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平成26年7月10日判決言渡
平成25年(行ウ)第235号在留資格認定証明書交付申請不交付処分取消等請
求事件
主文
1本件訴えのうち,原告に対する在留資格認定証明書の交付の義務付けを
求める部分を却下する。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1東京入国管理局長が平成25年3月21日付けで原告に対してした在留資格
認定証明書不交付処分を取り消す。
2東京入国管理局長は,原告に対し,在留資格「家族滞在」(在留期間1年)
と認定する在留資格認定証明書を交付せよ。
第2事案の概要
本件は,パキスタン・イスラム共和国(以下「パキスタン」という。)の国籍
を有する外国人男性である原告が,出入国管理及び難民認定法(以下「入管
法」という。)7条の2第1項所定の証明書(以下「在留資格認定証明書」と
いう。)の交付を申請したところ,法務大臣から権限の委任を受けた東京入国
管理局長(以下「東京入管局長」という。)から,同法5条1項4号に掲げる
上陸拒否事由に該当するとの理由で,在留資格認定証明書を交付しない旨の処
分(以下「本件不交付処分」という。)を受けたことから,本件不交付処分は
裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があると主張して,本件不交付
処分の取消しを求めるとともに,原告に対する在留資格認定証明書の交付の義
務付けを求めている事案である。
1前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠(枝番を含む。)
及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告及びその家族の身分事項等
ア原告は,昭和32年(1957年)▲月▲日に出生したパキスタン
国籍を有する外国人男性であり,現在,パキスタンに居住している(甲8,
乙1)。
イ原告とa(以下「原告の妻」という。)は,パキスタンにおいて,昭和
55年(1980年)▲月▲日に婚姻をし,昭和62年(1987年)か
ら平成10年(1998年)にかけて6人の子をもうけた(甲9,10)。
原告の妻は,現在,「投資・経営」の在留資格で本邦に在留し,原告の子
らのうち三女,四女,長男及び二男は,「家族滞在」の在留資格で本邦に
在留している(甲13ないし18)。
(2)原告の過去の入国及び在留状況(乙1)
ア原告は,平成4年10月20日,新東京国際空港(現在の成田国際空
港)に到着し,東京入国管理局成田支局(現在の成田空港支局)入国審査
官から,入管法所定の在留資格「宗教」,在留期間「3年」とする上陸許
可を受けて本邦に上陸し,以後5回,在留期間の更新許可を受けた。
イ原告は,平成18年10月12日,東京入管局長に対し,在留資格の変
更許可申請をしたが,平成19年3月22日に不許可とされ,在留期限で
ある平成18年10月20日を超えて不法残留していることとなった(乙
11)。
ウ原告は,上記不許可となる前の平成19年▲月▲日,銀行法違反の被疑
者として通常逮捕され,同年▲月▲日,東京地方裁判所において,銀行法
違反の罪により,懲役1年及び罰金60万円,懲役刑につき執行猶予5年
の有罪判決(以下「本件有罪判決」という。)を受け,同判決は,同月▲
日に確定した(乙9,10)。
エ原告は,平成19年5月7日,収容令書の執行を受け,東京入管収容場
に収容され,同日,東京入管入国警備官は,原告に係る違反調査を実施し,
同日,原告を入管法24条4号ロ該当容疑者として,東京入管入国審査官
に引き渡した(乙12ないし15)。
オ東京入管入国審査官は,平成19年5月9日及び同月15日,原告に係
る違反審査を実施し,その結果,同日,原告が入管法24条4号ロに該当
し,かつ,出国命令対象者に該当しない旨の認定をし,原告にこれを通知
したところ,原告は,同日,東京入管特別審理官による口頭審理を請求し
た(乙16ないし18)。
カ東京入管特別審理官は,平成19年5月29日,原告について口頭審理
を実施し,その結果,同日,入国審査官の上記オの認定に誤りがない旨の
判定をし,原告にその旨通知したところ,原告は,同日,法務大臣に対し,
異議の申出をした(乙19ないし21)。
キ法務大臣は,平成19年6月21日,上記カの異議の申出に対し,理由
がない旨の裁決をし,同裁決の通知を受けた東京入管主任審査官は,同日,
