
月9日に臨時会が開会されれば両議員が不在のため被告を支持する会派の議員
が人数において優勢となり,本件人事案件が可決される可能性が高かったことな
どに照らせば,被告が,両議員が不在であることをあえて利用して,本件人事案
件を提出し,これを可決させようとしたことを優に推認することができる。同月
5日の時点では副議長から臨時会の開催を延期するよう求められても意に介さ
なかったことや,同月9日の臨時会当日においては,両議員が帰国したために開
会しなかった旨のL議長の発言を聞くや,抗議する原告Nに対し,文句があるな
ら堂々と向かって来いという趣旨の多数派議員に対して敵対的,挑発的と取られ
る発言をしたことなどの,被告の本件臨時会招集後における行動,態度も,被告
が両議員の不在に乗じて本件人事案件の可決を企図していたことを裏付けるも
のといえる。
平成21年当時の忍野村議会は,およそ全ての議会が流会となっていたわけで
はなく,開会されるものも存在したところであるが,前記1のとおり,平成2
1年第1回臨時会で否決された予算案と同一内容の予算案が提出された平成2
1年第3回臨時会が,L議長が議会を開会しないために流会となったことからす
れば,被告において,少なくとも多数派議員の反対による否決が想定される議案
が議題となっている議会について,被告と同一会派に属していたL議長がその開
会をしないことは容易に予測されるところであったというべきである。本件人事
案件については,両議員が海外旅行から帰国して平成21年第5回臨時会に出席
できる状況となれば,同臨時会が開会されても多数派議員の反対によって当該案
件が否決される公算が極めて大きいことは,被告にとっても容易にこれを認識で
きる状況にあったといえ,そして,平成21年第3回臨時会の前例がある以上,
両議員が議会に出席すれば,L議長が前記前例と同様に多数派議員の反対がある
ことを見越して議会を開会しないことは,本件専決処分①のときとは異なり,被
告においてこれを容易に予測し得たということができる。両議員が帰国した以上,
臨時会を招集,開会しても,本件人事案件が可決される公算は極めて低く,これ
を実現しようとするには,被告において本件専決処分②をするしかない状況であ
った。
これらの事実に照らすと,被告において,L議長が議会を開会せずに流会とす
ることをあえて利用して,本件人事案件について議会の議決がなされない状態を
作出し,同条の要件を形式上整えた上で専決処分を行う意図を有していたことを
十分に推認することができる。
そうすると,本件専決処分②は,議会の議決を潜脱する目的をもって行われた
ものといわざるをえず,執行機関と議決機関との間の調整を図るという専決処分
制度の趣旨を潜脱して行使されたものと認められ,違法の評価を免れない。
なお,被告は,議会の開閉は議長の責任と権限に属することであるため,議会
が流会になったのは議会側の問題である旨を主張する。確かに,前記ウのとお
り,議会の開閉は議長の権限であり,長は議会の開閉についてこれを容喙する立
場にないが,議長が議会を開会しないことが容易に予測できる場合に,議長の当
該行為をいわば自己の道具のごとく利用して,議会の議決がない状態を作出する
ことは可能であり,第三者の行為をまさに自己の意図を実現するために利用して
いるのであるから,これが介在していることは必ずしも被告の専決処分の違法性
を否定する理由にはならないというべきである。
争点(本件専決処分③の違法性)について
平成22年1月22日,被告は,本件図書館請負契約締結についての議決を求
めるために平成22年第1回臨時会を招集したものの,同臨時会は開会されずに
流会となった。
前記1のとおり,忍野村議会が平成21年第1回定例会において,平成21
年度忍野村一般会計予算のうち本件図書館請負契約関連予算について修正動議
を出し,その後,平成21年第1回臨時会において前記予算案を否決したことか
らすれば,平成22年第1回臨時会が開会されれば,本件図書館請負契約締結に
関する議会の議決が多数派議員の反対によって否決されるであろうことは明ら
かな情勢にあった。
そして,前記1及びのとおり,本件専決処分②の理由となった平成21年
第5回臨時会が流会となった際,L議長は,原告M及び同Nが帰国して情勢が変
わったために臨時会を開会しなかった旨を明確に発言し,被告においてもこの発
言を聞いていたこと,当該臨時会の流会から平成22年第1回臨時会の招集がな
されるまでの期間がわずか2か月間しかなく,この間にこの情勢が被告にとって
好転することもなかったことなどからすれば,被告は,原告ら多数派議員の反対
