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裁判例


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判          決
  当事者の表示   別紙当事者目録記載のとおり
         主          文
1 甲事件原告ら及び乙事件原告ら兼甲事件参加原告らの請求をいずれも棄却す
る。
2 訴訟費用は甲事件原告ら及び乙事件原告ら兼甲事件参加原告らの負担とする。
 
事実及び理由
第1 請求
1(甲事件)
  被告豊橋市長は,平成10年9月24日付けで豊橋市と三井造船株式会社(中
部支社)との間で締結された資源化センターごみ処理施設更新工事請負契約に基づ
く工事残代金26億1906万8000円の支出をしてはならない。
2(乙事件)
  被告A及び同三井造船株式会社は,豊橋市に対し,連帯して153億3593
万2000円及び内金5億5070万円に対する平成10年10月31日から,内
金19億2257万9000円に対する平成11年4月21日から,内金2億37
82万1000円に対する同年5月1日から,内金11億1580万円に対する同
年6月22日から,内金25億1550万円に対する平成12年4月1日から,内
金27億7276万円に対する同月21日から,内金9億9840万円に対する同
年6月16日から,内金45億5635万6000円に対する平成13年4月28
日から,内金6億6601万6000円に対する同年6月16日から各支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,豊橋市の住民である甲事件原告ら及び乙事件原告ら兼甲事件参加原告ら
(以下,両者を総称して「原告ら」という。)が,豊橋市と乙事件被告三井造船株
式会社(以下「被告会社」という。)との間で締結された資源化センターごみ処理
施設更新工事請負契約は,その対象となる熱分解高温溶融炉が住民に対する重大な
危険性を内包することから公序良俗に違反するものであること,平成11年法律第
87号による改正前の地方自治法(以下「法」という。)234条,同法施行令1
67条の2第1項2号に反して随意契約の方式で締結されたこと,ごみ処理につき
灰溶融が義務付けられているとか,技術評価書を取得した機種でなければ,厚生省
(現厚生労働省)から予定していた補助金は交付されない等の誤った前提に基づい
ているから,甲事件
被告豊橋市長(以下「被告豊橋市長」という。)及び議決した市議会に要素の錯誤
があること,法2条13項,地方財政法4条に違反することなどの理由で無効であ
ると主張し,被告豊橋市長に対して未払分の工事代金支出の差止めと,市長たる個
人である乙事件被告A(以下「被告A」という。)及び被告会社(以下,甲,乙両
事件被告らを総称して「被告ら」という。)に対して損害賠償ないし不当利得とし
て既払分の豊橋市への支払を求めた住民訴訟事件である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実等)
(1) 原告らは,いずれも豊橋市の住民である。
被告Aは,被告豊橋市長として豊橋市の事務を管理,執行する者である。
(2) 豊橋市は,従来,昭和55年度に稼働を開始した資源化センター(市内a町字
b番地)において,「ストーカ式焼却炉」3基を設置し(3号機は平成3年度に増
設),分別収集した可燃性のごみの焼却処理を行っていた。しかしながら,稼働開
始から10年以上を経て,処理態勢の再構築が重要課題となり,平成5年ころか
ら,廃棄物の処理計画策定とその具体化が検討され始めた。
そこで,豊橋市は,平成8年5月15日,市議会に廃棄物処理調査特別委員会を設
置し,1,2号機の更新について検討を加えてきたが,平成9年2月27日,「熱
分解+高温燃焼溶融炉(回転キルン方式のガス化溶融炉。以下「本件炉」とい
う。)」の採用を決定し,平成10年9月24日,被告会社との間で,代金179
億5500万円(粗大ごみ処理施設(再利用施設)の更新工事代金16億3779
万円を含む。)と定めて工事請負契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
(3) 本件契約は,本件炉と同一機種について廃棄物処理技術評価書を取得している
のが被告会社のみであるとの理由で,随意契約の方式で締結された。
(4) 豊橋市は,被告会社に対し,本件契約に基づく工事代金として,平成10年1
0月30日に5億5070万円,平成11年4月20日に19億2257万900
0円,同月30日に2億3782万1000円,同年6月21日に11億1580
万円,平成12年3月31日に25億1550万円,同年4月20日に27億72
76万円,同年6月15日に9億9840万円,平成13年4月27日に45億5
635万6000円,同年6月15日に6億6601万6000円,以上合計15
3億3593万2000円を支払ったので,残代金は26億1906万8000円
となる。
(5) 原告らは,平成10年9月14日,平成11年1月18日,同月25日,同年
2月2日及び同月12日,豊橋市監査委員に対し,本件炉の安全性が確認されるま
で,本件契約の履行の差止め等を求める住民監査請求をしたが,最初の請求に対し
ては平成10年9月22日付けで却下決定が,次の4回の請求に対しては平成11
年3月17日付けで棄却決定がなされた(甲2,5,7)。
2 本件の争点及びこれについての当事者の主張
本件契約は,違法,無効なものか。
(1) 公序良俗違反について
 (原告らの主張)
ア 本件炉は,空気を遮断して加熱し,ガスとカーボンに分離する工程を経て,再
度燃焼させて高温を得る仕組みとなっている。空気と遮断されたまま発生する可燃
性ガスは容易に酸化する。したがって,還元性ガスの発生から燃焼に至る過程のい
ずれかにおいて,漏出事故が発生すると,大爆発につながる危険がつきまとう。
また,還元性ガスには有毒物質の混入は避けられない。すなわち,建前では塩化ビ
ニルなどの廃プラスチック類は焼却しないことになっているが,現実には混入は避
けられず,発生した塩素やダイオキシン類が還元性ガスに混入し,万一漏出した場
合は,近隣住民の生命,身体等に重大な害悪を与える。
このほか,還元性ガスには,CO,硫化水素,酢酸ベンゼン,水銀,鉛などの有毒
ガス(金属蒸気)が含まれる危険性があり,漏出すれば,死亡事故につながりかね
ない。
イ 本件炉は,実験炉の段階にあって,その安全性は検証されていない。ドイツの
シーメンス社(以下「シーメンス社」という。)がドイツ連邦共和国バイエルン州
フュルト市において設置したガス化溶融炉のフュルトプラント(以下「フュルトプ
ラント」という。)でも,平成9年11月及び平成10年8月にガス漏れ事故が多
発し,運転を中止している。
また,愛知県東海市の灰溶融炉において,平成14年1月28日,消火不十分のま
ま,炉の修理作業を行うという初歩的ミスが原因となって,爆発事故が発生し,作
業員10名が負傷するに至った。試運転中の本件炉においても,同月31日午後5
時30分ころ,火災事故が発生したが,その原因は十分に解明されていない。
このように,本件炉の構造自体が相当に複雑なものであることから,大小の事故発
生は宿命的なものであり,今回の事故も必然的といって差し支えない。
ウ 本件炉については,技術評価書が作成されているが,1日当たり20トンの規
模の実証プラント(実験炉)での実験結果を基にしているにすぎない。本件炉は,
これの10倍のスケールであり,上記の実験結果が妥当する根拠が示されていな
い。
むしろ,本件炉は,①高温燃焼(溶融)過程で1300度の高温を維持しなければ
ならないが,かかる高温では炉の損傷が著しく,事故発生の原因となる。特に,異
常高温下での温度のモニターは困難である。②熱分解過程でドラムを回転させるこ
とにより,廃棄物への熱伝導を向上させることが意図されているが,ドラムの回転
軸,シール部,熱伝導管等は,回転によって摩耗,損傷しやすい。③分解過程で発
生したガスを外部の空気と完全に遮断させることは,技術的に困難である。④分解
過程で発生するタールなどの固着対策がなされておらず,導管などが閉塞されてシ
ール部からのガス漏出,爆発などの危険性がある。⑤熱分解過程と高温焼却過程と
は,相互に調節しあって全体としての機能を維持する設計となっているところ,分
解過程で発生するガ
ス,タールなどの量は,ごみ質によって影響を受けるので,それが変化すると,対