原告に同裁決を通知するとともに,原告に係る退去強制令書を発付し,原
告は退去強制令書の執行を受け,同年10月19日,パキスタンに強制送
還(以下「本件退去強制」という。)された(乙22ないし25)。
(3)本件不交付処分に至る経緯
ア原告は,原告の妻を代理人として,平成25年1月23日,東京入管に
おいて,東京入管局長に対し,入国目的を「家族滞在」とする在留資格認
定証明書交付申請書を提出し,同認定証明書の交付申請を行った(乙
7)。
イ法務大臣から権限の委任を受けた東京入管局長は,上記アの申請につい
て,平成25年3月21日,「本邦に上陸しようとする外国人は,出入国
管理及び難民認定法第5条第1項第4号に規定する上陸拒否事由に該当し
ます。」との理由で,在留資格認定証明書を交付しない旨の本件不交付処
分をし,これを原告の妻に対して通知した(乙8)。
(4)本件訴えの提起
原告は,平成25年4月27日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
2争点
(1)本件不交付処分の適法性
(2)在留資格認定証明書の交付義務付けの訴えの適法性
3争点に対する当事者の主張
(1)争点(1)(本件不交付処分の適法性)について
(原告の主張の要旨)
ア平成21年に入管法5条の2が新設され,外国人に上陸拒否事由がある
場合であっても,拒否の特例が認められ得ることとなったのであるから,
在留資格認定証明書の交付についても,上陸拒否事由があるかどうかとい
う形式的判断によるのではなく,当該外国人に係る具体的事情を考慮して
判断すべきである。
そして,市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」とい
う。)の締約国である被告は,B規約17条及び23条が家族の保護を定
めているのであるから,日本の法律の解釈・適用に当たっては,家族生活
の本拠地が本邦にある外国人について家族の再結合をすべきという原則的
価値を特にしんしゃくすべきであり,在留資格認定証明書の交付に係る裁
量権もかかる観点からの制約を受ける。
そのため,上陸拒否事由に該当する外国人に在留資格認定証明書を交付
するか否かの判断をするに当たっては,上陸拒否事由の内容,退去強制後
の経過期間,執行猶予期間満了の有無,過去の法違反の内容,反省の態度
及び法律遵守態度の有無,当該外国人及び家族の置かれた具体的状況及び
同居の必要性等の基礎的な事実関係を認定し,上陸を許可する特別の理由
の有無について,総合評価を行う必要がある。
イ原告は,平成4年10月20日に本邦に入国した後,イスラム教の伝道
師として活動していたところ,平成19年▲月▲日,東京地方裁判所にお
いて,銀行法違反の罪によって本件有罪判決を受けたが,本件有罪判決
は,同月▲日に確定した後,執行猶予期間5年間が経過したことから,
刑の言渡しの効力を失っている。
原告の妻は,「投資・経営」の在留資格を持って本邦に在留し,株式会
社の経営に従事しながら,「家族滞在」の在留資格を有する4人の子らを
養育しており,子らと共に原告が所有する建物に居住している。原告は,
家族の核である原告の妻の扶養を受ける配偶者として行う日常的な活動を
行おうとするものである。
原告は,パキスタン人男性としては高齢者であり,本件退去強制の原因
となった銀行法違反の罪を心から反省し,日本政府に対して真摯に謝罪し
ている。また,原告は,本件退去強制の後,家族と別居状態にあることか
ら精神的に落ち込み「身体的疾患を示す不安障害」に陥り,医師の治療を
受けているのであり,家族との同居がその回復要因となる。
ウ以上のとおり,本件有罪判決の執行猶予期間が経過して刑の言渡しの効
力が失われていること,本邦に在留する原告の家族の状況,原告の年齢,
過去の事件に対する反省の態度及び健康状態等に加え,入管法5条の2の
趣旨及びB規約の規定を考慮すれば,原告に対して在留資格認定証明書が
交付されるべきである。
そうであるにもかかわらず,本件不交付処分は,申請に係る疎明資料を
ほとんど考慮せず,事実に関する総合的評価と正しい理由の提示をしない
まま,意味不明かつ恣意的で闇討ちのような判断をしたものであり,犯罪
歴がある外国人に対しても在留資格認定証明書が交付された先例があるこ
とを踏まえると,比例原則に反してされたものであるといえる。
したがって,本件不交付処分は,重要な事実に誤認があるため全く事実
の基礎を欠くか,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くため社会通