が予想される本件図書館請負契約締結について,平成21年第5回臨時会と同様
に,L議長が議会を開会させずに流会にさせることを容易に予測し得たというこ
とができる。
被告が本件専決処分③を行うまでの間に,多数派議員との間で本件図書館請負
契約締結について何ら協議を行わず,本件専決処分③を行う理由についても何ら
説明しなかったことなど,被告において多数派議員と当該議案について協議,調
整を何ら行うことがなかったという本件専決処分③に至る経緯に加えて,上記の
ように自己に反対する議員が多数派を占める議会が仮に招集,開会されても,被
告が自ら提案した案件が可決される見込みはほとんどないため,当該案件を実現
するためにはおよそ本件専決処分②と同様に専決処分を行うほかなく,実際に被
告は既に本件専決処分②を行うことによって議会の議決を得ることなく,その意
図を実現していたことなどの事情に照らすと,被告は,本件専決処分②の時点と
同様に,L議長が議会を流会とすることをあえて利用し,議会の議決がない状態
を作出して専決処分を行う意図を有しており,その意図の下,平成22年第1回
臨時会の招集を指示したといえる。
そうすると,本件専決処分③は,殊更議会の議決を潜脱する目的をもって行わ
れたものというほかなく,執行機関と議決機関との間の調整を図るという専決処
分制度の趣旨を潜脱して行使されたものと認められ,違法の評価を免れない。
争点(本件専決処分④の違法性)について
平成22年3月4日,被告は,本件道路工事請負契約の締結について議決を求
めるために平成22年第1回定例会を招集したものの,同日の定例会は開会され
ずに流会となった。
前記1ないしのとおり,本件道路工事関連予算が継続費として計上されて
いた平成21年度忍野村一般会計予算が平成21年第1回臨時会で否決された
以上,平成22年第1回定例会が開会されても,本件道路工事請負契約の締結に
関する議会の議決が多数派議員の反対によって否決されることは容易に想定で
きることであり,平成22年第1回臨時会の流会以降平成22年第1回定例会の
招集までの期間がわずか1月半にすぎず,情勢が変化する兆しもなかったことに
照らしても,被告にとって,原告ら議員の反対が想定される議案に関する同定例
会をL議長が開会しないことは容易に予測し得たということができる。
被告が本件専決処分④を行うまでの間に,原告ら議員との間で本件道路工事請
負契約について何ら協議を行わなかったこと,本件専決処分④を行う理由も説明
しなかったことに加えて,既に被告は本件専決処分②及び同③で説示したように,
議会が開会しないことをあえて利用して専決処分を行うことで自己の目的を実
現してきたことなどからしても,被告は,本件専決処分②及び同③と同様,L議
長が議会を流会とすることをあえて利用し,議会の議決がない状態を作出して専
決処分を行う意図で平成22年第1回定例会の招集を指示したといえる。
そうすると,本件専決処分④は,議会の議決を潜脱する目的をもって行われた
ものであり,執行機関と議決機関との間の調整を図るという専決処分制度の趣旨
を潜脱して行使されたものと認められ,本件専決処分④もまた違法との評価を免
れない。
争点(本件住宅防音補助事業の公益性の有無)について
ア法232条の2は,「普通地方公共団体は,その公益上必要ある場合におい
ては,寄付又は補助をすることができる。」と規定しているところ,公益上の
必要性の有無については,多種多様な行政目的を斟酌した政策的な考慮が求め
られるから,その要件の判断に当たっては補助の要否を決定する地方公共団体
の長に一定の裁量権があるものというべきである。
もっとも,同条の趣旨は,恣意的な補助金の交付によって地方公共団体の財
政秩序が乱されるのを防止することにある以上,その裁量権には自ずから一定
の限界があるというべきであり,当該地方公共団体の長による公益上の必要性
に関する判断に裁量権の逸脱又は濫用があったと認められる場合には,当該補
助金の交付は違法となると解される。
補助金交付の公益上の必要性に関する地方公共団体の長の判断に裁量権の
逸脱又は濫用があったか否かは,当該補助金交付の経緯及び目的,効果,当該
地方公共団体の財政規模及び状況,補助を受ける者の性質及び状況等諸般の事
情を総合考慮した上で判断することを要する。
イ前記1及びのとおり,北富士演習場は古くから米駐留軍や自衛隊の軍事
演習等の用に供されており,周辺住民は砲撃音等の深刻な騒音被害に悩まされ
てきたことから,忍野村は,北富士演習場の周辺に所在する住宅等について,
