弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中100日を原判決の刑に算入す
る。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人川村理,同北村行夫,同雪丸真吾,同田
,(「」部井宏明同大藏隆子共同作成の控訴趣意書控訴趣意訂正申立書
),。で訂正されたものに記載されたとおりであるからこれを引用する
1訴訟手続の法令違反の主張について
論旨は,原審が,作成者らの証人尋問を行うことなく,原審甲37
ないし39,56,57,63ないし69号証を刑訴法321条3項
に該当する書面として,原審甲62号証を同条4項に該当する書面と
して,いずれも証拠採用して事実認定の用に供したのは,訴訟手続の
法令違反であるというすなわち刑訴法321条3項4項はそ。,,,「
の作成者が公判期日において証人として尋問を受け,その真正に作成
されたものであることを供述したとき」にその書面に証拠能力が付与
される規定であるところ,原審弁護人は上記各書証について,作成の
真正については争わない旨陳述していたものの,このような場合であ
っても,書面の真正についての立証手続が省略されてよいとは解され
ないというのである。
所論指摘の証拠は,原判決が証拠の標目に掲げているところ,これ
らがなくても原判示の事実を優に認定することができるから,仮に所
論指摘のような違法があったとしても判決に影響を及ぼすものではな
いが,以下のとおり,違法はないものと解される。
記録によれば,所論指摘の甲37号証等は,司法警察員作成の検証
,,調書や写真撮影報告書等の検証調書類似の性質を有する書面であり
また,甲62号証は,鑑定書であるが,それらの証拠申請に対し,弁
,,,,護人は原審第2回公判期日において不同意の意見を述べその後
検察官の釈明要求に応じ,原審第6回公判期日において「不同意の,
意見を維持するものであるが,反対尋問権を行使するものではなく,
関連性ないし必要性を強く争う」旨の意見を付加した。弁護人の真意
は,原審第9回公判期日において以上の証拠が採用された際に,異議
申立ての理由とされているとおり,以上の証拠については関連性及び
必要性を争うものの,作成の真正については争わず,その点に関する
反対尋問権も放棄するという趣旨と解される。
刑訴法321条3項及び4項は,検証調書又は鑑定書という書面の
,,,性質に照らして作成の真正が立証されれば伝聞法則の例外として
その書面の証拠能力が認められる旨規定している。作成の真正の立証
は,本来は,同条項が規定しているとおり,作成者が公判期日におい
て真正に作成したものであること,すなわち作成者が自ら作成したこ
とと検証又は鑑定の結果を正しく記載したことを証言することによっ
て行われるものであるが,その趣旨は,その点についての反対尋問の
機会を付与するためのものであるから,書面の体裁等から作成名義人
がその書面を作成したと認めることを疑わせる事情がなく,しかも,
相手方当事者が作成の真正を争わず,その点に関する作成者への反対
尋問権を行使しない旨の意思を明示したような場合には,作成の真正
が立証されたものとして扱うことが許されるものと解するのが相当で
ある。そのように解しても,相手方当事者の権利保護に欠けるところ
はないし,そのような場合にまで作成者の証人尋問を行って真正に作
成されたものであることを証言させることは,作成者のみでなく訴訟
関係人にも無用の負担を強いる結果となるからである。なお,このよ
うな場合の反対尋問権の範囲については,作成者が自ら作成したこと
と,検証又は鑑定の結果を正しく記載したことのみでなく,観察や判
断の正確性をも含むものと解されているから,反対尋問権の放棄が行
われる場合は,原則としてその点の反対尋問権についても放棄された
ものと解されることになるところ,本件もそれに該当する。
したがって,原審が,上記各証拠についての関連性及び必要性を認
めた上,作成者の証人尋問を行うことなく,証拠として採用し,事実
認定の用に供したことに,訴訟手続の法令違反はない。論旨は理由が
ない。
2量刑不当の主張について
論旨は,被告人を懲役3年6月に処した原判決の量刑は重すぎて不
当であるし,原判決が,未決勾留日数中160日を刑に算入したのも
少なすぎて不当であるというのである。
そこで検討すると,本件は,被告人が,実質的に経営する株式会社
(以下「被告人会社」という)と同じ事務所を共同利用していた有。
限会社(以下「本件会社」という)の女性経営者であるが行方不AB。
明となり,同女が保管していた本件会社の預金通帳や銀行届出印等を
,,,入手したことからこれらを冒用して払戻し請求書等を偽造行使し
都市銀行2行から4回にわたって,預金払戻しの名目で現金合計約4
42万円をだまし取った事案である。
被告人は,が行方不明となると,同女と連絡を付けようと特に努B
力することなく,その状況を積極的に利用し,周囲の者には心配する
必要がないように伝えるなどしながら,わずかその数日後ころから1
か月半くらいの間に,4回にわたって本件会社の2口座の預金を払い