応できないことがあり得る。
 (被告らの主張)
原告ら主張のうち,フュルトプラントにおいて,平成9年11月及び平成10年8
月にガス漏れ事故が発生したこと,本件炉は,技術評価書の基礎となった実験プラ
ントの10倍のスケールであること,以上の事実は認めるが,その余は否認ないし
争う。
ア 熱分解ガスそれ自体は,酸素がほとんど存在せず,水分含有量が多いため,支
燃性,可燃性要素が極めて薄く,爆発の危険性は極めて小さい。
本件炉においては,熱分解ドラム内は気圧が外気よりもマイナス圧に保たれている
から,そもそもガスが外部に洩れない構造となっている上,シール部のシールプレ
ート(回転部分のシール面)とシールリング(固定部分のシール面)との隙間にグ
リースを充満させ,シール効果の強化,シール部の摩擦力の低減を図るグリース注
入方式を採用し,これによりシール部分の損耗の減少と密閉性の上昇という効果を
もたらしている。また,シールリング内部に冷却水を循環させてシール部の温度上
昇を防ぎ,グリースの劣化やシール部の熱変形を防ぐ効果を持つ水冷ジャケット構
造も採用している。
このように,本件炉では,炉内部で発生したガスが漏出するおそれはないし,次の
燃焼溶融工程で完全燃焼し,さらに排ガス処理工程で処理された上で排出されるの
で,危険性については,十分な換気を確保するなど,常識的な注意を払えば足りる
程度のものである。
イ 本件炉は,フュルトプラントを技術的基礎としており,基本的なプロセスを同
じくするが,被告会社独自の技術・ノウハウを利用して開発されたもので,様々な
改良が加えられており,全く同一というわけではない。
フュルトプラントにおける平成9年11月の事故は,コンピューターの調整不良に
より,排ガス処理のバイパスが開き,フィルターを通過しないガスが漏出したもの
であるが,本件炉では,コンピューターシステムの二重チェックを施されており,
同種のバイパスも存在しないので,同様の事故は起こり得ない。平成10年8月の
事故は,十分に破砕されていない大型不燃物等の産業廃棄物を熱分解ドラムで処理
した結果,熱分解残渣が詰まってプロセスの一部が閉塞を起こしたが,センサーが
なかったため,これによって滞留した廃棄物の残渣がシール部に侵入し,損傷を引
き起こしたことによるものであるが,本件炉ではかかる産業廃棄物の受入れは予定
していない上,投入前のごみ破砕システムの強化,閉塞感知用のセンサー設置,シ
ール部の強化などの
対策が施されているので,同様の事故は起こり得ない。なお,フュルトプラントの
同市への導入中止は,政治的経済的理由によるものであり,技術的なそれによるも
のではない。
ウ 本件炉では,耐火物保護のため水冷壁構造を採用しており,炉内温度が130
0度であっても,炉壁の温度は1100度となるように設計されている。また,灰
の融点は1140度から1200度であるから,炉壁にはスラグのコーティング層
が形成され,炉を保護する効果が得られる。
また,本件炉は,熱分解ドラム自体が回転する構造であり,原告らのいう回転軸は
存在しないし,主要部分については半年ないし1年ごとの定期点検により,その他
の部分についても週ないし月ごとの日常点検により摩耗状況等を随時調査すること
とされているから,摩耗による損傷は事前に防止できる。
  タールとは,有機化合物が熱分解した際に得られる粘性のある褐色又は黒色の
液体であるが,約450度の温度に保たれている熱分解ガスにおいては,当然のこ
とながら気化しており,液状で熱分解ドラム内に残存することはあり得ない。さら
に熱分解過程では,約1時間かけてじっくりとごみを熱分解させるシステムが採ら
れているから,その間に温度調整することによりごみ質の変化に対応することは十
分可能であり,これは実証プラントの運用で実証済みである。
(2) 法234条,同法施行令167条の2第1項2号(随意契約)違反について
 (原告らの主張)
本件炉は,回転キルン方式のガス化溶融炉であるが,仮契約が締結された平成10
年7月29日当時,ガス化溶融炉自体については日本鋼管株式会社(以下「NK
K」という。)及び株式会社荏原製作所(以下「荏原」という。)などの競争可能
な業者が複数存在し(両社は平成10年7月21日に技術評価書を取得した。),
回転キルン方式のガス化溶融炉に絞ったとしても,被告会社の外に株式会社タクマ
も開発を進めていた。また,そもそも灰溶融設備を備えたストーカ式焼却炉も選定
の対象とされるべきであった。そして,競争入札に適しない事情がなかったにもか
かわらず,豊橋市は,漫然と随意契約の方式によって本件契約を締結しており,そ
の内容も不合理なものであるから違法というべきところ,このような事情は,大企
業である被告会社が知
り又は知り得べかりしものであったから,私法上,無効というべきであり,仮に無
効でないとしても,被告Aは豊橋市に生じた損害を賠償する責任がある。
被告らは,技術評価書の存在が国庫補助の要件とされていたと主張するが,平成1
0年10月28日付け厚生省衛生局水道環境部長通知「廃棄物処理施設整備国庫補
助事業に係るごみ処理施設の性能に関する指針について」が示す国の補助金支出の
基準には,技術評価書について触れられておらず,実証施設又は実用施設において
「一系列当たり90日間以上にわたり,この間の計画作業日における安定運転が可
能であること」を示しているにすぎないから,その時点で技術評価書を取得してい
たのが本件炉のみであることを理由に契約先を被告会社1社に絞る必要はなかっ
た。そして,被告豊橋市長が焼却炉の機種選定をしたとする平成9年11月27日
当時,NKK及び荏原は,実証試験終了の目処が立っており,技術評価書の取得も
間近であったから,対
象業者として十分に検討可能であった。また,平成9年2月ころのガス化溶融炉の
開発状況下では,機種の選定がそのままメーカーの選定につながりかねなかったこ
とから,厚生省は,整備計画書提出の段階では機種の特定を求めず,入札と契約締
結を補助金申請までに実施する予定の場合は,その旨の理由書を提出すれば,整備
計画書の提出は可能であった。現に,整備計画書において必要な発注仕様書は,昭
和52年7月6日付け厚生省環境衛生局水道環境部環境整備課長通知「一般廃棄物
処理施設建設工事に係る発注仕様書の標準様式について」によれば,「発注仕様書
は,工事施工業者が見積仕様書を作成するために市町村が提示するものであるの
で,できる限り詳細に作成すること。なお,この場合に当該内容によって工事施工
業者が一社に特定され
ることがないように留意すること」とされており,入札可能な程度に詳細に作成さ
れておればよいから,炉形式の特定がされなければ作成が不可能というものではな
い。
なお,豊橋市は,受注者が設計と施工を併せて行う性能発注方式によって本件契約
を締結しているが,この方式によってもできる限り競争入札を採用して価格の妥当
性を確保すべきであった。
 (被告らの主張)
原告らの主張のうち,本件契約が随意契約の方式によって締結されたことは認める
が,その余は否認ないし争う。
豊橋市は,既存のごみ焼却炉の老朽化,増大するごみの量,平成14年12月以降
の新ダイオキシン規制(既存のごみ焼却炉はクリアーできない。)等の事情から,
平成13年度中に新ごみ焼却炉を完成する必要があり,そのためには平成10年度
中の工事着手が不可欠であったところ,国(厚生省)との指針外施設協議,あるい
は国に対する施設整備計画書の提出等,所要の手続に要する時間を考慮すると,遅
くとも平成9年2月には,新ごみ焼却炉の機種選定を行う必要があった。
そして,国庫補助の前提となる指針外施設協議においては,一定規模及び一定期間
の実証試験の結果が必要とされており,同時に,この実証試験の結果は廃棄物研究
財団の技術評価書取得のためのデータとなっているから,実質的には,技術評価書
の存在が国庫補助の前提条件となっているところ,この時点で,豊橋市が導入を予
定していたガス化溶融炉について,補助金申請に必要な廃棄物研究財団の技術評価
書を取得していたのは被告会社のみであったことから,その性質上,同社と随意契
約を締結する必要があった。また,平成9年9月12日付け厚生省生活衛生局水道
環境部環境整備課長通知「平成10年度廃棄物処理施設整備計画書の提出につい
て」によると,国庫補助のために提出しなければならない整備計画書は,「施設整
備事業に係る発注仕様
書又はこれと同程度以上の内容を有する仕様書等が作成され,適正な事業費見積額
が把握されていること」が求められ,かつ「自らが建設を意図する施設の内容を明
確にした発注仕様書を作成すること」とされているところ,昭和52年7月6日付