米軍等の砲撃を主とする射撃,爆撃その他火器類の使用の頻繁な実施により生
じる,音響障害を防止又は軽減するための必要な工事を行う者に対し,これに
要する経費の一部を補助することにより,もって住民の生活環境の保全を図る
とともに,住宅防音工事実施による村内建築産業の活性化及び雇用対策を促進
するため本件住宅防音補助事業を実施することとしたのであって,その目的は
正当なものということができる。
この点,本件住宅防音補助事業は,前記1及びのとおり,国が,平成1
8年5月30日,「忍野村における住宅防音工事の実施戸数は100戸程度を
上限とし,実施する住宅については,住宅防音指定区域に隣接する地域から貴
村が責任を持って選定する。一部工事に着手すべく,平成19年度概算要求に
計上する。」として,忍草区内で同様の騒音被害を蒙りながら住宅防音工事区
域が不整形なために救済されない住民が生じている問題について,国の財源で
解決する意向を表明したにもかかわらず,平成19年11月30日,住宅防音
指定区域を縮減し,隣接住民については住宅防音工事を実施しない方針を明ら
かにしたため,忍野村が,村費を充当してでも不公平感を解消すべきである旨
の忍草区入会組合の要望を受けて実施することとなった経緯を有する。そして,
忍野村住宅防音事業審査委員会において,平成21年度住宅防音事業対象区域
の設定について,不整形の解消を出発点とすべき旨の議論がなされていること
にもかんがみれば,忍野村が本件住宅防音補助事業を行うに至った理由の一つ
に,国の住宅防音工事区域が不整形であるために生じている住民間の不公平感
を解消する目的があったことは否定できない。
しかしながら,忍野村が住宅防音工事を施工する住民に対し一定の補助金を
交付することで,当該住民の蒙る騒音被害が軽減され,その生活環境の向上に
資することは明らかであるから,前記目的と住民の生活環境保全の目的は必ず
しも矛盾するものではなく,被告が不整形な国の住宅防音工事区域によって生
じている住民間の不公平感を解消するために本件補助金を交付していたとし
ても,それによって直ちに公益上の必要性が欠如することになるものではない。
前記1のとおり,本件要綱において,村長は,補助金交付の申込みがあっ
たときは,忍野村住宅防音事業審査委員会の意見を聴いた上で,補助金の交付
等について判定することとされており,忍野村住宅防音事業審査委員会は,有
識者及び住民等をもって組織することとされているから,補助金交付の判定の
過程において一定の民意や専門的知見が反映される仕組みになっていること
が認められ,村長の全くの独断,恣意的な判断がなされないような担保がなさ
れているといえる。
実際にも,前記1のとおり,忍野村住宅防音事業審査委員会は,忍草入会
組合長,忍草区長,内野区長及び山梨県立大学国際政策学部准教授など,付近
住民の代表者や専門家によって構成されており,平成21年6月18日から同
年9月15日にかけて開催された審査委員会においては,補助金交付に関する
優先順位の決定方法について,騒音のデータを採取してその大小によって決定
すべきこと,着弾地から近い順に工事を進めるべきこと,高齢者や病人のいる
世帯を優先すべきことなどの議論がなされているから,何らの合理的な基準を
設けることなく恣意的に補助金交付が行われていたものではない。そして,忍
野村住宅防音事業審査委員会は,最終的に,限られた財源で多くの世帯に対し
て補助金を交付するため,アパート等営業に供する住宅を対象外とすること,
補助対象者は村内建築関連事業者に住宅防音工事を実施させること,対象区域
について,着弾地に隣接し,砲撃音の発生により最も音響障害を被っている地
区から当該年度のエリア設定を行い順次実施すること,補助金交付の優先順位
について,住宅防音事業実施の均等,平等性を保つため,設定エリア内の希望
世帯において抽選により施工順位を決定すること,当該年度の予算の範囲内で
抽選順位により事業実施を行い,残りの世帯については翌年度以降に順次実施
することなどを決定し,これらの決定を受けて,被告は本件補助金の交付に至
っているから,交付決定の過程において住民間の平等の確保,村内建築産業の
活性化,財政状況等が考慮されており,本件要綱1条の目的にも適っているの
であって,その過程で考慮すべき事項を考慮せず,あるいは考慮すべきでない
事項を考慮したなどの判断過程の逸脱があったということはできない。
以上によれば,公益上の必要性があるものとして本件補助金の交付決定を行
った被告の判断に裁量権の逸脱又は濫用があったということはできず,本件補