念に照らし著しく妥当性を欠くものであり,明らかに裁量権の範囲を逸脱
し又はこれを濫用したものであるから,違法である。
(被告の主張の要旨)
ア入管法は上陸拒否事由に該当する外国人に対して在留資格認定証明書を
交付することを直ちに禁じるものではないが,そもそも国家は,外国人を
受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約等がない限り,外国人を
自国内に受け入れるか否か,これを受け入れる場合にいかなる条件を付す
かは,国際慣習法上,当該国家が自由にこれを決することができる。
ゆえに,法務大臣及びその権限の委任を受けた地方入国管理局長(以下
「法務大臣等」という。)には,上陸拒否事由に該当する外国人に対して
在留資格認定証明書を交付するか否かについて,極めて広範な裁量権が認
められており,同判断が違法となるのは裁量権の範囲を逸脱し又はこれを
濫用した場合に限られる。
なお,B規約は,上記国際慣習法上の原則を当然の前提としていると解
するべきであり,憲法の諸規定による人権保障を超えた利益を保護するも
のではないから,同規約17条及び23条は法務大臣等の裁量権を制約す
るものではない。
イこの点,原告は,平成19年▲月▲日,銀行法違反の罪で本件有罪判決
を受けており,入管法5条1項4号所定の上陸拒否事由に該当し,同法7
条1項4号に掲げる上陸条件(以下「4号上陸条件」という。)に適合し
ないことは明らかである。
また,上陸拒否事由に該当する外国人に在留資格を有する外国人の家族
がいることは,法務大臣等が当該外国人に対して在留資格認定証明書を交
付すべきか否かの判断をする際にしんしゃくされる事情の一つに過ぎない。
そして,原告の妻は「投資・経営」の在留資格を,原告の子らは「家族
滞在」の在留資格を有するものの,本邦において行うことができる活動に
は制約があり,在留期間を超えて在留することはできないのであり,原告
の妻及び子らと本邦との結び付きが強固なものであるということはできな
い。
さらに,原告の不安障害は,原告の妻及び子らがパキスタンにいる原告
を定期的に訪問するなどすれば,回復する見込みが十分あり得る。また,
原告の妻及び子らは,パキスタンにおいて生まれ育ったのであるから,原
告のいるパキスタンに戻り,本国において原告と同居し,生活していくこ
とも十分可能である。
以上を踏まえると,本件不交付処分に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用
はないから,本件不交付処分は適法である。
(2)争点(2)(在留資格認定証明書の交付義務付けの訴えの適法性)について
(原告の主張の要旨)
本件不交付処分は違法であり,取り消されるべきものである。
したがって,在留資格認定証明書の交付の義務付けの訴えは,行政事件訴
訟法37条の3第1項2号所定の救済の必要性に係る訴訟要件を満たすか
ら,適法である。
(被告の主張の要旨)
本件不交付処分は適法であり,取り消されるべきものでもなければ,無効
でも不存在でもない。
したがって,在留資格認定証明書の交付の義務付けの訴えは,行政事件訴
訟法37条の3第1項2号所定の救済の必要性に係る訴訟要件を欠き,不適
法である。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(本件不交付処分の適法性)について
(1)法令の定め及び在留認定資格認定証明書の交付に係る法務大臣等の裁量
権について
ア法令の定め
(ア)本邦に上陸しようとする外国人(乗員を除く。以下同じ。)は,上
陸しようとする出入国港において,入国審査官に対し上陸の申請をして,
上陸のための審査を受け,入管法7条1項各号に規定する上陸のための
条件に適合することを自ら立証しなければならないところ(同法6条2
項,7条1項,2項),このうち同法7条1項2号に掲げる上陸条件
(以下「2号上陸条件」という。)に適合することについては,当該外
国人本人に係る事項のみならず,受入先等に係る事項など,立証すべき
内容が広範囲にわたり,上陸しようとする出入国港において短時間でこ
れらの事項の全てを立証することが必ずしも容易でない場合がある。
そこで,入管法は,入国審査手続の簡易・迅速化と効率化を図るため,
法務大臣は,本邦に上陸しようとする外国人(短期滞在に係る活動を行
おうとする者を除く。以下同じ。)又はその代理人から,あらかじめ申
請があったときは,当該外国人が2号上陸条件に適合している旨の在留