け厚生省環境衛生局水道環境部環境整備課長通知「一般廃棄物処理施設建設工事に
係る発注仕様書の標準様式等について」の定める発注仕様書の標準様式に従う限
り,炉形式の選定がなされていなければ,事実上,発注仕様書の作成は不可能であ
った。このように,平成9年8月19日の指針外施設協議書の提出及び同年9月2
5日の整備計画書の提出は,いずれも被告会社の本件炉を前提として進めざるを得
なかったものである。
なお,本件炉は回転キルン方式のガス化溶融炉であるのに対し,NKKの機種は
「高温ガス化直接溶融炉」,荏原のそれは「流動床式ガス化溶融炉」であって,シ
ステムが異なる以上,後2者をも選定対象とするのであれば,市議会の承認,指針
外施設協議,整備計画書の提出等の手続をやり直す必要があり,平成10年度中に
行うことは不可能であった。
(3) 法2条13項,地方財政法4条(最少の経費)違反について
 (原告らの主張)
ア 豊橋市のごみ焼却量は,平成9年度で1日当たり371トンであるところ,本
件炉が建設,稼働開始された後の同焼却能力は,1日当たり550トンとなる(残
される既存の3号炉の焼却能力150トンと本件炉のそれの400トンを加えたも
の)。しかしながら,現在のごみ焼却炉ですら稼働率は92.8パーセントにすぎ
ず,今後は分別の徹底,資源の再利用化の充実が見込まれることを考慮すると,被
告ら主張のように,ごみ焼却量が右肩上がりに増加していくと予測するのは不合理
であり,稼働率67パーセントに低下する効果を求めて設備投資することは全く浪
費というほかないのであって,このような過剰設備の建設は,無駄な公共投資の典
型というべきである。
イ 前記のとおり,本件契約は競争入札によって締結されたものではなく,その結
果,代金額の合理性,妥当性について全く検討が加えられなかった。現に,代金額
179億円余は,その3割が建物に,7割が機械類に充てられるとされているが,
その明細が明らかにされる以前に本件契約は締結されており,結局,十分な検討を
加えることなく,業者のいうがままの代金額が定められたのであって,浪費の典型
例である。
なお,本件契約は,性能発注方式によっているが,性能の内容が明らかにされてい
ない上に,性能のみを基準として契約が締結されることから,いわば業者の言い値
で請負代金が決定されるため,その客観性や合理性が担保されていない。仮にこの
方式が肯定される場合には,その性能確保を相当期間にわたって保証すべきであ
り,本件炉のように2年間だけでなく,少なくとも平成20年までを保証期間とし
なければ違法というべきである。
ウ 本件炉は,稼働に際して1300度という高温を維持しなければならず,また
常時ドラムを回転させることからメンテナンスに必要な費用が従来の炉に比べて高
額になることが避けられないが,これらの維持管理費用について,検討された形跡
がない。さらに,本件炉は,ダイオキシン類の発生を抑制するために,24時間,
炉を稼働させる必要があるが,前記のとおりの稼働率では,補助燃料を大量に使用
することが予想され,さらに浪費を積み重ねることになる。
 (被告らの主張)
原告らの主張のうち,本件炉が建設,稼働された後の豊橋市のごみ焼却能力が1日
当たり550トンとなること,本件契約は競争入札によって締結されたものではな
いこと,以上の事実は認めるが,その余は否認ないし争う。
ア 豊橋市におけるごみ焼却実績は,平成9年度で11万3262トン(実稼働1
日当たり363.3トン)であり,平成5年度からの増加率は平均3.6パーセン
トとなっている。そして,平成20年度の予想人口40万5063人(毎年0.9
パーセントの増加)に1人1日当たりのごみ焼却量1078グラム(毎年約2.1
パーセントの増加)を乗じると,同年度のごみ焼却量は1日平均436.6トンに
なる。これに既存の3号炉から出る焼却灰16.7トンと,し尿汚泥9.8トンを
加えた豊橋市全体の1日当たりのごみ焼却必要量は463.1トンとなる。これに
厚生省の構造指針に基づく過去5年間の計画月最大変動係数1.14を乗じ,稼働
率0.96で除すと,549.9トンとなり,1日当たり550トンの焼却能力が
必要となる。
イ 本件炉の直接工事費は,見積価額を基礎として設計金額が算定されており,間
接工事費についても,「環境衛生施設整備費等国庫補助事業に係る歩掛表」によっ
て算出されている。
また,豊橋市は,炉形式決定過程にあった平成7年度に,焼却炉メーカー13社か
ら15プラントの資料を徴し,建設費の比較検討を行ったほか,平成9年2月の炉
形式決定時にも,焼却炉メーカー8社のストーカー式焼却炉と被告会社の本件炉の
建設費の比較検討を行っており,契約価格の合理性については十分な調査を遂げて
いる。
なお,本件契約は,一般廃棄物処理施設の建設において主流となっている仕様書に
よる性能発注方式を採用しており,工事費の詳細は,契約後に作成されることにな
っている。
また,本件炉の性能保証期間は,引渡しに先立つ性能試験において,発注仕様書記
載の性能がすべて満たされていることが確認されていることを前提として,引渡後
2年とされたものである上,主要機器については引渡後5年間,被告会社の故意又
は重過失による場合は同10年間,瑕疵担保責任の追及が可能である。したがっ
て,性能保証期間が短すぎるということはない。
ウ 豊橋市は,建設後の維持管理費用についても,上記の2時点で比較検討を加え
ている。さらに,被告会社は,本件炉の引渡後5年間,焼却施設の運転管理コスト
につき1トン当たり5800円,再利用施設のそれにつき3900円を保障し,こ
れらを超過した場合は被告会社が負担することになっている。また,本件炉におい
ては,通常の場合,補助燃料は必要とされない。
(4) 錯誤無効について
 (原告らの主張)
本件契約は,豊橋市において,
ア 本件契約に基づく工事代金の半額は,国及び県から補助金として豊橋市に交付
されるところ,上記補助金は,技術評価書が得られていなければ国からその交付を
受けられない,
イ ごみ焼却に際し,灰溶融が義務付けられている,
ウ ドイツ国フュルト市における実績が保障されている,
などと信じた結果,締結されたものであり,かつ被告会社も,これらの事情を動機
として豊橋市が本件契約を締結したことを認識していたところ,実際にはこれらは
誤った情報であった(フュルトプラントの事故を重視した厚生省は,補助金交付を
見直すことを決めており,これが交付されない事態も予想される。)から,契約は
錯誤によって無効である。
また,本件契約は,予定価格1億5000万円以上の工事又は製造の請負に関する
ものであるから,条例上,市議会の議決が要件となるところ,市議会は,上記アな
いしウの誤った情報を与えられたことにより,錯誤に陥り,可決したものであるか
ら,議決自体無きに等しく,本件契約は条例に反するものとして違法,無効であ
る。
 (被告らの主張)
原告らの主張のうち,豊橋市が本件炉の建設のために国に対して補助金の交付申請
をしたこと,本件契約について議会の議決が要件となっていること,議会において
上記アないしウについての説明がなされたこと,以上の事実は認めるが,その余は
否認ないし争う。そもそも,原告らの主張は,誰について錯誤を問題としているの
かさえ不明であり,動機を被告会社に表示した事実もないばかりか,アないしウは
いずれも真実であり,錯誤はあり得ない。
ア 前記のとおり,国庫補助の前提となる指針外施設協議においては,一定規模及
び一定期間の実証試験の結果が必要とされており,同時に廃棄物研究財団の技術評
価書取得のためのデータとなっているから,実質的には,技術評価書の存在が国庫
補助の前提条件となっている。ちなみに,国からは既に平成12年度分まで国庫補
助金の交付を受けている。
イ 平成8年9月11日付け厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長通知「平成
9年度廃棄物処理施設整備計画書の提出について」では,ごみ焼却炉のリサイク
ル,減量化を図るための溶融固化設備を有することが明示され,これが国庫補助採
択の条件となっていた。もっとも,平成11年度以降の施設では,「原則として,
溶融固化設備を有すること」と改められたが,例外は離島等が想定されており,豊
橋市は該当しない。
ウ 前記のとおり,フュルトプラントの事故は,産業廃棄物の処理を余儀なくされ
たことに起因しており,家庭ごみについては実績があるといい得るところ,本件炉
は,一般廃棄物の焼却を目的とするものである。なお,同市における導入中止は,
