弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人田中廉吾の上告趣意は末尾に添附した書面記載の通りである。
 上告趣意第一点について。
 按ずるに論旨は、被告人は本件物件の点検をしなかつたこと、本件の物件に関す
る知識の乏しいこと売買価格の決定はAと買主某とがしたのであつて、被告人はこ
れに関与しないこと(原判決の挙示した証拠によれば被告人は価格取りきめに関与
していること明らかである)等を根拠として被告人は本件物件の売買当事者ではな
いと主張し、原判決が被告人を売買当事者と認定したことは、証拠に基かず且つ経
験則に違背して事実を認定した違法があると非難するのであるが、所論の如き事柄
があるとしても、それによつて被告人は売買当事者でないと認定しなければならな
いという経験則は存在しないし原判決において証拠として採用した各証拠を総合し
て判断すれば優に原判決の判示事実を認定し得るものであり且つ原判決の事実認定
につき所論の如き法則違反ありとは認められない、従つて論旨は理由がない。
 同第二点について。
 しかし、原判決において証拠として採用した原審公判における被告人の供述及び
第一審公判における被告人の供述等は、所論の如き実験則に違反したものであると
か、修理に反したものであると認むべき理由は何処にも見当らないから、これを証
拠として採用したとしても所論の如き違反があるとはいい得ない。論旨は結局原審
の専権に属する事実認定を非難することに帰着するから、適法な上告理由とならな
いものである。
 同第三点について。
 しかし原判決の挙示した司法警察官代理の被告人に対する聴取書中被告人の供述
記載及び同聴取書末尾に添附した買受明細表、並に販売明細表中の記載及び原審証
人Bの供述等によれば本件物件の規格は原判決において判示した通りであることを
認め得るのであるから、原判決の本件物件の規格に関する認定は、虚無の証拠によ
つたものであるとか、実験則に違背するものであるという非難は、当を得ないもの
である。もつとも、ゴム統制組合の規格検査に合格したものであると認めた点に対
する証拠を挙示しないことは、所論の通りである。しかしゴム統制組合の規格検査
を受けても合格しないものの価格は、規格検査に合格したものに付いての統制価額
の八割以下であり、規格検査を受けざるものの価格は、右規格検査に合格したもの
に対する統制価格の五割以下であることは、昭和二一年大蔵省告示第三二八号の定
むるところであるから仮に本件物件が、規格検査に合格したものでなかつたとすれ
ば、被告人の本件取引によつて得たる統制価格超過金額は、原判決認定の金額より
も更に増加することとなるので論旨は結局原判決の認定を変更して被告人に不利益
となるように認定を是正することを求める結果となるので、被告人のなす上告理由
とすることは許されないものであるから論旨は採用できない。
 同第四点について。
 しかし原判決は被告人の自白の外に原審証人Bの原審公判における供述並に司法
警察官代理のCに対する聴取書中の同人の供述記載及びC名義のD銀行E支店発行
に係る預金通帳中預金八万円の記載等を綜合して事実を認定したものであることは
判文上明白であるから論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第四四六条により主文の通り判決する。
 以上は、裁判官全員一致の意見である。
 検察官 小幡勇三郎関与
  昭和二三年一一月九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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