資格認定証明書を交付することができるものとしている(7条の2)。
そして,入管法施行規則6条の2は,在留資格認定証明書の交付を申
請しようとする者又はその代理人は,所定の申請書及び資料等を地方入
国管理局に出頭して提出しなければならず(1項ないし4項),地方入
国管理局長は,当該申請者が,当該外国人が2号上陸条件に適合してい
ることを立証した場合に限り,在留資格認定証明書を交付するものとし
ている(5項本文)。
もっとも,入管法施行規則6条の2第5項ただし書は,2号上陸条件
に適合している場合であっても,入管法7条1項1号,3号又は4号に
掲げる上陸条件に適合しないことが明らかであるときは,在留資格認定
証明書を交付しないことができるものとしている。そして,この上陸条
件の中には,当該外国人が上陸拒否事由(同法5条1項)に該当しない
ことが含まれているところである(同法7条1項4号)。
(イ)他方,入管法は,上陸拒否の特例も設けている。すなわち,法務大
臣は,外国人について,5条1項4号,5号,7号,9号又は9号の2
に該当する特定の事由(以下「特定上陸拒否事由」という。)がある場
合であっても,法務省令で定める場合において,相当と認めるときは,
当該事由のみによっては上陸を拒否しないこととすることができる(5
条の2)。
そして,入管法施行規則4条の2第1項は,法務省令で定める上記の
場合として,いくつかのものを定めているところ,その一つとして,当
該外国人に在留資格認定証明書を交付した場合又は外国人が旅券に日本
国領事館等の査証(法務大臣との協議を経たものに限る。)を受けた場
合であって,特定上陸拒否事由に該当することとなってから相当の期間
が経過していることその他の特別の理由があると法務大臣が認めるとき
(2号)を定めている。
イ在留資格認定証明書の交付に係る法務大臣等の裁量権
(ア)前記前提事実のとおり,原告は,本件有罪判決を受けており,入管
法5条1項4号本文の「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して,
1年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたこと
のある者」に該当し,4号上陸条件に適合していないことが明らかであ
るところ,かかる場合において,同法5条の2に規定する上陸拒否の特
例が適用される前提として,あらかじめ在留資格認定証明書を交付すべ
きであったか否かが問題となる。
そこで,上記場合の在留資格認定証明書の交付に関する法務大臣等の
判断の性格等について,以下検討する。
(イ)先に見たとおり,入管法7条の2第1項は,法務大臣は,法務省令
で定めるところにより,在留資格認定証明書を交付することができる旨
を定めるが,これを受けた入管法施行規則6条の2第5項ただし書は,
2号上陸条件に適合している場合であっても,4号上陸条件等に適合し
ないことが明らかであるときは,在留資格認定証明書を交付しないこと
ができるものとしている。これは,外国人が2号上陸条件に適合してい
る場合であっても,審査の過程において,当該外国人が上陸拒否事由に
該当するなど他の上陸のための条件に適合しないことが明らかとなり,
たとえ当該外国人が上陸の申請をしたとしても上陸が許可される見込み
がないという場合についてまで在留資格認定証明書を交付することは,
入国審査手続の簡易・迅速化と効率化を図ろうとした在留資格認定証明
書の制度の目的に照らし何ら必要性がないだけでなく,かえって在留資
格認定証明書が本来予定した目的以外に悪用される危険性も否定し得な
いことを考慮したものと解される。
ところで,入管法5条の2は,特定上陸拒否事由がある場合であって
も,一定の要件の下,法務大臣が当該事由のみによっては上陸を拒否し
ないこととすることができるという上陸の拒否の特例について定めてい
るが,特例が認められるのは,法務省令で定める場合において,法務大
臣が「相当と認めるとき」とされているのであり,この判断は法務大臣
の裁量に委ねられているものと解される。このような仕組みを前提とし,
同条を受けた入管法施行規則4条の2第1項2号も,上陸の拒否の特例
が問題となる場合において在留資格認定証明書を交付すべき要件を具体
的に定めていないところである。
これらの関係法令の定めを踏まえると,入管法5条の2の適用対象と
なり得る場合には必ず在留資格認定証明書を交付すべきことが法令上求
められているとは解されず,入管法施行規則6条の2第5項ただし書の