政治的経済的理由によるものであり,技術的なそれによるものではない。
(5) 条件達成の不可能について
 (原告らの主張)
本件契約は,ダイオキシン類の発生が0.01ng/N‰-TEQ以下に抑制される
ことが条件となっているところ,以下のとおり,条件達成の可能性はないので,無
効というべきである。現に,実証炉においては,この数値は実現されていない。
ア 燃焼室において均質に高温を維持することが困難であること
本件炉では,1300度以上の高温部分もあるが,内部が均質な温度状態であると
は考えられず,さらに多種多様なごみを撹拌して均一化することも困難であるか
ら,温度ムラを生ずることは避け難い。
イ 二次生成であるデノボ合成を回避することが不可能であること
デノボ合成は300度付近で最も発生しやすいので,これを回避するには,燃焼後
の高温排ガスを一気に300度以下に急速冷却する必要がある。しかし,冷却のた
めの時間を短縮するのは限界がある上,発生しやすい温度域を避けることはでき
ず,温度ムラの存在などを考慮すると,ダイオキシン類の再合成を完全に防止する
ことはできない。
ウ 24時間連続稼働させることが不可能であること
24時間連続稼働させるためには,常時一定量のごみを必要とし,大量のごみ排出
を前提とするが,これはごみの減量,分別,リサイクル等によるごみ発生源抑制対
策と矛盾する。また,機器の定期点検,補修等による立上げ,立下げは不可避であ
る。
エ バグフィルター自体の効果に限界があること
バグフィルターは,基本的にガス状のままのダイオキシン類を捕捉できず,ダスト
状のそれも,ろ布の目を通過するものがある。さらに,ろ布の目詰まり,破損,結
露などによって,その効果が低下する。
オ 触媒脱硝装置の機能に限界があること
触媒脱硝装置によるダイオキシン類の分解反応機構は未解明であり,どれだけの削
減効果があるかは不明である。また,この装置は,300度以上の高温でなければ
効果が期待できないが,その温度ではダイオキシン類が再合成される可能性が高い
から,その削減設備としては意味がないことになりかねない。
 (被告らの主張)
本件契約において,ダイオキシン類の発生が0.01ng/N‰-TEQ以下に抑制
されることを目標としていることは認めるが,その余は否認する。本件炉におい
て,目標とされたダイオキシン類の発生抑制は十分に可能である。
すなわち,ダイオキシン類の発生抑制のためには,850度以上の高温
で(Temperature),十分な滞留時間でごみを燃焼させ(Time),空気と混合撹拌さ
せること(Turbulence)の3T条件を満たした状態で完全燃焼させることが極めて
有効とされているところ,本件炉では,燃焼用空気を3段階に分けて送り込んでお
り,かつ旋回流を与えているため,炉内での燃焼性がよく,1300度の高温と十
分な滞留時間を実現することにより3T条件を満たしている。
また,排ガス処理のため,第1バグフィルターによって煤塵が除去され,第2バグ
フィルターの入口に脱塩剤を噴霧することによって塩化水素ガスや硫黄酸化物を除
き,触媒反応塔の設置により窒素酸化物とダイオキシン類を低減するシステムを採
用している。
(6) 消費税の二重計上の有無
(原告らの主張)
本件契約(乙イ1)においては,請負代金が179億5500万円(本体価格17
1億円に消費税8億5500万円を加えた金額)とされているところ,整備計画書
(乙イ4)に添付された建設費の見積金額においては,171億0334万500
0円(消費税8億1444万5000円を含む。)とされている。本件契約におけ
る請負代金の本体価格は,見積金額の端数を切り捨てた金額と考えられるから,結
局,消費税を二重計上していることになる。
被告らは,整備計画書に添付された建設費の見積金額には「粗大ごみ処理施設(再
利用施設)」が含まれていないのに対し,本件契約はこれが含まれていると主張す
るが,被告豊橋市長は,どのような経緯で見積金額から請負代金額に変化したの
か,何らの説明もしていないので,信用できない。むしろ,両者の金額に照らす
と,是が非でも実績を作りたかった被告会社が,見積金額を無視して,サービスと
して「粗大ごみ処理施設(再利用施設)」を含めて本件契約を締結したものと考え
られる。
そうすると,少なくとも消費税の二重計上分の公金の支出は違法である。
(被告らの主張)
原告らの主張は否認する。
上記整備計画書における建設費の見積金額は,「ごみ処理施設」のみの事業費に関
するものであるのに対し,本件契約の請負代金は,「ごみ処理施設」だけでなく
「粗大ごみ処理施設(再利用施設)」の更新工事をも対象としているので,両者を
単純に比較することは誤りである。
「粗大ごみ処理施設(再利用施設)」については,別の整備計画書(乙イ25)が
存在し,「ごみ処理施設」と併せた整備事業費は,184億1164万5000円
(消費税込み)となる。
第3 当裁判所の判断
1争点(1)について
(1) 一般に,公の秩序等に反する法律行為は無効とされる(民法90条)ところ,
ここでいう公の秩序とは国家や社会の基本的な秩序を意味し,例えば人の尊厳や家
族の基本秩序に反したり,経済活動の自由を不当に制限する内容を含む場合がこれ
に該当する。本件契約は,前記のとおり,ごみ焼却炉である本件炉を建設すること
を目的としており,それ自体が直ちに公の秩序に反する内容を含むとはいえない。
しかしながら,これにより建設される本件炉の稼働により,周辺住民等の生命・身
体に対して重大な危険を及ぼす場合は,間接的とはいえ本件契約がかかる被害発生
の原因となるものであるから,このような危険性が明白である限り,本件契約も無
効となる余地があると解される。
そこで判断するに,証拠(甲13ないし15,27,乙イ10,11,乙ハ1ない
し5,9,12,13)によると,以下の事実が認められる。
ア 本件炉は,回転キルン方式のガス化溶融炉であるが,その処理過程は,大別す
ると,①前処理過程(②の過程を円滑に行うため,粗大ごみが粗大ごみ破砕機によ
って一般ごみと同程度の大きさにされ,これと一般ごみが一般ごみ破砕機によって
150ないし200ミリ以下の大きさにされる過程),②熱分解過程(①のごみが
熱分解ドラムに送られ,空気を遮断された状態で,そこに配置された加熱管に流し
込まれた高温空気によって450度程度に加熱されることにより,廃棄物が熱分解
ガスと,熱分解カーボンと不燃物から成る熱分解残渣に分解される過程),③燃焼
溶融過程(②によって生じた熱分解ガスと熱分解カーボンとをエネルギーとして,
灰分等を1300度の高温で燃焼,溶融させ,これを冷却してスラグとして取り出
す過程),④排ガス
処理過程(③の過程で発生した排ガスをボイラに通して熱回収した後,2基のバグ
フィルターと触媒反応塔によって煤塵,塩化水素ガス,窒素酸化物,ダイオキシン
類等の有害物質を除去する過程)から構成されている。
イ 猛毒物質であるダイオキシン類の発生機序は,非常に複雑で未解明の部分が多
いが,ごみ焼却炉から排出されるそれは,一般に燃焼過程における不完全燃焼と,
排ガス処理過程における未燃成分や前駆体由来の二次生成によるものとの2つの要
因により生成されると考えられている。そして,焼却炉内部の温度が300度ない
し400度程度の低温である場合には発生しやすくなる反面,この温度をはるかに
超えた1000度以上の温度を十分な時間持続させると生成されにくく,いったん
生成されたものも分解されやすくなって,排出量が減少すると考えられている。そ
のため,ダイオキシン類発生防止等ガイドラインは,①燃焼温度(800度以
上),②滞留時間(2秒以上),③CO濃度(30ppm以下,ピーク値100p
pm以下)の3つの指針
を示している。本件炉の上記③の過程は,この指針を充足するものである。
また,本件炉の上記②の過程では,無酸素状態に近いことから鉄分が酸化されにく
く,また450度程度の温度では,アルミニウムは溶融することなく原型を保って
いるから,冷却してふるいにかけるだけで容易に回収し,再利用することが可能と
なる。さらに,上記③の過程において溶融された灰分等は,冷却されることにより
物性的に安定したスラグとして取り出すことができ,そのままあるいは加工するこ
とにより土木用資材など多様な再利用が可能となる。
その結果,最終的なごみ減容率は大幅に向上し,最終処理場に搬入される埋立量は
200分の1程度に減少して,その延命に貢献することが見込まれている。
ウ 熱分解ドラムは,内部の気圧が大気圧よりも低く設定されており,その回転面