助金の交付には公益上の必要性が認められる。
ウこれに対し,原告らは,本件要綱では交付対象,審査基準等が何ら明確にさ
れておらず,そもそも,行政内部の基準である要綱の形式で補助金交付を行う
こと自体が民主的基盤を損なうなどと主張する。
しかしながら,前記歴史的経緯にかんがみれば,騒音被害を生じさせている
主体である「米軍等」が北富士演習場を使用する米軍や自衛隊を指すことは明
らかであるし,「周辺に所在する住宅等」についても,忍野村住宅防音事業審
査委員会において,補助金交付の対象となるエリアが定められているから,交
付対象等が不明確であるということはできない。
また,補助金交付の可否に関する審査基準については,本件要綱その他の規
定によって明確に規定されているものではないが,本件要綱においては,村長
は,忍野村住宅防音事業審査委員会の意見を聴いた上で交付についての判定を
することとされており,前記1のとおり,忍野村住宅防音事業審査委員会に
おいて交付の優先順位に関する具体的な基準の決定がなされているから,被告
が何らの明確な基準もなく,恣意的判断で本件補助金の交付決定を行ったとい
うことはできない。
本件補助金の交付に関する定めを要綱の形式で行ったことについては,法律
による行政の原理の観点からみれば,補助金の交付はいわゆる受益的行政行為
に属するものであり,必ずしも法律の規定によって手続及び基準等を定めなけ
ればならないものではないから,本件要綱を定めて補助金を交付すること自体
が裁量権の逸脱,濫用であるということもできない。
なお,原告らは財政上の問題も指摘するが,「忍野村法人村民税収入98.
8%減」という平成21年12月25日付けの新聞記事(甲15)をもって直
ちに平成21年度の忍野村の財政状況が逼迫していたということはできず,そ
のほか,平成21年及び平成22年当時,忍野村が本件住宅防音補助事業を行
う余裕がないほど財政状況が逼迫していたことを示す証拠もない。
したがって,原告らの前記主張は,いずれも公益上の必要性に関する前記判
断を左右するに足りるものではない。
3各事件の帰結
甲事件について
前記前提となる事実及びのとおり,本件図書館請負契約は予定価格500
0万円以上の工事であるから,その締結については,法96条1項5号及び忍野
村の議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分の範囲を定める条例2
条に基づき,議会の議決を要するところ,前記2のとおり,本件専決処分③は
違法であるため,本件図書館請負契約締結について議会の議決が得られていない
こととなる。
そして,地方公共団体が新たな義務を負担する行為につき,法令に定められた
議会の議決を欠くときは,当該行為は私法上も無効であるから,忍野村とJ共同
企業体との間で締結された本件図書館請負契約は無効である(最高裁判所昭和3
5年7月1日第2小法廷判決・民集14巻9号1615頁参照)。
したがって,本件図書館請負契約の代金支払として被告の発した支出命令は,
無効な契約に関してなされたものとして,違法な財務会計行為となる。
J共同企業体は,無効な契約に関して忍野村から合計8億9775万円の代金
の支払を受けたものとして,これを不当利得として返還すべき義務を負うところ,
共同企業体の構成員が会社である場合には,その各構成員は,共同企業体が事業
のために第三者に対して負担した債務について,商法511条1項により連帯債
務を負い(最高裁判所平成10年4月14日第3小法廷判決・民集52巻3号8
13頁),商行為たる事業が無効な場合に生じる不当利得返還債務も当該事業の
ために第三者に対して負担した債務に該当すると解されるから,A株式会社,B
株式会社及び株式会社Cは,連帯して8億9775万円及びうち3億5910万
円に対する平成22年3月4日から,1億9848万円に対する同年11月20
日から,3億4017万円に対する平成23年4月1日から,それぞれ支払済み
まで商事法定利率年6分の割合による利息を付してこれを忍野村に返還すべき
義務を負う。(なお,商行為たる契約が無効である場合の不当利得返還債務につ
いては,契約関係の清算の趣旨を考慮して,その法定利息の利率につき商法51
4条が適用されると解するのが相当である。)
したがって,法242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,当該行為の相
手方であるA株式会社,B株式会社及び株式会社Cに対する不当利得返還請求を
するよう求める原告らの請求は認められる。
乙事件について
