弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人らの負担とする。
         理    由
 一 本件抗告の趣旨及び理由は後記の通りである。
 二 当裁判所の判断。
 (1) 記録による本件保証取消決定に至るまでの経過は次の通りである。
 (一) 抗告人らは、抵当権者であるとして不動産の競売を申し立てた事件外三
協商事株式会社を被申請人とし、次の理由で抵当権実行停止の仮処分を申請した。
すなわち、昭和二七年一一月一人目佐賀地方法務局所属公証人A作成第五七八三二
号債務承認並びに弁済契約公正証書によると抗告人らは連帯して同日本件保証取消
申立人Bから金四〇万円を弁済期同年一二月二七日、利息の定なく、損害金一〇〇
円につき日歩三〇銭の約で借用し、これを担保するため抗告人Cはその所有不動産
に抵当権を設定したことになつておりまた同年一一月二〇日その抵当権設定登記が
なされ、ついで昭和二八年九月二〇日Bから前示会社への右債権及び抵当権の譲渡
を原因として、同年一二月八日前示会社を譲受人とする抵当権移転の附記登記がな
されている。そして同会社は右抵当権実行のため昭和二九年九月二一日抵当不動産
に対し競売を申し立て翌二二日競売手続開始決定がなされた。
 しかし抗告人らはBに対し右の債務を負担したことはなく、また抵当権を設定し
たこともないので、前記会社を被告とし佐賀地方裁判所に昭和二九年四月二三日債
権不存在確認並びに抵当権設定登記の抹消登記を求める訴を提起したので、(同裁
判所昭和二九年(ワ)第二六四号事件)同会社に対し抵当権の実行を停止する旨の
仮処分を求めるというのであつた。
 (二) 右仮処分申請を受理した佐賀地方裁判所は、昭和二九年一一月一〇日附
をもつて抗告人らに金八万円の保証を立てさせ前記不動産競売手続は本案判決の確
定まで停止するとの決定をなしたのであるが、その後Bは前示会社から前示公正証
書表示の債権を譲り受け(この点は抗告人らの主張するところである)、もつて該
公正証書(同証書は執行証書たる要件を具備している)を執行名義とし、昭和三〇
年七月一六日抗告人らの有する前示保証金八万円の取戻請求権の差押及び転付命令
を得、ついで競売申立人である前示会社は競売申立を取り下げたため競売手続は終
了した。
 (三) そこで、右転付債権者であるBは保証権利者である前示会社の同意を得
て右金八万円の保証につきその取消を求める申立をなし、原裁判所は昭和三〇年七
月二八日本件保証取消の決定をなした。
 以上の経過的事実が認められる。
 <要旨>(2) 以上の認定事実によると、佐賀地方裁判所のなした仮処分決定は
抵当権の実行を停止したに過ぎないものであつて、抵当権の被担保債権その
ものの行使を停止する効力を有するものと解することはできない。抗告人らにおい
てその停止、すなわち右公正証書の執行力を停止せんとするには、民事訴訟法第五
四七条の規定による執行停止決定を求むべきで、仮処分によつて執行証書の執行力
の停止を求めることは許されないのである。
したがつて、公正証書表示の債権の存否についての前記訴訟が係属しているにして
も、該債権に関する執行証書の執行力が停止されていない以上、これを債務名義と
なして前示のように転付命令を得たBは、当然抗告人らにかわつて(保証の取消と
いう要件の下に)保証金取戻請求権を取得したものというべきであるから、保証の
取消につき権利者である前示会社の同意を得て、Bのなした保証取消の申立を容れ
て原審が本件保証取消決定をなしたのは相当であり、これと異る抗告人の所論は採
用に値しない。(抗告人らが前示債権不存在確認の訴訟に勝訴した場合、Bに対し
不当利得返還請求権を有することが明確になるのはいうまでもない。)
 よつて抗告費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用し主文の通り
決定する。
 (裁判長判事 桑原国朝 判事 二階信一 判事 秦亘)

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