と固定面の接合部分であるシール部分には,潤滑剤であるグリースを常時注入,充
満させる方式が採用され,摩擦力の低減による損耗の防止と密閉性の強化が図られ
ている。
また,高温下によるグリースの劣化を防ぐため,固定シール部分のシールリング内
部に冷却水を循環させる水冷ジャケット方式が採用されている。
なお,熱分解ガスは,水分を多く含む反面,含有酸素濃度が著しく低いので,爆発
の可能性は低いと考えられている(それ故に,次の高温溶融過程の燃料として使用
することが可能となる。)上,上記の構造の採用により,万が一,閉塞感知用セン
サーが正常に作動せず,熱分解ドラムに閉塞状態が出現しても,シール部分から熱
分解ガスが漏出する事故の発生を防止できると予想されている。
さらに,上記③の過程における高温から炉を保護するため,本件炉においては水冷
壁構造が採用され,炉壁温度は1100度程度にとどまるよう設計されている。そ
して,この温度は灰分等の溶融によって生ずるスラグの融点を下回っているから,
壁面内部にスラグによるコーティング層が形成され,結果的にその保護に資すると
考えられている。
エ 被告会社は,本件炉の技術をシーメンス社から導入し,平成6年8月,焼却能
力1日(24時間)当たり20トンの実証プラントを横浜市に完成,試運転を開始
した。そして,平成7年から平成8年にかけて一連の実証試験を実施したところ,
60日間連続運転中に,ごみ投入停止につながるトラブルが16回発生したもの
の,いずれも根幹にかかわるものではなく,対策を講ずることが可能と判断され,
全体としてはほぼ期待どおりの成績を修めた。その後,同プラントは千葉県市原市
に移設され,現在に至るまで設備の改善を加えられながら延べ1万2000時間以
上の運転を行っているが,熱分解ガスの漏出等の事故は発生していない。
また,被告会社の実用炉としては,平成9年7月7日に着工され,平成12年3月
31日に完成した八女西部クリーンセンター(福岡県筑後市所在。焼却能力1日当
たり110トン2基)が第1号となるが,焼却ごみ量が1基だけの稼働で足りるた
め,現在は1基を3か月交代で稼働させている状態にあるが,この間,24時間運
転を行っているものの,何らのトラブルは発生していない。
  上記認定事実によれば,本件炉は,従来機種にはない高温燃焼を実現すること
により,ごみ焼却炉の課題であったダイオキシン類の排出抑制と最終廃棄物の減量
化を実現しようとするものであり,現在の科学的知見に照らしてその原理は十分に
肯認し得る上,実証プラントにおける実験ではほぼ予期したとおりの成績を修め,
実用プラント第1号においても事故その他のトラブルの発生は報告されていないと
いうのであるから,原告ら主張のように,その稼働により,周辺住民等の生命・身
体に対して重大な危険を及ぼす蓋然性や無視し得ない可能性があると認めることは
できない。もっとも,従来機種と比べて複雑な構造を採用していることから,適正
な運転管理を行う必要があることが認められる(乙ハ4)が,このことはどのよう
な機種においても多
かれ少なかれ妥当するから,このことをもって,本件炉が危険性の高いものである
と即断することはできず,ましてやその建設を目的とする本件契約が公の秩序に反
して無効であるといえないことは明らかというべきである。
(2) この点につき,原告らは,まず,被告会社が本件炉の技術を導入したシーメン
ス社が設置したフュルトプラントでも,平成9年11月及び平成10年8月にガス
漏れ事故が多発し,運転を中止していると主張するところ,フュルトプラントにお
いて,原告ら主張のとおり2回にわたってガス漏れ事故が発生したことは当事者間
に争いがない。
しかしながら,前記認定事実に証拠(甲9ないし12,27,乙ハ6ないし8,1
2)を総合すると,平成9年11月12日の事故は,コンピューターシステムの調
整不良によって,排ガス処理設備のバイパスが開放されたため,熱分解ガスが漏洩
したものであるところ,本件炉においては,コンピューターシステムの二重チェッ
クを行っており,バイパス設備も設けられていないこと,平成10年8月12日の
事故は,マットレスのスプリングと思われる大型不燃物が原因となって残渣室が閉
塞し,そこに熱分解残渣が溜まって高温側シール部に入り,グラファイトを損傷し
たこと,さらに残渣レベルが上昇してシール部の圧力が増加し,熱分解ガスが漏洩
したこと,以上の経緯によるものであるところ,本件炉は,フュルトプラントと異
なり,大型不燃物が
混入しやすい産業廃棄物の受入れを予定しておらず,かつ2軸剪断破砕機に加え
て,粗大ごみについては衝撃式破砕機による破砕過程を経ること,残渣室下部は,
スクリューコンベアによるマテリアルシールを採用していて,閉塞しにくい構造と
なっていること,閉塞現象が発生した場合に,それを検知する二重のレベルセンサ
ーが設置されていること,シール部にはグリース注入方式,水冷ジャケット構造が
採用され,常に2枚のプレートが押さえつけられていることにより,間隙が生ずる
余地がないこと,万が一の漏出に備えてシール部を囲い込み,ガスが建屋内に滞留
しない構造となっていること,以上の事実が認められ,これによれば,少なくとも
本件炉においては,フュルトプラントで発生したのと同種の事故が発生する可能性
は著しく低いと判断す
ることができる。
また,原告らは,平成14年1月に発生した東海市の灰溶融炉及び試運転中の本件
炉における各事故を引用して,本件炉の事故が宿命的である旨主張するところ,証
拠(甲42の1ないし11,43)によれば,かかる事故発生の事実自体は認めら
れるものの,同時に,東海市の事故は灰溶融炉の修理作業を開始するに際し,十分
に鎮火していることを確認すべきであるにもかかわらず,これを怠ったというメン
テナンス上の初歩的ミスが原因であり,本件炉における事故も,証拠(乙ハ14)
によると,配電盤類のプラント動力主幹盤内にあるブレーカー電源側に異物が混入
し,放電したことが原因であったと認められ,いずれの事故も本件炉の構造的特性
とは関係しないと判断できるから,上記判断を覆すものではない。
(3) 次に,原告らは,本件炉の技術評価書(乙ハ4)は,1日当たり焼却量20ト
ンの規模の実証プラント(実験炉)での実験結果を基にしているのに対し,本件炉
は,これの10倍のスケールであるから,安全性確認の根拠とならないと主張する
ところ,本件炉が実証プラントの10倍のスケールであることは当事者間に争いが
ない。
確かに,経験則上,実証プラントでは生じなかった問題点がスケールアップされた
実用プラントでは顕在化する場合があることは否定できず,その意味では,実験結
果の有用性,信頼性を確保するためには,実用プラントとの規模が類似しているこ
とが望ましいといい得る。しかしながら,どの程度の格差が存在する場合に,上記
有用性,信頼性が損なわれるかについての確定した知見の存在を認めるに足りる証
拠はなく,かえって,バイエルン自然保護連合のごみ問題専門研究員であるエリ
カ・バックスマンの講演原稿(甲9,10)には,操作技術上複雑な施設において
は10倍を超えてはならないと記載されていること,スケールアップによって廃棄
物等の流路が太くなり,閉塞の危険性が減少する効果も期待できないものではない
こと等を考慮すると,
本件炉の規模は実証プラントのそれと比較して大規模に過ぎ,上記技術評価書が1
0倍程度のスケールアップが可能であると判断したことが不相当であるとは認め難
い。
よって,原告らの上記各主張はいずれも採用できない。
2 争点(2)について
(1) 前記前提事実に,証拠(甲26の2,乙イ1,3ないし9,12,15,16
の1,2,17,20ないし23,26,乙ハ4,証人B,調査嘱託の結果)を総
合すると,以下の事実が認められる。
ア 豊橋市は,従来,昭和55年度に稼働を開始した資源化センター(市内豊栄町
字西530番地)において,「ストーカ式焼却炉」3基を設置し(3号機は平成3
年度に増設),ごみの焼却処理を行っていた。
しかしながら,稼働開始から10年以上を経て,1,2号機の老朽化による処理能
力低下とごみ量の増大及び多様化が見られたことから,処理態勢の再構築が重要課
題となり,豊橋市は,平成5年ころ,長期的なごみ処理計画を内容とする廃棄物総
合計画を策定し,平成12年度を目処として更新施設を稼働させることを目標とし
て掲げた。その後,豊橋市は,平成6年度に,前記総合計画に基づいて施設整備の
基本事項をまとめた基本方針を策定し,さらに平成7年度に,ごみ処理施設の基本
設計をコンサルタント会社に委託する傍ら,庁内に助役を長とする資源化センター