上記趣旨をも併せ考慮するならば,上記証明書を交付するか否かの判断
は,法務大臣等の裁量に委ねられていると解される。もっとも,特定上
陸拒否事由がある場合における在留資格認定証明書の交付が,上陸の拒
否の特例を法務大臣が認めるに当たっての前提要件の一つとされている
ことに照らすと,上陸拒否の特例を認める判断がされるべき事情がある
にもかかわらず,在留資格認定証明書の交付を行わないことによって上
記要件を充足させないことは許されないものというべきであり,かかる
場合においては,上記証明書を交付しないことが裁量権の範囲の逸脱又
はその濫用になるものというべきである。
(ウ)そこで,上陸の拒否の特例を認める判断がされるべき事情がある場
合,すなわち,その判断をしないことが法務大臣の裁量権の範囲の逸脱
又はその濫用となる事情があるといえるのはいかなる場合かについて検
討する。
国際慣習法上,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,
特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,
これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかは,国家が自由に決定
することができるものとされており,憲法上,外国人は,我が国に入国
する自由を保障されているものでない(最高裁昭和50年(行ツ)第1
20号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁,最
高裁昭和29年(あ)第3594号同32年6月19日大法廷判決・刑
集11巻6号1663頁参照)。
そして,上陸拒否の特例の判断の対象となる外国人は,入管法上,本
来的には本邦に上陸することができない者である上,同法5条の2は,
上陸拒否の特例が認められるのは,法務省令で定める場合において,
「相当と認めるとき」と定めており,法務大臣の判断を覊束するような
規定も設けていない。さらに,外国人の出入国管理は,国内の治安と善
良な風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定等の国益の保持を
目的として行われるものであって,その性質上,広く情報を収集し,そ
の分析を踏まえて,時宜に応じた専門的・政策的な判断を行うことが必
要であり,高度な政治的判断を要する場合もあり得るところである。
以上を総合勘案すれば,4号上陸条件に適合しない外国人に対して,
特定上陸拒否事由のみによっては上陸を拒否しないという判断をするか
どうかは,法務大臣等の広範な裁量に委ねられており,法務大臣等は,
前述した外国人の出入国管理の目的である国内の治安と善良な風俗の維
持,保健・衛生の確保,労働市場の安定等の国益の保持の見地に立っ
て,当該外国人の過去の在留の状況,特別に上陸を求める理由の当否の
みならず,国内の政治・経済・社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,
国際礼譲等の諸般の事情を総合的に勘案してその判断をする裁量権を与
えられているものと解される。したがって,上陸の拒否の特例を認めな
い法務大臣等の判断が違法となる事情があるといえるのは,当該事情の
下で上記特例を認めない判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著
しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣等に与えられた裁
量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものと評価し得る場合に限られ
るものというべきである(前掲最高裁昭和53年10月4日大法廷判決
参照)。
そうすると,在留資格認定証明書の交付を行わないことが裁量権の範
囲の逸脱又はその濫用になるのも,上記のような場合というべきであ
る。
(エ)以上の判断の枠組みに従って,本件不交付処分に係る東京入管局長
の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるといえるか否かについ
て,更に検討することとする。
(2)認定事実
前記前提事実並びに掲記の証拠(枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれ
ば,次の事実が認められる。
