弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 本件抗告理由は別紙記載のとおりである。
 本件は相手方Aが、抗告人との間に成立した灘簡易裁判所昭和二八年(イ)第四
五号執行力ある和解調書正本に基き、抗告人に対し家屋明渡の強制執行をしようと
したところ、抗告人は、これに対し、同裁判所に請求異議の訴(同裁判所昭和二九
年(ハ)第一三六号事件)を提起し、且民事訴訟法第五百四十七条第二項に基き強
制執行停止の申立(同裁判所昭和二九年(サ)第六一号事件)をし、同裁判所はこ
れを容れて、明治二十九年九月三十日右債務名義に基く強制執行の停止決定をし
た。ところが相手方Aは、その強制執行停止決定に対し、神戸地方裁判所に、即時
抗告(同裁判所昭和二九年(ソ)第三号事件)の申立をし、同裁判所は、その即時
抗告を適法且理由ありと認めて、同年十月十九日右強制執行停止決定を取消す旨の
決定をした。そこで抗告人から右相手方の即時抗告は不適法のものであるのに、こ
れを看過して執行停止決定を取消した原決定は違法であるとして、再抗告の申立を
して来た事件である。
 而して抗告人は、相手方Aの原裁判所に対する即時抗告が不適法であるといふ理
由として、民事訴訟法第五百四十七条第二項以下に基く強制執行停止決定は、本案
判決を為すに至る迄の一時的応急の措置として為されるものであつて、独立した裁
判と云ふことはできない。そうして同法第五百五十八条は、独立した裁判に対し、
即時抗告を許す法意であるから、右強制執行停止決定に対しては、同条による即時
抗告は許されないものであると云ふ。それで先づ此点につき考ふるに、民事訴訟法
第五百四十五条の請求に関する異議の訴を提起したものからの申立により、同法第
五百四十七条第二項以下に則り、強制執行停止決定がなされた場合その停止決定
は、将来なされる異議の訴についての裁判の実益を無に帰せしめないように、その
裁判の宣告あるまで、執行を一時停止して異議者を保護しようとするものであつ
て、一時的応急的な性質を有する裁判であり、<要旨>請求異議の訴に附随するもの
であることは、抗告人の主張するとおりである。しかしながら、右停止決定は、 要旨>当該裁判所において、異議のために主張された事情が、法律上理由ありと見え
るかどうか、事実上の点につき疎明があるかどうか、また保証を立てしめ、若しく
は立てしめないでするかどうか、といふ独立の事項について判断を加えて、為され
た仮の処分であつて、しかも、それば訴訟手続たる異議の訴に附随するものとは云
へ、それ自体は、訴訟手続に関する裁判ではなく、むしろ、強制執行の一時的停止
を目的とする意味において、強制執行の手続に関する裁判であることは明であり、
且口頭弁論を経ずして為すことができるものであるから、同法第五百五十八条によ
る即時抗告の対象となる要件は完全に充足しておるものといふべく、他に不服申立
を許さないといふ特別の規定もなく、また同条の適用を排除すべきものとする充分
な根拠も発見できないのである、却て、右執行停止の裁判には、前記の如き独立の
判断事項(要件)について認定が加へられてるるのであるから、もしその認定にし
て争いがあるならばその是非につき上訴審の審理を求める必要性と合理性が存在す
るのである。(この審査は抗告人のいふ如く不能のものではない)即ち執行停止制
度は、もとより、主としては、債務者(異議者)保護のために設けられたものとい
えようが、同時に債権者の利益をも、考慮されなければならない。もし誤つて同法
第五百四十七条第二項の要求する要件を欠く申立が認容されて、停止決定がなされ
たような場合、債権者の正当な利益を保護するために、これが救済の途、不服申立
による再審査の途を設けなければならない。たとえ、一時的な裁判だとはいえ、こ
の途を全くとざすことは、債権者の正当な利益保護の見地から相当とは云えないで
あろう。
 またこの必要性は、誤つて執行停止の申立が却下された場合における債務者の利
益保護のためにも、同じことが云える訳である。このことは、単に債権者又は債務
者の保護といふ見地からばかりでなく、元来執行停止なる仮の処分は、債務名義の
執行を一時停止する例外的な裁判であるから、もし、それに誤りがあるならば一刻
も早く、之を取消して執行の続行を許すのが強制執行本来の目的に合致するもので
あるから、実質的にも、前記執行停止決定に対しては、不服申立の途を設くべきで
あつて、同法第五百五十八条の適用を認め、即時抗告ができるものと解するのが相
当である。
 それで、抗告人の本件停止決定について、同条の規定を適用することはできない
との張は、同趣旨の説もないではないが、当裁判所の左袒しないところである。
 尚抗告人において、直接触れてはみないが、同法第五百四十七条第二項以下によ
る執停止決定に対しても、同法第五百条第一、二項によるそれと性質上の差異がな
いといふ理由から、同条第三項の規定を類推適用し、不服の申立を許さないとの有
力な学説や下級裁判所の判例があるのであるけれども、右第五百四十七条第二項以
下による執行停止決定に対し、同法第五百五十八条の規定の適用を排除すべき積極
的な根拠に乏しいことは、前段説示のとおりであつて、之については右第五百条第
三項の如き不服申立を禁じた特別の規定は存しないのであるから、これに対しては
右第五百五十八条により即時抗告による不服申立を許すべきだとの反対解釈ができ
るのであつて、結局この問題は、単に法文の形式的、文理的な解釈論だけでは窮極
的な解決に達することは困難てその必要性、合目的性、当該当事者の利益等を比較
考慮してこれが類推適用の当否を決するのか、一層合理的な方法であると云わなけ
ればならないのであるが、当裁判所は前段で詳説した如く、右第五百四十七条第二
項以下による執行停止決定に対して不服申立の途を開くことが、当該当事者の正当
な利益を保護する見地からみて必要であるのみでなく、またかくすることが、強制
執行の本来の目的にも合致するものと考えるので、右執行停止決定に対して、同法
第五百条第三項の規定を類推適用し、不服申立を許さないとする説には、賛成しな
いのである。
 抗告人は、又執行停止決定に対して不服を申立てて争ふときは本案と同時に停止
についても裁判せざるべからざるに至り一時前処分たる停止決定は、その従属性を
失ふといふけれども、本案手続で審理するところと、執行停止手続で審理するとこ
ろは、その対象並にその手続が異つてゐて、抗告人がいふが如き虞あるものでない
ことは、上来説示するところで自ら明であろう。以上のとおり本件抗告は理由かな
いから、これを棄却することとし、費用の負担に付、民事訴訟法第八十九条に則
り、主文のとおり決定する。
 (裁判長判事 田中正雄 判事 藤田弥太郎 判事 平峰隆)

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