施設整備検討委員会を設置し,同年10月にはストーカ式,流動床式,回転式,直
接燃焼(溶融)炉及び熱分解+高温燃焼(溶融)炉の5型式(メーカー数13,機
種数15)について
,平成8年10月には上記5型式(機種数7)について,見積書等を徴集して建設
費,運転経費及び性能について比較検討を行った結果,ストーカ式と熱分解+高温
燃焼(溶融)炉の2型式に候補を絞り込んだ。
他方,豊橋市議会は,平成8年5月15日,従来の厚生経済調査委員会に代わり,
市議会に廃棄物処理特別委員会を設置し,1,2号機の更新について検討を加えた
結果,平成9年1月10日,早急に施設更新に取り組むこと等を内容とする提言を
行っている。
ところで,ごみ焼却炉の更新工事は,着工から完成・引渡しまでに4年を要すると
見込まれたところ,豊橋市は,大気汚染防止法及び廃棄物の処理及び清掃に関する
法律の施行令,施行規則の改正に伴ういわゆる新ダイオキシン類ガイドライン(新
設炉は0.1ng/N‰-TEQ,既設炉は平成14年12月1日以降1ng/N‰-
TEQ)が実施され,既設の1,2号炉はこれをクリアーできないことを考慮して,
平成13年度中に新ごみ焼却設備を完成させることが必要であると判断し,これか
ら逆算して,工事請負契約を平成10年度中に締結する方針を固めた。
以上のような経緯を経て,豊橋市は,平成9年2月27日,上記2型式について,
メーカー(ストーカ式は8社,熱分解+高温燃焼(溶融)炉は被告会社)から具体
的な建設費見積書を徴集して最終検討を行った。その結果,両型式とも技術内容は
要求水準を満たすと判断されたものの,平成8年9月11日付け厚生省生活衛生局
水道環境部環境整備課長通知「平成9年度廃棄物処理施設整備計画書の提出につい
て」によってごみ焼却炉のリサイクル,減量化を図るための溶融固化設備を有する
ことが国庫補助金交付の条件とされた(3(1)①エ)関係上,灰溶融施設を併設する
ことが必要となったストーカ式の建設費は,一体型である熱分解+高温燃焼炉と比
較して見積総額で20億円から100億円ほど上回る結果となったため,熱分解+
高温燃焼(溶融)炉
を導入することが決定された。
イ 本件炉のように,厚生省の指針に含まれない次世代型の炉について国庫補助金
の交付を受けるためには,都道府県を経由して厚生省と指針外施設協議を行い,そ
の認定を受ける必要があるところ,昭和54年9月1日付け(昭和56年11月1
7日付け一部改正)厚生省環境衛生局水道環境部長通知「廃棄物処理施設整備国庫
補助事業に係る施設の構造に関する基準について」を受けた同日付け厚生省環境衛
生局水道環境部環境整備課長通知「廃棄物処理施設整備国庫補助事業に係る施設の
構造に関する基準について」によれば,上記協議を行うに当たっては,市町村は,
別添の「指針外施設取扱要領」に基づいて検討すべきこととされ,同要領3では,
上記検討は,1系列1日当たり20トン以上の試験用施設によって概ね1年以上試
運転を行い,四季そ
れぞれ1か月程度にわたり必要なデータを取ることによりなされた実証試験の結果
を基礎として行うものとされていた。
そして,上記の実証試験の結果を客観的に評価・検討する第三者機関としては,事
実上,平成6年3月以降は財団法人廃棄物研究財団が予定され,厚生省において
も,ここで作成された技術評価書を資料として添付することを想定していたとこ
ろ,被告会社は,平成8年4月22日付けでこれを取得している(乙ハ4)が,次
世代型ごみ焼却炉の開発に取り組んでいた他のメーカーがこれを取得したのは,平
成10年に入ってからであった(NKKは平成10年5月に,荏原は同年6月にそ
れぞれ実証試験を終了し,いずれも同年7月21日付けで技術評価書を取得してい
る。)。
ウ また,国庫補助金の交付を受けるためには,指針外施設協議と並んで,整備計
画書の提出が必要となるが,平成9年9月12日付け厚生省生活衛生局水道環境部
環境整備課長通知「平成10年度廃棄物処理施設整備計画書の提出について」によ
ると,整備計画書は,「施設整備事業に係る発注仕様書又はこれと同程度以上の内
容を有する仕様書等が作成され,適正な事業費見積額が把握されていること」が求
められ(1(1)④),また,同通知添付の「平成10年度廃棄物処理施設整備計画策
定要領」によれば,「自らが建設を意図する施設の内容を明確にした発注仕様書を
作成すること」とされているところ,昭和52年7月6日付け厚生省環境衛生局水
道環境部環境整備課長通知「一般廃棄物処理施設建設工事に係る発注仕様書の標準
様式等について」の
定める発注仕様書の標準様式は,第1章総則(計画概要,計画要目,施設機能の確
保,材料及び機器,試運転及び指導期間,性能保証,保証期間,工事範囲,提出図
書,検査及び試験,正式引渡し,その他の12節から成る。),第2章機械設備工
事仕様(各設備共通仕様,受入供給設備,燃焼設備,燃焼ガス冷却設備,排ガス処
理設備,余熱利用設備,通風設備,灰出し設備,給水設備,排水処理設備,電気設
備,計装設備,雑設備の13節から成る。)及び第3章土木建築工事仕様(計画基
本事項,建築工事,土木工事及び外構工事,建築設備工事,建築電気設備工事の5
節から成る。)から構成されており,その内容として具体的な数値の記入を要する
箇所が数多く存在している。
もっとも,昭和52年7月6日付け上記通知によれば,「発注仕様書は,工事施工
業者が見積仕様書を作成するために市町村が提示するものであるので,できる限り
詳細に作成すること。なお,この場合に当該内容によって工事施工業者が一社に特
定されることがないように留意すること。」とされ,標準様式の注記には,「[ 
]内に数値等を記入したことにより,単一のメーカを特定することとなった・・・場
合は[  ]内は空欄とし,見積設計図書の中でメーカに明らかにさせることとす
る」と記載されている。また,平成9年9月12日付け上記通知によれば,整備計
画書提出の段階では,指針外施設を予定していることを明らかにすれば,必ずしも
機種を具体的に特定する必要はないとされている。
エ 更新炉型式を決定した後,豊橋市は,指針外施設協議のための資料作成に着手
し,平成9年8月19日にこれを提出した。平成10年度廃棄物処理施設整備計画
書についても,平成9年9月25日付けで愛知県を経由して提出したが,その中に
含まれている発注仕様書は,第1章43頁,第2章162頁,第3章53頁から成
っていた。その結果,同市は,平成10年3月24日,厚生省から第1回目の国庫
補助の内示を受けるとともに,同年5月12日,指針外施設の承認を受けたので,
同年9月24日,被告会社との間で,代金179億5500万円をもって本件契約
を締結した。
なお,本件炉に対する国庫補助金については,平成13年3月30日までに合計5
4億0061万円が内示され,合計49億6936万円余が現実に交付されてい
る。
(2) ところで,法234条2項を受けた同法施行令167条の2第1項2号にいう
「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当するか否かは,
当該地方公共団体の契約担当者が,契約締結の方法に制限を加えている法令の趣旨
を勘案し,個々具体的な契約ごとに,当該契約の種類,内容,性質,目的等諸般の
事情を考慮して,その具体的な裁量に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和
62年3月20日第二小法廷判決・民集41巻2号189頁参照)。
これを本件についてみるに,前記認定事実によれば,豊橋市は,既設炉の老朽化や
処理能力の低下,さらにはダイオキシン類の新規制等の事情により,平成10年度
内に工事請負契約を締結する必要に迫られていたのであるから,指針外施設協議資
料の提出からその承認まで(現実には約9か月を要した。)及び整備計画書の作
成・提出にそれぞれ要すると見込まれた期間を考慮すると,平成9年度内に具体的
な機種選定を行う必要があったところ,同市は,平成7年から3回にわたってメー
カーから見積書等を徴集するなどして検討を重ね,最終的に,建設費において顕著
な格差が見られたことと,事実上の要件である技術評価書を次世代型ごみ焼却炉の
中で唯一取得していたことが決め手となって本件炉を選定したものであって,その
過程に裁量権を逸脱し
た不合理な点は認められないというべきであるから,これを開発していた被告会社
と随意契約の方法により本件契約を締結するに際して,その性質上競争入札に適し
ない事情が存したと判断するのが相当である。
(3) この点につき,原告らは,①ガス化溶融炉は,当時,被告会社のほかにも開発