ア原告は,平成4年10月20日に本邦に入国した後,埼玉県内に居住し
て,イスラム教の伝道師として活動していた(甲3の3,乙17)。
イ原告の妻,三女,四女,長男及び二男は,平成16年5月3日,成田国
際空港に到着し,入管法所定の在留資格「家族滞在」,在留期間「3年」
とする上陸許可を受けて本邦に上陸した(乙2ないし6)。
ウ原告は,遅くとも平成17年6月頃,埼玉県内において,有限会社bを
設立して,カレー調味料等の仕入れ及び販売をするとともに,cという名
の飲食店やdという名の食料品等販売店で営業を行い,平成18年6月に
は,e株式会社を設立して,衣料,タイヤ及び車の部品の輸出等を行って
いた(乙17)。また,原告は,平成18年8月18日,埼玉県○市α
に所在する土地及び建物(以下「本件建物」という。)の所有権を取得し
た(甲23の1・2)。
エ原告は,平成19年▲月頃,原告の資格外活動の疑いにより,捜索を受
けたことから,上記ウの経営を止めた。そして,原告は,同月▲日,資
格外活動の容疑で,次いで同年▲月▲日,銀行法違反の容疑で,それぞれ
逮捕され,同年▲月▲日,東京地方裁判所において銀行法違反の罪につい
て本件有罪判決を受け,同判決は同月▲日に確定した。同判決によれ
ば,原告は,氏名不詳者らと共謀の上,内閣総理大臣の免許を受けない
で,平成17年9月11日頃から平成18年7月1日頃までの間,前後2
0回にわたり,埼玉県内又はその周辺において,fほか5名から,電話等
の方法によりパキスタンに居住する受取人に対する送金の依頼を受けてこ
れを引き受け,原告が管理するg名義の郵便貯金口座に送金受任額合計3
12万円を振込入金させた上,同国内に所在する両替商あてに,送金受任
額,受取人等をファクシミリで送信又は国際電話で連絡して支払指図を
し,同両替商関係者をして,平成17年9月13日頃から平成18年7月
3日頃までの間,前後20回にわたり,同国内において,上記支払指図に
より各受取人に対し,あらかじめ準備していた現地通貨の資金の中から,
各送金受任額と同額の現金合計141万9200ルピーを現地通貨で交付
し,あるいは同国所在の銀行に開設されている依頼人の指定する口座に1
4万ルピーを振り込み入金して支払う方法により,業として為替取引を行
い,もって内閣総理大臣の免許を受けないで銀行業を営んだものである。
(甲5,乙17,19)
オ原告は,上記エに先立つ平成18年10月12日,東京入管局長に対
し,在留資格を「投資・経営」とする変更許可申請をしていたが,平成1
9年3月22日に不許可となり,同年10月19日,パキスタンに強制送
還(本件退去強制)された(乙1,17)。
カ原告の妻は,平成20年3月27日,埼玉県○市においてh株式会社
を設立し,同年5月8日,在留資格「投資・経営」,在留期間「1年」と
する在留資格の変更許可を受け,以後4回,在留期間の更新許可を受けた
(甲19,乙2)。
キ現在,原告の妻は,代表取締役としてh株式会社を経営し,360万円
程度の年収を得ており,本邦において三女,四女,長男及び二男を扶養
し,上記子らと共に本件建物に居住している。このうち,三女及び四女は
埼玉県内の中学校を卒業後,アルバイトをしており,長男は同県内の高等
学校に,次男は同県内の中学校にそれぞれ在籍している。(甲4,11,
19ないし24)
また,原告の長女及び二女は,パキスタンにおいて婚姻し,同国内に居
住している(甲4)。
ク原告は,原告の妻を代理人として,平成25年1月23日,在留資格認
定証明書の交付申請を行った。同申請の理由書に添付された資料によれ
ば,原告は,同月10日,日本政府に対して謝罪し,妻子との同居が許さ
れることを願う旨の宣誓供述書を作成している(甲11)。また,同資料
によれば,原告は,不眠症,頭痛,動悸及び疲労等の症状が見られるとこ
ろ,従前から不安障害があり,その原因は妻子との別居という問題に関係
している旨の診断をパキスタンの医師から受けている(甲6)。さらに,
同資料には,世界保健機関(WHO)の世界保健統計2011も含まれて
おり,これによれば,パキスタンの男性の平均寿命は62歳であるとされ
ている(甲25。原告は1957年生まれであり,本件不交付処分時55
歳である。)。
(3)本件不交付処分の適法性の検討
ア原告の過去の在留状況
前記前提事実及び上記認定事実のとおり,原告は,複数の者から送金依
頼を受けて,原告の管理する他人名義の郵便貯金口座に合計312万円と
いう多額の金員を振込入金させ,本邦からパキスタンへの送金手続を行