戻し,預金残高の合計を約33万円まで減少させている。しかも,そ
の使途をみると,一部は本件会社の経費等に充てているものの,大半
は,被告人会社や被告人個人の用途に費消しているほか,使途不明金
としている。この点につき,被告人は,本件犯行時には精算すべき本
件会社に対する債権があったと供述している。しかし,その供述は,
本件会社が負担すべき家賃相当額の未払分と業務委託管理費用以外に
ついては具体的ではないところ,後者は後記のとおり架空のものとい
える上,本件会社から差し入れられたという借用書についても,その
貸付の原資や返済を受けたか否かも覚えていないという不合理なもの
である。また,本件犯行当時の被告人と被告人会社の状況をみると,
運転資金等の借入債務や住宅ローン,カードローンなどの多額の負債
を抱え,カードローンについては弁護士を介した整理により分割金を
支払う状態であり,本件会社に対しても600万円を超える借入債務
があったが,被告人の管理する口座には数万円しか残額がなかった。
そして,本件会社と被告人会社の間には,業務委託管理の契約などは
なく,本件会社の営業や経理は,ほとんど1人でやっていて,行方B
不明になる前ころには,同女は,被告人が本件会社の営業等に関して
干渉するのを嫌がって,事務所を移転したいなどと知人に話し,移転
先を探している状態であった。ところが,被告人は,被告人会社の本
件会社に対する架空の業務委託管理費用の請求書(控)と平成14年
6月28日付の「本件会社の株式40株をから被告人へ譲渡する」B
旨の株式譲渡証をねつ造している。以上の事情にかんがみると,被告
人は,が行方不明になった状況を積極的に利用して,自己の用途にB
費消するため本件各犯行を行い,その後,それを本件会社のためであ
るかのように隠蔽工作まで行ったものと認められる。この判断は,被
告人が,本件会社で販売する製品の買い付けの契約のためがドイツB
に渡航した際に同行したり,本件会社の「企画開発部長」の名刺を使
ってが対外的な交渉をする場に同席したり,あるいは被告人会社のB
従業員らが本件会社の仕事の手伝い等をし,本件会社に上記家賃相当
額の未払分があるなどとしても,変わるものでなく,前記事情に照ら
せば,が行方不明になる直前に,被告人が本件会社の経営に事実上B
参画していたとはいえず,被告人又は被告人会社が本件会社に対し,
本件により払い戻した金員で精算すべき反対債権を有していなかった
ものと認められる。
以上のような犯行の経緯,動機,犯行態様,だまし取った金額及び
その後の情状を総合して検討すると,実質的な被害者である本件会社
が被った被害は多額なものといえるし,本件各犯行が巧妙かつ悪質と
いうことができる。それなのに,被告人は,原審公判において,動機
及び経緯について,不合理な弁解を続けて,責任を逃れようとしてお
り,真剣な反省の態度に乏しい(この点,原判決の「被告人は,重要
な間接事実を立証する証拠多数を不同意とし,証人尋問の実施までも
余儀なくさせた」との措辞は,被告人の権利についての配慮を欠いた
不適切なものであるが,被告人が証拠のねつ造までして不合理な弁解
をし,その弁解の成否に関する証拠調べが必要となって,多数回の審
理を要することになったという審理経過を強調したものであって,量
刑の事情としては反省の態度に乏しいことを考慮しているにすぎない
ことが判文から明らかであるから,量刑判断に違法,不当な点はな
い。。)
所論は,原判決がの実兄の処罰感情を表す文言を引用した点につB
いて,量刑資料に余罪を考慮したものに他ならないと主張する。しか
し,上記のとおり,本件会社が被った被害は多額なものといえるし,
本件各犯行が巧妙かつ悪質ということができるのに,被告人が,動機
及び経緯について,証拠をねつ造したりして不合理な弁解をしている
のであるから,本件会社の代表取締役を引き継いだ同実兄が,事前の
連絡もなく一方的に被害弁償として約318万円の振込送金がされた
ことや公判を傍聴して聞いた被告人の弁解について,誠意が感じられ
ないなどとして,被告人に対して厳しい処罰感情を持つのは当然のこ
とであって,その文言を引用した原判決の量刑判断に違法,不当な点
はなく,余罪を処罰する趣旨で量刑資料として考慮していると疑うべ
き事情はない。
そうすると,被告人の刑責は軽視できないから,被告人が上記のと
おり被害弁償として振込送金したこと,被告人に古い前歴しかないこ
となどの事情を考慮しても,原判決の量刑が重すぎて不当であるとは
認められない。また,上記のような審理の経過等にかんがみると,算
入できる未決勾留日数415日のうち160日を刑に算入したことが
不当に少ないとは認められない。論旨は理由がない。
よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,当審における未
決勾留日数の算入につき刑法21条を適用して,主文のとおり判決す
る。
(裁判長裁判官池田修裁判官河村潤治裁判官坂口裕俊)

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