を進めていたメーカーが存在すること,②技術評価書の取得は補助金交付の要件と
はされていなかったこと,③整備計画書において必要な発注仕様書は,機種が特定
されていなくとも作成可能であり,補助金申請までに特定すれば足りることを理由
に,豊橋市は,競争入札を実施すべきであった旨主張する。
しかしながら,①及び②の主張に理由がないことは既に述べたとおりであり,③に
ついても,上記認定に係る発注仕様書の様式に照らすと,既に実用炉が多数存在す
る型式の炉であるならばともかくとして,これが存在しない次世代型ごみ焼却炉に
おいては,炉型式を具体的に特定し,そのメーカーから各種データの開示を含む協
力を得ることなしに上記発注仕様書を作成することは著しく困難であると判断さ
れ,現に,少なくとも本件契約が締結された平成10年度以前にガス化溶融炉を導
入した8つの自治体等において,競争入札を実施した実例が存在した事実を認める
ことができない(乙イ29。なお,甲26の2,39,証人Cの証言によっても,
平成12年から平成14年の工期を予定した愛知県知多市発注のガス化溶融炉に至
って競争入札が実施さ
れたことが認められるのみである。)ことも考慮すると,到底,上記裁量権を逸脱
したと評価することはできないから,原告らの上記主張は採用できない。
3 争点(3)について
(1) まず,原告らは,豊橋市のごみ焼却量に照らすと,本件炉の焼却能力(1日当
たり400トン)は過大であると主張するところ,証拠(甲17,18,31ない
し34,乙イ4,20,証人B)によると,次の事実が認められる。
ア 豊橋市は,愛知県東三河地方の中心都市であり,その人口は平成8年度におい
て36万人強であって,それ以前の10年間は年平均約1パーセントの増加を示し
ていた。そして,将来的にも都市化が進み,安定した増加率を維持するものと考え
られ,いずれの推計方法(ロジスティック曲線式,一次傾向線式,一次指数曲線
式,べき曲線式)によっても,平成20年度には人口が40万人を突破するものと
予想されていた。
イ 豊橋市は,昭和55年からごみの5分別収集を開始し,平成元年3月に策定し
た「ごみ減量基本計画案」では,生産,流通,消費の全過程においてごみ減量に取
り組み,市民総参加によって10パーセントの減量を図ることを指標として掲げ
た。その後,同市は,平成3年には,資源ごみ高度分別推進事業を実施し,平成6
年には,オフィスサイクル推進事業を展開するなど,ごみ減量に積極的に取り組ん
でいる。
しかしながら,平成8年度以前の10年間においては,排出原単位(市民1人が1
日に出すごみの量)はほぼ右肩上がりの数値を示し(昭和62年度は612グラ
ム,平成8年度は710グラム),人口の増加とあいまって,ごみ排出総量もほぼ
右肩上がりの数値を示していて,その後もこれらの傾向は変わらないものと予想さ
れた。
その結果,平成20年度には,収集ごみ,直接搬入ごみ,し尿処理施設残渣(汚
泥)及び焼却処理施設残渣(主灰)の焼却対象物の総量は,年間約16万9000
トン,1日当たり平均処理量は約463トンに達すると見込まれ,これに計画月変
動係数(過去5年間における第1位の平均値)1.14を乗じて,厚生省通知に係
る全連続式焼却炉の稼働率0.96で除すると,約550トンになることから,こ
こから3号炉の焼却能力1日当たり150トンを控除して,1日当たり400トン
の焼却能力を持つものとして更新炉は計画された。
ウ もっとも,実際には,平成8年度をピークとして,主として事業系ごみ排出量
が減少したことから平成10年度には家庭系ごみ排出量を加えたごみ排出総量が減
少したが,従前の割合で人口及び世帯数が増加すると,これに伴って家庭系ごみ排
出量が着実に増加し,総量も再び増加することが予想され,現に増加率は鈍化した
ものの,増加自体は続いていることから,豊橋市は,平成13年3月作成に係る廃
棄物総合計画「ともに考え実践する持続可能な廃棄物循環型社会をめざして」にお
いて,排出原単位を10パーセント減量すること,ごみのリサイクル率を28パー
セントに引き上げること,ごみ焼却炉から発生するスラグの再利用などに取り組
み,最終処分量を75パーセント減量することなどを目標として掲げている。
上記認定事実によれば,平成9年度の時点で更新炉1基の処理能力を1日当たり2
00トンとして計画を策定し,平成10年度に本件契約を締結したことは,行政と
して適切な対応であったと判断し得る。もっとも,その後の現実の経緯は,上記予
測値よりも低い水準で推移しているとはいうものの,その時点における推計方法が
明らかに不当なものであるとは認められず,むしろ,ごみ処理のような問題につい
ては,予想される将来の事態に対して,ある程度の余裕をもって備えることは望ま
しいことではあっても,決して非難されるべきこととはいえないと考えられるか
ら,いずれの観点からも,最少の経費原則に反するとの原告らの主張は採用できな
い。
(2) 次に,原告らは,競争入札によらないで締結された本件契約の代金額は,メー
カーのいうがままに定められたもので,その合理性,妥当性について全く検討が加
えられていない上,性能発注方式を採用するのであれば,少なくとも平成20年ま
での保証期間を設定すべきである旨主張する。
しかしながら,本件契約については,決定に至るまでに3回にわたって競合機種の
見積書が徴集され,建設費に関する比較検討が行われた結果,本件炉については顕
著な優位さが存在したこと,また,日程の上からも被告会社との間で本件契約を競
争入札によらないで締結することが相当な事情が存したと認められることは,前記
認定・判断のとおりである。さらに,建設費総額を焼却能力(1日当たり400ト
ン)で除した単位当たり建設費は,本件炉については約4489万円であるとこ
ろ,証拠(甲13,39,40,証人B,証人C)によれば,自治体向けガス化溶
融炉の単位当たり標準建設費は,約5100万円であること,被告会社から本件炉
と同機種を導入した自治体等の単位当たり建設費は,北海道西いぶり廃棄物処理広
域連合が4500万円
,北海道江別市が4780万円,福岡古賀市外1市4町塵芥処理連合が4980万
円であること,競争入札を実施した知多市のガス化溶融炉の建設落札価格は83億
円であって,単位当たり建設費は6384万円であること,以上の事実が認めら
れ,これらに照らせば,本件契約の代金額が合理性を欠くとは認められず,また,
性能保証期間を長期に設定しなければ法2条13項等に違反すると解する法的根拠
も見い出し難いので,原告らの上記主張は採用できない。
(3) さらに,原告らは,本件契約締結に際して,メンテナンス費用や補助燃料につ
いて検討された形跡がないと主張するところ,甲11,12には,ドイツの技術者
が,熱分解溶融法につき,「エコロジー的に有利である反面,手間のかかる処理技
術であり,運転コストが高いという不都合がある。」とか,「取り込まれたエネル
ギーの大部分が廃熱ボイラーで利用されても,補助燃料が運転コストに占める割合
はひどく高い。」などと評価した記載が存在する。また,甲27にはガス化溶融炉
のランニングコストが高いと指摘する部分が,乙イ3,甲31には本件炉の機種の
運転経費が従来型のストーカ炉と比較して割高であることを示す部分が存在する。
また,被告らも,摩耗対策として定期的に適切な点検,修理が必要であることを自
認しており,本件炉
の技術評価書(乙ハ4)にも,耐久性確保の観点から熱分解ドラムの伝熱管を2年
ごとに交換し,燃焼溶融炉のスラグホールを1年ごとに補修するなど,高温腐食や
摩耗の対策に十分配慮する必要があるとの記載がある。
他方,乙ハ1,2には,これまでの溶融システムでは,外部エネルギーを要する
が,本件炉においては,熱分解ドラムで生成される熱分解ガスと熱分解カーボンを
もって燃焼溶融炉の熱源とするために,ランニングコストを低く抑えることができ
るとの記載があり,これらを総合すると,次世代型のガス化溶融炉は,従来機種と
比較すると,高温の発生・維持が必要とされるために,ランニングコストが高くな
る傾向があるが,その中では本件炉の機種が相対的に低額となることが認められ
る。そして,このような高温の発生・維持によって,ダイオキシン類の発生の抑制
やごみ類の減容率の大幅な向上という効果を得ることが可能になると認められるこ
とに照らすと,このような効果を斟酌してもなお過大と考えられる程度のコストを
要する場合でなければ最
少の経費原則が問題となる余地はないと解されるところ,本件においてはこのよう
な事実を認めるに足りる証拠はない。のみならず,本件炉の建設費自体は他機種と