い,免許を受けないで銀行業を営んでいたものであるところ,このような
いわゆる地下銀行を営む行為は,正規の手続で本国に送金することができ
ない外国人の不法就労や日本国内における違法活動を助長するおそれがあ
り,出入国管理行政上看過できないものであって,本件有罪判決が執行猶
予期間を5年としたことも,この点を踏まえたものと理解されるところで
ある。
もともと,原告は,「宗教」の在留資格で本邦に在留していたにもかか
わらず,遅くとも平成17年6月頃から平成19年1月頃までの間,有限
会社及び株式会社を設立して事業を営み,資格外活動の容疑で同月に逮捕
されるに至ったものである。原告は平成18年10月に在留資格変更許可
申請をしているが,同申請に先立ち,早い時期から手広く事業を営んでい
たことが認められるのであって,かかる原告の行為は,外国人の就労活動
を制限する入管法(2条の2,19条,24条4号イ,70条1項4号,
73条参照)の趣旨を軽視し,我が国の社会・経済秩序を乱すものといえ
る。
これらの事情に鑑みると,原告の過去の在留状況は悪質であり,かかる
点を在留資格認定証明書の交付の審査において不利にしんしゃくされても
やむを得ないといえる。
そして,原告は,平成25年1月に在留資格認定証明書の交付申請をし
たものであるが,これは本件有罪判決により科された執行猶予期間が満了
してから1年も経っていない時期であって,「特定上陸拒否事由に該当す
ることとなってから相当の期間が経過している」(入管法施行規則4条の
2第1項2号)と直ちにいえるかにも疑問があるというべきである。
なお,原告は,本件有罪判決の執行猶予期間が経過し,刑の言渡しの効
力が失われている旨主張するが,入管法5条1項4号の定める上陸拒否事
由が「1年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられた
ことのある者」とされていることからも明らかなとおり,ここでは刑に処
せられたという歴史的事実が拒否事由になるものであるから,刑の言渡し
の効力が失効することが,既に述べたところを左右するものではない。
イ原告の家族の状況等
前記前提事実及び上記認定事実のとおり,原告の妻は,「投資・経営」
の在留資格で本邦に在留して,株式会社を経営しており,原告の三女,四
女,長男及び二男も「家族滞在」の在留資格で本邦に在留して原告の妻の
扶養を受けており,原告の妻及び上記子らは原告所有の本件建物に居住し
ている。また,原告は,パキスタンにおいては比較的高齢であり,妻子と
の別居に起因する不安障害等もあることがうかがわれる。
しかし,原告の妻及び上記子らは,パキスタンにおいて生まれ育ち,平
成16年5月3日に本邦に入国するまでは同国で生活していた者である上,
本邦においても一定の在留期間を定められて在留している地位にあるもの
のであり,少なくとも現時点において生活の本拠が永続的に本邦に所在す
ることになるであろうとはいえず,したがって原告の上陸を認めなければ
原告が家族と暮らすことが将来的に著しく困難になるといった事情がある
ともいえない。
当面の間,原告が家族らと生活を共にすることができないとしても,原
告の妻及び上記子らが,パキスタンに居住する原告を訪問することは不可
能でなく,電話やインターネット等を通じて原告との間で連絡を取り合う
こともできることなどを勘案すれば,原告が本邦に入国できないとしても,
原告の妻及び上記子らとの交流がおよそできなくなるものではない。また,
原告の長女及び二女は,原告が現在居住するパキスタンにおいて,婚姻し,
居住するものである。
原告は,日本政府に対して謝罪し,妻子との同居が許されることを願う
旨の宣誓供述書を作成するなどして,過去の本邦在留中の行為に対する謝
罪や反省の態度を示しているところであって,直ちに本邦において家族と
生活したいというその心情は理解できなくはないところであるが,原告に
本邦に在留する家族がいることや原告の状況等については,在留資格認定
証明書の交付の判断において積極的にしんしゃくされるべき事情の一つで
あるといえるとしても,これを理由として直ちに上陸拒否の特例が認めら
れるべき程度のものとまではいえない。
ウ以上に検討した原告の過去の在留状況,原告の家族の状況,原告の反省
の状況,健康状態等の諸事情を総合考慮すると,原告に有利な事情を最大
限考慮しても,本件において上陸拒否の特例を認めなければ,法務大臣等
の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したといえるまでの事情があると