前記2のとおり,本件専決処分②は違法であるから,本件人事案件に関する
議会の同意の議決はなされていない。
副村長及び監査委員は議会の同意を得て選任するものとされており(法162
条,196条1項),議会の同意を得ずになされたこれらの者の選任はその効力
を生じないと解するのが相当であるから,D及びEに対する給与等の支払として
被告の発した支出命令は,副村長及び監査委員でない者に対してなされたものと
して違法な財務会計行為である。
D及びEは,それぞれ副村長及び監査委員に選任されていないにもかかわらず,
その給与等の支払を受けたものであるから,忍野村に対し,不当利得として,D
につき,1116万5008円及びうち別表1の「現金支給額」欄記載の金員に
対する「支払年月日」欄記載の日の翌日から,Eにつき,53万3500円及び
うち別表2の「支払額」欄記載の金員に対する「支払年月日」欄記載の日の翌日
から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による法定利息を付してこ
れを返還すべき義務を負う。
したがって,法242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,当該行為の相
手方であるD及びEに対する不当利得返還請求をするよう求める原告らの請求
は認められる。
また,監査委員でないEに対する報酬等の支払命令は違法な財務会計行為であ
るから,同項1号に基づき,その支出差止めを求める原告らの請求にも理由があ
る。
丙事件について
ア平成21年度忍野村一般会計予算に基づく補助金の支出
平成21年度忍野村一般会計予算に基づいて支出された本件住宅防音補助
事業の補助金については,前記2のとおり,本件専決処分①が違法であると
は認められないから,予算に基づいてこれらの支出がなされたということがで
きる。また,前記2のとおり,被告の補助金交付の公益上の必要性に関する
判断が裁量権を逸脱又は濫用したものということもできないから,この補助金
交付に関する支出命令が違法な財務会計行為ということはできず,被告の損害
賠償責任は成立しない。
イ平成22年度忍野村一般会計予算に基づく補助金の支出
平成22年度忍野村一般会計予算に基づいて支出された本件住宅防音補助
事業の補助金については,前記1及び2のとおり,当該予算は議会の議決
に基づいて成立しており,被告の補助金交付の公益上の必要性に関する判断が
裁量権を逸脱又は濫用したものということもできないから,この補助金交付に
関する支出命令が違法な財務会計行為ということはできず,被告の損害賠償責
任は成立しない。
ウしたがって,法242条第1項4号に基づき,Iに対する2億3879万6
050円の損倍賠償請求をするよう求める原告らの訴えには理由がない。
丁事件について
前記前提となる事実及びのとおり,本件道路工事請負契約は予定価格50
00万円以上の工事であるから,法96条1項5号及び忍野村の議会の議決に付
すべき契約及び財産の取得又は処分の範囲を定める条例2条により,議会の議決
を要するところ,前記2のとおり,本件専決処分④は違法であり,これに関す
る議会の議決がないこととなるため,本件道路工事請負契約は無効である。
したがって,本件道路工事請負契約の代金支払として被告の発した支出命令は,
私法上無効な契約に関してなされたものとして,違法な財務会計行為である。
株式会社F,株式会社G及び株式会社Hは,無効な本件道路工事契約に基づい
て代金の支払を受けたものであり,忍野村に対し,不当利得として,連帯して,
1億4070万円及びうち5628万円に対する平成22年3月26日から,4
155万円に対する同年10月26日から,4287万円に対する平成23年4
月26日から,それぞれ支払済みまで商事法定利率年6分の割合による法定利息
を付してこれを返還すべき義務を負う。
したがって,法242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,当該行為の相
手方である株式会社F,株式会社G及び株式会社Hに対する不当利得返還請求を
するよう求める原告の請求は認められる。
4結論
以上のとおり,その余の争点について判断するまでもなく,原告らの請求は前記
3の限度で理由があるから,この限度で認容することとし,主文のとおり判決する。
甲府地方裁判所民事部
裁判長裁判官林正宏
裁判官三重野真人
裁判官小川惠輔

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