比較して顕著な優位性が認められることは前記のとおりであり,これに,引渡後5
年間は,燃料費,維持補修費,人件費等のランニングコストが処理量1トン当たり
5800円を超過した場合(ただし,超過額が5パーセント以内であった場合を除
く。)は,被告会社が超過額を負担するとの特約を付した(乙イ2)上で,本件契
約を締結している事実をも併せ考慮すると,到底,本件契約が前記法条に違反する
とは認め難く,原告らの上記主張は採用できない。
4 争点(4)について
原告らは,本件契約を締結するに際し,豊橋市において(動機の)錯誤が存したと
ころ,契約の相手方である被告会社はこれを認識していたので,本件契約は無効で
あると主張するが,錯誤による意思表示の無効を第三者が主張することは原則とし
て許されないと解すべきである(最高裁昭和40年9月10日第二小法廷判決・民
集19巻6号1512頁参照)。もっとも,表意者の債権者が債権者代位権(民法
423条)に基づいて主張する場合は,別異に解することができるが,同代位権
は,自己の債権を保全するために認められるものであって,いわゆる客観訴訟の類
型に属する住民訴訟とは行使し得る権能の範囲に自ずから差異があるというべきで
ある。
すなわち,住民訴訟における原告の地位は,訴え提起について法律上の利益を有す
るか否かにかかわらず,当該普通地方公共団体の住民であるという資格に基づい
て,その違法な財務会計行為を是正する権能を付与されていることに基づくもので
あるから,債権者代位権の行使によって被代位者の管理処分権が制約を受けるのと
異なり,当該普通地方公共団体は,問題となっている権利に対する主体的決定権を
喪失しないと解するのが相当である(東京高裁平成12年12月26日判決・判時
1753号35頁参照)。そうすると,当該普通地方公共団体が錯誤による無効の
主張をしないにもかかわらず,住民がその主張をなし得ると解することはできず,
原告らの上記主張は,既述のように国庫補助金交付の有無,要件等について錯誤と
して主張する内容が誤
った情報であるとはいえないことをさておくとしても,この点においてそれ自体失
当というべきであり,採用できない。
また,市議会議決の無効に関する原告らの主張は,そもそも議決の効力が議員各人
の意思形成過程における欠缺ないし瑕疵によって影響を受けると解する余地がある
か否かはさておき,議案に賛成した議員ないしその集合体である市議会自ら錯誤の
主張をしていないにもかかわらず,住民がその主張をなし得ると解することができ
ないのは,先に説示したのと同様であり,採用できない。
5 争点(5)について
(1) 原告らは,本件契約は,ダイオキシン類の発生が0.01ng/N‰-TEQ以
下に抑制されることが条件となっているが,その達成の可能性はないので,無効で
あると主張するところ,乙イ1によると,本件契約書の工事内容は,別紙仕様書等
のとおりとされ,その第1章第2節9項の公害防止基準の(6)ダイオキシン類の款に
は,「0.01ng/N‰-TEQ以下」と記載され,同第6節2項の保証事項の
2)性能保証事項の(4)⑥ダイオキシン類の款には,上記「第2項第9項に規定する基
準値以下とする。」と記載されていることが認められる。
ところで,原告らのいう「条件」とは,本件契約締結の意思表示自体に付せられ
た,文字どおりの条件(民法133条1項)という意味ではなく,その主張に係る
ダイオキシン類の発生抑制が,本件契約によって被告会社が負担する債務の内容と
なっているとの趣旨と解される。そこで検討するに,一般に契約からは様々な債務
が発生し得るが,その1つが(原始的あるいは後発的に)履行不能である場合に,
直ちに契約全体の効力に影響を及ぼすか否かは,契約の趣旨,内容,その債務の有
する重要性,締結に至った経緯等を総合勘案の上,当事者の真意がどのようなもの
であったかを探求して決すべきものである。
しかるところ,上記性能保証事項とされた項目は,ごみ処理能力,溶融処理温度,
溶融スラグの熱灼減量,排ガス基準値等,多岐にわたることが認められ,ダイオキ
シン類の基準はその1つにすぎないこと,しかも,設定された基準値は,前記の新
ガイドラインのそれと比較しても著しく厳しい数値となっていること,仕様書の第
1章第7節には,「1 本施設の保証期間は,(原則として)正式引渡しの日より
2年間とする。2 保証期間中に生じた・・・欠点によるすべての破損及び故障等
は,請負者の負担において速やかに補修,改善,または取替を行わなければならな
い。」と定められていること,以上の事実が認められ,これによれば,本件炉が保
証された性能を発揮しない場合には,基本的にこれを瑕疵と捉え,被告会社の改善
義務の履行によって
対処しようとする趣旨と考えられる。現に,本件契約の約款40条は,瑕疵に基づ
く修補請求権ないし損害賠償請求権について規定し,その行使期間を原則として引
渡時から2年以内と定めていることが認められ,これらを総合すると,ダイオキシ
ン類の発生量が上記基準を充足しないとしても,直ちに本件契約自体を無効ならし
める趣旨のものではなく,瑕疵修補請求ないし損害賠償請求によって対応し,これ
によっても本件契約の目的を達しないと考えられる程度にまでダイオキシン類の発
生が認められる場合に限って注文主に解除権を与えた(民法635条)ものと解す
るのが相当である。
(2) なお,証拠(乙ハ1,2,4,12,13)によれば,横浜市に建設された被
告会社の実証プラントにおける調査結果(平成7年)は,0.06ないし0.40
ng/N‰-TEQの数値を示したこと,しかしながら同時に,「・・・濃度につい
ては,排ガス処理プロセスの選択によって抑制できるので特に問題ない・・・」と
判断されたこと,高温燃焼,バグフィルター,触媒脱硝装置などの複合効果によ
り,従来技術と比較して画期的にダイオキシン類の発生を減少させることが可能で
あり,現に,実証プラントにおいて上記基準値以下のデータを得たこと,以上の事
実が認められる。そうすると,そもそも,上記基準値を充足できないことが客観的
に明白であることを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない(甲27にも,
高温の持続と炉内撹拌
が「理想の状態」で行われた場合にはダイオキシンが分解すること,ダイオキシン
は触媒反応装置によって分解するが,ランニングコストがかかること,以上のよう
に記載されており,上記技術の有用性を否定する内容になっていない)。
 そうすると,いずれの観点からしても,原告らの上記主張は採用できない。
6 争点(6)について
証拠(乙イ1,4,24,25)によれば,廃棄物処理施設整備計画書(ごみ処理
施設)における建設事業費の見積金額171億0334万5000円(うち消費税
相当額8億1444万5000円)は,その標題どおり,ごみ処理施設のみの事業
費に関するものであるのに対し,本件契約の請負代金179億5500万円(うち
消費税相当額8億5500万円)の対象は,「資源化センターごみ処理施設更新工
事」であって,ごみ処理施設である「焼却施設更新工事」と粗大ごみ処理施設であ
る「再利用施設更新工事」の両者を含むことが認められる。
もっとも,本件契約における上記請負代金は,両施設の建設事業費の見積総額18
4億1164万5000円より4億5664万5000円ほど低額となっているこ
とが明らかであるが,前掲各証拠によれば,廃棄物処理施設整備計画書の作成は平
成9年9月25日ころであって,本件契約締結日の約1年前であること,前者にお
ける見積金額は,被告会社の「参考見積もり」によったこと,以上の事実が認めら
れるから,上記のような金額上の開きが存在するからといって,特段不自然な点は
認められない。
そうすると,両者の工事内容が同一であることを前提とする原告らの上記主張は,
採用の余地がない。
7 結論
以上の次第で,原告らの本訴請求は,いずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の
負担につき行訴法7条,民訴法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり
判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官   加  藤  幸  雄
裁判官   橋  本  都  月
裁判官   富  岡  貴  美

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