はいえない。そうすると,本件不交付処分が東京入管局長に与えられた裁
量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してされたものとはいえない。
よって,本件不交付処分は適法である。
(4)原告の主張について
ア原告は,B規約17条及び23条が家族の保護を定めていることから,
本邦に妻子が在留している原告に対しては在留資格認定証明書が交付され
るべき旨の主張をする。
しかし,すでに述べたとおり,国際慣習法上,国家は外国人を受け入れ
る義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受
け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付する
かを当該国家が自由に決定することができるとされているところ,B規約
13条は外国人に対して法律に基づく退去強制手続を採ることを容認して
おり,このような国際慣習法上の原則を前提とするものと解される。そう
すると,B規約の下においても,家族等の保護については,あくまで出入
国管理制度の枠内において考慮されるべき事情として配慮すべきものにと
どまるというべきであって,この点に関する原告の主張は採用できない。
イ原告は,本件不交付処分は,申請に係る疎明資料をほとんど考慮せず,
事実に関する総合的評価と正しい理由の提示をしないまま,意味不明かつ
恣意的で闇討ちのような判断をしたものであり,犯罪歴がある外国人に対
しても在留資格認定証明書が交付されているという実務を踏まえると,比
例原則に反してされたもので,違法である旨主張する。
しかし,在留資格認定証明書の交付に係る法務大臣等の裁量権について
は前記のとおりであり,その判断は個々の事案における諸般の事情を総合
的に考慮した上で個別的に決定されるべきものであるところ,本件におい
ては,在留資格認定証明書が交付されないことにより原告に生ずべき不利
益を含め,諸般の事情を総合的に考慮して本件不交付処分がされたもので
あって,その判断内容の合理性についても,これを否定すべきものとは認
め難いこと,前記前提事実のとおり,東京入管局長は,「本邦に上陸しよ
うとする外国人は,出入国管理及び難民認定法第5条第1項第4号に規定
する上陸拒否事由に該当します。」との理由で本件不交付処分をし,これ
を原告の妻に対して通知しているところ,本件不交付処分にはそもそも行
政庁に処分理由の提示を義務付けた行政手続法8条の適用がない上(同法
3条1項10号),上記理由の内容に誤りはなく,上記総合判断の内容を
具体的に通知することを義務付ける法令上の根拠もないことからすると,
この点に関する原告の主張を採用することはできない。
2争点(2)(在留資格認定証明書の交付義務付けの訴えの適法性)について
在留資格認定証明書の交付の義務付けを求める訴えは,行政事件訴訟法3
条6項2号所定のいわゆる申請型の義務付けの訴えであると解されるところ,
申請型の義務付けの訴えのうち「当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し
又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合」の類型については,当該処分又
は裁決が「取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在である」と
きに限り,提起することができると定められており(同法37条の3第1項2
号),併合提起した処分又は裁決の取消請求又は無効確認請求が認容されるこ
とが訴訟要件になるものと解される。
これを本件についてみてみるに,前記1で説示したとおり,本件不交付処分
は適法であって,取り消されるべきものには当たらないから,在留資格認定
証明書の交付の義務付けを求める訴えは,行政事件訴訟法37条の3第1項
2号の訴訟要件を欠くものとして不適法であり,却下を免れない。
第4結論
以上によれば,本件訴えのうち,原告に対する在留資格認定証明書の交付の
義務付けを求める部分は不適法であるからこれを却下し,その余の請求は理由
がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第51部
裁判長裁判官小林宏司
裁判官徳井真
裁判官堀内元城

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